(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等からなる樹脂製部材は、その表面近傍でレーザ光の大部分を吸収する。この場合、レーザ光は該樹脂製部材を透過することができない。すなわち、この樹脂製部材はレーザ光不透過性である。
【0007】
このようなレーザ光不透過性樹脂製部材同士を、上記特許文献1、2に記載される接合方法によって溶着することはできない。レーザ光を樹脂製部材に入射しても、その表面近傍で大部分が吸収されるために当接面までレーザ光が到達することができないからである。
【0008】
このため、レーザ光不透過性樹脂製部材同士を接合するに際しては、ボルト・ナットやリベット(いわゆる金属製ファスナー)による機械接合が行われている。しかしながら、この場合、穿孔作業や締結作業が必要であるので、作業コストが高騰する。また、金属製ファスナーを取り付けるので、重量増加を招く。さらに、炭素繊維と金属製ファスナーとの組み合わせによっては、異種材料の接触によって電蝕が生じる懸念がある。また、熱膨張率が相違することの対策を講じる必要があることもある。
【0009】
以上のような不具合を回避するべく、レーザ光不透過性樹脂製部材同士であっても、レーザ光を用いた溶着によって接合することが要請されている。しかしながら、そのような溶着方法は未だ確立されていない。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、レーザ光不透過性の樹脂製部材同士を、レーザ光を用いて十分に溶着することが可能な樹脂製部材の溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、2個のレーザ光不透過性の樹脂製部材の少なくとも一部同士を、レーザ光を吸収して温度上昇し溶融する光吸収材を介装して重ね合わせることで重畳部を形成し、
前記光吸収材に対してレーザ光を直接照射することで、該光吸収材の温度を上昇させて溶融するとともに、溶融した該光吸収材の熱を、前記2個の樹脂製部材の前記重畳部を形成した部位に伝達させて、該部位を溶融することを特徴とする。
【0012】
すなわち、本発明においては、レーザ光不透過性の樹脂製部材同士の間に介装された光吸収材に対して直接レーザ光を照射することで、先ず、光吸収材を温度上昇させるとともに溶融する。この溶融した光吸収材の熱によって、該光吸収材と重ね合わされた樹脂製部材の双方を溶融して混じり合わせることができる。従って、レーザ光の照射を停止した後、光吸収材及び樹脂製部材を冷却固化させることで、重畳部を一体的に溶着することができる。換言すれば、一体化された接合部が得られる。すなわち、レーザ光不透過性の樹脂製部材同士であっても、レーザ光を用いて十分に溶着することができる。
【0013】
光吸収材へのレーザ光照射は、該光吸収材を冷却ガスで冷却しつつ行
う。この場合、光吸収材の表面が過度に発熱することが回避されるとともに、一部透過したレーザ光を深部まで到達させて、良好に吸収することができる。すなわち、光吸収材におけるレーザ光による発熱を深さ方向で均一化できる。従って、光吸収材全体の温度を効果的に上昇させることができるため、樹脂製部材同士をより効率的且つ広範囲に溶着することが可能となる。従って、接合強度が一層優れたものとなる。
【0014】
冷却ガスを供給する場合、該冷却ガスを、光吸収材のレーザ光が照射される照射面の面方向に沿って流通させ
る。これにより、上記した透過吸収特性が一層向上し、樹脂製部材同士の接合がより効率的且つ良好となるからである。
【0015】
レーザ光の照射角度は、重畳部における樹脂製部材及び光吸収材の接触面の面方向に対して0°〜45°に設定することが好ましい。ここで、照射角度とは、前記接触面の面方向と、レーザ光の軸心方向とがなす角度をいう。この範囲内であれば、光吸収材の照射面裏面までレーザ光を到達させることが可能となる。すなわち、光吸収材の温度を効果的に上昇させて、樹脂製部材同士を良好に溶着することができる。さらに、上記の通りレーザ光の照射角度を0°〜45°にすることにより、レーザ光透過経路が長くなるので、一層効率良く光吸収材を温度上昇させて、該光吸収材を迅速に、しかも強力に溶融することができる。
【0016】
前記重畳部が前記樹脂製部材の一端部同士が重ね合わされて形成され、一方の前記樹脂製部材の他端部が、前記光吸収材の前記照射面よりも前記レーザ光の照射源側に延在するときには、前記レーザ光の焦点位置を、前記光吸収材の厚み方向の中心よりも前記一方の樹脂製部材側に偏倚して形成す
る。
【0017】
この場合、レーザ光の焦点位置を光吸収材の厚み方向の中心上に形成する場合に比して、照射面からレーザ光の焦点までの距離を大きくすることができる。これによって、レーザ光照射による光吸収材の溶融範囲を照射面裏面側に向かって広げることができる。従って、上記のように形成される重畳部であっても、樹脂製部材の他端部がレーザ光に干渉することを回避しつつ、光吸収材の照射面裏面側まで効率的且つ良好に溶融することできる。
【0018】
レーザ光の焦点位置が、一方の樹脂製部材と光吸収材との接触面上に形成される場合、照射面からレーザ光の焦点までの距離を一層大きくすることができるためより好ましい。
【0019】
光吸収材の光吸収率は、3%以上30%以下であることが好ましい。光吸収材の光吸収率を3%以上とすることによって、レーザ光が過度に透過することを抑制して、光吸収材に良好にレーザ光を吸収させることができる。また、光吸収材の光吸収率を30%以下とすることによって、レーザ光が過度に吸収されることを抑制して、光吸収材の照射面裏面までレーザ光を良好に到達させることができる。すなわち、このような光吸収材では、透過吸収特性の均衡が優れるため、レーザ光を吸収する一方で、吸収されずに透過した分のレーザ光が該光吸収材の内部深く(深部)まで到達する。これによって、光吸収材の全体にわたって効率よく温度を上昇させることができるため、樹脂製部材同士を広範囲にわたって溶着することが可能となる。
【0020】
レーザ光不透過性の樹脂製部材の一例としては、光吸収性の繊維を含んだ熱可塑性樹脂が挙げられる。すなわち、炭素繊維強化熱可塑性樹脂である。
【0021】
この場合、光吸収材として、樹脂製部材の母材である熱可塑性樹脂と同一の熱可塑性樹脂からなるものを選定することが好ましい。すなわち、樹脂製部材の母材と同一の熱可塑性樹脂によって光吸収材を構成する。この場合、光吸収材にレーザ光を照射して該光吸収材及び樹脂製部材を溶融したときに、溶融した熱可塑性樹脂同士が容易に混じり合う。従って、重畳部を接合一体化することが容易となり、接合強度に優れた接合部を得ることができる。
【0022】
さらに、光吸収材と樹脂製部材の母材の溶融温度が同一となるため、光吸収材に対するレーザ光の照射条件を、光吸収材及び樹脂製部材の両者が過不足なく加熱されてそれぞれ良好に溶融する温度となるように設定することが容易となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レーザ光不透過性の樹脂製部材同士の間に介装した光吸収材に直接レーザ光を照射して光吸収材の温度を上昇させることで、樹脂製部材における重畳部を形成した部位に熱を伝達させ、該部位を溶融するようにしている。このようにして溶融した重畳部が冷却固化することに伴い、重畳部が溶着されて接合一体化する。すなわち、レーザ光不透過性の樹脂製部材同士であっても、レーザ光を用いて容易且つ十分に溶着することが可能となる。このために、溶着部の引張強度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る樹脂製部材の溶着方法につき好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る樹脂製部材の溶着方法を実施するためのレーザ溶着装置の要部概略構成図である。このレーザ溶着装置は、レーザ光不透過性の樹脂製部材10、11同士の間に光吸収材12が介装されて形成された重畳部14を溶着するためのものであり、レーザ光照射部16と、送風ノズル18を含む送風手段とを有する。
【0027】
樹脂製部材10、11につき、先ず概略説明する。これら樹脂製部材10、11は、例えば、炭素繊維からなる強化材に熱可塑性樹脂からなる母材(マトリックス)が含浸された炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)からなる。この場合、炭素繊維がレーザ光を十二分に吸収するため、すなわち、光吸収性が著しく大きな繊維であるため、樹脂製部材10、11は、レーザ光に対して不透過性を示す。
【0028】
なお、樹脂製部材10、11の母材である熱可塑性樹脂の好適な例としては、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチロール樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アセタール樹脂等が挙げられる。樹脂製部材10の母材と樹脂製部材11の母材は、同一のものであってもよいし、相違するものであってもよい。
【0029】
樹脂製部材10、11同士の間に介装される光吸収材12は、レーザ光Lの一部を透過するとともに、一部を吸収して温度上昇する光吸収材からなる。光吸収材12の光吸収率は、3%以上30%以下であることが好ましい。この場合、レーザ光Lが光吸収材12に十分に吸収される一方で、吸収されずに透過した分が該光吸収材12の内部深くまで到達する。従って、該光吸収材12が全体にわたって効率よく温度上昇する。
【0030】
光吸収材12は、以上のような機能を営むものであれば特に限定されるものではないが、その好適な例としては、樹脂製部材10、11の母材である上記各種の熱可塑性樹脂が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチロール樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アセタール樹脂等である。特に、樹脂製部材10、11の母材と光吸収材12の全てを同一の熱可塑性樹脂とすることが好ましい。この場合、レーザ光Lを照射する際の温度管理が容易となり、且つ前記母材と光吸収材12の相溶性も良いからである。さらには、溶着後の重畳部14の一体性を高めることができ、溶着強度を高めることが可能となるからである。
【0031】
光吸収材12は、上記したように樹脂製部材10、11同士の間に介装される。このため、光吸収材12の
図1における下端面12a及び上端面12bが樹脂製部材10、11に当接する。すなわち、下端面12a及び上端面12bは接触面である。
【0032】
その一方で、側面が露呈する。以下、露呈した側面中のレーザ光照射部16に臨む側面を照射面、該照射面の裏面となる側面を照射裏面と指称し、各々の参照符号を12c、12dとする。
【0033】
レーザ光照射部16は、光吸収材12中、樹脂製部材10、11と接触しておらず露呈した前記照射面12cに対してレーザ光Lを照射する。なお、照射面12cの反射率を5%以上25%以下とすることによって、レーザ光Lが反射することを適切に防止できる。
【0034】
レーザ光照射部16は、例えば、ダイオード、イットリア−アルミナガーネット(YAG)等からなるが、レーザ光Lを発生するものであれば特に限定されるものではない。
【0035】
送風ノズル18は、光吸収材12に向かって、冷却ガスとしての圧縮気体を吐出するためのものである。勿論、送風ノズル18には、図示しない圧縮気体供給源が接続される。なお、冷却ガスとしては、安価であることから、空気や窒素等が好適である。
【0036】
この場合、冷却ガスは、レーザ光Lが照射面12cに照射される際、該照射面12cに対して冷却ガスを供給する。
【0037】
本実施形態に係る溶着方法は、基本的には上記のように構成されるレーザ溶着装置を用い、以下のようにして実施される。
【0038】
はじめに、
図1に示すように、樹脂製部材10、11の互いに溶着する部分同士を、光吸収材12を介装して重ね合わせることで重畳部14を形成する。
【0039】
次いで、送風ノズル18から冷却ガスを吐出するとともに、レーザ光照射部16からレーザ光Lを照射する。冷却ガスが光吸収材12の照射面12cの面方向(矢印B方向)に沿って流通する一方で、レーザ光Lは、照射面12cから光吸収材12の内部に入射する。
【0040】
光吸収材12に入射したレーザ光Lは、その一部が該光吸収材12に吸収されながら、残部が透過して照射裏面12dに向かって水平方向(
図1の矢印A方向)に進行する。この吸収・透過現象は、光吸収材12の光吸収率が3%以上30%以下であるときに容易に惹起される。
【0041】
一方、光吸収材12は、レーザ光Lを吸収することに伴って温度上昇を起こす。レーザ光Lが照射裏面12d、換言すれば、照射方向(
図1の矢印A方向)の深部に到達するので、光吸収材12では、照射面12c側から照射裏面12d側にかけて全体的に温度が上昇する。また、レーザ照射角度を0°〜45°にすることにより、レーザ光透過経路が長くなるので、一層効率良く光吸収材12を温度上昇させて、該光吸収材12を迅速に、しかも強力に溶融することができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、冷却ガスを供給することで照射面12cを冷却しつつレーザ光Lを照射するようにしている。この場合、光吸収材12の内部深くまで良好に温度を上昇させることができる。
【0043】
この際、光吸収材12の温度が、該光吸収材12の溶融温度及び樹脂製部材10、11に母材として含まれる熱可塑性樹脂の溶融温度以上となるように、レーザ光Lの波長、照射強度、焦点等が設定される。例えば、樹脂製部材10、11の母材及び光吸収材12がともに、ポリアミド樹脂の1種であるナイロン6(PA6)からなる場合、PA6の溶融温度が220℃〜225℃であるため、レーザ光Lによる光吸収材12の加熱温度は、好ましくは250℃〜400℃となるように設定される。
【0044】
すなわち、光吸収材12としては、その溶融温度が、樹脂製部材10、11の母材の溶融温度に比較的近い範囲内であり、且つ、樹脂製部材10、11の母材である熱可塑性樹脂の溶融温度以上である熱可塑性樹脂からなるものを選定することが好ましい。これにより、光吸収材12及び樹脂製部材10、11が熱によって分解されること(分子量が低下することや酸化すること)を回避しつつ、それぞれを良好に溶融させることができる。特に、光吸収材12が熱可塑性樹脂からなる場合には、樹脂製部材10、11の母材である熱可塑性樹脂と同一のものを選定することにより、レーザ光Lの照射条件を設定すること、すなわち、レーザ光Lを照射する際の温度管理を容易とすることができる。
【0045】
このようにして光吸収材12の温度を上昇させると、該光吸収材12が溶融する。また、光吸収材12の熱が、接触面である下端面12a、上端面12bを介して樹脂製部材10、11に伝達する。この熱伝達に伴って樹脂製部材10、11における重畳部14を形成した部位が溶融する。すなわち、重畳部14が溶融し、溶融物(例えば、熱可塑性樹脂)同士が互いに混じり合う。
【0046】
その後、レーザ光Lの照射を停止し、溶融した光吸収材12及び樹脂製部材10、11を冷却固化させる。その結果、これら光吸収材12及び樹脂製部材10、11が接合一体化し、樹脂製部材10、11同士が重畳部14において溶着される。すなわち、レーザ光Lを透過しない樹脂製部材10、11同士であっても、互いの間に介装された光吸収材12にレーザ光Lを直接照射して溶融させることによって、容易且つ良好に溶着することができる。
【0047】
なお、例えば、汎用の接着剤等を採用して樹脂製部材10、11同士を接合する場合、その接合部では、樹脂製部材10、11同士は接合一体化していない。すなわち、樹脂製部材10、11は、互いに別個の部材のままである。
【0048】
これに対し、本実施形態に係る溶着方法によって溶着された重畳部14は、光吸収材12及び樹脂製部材10、11のそれぞれを溶融した後に冷却固化することで、接合一体化されたものとなる。すなわち、樹脂製部材10、11が光吸収材12を介して一体的に連なる。このため、重畳部14が十分な接合強度を示す接合部となる。
【0049】
さらに、上記の通り、樹脂製部材10、11の母材と光吸収材12の全てを同一の熱可塑性樹脂とすることができるため、溶融した際に互いが良好に混じり合う。このため、重畳部14の接合一体化が一層顕著となる。従って、樹脂製部材10、11同士の接合強度を十分に向上させ、接合部に対する信頼性を向上させることができる。
【0050】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
例えば、上記した実施形態では、レーザ光Lを、照射面12cの面方向(矢印B方向)に対して直交する方向から入射するようにしている。すなわち、レーザ光Lの照射角度は、接触面である下端面12a、上端面12bの面方向に対して0°である。
【0052】
しかしながら、例えば、
図2に示す樹脂製部材20、22のように、照射面12cを覆い隠すような形状の突出部24、26が形成されることがある。この場合、レーザ光Lの照射角度θを0°とすることが困難となる。
【0053】
このようなときには、照射角度θを45°までの範囲内で調整すればよい。この範囲であれば、光吸収材12の照射裏面12dまでレーザ光Lを良好に進行させることができる。
【0054】
光吸収材12にレーザ光Lを照射すると、光吸収材12では、レーザ光Lの焦点近傍からが温度が上昇し始める。すなわち、レーザ光Lの焦点が光吸収材12の溶融範囲の中心となる。このため、光吸収材12中の照射面12c側から照射裏面12d側まで過不足なく加熱できる位置にレーザ光Lの焦点を形成することが好ましい。
【0055】
図3に示す樹脂製部材28、30のように、一部同士のみが重ね合わされて重畳部14が形成されることがある。具体的には、樹脂製部材28では、一端部28aが樹脂製部材30の一端部30aとともに重畳部14を形成し、且つ他端部28bが照射面12cよりもレーザ光照射部16側に延在する。この樹脂製部材28の他端部28bが、レーザ光Lに干渉すると、光吸収材12を十分に溶融させることが困難となる。従って、レーザ光Lへの干渉が回避されるように、レーザ光照射部16と樹脂製部材28の他端部28bとを互いに離間させて設ける必要がある。
【0056】
しかしながら、この場合、上記の通り樹脂製部材28の他端部28bがレーザ光照射部16側に延在している分、レーザ光照射部16と照射面12cとの離間距離が大きくなる。その結果、光吸収材12の内部に形成されるレーザ光Lの焦点位置が照射面12c側に近くなるため、該焦点と照射面12cとの距離(焦点深さD1)が小さくなる。この場合、レーザ光Lの焦点から照射裏面12d側の溶融範囲D2が照射裏面12dまで到達しなくなるため、特に光吸収材12の照射裏面12d側を良好に溶融することが困難となる。
【0057】
この不具合を回避するべく、例えば、レーザ光Lの照射強度を上昇させて、光吸収材12全体の溶融範囲D3を広げることが考えられる。しかしながら、この場合、焦点付近の温度上昇、すなわち、照射面12c側の温度上昇が過剰となり、光吸収材12を良好に溶融させることが困難となる。
【0058】
そこで、上記のような樹脂製部材28、30から形成される重畳部14を溶着する場合、
図4に示すように照射角度θ及びレーザ光Lの焦点位置をそれぞれ調整することが好ましい。
【0059】
具体的には、照射角度θを45°までの範囲内で調整する。これによって、樹脂製部材28の他端部28bがレーザ光Lに干渉することを回避しつつ、上記の通り光吸収材12の照射裏面12d側までレーザ光Lを良好に進行させることができる。
【0060】
さらに、光吸収材12の下端面12aと上端面12bの間の中心Xよりも下端面12aに近い位置にレーザ光Lの焦点を形成する。一層好ましくは、レーザ光Lの焦点を下端面12a(接触面)上に形成する。これによって、レーザ光Lの焦点位置を中心X上に形成する場合に比して、焦点深さD1を大きくすることができる。その結果、光吸収材12の溶融範囲D3を照射裏面12d側に近づけて、光吸収材12の全体を効率的且つ良好に溶融することが可能となる。
【0061】
また、上記した実施形態では、冷却ガスを、光吸収材12の照射面12cの面方向(
図1中のB方向)に沿って流通させるようにしているが、冷却ガスの流通方向は特にこれに限定されるものではなく、照射面12cを冷却することが可能であれば、如何なる方向であってもよい。例えば、レーザ光Lの光軸方向と同様に、照射面12cの面方向に対して直交する方向(前記A方向)に流通させるようにしてもよい。
【0062】
さらに、光吸収材12に対して冷却ガスを供給することなく、レーザ光Lを照射面12cに照射するようにしてもよい。樹脂製部材10、11及び光吸収材12の寸法や材質によって、光吸収材12の照射面12cから照射裏面12dまでレーザ光Lが十分に到達しない場合、レーザ光照射部16を樹脂製部材10、11及び光吸収材12に対して相対的に回転させ、照射裏面12d側からさらにレーザ光Lを照射してもよい。
【0063】
また、光吸収材12の照射面12c側から照射裏面12d側に向かうにつれてレーザ光Lの吸収率が高くなるように、該吸収率が異なる材料を組み合わせて光吸収材12を構成してもよい。レーザ光Lは、光吸収材12内を進行し吸収されるにつれて強度が低下するが、この構成では、レーザ光Lの強度が低下する照射方向深部側で光吸収材12のレーザ光Lに対する吸収率が高くなるため、光吸収材12に効率的にレーザ光Lを吸収させることができる。すなわち、光吸収材12を効果的に溶融させることができる。従って、樹脂製部材10、11同士をより効率的且つ良好に溶着することが可能となる。
【0064】
さらにまた、樹脂製部材10、11同士の間に光吸収材12を順次送り出しながら溶着を行うようにしてもよい。
【0065】
加えて、樹脂製部材10、11中の炭素繊維は、不連続繊維であってもよい。なお、上記した実施形態では、樹脂製部材10、11としてCFRTPからなるものを例示したが、特にこれに限定されるものではなく、レーザ光Lに対して不透過性を有する樹脂であればよい。
【0066】
また、樹脂製部材10、11は、一端部同士が重ね合わされて重畳部14を形成することとしたが、一端から他端まで全部を重ね合わせて重畳部14を形成してもよい。
【実施例1】
【0067】
[実施例1]
炭素繊維及びPA6を含んで構成される樹脂製部材同士の間に、PA6からなる光吸収材を介装して重畳部を形成した。その後、前記光吸収材に対し、冷却ガスを供給しつつレーザ光を照射して樹脂製部材同士の溶着を行った。ここで、光吸収材の光吸収率は3.0%であった。
【0068】
この際、レーザ光の照射条件は、レーザ光照射部の出力を100W、スポット径の直径φを0.6mm、照射面に対する走査速度を2m/分、照射角度(接触面の面方向に対する角度)を0°とし、且つその焦点位置を、照射面の表面(0mm)から光吸収材の内部に向かって10mm以内の範囲内として、光吸収材が250℃となるようにした。
【0069】
また、冷却ガスについては、光吸収材の照射面の面方向に沿う方向に、風速30l/minで圧縮空気を供給した。これを実施例1とする。
【0070】
[実施例2]
光吸収材に対して、冷却ガスを供給することなくレーザ光を照射した以外は実施例1と同様にして、樹脂製部材同士の溶着を行った。これを実施例2とする。
【0071】
上記の実施例1、2において、レーザ光を照射したときの光吸収材の温度変化を、サーモグラフィを用いて観察した。実施例1についての結果を
図5に示すとともに、実施例2についての結果を
図6に示す。なお、
図5及び
図6はそれぞれ、光吸収材に対し、矢印C方向に向かって進行するようにレーザ光が照射され、レーザ光照射面側の温度が上昇してから、照射面に対向する他端面側の温度が上昇するまでの経過を示している。
【0072】
図5及び
図6に示すように、実施例1の光吸収材では、実施例2の光吸収材に比して、レーザ光照射方向の深部まで、速やかに温度が上昇していることが分かる。すなわち、光吸収材にレーザ光を照射する際に、冷却ガスを供給して冷却を行うことで、冷却を行わない場合に比して、光吸収材全体から効果的に熱を発生させて、樹脂製部材同士をより効率的に溶着することが可能となる。