(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025564
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】2サイクルエンジンを潤滑するためのシステム
(51)【国際特許分類】
F01M 1/06 20060101AFI20161107BHJP
【FI】
F01M1/06 E
F01M1/06 D
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-532563(P2012-532563)
(86)(22)【出願日】2010年10月5日
(65)【公表番号】特表2013-507557(P2013-507557A)
(43)【公表日】2013年3月4日
(86)【国際出願番号】EP2010064789
(87)【国際公開番号】WO2011042412
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年9月27日
【審判番号】不服2015-15627(P2015-15627/J1)
【審判請求日】2015年8月24日
(31)【優先権主張番号】09172524.2
(32)【優先日】2009年10月8日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/249,828
(32)【優先日】2009年10月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100137039
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 靖子
(72)【発明者】
【氏名】ハメット,ジェレミー・リチャード
【合議体】
【審判長】
伊藤 元人
【審判官】
梶本 直樹
【審判官】
金澤 俊郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−527055(JP,A)
【文献】
特開平7−54627(JP,A)
【文献】
特開2008−31958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2サイクルエンジン(2)を潤滑するためのシステム(1)であって、
シリンダ油用の第1の入口(21)と、システム油用の第2の入口(22)および第3の入口(23)とを有する2サイクルエンジン(2)と、
前記エンジン(2)内で使用されたシステム油用の油受(3)であって、入口(31)および出口(32)を有し、前記出口(32)が前記エンジン(2)の前記第2の入口および前記第3の入口(22,23)に結合されている油受(3)と、
前記エンジン(2)の前記第1の入口(21)に結合された第1の出口(41)、前記油受(3)の前記入口(31)に結合された第2の出口(42)および前記油受(3)の前記出口(32)に結合された第1の入口(43)を有する油溜め(4)と、
前記油受(3)の前記出口(32)、前記エンジン(2)の前記第2の入口および前記第3の入口(22,23)および前記油溜め(4)の前記第1の入口(43)に結合された分流器(7)と
を少なくとも備える、システム(1)。
【請求項2】
前記油溜め(4)の前記第1の出口(41)と前記エンジン(2)の前記第1の入口(21)との間に、粒子状物質を除去するための洗浄ユニット(5)をさらに備える、請求項1に記載のシステム(1)。
【請求項3】
前記油受(3)の前記出口(32)と前記エンジン(2)の前記第2の入口および前記第3の入口(22,23)との間に加圧ユニット(6)をさらに備える、請求項1または2に記載のシステム(1)。
【請求項4】
前記油溜め(4)の前記第2の出口(42)が第2の油溜め(8)の入口(81)に結合されており、前記第2の油溜め(8)が、前記油溜め(4)の第2の入口(44)に結合されている出口(82)を有する、請求項1〜3の1つまたは複数の請求項に記載のシステム(1)。
【請求項5】
前記油受(3)には、前記第2の油溜め(8)に機能的に結合された液面調節器(33)が設けられている、請求項1〜4の1つまたは複数の請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記エンジン(2)が2サイクルクロスヘッド型エンジンである、請求項1〜5の1つまたは複数の請求項に記載のシステム。
【請求項7】
前記エンジンのクロスヘッドは、前記エンジン(2)の前記第2の入口(22)で油を供給されることができる、請求項6に記載のシステム(1)。
【請求項8】
請求項1〜7の1つまたは複数の請求項に記載のシステム(1)を含む船舶。
【請求項9】
2サイクルエンジン(2)を潤滑するための方法であって、前記エンジン(2)内でシステム油およびシリンダ油として使用される油が同じ油受(3)から供給され、シリンダ油とシステム油との両方に対して唯一のタイプの油が使用され、
(a)第1の油溜め(4)の第1の出口(41)から第1の入口(21)でシリンダ油を、第2の入口(22)および第3の入口(23)でシステム油を前記エンジン(2)に供給するステップと、
(b)前記エンジン(2)から油受(3)に使用済みシステム油を除去するステップと、
(c)前記使用済みシステム油の第1の部分および第2の部分を前記エンジン(2)の前記第2の入口(22)および前記第3の入口(23)に戻し、前記使用済みシステム油の第3の部分を前記油受(3)の出口(32)から前記油溜め(4)の第1の入口(43)に戻すステップであって、前記使用済みシステム油の前記第1の部分、前記第2の部分および前記第3の部分が分流器(7)を介して供給されるステップと
(d)前記油溜め(4)の溢流を前記油溜め(4)の第2の出口(42)から前記油受(3)の入口(31)に供給するステップと
を少なくとも備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルエンジンを潤滑するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開平07−054627号は、別のシステムからシステム油およびシリンダ油を使用する4サイクルディーゼルエンジンの潤滑油分配システムに関する。本発明とは違って、特開平07−054627号のシステムでは2つ以上の種類の油が使用される。
【0003】
独国特許第10124476号は油供給装置に関する。
米国特許出願公開第2006/148661号は、2サイクルエンジンを作動中、燃料経済および環境影響を改善するための方法およびシステムに関する。
【0004】
例えば国際公開第2006/032271A1号に説明されるように、海上または定置型の用途で使用される2サイクルエンジンは、通常、2つの別々の潤滑油システムを装備されている。一方の潤滑システムは、通常、エンジンの軸受と例えば油冷却ピストンなどの潤滑および冷却のため、ならびに様々な弁などの作動および/または制御のために使用されるいわゆるシステム油を備える。他方の潤滑システムは、通常、エンジンのシリンダ、ピストンリングおよびピストン組立体の潤滑のために使用されるシリンダ油を備える。
【0005】
典型的な2サイクルクロスヘッド型エンジンでは、シリンダ油はエンジンの各回転により連続して消費される(換言すれば、使い果たされる)が、一方システム油は(意図しない少量の漏れによるものを除いて)原則的に消費されない。シリンダ油は、その油が消費されるのでしばしば「全損」潤滑油と言及される。システム油およびシリンダ油の両方の使用および様々な種類が当分野でよく知られている。
【0006】
2サイクルエンジンを潤滑するための知られているシステムの問題は、システムが比較的大きく、とりわけ高価な設備投資を生じさせる。例示として、知られているシステムは、かなり高価な油受(または「潤滑油ドレインタンク」)サイズ、すなわち使用済みシステム油を回収するために必要な空間を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の問題を最小にすることである。
本発明の別の目的は、2サイクルエンジンを潤滑するための知られているシステムを簡単にすることである。
【0008】
本発明の別の目的は、2サイクルエンジンを潤滑するための代替システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つまたは複数の上記のまたは他の目的が、2サイクルエンジンを潤滑するためのシステムを提供することにより本発明によって達成され、そのシステムは、
−シリンダ油用の第1の入口ならびにシステム油用の第2の入口および第3の入口を有する2サイクルエンジンと、
−エンジン内で使用されたシステム油用の油受であって、入口および出口を有し、出口がエンジンの第2の入口および第3の入口に結合されている油受と、
−エンジンの第1の入口に結合された第1の出口、油受の入口に結合された第2の出口および油受の出口に結合された第1の入口を有する油溜めと、
−油受の出口、エンジンの第2の入口および第3の入口および油溜めの第1の入口に結合された分流器とを少なくとも備える。
【0010】
本発明による驚くべき簡単なシステムを使用することにより、特により小さい油保管設備が要求されるので、設備投資および業務費が著しく減少され得る。この点で、システムが作動目的のために要求される油の体積を減少させることを促進するので、業務費が減少することに留意されたい。
【0011】
本発明による特別な利点は、(例えば、シリンダ油およびシステム油が異なる組成を有する日本特許第07054627号とは異なって)潤滑システム内でシリンダ油およびシステム油の両方用に1つの種類の油のみが必要とされ、使用されることである。これは、作動の簡単さだけでなく、保管容量の低減、油用の在庫の低減などにつながる。加えて、本発明によるシステムは、容易に新規の船舶内で実施され、かつ既存船舶に後付けすることができる。
【0012】
本発明によって使用される2サイクルエンジンに関して特定の限定はない。2サイクルエンジンが海上ディーゼルエンジンで使用されるエンジンであることが好ましい。当業者は、「海上」という用語は水上輸送船舶で使用されるようなエンジンなどに限定するのではないことを容易に理解するであろう。すなわち、加えてそのような用語は、発電用途に使用されるエンジンも含む。
【0013】
典型的には、2サイクルエンジンは直結式、自己逆転式2サイクルエンジンである。2サイクルエンジンは、燃焼生成物がクランクケースに入り、システム油と混じることを防止するために、パワーシリンダをクランクケースから分離する仕切板およびパッキンボックスを有するクロスヘッド型構造のエンジンであることが好ましい。
【0014】
上述のように、当業者は「シリンダ油」および「システム油」の使用および様々な種類に精通している。本発明によれば、同じ貯蔵タンクから供給される単一の種類の油がシリンダ油およびシステム油の両方に使用されるので、当業者は、良好な酸化および熱的安定性、水の抗乳化性、腐食保護および良好な泡止め性能を提供することが必要であると理解するであろう。
【0015】
本発明の別の態様では、本発明によるシステムを含む船舶を提供する。船舶は通常は海上船舶である。
本発明の別の態様では、2サイクルエンジンを潤滑するための方法が提供され、エンジン内でシステム油およびシリンダ油として使用される油が同じ油受(および/または同じ油溜め)から供給される。その方法が、
(a)第1の油溜めから第1の入口でシリンダ油を、第2の入口および第3の入口でシステム油をエンジンに供給するステップと、
(b)エンジンから油受に使用済みシステム油を除去するステップと、
(c)使用済みシステム油の第1の部分および第2の部分をエンジンの第2の入口および第3の入口に戻し、使用済みシステム油の第3の部分を油溜めに戻すステップであって、使用済みシステム油の第1の部分、第2の部分および第3の部分が分流器を介して供給されるステップと
を少なくとも備えることが好ましい。
【0016】
下文において、本発明が以下の制限しない図面によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による2サイクルエンジンを潤滑するためのシステムの第1の実施形態の概略図である。
【
図2】本発明による2サイクルエンジンを潤滑するためのシステムの第2の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図示の目的のために、単一の参照符号は、管路ならびにその管路内で運搬される流れに割り当てられる。同じ参照符号は同じ構成要素を指す。
図1は、2サイクルエンジンを潤滑するためのシステム(全体的に参照符号1で示される)を概略的に示す。
【0019】
図1のシステム1は2サイクルエンジン2、油受3および油溜め4を備える。
2サイクルエンジン2は、シリンダ油10がピストン24(続いてピストン24はその動きによってシリンダ油を分配することができる)に供給されるための第1の入口21、システム油20のための第2の入口22およびシステム油30のための第3の入口23を有する。エンジン2は、消費されたシリンダ油を回収するための廃油タンクに結合された出口(図示せず)をさらに備えることができる。エンジン2は、典型的には、ピストン棒25、軸受26、軸受26(クロスヘッド型)のための案内面27、連接棒28およびプロペラ軸(図示せず;
図1の紙面に垂直である)に結合されたクランク軸29をさらに備える。
図1の実施形態に示すように、エンジン2は、2サイクルクロスヘッド型エンジンであることが好ましい。したがって、この実施形態では、入口22でシステム油20が、クロスヘッド型軸受26および案内面27への送り流として供給され、一方入口23でシステム油30が、軸受支持クランク軸29への送り流として、およびピストン24用の冷却油として供給される。
【0020】
エンジン2内で使用されるシステム油用油受3は、入口31および出口32を有し、出口32はエンジン2の第2の入口22および第3の入口23に結合されている。典型的には、
図1の実施形態で示すように、油受3はエンジン2の一部を形成するが、油受3はエンジン2からかなり離れて配置されてもよい。後者の場合、油受3は使用済みシステム油用の別の入口を有することになる。
【0021】
油溜め4はエンジン2の第1の入口21に結合された第1の出口41、油受3の入口31に結合された第2の出口42および油受3の出口32に結合された第1の入口43を有する。油溜め4は「堰」として作動させることができるので、油溜め4は液面調節器の存在を必要とせず、油溜め4の溢流を第2の出口42を介して除去され、流れ60を介して油受3の入口31に供給することができる。
【0022】
図1に示すように、システム1は油溜め4の第1の出口41とエンジン2の第1の入口21との間に粒子状物質を除去するために洗浄ユニット5をさらに備えることが好ましい。この粒子状物質は、エンジン2で使用されたときのシステム油の変質によって生成された可能性があり、システム油と共に油溜め4に再循環されている。典型的には、洗浄ユニット5は、網目フィルタまたは遠心フィルタなどのフィルタの形態であり、フィルタは、BOLL & KIRCH Filterbau GmbHから入手可能なものなど、自動逆洗式フィルタであることが好ましい。
【0023】
必要であれば、油溜め4の第1の出口41とエンジン2の第1の入口21との間に追加の添加剤が、例えば噴射ノズルによってシリンダ油に加えられ得る。
加えて、
図1に示すように、システム1は油受3の出口32とエンジン2の第2の入口22および第3の入口23との間に加圧ユニット6をさらに備えることが好ましい。
【0024】
システム1は、油受3の出口32、エンジン2の第2の入口22および第3の入口23、ならびに油溜め4の第1の入口43に結合された分流器7をさらに備える(典型的には加圧ユニット6の下流に)ことが好ましく、分流器7はユニット6から来る流れ40を2つの流れ20および30に分割し、流れ20および30は、入口22および23でエンジン2の2つの別々の場所に流れ込む。ユニット6から油タンク4までの戻り管路50は分流器7のちょうど上流に位置することもできることは言うまでもない。
【0025】
もし必要ならば、適切な弁が様々な管路で所望の圧力を達成するために存在することができる。
図1の実施形態では、弁71が分流器7と油受3の入り口32との間、弁72が分流器7と油溜め4の第1の入口43との間に配置されている。
【0026】
当業者は、所望されれば、追加の要素が存在することができると容易に理解するであろう。
図1のシステムの使用中に、第1のタンク4の第1の出口41から油が洗浄ユニット5を介してシリンダ油10としてエンジン2の第1の入口21でピストン24まで供給される。シリンダ油は、ピストン24を潤滑する間に消費され(「全損」潤滑油として)、残留物が消費済みシリンダ油を回収するための廃油タンク(図示せず)に送られ得る。典型的には消費されたシリンダ油は油受3に送られないが、これはシステム1で使用される油の品質に非常に悪影響を及ぼすことがあるからである。
【0027】
加えて、油60は油溜め4から、その出口42を介して油受の入口31に送られる。油40が油受3から、その出口32を介して、加圧ユニット6を介して分流器7に送られる。分流器7から油の第1の部分20および第2の部分30がシステム油としてエンジン2にその第2の入口22および第3の入口23で供給される。エンジン2の第2の入口22での供給圧力は、典型的には第3の入口23での圧力よりも高く、典型的な圧力は、それぞれ第2の入口22では15バール、第3の入口23では5バールである(しかしそれは当然ながら実際に使用されるエンジンに依拠し得る)。その後、エンジン2からの使用済みシステム油(例えば軸受26からの流出油およびピストン24を冷却するために使用された戻り油)は、油受3に回収される。分流器7から来るシステム油の第3の部分50は油溜め4の入口43に再利用のために戻される。
【0028】
図2の実施形態では、システム1は(第1の)油溜め4に加えて第2の油溜め8をさらに備える。油溜め4の第2の出口42は第2の油溜め8の入口81に結合され、第2の油溜め8は油溜め4の第2の入口44に結合された出口82を有する。
【0029】
好ましくは、油受3には液面調節器33が設けられ、その液面調節器33が第2の油溜め8に機能的に結合される。例えば液面調節器33が油受3の油面が所定の下限より下に低下したと判定する場合などに、必要であれば、追加の油70が第2の油溜め8から油溜め4まで(その後、油受3まで)移送され得る。
【0030】
当業者は、多くの改変形態が本発明の範囲から離れずに作成され得ることを容易に理解するであろう。