(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025612
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】車両の動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 25/08 20060101AFI20161107BHJP
F16D 43/04 20060101ALI20161107BHJP
F16D 11/08 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
F16D25/08 Z
F16D43/04
F16D11/08
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-38989(P2013-38989)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-167322(P2014-167322A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127801
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 慎也
(72)【発明者】
【氏名】永井 龍一
【審査官】
上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−012739(JP,A)
【文献】
特開昭60−018402(JP,A)
【文献】
特開2012−086633(JP,A)
【文献】
特開平11−099842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/08
F16D 11/08
F16D 43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(5)の駆動力を駆動輪(30)の車軸(8)上に回転可能に設けられたドリブンフランジ(21,121)に伝える動力伝達部材(20)と、
前記ドリブンフランジ(21,121)の駆動力を前記駆動輪(30)に伝達するワンウェイクラッチ(15)と、を備える車両(1)の動力伝達装置(10,10B,10C)において、
前記ワンウェイクラッチ(15,115)は、前記ドリブンフランジ(21,121)側に設けられた駆動係合部(22,122)と、前記駆動輪(30)側に設けられて前記駆動係合部(22,122)に係合する受動係合部(32,132)と、を有し、
前記駆動係合部(22,122)と前記受動係合部(32,132)とが離間可能に、前記ドリブンフランジ(21)が前記車軸(8)の軸線方向にスライドすることを特徴とする車両(1)の動力伝達装置(10,10B,10C)。
【請求項2】
前記ドリブンフランジ(21)をスライド駆動するスライド駆動部(40)は、
前記車軸(8)の軸線に沿って車軸内に延出され且つ前記車軸(8)内方から前記ドリブンフランジ(21)に連結さているスライド軸部材(42)と、前記スライド軸部材(42)を駆動する駆動本体部(41)と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両(1)の動力伝達装置(10)。
【請求項3】
前記駆動本体部(41)は、エアー流入により移動するピストン(41p)を内蔵するエアーシリンダ本体(41a)を備え、
前記ピストン(41p)がエアー流入により前記駆動係合部(22)と前記受動係合部(32)との係合方向に移動され、前記車軸(8)の軸線上に配置された弾性部材(41s,8s)により前記駆動係合部(22)と前記受動係合部(32)との係合解除方向に移動されることを特徴とする請求項2に記載の車両(1)の動力伝達装置(10)。
【請求項4】
前記車軸(8)には中空部(8a)に連通するピン案内孔(8h)が設けられ、
前記スライド軸部材(42)の先端には、前記ピン案内孔(8h)を貫通して前記ドリブンフランジ(21)の軸受部(8c)に係合するスライドピン(43)が設けられており、
前記スライドピン(43)が前記ピン案内孔(8h)に沿って移動することにより、前記ドリブンフランジ(21)が前記車軸(8)上をスライド移動することを特徴とする請求項2または3に記載の車両(1)の動力伝達装置(10)。
【請求項5】
前記受動係合部(132)は、前記駆動輪(30)の車輪ボス(131)の内周面(131a)に沿って設けられており、
前記受動係合部(132)と前記駆動係合部(122)とが前記車軸(8)の径方向に同心円状に並んで係合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両(1)の動力伝達装置(10B)。
【請求項6】
前記車軸(8)の外周には、中空部(8a)に連通するピン案内孔(8h)が設けられ、前記中空部(8a)内には、前記ドリブンフランジ(121)の装着部位の内側で軸方向に移動する軸内ピストン(8p)が設けられ、
前記軸内ピストン(8p)には、前記車軸(8)内方から径方向外側へ前記ピン案内孔(8h)を貫通して突出するスライドピン(43)が設けられ、
前記スライドピン(43)が前記ドリブンフランジ(121)に係合すると共に、前記ピン案内孔(8h)に沿って移動可能に設けられ、
前記軸内ピストン(8p)がエアー流入により前記駆動係合部(122)と前記受動係合部(132)との係合方向に移動され、前記中空部(8a)に配置された弾性部材(8s)により前記駆動係合部(122)と前記受動係合部(132)との係合解除方向に移動されることを特徴とする請求項1に記載の車両(1)の動力伝達装置(10C)。
【請求項7】
前記ドリブンフランジ(21,121)の前記駆動係合部(22,122)と前記駆動輪(30)に設けられた前記受動係合部(32,132)との滑りを検出する検出部(47)を備え、
前記検出部(47)が前記駆動係合部(22,122)と前記受動係合部(32,132)との滑りを検出したときに、前記駆動係合部(22,122)と前記受動係合部(32,132)とが離間することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに一項に記載の車両(1)の動力伝達装置(10,10B,10C)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の動力伝達装置に関し、特に、ワンウェイクラッチを備える車両において燃費性能を改善することのできる動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の動力伝達装置において、ワンウェイクラッチを備えるものがある。このワンウェイクラッチにおいては、例えば、特許文献1に記載されているように、ワンウェイクラッチのアウタ部材とインナ部材が係合していない状態で、無駄な摩擦が発生することを防止する手段として、インナ部材とアンタ部材との間にベアリングやローラを設けるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−163528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、ベアリングやローラによって無駄な摩擦の発生を抑えることができるが、実際には、ベアリングやローラによっても僅かながら摩擦が生じている。この結果、この僅かの摩擦損失であっても、特に、小型軽量の車両においては、燃費性能に大きく影響し、摩擦損失を可能な限り低減できるクラッチ機構を備える車両の動力伝達装置が望まれている。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワンウェイクラッチを備える車両の動力伝達装置において、ワンウェイクラッチの摩擦損失を従来以上に低減できて、燃費性能を高めることのできる車両の動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の駆動力を駆動輪の車軸上に回転可能に設けられたドリブンフランジに伝える動力伝達部材と、前記ドリブンフランジの駆動力を前記駆動輪に伝達するワンウェイクラッチと、を備える車両の動力伝達装置において、前記ワンウェイクラッチは、前記ドリブンフランジ側に設けられた駆動係合部と、前記駆動輪側に設けられて前記駆動係合部に係合する受動係合部と、を有し、前記駆動係合部と前記受動係合部とが離間可能に、前記ドリブンフランジが前記車軸の軸線方向にスライドすることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記ドリブンフランジをスライド駆動するスライド駆動部は、前記車軸の軸線に沿って車軸内に延出され且つ前記車軸内方から前記ドリブンフランジに連結さているスライド軸部材と、前記スライド軸部材を駆動する駆動本体部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の構成に加えて、前記駆動本体部は、エアー流入により移動するピストンを内蔵するエアーシリンダ本体を備え、前記ピストンがエアー流入により前記駆動係合部と前記受動係合部との係合方向に移動され、前記車軸の軸線上に配置された弾性部材により前記駆動係合部と前記受動係合部との係合解除方向に移動されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項2または3に記載の構成に加えて、前記車軸には中空部に連通するピン案内孔が設けられ、前記スライド軸部材の先端には、前記ピン案内孔を貫通して前記ドリブンフランジの軸受部に係合するスライドピンが設けられており、前記スライドピンが前記ピン案内孔に沿って移動することにより、前記ドリブンフランジが前記車軸上をスライド移動することを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の構成に加えて、前記受動係合部は、前記駆動輪の車輪ボスの内周面に沿って設けられており、前記受動係合部と前記駆動係合部とが前記車軸の径方向に同心円状に並んで係合することを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記車軸の外周には、中空部に連通するピン案内孔が設けられ、前記中空部内には、前記ドリブンフランジの装着部位の内側で軸方向に移動する軸内ピストンが設けられ、前記軸内ピストンには、前記車軸内方から径方向外側へ前記ピン案内孔を貫通して突出するスライドピンが設けられ、前記スライドピンが前記ドリブンフランジに係合すると共に、前記ピン案内孔に沿って移動可能に設けられ、前記軸内ピストンがエアー流入により前記駆動係合部と前記受動係合部との係合方向に移動され、前記中空部に配置された弾性部材により前記駆動係合部と前記受動係合部との係合解除方向に移動されることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6の何れか一項に記載の構成に加えて、前記ドリブンフランジの前記駆動係合部と前記駆動輪に設けられた前記受動係合部との滑りを検出する検出部を備え、前記検出部が前記駆動係合部と前記受動係合部との滑りを検出したときに、前記駆動係合部と前記受動係合部とが離間することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ドリブンフランジが車軸上を軸線方向にスライドして駆動係合部と受動係合部とが離間可能に構成されていることで、ワンウェイクラッチを条件に応じて完全に切り離しできるので、駆動輪と内燃機関との間に発生する動力伝達損失が低減され、燃費向上に寄与することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、スライド駆動部におけるドリブンフランジとの連結部が車軸の内部に配置されることで、重量を車軸に集中させることができる。また、スライド軸部材が車軸内に設けられることでスライド駆動構造のコンパクト化ができ、特に、小型軽量の車両においては、小型軽量化に寄与することができる。軽量化により燃費向上に寄与することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、駆動本体部がエアーシリンダにて構成されていることにより、ドリブンフランジを駆動する駆動力を得るのに、小型軽量構造にできる。また、ピストンが弾性部材によりワンウェイクラッチの係合解除方向に付勢されていること、例えば、エアーの圧力を解除するだけで、弾性部材の付勢力によって迅速なクラッチ解除ができ燃費向上に寄与できる。
【0016】
請求項4の発明によれば、スライド軸部材に設けられたスライドピンが車軸のピン案内孔に沿って移動し、このスライドピンがドリブンフランジに係合しているので、スライドピンの移動量をピン案内孔により規制することができ、ワンウェイクラッチの車軸方向の移動を正確に行うことができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、駆動輪の車輪ボスの内周面に沿って設けられて、受動係合部と駆動係合部とが車軸の径方向に同心円状に並んで係合する構造であるので、受動係合部を駆動輪に囲まれるように配置できて動力伝達装置の車軸方向の設置スペースをコンパクトにすることができる。また、ワンウェイクラッチが車輪ボス内に内蔵された構造であるので、係合歯部を保護できる。
【0018】
請求項6の発明によれば、車軸の中空部内を軸方向に移動する軸内ピストンが設けられ、この軸内ピストンに取り付けられたスライドピンによりドリブンフランジが移動するので、ドリブンフランジの駆動系が車軸内に内装された構造で動力伝達装置をコンパクトに収納でき、小型軽量化に寄与できる。
また、軸内ピストンが弾性部材によりワンウェイクラッチの係合解除方向に付勢されていることで、コンパクト構造の上、例えば、エアーの圧力を解除するだけで、弾性部材の付勢力によって迅速なクラッチ解除ができ燃費向上に寄与できる。
【0019】
請求項7の発明によれば、ドリブンフランジの駆動係合部と駆動輪に設けられた受動係合部との滑りが生じた時に、滑りを検出する検出部の信号により駆動係合部と受動係合部とが離間するように構成されたことで、ワンウェイクラッチに発生する滑りを少なくすることができ、滑り摩擦による動力伝達損失が低減され、燃費向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る第1実施形態における内燃機関を備えた車両の要部側面図である。
【
図2】本発明に係る第1実施形態における車両の動力伝達装置の要部斜視図である。
【
図3】
図1に示す車両の動力伝達装置の駆動輪周辺を示す要部背面図である。
【
図4】本発明に係る第1実施形態におけるワンウェイクラッチの離間状態を示す要部断面である。
【
図5】本発明に係る第1実施形態におけるワンウェイクラッチの係合状態を示す要部断面図である。
【
図6】本発明に係る第2実施形態における車両の動力伝達装置の要部平面図である。
【
図7】本発明に係る第2実施形態における要部断面図である。
【
図8】
図6におけるA−A線に沿った部分の断面図である。
【
図9】本発明に係る第3実施形態におけるワンウェイクラッチの離間状態を示す要部断面図である。
【
図10】本発明に係る第3実施形態におけるワンウェイクラッチの係合状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、
図1〜
図5を参照しながら詳細に説明する。なお、明細書における上下左右等の向きの記載については、添付図面を符号の向きに見たときのものとする。なお、
図1において、Frは車両前方、Rrは車両後方、Upは上方、Dwは下方を示す。
【0022】
図1には、車両1の後方側の駆動輪30の周辺を示す。本実施形態の車両1は、
図1に示すように、車体後方には、車幅中央に1つの駆動輪30が配置された小型軽量の車両であり、この駆動輪30の車軸8の直前位置に内燃機関5を備え、その前方側に運転者が乗車できるように構成されている。この駆動輪30は、例えば、車輪ボス31からタイヤ側に延びるスポーク部30aを備える軽量構造となっている。そして、この内燃機関5の動力伝達装置10は、
図2および
図3に示すように、内燃機関5の駆動力を駆動輪30に伝達する構造として、車軸8上に回転可能に設けられたドリブンフランジ21と内燃機関5のクランク軸(不図示)に連結されたスプロケット(不図示)との間に掛け渡されたチェーンにて構成された動力伝達部材20と、車軸8上に回転可能に配置されてドリブンフランジ21の一方向のみの駆動力を駆動輪30に伝達するワンウェイクラッチ15と、スライド駆動部40と、を備える。なお、駆動輪30における動力伝達装置10とは反対側には、ブレーキディスクを有するブレーキ装置(図示せず)が設けられている。
【0023】
本実施形態においては、ドリブンフランジ21は、車軸8の軸線方向にスライド可能に設けられている。そして、ドリブンフランジ21は、後述するスライド駆動部40によって、駆動係合部22と受動係合部32とが、噛み合い係合状態と離間状態(非噛み合い状態)に移動する。
【0024】
このワンウェイクラッチ15は、ドリブンフランジ21の駆動輪30側の側面に設けられた駆動係合部22と、駆動輪30の車輪ボス31の取付フランジ31aの側面に固定ボルト31cを介して固定された受動係合部32と、から構成されている。この駆動係合部22と受動係合部32が噛み合うことで内燃機関5の駆動力が駆動輪30に伝達される。なお、このワンウェイクラッチ15は、
図3に示すように、駆動係合部22の垂直係合面22afと受動係合部32の垂直係合面32afとが当接した噛み合い状態においては、動力の伝達が可能である一方、傾斜面22asと傾斜面32asとが接触するような状態が発生した時には、両傾斜面によって軸方向分力が生じて、駆動係合部22が受動係合部32から離れる方向に付勢して、両歯が噛み合わないような構造である。なお、駆動輪30の車輪ボス31は、軸受部38cを介して車軸8上に回転自在に設けられている。
【0025】
本実施形態においては、
図3および
図4に示すように、ドリブンフランジ21を駆動するスライド駆動部40は、車体フレーム2間にかけ渡された車軸8の軸線C上に、保持ブラケット44を介して保持された駆動本体部41と、この駆動本体部41のシリンダ軸41bに連結ナット48を介して繋げられて車軸8内の中空部8aに延びたスライド軸部材42を有している。この駆動本体部41は、シリンダ軸41bに連結されたピストン41pを内蔵するエアーシリンダ本体41aを備え、シリンダ軸41bとは反対側にエアー出入口41eが設けられている。また、シリンダ軸41b周りには、弾性部材41sが設けられており、ピストン41pは、弾性部材41sによりワンウェイクラッチ15の係合解除方向(
図4において右側方向)に付勢されている。なお、保持ブラケット44は、例えば、車軸8に固定ナット44mを介して固定されており、また、エアーシリンダ本体41aが固定ナット44nを介して保持ブラケット44に固定される。
【0026】
本実施形態においては、ドリブンフランジ21は、車軸8上に軸受部8cを介して回転自在かつ軸方向にスライド自在に装着されている。また、車軸8の中空部8a内に延出されたスライド軸部材42の先端42eには、車軸8から径方向へピン案内孔8hを貫通して車軸8外面に突出するスライドピン43が設けられている。このスライドピン43がドリブンフランジ21を保持する軸受部8cに係合している。これにより、スライド軸部材42の車軸方向の移動により、スライドピン43を介してドリブンフランジ21の移動を行うことができる。この結果、ドリブンフランジ21がワンウェイクラッチ15の係合・解除を行うことができる。
【0027】
このエアー出入口41eには、エアー管45が繋げられており、エアーシリンダ本体41a内にエアーを供給できるように構成されている。すなわち、エアー出入口41eには、ポンプ46a、チェック弁46b、エアータンク46c、リリーフ弁46dおよび制御弁46eを備えたエアー回路46が接続されている。
この制御弁46eには、電源46fおよびスイッチ46gが接続されており、スイッチ46gのオン・オフにより、エアーシリンダ本体41aへのエアーの供給とエアーシリンダ本体41aからの排気を行うようになっている。
【0028】
本実施形態においては、駆動係合部22と受動係合部32との滑りを検出する検出部47が設けられている。この検出部47は、内燃機関5の起動によって検出動作が開始される。すなわち、ドリブンフランジ21の回転数と駆動輪30の回転数(内燃機関5の回転数にて換算)の検出を開始する。一方、エアー回路46は、内燃機関5の起動によってポンプ46aが駆動されて動作可能となる。そして、スイッチ46gの操作は、例えば、検出部47による検出信号Sによって行われる。
【0029】
本実施形態において、例えば、
図5に示すように、エアーシリンダ本体41aにエアーが供給されてピストン41pが弾性部材41sの押圧力に抗して押圧された状態(
図4において矢印X方向に移動した状態)では、内燃機関5の駆動力が駆動輪30に伝達されて車両1が走行している。そして、ドリブンフランジ21の回転数と駆動輪30の回転数を検出することで、車両1の走行時において、両回転数に差が生じた時に、検出部47から検出信号Sを出す。そして、この検出部47から滑り発生時の検出信号Sが出ると、スイッチ46gが作動され、制御弁46eに電流が流れる。この制御弁46eの作動により、リリーフ弁46dが開放される。この結果、弾性部材41sの押圧力によりピストン41pが押される。そして、エアーシリンダ本体41a内のエアーがエアー出入口41eからエアー回路46側に排出され、スライド軸部材42が車軸8の外側(
図4において矢印Y方向)に移動する。このスライド軸部材42の移動により、駆動係合部22は受動係合部32との噛み合いが解除され且つ受動係合部32から離間する。
【0030】
このようにドリブンフランジ21側の駆動係合部22が、駆動輪30側の受動係合部32に対して滑りが生じた時に、これを検出して、駆動係合部22と受動係合部32とが離間することで、ワンウェイクラッチ15に発生する滑りに伴う動力伝達損失が低減される。この結果、燃費向上に寄与することができる。
【0031】
このように、動力伝達装置10におけるスライド駆動部40が車軸8の軸線C上に配置されることで、重量を車軸8に集中させることができる。また、スライド軸部材42が車軸8内に設けられることでスライド駆動構造のコンパクト化ができ、特に、小型軽量の車両においては、小型軽量化に寄与することができる。
また、本実施形態によれば、駆動本体部41がエアーシリンダにて構成されていることにより、ドリブンフランジ21のスライド動作の駆動力を得るのに、小型軽量構造にできる。さらに、ピストン41pが弾性部材41sによりワンウェイクラッチ15の係合解除方向に付勢されている構造であることで、例えば、エアーの圧力を解除するだけで、弾性部材41sの付勢力によって迅速なクラッチ解除が可能となる。
【0032】
また、ピン案内孔8hは、車軸8の軸線方向に沿って所定の長さに形成されており、スライドピン43の移動距離を制約することができる。すなわち、スライドピン43がピン案内孔8hの端部8hfに当接する状態(
図4に示す状態)でその移動位置が決められることから、ドリブンフランジ21の移動量を設定することができる。
【0033】
本実施形態においては、内燃機関5は、そのシリンダ5aが車両1の上下方向に沿うように設けられている。このようにシリンダ5aが上下方向に配置されていることで、車両高さ方向のスペースを有効利用できて、車両1の前後方向の長さを短くすることができる。
【0034】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について、
図6、
図7および
図8を参照して説明する。第2実施形態においては、前掲の第1実施形態と同じ構造については、第1実施形態と同じ構成要素については、同符号を付して説明を省略する。
【0035】
図6に示すように、本実施形態の動力伝達装置10Bにおいては、ワンウェイクラッチ115は、駆動輪30の車輪ボス131の内側に内装されており、クラッチ係合時においては概観上見えない構造である。
このワンウェイクラッチ115の構造は、
図7および
図8に示すように、車輪ボス131の内側に、受動係合部32を構成する多数の内周歯132tが、内周面132aに沿って軸径内方へ鋸歯状に突設されている。この内周歯132tは、
図8に示すように、軸方向から見て略半径方向に沿うフック面部132tfと軸接線方向に略沿う滑り面部132tsからなる三角状である。一方、ドリブンフランジ121には、内周歯132tに対面するように、例えば、3個のラチェット爪122aが円周方向に等間隔に配置されている。なお、このラチェット爪122aは、回動支点122acを中心にして爪先端122aeがフック面部132tfに係合する方向に適宜ばね部材にて回動付勢されている。
したがって、
図8に示すように、ワンウェイクラッチ115の受動係合部132と駆動係合部122は、車軸8の径方向に同心円状に並んで係合している。
なお、本実施形態におけるスライド駆動部40は、前掲の第1実施形態とまったく同じ構造である。また、ドリブンフランジ121の動きについても、第1実施形態とまったく同じである。
【0036】
このように、ワンウェイクラッチ115は、駆動輪30の車輪ボス31内の受動係合部132にドリブンフランジ121の駆動係合部22が係合する内装構造であるので、ワンウェイクラッチ115が露出せずクラッチ保護機能が高い。また、クラッチ係合構造が径方向に同心円状に並んで係合する構造であるので、車軸8方向の設置スペースがコンパクト化された動力伝達装置10Bを提供することができる。
【0037】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態について、
図9および
図10を参照して説明する。
第3実施形態においては、前掲の第2実施形態と同じ構造については、第2実施形態と同じ構成要素については、同符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施形態の動力伝達装置10Cにおいては、ドリブンフランジ121を車軸8の軸線に沿って作動させるための駆動系が車軸8の内部に設けられた構造である。この駆動系の詳細について説明すると、ドリブンフランジ121が装着された部位における車軸8の中空部8aに、軸線方向に移動可能な略円筒形の軸内ピストン8pが設けられている。この軸内ピストン8pは、その外周面の一端側(
図9において右側)にOリング8pwが設けられ、他端側(
図9において左側)には弾性部材8sを受ける弾性部材受容部8psが設けられている。また、弾性部材受容部8psに接近した位置には、スライドピン43が取り付けられている。また、車軸8の端部には、中空部8aを閉じる蓋部材8dが取り付けられている。なお、蓋部材8dには、中空部8aを密閉するためにOリング8dwが設けられており、エアー管45に接続するエアー出入口41eが形成されている。
軸内ピストン8pを貫通するスライドピン43は、車軸8に形成されたピン案内孔8hを貫通して車軸8外周面から突出している。そして、このスライドピン43がドリブンフランジ121を回転可能に保持している軸受部8cに係合している。なお、駆動輪30の車輪ボス131は、軸受部138cを介して車軸8上に回転自在に設けられている。
【0039】
本実施形態の動力伝達装置10Cは、ドリブンフランジ121の駆動系が車軸8内に内装された構造を備えているので、構造をコンパクトにでき、小型軽量化することができる。
【0040】
このように構成されていることで、エアーが供給されると、
図10に示すように、軸内ピストン8pと蓋部材8dとの間のシリンダ空間8apにエアーが溜まり、弾性部材8sの付勢力に抗して軸内ピストン8pが押されてドリブンフランジ121が移動する。この結果、ワンウェイクラッチ115が係合する位置に移動される。一方、ワンウェイクラッチ115の滑りを検出部47にて検出したときは、エアーの供給が遮断され、
図9に示すように、ドリブンフランジ121は、弾性部材8sによってワンウェイクラッチ115の係合が外れた位置に移動される。
【0041】
このように、本実施形態によれば、軸内ピストン8pが弾性部材8sによりワンウェイクラッチ115の係合解除方向に付勢されていることで、エアーの圧力を解除するだけで、弾性部材8sの付勢力によって迅速なクラッチ解除ができ燃費向上に寄与できる。
【0042】
前掲の実施形態においては、動力伝達部材にチェーンを用いる構造としたが、本発明はこれに限るものではなく、その他にベルト等を用いることもできる。
また、前掲の実施形態においては、スライド駆動部として、エアー回路を用いたが、油圧系や電磁弁等による駆動構造とすることもできる。
また、前掲の各実施形態においては、駆動係合部が受動係合部に対して動くように構成されたが、駆動係合部と受動係合部とが相対的に移動すればよく、受動係合部が移動する構造であってもよい。また、軸内ピストンに充填されるピストン駆動用の流体は空気やヘリウムなどの気体であれば良い。また、油圧でもよい。さらにまた、電磁石によって軸内ピストンをスライドさせてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 車両
5 内燃機関
8 車軸
8a 中空部
8c 軸受部
8h ピン案内孔
8s,41s 弾性部材
10,10B,10C 動力伝達装置
15,115 ワンウェイクラッチ
20 動力伝達部材
21,121 ドリブンフランジ
22,122 駆動係合部
30 駆動輪
31,131 車輪ボス
32,132 受動係合部
40 スライド駆動部
41 駆動本体部
41a エアーシリンダ本体
41p ピストン
42 スライド軸部材
43 スライドピン
47 検出部
131a 内周面