特許第6025434号(P6025434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025434
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/18 20060101AFI20161107BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20161107BHJP
   D04H 1/46 20120101ALI20161107BHJP
   D04H 1/54 20120101ALI20161107BHJP
   D04H 1/58 20120101ALI20161107BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   F16C33/18
   F16C33/24 Z
   D04H1/46
   D04H1/54
   D04H1/58
   D06M15/41
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-160878(P2012-160878)
(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公開番号】特開2014-20489(P2014-20489A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】西室田 周作
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−133421(JP,A)
【文献】 特開2003−103677(JP,A)
【文献】 特開平06−184494(JP,A)
【文献】 特開2009−091447(JP,A)
【文献】 特開平04−225037(JP,A)
【文献】 米国特許第6524979(US,B1)
【文献】 特開2010−120992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00−17/26
F16C 33/00−33/28
D04H 1/46
D04H 1/54
D04H 1/58
D06M 15/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PET繊維の不織布からなる基材と、
前記基材に含浸された、フェノール樹脂からなるベース樹脂と、を有し、
前記ベース樹脂には、フェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させるキレート剤が添加されている
ことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
PET繊維の織布からなる基材と、
前記基材に含浸された、フェノール樹脂からなるベース樹脂と、を有し、
前記ベース樹脂には、フェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させるキレート剤が添加されている
ことを特徴とする摺動部材。
【請求項3】
請求項またはに記載の摺動部材であって、
前記キレート剤は、チタンキレートである
ことを特徴とする摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受の摺動層等に好適な摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高荷重での使用に対して長期に亘り無給油で低摩擦を実現可能な滑り軸受が開示されている。
【0003】
この滑り軸受は、表面に多孔質金属粉末焼結層が形成された金属板をバッキング材として、このバッキング材の多孔質金属粉末焼結層上に摺動層を形成することにより構成される。ここで、摺動層は、以下の手順により形成される。
【0004】
すなわち、バッキング材の多孔質金属粉末焼結層上に、摺動層のベース樹脂としてフェノール樹脂を所定の厚さに塗布する。その上に摺動層の基材として織布を配置して、フェノール樹脂を加熱硬化させることにより、摺動層を形成するとともに、この摺動層と多孔質金属粉末焼結層とを結合させる。ここで、織布は、潤滑性樹脂繊維であるポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記載)繊維と、ベース樹脂であるフェノール樹脂との接着性の高い強化樹脂繊維であるポリアミド(以下、PAと記載)繊維とを、綾織りまたは朱子織りすることで作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−154824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、織布は、少なくとも完成するまでに、繊維から撚り糸を作る工程、および撚り糸から布地を織る工程が必要であり、製造コストが嵩む。
【0007】
また、PTFE繊維は、比較的高価であるとともに、潤滑性には優れるが、その特性ゆえベース樹脂として使用されるフェノール樹脂等との接着性が劣っている。そこで、特許文献1に記載の滑り軸受では、摺動層の基材として、フェノール樹脂との接着性が高いPA繊維をPTFE繊維に織り交ぜた織布を用いているが、このPA繊維も比較的高価である。
【0008】
このように、特許文献1に記載の滑り軸受は、摺動層の基材の製造コストが嵩むため、安価に作製することができない。
【0009】
また、特許文献1に記載の滑り軸受のようにベース樹脂としてフェノール樹脂を用いた場合、フェノール樹脂は吸湿性が高いため、高湿環境下において、摺動層のベース樹脂として用いられるフェノール樹脂の吸湿により軸受が吸湿膨潤して、寸法変化を起こし、軸受の摺動面と相手軸との適正なクリアランス(軸受隙間)を維持できなくなり、所望の性能を維持できなくなる可能性がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期に亘り良好な摺動特性を実現可能な摺動部材をより安価に提供することにある。また、本発明の他の目的は、高湿環境下においてフェノール樹脂をベース材料として用いる場合に、吸湿等による寸法変化を極力抑制し、長期に亘り良好な摺動特性を実現可能な摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の摺動部材の一態様は
PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維の不織布からなる基材と、
前記基材に含浸された、フェノール樹脂からなるベース樹脂と、を有し、
前記ベース樹脂には、フェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させるキレート剤が添加されている
【0012】
また、本発明の摺動部材の他の態様は、
PET繊維の織布からなる基材と、
前記基材に含浸された、フェノール樹脂からなるベース樹脂と、を有し、
前記ベース樹脂には、フェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させるキレート剤が添加されている
【0013】
こで、キレート剤には、フェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させることができるもの、例えばチタンキレート、チタンアルコキシド、チタンアシレートなどの有機チタン化合物や、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアシレートなどの有機ジルコニウム化合物が用いられる。
【発明の効果】
【0015】
発明よれば、摺動部材のベース樹脂としてフェノール樹脂を用い、このフェノール樹脂にフェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させるキレート剤を添加することにより、架橋点の増加によって硬度が向上するとともに、PET繊維とフェノール樹脂との接着性が向上する。また、水酸基の減少により撥水性が高くなり、高湿環境下におけるフェノール樹脂の吸湿による寸法変化を抑制することができる。これにより、高湿環境下においても長期に亘り低摩擦特性、耐摩耗性、耐久性の向上等の良好な摺動特性を実現可能な摺動部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る摺動部材1の断面構造を模式的に示した図である。
図2図2は、摺動部材1の製造工程の一例を説明するための図である。
図3図3は、スラスト試験を説明するための図である。
図4図4は、表2に示す試験体8A〜8Dに対して、表1に示す条件にて行ったスラスト試験の試験結果を示す図である。
図5図5は、表2に示す試験体8C、8Dに対して行った曲げ試験の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施の形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る摺動部材1の断面構造を模式的に示した図である。
【0019】
本実施の形態に係る摺動部材1は、例えば滑り軸受において、ガラス繊維を基材とする樹脂板、金属板等のバッキング材上に形成された摺動層を構成するプリプレグに用いられる。図示するように、本実施の形態に係る摺動部材1は、シート状の基材2と、基材2に含浸されたベース樹脂3と、を備えて構成される。
【0020】
基材2には不織布が用いられる。不織布は、繊維同士を接着あるいは絡合させることにより作製されるため、繊維から撚り糸を作成して布地に織る必要がある織布に比べて製造コストが安い。また、不織布は、編み目がなく、繊維が均一に分散しているため、織布に比べて、摺動部材1の表面をより平滑にすることができる。このため、流体潤滑を実現しやすくなり、摺動部材1の摺動性が向上する。また、織布を基材2に用いた場合は、織布を構成する撚り糸の中心にまでベース樹脂3が浸み込まない可能性があるが、繊維が均一に分散している不織布を基材2に用いた場合では、基材2とベース樹脂3との接触面積が大きくすることができ、これにより、基材2とベース樹脂3との接着性を向上させることができる。
【0021】
ここで、摺動部材の製造方法によっては、基材2に用いる不織布は、例えば、繊維同士を熱で溶かして接着するサーマルボンド法、繊維同士をバインダ(ケミカルボンド)で接着するバインダ法等で作製された接着タイプ等の、後述する摺動部材1の製造工程において与えられる強いテンションに耐える強度を有するものであることが好ましい。繊維同士を高圧水流で絡合させるスパンレース法、繊維同士をニードルリングして絡合させるニードルパンチ法等で作製された絡合タイプの不織布を用いた場合よりも、摺動部材1の製造工程において与えられるテンションの強さによって繊維同士の絡みがほどける可能性を低減することができる。
【0022】
また、基材2として、サーマルボンド法で作製された不織布を用いる場合には、繊維同士の融着点がフィルム化していないものを用いることが好ましい。繊維同士の融着点がフィルム化していない不織布を基材2に用いることにより、基材2全体において繊維とベース樹脂3とのアンカー効果が良好に発揮され、密着性が向上することにより、基材2からのベース樹脂3の剥離を防止することができる。
【0023】
また、基材2に用いる不織布には、安価なPET繊維を用いた。
【0024】
ベース樹脂3には、PET繊維との親和性の高いフェノールが好適であり、さらにPTFE粉末が添加されていてもよい。上述したように、基材2には、PET繊維からなる不織布が用いられるが、PET繊維は、PTFE繊維に比べて潤滑性が劣る。そこで、ベース樹脂3に、PTFE繊維に比べて安価なPTFE粉末を、摺動部材1に要求される潤滑性能に応じて添加することにより、摺動部材1の潤滑性を改善することができる。
【0025】
なお、ベース樹脂3に用いるフェノール樹脂には、PTFE粉末に加えて、フェノール樹脂の水酸基(OH)との架橋点を増加させるキレート剤が添加されていてもよい。このようなキレート剤として、例えば、以下の化1に示すチタンキレートが用いられる。チタンキレートは、フェノール樹脂の水酸基と反応して、O−Ti−O結合からなる架橋点を形成する。このような架橋点の増加によってベース樹脂3の硬度が高くなるとともに、水酸基の減少により撥水性が高くなり、耐摩耗性を向上させるとともに、高湿環境下におけるベース樹脂3の膨潤吸湿による寸法変化が抑制される。
【0026】
【化1】
【0027】
図2は、摺動部材1の製造工程の一例を説明するための図である。
【0028】
まず、PTFE粉末およびキレート剤を含む添加剤をフェノール樹脂に添加して、ベース樹脂3を構成する樹脂液4を調製し、これを液槽5に供給する(S1)。樹脂液4を構成する各成分の配合比率(質量)は、例えば、フェノール樹脂100に対して、PTFE粉末20〜70、チタンキレート(キレート剤)0.5〜10、界面活性剤0.01〜0.03、エタノール20である。
【0029】
つぎに、基材2となるPET繊維からなる不織布を不織布ロール6から引き出して液槽5に送り、この液槽5内の樹脂液4に浸すことにより、不織布に樹脂液4を含浸する(S2)。それから、樹脂液4を含浸した不織布を、100〜130℃程度の高温に保たれた乾燥炉7に送り、樹脂液4内のエタノールを蒸発させるとともに、樹脂液4を加熱硬化させる(S3)。これにより、例えば、基材2が10〜50質量%、ベース樹脂3が50〜90質量%となるように、上記構成の摺動部材1を作製する。そして、作製した摺動部材1をロールで巻き取る(S4)。
【0030】
上述したように、本実施の形態に係る摺動部材1は、例えば滑り軸受の摺動層を構成するプリプレグとして用いられる。この場合、プリプレグは、ロールド成形機により100〜160℃の高温下で鉄心に巻き取られ、硬化炉において130〜180℃に加熱されて硬化処理が施される。その後、鉄心が引き抜かれて、円筒状の複層摺動部材が作製される(ロールド成形方法)。あるいは、プリプレグは、適当な寸法に裁断され、複数枚重ね合わされる。その後、圧縮成形機により加圧され、プレート状の複層摺動部材が作製される(圧縮成形方法)。
【0031】
本発明者等は、基材の異なる複数の摺動部材から平板状の試験体(平板)8A〜8Dを作製し、これらの試験体8A〜8Dに対して、以下の表1に示す条件においてスラスト試験を行い、そのときの摩耗状態を観察した。
【0032】
【表1】
【0033】
スラスト試験では、図3に示すように、表1に示す面圧で相手材9の一方の端面(摺動面)で試験体8A〜8Dが押圧されるように、軸心O方向の荷重Nを相手材9に加えながら、表1に示す回転速度で相手材9を軸心O回りの回転方向Rに回転させ、そのときの試験体8A〜8Dの摩耗量および表面剥離の有無を測定している。
【0034】
作製した試験体8A〜8Dは、以下の表2に示すとおりである。ここで、試験体8B〜8Dは、本実施の形態に係る摺動部材1から作成されたものであり、基材2には、サーマルボンド法により作製した不織布を用いている。試験体8Aは、本実施の形態に係る摺動部材1の性能を確認するための比較例であり、基材2には織布を用いている。
【0035】
すべての試験体8A〜8Dにおいて、ベース樹脂3にはPTFE粉末を添加したフェノール樹脂を用いた。試験体8A〜8Cでは、配合比率(質量)をフェノール樹脂100に対してPTFE粉末50とし、試験体8Dでは、ベース樹脂3にさらにチタンキレートを添加して、配合比率(質量)をフェノール樹脂100に対してPTFE粉末50、チタンキレート5とした。
【0036】
【表2】
【0037】
なお、表2において、不織布におけるフィルム化の有無の判断は、電子顕微鏡を使った観察により行い、この観察により、融着点に約500μm四方の平坦領域が形成されていることが確認できた場合にフィルム化ありと判断することとした。
【0038】
図4は、表2に示す試験体8A〜8Dに対して、表1に示す条件にて行ったスラスト試験の試験結果を示す図である。ここで、左側の縦軸は大気中における摩耗量であり、右側の縦軸は水中における摩耗量である。また、棒グラフ80A〜80Dは、試験体8A〜8Dの大気中における摩耗量の試験結果を示しており、棒グラフ81A〜81Dは、試験体8A〜8Dの水中における摩耗量の試験結果を示している。
【0039】
図示するように、基材2に不織布を用いた試験体8B〜8Dは、いずれも、大気中の摩耗量が、基材2に織布を用いた比較例の試験体8Aよりも少なく、大気中において、より優れた性能を示すことが確認された。これは、摺動面において、織布にみられる毛羽立ちや表面の荒れを、不織布を用いることで均一で平滑な面にすることができ、これによって耐摩耗性が向上したと考えられる。
【0040】
また、水中において、試験体8Bは比較例の試験体8Aと比べて耐摩耗性の向上が認められるが、その摺動面には表面剥離が見られた。一方、試験体8C、8Dは、いずれも、比較例の試験体8Aより優れた耐摩耗性を示しており、また、その摺動面には表面剥離も見られなかった。試験体8B〜8Dは、ともにサーマルボンド法により作製されたPET繊維からなる不織布が基材1に用いられているが、試験体8Bの不織布では融着点がフィルム化しているのに対して、試験体8C、8Dは、不織布の融着点がフィルム化していない。このため、試験体8C、8Dでは、基材2とベース樹脂3との密着性が向上したことにより、耐摩耗性が向上したと考えられる。一方、試験体8Bでは、不織布の融着点がフィルム化しているため、融着点が平滑化し、ベース樹脂3とのアンカー効果が低下して、ベース樹脂3が基材2から剥離しやすくなったものと考えられる。
【0041】
なお、試験体8B〜8Dのいずれもが、水中において、比較例の試験体8Aと比べて耐摩耗性が向上しているのは、不織布に、撚り糸の編み目がなく、繊維が均一に分散しているため、織布に比べて摺動面をより平滑にすることができ、これにより流体潤滑を実現しやすくなるためと考えられる。
【0042】
また、試験体8Dは、大気中および水中のいずれの摩耗量においても、試験体8Cに対して耐摩耗性が向上している。両者の構成上の違いは、ベース樹脂3にチタンキレートが添加されているか否かである。試験体8Dは、ベース樹脂3に添加されているチタンキレートが、ベース樹脂3であるフェノール樹脂の水酸基と反応して架橋点を増加させ、これにより、ベース樹脂3の硬度が高くなって大気中での耐摩耗性が向上するとともに、水酸基の減少により撥水性が高くなり、水中におけるベース樹脂3の膨潤吸湿による寸法変化が抑制され、水中環境下における耐摩耗性も向上したものと考えられる。
【0043】
さらに、本発明者等は、表2に示す試験体8C、8Dに対して曲げ試験を実施した。
【0044】
図5は、表2に示す試験体8C、8Dに対して行った曲げ試験の試験結果を示す図である。ここで、左側の縦軸は曲げ強さであり、右側の縦軸は曲げ弾性率である。棒グラフ82C、82Dは、試験体8C、8Dの曲げ強さの試験結果を示しており、棒グラフ83C、83Dは、試験体8C、8Dの曲げ弾性率の試験結果を示している。
【0045】
図示するように、ベース樹脂3にチタンキレートが添加された試験体8Dは、ベース樹脂3にチタンキレートが添加されていない試験体8Cに比べて、曲げ強さおよび曲げ弾性率ともに高くなっている。このように、ベース樹脂3であるフェノール樹脂にチタンキレートを添加することにより、ベース樹脂3の硬度が高くなり、このことが耐摩耗性の向上に貢献しているものと考えられる。
【0046】
以上のことから、本発明者等は、基材2に不織布を用いることにより、基材2に織布を用いる場合に比べて基材2とベース樹脂3の接着強度を向上させることができ、これにより、耐摩耗性を向上させることができることを見出した。また、融着点がフィルム化されていない不織布を基材2に用いることにより、ベース樹脂3が基材2から剥離するのを防止することができ、これにより、摺動部材1の寿命を改善できることを見出した。さらに、ベース樹脂3であるフェノール樹脂にチタンキレートを添加することにより、ベース樹脂3の硬度および撥水性が高くなり、大気中の耐摩耗性が改善するとともに、水中環境下における吸湿膨潤が抑制されて寸法変化を防止でき、これにより水中の耐摩耗性が改善することを見出した。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明した。
【0048】
不織布は、繊維同士を接着あるいは絡合させることにより作製されるため、繊維から撚り糸を作成して布地に織る必要がある織布に比べて製造コストが安い。
【0049】
また、織布を基材として用いた場合は、ベース樹脂が、織布を構成する撚り糸の中心にまで浸み込みにくいため、ベース樹脂と基材を強固に接着することができない。これに対して不織布は、編み目がなく、繊維が均一に分散しているため、繊維の1本1本にベース樹脂が絡むことで、基材とベース樹脂との接着性が向上し、摺動部材の強度が向上することにより、耐摩耗性、耐久性等の摺動特性が向上する。さらに織布を用いた場合のように、加工後に撚り糸の毛羽立ちが発生しないため、摺動部材の表面をより平滑にすることができるため、流体潤滑が実現しやすくなり、水中環境下等の液体中における摺動特性も向上する。これらの効果は、不織布の融着点がフィルム化していなものを用いることにより、より顕著なものとなる。
【0050】
したがって、本実施の形態によれば、摺動部材の基材として不織布を用いることにより、織布を用いた場合に比べて、長期に亘り低摩擦特性、耐摩耗性、耐久性の向上等の良好な摺動特性を実現可能な摺動部材を、より安価に提供できる。
【0051】
また、本実施の形態において、サーマルボンド法、バインダ法等で作製された接着タイプの不織布を基材2に用いた場合、スパンレース法、ニードルパンチ法等で作製された絡合タイプの不織布と異なり、摺動部材1の製造工程において、基材2に加えられるテンションにより繊維同士の絡みがほどけてしまう可能性が少ない。このため、摺動部材1の製造工程における歩留りを向上させることができる。
【0052】
また、本実施の形態において、繊維同士の融着点がフィルム化していないサーマルボンド法で作製された不織布を基材2に用いた場合、繊維同士の融着点がフィルム化しているサーマルボンド法で作製された不織布を基材2に用いた場合に比べて、ベース樹脂3とのアンカー効果が高くなることにより密着力が向上し、これにより、ベース樹脂3が基材2から剥離する可能性を低くして、摺動部材1の長寿命化を図ることができる。
【0053】
また、本実施の形態において、摺動部材1の基材2として、PET繊維からなる不織布を用いている。PET繊維は、PTFE繊維に比べて安価であり、また、ベース樹脂3として用いたフェノール樹脂との親和性が高いので、PA繊維等を混在させる必要もない。このため、不織布をより安価に作製することが可能となり、摺動部材1のコストをさらに低減させることができる。
【0054】
また、本実施の形態において、摺動部材1のベース樹脂3として、フェノール樹脂にフェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させるキレート剤が添加されたものを用いることにより、架橋点の増加によって硬度が高くなるとともに、水酸基の減少により撥水性が高くなるため、特に高湿環境下におけるフェノール樹脂の膨潤吸湿による寸法変化を抑制することができる。これにより、水中環境下等の液体中環境下においても長期に亘り良好な摺動特性を実現可能な摺動部材1を提供することができる。
【0055】
なお、本実施の形態において、摺動部材1のベース樹脂3として、フェノール樹脂の水酸基との架橋点を増加させるキレート剤が添加されたフェノール樹脂を用いる場合には、基材2に織布を用いてもよい。この場合でも、ベース樹脂3の高硬度化および高撥水性化により、水中環境下等の液体中環境下においても長期に亘り良好な摺動特性を実現可能な摺動部材1を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:摺動部材、2:基材、3:ベース樹脂、4:樹脂液、5:液槽、6:不織布ロール、7:乾燥炉
図1
図2
図3
図4
図5