特許第6025537号(P6025537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025537
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】木材の下塗り剤及び下塗り方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/50 20060101AFI20161107BHJP
   B27K 5/00 20060101ALI20161107BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20161107BHJP
   C09D 157/00 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   B27K3/50 D
   B27K3/50 A
   B27K5/00 F
   C09D5/00 D
   C09D157/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-266964(P2012-266964)
(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-240981(P2013-240981A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年9月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-102683(P2012-102683)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175021
【氏名又は名称】三井化学産資株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100075524
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 重光
(72)【発明者】
【氏名】加藤 章文
(72)【発明者】
【氏名】中野 卓
(72)【発明者】
【氏名】小堀 誠紫
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−137206(JP,A)
【文献】 特開2011−25688(JP,A)
【文献】 特開平8−291006(JP,A)
【文献】 特開昭61−75145(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0176995(US,A1)
【文献】 特開2009−73169(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0193785(US,A1)
【文献】 特開平8−267412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 − 9/00
B27M 1/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭化水素樹脂および/または該樹脂を多価カルボン酸無水物で変性した変性炭化水素樹脂1〜30質量%、(B)常温硬化型熱硬化性樹脂1〜40質量%、(C)防腐剤0〜10質量%、(D)白色顔料、雲母および非晶質シリカから選ばれた少なくとも1種の成分1〜50質量%、および(E)希釈剤 残量 を含む木材用下塗り剤。
【請求項2】
請求項1に記載の木材用下塗り剤を木材に塗布する方法。
【請求項3】
前記木材が、木材保護剤で処理された木材である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の方法で下塗り剤を塗布した木材に、さらに含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を塗装する方法。
【請求項5】
含浸タイプの木材保護剤で処理された木材に、請求項1に記載の木材用下塗り剤を塗布した後、含浸タイプの木材保護剤を塗装する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
木材保護剤で処理された木材に、木材保護剤を再塗装する方法に関する。さらに詳しくは、含浸タイプ、半造膜タイプまたは造膜タイプの木材保護剤で処理された屋外使用の木材に、含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を再塗装する際の下塗り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、土木建築用途や一般工業用途など種々の用途に用いられているが、木材は腐朽、カビ、害虫、日光による焼けなどによって劣化する。特に、住宅、建築物などの建材や、公園等のベンチなど屋外で使用される木材には屋外曝露に伴う劣化が激しいので、木材を保護することを目的として、木材保存剤で処理することが行なわれている。
木材保護剤としては、内部に有効成分が浸透して効果を内から発揮する「含浸タイプ木材保護剤」、保護剤の膜で表面を覆って木材を守る「造膜タイプ木材保護剤」およびその中間タイプである「半造膜タイプ木材保護剤」が知られている。
【0003】
造膜タイプ木材保護剤は、表面に膜を作ることで紫外線や雨、菌や害虫などの外敵から木材を守り、長期に渡り保護効果を発揮しようとするものである。造膜タイプの木材保護剤の場合には、木材表面に膜を作るため、木目は見えなくなり、木材の自然な風合いや質感を喪失するだけでなく、経時劣化により、塗膜剥離、亀裂発生等が発生して外観を損なうという問題があった。さらに塗膜が劣化した後に保護用組成物を再塗布する際に劣化した塗膜の除去に手間がかかるという問題があった。
【0004】
一方、含浸タイプ木材保護剤は、保護成分が木材内部に浸透し、内から効果を発揮しようとするもので、塗装後も木目が見え、木の風合いを失わないので、木材本来の美しさや手触りをそのまま楽しむことができる。含浸タイプの木材保護剤の場合には、造膜タイプと異なって塗膜の塗膜剥離、亀裂発生等は発生しないが、保護剤自体の経時劣化があるので、効果を持続させるためには定期的な塗り替えが必要である。
【0005】
含浸タイプまたは半造膜ダイプの木材保護剤でも、特に屋外使用の木材に使用された場合、屋外曝露に伴う劣化が激しいので、含浸タイプの木材保護剤を再塗装しても、新しい木材のような明るさは失われ、木材の木目や自然な風合いを維持することは難しかった。酸化剤などの薬剤を使ってカビや汚れを落とす下地処理剤を使用したとしても、リグニン等によるくすみは除去することができないので、木材が本来持っていた明るさは元に戻すことができなかった。強引に元に戻そうとすれば、さらに強力な薬剤を使用するとか、木材表面を削り取るなどの手段を採用しなければならず、コスト増は避けられなかった。このような屋外使用された木材について、含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を再塗装して木材の木目や自然な風合いを維持する技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−203902号公報
【特許文献2】特開2002−137206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の課題を解決しようとするものである。
本発明は、含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を塗装するとき塗装後に、また木材保護剤で処理された木材に、含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を再塗装するとき再塗装後にも、新しい木材のような明るさを保ち、木材の木目や自然な風合いを維持することを可能とする下塗り剤及び下塗り方法を提供するものである。
本発明は、特に含浸タイプ、半造膜タイプまたは造膜タイプの木材保護剤で処理された屋外使用の木材に、含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を再塗装する際の下塗りに好適な下塗り剤及び下塗り方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(A)炭化水素樹脂および/または該樹脂を多価カルボン酸無水物で変性した変性炭化水素樹脂1〜30質量%、(B)常温硬化型熱硬化性樹脂1〜40質量%、(C)防腐剤0〜10質量%、(D)白色顔料、雲母および非晶質シリカから選ばれた少なくとも1種の成分1〜50質量%、および(E)希釈剤 残量 を含む木材用下塗り剤を提供する。
【0009】
本発明はまた、前記した木材用下塗り剤を木材に塗布する方法を提供する。
前記木材が、木材保護剤で処理された木材である、前記した木材用下塗り剤を木材に塗布する方法は本発明の好ましい態様である。
【0010】
本発明はさらに前記した方法で下塗り剤を塗布した木材に、さらに含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を塗装する方法、及びその方法で含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤が塗装された木材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を塗装するとき塗装後に、また木材保護剤で処理された木材に、含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を再塗装するとき再塗装後にも、新しい木材のような明るさを保ち、木材の木目や自然な風合いを維持することを可能とする下塗り剤が提供される。
本発明により、木材保護剤で処理された木材に含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を再塗装するとき、再塗装後に木材の木目や自然な風合いを維持することを可能とする下塗り方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、木材に、(A)炭化水素樹脂および/または該樹脂を多価カルボン酸無水物で変性した変性炭化水素樹脂、(D)白色顔料、雲母および非晶質シリカから選ばれた少なくとも1種の成分、および(B)常温硬化型熱硬化性樹脂、および必要に応じて(C)防腐剤を含む溶剤系または水性系の下塗り剤を塗布する方法を提供する。本発明の下塗り剤は、(A)炭化水素樹脂および/または該樹脂を多価カルボン酸無水物で変性した変性炭化水素樹脂、(D)白色顔料、雲母および非晶質シリカから選ばれた少なくとも1種の成分、および(B)常温硬化型熱硬化性樹脂、および必要に応じて(C)防腐剤を含む溶剤系または水性系の下塗り剤である。
【0013】
本発明で使用される炭化水素樹脂(A)は、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族系−芳香族系石油樹脂およびそれらの水素化物などを挙げることができる。炭化水素樹脂は、環球法(JIS K2207-1990に準拠する)による軟化点が60〜150℃、好ましくは80〜150℃のものが望ましく、炭化水素樹脂は多価カルボン酸無水物でグラフト変性された変性炭化水素樹脂であってもよい。
【0014】
芳香族系石油樹脂は、原油の熱分解油から各種の軽質留分を分離取得した後に残る沸点150〜280℃程度の各種重質留分の混合物を、フリーデルクラフツ触媒の存在下に重合させて得られる淡黄色から褐色の低結晶性または非晶性固体である。芳香族系石油樹脂は重合工程から得られた状態では疎水性で親油性であり、これが木材の撥水持続性向上の一因であるとともに、木材との相性がよく、その他の添加成分を木材中に固定化して、溶脱を防止する作用効果がある。
【0015】
前記の各種重質留分の混合物は、ビニルトルエン類、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン類およびインデン類等を含有するが、それらの共存比率は相当に多様であることから、得られる芳香族系石油樹脂の性状も多様である。芳香族系石油樹脂としては、例えば、環球法軟化点が120℃付近の、「ペトロジン120」(三井化学株式会社製)が好適である。また水素化した石油樹脂も使用することができる。
【0016】
脂肪族系石油樹脂は、炭素数5を主体とする脂肪族ジオレフィン類、例えばピペリレン、イソアミレン等と、炭素数5を主体とする環状共役ジエン類、例えばシクロペンタジエン等との共重合体であって、耐候性に優れる淡色の樹脂である。
【0017】
脂肪族−芳香族系石油樹脂は、例えばイソプロペニルトルエンと、炭素数5を主体とする脂肪族ジオレフィン類と、炭素数5を主体とする環状共役ジエン類との共重合体であって、耐候性に優れるとともに、最も淡色の樹脂である。
【0018】
炭化水素樹脂の変性剤としては、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ノルボルネンジカルボン酸無水物等の多価カルボン酸の酸無水物を挙げることができる。変性炭化水素樹脂における変性剤の含有量は、変性炭化水素樹脂基準で0.01〜0.5質量%、好ましくは0.03〜0.1質量%である。
【0019】
本発明の常温硬化型熱硬化性樹脂(B)は、酸化重合型熱硬化性樹脂または湿気硬化型熱硬化性樹脂である。酸化重合型熱硬化性樹脂は分子中に油を含有するアルキド樹脂、ウレタンアルキド樹脂、エポキシエステル樹脂等であり、湿気硬化型熱硬化性樹脂は、イソシアネート基を有するポリウレタン樹脂、分子中にアルコキシシランを有するシリコン樹脂、2液硬化型エポキシ/アミン系樹脂、2液硬化型ポリオール/ポリイソシアネート系樹脂等である。
【0020】
常温硬化型熱硬化性樹脂(B)としては、ウレタンアルキド樹脂、湿気硬化型ポリウレタン樹脂が性能面で優れているが、作業性の点からはウレタンアルキド樹脂が好ましい。
【0021】
ウレタンアルキド樹脂は、サフラワー油、脱水ひまし油のような植物油とグルセリン、ポリグリコールジオールのような多価アルコールでエステル交換し、溶剤に希釈後、ジイソシアネートを滴下しながらウレタン化反応させ鎖延長して得られる樹脂である。ウレタンブロックとアルキドブロックを共重合した樹脂や、アルキド樹脂をウレタン化して得たブロック樹脂もある。ジイソシアネートとしてTDIが使用されたウレタンアルキド樹脂は、乾燥性、耐薬品性、耐水性、耐磨耗性が良好であり好ましい。その他の変性に使用するイソシアネートとして耐候性の高いキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。「バーノック」(大日本インキ株式会社製)、「アラキード」(荒川化学株式会社製)などの商標で市販されているウレタンアルキド樹脂も使用可能である。油含有量が多めの中油型、長油型、または超長油型のものが好ましい。
【0022】
本発明で使用される防腐剤(C)は、木材に防腐性を付与する成分を表すものであって、防菌性、防かび性、防虫性等を付与するための成分を包含するものである。これらをまとめて便宜的に防腐剤と表記する。
したがって、本発明においては、各種の防腐剤、防黴剤、防虫剤、防腐兼防黴剤等が配合可能である。
【0023】
防腐剤としてはフェノール系、有機ヨード系、ナフテン酸金属塩、ヒドロキシルアミン系、ナフタリン系、キノリン系、アニリド系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ベンゾチアゾール系、四級アンモニウム塩系、ベンゾイミダゾール系、トリアゾール系、ピレスロイド様およびチオシアネート系のものを挙げることができる。なおピレスロイド様は構造的にピレスロイド系ではないが、ピレスロイド系と同様な作用効果を示す化合物をいう。以下に代表的な防腐剤を例示する。
【0024】
フェノール系: トリブロモフェノール、p−ブロム−2,5−ジクロロフェノール、p−(2−フェニル−イソプロピル)フェノール(p-クミルフェノール)で代表される(フェニルアルキル)フェノール類、
有機ヨード系: 4−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール(IF−1000)、3−エトキシカルボニルオキシ−1−ブロモ−1,2−ジヨード−1−プロペン(「サンプラス」)、3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート(IPBC、「トロイサン」)、
【0025】
ナフテン酸金属塩: ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、
ヒドロキシルアミン系: N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミンアルミウニウム(「キシラザンAL」)、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミンカリウム、
ナフタリン系: モノクロロナフタリン(モノクロロナフタレン)、
キノリン系: 8−オキシキノリン(「オキシン」)、
アニリド系: N−メトキシ−N−シクロヘキシル−4−(2,5−ジメチルフラン)カルボアニリド、3−イソプロポキシ−3' −トリフルオロメチルカルボアニリド、
【0026】
ハロアルキルチオ系: N,N−ジメチル−N' −(ジクロロフルオロメチルチオ)スルファミド、テトラクロロエチルチオテトラヒドロフタルイミド、
ニトリル系: テトラクロロイソフタロニトリル、
ベンゾチアゾール系: 2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール(TCMTB)、
四級アンモニウム塩系: ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンザルコニウム、
ベンゾイミダゾール系: 2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)、
【0027】
カルバメート系: 2−(4−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−1−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブタン−2−ジオール(「シプロコナゾール」)、1−(p−クロロフェニル)−4,4−ジメチル−3−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチルペンタン−3−オール(テブコナゾール)、
ピレスロイド様: 2−(p−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテル(エトフェンプロックス)、
チオシアネート系: メチレンビスチオシアネート(MBT)で代表されるアルキレンビス(チオシアネート)類。
【0028】
中でも、各種の置換基を導入してなるフェノール類が、フェノール類の防菌性および防黴性を保持しながら、木材内部への浸透性、滞留性(非溶出性および低滲出性)、無臭性、環境および人畜に対する低影響性等が良好であり、好適である。具体的には、防腐兼防黴剤分子を構成する2個の芳香核の一方の芳香核には水酸基が結合しており、他方の芳香核にはアルキレン基(特に分枝アルキレン基でもよい)が結合しており、しかも双方の芳香核(アリール基)がアルキレン基を介して結合したフェニル分枝アルキルフェノールである。
【0029】
特に好ましい具体例としては、p−(2−フェニルイソプロピル)フェノール(p−クミルフェノール)を挙げることができる。p−クミルフェノールはp−異性体の含有率が60質量%以上、好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%であるものが使用される。
【0030】
他の有力な防腐剤は3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート(IPBC、「トロイサン」)、2−(4−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−1−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブタン−2−ジオール(シプロコナゾール)、1−(p−クロロフェニル)−4,4−ジメチル−3−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチルペンタン−3−オール(テブコナゾール)、2−(p−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテル(エトフェンプロックス)、メチレンビスチオシアネート(MBT)である。これらは、塗布された木材に良く馴染んで長期間に亙りその効果を持続する。もちろん、これらを併用することができる。
【0031】
木材防黴剤として市販されている下記の混合製剤を使用することもできる。
防黴剤(TIC): 2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)+2−(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール(TCMTB)、
防黴剤(BIC): 3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート(IPBC、「トロイサン」)+2−(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール(TCMTB)、 防黴剤(BAM): 2−(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール(TCMTB)+メチレンビスチオシアネート(MBT)、
防黴剤(NM): メチレンビスチオシアネート(MBT)+4−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール(IF−1000)。
【0032】
本発明で使用される白色顔料としては、チタン白(二酸化チタン)、亜鉛華(酸化亜鉛)、鉛丹、リトポン、沈降性硫酸バリウム、バライト粉などを挙げることができるが、中でもチタン白(二酸化チタン)、亜鉛華(酸化亜鉛)が好ましい。
これら白色顔料の平均粒径は、好ましくは、0.01〜20μm、さらに好ましくは、0.1〜10μmであることが望ましい。粒径は電子顕微鏡写真法により平均単一粒子径として求めることができる。
白色顔料は、固形顔料50〜70質量%程度のペーストとして使用してもよい。
【0033】
本発明の雲母は、天然の白雲母や合成雲母を使用することができる。雲母としては平均粒径やアスペクト比(粒子径/厚み)には特に制限はないが、平均粒径としては0.1〜40μm程度、好ましくは0.1〜20μm程度のものが好ましく使用される。
本発明の白色顔料として、雲母チタン顔料を用いてもよい。雲母チタン顔料は雲母の薄片状結晶を核とし、この核の上に酸化チタン水和物を析出させ、これを焼成して、二酸化チタンとしたものである。
【0034】
本発明の非晶質シリカとしては、珪藻土、酸性白土などの天然非晶質シリカも使用することができるが、合成非晶質シリカがより好ましく使用される。合成非晶質シリカとしては、乾式合成法で製造した乾式シリカ、湿式合成法である沈殿法で製造した湿式シリカ、
ゲル法で製造したシリカゲル、ゾルゲル法で製造したコロイダルシリカなどを挙げることができる。中でも、乾式シリカ及び湿式シリカが特に好ましく使用できる。
【0035】
本発明の非晶質シリカの代表例としては、コールカウンター法で測定した平均凝集粒径が0.1〜20μm程度、好ましくは0.5〜10μm程度のものを挙げることができる。比表面積(BET法)としては、5〜500m/g程度のものを挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0036】
白色顔料、雲母および非晶質シリカのうちでは、白色顔料および非晶質シリカが好ましく、中でも非晶質シリカが好ましく使用される。
【0037】
本発明の下塗り剤組成物を構成する各成分は、下記の比率で混合されていることが好ましい。各成分は下塗り剤全体に対する質量%で表示されている。
(A)炭化水素樹脂および/または変性炭化水素樹脂:1〜30%、好ましくは2〜30%、より好ましくは3〜25%、
(B)常温硬化型熱硬化性樹脂:1〜40%、好ましくは2〜30%、
(C)防腐剤:0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜4%、および
(D)白色顔料、雲母および非晶質シリカから選ばれた少なくとも1種の成分:1〜50%、好ましくは1〜40%。
【0038】
本発明の下塗り剤組成物を構成する各成分において、(C)成分が非晶質シリカである場合には、(C)成分は1〜10%であることがより好ましい。
【0039】
前記組成比で混合して得られた組成物100質量部を、通常2〜50倍、好ましくは2.5〜20倍、より好ましくは3〜10倍量の希釈剤を用いて塗料化する。本発明の下塗り剤は、下塗り剤組成物を希釈剤を用いて調製し、水性ディスパージョン、水性エマルジョンなどの水性系下塗り剤、有機溶剤ディスパージョン、有機溶剤エマルジョンタイプなどの溶剤系下塗り剤として塗料化することが好ましい。本発明の組成物の調製と塗料化は、希釈剤に各成分を逐次または同時に混合することにより実施される。混合に際し、耐候安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤)、顔料、粘度調節剤、顔料、界面活性剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0040】
希釈剤(E)としては水または炭化水素系溶剤が好ましい。炭化水素系溶剤としては、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族−脂肪族系混合溶剤を挙げることができる。芳香族系ではトルエン、キシレン、およびそれらの核水添化油が好ましい。脂肪族系ではパラフィンオイル、イソパラフィンオイルが使用可能であるが、これらにセルソルブ、酢酸エチル、酢酸メチル、メチルイソブチルケトン、ブタノールなどを添加して溶解性を高めたものが好ましく、「エクソンD−40」が例示される。芳香族−脂肪族系混合溶剤としては、「ソルベッソ」等が好ましい。みかんの皮からのオレンジオイル等の天然オイル、水性溶剤も使用することができる。さらに、エチレンカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤も使用することができる。
【0041】
本発明の下塗り剤が適用される木材は樹種等を問わず、形態、形状、大きさ、長さ、厚さも限定されない。本発明の下塗り剤を下塗りした木材に含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を塗装することができる。本発明の下塗り剤を下塗りすることによって、塗装後にも木材の木目や自然な風合いを維持する、換言すれば活きた木肌を得ることができる。木材保護剤が含浸タイプの場合、塗装後に木材の木目や自然な風合いを維持する、換言すれば活きた木肌を得る効果が高いので好ましい態様である。
また、含浸タイプ、半造膜タイプまたは造膜タイプの木材保護剤で処理された木材に、本発明の下塗り剤を下塗りした後、含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を塗装することもできる。
本発明の下塗り剤は、木材保護剤で処理された屋外使用の木材に含浸タイプの木材保護剤を再塗装する際の下塗りにおいて効果を発揮するので、木材保護剤で処理された外壁、玄関回り、ベランダ、板塀等の屋外用木材、浴室、洗面所回り等の屋内水回り用木材に好適に適用される。
【0042】
本発明の下塗り剤は塗布により木材等に適用される。塗布は刷毛、ローラ、噴霧器等を用いる常法か、どぶ漬けにより実施される。塗布面は、予め高圧洗浄、ブラッシング等で汚れやほこりを取り除き、また必要に応じて木材保護剤の塗膜を取り除いて、木材を乾燥させておくのが好ましい。木材保護剤で処理された木材が、造膜タイプの木材保護剤で処理されたものであって、木材に造膜タイプの木材保護剤が残存するときには、本発明の下塗り剤を塗布する前に木材保護剤の塗膜を取り除いておくことが好ましい。
【0043】
本発明の下塗り剤が塗布された木材に、木材保護剤が塗装されるが、塗装される木材保護剤は含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤であり、特に含浸タイプの木材保護剤が好ましい。
含浸タイプの木材保護剤で処理された屋外使用の木材に、本発明の木材用下塗り剤を塗布した後、含浸タイプの木材保護剤を再塗装する場合、特に再塗装後に木材の木目や自然な風合いを維持する、換言すれば活きた木肌を得る効果が高いので好ましい態様である。
【0044】
このような含浸タイプの木材保護剤としては、例えば特開2002−137206号公報に記載されたような木材保護剤を使用することができる。また、含浸タイプの木材保護剤として市販されているものから適宜選択して用いることもできる。このような市販品として、「ノンロット(登録商標)205N」(三井化学産資株式会社製)などを挙げることができる。含浸タイプの木材保護剤の塗装方法としては特に制限はなく、従来公知の方法が適用される。
【実施例】
【0045】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によっては何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
原材料:
(A)炭化水素樹脂:芳香族系石油樹脂「ペトロジン120」(三井化学株式会社製)[環球法軟化点120℃]
(B)常温硬化型熱硬化性樹脂:「アラキード7500T」(ナフテン酸コバルト触媒1質量%含有)(荒川化学株式会社製)
(C)防腐剤:3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート(IPBC、「トロイサン」)、p−(2−フェニル−イソプロピル)フェノール
(D)白色顔料:チタンペーストD(チタン白固形分 約60%、三木理研工業株式会社製)
(E)有機溶剤:「エクソールD40」(ナフテン系溶剤、エクソンモービルケミカル製)
【0047】
[下塗り剤の調整]
上記炭化水素樹脂20質量%、常温硬化型熱硬化性樹脂10%、防腐剤0.5質量%、白色顔料ペーストをチタン白として30質量%及び有機溶剤として「エクソールD40」を合計100質量%となるよう残量加えて下塗り剤を調製した。
【0048】
[木材への塗布]
含浸タイプの木材保護剤「ノンロット」(登録商標)を塗装してから3年が経過した木造建物の木製外壁を、高圧洗浄し、乾燥させ、ブラッシングした後、上記で得られた下塗り剤を塗布した。
下塗り剤が乾燥した後、黄色含浸タイプの木材保護剤「ノンロット205N」を2回塗りで塗装した。
黄色含浸タイプの木材保護剤の塗装後、木材の表面状態を目視によって観察した。観察結果を表1に示した。
【0049】
(実施例2)
原材料:
(A)炭化水素樹脂:芳香族系石油樹脂「ペトロジン120」(三井化学株式会社製)[環球法軟化点120℃]
(B)常温硬化型熱硬化性樹脂:「アラキード7500T」(ナフテン酸コバルト触媒1質量%含有)(荒川化学株式会社製)
(C)防腐剤:3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート(IPBC、「トロイサン」)、p−(2−フェニル−イソプロピル)フェノール
(D)非晶質シリカ:合成非晶質シリカ(商品名:東ソー・シリカ社製)
(E)有機溶剤:「エクソールD40」(ナフテン系溶剤、エクソンモービルケミカル製)
【0050】
[下塗り剤の調整]
上記炭化水素樹脂20質量%、常温硬化型熱硬化性樹脂10%、防腐剤0.5質量%、非晶質シリカを1.2質量%及び有機溶剤として「エクソールD40」を合計100質量%となるよう残量加えて下塗り剤を調製した。
【0051】
[木材への塗布]
含浸タイプの木材保護剤「ノンロット」(登録商標)を塗装してから3年が経過した木造建物の木製外壁を、高圧洗浄し、乾燥させ、ブラッシングした後、上記で得られた下塗り剤を塗布した。
下塗り剤が乾燥した後、黄色含浸タイプの木材保護剤「ノンロット205N」を2回塗りで塗装した。
黄色含浸タイプの木材保護剤の塗装後、木材の表面状態を目視によって観察した。観察結果を表1に示した。
【0052】
(比較例1)
実施例において、下塗り剤の塗布を省略するほかは同様にして、黄色含浸タイプの木材保護剤「ノンロット205N」を2回塗りで塗装し、塗装後の木材の表面状態を目視によって観察した。観察結果を表1に示した。
【0053】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を塗装するとき塗装後に、また木材保護剤で処理された木材に、含浸タイプまたは半含浸タイプの木材保護剤を再塗装するとき再塗装後にも、新しい木材のような明るさを保ち、木材の木目や自然な風合いを維持することを可能とする下塗り剤が提供される。
本発明により、含浸タイプ、半造膜タイプまたは造膜タイプの木材保護剤で処理された木材に含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を再塗装するとき、再塗装後に木材の木目や自然な風合いを維持することを可能とする下塗り方法が提供される。
本発明により、特に含浸タイプ、半造膜タイプまたは造膜タイプの木材保護剤で処理された屋外使用の木材に、含浸タイプまたは半造膜タイプの木材保護剤を再塗装する際の下塗りに好適な下塗り方法が提供される。