【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1:へき開した膨潤性クレイのナノシートをPA11系ポリアミド樹脂に単層レベルまで分散させたナノコンポジットの調製]
以下の手順に従って、PA11/クレイナノコンポジットを調製した。
[11−AUA処理クレイの調製]
(a)原料
クレイとしては、以下の2種を用いた:
・「クニピア−F(Na型モンモリロナイト)」クニミネ工業社製、山形県産モンモリロナイトの精製品(天然鉱物)、結晶構造内にFeイオンを含むため、薄茶色を呈する。ナノシートのディメンション:厚さ1nm、長径数100nm程度。
・「ルーセンタイトSWN(合成スメクタイト)」コープケミカル社製、水熱合成(合成品)、不純物が少なく無色、分散後の透明性が高い。ナノシートのディメンション:厚さ1nm、長径数100nm程度。
11−AUAとしては、合成用高純度品、メルク社製のものを用いた。
【0026】
(b)調製手順
・純水100gに2gのクレイを分散した(85℃、マグネチックスターラー)。
・11−AUA:1当量(クレイの陽イオン交換容量に対して)、リン酸0.5当量を投入した(85℃、30分)。
・ブフナー漏斗(濾紙5A)で吸引濾過してナノシートを回収した。
【0027】
[クレイ/PA11オリゴマー複合体の調製]
・11−AUAをセパラブルフラスコに投入し、N
2雰囲気下、ブラスタを用いて溶融させた(Tm=187℃)。
・11−AUA溶融後、予め前記のように得た11−AUA処理クレイ全量を投入し、250℃に昇温した(オイルバス)。
・メカニカルスターラーで攪拌した後(34rpm/30分)、200rpm/10分で全体の粘土上昇を確認して、反応を終了させた(重合による水分は系外へ除去した)。
・クレイ/PA11オリゴマー複合体を回収した後、熱水で抽出した(95℃×60分)。
アミノウンデカン酸からの重縮合は常圧で反応可能であり、セパラブルフラスコとメカニカルスターラーを備えた反応器を用い、シリコンオイルバスにて加熱した。モノマーの溶融後、若干水分を残した11−AUA処理クレイを投入し、均一分散させた後、水分を留去して反応を進めた。
【0028】
[PA11/クレイナノコンポジットの調製]
以下の装置・条件を用いてPA11/クレイナノコンポジットを調製した。
・東洋精機製作所ラボブラストミル(4M150)
・小型セグメントミキサ(KF15V)、高せん断速度試験対応:450rpmにおいて2.9×10
3/秒、ミキサ容量:14cc、最大温度350℃
・溶融混練条件:混練温度:220℃/弱練り(以下参照)/回転数:120rpm/混練時間:3分
弱練り(低せん断):450rpmにおいて9.7×10
2/秒、チップクリアランス:0.88mm→粒子分散に不利であるが、せん断発熱は小さく、樹脂への負荷は低い→クレイナノコンポジット形成時に使用した。
強練り(高せん断):450rpmにおいて2.9×10
3/秒、チップクリアランス:0.3mm→粒子分散に有利であるが、せん断発熱が大きく、樹脂の劣化あり。かかる強練りは、主に以下に説明するPLAナノアロイの形成に使用した。
手順としては、PA11投入し、溶融し、クレイ/PA11オリゴマー複合体を投入し、その後、溶融混練する手順を用いた。
・PA11/クレイナノコンポジットの計算上の灰分値:2〜4wt%とした。
図3に、前記PA11/クレイナノコンポジットの調製手順をまとめた。
【0029】
得られたPA11/クレイナノコンポジットのクレイの分散状態を以下の測定により評価した。
・外観観察:明らかな未分散モンモリロナイト(凝集体)は存在せず、ヤケはなかった。膨潤性クレイを含まないPA11の下地透過性と比べて、試作したモンモリロナイト系、スメクタイト系のいずれの複合体も目視では大差なかった。
・WAXD(広角X線回折)測定:モンモリロナイトのへき開、分散状態の試料全体の傾向を確認した。d001-10Åより小角側に明確なピークがないことにより、へき開が確認できた。
図4にWAXDによる「クニピア−F(Na型モンモリロナイト)」(上段)と「ルーセンタイトSWN(合成スメクタイト)」(下段)のへき開、分散状態を示す。
図4に結果から、膨潤性クレイのへき開(ナノシートの形成)とそのPA11オリゴマーマトリックス中への均一分散(ナノ分散)がなされていると推測された。
・TEM(透過型電子顕微鏡):微小部位における直接観察で視野内に未へき開ナノシートが存在しないことを確認した。
図5に、合成スメクタイト/PA11ナノコンポジット・フィルムのTEM観察結果を示す。
・FE−SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)により、作製したフィルムの断面の形状を観察した。試料前処理:Pt蒸着:10mA/60秒、装置:JEOL製JSM−6700F、加速電圧:3kV、照射電流:8μA、WD:8mm。比較例として、
図6に、分散状態が不良である場合の、モンモリロナイト/PA11系ナノコンポジトのFE−SEM観察結果を示す。
・EDS(エネルギー分散型X線分析装置)により、元素定性分析と元素マッピング観察を実施した。すなわち、フィルムに存在する元素の定性とその存在状態の観察(点分析)を実施した。試料前処理:Pt蒸着:10mA/60秒、装置:JEOL製EX−23000BU、加速電圧:15kV、照射電流:12μA、WD:15mm、スイープ回数:100。
図7に、モンモリロナイト/PA11系ナノコンポジトのEDS観察結果を示す。
図7の結果から、FE−SEM像ではクレイが認められない領域においても、Siが観察されることから、モンモリモナイト系及びスメクタイト系のいずれでも、ナノシートの分散がなされていると結論した。
・TG−DTA(示差熱熱重量同時測定):モンモリモナイト及びスメクタイトのナノコンポジット中での灰分値(クレイ配合量)が計算値と一致するかを確認するためにTG測定等を使用した。
上記種々の測定の結果、へき開した膨潤性クレイのナノシートをPA11系ポリアミド樹脂に単層レベルまで分散させたナノコンポジットの形成を確認した。
【0030】
[実施例2:前記のように得られたナノコンポジットをポリ乳酸(PLA)樹脂中に均一分散させたPLAナノアロイである成形用樹脂の調製]
相溶化剤E−GMA−MAと、PLAと、MMT/PA11−NC(以下、単に「PA11NC」とも略す。)とを、1段階で溶融混練し、下記変数を振った以下の表1に示す条件下で、PLAナノアロイを作製し、MMT/PA11−NCの分散性をFE−SEMで観察した:
・E−GMA−MA組成、配合量
・MMT/PA11−NC配合量
・混練条件(温度、回転数、時間)
【表1】
【0031】
各サンプルは、以下を指標する。
・相溶化剤がPLA樹脂の外観に及ぼす影響:test#4(ブランク試験)
・相溶化剤配合量依存性:test#1-#3(弱練り)、test#5-#8(強練り)
・混練条件依存性(せん断力の影響):test#3, #4(相溶化剤1%)、test#2, #8(相溶化剤5%)
・混練条件依存性(混練時間の影響):test#7, #9, #10(相溶化剤2.5%)
・MMT/PA11−NC配合量依存性:test#8(相溶化剤5%), #11(4.9%), #12(6.5%)
・MMT/PA11−NC配合量が高い場合の混練時間の影響:test#12, #13(相溶化剤6.5%)
【0032】
外観観察、FE−SEM、TEM、及びTG−DTA(示差熱熱重量同時測定)の測定結果は以下のとおりであった。
(1)相溶化剤配合の影響
相溶化剤E−GMA−MAとPLAとの相溶性は良好であり、数%程度の配合ではマトリクス成分としての透明性に影響はなかった。
(2)E−GMA−MA配合量依存性
非相溶系アロイの混練の場合、混練後の分散状態を支配するのは混練時に投入された力学的エネルギーの総量であるが、活性化エネルギーを低下させるのが相溶化剤であると考えれば、同一混練条件下で複合化する場合、相溶化剤の配合量によってドメイン径が変化する。まず、test#1-#3でせん断力が小さい(前記「弱練り」スクリュー回転数:120rpm)条件でE−GMA−MAを配合して得られたアロイのFE−SEMを観察した。相溶化剤がない場合の分散状態に比べて、1%でもE−GMA−MAが配合されることでMMT/PA11−NCドメイン径が小さくなった。また、test#6は「強練り」(スクリュー回転数:435rpm)条件で得られたサンプルであり、せん断力の大小よりも相溶化剤配合による影響が大きいことが示された。test#4での到達ドメイン径はおよそ2〜8μm程度と非常に大きいが、test#3の場合には最大で2μm程度であり、小さい方はサブμmオーダーであった。E−GMA−MAが相溶化促進に寄与していることが示された。test#4では弱練りの場合と比べてドメイン径が小さくなった。E−GMA−MAの配合量の増大に依存して、到達ドメイン径が小さくなっている。
【0033】
(3)PA11NC配合量依存性
ナノコンポジット材料でバリア性を検討する場合、バリア性フィラーの配合量が性能を支配するので、PA11NC(ナノフィラー5%)を10質量部から15質量部、20質量部まで高めた場合の強練り条件下で得たPLAアロイをFE−SEMで観察した。
図11に示すように、test#11と#12の比較では、PA11NCドメインが大幅に増えた印象はない一方、test#8よりPA11NCドメインが密に存在することが分かった。
図12に示すように、ドメイン径はtest#8、#11、#12の順で280nm、400nm、530nmとなり、同じ混練条件であっても仕込み組成(特に、E−GMA−MA量)によって、到達ドメイン径が変化した。ドメイン間の平均距離は分散後のドメイン径が同じであれば、PA11NC配合量の増大に伴って小さくなると予測されるが、test#8、#11では変化があるが、#8、#12では変化は認められなかった。すなわち、test#12の分散性の程度が低いことが示される結果となった。
【0034】
(4)混練条件依存性(せん断速度)
前記(3)の結果からも示されるが、最終的に得られたアロイ中のPA11NCドメインの径は混練条件に大きく依存する。通常、二軸混練機によるアロイ化では、スクリュー回転数(樹脂が受けるせん断力)が分散性を大きく支配する。E−GMA−MA配合量が同じであっても、混練条件によって到達ドメイン径が変化し、「強練り」条件でより小さなドメイン径が得られ、またドメイン径のバラツキも抑制される傾向となった。
【0035】
(5)混練条件依存性(混練時間)
PLAアロイ形成をエネルギー論的に捉えると、混練過程で透過された総エネルギー量が、分散によって増大するドメインの表面自由エネルギーの総量を上回らない限り、ドメイン径は小さくならない。そこで、投下された総エネルギー量を調節する混練時間の影響について検討した。E−GMA−MA配合量が同じであり、また印加されるせん断力が同じであっても、混練時間を延長することによっても到達ドメイン径が変化し、混練時間が長いほど小さなドメイン径が得られ、ドメイン径のバラツキも抑制される傾向となった。test#10での到達ドメイン径は、test#8で得られた分散状態と極めて近く、いずれも150nm〜450nm程であり、粒径のバラツキも小さく観察された。相溶化剤がアロイ時のドメイン小径化のための活性化エネルギーを引き下げる役割である以上、到達させたいドメイン径を安定化するに十分な相溶化剤が系内にあればより少ない投下エネルギー量で良好な分散状態が得られる。上記の試験結果は、これを裏付けるものであった。test#12の平均ドメイン径は530nm、test#13では550nm程度とほとんど変化がなく、ドメイン径のバラツキの程度も、少なくとも目視観察レベルでは大きな変化はなかった。test#12と比べて投下エネルギー総量が大きなtest#13でPA11NCの分散状態に差異がなかったことから、相溶化剤量が不足していたことが示唆された。
【0036】
上記の結果により、前記のように得られたナノコンポジットをポリ乳酸(PLA)樹脂中に十分に微細なサイズ(略200nm程度)で均一分散させたPLAナノアロイである成形用樹脂が、相溶化剤E−GMA−MAを用いて調製されたと判断した。
【0037】
[実施例3:前記成形用樹脂を延伸・成形することによるフィルムの調製]
実施例2で得たPLAナノアロイのサンプルをシート状(厚み200μm)に成形し、120℃の熱風乾燥機内で人力で一軸延伸することによって延伸サンプルを作製した。
延伸時の温度が適切であれば、PA11NCを20質量部(ナノシート換算で凡そ1wt%)含有するPLAナノアロイのサンプルも200%以上の一軸延伸が可能であった。また、延伸サンプル断面のFE−SEM観察により、PA11NCドメインの延伸に伴う変形を観察したが、PA11NCの分散性に劣るPLAナノアロイのサンプルについては、延伸に伴って、延伸方向に平行にドメインが「押し潰される」ような変形が認められた。PA11NCドメインの分散性が良好なPLAナノアロイのサンプルについては、ドメイン変形の直接観察は困難であったが、ドメイン変形が強く示唆された。
【0038】
試験方法は以下の通りであった。
(1)成形
塊状のPLAナノアロイのサンプルを所定量秤量し、厚さt=0.2、0.5mmのテフロン(登録商標)製型を用いて減圧下にホットプレス成形し、シートを得た。
予熱:220℃×3min/成形:50MPa×1min/冷却:2〜3℃に急冷の後、幅13mm、長さ40mmの短冊状に切り出し、下記試験に供した。
(2)延伸試験(一軸延伸試験)
クランプに試験片の一端をはさんだ状態で、クランプを予め120℃に予熱しておいた熱風乾燥機内に入れ、そのまま1min間保持した後、直ちにプライヤーで両端を挟み人力で引張った。この方法は、最短の加熱時間で加工可能であり、また、サンプルの硬さの応じて臨機応変に対応できるが、試験力が一定化できないので、延伸倍率がその都度異なるものとなった(各個計算)。
【0039】
相溶化剤E−GMA−MAを用いた場合の、PA11NCドメインの変形に及ぼす延伸倍率の影響を検討した。
延伸によってPLAマトリクス中に分散したPA11NCドメインが変形し、それに伴ってナノシートも面配向させる必要がある。そこで、実施例2で得PLAナノアロイが、(i)延伸できること、(ii)延伸に伴いドメインが変形すること、を確認する必要がある。
図13に示すように、延伸倍率が大きくないと(150%)、ドメインの変形がなされないが、350%延伸物では、PA11NCドメインがPLAナノアロイの延伸方向に平行に変形していることが示された。したがって、成形品に対してはドメイン変形のために300%程度の延伸倍率を付与することが必要であることが示唆された。
また、E−GMA−MA1%組成において、延伸後においてもPA11NCドメインがPLAマトリクスと接着していることが確認され、相溶化剤としての効果も確認した。
【0040】
図14に、test#11(E-GAM-MA 4.9% PA11NC 15部, 435rpm/5min)のFE−SEM観察結果を示す。
図14に示すうように、test#11の延伸倍率250%では、延伸後に明確なPA11NCドメインを特定できなかった。
以上の結果をまとめると、
・調製したPLAナノアロイはいずれも一軸延伸が可能であった。
・延伸に伴ってドメイン変形が起こることは確認できたが、変形の程度は延伸倍率に依存しており、低い延伸比ではドメインの変形は僅かであった。
・延伸倍率が300%を超える場合、ドメインは扁平状に変形した。
・ドメイン径が200nmオーダーに到達したPLAナノアロイについては、延伸後のPA11NCドメインを識別することは困難であったが、延伸に伴って選択的にドメインが排除されるとは考えられないので、ドメインが扁平状態になり厚みが小さくなったことが示唆された。
・PA11NC配合量が高い場合、PLAナノアロイ中のPA11NCドメインの分散性が低下(ドメイン径が大きくなる)する傾向があり、ガスバリア性の点で配合量増加の効果が現れにくいことが予測された。他方で、延伸性は未だ十分あることも確認された。
・したがって、PLAナノアロイの延伸に伴いPA11NCドメインが変形することが確認された。
【0041】
[実施例4:前記成形品のガスバリア性の評価]
以下の表2に示すサンプルについてガスバリア性を評価した。
【表2】
*各サンプルはn=3とした。
*サンプル寸法は50mm×50mm。
【0042】
ガス透過性評価結果は以下の表3に示す結果となった。
【表3】
*sample#7は、PLAのみに混練履歴(200℃、435rpm、10min)を付与したもの
*sample#8は、PLAに相溶化剤(E-GMA-MA:8%)配合し、同様の混練履歴を付与したもの
【0043】
[結果]
・酸素、水蒸気のいずれの場合も、ナノシート配合量の増大に伴ってバリア性が向上した。
・相溶化剤としてのE−GMA−MA配合はPLAアロイの酸素透過性に対する影響が大きく、PLAにPA11NCを配合することでバリア性が向上する分を相殺した可能性が高い。他方、水蒸気透過性に対する影響は低いため、PA11NC配合による効果がそのまま反映された。