(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025611
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】帽子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A42C 1/00 20060101AFI20161107BHJP
A42B 1/02 20060101ALI20161107BHJP
A42C 1/04 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
A42C1/00 H
A42B1/02 B
A42C1/00 P
A42C1/00 N
A42C1/04
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-38810(P2013-38810)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-167180(P2014-167180A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】597093115
【氏名又は名称】株式会社シオジリ製帽
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 英一
【審査官】
▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−126799(JP,A)
【文献】
特開昭49−116397(JP,A)
【文献】
実開昭53−019095(JP,U)
【文献】
特開2012−162828(JP,A)
【文献】
特開2009−102751(JP,A)
【文献】
実開平06−051237(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 1/00− 1/24
A42C 1/00− 5/04
D06F71/00−71/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のレンゲを互いに繋ぎ合せることによりクラウンが略半球状とされた帽子の製造方法であって、
クラウンの前部を形成する前側レンゲを、縫合によって予め略球面状に形成しておき、該前側レンゲのみを、略球面状の凸面を有する雄型の該凸面と略球面状の凹面を有する雌型の該凹面との間でプレスしながら加熱することにより、その曲率半径がさらに小さくなるように前側レンゲを略球面状に成形するプレス成形工程と、
プレス成形工程を終えた前側レンゲに、他のレンゲを繋ぎ合せて略半球状のクラウンを得るクラウン形成工程と、
クラウン形成工程を終えたクラウンを型入れしてクラウンのシワを伸ばす型入工程と
を経ることを特徴とする帽子の製造方法。
【請求項2】
プレス成形工程における前側レンゲの加熱が、雄型の凸面及び/又は雌型の凹面に設けられた複数の蒸気孔から吹き付けられる加圧蒸気によって行われ、
前記複数の蒸気孔から前側レンゲに吹き付けられる加圧蒸気が、雄型の凸面及び/又は雌型の凹面を覆う蒸気拡散シートで拡散されるようにした請求項1記載の帽子の製造方法。
【請求項3】
プレス成形工程における前側レンゲの加熱が、雄型の凸面及び/又は雌型の凹面に設けられた複数の蒸気孔から吹き付けられる加圧蒸気によって行われ、
前記複数の蒸気孔が、雄型の凸面及び/又は雌型の凹面における前側レンゲの中心部をプレスする部分で密に配置された請求項1又は2いずれか記載の帽子の製造方法。
【請求項4】
プレス成形工程を行う前側レンゲの面積が、50〜500cm2とされた請求項1〜3いずれか記載の帽子の製造方法。
【請求項5】
プレス成形工程を行う前側レンゲが、熱可塑性樹脂繊維からなる生地である請求項1〜4いずれか記載の帽子の製造方法。
【請求項6】
プレス成形工程を行う前側レンゲが、表地と裏地とをホットメルト接着剤で張り合わせたものである請求項1〜5いずれか記載の帽子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略半球状のクラウンを備えた帽子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野球帽などの帽子におけるクラウンは、通常、「レンゲ」と呼ばれる略二等辺三角形状に裁断された複数枚の生地の側縁同士を縫合することにより、略半球状に形成される。略半球状に形成されたクラウンには、鍔やビン皮など、帽子の種類に応じて必要な部材を取り付けた後、仕上げ工程として「型入れ」という作業が行われる。型入れは、略半球状に形成された型(通常、加熱されている。)をクラウンの内側に挿入した状態で、クラウンの外面を手などで押さえ付ける工程である。この型入れによって、シワを伸ばしてクラウンの形を整えたり、ビン皮などをクラウンに馴染ませたりすることが可能である。型入れに用いる金型としては、例えば、特許文献1〜3に示すものなどが提案されている。しかし、型入れが施された帽子は、クラウンの形が整えられているといっても、それは新品状態における一時的なものに過ぎず、使用や洗濯を重ねるうちに、クラウンの形状が崩れるという問題があった。
【0003】
ところで、本出願人は、複数枚のレンゲ(クラウン形成用生地)を継ぎ合わせることにより、クラウンを略半球状に形成した帽子であって、少なくとも1枚のレンゲを、その片面にホットメルト接着剤が塗布された接着芯地と、接着芯地におけるホットメルト接着剤が塗布された面に重ねられた表地とで構成し、接着芯地と表地とを重ねた状態で加熱圧縮処理を施すことにより、レンゲを略球面状に湾曲して形成したことを特徴とする帽子を既に提案している(特許文献4を参照。)。これにより、レンゲの枚数を削減し、その裁断コストや縫製コストを削減することができるにもかかわらず、クラウン全体を綺麗な略半球状とすることや、クラウンの保形性を向上させることなどが可能になる。しかし、クラウンの前部の曲率半径が大きいと、クラウンの前部が立ったような見栄えになり、帽子の見栄えが悪くなるおそれがあるため、クラウンの前部は、曲率半径が小さく、できるだけ自然で綺麗な略球面状に成形することが好ましいところ、上記の加圧圧縮処理による方法では、必ずしもクラウンの前部を自然な略球面状に成形することが容易ではなかった。また、短時間でクラウンの成形を行い、帽子の生産性を向上することについても、課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−166113号公報
【特許文献2】特開2009−041138号公報
【特許文献3】特開2010−263173号公報
【特許文献4】特開2012−162828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、クラウンの保形性を高めるだけでなく、クラウンの前部を、曲率半径が小さく、見た目が自然で綺麗な略球面状とすることも容易な帽子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、
複数枚のレンゲを互いに繋ぎ合せることによりクラウンが略半球状とされた帽子の製造方法であって、
クラウンの前部を形成する前側レンゲのみを、略球面状の凸面を有する雄型の該凸面と略球面状の凹面を有する雌型の該凹面との間でプレスしながら加熱することにより、前側レンゲを略球面状に成形するプレス成形工程と、
プレス成形工程を終えた前側レンゲに、他のレンゲ(前側レンゲ以外のレンゲという意味。以下同じ。)を繋ぎ合せて略半球状のクラウンを得るクラウン形成工程と、
クラウン形成工程を終えたクラウンを型入れしてクラウンのシワを伸ばす型入工程と
を経ることを特徴とする帽子の製造方法
を提供することによって解決される。
【0007】
このように、他のレンゲに繋ぎ合せる前の状態の前側レンゲにプレス成形工程を施すことにより、他のレンゲにシワを寄らせることなく、前側レンゲを曲率半径の小さな自然で綺麗な略半球状に成形することが可能になる。また、前側レンゲと他のレンゲの接合は、通常、縫合によって行われるところ、プレス成形工程で略球面状に成形された後に前側レンゲを他のレンゲに縫合するようにすれば、前側レンゲと他のレンゲとの縫合部、又は他のレンゲと他のレンゲとの縫合部に、プレス成形工程による負担が掛からないようにして、クラウン形成工程で得られるクラウンに見苦しいシワが形成されないようにすることも可能になる。
【0008】
本発明の帽子の製造方法において、プレス成形工程は、前側レンゲのみに施し、他のレンゲには施す必要はない。帽子のクラウンは、その保形性や見栄えの点からは、クラウンの前部を形成する前側レンゲが最も重要であるので、この前側レンゲのみにプレス成形工程を施すことで、効果的にクラウンの保形性や見栄えをよくすることができる。また、仮に他のレンゲにもプレス成形工程を施したとすると、クラウンの前部以外の部分、例えば、クラウンの側部や後部の柔軟性が低下してしまい、帽子の被り心地が低下するおそれがある。
【0009】
また、本発明の帽子の製造方法において、プレス成形工程では、前側レンゲを真っ直ぐな状態から略球面状に成形してもよい。しかし、この場合には、雄型や雌型に対して前側レンゲを確実に位置決めしておかないと、雄型と雌型を閉じる際(型締めの際)に、雄型と雌型との間で前側レンゲが動いてしまい、前側レンゲを所望の形状に成形できなくなるおそれがある。このため、前側レンゲは、縫合によって予め略球面状に形成(雄型の凸面や雌型の凹面に沿う程度に略球面状に形成)しておき、プレス成形工程によって、その曲率半径がさらに小さくなるように変形させると好ましい。これにより、雄型や雌型に対する前側レンゲの位置決めが容易になり、型締めの際における前側レンゲの移動を防止して、前側レンゲを所望の形状に成形することが可能になる。
【0010】
ここで、「縫合によって予め略球面状に形成」とは、前側レンゲを、その側縁が互いに縫合された複数枚のレンゲで構成することによって略球面状に形成する場合や、前側レンゲを、その頂点から底辺に向かって所定深さで設けられた略逆二等辺三角状の切込を有するレンゲで構成し、その切込における対向辺部を互いに縫合することにより略球面状に形成する場合などが例示される。
【0011】
さらに、本発明の帽子の製造方法において、プレス成形工程で前側レンゲを加熱する方法は特に限定されない。例えば、雄型や雌型を、その内部に収容した熱源(ヒーターやバーナーなど)によって加熱する方法などが挙げられる。しかし、前側レンゲにダメージを与えないようにその保形性を高めることや、前側レンゲにシワが形成されるのを防止することなどを考慮すると、プレス成形工程における前側レンゲの加熱は、雄型の凸面及び/又は雌型の凹面に設けられた複数の蒸気孔から吹き付けられる加圧蒸気によって行うようにすると好ましい。
【0012】
このとき、前記複数の蒸気孔から前側レンゲに直接的に加圧蒸気が吹き付けられると、前側レンゲにおける加熱対象場所に加熱ムラが生じるおそれがある。このため、雄型の凸面及び/又は雌型の凹面を蒸気拡散シートで覆っておき、前記複数の蒸気孔から前側レンゲに吹き付けられる加圧蒸気が、蒸気拡散シートで拡散されるようにすると好ましい。そして、前側レンゲのうち、特に保形性を高める必要(加圧蒸気を吹き付ける必要)があるのは、前側レンゲの中心部であるから、前記複数の蒸気孔を、雄型の凸面及び/又は雌型の凹面における前側レンゲの中心部をプレスする部分で密に配置すると好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明の帽子の製造方法において、プレス成形工程を行う前側レンゲの面積は、特に限定されない。しかし、前側レンゲの面積が広すぎると、プレス成形工程の際に、前側レンゲにおけるいずれかの場所にシワが寄りやすくなる。このため、前側レンゲの面積は、通常、500cm
2以下とされる。前側レンゲの面積は、450cm
2以下であると好ましく、400cm
2以下であるとより好ましい。一方、前側レンゲの面積は、通常、50cm
2以上とされる。前側レンゲの面積は、100cm
2以上であると好ましく、150cm
2以上であるとより好ましい。
【0014】
そして、本発明の帽子の製造方法において、プレス成形工程を行う前側レンゲの素材は、プレスしながら加熱することで変形させることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂繊維からなる生地(熱可塑性樹脂繊維のみで形成された生地だけでなく、熱可塑性樹脂繊維と他の繊維とが混合された生地であってもよい。)を用いると好ましい。また、プレス成形工程を行う前側レンゲは、表地と裏地とをホットメルト接着剤で張り合わせたものとすることも好ましい。これにより、プレス成形工程によって略球面状に成形された前側レンゲの保形性をさらに高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によって、クラウンの保形性を高めるだけでなく、クラウンの前部を、曲率半径が小さく、見た目が自然で綺麗な略球面状とすることも容易な帽子の製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の帽子の製造方法で製造した帽子を示した斜視図である。
【
図2】
図1に示した帽子を各部に分解した状態を示した斜視図である。
【
図3】プレス成形工程において、プレス型に前側レンゲを設置した状態をプレス型の中心線を含む鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
【
図4】プレス成形工程において、プレス型を型締めした状態をプレス型の中心線を含む鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
【
図5】プレス成形工程を終え、プレス型を開いた状態をプレス型の中心線を含む鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
【
図6】プレス型における雄型の凸面を該凸面に垂直な方向(鉛直下側)から見た状態を示した図である。
【
図7】プレス成形工程の前後における前側レンゲの形状の変化を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の帽子の製造方法の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。
図1は、本発明の帽子の製造方法で製造した帽子を示した斜視図である。
図2は、
図1に示した帽子を各部に分解した状態を示した斜視図である。
図3は、プレス成形工程において、プレス型50に前側レンゲ11,12を設置した状態をプレス型50の中心線を含む鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
図4は、プレス成形工程において、プレス型50を型締めした状態をプレス型50の中心線を含む鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
図5は、プレス成形工程を終え、プレス型50を開いた状態をプレス型50の中心線を含む鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
図6は、プレス型50における雄型51の凸面51aを凸面51aに垂直な方向(鉛直下側)から見た状態を示した図である。
図7は、プレス成形工程の前後における前側レンゲ11,12の形状の変化を示した写真である。
【0018】
[本発明の帽子の製造方法の概要]
本発明の帽子の製造方法は、
図1に示すように、略二等辺三角形状の複数枚のレンゲ11〜16の側縁同士を互いに繋ぎ合せることによりクラウン10が略半球状とされた帽子を製造するものである。クラウン10を形成するレンゲの枚数は、特に限定されるものではないが、本実施態様においては、クラウン10の左前部を形成する左前レンゲ11と、クラウン10の右前部を形成する右前レンゲ12と、クラウン10の左側部を形成する左横レンゲ13と、クラウン10の右側部を形成する右横レンゲ14と、クラウン10の左後部を形成する左後レンゲ15と、クラウン10の右後部を形成する右後レンゲ16とで構成される計6枚のレンゲ11〜16でクラウン10を構成している。以下においては、クラウン10の前部を形成する左前レンゲ11と右前レンゲ12とを合わせて「前側レンゲ11,12」と表記することがある。
【0019】
それぞれのレンゲ11〜16は、単層構造としてもよいが、複層構造とすることもできる。本実施態様において、それぞれのレンゲ11〜16は、その外面を形成する表地と、その内面を形成する裏地とからなる2層構造としている。レンゲ11〜16の素材は、少なくともその前側レンゲ11,12がプレスしながら加熱することで変形させることができる素材であるのならば特に限定されない。このような素材としては、熱可塑性樹脂繊維からなる生地が挙げられる。熱可塑性樹脂繊維としては、ポリエステル繊維やナイロン繊維などが例示される。本実施態様においては、レンゲ11〜16の表地と裏地のいずれにも、ポリエステル繊維100%の編地を採用している。
【0020】
ところで、本実施態様のように、それぞれのレンゲ11〜16を複層構造とする場合には、少なくとも前側レンゲ11,12を形成する生地(例えば表地と裏地)を、ホットメルト接着剤で互いに固着すると好ましい。これにより、後述するプレス成形工程によって、ホットメルト接着剤が軟化し、その後、前側レンゲ11,12が冷却される際に、プレス型50の形状に沿った形状で前側レンゲ11,12が硬化するようになるため、前側レンゲ11,12の保形性をさらに高めることができる。本実施態様においても、ホットメルト接着剤によって固着している。この場合、ホットメルト接着剤は、表地の裏面全体又は裏地の表面全体に面状に塗布してもよいが、この場合には、前側レンゲ11,12にシワが形成されやすくなるおそれがある。このため、ホットメルト接着剤は、表地の裏面又は裏地の表面に点状に塗布すると好ましい。
【0021】
以上のように、本発明の帽子の製造方法は、略半球状のクラウンを備えた帽子を製造するためのものであるが、その工程としては、
(1)クラウン10の前部を形成する前側レンゲ11,12をプレスしながら加熱することにより略球面状に成形するプレス成形工程と、
(2)プレス成形工程を終えた前側レンゲ11,12に、他のレンゲ13〜16を繋ぎ合せて略半球状のクラウン10を得るクラウン形成工程と、
(3)クラウン形成工程を終えたクラウン10を型入れしてクラウン10のシワを伸ばす型入工程と
を経るものとなっている。以下、各工程について、順番に詳しく説明する。
【0022】
[プレス成形工程]
プレス成形工程は、
図3〜5に示すように、前側レンゲ11,12を、プレス型50でプレスしながら加熱することにより、略球面状に成形する工程となっている。本実施態様において、前側レンゲ11,12は、左前レンゲ11の側部と右前レンゲ12の側部とを縫い合わせたものとなっており、予め緩やか(曲率半径の大き)な略球面状に形成されている。このように、前側レンゲ11,12を予め略球面状に形成しておくことにより、前側レンゲ11,12を後述する雄型51の凸面51aと雌型52の凹面52aとにある程度沿わせた状態で設置することが可能になる。したがって、雄型51や雌型52に対する前側レンゲ11,12の位置合わせが容易となり、前側レンゲ11,12を所望の形状に成形することが可能になる。
【0023】
加えて、このように複数枚のレンゲ11,12を縫い合わせて前側レンゲ11,12を略球面状とした場合には、前側レンゲ11,12における縫合部に沿った箇所の剛性が他の部分よりも高まるため、前側レンゲ11,12は、略球面状になるといっても、そのままでは、その縫合部に沿った箇所のみが外側に出っ張った不自然な形状となりやすい。このため、複数枚のレンゲ11,12を縫い合わせて略球面状とした前側レンゲ11,12では、プレス成形工程を行うことによる必要性がさらに高まり、プレス成形工程による効果が顕著に表れるため、本発明の構成を採用する意義が高まる。
【0024】
プレス成形工程に用いるプレス型50は、
図3に示すように、略球面状の凸面51aを有する雄型51と、略球面状の凹面52aを有する雌型52とで構成されている。前側レンゲ11,12は、雄型51の凸面51aと、雌型52の凹面52aとの間に挟持された状態でプレスされる。雄型51と雌型52は、非鉛直方向(水平方向など)に対向するように配置してもよいが、通常、鉛直方向に対向するように配置される。これにより、型締め前の雄型51や雌型52に対して前側レンゲ11,12を支持する機構を別途設けなくても、前側レンゲ11,12を支持することが可能となるし、プレス型50の機構も簡素で省スペースなものとすることができる。この場合、いずれを上型(鉛直上側に配される型)としていずれを下型(鉛直下側に配される)するかは特に限定されないが、本実施態様においては、雄型51を上型とし、雌型52を下型としている。
【0025】
プレス成形工程における前側レンゲ11,12の加熱は、雄型51や雌型52を直接的に加熱することによって行ってもよいが、本実施態様においては、雄型51から吹き付ける加圧蒸気によって行うようにしている。すなわち、雄型51の凸面51aには、
図6に示すように、直径1cm程度の複数の蒸気孔51bを設けており、これらの蒸気孔51bから吹き付けられる加圧蒸気によって前側レンゲ11,12を加熱するようにしている。複数の蒸気孔51bは、雄型51の凸面51aにおける中心部(最も下方に突き出た部分)及びその周辺に7行7列で計49個設けている。これにより、前側レンゲ11,12の中心部を効果的に加熱することができるようになっている。
【0026】
また、本実施態様においては、
図3に示すように、雄型51の凸面51aを蒸気拡散シート53で覆っている。このため、複数の蒸気孔51bから吹き出された加圧蒸気は、蒸気拡散シート53で拡散されてから前側レンゲ11,12に吹き付けられるようになっている。したがって、前側レンゲ11,12の中心部を均一に加熱することができるようになっている。蒸気拡散シート53の素材は、通気性を有するものであれば特に限定されないが、クッション性を有する厚手(非圧縮時の厚さが1〜20mm程度)のシート又はマットを用いると好ましい。これにより、型締めの際に前側レンゲ11,12が狭い隙間内にピッタリと挟み込まれないようにして、前側レンゲ11,12にシワが形成されるのを防止することが可能になる。本実施態様においては、蒸気孔51bが設けられた雄型51だけでなく、蒸気孔51bが設けられていない雌型52の凹面も、蒸気拡散シート53と同じ素材からなる蒸気拡散シート54で覆っており、前側レンゲ11,12にシワがさらに形成されにくくしている。
【0027】
複数の蒸気孔51bから吹き付ける加圧蒸気の温度は、特に限定されないが、低すぎると、前側レンゲ11,12に高い保形性を付与することが困難になるおそれがある。このため、加圧蒸気の温度は、通常、80℃以上とされる。加圧蒸気の温度は、90℃以上であると好ましく、95℃以上であると好ましい。加圧蒸気の温度は、圧力を高めることにより100℃以上とすることも可能であるが、高くしすぎると、前側レンゲ11,12が焦げるおそれがある。このため、加圧蒸気の温度は、通常、200℃以下とされる。加圧蒸気の温度は、170℃以下であると好ましく、150℃以下であるとより好ましい。本実施態様において、加圧蒸気の温度は、約140℃としている。
【0028】
また、複数の蒸気孔51bから加圧蒸気を吹き付ける時間(加熱時間)は、プレス成形工程を行う前側レンゲ11,12を形成する生地の厚さなどによっても異なり、特に限定されない。しかし、加熱時間が短すぎると、前側レンゲ11,12を所望の形状に成形して維持しにくくなるおそれがある。このため、加熱時間は、通常、1秒以上とされる。加熱時間は、3秒以上であると好ましく、5秒以上であるとより好ましい。一方、加熱時間を長くしすぎると、プレス成形工程において、前側レンゲ11,12を所望の形状に成形して維持することが困難になるおそれがある。また、帽子の生産性も低下するおそれがある。さらに、加圧蒸気の温度によっては、前側レンゲ11,12が焦げるおそれがある。このため、加熱時間は、通常、20秒以下とされる。加熱時間は、15秒以下であると好ましく、10秒以下であるとより好ましい。本実施態様において、前側レンゲ11,12を形成する生地の厚さは2mm程度となっており、プレス成形工程における加熱時間は、5〜6秒としているが、前側レンゲ11,12を形成する生地が厚い場合には、これよりも加熱時間を長くするとよい。
【0029】
ところで、本実施態様においては、上述したように、プレス成形工程を行う前側レンゲ11,12を縫合によって予め略球面状に形成したが、プレス成形工程前の前側レンゲ11,12における最も曲率半径が小さい部分における曲率半径r
1(
図3を参照)に対する、プレス成形工程後の前側レンゲ11,12における最も曲率半径が小さい部分における曲率半径r
2(
図5を参照)の比r
2/r
1は、小さくしすぎると、プレス成形工程における前側レンゲ11,12の変形が大きくなり、前側レンゲ11,12にシワが形成されやすくなるおそれがある。また、雄型51や雌型52に対して前側レンゲ11,12を位置決めしにくくなるおそれもある。このため、比r
2/r
1は、通常、0.3以上とされる。比r
2/r
1は、0.4以上であると好ましく、0.5以上であるとより好ましい。一方、比r
2/r
1を大きくしすぎる(1に近づけすぎる)と、プレス成形工程で前側レンゲ11,12の成形を行う意義が低下するおそれがある。このため、比r
2/r
1は、通常、0.95以下とされる。比r
2/r
1は、0.9以下とすると好ましく、0.8以下とするとより好ましい。
【0030】
プレス成形工程後の前側レンゲ11,12は、
図7の下側に示すように、プレス成形工程前(同図上側)よりも、曲率半径が小さく見た目が自然で綺麗な略球面状となっている。プレス成形工程を完了すると、前側クラウン11,12を冷却する。前側クラウン11,12は、積極的に冷却してもよいが、通常、自然冷却で十分である。
【0031】
[クラウン成形工程]
プレス成形工程を終えると、続いて、クラウン成形工程を行う。クラウン成形工程は、
図2に示すように、プレス成形工程を終えた前側レンゲ11,12に、他のレンゲ13〜16を繋ぎ合せて略半球状のクラウン10を得る工程である。他のレンゲ13〜16は、前側レンゲ11,12に繋ぎ合せる前に、予め互いに繋ぎ合せていてもよいし、前側レンゲ11,12にレンゲ13,14を繋ぎ合せ、さらにレンゲ15,16を繋ぎ合せるようにしてもよい。レンゲ11〜16を互いに繋ぎ合せる方法は、通常、ミシンなどを用いて各生地を縫合することによって行われる。このとき、レンゲ11〜16の境界部には、通常、帯材20(
図2を参照)が縫い合わせられる。
【0032】
クラウン成形工程を終えて略半球状となったクラウン10には、ビン皮30(
図2を参照)や鍔40(
図2を参照)など、帽子の種類に応じて必要な部材が取り付けられる。
【0033】
[型入工程]
クラウン成形工程を終えると、続いて、型入工程を行う。型入工程は、クラウン形成工程を終えたクラウン10を型入れしてクラウン10のシワを伸ばす工程である。型入れは、略半球状に形成された型(通常、加熱されている。)をクラウン10の内側に挿入した状態で、クラウン10の外面を手などで押さえ付けることなどにより行う。この型入工程によって、シワを伸ばしてクラウン10の形を整えたり、ビン皮などをクラウン10に馴染ませたりすることが可能である。型入工程に用いる型としては、従来から用いられている各種のものを使用することができる。
【0034】
型入工程を完了すると、本実施態様の帽子の製造方法は完了する。
【0035】
[用途]
本発明の帽子の製造方法は、略半球状のクラウンを備えた各種の帽子を製造するのに用いることができる。略半球状のクラウンを備えた帽子としては、野球帽のようにクラウン前部の下縁に鍔(前鍔)を備えたキャップ型のもののほか、クラウン全周部の下縁に鍔(プリム)を備えたハット型のものなどが例示される。本発明の帽子の製造方法は、クラウンの保形性を向上させることができるものであるため、着用や洗濯などによるクラウンの型崩れが問題となりやすい、野球帽などの運動帽や、通学帽や、作業帽など、頻繁な着用と洗濯が想定される帽子を製造するのに特に好適である。
【符号の説明】
【0036】
10 クラウン
11 左前レンゲ(前側レンゲ)
12 右前レンゲ(前側レンゲ)
13 左横レンゲ
14 右横レンゲ
15 左後レンゲ
16 右後レンゲ
20 帯材
30 ビン皮
40 鍔
50 プレス型
51 雄型
51a 凸面
51b 蒸気孔
52 雌型
52a 凹面
53 蒸気拡散シート
54 蒸気拡散シート