(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地組立された橋桁の一部に、該橋桁の一部から鉛直上方に突出する主塔を、該主塔よりも架設方向の前方となる該橋桁の前方部に、該前方部から鉛直上方に突出する前方副塔を、それぞれ建て、
前記前方副塔の先端側に前方索を固定して、前記主塔の先端側と、該前方副塔の先端側とに該前方索を張架し、
前記橋桁を地組立場から前記架設方向に送り出すことを特徴とする橋梁の架設方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
(橋梁の架設方法)
図1は橋梁の架設方法の流れを説明するための説明図である。
図1(d)、(e)に示すように、本実施形態の橋梁の架設装置150は、主塔108と、前方副塔106と、後方副塔110と、前方索112aと、後方索112bと、仮設橋脚102aと、地組立場102bと、送り出し装置102cと、カウンターウェイトcwとを備える。
【0012】
ここでは、中央の橋脚100bと右側の橋脚100cの間の地面に装置が設置可能であって、中央の橋脚100bから左側の橋脚100aの間の地面には、装置の設置ができないものとする。
【0013】
そこで、中央の橋脚100bと右側の橋脚100cの間に複数の仮設橋脚102aを建て、仮設橋脚102aの上に地組立場102bを設ける。地組立場102bには、不図示のレールに沿って、
図1中、左右方向に可動する台車などの送り出し装置102cを設置する。そして、送り出し装置102cの上面において、橋桁104を一部組み立て(地組立)、送り出し装置102cで左側の橋脚100aに向けて送り出す、所謂送り出し工法を用いる。
【0014】
送り出し工法では、張り出した橋桁の自重による撓みが問題となるため、橋桁の上に塔が建てられ、斜吊り工法が用いられることがあった。斜吊り工法では、送り出された橋桁の送り出し方向の先端側から、塔の天辺までワイヤーなどの索を張ることで、橋桁の送り出し方向の先端側が撓みで垂下しないように引き上げられる。
【0015】
本実施形態では、このような斜吊りよりも効果的に橋桁104の撓みを改善することが可能となる。
【0016】
まず、
図1(a)に示すように、送り出し装置102cの上面において橋桁104の一部が地組立される。そして、地組立された橋桁104(ブロックA〜D)の一部(ブロックC)に前方副塔106を建てる。
【0017】
続いて、地組立された橋桁104(ブロックA〜D)を送り出し装置102cで架設方向(
図1中、左右方向)の前方(
図1中、左側)に1ブロック分送り出し、後方に新たに橋桁104(ブロックE)を組み立てて継ぎ足す。橋桁104(ブロックF、G)についても、橋桁104(ブロックE)と同様に、送り出しと組み立てが行われる。
【0018】
そして、
図1(b)に示すように、地組立された橋桁104(ブロックA〜G)の一部(ブロックE、F)に主塔108を建てる。この段階では、まだ、主塔108は、桁上(橋桁104の上面)にほぼ水平に倒されている。なお、主塔108よりも架設方向の前方にある橋桁104の前方部104aに、前方部104aから鉛直上方に突出する前方副塔106がすでに配されている。
【0019】
図2は、主塔108と前方副塔106の概略的な構成を説明するための説明図である。
図2(a)は、主塔108の側面図を示し、
図2(b)は、主塔108の正面図を示し、
図2(c)は、前方副塔106の側面図を示し、
図2(d)は、前方副塔106の正面図を示す。ここで、主塔108および前方副塔106の側面図は、
図1に示す図と同じ面から見た図である。
【0020】
主塔108は、
図2(b)に示すように、高さに対し横方向の安定を得るために、下方に開いた構造となっている。部材108aは、柱材の座屈を防ぐためのもので、トラス状に取り付ける場合が一般的である。
【0021】
主塔108の上部には、後述する索(前方索および後方索)が、固定されるアンカー108bが取り付けられている。アンカー108bに固定されるケーブル(索)は塔上で交差し、アンカー108b内で力が均衡するようになっている。ここでは、前方索、および、後方索の角度により支圧版の角度を変えて、索が直角に取りつくようにしている。また、主塔108の下部は、橋桁104にピン構造で取り付けられる。
【0022】
前方副塔106は、
図2(c)に示すように、主塔108と同様、下方に開いた構造としており、部材106aは、柱材の座屈を防ぐためのもので、トラス状に取り付ける場合が一般的である。また、前方副塔106の上部には、前方索が固定されるアンカー106bが取り付けられている。ここでは、前方索の角度により支圧版の角度を変えて、前方索が直角に取りつくようにしている。
【0023】
上記の主塔108および副塔のアンカー構造は一例であって、主塔108および副塔の頭頂部におけるアンカー手段は、本実施形態に記載の構造に限られない。
【0024】
図1(b)に戻って、橋桁104(ブロックG)の上面にカウンターウェイトcwが載置される。カウンターウェイトcwは、架設方向の前方に張り出した橋桁104の重量によって、橋桁104が、
図1中、反時計回り方向に回転して倒れないように、
図1中、時計回り方向の回転モーメントを与えるものである。なお、カウンターウェイトcwは送り出しの進行に伴い複数設置することもある。
【0025】
続いて、
図1(c)に示すように、新たな橋桁104(ブロックH)について、橋桁104(ブロックE)と同様に、送り出しと組み立てが行われると共に、主塔108より架設方向の後方にある橋桁104の後方部104bに、後方部104bから鉛直上方に突出する後方副塔110を建てる。後方副塔110の具体的な構造については、前方副塔106と実質的に同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
そして、
図1(d)に示すように、主塔108を、回転軸108f(
図2(a)参照)を中心に回転させて建て起こす。こうして、主塔108は、送り出し装置102cの上面に地組立された橋桁104の一部(ブロックE、F)から鉛直上方に突出することとなる。
【0027】
続いて、主塔108の先端側(回転溝108c)と、前方副塔106の先端側(回転溝106e)とに前方索112aを張架する。また、主塔108の先端側(回転溝108c)と、後方副塔110の先端側(前方副塔106の溝106eに対応する溝)とに後方索112bを張架する。このとき、橋桁104の前方部104a側には、すでに撓みが生じており、前方索112aおよび後方索112bによって、撓み分が吊り上げられる。
【0028】
そして、送り出し装置102cが、橋桁104を地組立場102bから架設方向に送り出す。この送り出しが完了したとき、
図1(e)に示すように、橋桁104が地組立場102bから架設方向に張り出す長さが最大となり、橋桁104が最も撓みやすい状態となる。
【0029】
しかし、本実施形態では、前方副塔106が、前方索112aを介して主塔108側および鉛直上方に引っ張られ、橋桁104の前方部104aが鉛直上方に反る方向に曲げモーメントが作用する所謂、地蔵起こしの状態となる。
【0030】
また、後方副塔110が、後方索112bを介して主塔108側および鉛直上方に引っ張られ、橋桁104の後方部104bが鉛直上方に反る方向に曲げモーメントが作用する。かかる曲げモーメントは、橋桁104の前方部104aを鉛直上方に反らせる方向に作用する。
【0031】
こうして、橋桁104の鉛直下方への撓みが、副塔(前方副塔106および後方副塔110)を有しないときに比べて抑制される。そのため、橋桁104が橋脚100aに衝突することなく、橋脚100aの上方に到達することが可能となる。前方副塔106および後方副塔110の高さが高いほど、橋桁104の鉛直下方への撓みが改善する。そして、
図1(f)に示すように、架設装置150が撤去され、橋桁104が橋脚100a、100b、100cに載置される。
【0032】
かかる架設装置150を用いることで、架設中の橋桁104の撓みを効果的に抑えることができ、手延機が不要、または、必要となる手延機が小型化され、地組立場の有効利用を含めた総合的なコストを削減することが可能となる。また、斜吊りに比べ、主塔108に作用する応力が小さくなるため、主塔108の建設にかかるコストも低減される。
【0033】
(設計計算例)
続いて、本実施形態の橋梁の架設方法と、従来の斜吊りによる橋梁の架設方法について、具体的な設計計算例を挙げて、本実施形態の橋梁の架設方法の効果を示す。
【0034】
図3は、撓み計算の設定条件を説明するための説明図である。
図3(a)は、本実施形態の橋梁の架設方法における設定条件を示し、
図3(b)は、比較対象としての斜吊りによる橋梁の架設方法における設定条件を示す。ただし、
図3中の寸法の単位はm(メートル)とする。
【0035】
ここでは、索が掛け終わった後、橋桁104を送り出して、最も橋桁104が撓む
図1(e)に相当する工程における、橋桁104の撓みを、本実施形態の橋梁の架設方法と、斜吊りによる橋梁の架設方法それぞれについて計算する。
【0036】
ただし、上述した橋梁の架設方法と異なり、
図3(a)、(b)では、橋桁104を2点支持している。
【0037】
図3(a)、(b)のいずれにおいても、橋桁104は、全長が200mであって、中央の下方から支持部200aによって支持され、中央から
図3中、右側に100mの位置の下方から支持部200bによって支持される。
【0038】
また、カウンターウェイトcwは、転倒安全率を確保するために載荷されるもので、本発明とは無関係である。
【0039】
そして、橋桁104の中央よりも、
図3中、左側に20mの位置の上面に主塔108、tが設けられている。
【0040】
図3(a)に示す計算条件では、橋桁104のうち、主塔108が設けられた位置の左側に60mの位置に、前方副塔106が設けられ、主塔108が設けられた位置の右側に60mの位置に、後方副塔110が設けられる。主塔108の高さは20m、前方副塔106、後方副塔110の高さは、それぞれ10mとする。
【0041】
そして、主塔108と前方副塔106の間に前方索112aが、主塔108と後方副塔110の間に後方索112bがそれぞれ張架されている。その長さは、それぞれ、60.83mとなる。
【0042】
一方、
図3(b)に示す斜吊りの計算条件では、副塔は設けられず、主塔tの高さは20mであって、主塔tから直接、橋桁104に、主塔108が設けられた位置の左側に60mの位置と、右側60mの位置に前方索s
1、後方索s
2が張架されている。その長さは、それぞれ、63.245mとなる。
【0043】
また、
図3(a)、(b)のいずれの計算条件においても、橋桁104の断面二次モーメントIは、0.4m
4、単位長さ辺りの重量は、2.0t/m、前方索112a、s
1、後方索112b、s
2に作用する張力は、300tとする。
【0044】
図4は、撓み計算を説明するための説明図である。ここでは、計算を簡略化するため、
図4(a)に示すように、橋桁104のみが2点支持されており、橋桁104の重量は、
図4中、左右方向に均等であると仮定する。
【0045】
図4(b)に示す状態では、橋桁104の自重を2.0t/mとすれば、支持部200aの反力Ra
1は405tとなり、支持部200bでは、負反力が45tとなる。負反力を打消し、転倒安全率1.2を確保するために70tのカウンタウェイトcwが、支持部200b近くに載荷されるため、支持部200bの反力Ra
2は、35tとなる。
【0046】
このときの橋桁先端撓みは4.88mになる。また、支持部200aの反力Ra
1は、撓みに関係がない。
【0047】
続いて、斜吊りによる橋梁の撓みの改善効果を計算すると、張力の鉛直方向成分と主塔tの反力による撓み量は、−2.89mとなる。すなわち、斜吊りの索(前方索s
1、後方索s
2)によって、橋桁104の左端は2.89m、鉛直上方に吊り上げられる。
【0048】
また、本実施形態の地蔵起こしによる橋梁の撓みの改善効果を計算すると、−4.29mとなる。すなわち、地蔵起こしの索(前方索112a、後方索112b)によって、橋桁104の左端は4.29m、鉛直上方に吊り上げられる。
【0049】
上述したように、前方索112a、s
1、後方索112b、s
2に作用する張力、主塔108、tの高さがそれぞれ等しい条件において、橋桁104の自重と支持部200aの反力による撓み量は、斜吊りの場合も、地蔵起こしの場合も同じである。一方、張力による吊り上げの効果は、斜吊りが−2.89mであるのに対し、地蔵起こしでは、−4.29mとなることから、本実施形態の橋梁の架設方法は、従来の斜吊り工法よりも、撓みの改善効果が凡そ1.5倍程度に大きいことがわかる。そのため、斜吊りの場合の撓みが4.88−2.89=0.99mなのに対し、地蔵起こしの場合の撓みは4.88−4.29=0.59mと、撓みの改善を図ることが可能となる。
【0050】
また、斜吊りの場合、主塔tに作用する鉛直方向の荷重は、200t近くに上るが、地蔵起こしの場合、主塔108に作用する鉛直方向の荷重は、100t程度ですむため、主塔108にかかるコストを低減することが可能となる。
【0051】
また、上述した実施形態では、
図1(d)、(e)に示すように、副塔の高さを主塔108の高さより低くしているが、副塔の高さを主塔108の高さよりも高くしてもよい。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。