(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025620
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接方法、当該サブマージアーク溶接方法を用いる鋼管を製造する方法、溶接継手、及び当該溶接継手を有する鋼管
(51)【国際特許分類】
B23K 9/18 20060101AFI20161107BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20161107BHJP
B23K 9/025 20060101ALI20161107BHJP
B23K 33/00 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
B23K9/18 F
B23K9/18 A
B23K9/02 K
B23K9/025 B
B23K33/00 A
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-45782(P2013-45782)
(22)【出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-172063(P2014-172063A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123249
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】豊田 剛正
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健
【審査官】
奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−043974(JP,A)
【文献】
特開昭63−036973(JP,A)
【文献】
特開昭61−226187(JP,A)
【文献】
特開平06−155076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00−9/32
B23K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が40mmを超える管状に成形された鋼板を両面溶接するサブマージアーク溶接方法であって、
前記鋼板は、一面側の第1開先部内の断面積が他面側の第2開先部内の断面積よりも大きく形成された開先形状の接合部を有し、
1パス1層で低入熱の溶接を前記第1開先部に対して施し、第1溶接部を形成する工程と、
前記第2開先部内の溶接金属が前記鋼板の表面を超えるまで、高入熱の一層溶接を前記第2開先部に対して施し、第2溶接部を形成する工程と、
多層溶接を前記第1開先部に施し、第3溶接部を形成する工程と、を含み、
前記第1溶接部、前記第2溶接部、および前記第3溶接部は、サブマージアーク溶接によって形成される、ことを特徴とするサブマージアーク溶接方法。
【請求項2】
前記第1開先部において、前記第3溶接部の一部を前記第2溶接部よりも先に形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項3】
前記接合部は、前記第1開先部が管状に成形された前記鋼板の外面に形成され、前記第2開先部が当該鋼板の内面に形成される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2にサブマージアーク溶接方法。
【請求項4】
前記接合部は、ルートフェイスが2〜15mmである、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項5】
前記第2溶接部は、前記第1溶接部の少なくとも一部に溶け込むように施されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項6】
板厚が40mmを超える管状に成形された鋼板を両面溶接するサブマージアーク溶接方法であって、
前記鋼板は、一面側の第1開先部内の断面積が他面側の第2開先部内の断面積よりも大きく形成された開先形状の接合部を有し、
1パス1層で低入熱の溶接を前記第1開先部に対して施し、第1溶接部を形成する工程と、
多層溶接を前記第1開先部に施し、第3溶接部を形成する工程と、
前記第2開先部内の溶接金属が前記鋼板の表面を超えるまで、高入熱の一層溶接を前記第2開先部に対して施し、第2溶接部を形成する工程と、を含み、
前記第1溶接部、前記第2溶接部、および前記第3溶接部は、サブマージアーク溶接によって形成される、ことを特徴とするサブマージアーク溶接方法。
【請求項7】
前記接合部は、前記第1開先部が管状に成形された前記鋼板の外面に形成され、前記第2開先部が当該鋼板の内面に形成される、
ことを特徴とする請求項6に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項8】
前記接合部は、ルートフェイスが2〜15mmである、
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項9】
前記第2溶接部は、前記第1溶接部の少なくとも一部に溶け込むように施されることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項10】
前記第1溶接部を形成する工程は、前記低入熱が15〜50kJ/cmである、
ことを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項11】
前記第2溶接部を形成する工程は、前記高入熱が55〜175kJ/cmである、
ことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項12】
前記第3溶接部を形成する工程は、入熱が30〜175kJ/cmである、
ことを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項13】
鋼管を製造する方法において、請求項1〜12の何れか1項に記載のサブマージアーク溶接方法を用いることを特徴とする鋼管を製造する方法。
【請求項14】
開先形状の接合部が形成され、サブマージアーク溶接方法を用いて前記接合部を両面溶接された溶接継手であって、
鋼板の板厚が40mmを超え、
前記接合部は、一面側の第1開先部内の断面積を他面側の第2開先部内の断面積よりも大きく、前記第1開先部内の溶接金属が複層をなすと共に前記第2開先部内の溶接金属が単層をなし、
前記第1開先部内の溶接金属、および前記第2開先部内の溶接金属は、サブマージアーク溶接によって形成され、
前記第2開先部内の溶接金属が前記鋼板の表面を超えている、ことを特徴とする溶接継手。
【請求項15】
前記第2開先部内の溶接金属は、前記第1開先部内の溶接金属の少なくとも一部に溶け込んでいることを特徴とする請求項14に記載の溶接継手。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載の溶接継手を有することを特徴とする鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を管状に成形して突き合わせた部分を両面溶接するサブマージアーク溶接方法、当該サブマージアーク溶接方法を用いる鋼管を製造する方法、溶接継手、及び当該溶接継手を有する鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管を自動溶接する方法として、アーク溶接法の一種であるサブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding:SAW)を用いた方法が開発されている(特許文献1参照)。この技術は、X開先形状の素管外面側の開先断面積を、素管内面積の開先断面積より小さくし、素管シーム部(接合部)の外面を、仮付け溶接を兼用するサブマージアーク溶接で本溶接した後、内面を本溶接するものである。
【0003】
また、鋼管を自動溶接する方法として、アーク溶接法の一種であるガスシールドアーク溶接(Gas Metal Arc Welding:GMAW)を用いた方法が開発されている(特許文献2参照)。この技術は、管内面及び管外面の両面に開先を設け、開先のルートギャップを2mm以下に保って管を固定し、内面又は外面の一方から低入熱の第1の初層溶接を施す。続いて、内面又は外面の他方から第1の初層溶接に溶け込みを生じる高入熱の第2の初層溶接を行う。そして、管の内外面を同時に多層溶接するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4259376号公報
【特許文献2】特開平8−57641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された技術は、いずれも所定の板厚を超える鋼管を想定したものではない。ここで、所定の板厚とは、例えば、40mmを超えるものである。
【0006】
特許文献1には、サブマージアーク溶接方法を用いて、板厚19mm程度の鋼管を効率的に製造する方法が記載されている。特許文献1に記載された技術は、溶接欠陥を減らすために溶接工数を減少させること、つまり、効率面での検討はなされているものの、高温割れ及び低温割れの観点では全く検討されていない。また、特許文献1では、鋼管を1パス1層で溶接することが説明されており、段落[0021]には、多層溶接でも効果を損なわないことが記載されている。しかしながら、板厚40mmを超えた場合に1層溶接と多層溶接を組み合わせるというような発想自体が存在しなかった。
また、一般的に、サブマージアーク溶接方法を用いて所定の板厚(40mmを超えるもの)を溶接する場合には、ガウジングを用いた多層溶接方法が知られている。以下では、この技術を、
図10を参照しながら説明する。なお、
図10における符号tは、曲げられた鋼板の板厚を示す。
【0007】
サブマージアーク溶接方法を用いた多層溶接方法では、最初に、1st側の初層を低入熱(低電流・低速度)で溶接する。これは、高温割れの回避のためである。続けて、1st側の2層目以降を超大入熱にならないように入熱制限(例えば、175kJ/cm以下)を設けて多層溶接する。これは、低温割れの回避のためである。続けて、2nd側でガウジングまたは機械加工により開先を広くする作業を行う。これは、1st側及び2nd側の初層を低入熱で行うことによる溶け込み不足を解消するためである。続けて、2nd側を1st側と同じ手順で溶接する。その為、ガウジング工程が必要でパス数が多くなってしまうという問題があった。
【0008】
特許文献2に記載された技術は、ガスシールドアーク溶接方法が用いられている。ここで、ガスシールドアーク溶接方法は、サブマージアーク溶接方法に比べて溶接電流が低いため、溶着量が少なく、板厚40mmを超えた鋼板のように溶着量を多く必要とする溶接を行う場合に効率が悪い。その為、一般的には、板厚40mmを超えた鋼板を溶接する場合、サブマージアーク溶接方法が用いられ、ガスシールドアーク溶接方法は用いられない。
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、従来の多層溶接方法に比べてガウジング工程が不要でパス数の低減が可能であり、さらに高温割れや低温割れを極めて低減できるサブマージアーク溶接方法、当該サブマージアーク溶接方法を用いる鋼管を製造する方法、溶接継手、及び当該溶接継手を有する鋼管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、板厚が40mmを超える管状に成形された鋼板を両面溶接するサブマージアーク溶接方法であって、前記鋼板が、一面側の第1開先部内の断面積が他面側の第2開先部内の断面積よりも大きく形成された開先形状の接合部を有し、1パス1層で低入熱の溶接を前記第1開先部に対して施し、第1溶接部を形成する工程と、前記第2開先部内の溶接金属が前記鋼板の表面を超えるまで、高入熱の一層溶接を前記第2開先部に対して施し、第2溶接部を形成する工程と、多層溶接を前記第1開先部に施し、第3溶接部を形成する工程とを含
み、前記第1溶接部、前記第2溶接部、および前記第3溶接部は、サブマージアーク溶接によって形成される、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、板厚が40mmを超える管状に成形された鋼板を両面溶接するサブマージアーク溶接方法であって、前記鋼板が、一面側の第1開先部内の断面積が他面側の第2開先部内の断面積よりも大きく形成された開先形状の接合部を有し、1パス1層で低入熱の溶接を前記第1開先部に対して施し、第1溶接部を形成する工程と、多層溶接を前記第1開先部に施し、第3溶接部を形成する工程と、前記第2開先部内の溶接金属が前記鋼板の表面を超えるまで、高入熱の一層溶接を前記第2開先部に対して施し、第2溶接部を形成する工程とを含
み、前記第1溶接部、前記第2溶接部、および前記第3溶接部は、サブマージアーク溶接によって形成される、ことを特徴とする。
【0012】
ここで、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、前記接合部は、ルートフェイスが2〜15mmであるのがよい。好ましくは、ルートフェイスが3mm以上、12mm以下であるのがよい。ルートフェイスが2mm未満であると、溶け落ちが発生することがあり、ルートフェイスが15mmを超えると溶け込み不足となることがある。溶け落ち防止の観点から、好ましくは、ルートフェイスが3mm以上、溶け込み不足防止の観点から、好ましくはルートフェイスが12mm以下であるのがよい。
【0013】
また、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、前記第1溶接部を形成する工程は、前記低入熱が15〜50kJ/cmであり、前記第2溶接部を形成する工程は、前記高入熱が55〜175kJ/cmであり、前記第3溶接部を形成する工程は、入熱が30〜175kJ/cmであるのがよい。好ましくは、前記低入熱が20kJ/cm以上、45kJ/cm以下であり、前記第2溶接部を形成する工程は、前記高入熱が60kJ/cm以上、160kJ/cm以下であり、前記第3溶接部を形成する工程は、入熱が45kJ/cm以上、160kJ/cm以下であるのがよい。
【0014】
すなわち、前記低入熱は15kJ/cm未満であると、溶接金属量が少なく効率が悪い。また、前記低入熱が50kJ/cmを超えると、高温割れや溶け落ちが発生することがある。その為、溶接を効率よく行うという観点から、好ましくは前記低入熱が20kJ/cm以上、高温割れ防止及び溶け落ち防止の観点から、好ましくは前記低入熱が45kJ/cm以下であるのがよい。
また、前記高入熱は、55kJ/cm未満であると、溶け込み不足となることがある。また、前記高入熱が175kJ/cmを超えると、溶け落ちが発生することがある。その為、溶け込み不足防止の観点から、好ましくは前記高入熱が60kJ/cm以上、溶け落ち防止の観点から、好ましくは前記高入熱が160kJ/cm以下であるのがよい。
また、前記入熱は、30kJ/cm未満であると、効率が悪い。また、前記入熱が、175kJ/cmを超えると、1パスごとの厚さが厚くなり、低温割れが発生することがある。その為、溶接を効率よく行うという観点から、好ましくは入熱が45kJ/cm以上、低温割れ防止の観点から、好ましくは入熱が160kJ/cm以下であるのがよい。
【0015】
係る構成によれば、サブマージアーク溶接方法は、第2開先部に対して、溶接金属が鋼板の表面を超えるまで高入熱の一層溶接を施す。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接方法によれば、溶接金属の幅を大きくすることが可能であり、高温割れを極めて低減することができる。
また、サブマージアーク溶接方法は、第1開先部に対して多層溶接を施す。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接方法によれば、各層の厚さを調整することが可能であり、低温割れを極めて低減することができる。
【0016】
また、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、前記第1開先部において、前記第3溶接部の一部を前記第2溶接部よりも先に形成することを特徴とする。ここで、前記第1溶接部と前記第3溶接部の一部を合わせた高さが4〜30mmであるのがよい。
【0017】
係る構成によれば、サブマージアーク溶接方法は、第2溶接部を形成する工程の前に第3溶接部の一部を形成する。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接方法によれば、第2溶接部を形成する工程において、溶け落ちが発生することを回避することができる。
【0018】
また、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、前記接合部が、前記第1開先部が管状に成形された前記鋼板の外面に形成され、前記第2開先部が当該鋼板の内面に形成されることを特徴とする。
【0019】
係る構成によれば、サブマージアーク溶接方法は、外面に形成される第1開先部に対して多層溶接を施し、内面に形成される第2開先部に対して1パス1層溶接を施す。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接方法によれば、溶接作業が難しい内面を1パスで行い、溶接作業が比較的やさしい外面を多パスで行うので、溶接作業が容易である。
【0020】
また、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、前記第2溶接部が、前記第1溶接部の少なくとも一部に溶け込むように施されることを特徴とする。
【0021】
係る構成によれば、サブマージアーク溶接方法は、第2溶接部が、前記第1溶接部の少なくとも一部に溶け込むようにする。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接方法によれば、第2溶接部を形成する工程において溶け込み不足が発生することがないので、第2溶接部を形成する工程の前段階としてガウジングを行う必要がない。
【0022】
また、本発明に係る鋼管を製造する方法は、前記記載のサブマージアーク溶接方法の何れか一つを用いることを特徴とする。
【0023】
係る構成によれば、鋼管を製造する方法は、鋼板を溶接する工程に本発明に係るサブマージアーク溶接方法を用いる。したがって、本発明に係る鋼管を製造する方法によれば、鋼板を溶接する工程において、高温割れや低温割れを極めて低減できる。
【0024】
また、本発明に係る溶接継手は、開先形状の接合部が形成され、サブマージアーク溶接方法を用いて前記接合部を両面溶接された溶接継手であって、鋼板の板厚が40mmを超え、前記接合部が、一面側の第1開先部内の断面積を他面側の第2開先部内の断面積よりも大きく、前記第1開先部内の溶接金属が複層をなすと共に前記第2開先部内の溶接金属が単層をなし、
前記第1開先部内の溶接金属、および前記第2開先部内の溶接金属は、サブマージアーク溶接によって形成され、前記第2開先部内の溶接金属が前記鋼板の表面を超えていることを特徴とする。
【0025】
係る構成によれば、本発明に係る溶接継手は、第2開先部内の溶接金属が鋼板の表面を超えている。したがって、本発明に係る溶接継手によれば、製造工程において溶接金属の幅を大きくすることが可能であり、高温割れを極めて低減することができる。
また、この溶接継手は、第1開先部内の溶接金属が複層構造をなす。したがって、本発明に係る溶接継手によれば、製造工程において各層の厚さを調整することが可能であり、低温割れを極めて低減することができる。
【0026】
また、本発明に係る溶接継手は、前記第2開先部内の溶接金属が、前記第1開先部内の溶接金属の少なくとも一部に溶け込んでいることを特徴とする。
【0027】
係る構成によれば、本発明に係る溶接継手は、第2開先部内の溶接金属が、第1開先部内の溶接金属の少なくとも一部に溶け込んでいる。したがって、本発明に係る溶接継手によれば、製造工程において溶け込み不足が発生することがないので、第2開先部に対して溶接を行う前段階としてガウジングを行う必要がない。
【0028】
また、本発明に係る鋼管は、前記記載の溶接継手を有することを特徴とする。
【0029】
係る構成によれば、本発明に係る鋼管は、鋼板を接合する部分に本発明に係る溶接継手を用いる。したがって、本発明に係る鋼管によれば、溶接継手において、高温割れや低温割れを極めて低減できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るサブマージアーク溶接方法及び当該サブマージアーク溶接方法を用いる鋼管を製造する方法は、従来の多層溶接方法に比べてガウジング工程が不要であり、パス数が少なくても高温割れや低温割れを極めて低減できる。また、本発明に係る溶接継手、及び当該溶接継手を有する鋼管は、従来の鋼管に比べてガウジング工程が不要であり、パス数が少なくても高温割れや低温割れを極めて低減できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係るサブマージアーク溶接方法を実現するための溶接機構の構成例を示す外観斜視図である。
【
図2】本発明に係るサブマージアーク溶接方法により溶接する接合部を説明するための図である。
【
図3】本発明に係るサブマージアーク溶接方法を説明するための図である。
【
図4】実施例1に係る溶接方法を説明するための図であり、(a)は第1溶接部を形成する工程であり、(b)は第3溶接部の一部を形成する工程であり、(c)は第2溶接部を形成する工程であり、(d)は第3溶接部の残りの部分を形成する工程である。
【
図5】実施例2に係る溶接方法を説明するための図であり、(a)は第1溶接部を形成する工程であり、(b)は第3溶接部を形成する工程であり、(c)は第2溶接部を形成する工程である。
【
図6A】実施例1及び実施例2に係る溶接方法における溶接例を示す図である。
【
図6B】本発明に係るサブマージアーク溶接方法の比較例を示す図である。
【
図7】実施例における開先形状を説明するための図である。
【
図8】実施例における電極の配置を説明するための図である。
【
図10】従来例としてサブマージアーク溶接法を用いて板厚が40mmを超える鋼板の接合部を溶接する多層溶接方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施形態]
以下、本発明の実施するための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、参照する図面において、本発明を構成する部材の寸法は、説明を明確にするために誇張して表現されている場合がある。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0033】
≪本発明に係るサブマージアーク溶接方法を実現するための溶接機構の構成例≫
図1に示す溶接機構1は、本発明に係るサブマージアーク溶接方法(以下、省略して「本溶接方法」と呼ぶ場合がある)を実現するための溶接機構の構成例である。すなわち、溶接機構1はあくまで例示であり、後記する本溶接方法は、この溶接機構1で実現される溶接操作に限定されるものではない。本溶接方法は、一般的な溶接機構により実現可能である。
【0034】
溶接機構1は、管状に成形された鋼板80を後記するサブマージアーク溶接方法を用いて自動溶接する。溶接機構1は、鋼板80の外面側又は内面側を溶接する2つの溶接機10を備える。各々の溶接機10は、複数(
図1では2つ)のトーチ(ノズル)12と、フラックス放出部13とを備えて構成される。各々のトーチ12は、内部をワイヤが挿通する電極12aを備える。以下では、溶接方向に対して先行している電極12aをL極と呼び、溶接方向に対して後行している電極12aをT極と呼ぶ。ここで、電極12aの極性は、特に限定されない。例えば、電極12aの極性は、交流同士の組み合わせや、直流及び交流の組み合わせ等であってよい。また、交流同士の組み合わせの場合、電極12a間の結線方法についても特に限定されない。例えば、結線方法は、逆V結線、V結線、スコット結線等であってよい。好ましくは、溶け込みが深くなるので、逆V結線を用いた交流同士の組み合わせや、直流及び交流の組み合わせがよい。なお、溶接機構1は、各々の溶接機10により下向きで鋼板80を溶接できるように、鋼板80を適宜回転させる。
【0035】
鋼板80は、開先加工が形成されて突き合わされた両辺が接合する接合部81を有する。接合部81は、本発明に係るサブマージアーク溶接方法により溶接される部分である。鋼板80の種類は、特に限定されない。例えば、鋼板80は、軟鋼、高張力鋼、低温用鋼等であってよい。
図2を参照し、鋼板80及び接合部81の形状及び寸法について説明する。
【0036】
図2に示すように、鋼板80は、円筒形状をなす。以下では、鋼板80の厚さを「t」で表す。本実施形態に係る鋼板80は、厚さtが40mmよりも大きい(t>40mm)場合を想定している。接合部81は、側面視でX開先形状をなし、平面視で曲げられた鋼板80の軸心方向と平行に形成される。平面視で接合部81が形成される方向(軸心方向)を溶接方向と呼ぶ場合がある。
【0037】
接合部81は、外面側開先部82(第1開先部)と、内面側開先部83(第2開先部)と、ルートフェイス(ルート面)84とを備えて構成される。外面側開先部82は、側面視でV字形状をなし、開先深さを「d1(mm)」、開先角度を「θ1(°)」で表す。内面側開先部83は、側面視でV字形状をなし、開先深さを「d2(mm)」、開先角度を「θ2(°)」で表す。また、ルートフェイス84の径方向の距離を「r」で表す。
【0038】
本実施形態に係る鋼板80の接合部81は、外面側開先部82内の断面積が内面側開先部83内の断面積よりも大きく形成される。また、接合部81は、厚さtが50mmや60mmになった場合でも、開先深さd2の寸法を例えば0〜20(mm)の範囲内で固定し、開先深さd1の寸法のみを大きくする。これにより、詳細は後記説明するが、内面側開先部83を1パス1層溶接で行うことが可能である。好ましくは、開先深さd2が2mm以上、18mm以下であるのがよい。なお、ルートフェイス84は、距離rが2〜15(mm)の範囲で設計するのがよい。ルートフェイス84は、好ましくは3mm以上、12mm以下であるのがよい。
【0039】
≪本発明に係るサブマージアーク溶接方法≫
図3を参照して、本発明に係るサブマージアーク溶接方法の概要について説明する。本溶接方法では、接合部81に第1溶接部91、第2溶接部92、第3溶接部93の3つの溶接部を形成する。ここで、第1溶接部91及び第3溶接部93は、主に溶接による溶接金属で構成される。第2溶接部92は、主に溶接による溶接金属とこの溶接による熱影響を受けた母材(鋼板80)の部分とで構成される。
【0040】
本溶接方法は、1パス1層の低入熱により外面側開先部82内に第1溶接部91を形成する。また、本溶接方法は、内面側開先部83内の溶接金属が鋼板80の表面を超えるまで、高入熱の一層溶接を内面側開先部83に対して施す。これにより、本溶接方法は、第2溶接部92を内面側開先部83に形成する。また、本溶接方法は、多層溶接を外面側開先部82に施し、第1溶接部91の上部に第3溶接部93を形成する。
【0041】
ここで、本溶接方法は、第1溶接部91、第2溶接部92、第3溶接部93を形成する順番として、「第1溶接部91の形成→第2溶接部92の形成→第3溶接部93の形成」と「第1溶接部91の形成→第3溶接部93の形成→第2溶接部92の形成」との2通りがある。以下では、前者の順番による溶接方法を実施例1として説明し、後者の順番による溶接方法を実施例2として説明する。
【実施例1】
【0042】
以下では、
図4(適宜、
図1〜3参照)を参照して、実施例1に係る「第1溶接部91の形成→第2溶接部92の形成→第3溶接部93の形成」の順番での溶接方法について説明する。なお、この溶接方法では、第2溶接部92を形成する工程において、溶接金属の溶け落ちを防止するために、第2溶接部92の形成に先行して第3溶接部93の一部を形成する。
【0043】
<第1溶接部を形成する工程>
最初に、本溶接方法は、接合部81の外面側開先部82を1パス1層の低入熱で溶接を行う。これにより、外面側開先部82には、1層の溶接金属で構成される「第1溶接部91」が形成される(
図4(a)参照)。第1溶接部91を形成する工程は、例えば、外面側の溶接機10のL極(先行極)によって行うのがよい。ただし、第1溶接部91を形成する工程は、T極(後行極)を用いてもよく、L極に限定されるものではない。
【0044】
<第3溶接部の一部を形成する工程>
続いて、本溶接方法は、第1溶接部を形成する工程とは溶接条件を変更して、接合部81の外面側開先部82に第3溶接部93の一部を形成する。この溶接操作は、外面側開先部82内の溶接金属が4〜30mmの高さになるまで、複数パスに分けて行われる。これにより、外面側開先部82内の第1溶接部91の上部には、4〜30mmの高さまで「第3溶接部93の一部」が形成される(
図4(b)参照)。第3溶接部93の一部を形成する工程は、例えば、外面側の溶接機10のL極(先行極)及びT極(後行極)によって行うのがよい。ただし、第3溶接部93の一部を形成する工程は、L極及びT極の何れか一方のみを用いてもよく、L極及びT極のタンデム溶接に限定されるものではない。
【0045】
<第2溶接部を形成する工程>
続いて、本溶接方法は、接合部81の内面側開先部83を1パス1層の高入熱で溶接を行う。ここで、内面側開先部83の開先深さd2(
図2参照)は、1回の溶接操作で内面側開先部83が溶接金属によって満たされる寸法に設計してある。その為、本溶接方法では、1回の溶接操作を行うことにより、内面側開先部83に余盛が出る(内面側開先部83内の溶接金属が鋼板80の表面を超える)。また、第1溶接部91は、この溶接の熱影響により一部が溶け込む。このようにして、内面側開先部83には、1層の溶接金属とこの溶接による熱影響を受けた部分とで構成される「第2溶接部92」が形成される(
図4(c)参照)。第2溶接部92を形成する工程は、例えば、内面側開先部83が溶接位置になるように鋼板80を適宜回転させた後に、内面側の溶接機10のL極(先行極)及びT極(後行極)によって行うのがよい。ただし、第2溶接部92を形成する工程は、L極及びT極の何れか一方のみを用いてもよく、L極及びT極のタンデム溶接に限定されるものではない。
【0046】
<第3溶接部の残りの部分を形成する工程>
続いて、本溶接方法は、接合部81の外面側開先部82の溶接を行う。この溶接操作は、外面側開先部82に余盛が出るまで(外面側開先部82内の溶接金属が鋼板80の表面を超えるまで)、複数パスに分けて行われる。これにより、外面側開先部82には、複数層の溶接金属で構成される「第3溶接部93」が形成される(
図4(d)参照)。第3溶接部93の残りの部分を形成する工程は、例えば、外面側開先部82が溶接位置になるように鋼板80を適宜回転させた後に、外面側の溶接機10のL極(先行極)及びT極(後行極)を用いて第3溶接部93の一部を形成する工程と同様の溶接条件で行うのがよい。ただし、第3溶接部93の残りの部分を形成する工程は、L極及びT極の何れか一方のみを用いてもよく、L極及びT極のタンデム溶接に限定されるものではない。
【0047】
実施例1に係る溶接方法における溶接例を
図6Aに示す。記号欄の内容は、溶接方法を識別するための情報である。
図6Aでは、「T1」,「T2」・・・「T6」が示されている。実施例1に係る溶接方法は、この内「T1」〜「T5」が該当する。開先形状欄の内容は、接合部81に形成される開先の形状を識別するための情報である。
図6Aでは、「G1」〜「G3」が示されている。開先形状G1〜G3は、
図7(a)〜(c)に対応している。パス欄の内容は、溶接操作を識別するための情報である。サイド欄の内容は、溶接を行う開先を識別するための情報である。
図6Aでは、「外面」、「内面」が示されている。
【0048】
溶接条件欄の内容は、パス欄に対応した溶接を行う条件を示す情報である。溶接条件欄は、L極電流欄、L極電圧欄、T極電流欄、T極電圧欄、速度欄、入熱欄で構成される。L極電流欄の内容は、先行極の電流を示す。L極電圧欄の内容は、先行極の電圧を示す。T極電流欄の内容は、後行極の電流を示す。T極電圧欄の内容は、後行極の電圧を示す。速度欄の内容は、溶接速度を示す。入熱は、溶接部に与えられる熱量を示す。L極及びT極の配置を
図8に示す。ここで、
図6Aに示す溶接例では、フラックスとして「JIS Z 3352」に規定される「SACG1」を使用した。また、ワイヤとして「JIS Z 3351」に規定される「YS−S6」を使用した。
【0049】
高温割れ欄の内容は、溶接金属で高温割れが発生したか否かを示す情報である。
低温割れ欄の内容は、溶接金属で低温割れが発生したか否かを示す情報である。
溶け落ち欄の内容は、溶け落ちが発生したか否かを示す情報である。
溶け残し欄の内容は、溶け残しが発生したか否かを示す情報である。
高温割れ、低温割れの確認は、「JIS Z 3060」に規定される鋼溶接部の超音波探傷試験方法に則って実施した。溶け残しは、断面マクロ組織試験片の目視により判断した。
【0050】
記号「T1」における溶接方法のパス「1」〜「2」が第1溶接部91を形成する工程における溶接操作を示し、パス「3」が第3溶接部93の一部を形成する工程における溶接操作を示し、パス「4」が第2溶接部92を形成する工程における溶接操作を示し、パス「5」〜「12」が残りの第3溶接部93を形成する工程における溶接操作を示す。この溶接方法で実際に溶接を行った結果、高温割れ、低温割れ、溶け落ち、及び溶け残しの何れもが発生しなかった。
【0051】
また、記号「T2」における溶接方法のパス「1」〜「2」が第1溶接部91を形成する工程における溶接操作を示し、パス「3」が第3溶接部93の一部を形成する工程における溶接操作を示し、パス「4」が第2溶接部92を形成する工程における溶接操作を示し、パス「5」〜「14」が残りの第3溶接部93を形成する工程における溶接操作を示す。この溶接方法で実際に溶接を行った結果、高温割れ、低温割れ、溶け落ち、及び溶け残しの何れもが発生しなかった。
【0052】
また、記号「T3」における溶接方法のパス「1」〜「2」が第1溶接部91を形成する工程における溶接操作を示し、パス「3」が第3溶接部93の一部を形成する工程における溶接操作を示し、パス「4」が第2溶接部92を形成する工程における溶接操作を示し、パス「5」〜「10」が残りの第3溶接部93を形成する工程における溶接操作を示す。この溶接方法で実際に溶接を行った結果、高温割れ、低温割れ、溶け落ち、及び溶け残しの何れもが発生しなかった。
【0053】
また、記号「T4」における溶接方法のパス「1」〜「2」が第1溶接部91を形成する工程における溶接操作を示し、パス「3」〜「6」が第3溶接部93の一部を形成する工程における溶接操作を示し、パス「7」が第2溶接部92を形成する工程における溶接操作を示し、パス「8」〜「12」が残りの第3溶接部93を形成する工程における溶接操作を示す。この溶接方法で実際に溶接を行った結果、高温割れ、低温割れ、溶け落ち、及び溶け残しの何れもが発生しなかった。
【0054】
また、記号「T5」における溶接方法のパス「1」が第1溶接部91を形成する工程における溶接操作を示し、パス「2」が第3溶接部93の一部を形成する工程における溶接操作を示し、パス「3」が第2溶接部92を形成する工程における溶接操作を示し、パス「4」〜「9」が残りの第3溶接部93を形成する工程における溶接操作を示す。この溶接方法で実際に溶接を行った結果、高温割れ、低温割れ、溶け落ち、及び溶け残しの何れもが発生しなかった。
【実施例2】
【0055】
以下では、
図5(適宜、
図1〜3参照)を参照して、実施例2に係る「第1溶接部91の形成→第3溶接部93の形成→第2溶接部92の形成」の順番での溶接方法について説明する。
【0056】
<第1溶接部を形成する工程>
最初に、本溶接方法は、接合部81の外面側開先部82を1パス1層の低入熱で溶接を行う。これにより、外面側開先部82には、1層の溶接金属で構成される「第1溶接部91」が形成される(
図5(a)参照)。第1溶接部91を形成する工程は、例えば、外面側の溶接機10のL極(先行極)によって行うのがよい。ただし、第1溶接部91を形成する工程は、T極(後行極)を用いてもよく、L極に限定されるものではない。
【0057】
<第3溶接部を形成する工程>
続いて、本溶接方法は、第1溶接部を形成する工程とは溶接条件を変更して、外面側開先部82の第1溶接部93の上部に第3溶接部93を形成する。この溶接操作は、外面側開先部82に余盛が出るまで(外面側開先部82内の溶接金属が鋼板80の表面を超えるまで)、複数パスに分けて行われる。これにより、外面側開先部82には、複数層の溶接金属で構成される「第3溶接部93」が形成される(
図5(b)参照)。第3溶接部93を形成する工程は、例えば、外面側の溶接機10のL極(先行極)及びT極(後行極)によって行うのがよい。ただし、第3溶接部93を形成する工程は、L極及びT極の何れか一方のみを用いてもよく、L極及びT極のタンデム溶接に限定されるものではない。
【0058】
<第2溶接部を形成する工程>
続いて、本溶接方法は、接合部81の内面側開先部83を1パス1層の高入熱で溶接を行う。ここで、内面側開先部83の開先深さd2(
図2参照)は、1回の溶接操作で内面側開先部83が溶接金属によって満たされる寸法に設計してある。その為、本溶接方法では、1回の溶接操作を行うことにより、内面側開先部83に余盛が出る(内面側開先部83内の溶接金属が鋼板80の表面を超える)。また、第1溶接部91は、この溶接の熱影響により一部が溶け込む。このようにして、内面側開先部83には、1層の溶接金属とこの溶接による熱影響を受けた部分とで構成される「第2溶接部92」が形成される(
図5(c)参照)。第2溶接部92を形成する工程は、例えば、内面側開先部83が溶接位置になるように鋼板80を適宜回転させた後に、内面側の溶接機10のL極(先行極)及びT極(後行極)によって行うのがよい。ただし、第2溶接部92を形成する工程は、L極及びT極の何れか一方のみを用いてもよく、L極及びT極のタンデム溶接に限定されるものではない。
【0059】
実施例2に係る溶接方法における溶接例を
図6A(記号「T6」)に示す。
記号「T6」における溶接方法のパス「1」〜「2」が第1溶接部91を形成する工程における溶接操作を示し、パス「3」〜「11」が第3溶接部93を形成する工程における溶接操作を示し、パス「12」が第2溶接部92を形成する工程における溶接操作を示す。この溶接方法で実際に溶接を行った結果、高温割れ、低温割れ、溶け落ち、及び溶け残しの何れもが発生しなかった。
【0060】
記号「T7」における溶接方法のパス「1」が第1溶接部91を形成する工程における溶接操作を示し、パス「2」〜「8」が第3溶接部93を形成する工程における溶接操作を示し、パス「9」が第2溶接部92を形成する工程における溶接操作を示す。この溶接方法で実際に溶接を行った結果、高温割れ、低温割れ、溶け落ち、及び溶け残しの何れもが発生しなかった。
【0061】
以上のように、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、内面側開先部83(第2開先部)に対して、内面側開先部83に余盛が出るまで(溶接金属が鋼板80の表面を超えるまで)高入熱の一層溶接を施す。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接方法によれば、第2溶接部92の幅を大きくすることが可能であり、溶接金属に高温割れが発生するのを極めて低減することができる。
また、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、外面側開先部82(第1開先部)に対して多層溶接を施す。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接方法によれば、第3溶接部93の各層の厚さを調整することが可能であり、溶接金属に低温割れが発生するのを極めて低減することができる。
【0062】
[比較例]
本発明の実施例に係る溶接方法の比較例を
図6Bに示す。
記号「T8」における溶接方法の開先形状G4は、
図7(d)に対応している。この比較例に係る溶接方法は、本溶接方法のように、内面側開先部83を1パス1層で溶接を行わないので、高温割れが発生する。記号「T9」〜「T12」における溶接方法は、開先形状G1が実施例1の記号「T1」における溶接方法(
図6A参照)と同様である。これらの比較例に係る溶接方法は、本溶接方法の溶接条件を設定する際の参考となる。
【0063】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲で実施することができる。実施形態の変形例を以下に示す。
【0064】
実施形態では鋼板80として円筒形状のものを想定していたが、鋼板80の形状は円筒形状に限られない。
図9(a)に示すように、側面視が多角形状(
図9(a)では四角形を例示)の鋼板380であってもよい。また、
図9(b)、(c)に示すように、複数の接合部81が形成された鋼板480、580を円筒形状や角筒形状に曲げたものであってもよい。
【0065】
また、実施形態に係る接合部81は、X開先形状を想定していたが、これに限定されるものではない。接合部81の形状は、例えば、Y開先形状、V開先形状、H開先形状等であってもよい。また、実施形態では、接合部81は、外面側開先部82内の断面積が内面側開先部83内の断面積よりも大きく形成されていたが、逆に内面側開先部83内の断面積が外面側開先部82内の断面積よりも大きく形成されてもよい。その場合、内面側開先部83に第1溶接部91及び第3溶接部93が形成され、外面側開先部82に第2溶接部92が形成される。
【符号の説明】
【0066】
1 溶接機構
10 溶接機
12a 電極
80,380,480,580 鋼板
81 接合部
82 外面側開先部(第1開先部)
83 内面側開先部(第2開先部)
84 ルートフェイス
91 第1溶接部
92 第2溶接部
93 第3溶接部