(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
圧電単位は絶縁性繊維を含み、該絶縁性繊維は、圧電単位中の導電性繊維が、他の圧電単位中の導電性繊維並びに圧電性繊維に接しないように配されている請求項1記載の圧電素子。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、2本の導電性繊維および1本の圧電性繊維を含み、これらが互いに接点を有しつつ、略同一平面上に配置されている圧電単位を含
み、圧電性繊維が主としてポリ乳酸を含む、圧電素子によって達成される。以下に各構成について説明する。
【0014】
(導電性繊維)
導電性繊維の直径は1μm〜10mmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜5mm、さらに好ましくは0.1mm〜2mmである。直径が小さいと強度が低下しハンドリングが困難となり、また、直径が大きい場合にはフレキシブル性が犠牲になる。導電性繊維の断面形状としては円または楕円であることが、圧電素子の設計および製造の観点で好ましいが、これに限定されない。
導電性繊維の材料としては、導電性を示すものであればよく、繊維状とする必要があることから、導電性高分子であることが好ましい。導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、炭素繊維などを用いることができる。また、高分子をマトリックスとして繊維状または粒状の導電性フィラーを入れたものでも良い。フレキシブルかつ長尺の電気特性の安定性の観点からより好ましくは炭素繊維である。圧電性高分子からの電気出力を効率よく取り出すため、電気抵抗は低いことが好ましく、体積抵抗率としては10
−1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
−2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
−3Ω・cm以下である。
一般の炭素繊維はフィラメントがいくつか集まった束となったマルチフィラメントが普通であるが、これを用いてもよく、また、一本からなるモノフィラメントだけを用いるのでも良い。マルチフィラメントを利用した方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメントの径としては1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜10μmである。フィラメント数としては、10本〜100000本が好ましく、より好ましくは100本〜50000本、さらに好ましくは500本〜30000本である。
【0015】
(圧電性繊維)
圧電性繊維は圧電性を有する繊維である。圧電性繊維
は主としてポリ乳酸を含
む。ポリ乳酸は溶融紡糸後に延伸によって容易に配向して圧電性を示し、ポリフッ化ビニリデンなどで必要となる電界配向処理が不要な点で生産性に優れている。さらに、ポリ乳酸からなる圧電性繊維はその軸方向への引張や圧縮応力では、分極が小さく、圧電素子として機能させることが困難であるが、せん断応力によっては比較的大きな電気出力が得られ、せん断応力を圧電性高分子に付与しやすい構成体を有する本発明の圧電素子においては好ましい。
圧電性
繊維は、主としてポリ乳酸を含
む。「主として」とは、好ましくは90モル%、より好ましくは95モル%、さらに好ましくは98モル%以上のことを言う。
【0016】
ポリ乳酸としては、その結晶構造によって、L−乳酸、L−ラクチドを重合してなるポリ−L−乳酸、D−乳酸、D−ラクチドを重合してなるポリ−D−乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸などがあるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。圧電率の高さの観点で好ましくは、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸である。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸はそれぞれ、同じ応力に対して分極が逆になるために、目的に応じてこれらを組み合わせて使用することも可能である。ポリ乳酸の光学純度は99%以上であることが好ましく、より好ましくは99.3%以上、さらに好ましくは99.5%以上である。光学純度が99%未満であると著しく圧電率が低下する場合があり、圧電素子表面への擦り力によって十分な電気出力を得ることが難しくなる場合がある。圧電性
繊維は、主としてポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を含み、これらの光学純度は99%以上であることが好ましい。
圧電性
繊維は被覆繊維の繊維軸方向に一軸配向しかつ結晶を含むものであることが好ましく、より好ましくは結晶を有する一軸配向ポリ乳酸である。なぜなら、ポリ乳酸はその結晶状態および一軸配向において大きな圧電性を示すためである。
【0017】
ポリ乳酸は加水分解が比較的早いポリエステルであるから、耐湿熱性が問題となる場合においては、公知の、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物などの加水分解防止剤を添加してもよい。また、必要に応じてリン酸系化合物などの酸化防止剤、可塑剤、光劣化防止剤などを添加して物性改良してもよい。
また、ポリ乳酸は他のポリマーとのアロイとして用いてもよいが、ポリ乳酸を主たる圧電性高分子として用いるならば、アロイの全重量を基準として少なくとも50重量%以上でポリ乳酸を含有していることが好ましく、さらに好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
アロイとする場合のポリ乳酸以外のポリマーとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート共重合体、ポリメタクリレート等が好適な例として挙げられるが、これらに限定されるものではなく、本発明で目的とする圧電性効果を奏する限り、どのようなポリマーを用いてもよい。
【0018】
圧電性繊維はフィラメントがいくつか集まった束となったマルチフィラメントが普通であるが、これを用いてもよく、また、一本からなるモノフィラメントだけを用いるのでも良い。マルチフィラメントを利用した方が圧電特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメントの径としては1μm〜5000μmであり、好ましくは5μm〜500μmである。さらに好ましくは10μm〜100μmである。フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは10本〜50000本、さらに好ましくは100本〜10000本である。
このような
ポリ乳酸を圧電性繊維とするためには、
ポリ乳酸を繊維化するための公知の手法を、本発明の効果を奏する限りいずれも採用することができ、
ポリ乳酸を押し出し成型して繊維化する手法、
ポリ乳酸を溶融紡糸して繊維化する手法、
ポリ乳酸を乾式あるいは湿式紡糸により繊維化する手法、
ポリ乳酸を静電紡糸により繊維化する手法等を採用することができる。これらの紡糸条件は、採用する
ポリ乳酸に応じて公知の手法を適用すればよく、通常は工業的に生産の容易な溶融紡糸法を採用すればよい。
なお、上述の通りに、圧電性
繊維がポリ乳酸である場合には、一軸延伸配向し、かつ結晶を含むとより大きな圧電性を示すことから、繊維は延伸することが好ましい。
【0019】
(接点)
2本の導電性繊維が1本の圧電性繊維と互いに接点を有していることが必要である。この接点を有する形態としては、繊維同士が接触している限りどのような形態をとっていてもよい。例えば、2本の導電性繊維が平行に配置され、1本の圧電性繊維が、これら2本の導電性繊維に交わるように配置された形態などを挙げることができる。さらには、2本の導電性繊維を経糸(または緯糸)として配し、1本の圧電性繊維を緯糸(または経糸)として配してもよい。この場合は2本の導電性繊維同士は接触していないことが好ましく、2本の導電性繊維の間には好ましくは絶縁性物質、例えば絶縁性を有するポリエステル繊維等の絶縁性繊維を介在させる形態の他、導電性繊維が接触しやすい表面にのみ絶縁性物質を被覆し、圧電性繊維とは直接導電性繊維が接触するようにする形態も採用することができる。
【0020】
(略同一平面上)
本発明の圧電素子は、2本の導電性繊維と1本の圧電性繊維とは、略同一平面上に配置される。ここで略同一平面上とは、3本の繊維の繊維軸が略平面上に配置されることを意味し、「略」とは、繊維同士の交差点で厚みが生じることが含まれることを意味するものである。
例えば、2本の平行な導電性繊維の間に、1本の圧電性繊維が更に平行に引き揃えられた形態は接点を有するともに略同一平面上にある形態である。また、当該1本の圧電性繊維の繊維軸を、当該2本の平行な導電性繊維とは平行でない状態に傾けていても、略同一平面上にある。さらに、1本の導電性繊維と1本の圧電性繊維とを平行に引き揃え、もう1本の導電性繊維を、この引き揃えられた導電性繊維と圧電性繊維とに、交差させたとしても略同一平面上にある。
このような「略同一平面上」に無い形態とは、1本の圧電繊維の表面上の離れた位置(上記、引き揃えて接触させた、いわゆる圧電繊維の繊維軸の点対称部分への接触等は除く)に2本の導電性繊維が接点を有し、かつ2本の導電性繊維同士が交差しない形態等がある。
略平面上に配置されることで、当該圧電単位を組み合わせて、繊維状、布帛状の圧電素子を形成しやすく、繊維状、布帛状の形態の圧電素子を利用すれば、応力センサー、アクチュエーターの形状設計に自由度を増すことができる。
【0021】
(配置順序)
圧電単位は、導電性繊維、圧電性繊維、導電性繊維が、この順に配置されていることが好ましい。このように配置することで、圧電単位の2本の導電性繊維同士が接触することがなくなり、導電性繊維に他の手段、例えば絶縁性物質を被覆するなどの技術を適用しなくても圧電単位として有効に機能させることができる。圧電単位は、導電性繊維、圧電性繊維および導電性繊維が、互いに略平行に配置されていることが好ましい。
【0022】
(絶縁性繊維)
本発明の圧電単位は、絶縁性繊維を含み、該絶縁性繊維は、圧電単位中の導電性繊維が、他の圧電単位中の導電性繊維並びに圧電性繊維に接しないように配されることが好ましい。本発明での配置順序は通常は、[導電性繊維/圧電性繊維/導電性繊維]であるので、絶縁性繊維は、[絶縁性繊維/導電性繊維/圧電性繊維/導電性繊維]ないし[絶縁性繊維/導電性繊維/圧電性繊維/導電性繊維/絶縁性繊維]として配置される。
圧電単位にこのように絶縁性繊維を配置することで、圧電単位を複数組み合わせた場合でも導電性繊維が接触することがなく、圧電素子としての性能(検出センサーの検出分解能、アクチュエーターにおける微細な形状変化)を向上させることが可能である。
このような絶縁性繊維としては、体積抵抗率が10
6Ω・cm以上であれば用いることができ、より好ましくは10
8Ω・cm以上、さらに好ましくは10
10Ω・cm以上がよい。
【0023】
絶縁性繊維として例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の他、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。これらに限定されるものではなく、公知の絶縁性繊維を任意に用いることができる。さらに、これらの絶縁性繊維を組み合わせて用いてもよく、絶縁性を有しない繊維と組み合わせ、全体として絶縁性を有する繊維としてもよい。
とりわけ、生産の容易性、取扱性、強度、等を考慮し、絶縁性繊維が主としてポリチレンテレフタレート系繊維を含むことが好ましい。ここで、「主として」とは当該繊維が絶縁性繊維を基準として50%を超えて占めることを意味し、好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは99%以上、最も好ましいのは100%である。ポリエチレンテレフタレート「系」とは、当該繊維において、ポリエチレンテレフタレートが繊維を構成する成分を基準として50%を超えて占めることを意味し、好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは99%以上、最も好ましいのは100%である。
【0024】
(圧電単位の組み合わせ形態)
本発明において、複数の並列した圧電単位を含有する織編物であることが好ましい。このような形態であることで、圧電素子として、形状の変形自由度(フレキシブルさ)を向上させることが可能である。
このような織編物形状は複数の並列した圧電単位を含み、圧電素子としての機能を発揮する限り何らの限定は無い。織物形状または編物形状を得るには、通常の織機または編機により製編織すればよい。
織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。
編物の種類は、丸編物(緯編物)であってもよいし経編物であってもよい。丸編物(緯編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示される。経編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。更には、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛織物、立毛編み物であってもよい。
【0025】
なお、圧電単位が織り組織ないし編み組織に組み込まれて存在する場合、圧電性繊維そのものに屈曲部分が存在するが、圧電素子としての圧電性能を効率よく発現させるためには、圧電性繊維の屈曲部分が小さい方が好ましい。従って、織物と編み物とでは織物の方が好ましい。
織物として強度、取扱い性、製造の容易さとの兼ね合いの観点から、圧電単位は緯糸方向に配することが好ましい。経糸方向には他の繊維、例えば絶縁性繊維であるポリエチレンテレフタレート系繊維を配することが好ましい。
この場合でも、上述の通り、圧電性繊維の屈曲部分が小さい方が、圧電性能が効率よく発現することから、織組織としては平織よりは綾織りが好ましく、綾織よりもサテン織(朱子織)が好ましい。特にサテン織(朱子織)のなかでも、飛び数が3〜7の範囲にあると、織組織の保持と圧電性性能とを高い水準で発揮することから好ましい。
また、圧電性繊維は帯電しやすいため、誤作動しやすくなる場合がある。このような場合には、信号を取り出そうとする圧電繊維を接地(アース)して使用することもできる。接地(アース)する方法としては信号を取り出す導電性繊維とは別に、導電性繊維を配置することが好ましい。この場合、導電性繊維の体積抵抗率としては10
−1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
−2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
−3Ω・cm以下である。
【0026】
(圧電素子の
参考態様1)
圧電素
子の参考態様として以下の圧電素子
がある。
1.導電性繊維、その表面に被覆された圧電性高分子、および該圧電性高分子の表面に形成され表面導電層を含み、圧電性高分子はポリ乳酸である、圧電素子。
2. 圧電性高分子が、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸でありこれらの光学純度は99%以上である前項1記載の圧電素子。
3. 圧電性高分子が、一軸配向し、かつ結晶を含む前項1記載の圧電素子。
4. 導電性繊維が炭素繊維である前項1〜3のいずれか一項に記載の圧電素子。
5. 圧電素子に印加された応力および/または応力の印加された位置を検出するセンサーである前項1〜4のいずれか一項に記載の圧電素子。
6. 検出される圧電素子に印加された応力が、圧電素子表面への擦り力である、前項5記載の圧電素子。
【0027】
(導電性繊維)
導電性繊維の直径は1μm〜10mmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜5mm、さらに好ましくは0.1mm〜2mmである。直径が小さいと強度が低下しハンドリングが困難となり、また、直径が大きい場合にはフレキシブル性が犠牲になる。導電性繊維の断面形状としては円または楕円であることが、圧電素子の設計および製造の観点で好ましいが、これに限定されない。圧電性高分子と導電性繊維はできるだけ密着していることが好ましいが、密着性を改良するために、導電性繊維と圧電性高分子の間にアンカー層や接着層などを設けてもよい。
導電性繊維の材料としては、導電性を示すものであればよく、繊維状とする必要があることから、導電性高分子であることが好ましい。導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、炭素繊維などを用いることができる。また、高分子をマトリックスとして繊維状または粒状の導電性フィラーを入れたものでも良い。フレキシブルかつ長尺の電気特性の安定性の観点からより好ましくは炭素繊維である。
【0028】
圧電性高分子からの電気出力を効率よく取り出すため、電気抵抗は低いことが好ましく、体積抵抗率としては10
−1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
−2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
−3Ω・cm以下である。
一般の炭素繊維はフィラメントがいくつか集まった束となったマルチフィラメントが普通であるが、これを用いてもよく、また、一本からなるモノフィラメントだけを用いるのでも良い。マルチフィラメントを利用した方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメントの径としては1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜10μmである。フィラメント数としては、10本〜100000本が好ましく、より好ましくは100本〜50000本、さらに好ましくは500本〜30000本である。
【0029】
(圧電性高分子)
導電性繊維を被覆する圧電性高分子の厚みは1μm〜5mmであることが好ましく、より好ましくは5μm〜3mm、さらに好ましくは10μm〜1mm、最も好ましくは20μm〜0.5mmである。薄すぎると強度の点で問題となる場合があり、また、厚すぎると電気出力を取り出すことが困難となる場合がある。
この圧電性高分子の導電性繊維の被覆状態であるが、導電性繊維と圧電性高分子からなる繊維の形状としては、できるだけ同心円状に近いことが、導電性繊維と表面導電層との距離を一定に保つという意味において好ましい。導電性繊維と圧電性高分子からなる繊維を形成する方法に特に限定はないが、例えば、導電性繊維を内側、圧電性高分子を外側にして、共押出して溶融紡糸したのちに延伸する方法などがある。また、導電性繊維を炭素繊維とした場合には、その繊維周面上に溶融押出した圧電性高分子を被覆し被覆時に延伸応力をかけることで圧電性高分子を延伸配向させる方法を用いてもよい。さらに、中空の延伸した圧電性高分子からなる繊維をあらかじめ作成し、その中に導電性繊維を挿入する方法でも良い。
また、導電性繊維と延伸した圧電性高分子からなる繊維を別々の工程で作成し、導電性繊維を圧電性高分子からなる繊維で巻き付けるなどして被覆する方法でも良い。
【0030】
この場合には、できるだけ同心円状に近くなるように被覆することが好ましい。また、例えば、内側の導電性繊維、圧電性高分子、表面導電層を共押出して溶融紡糸したのちに延伸する方法を用いて、3層を一度に形成してもよい。
導電性繊維と延伸した圧電性高分子からなる繊維を別々の工程で作成する場合において、かつ、圧電性高分子としてポリ乳酸を用いた場合の好ましい紡糸、延伸条件として、溶融紡糸温度は150〜250℃が好ましく、延伸温度は40〜150℃が好ましく、延伸倍率は1.1倍から5.0倍が好ましく、また、結晶化温度としては80〜170℃であることがそれぞれ好ましい。
圧電性高分子としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸など圧電性を示す高分子であれば利用できるが、主としてポリ乳酸からなることが好ましい。ポリ乳酸は溶融紡糸後に延伸によって容易に配向して圧電性を示し、ポリフッ化ビニリデンなどで必要となる電界配向処理が不要な点で生産性に優れている。さらに、ポリ乳酸からなる圧電性繊維はその軸方向への引張や圧縮応力では、分極が小さく、圧電素子として機能させることが困難であるが、せん断応力によっては比較的大きな電気出力が得られ、せん断応力を圧電性高分子に付与しやすい構成体を有する本発明の圧電素子においては好ましい。
【0031】
圧電性高分子の繊維を導電性繊維に巻き付けることで被覆する場合においては、圧電性高分子の繊維としては、複数のフィラメントを束ねたマルチフィラメントを用いてもよく、また、モノフィラメントを用いても良い。
圧電性高分子からなる繊維を導電性繊維に巻き付けて被覆する形態としては、例えば、圧電性高分子からなる繊維を編組チューブのような形態とし、導電性繊維を芯として当該チューブに挿入することで被覆してもよく、また、圧電性高分子からなる繊維を製紐して、丸打組物を製造するにあたり、導電性繊維を芯糸とし、その周囲に圧電性高分子からなる繊維を用いた丸打組紐を作製することで、被覆してもよい。
単糸径は1μm〜5mmであり、好ましくは5μm〜2mm、さらに好ましくは10μ〜1mmである。フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは50本〜50000本、さらに好ましくは100本〜20000本である。
圧電性高分子
は、ポリ乳酸
である。
なお、導電性繊維としてマルチフィラメントを用いる場合、圧電性高分子は、マルチフィラメントの表面(繊維周面)の少なくとも一部が接触しているように被覆していればよく、マルチフィラメントを構成する、すべてのフィラメント表面(繊維周面)に圧電性高分子が被覆していても、また、していなくともよく、マルチフィラメントを構成する内部の各フィラメントへの被覆状態は、圧電性素子としての性能、取扱い性等を考慮して、適宜設定すればよい。
【0032】
ポリ乳酸としては、その結晶構造によって、L−乳酸、L−ラクチドを重合してなるポリ−L−乳酸、D−乳酸、D−ラクチドを重合してなるポリ−D−乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸などがあるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。しかし、圧電率の高さの観点で好ましくは、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸である。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸はそれぞれ、同じ応力に対して分極が逆になるために、目的に応じてこれらを組み合わせて使用することも可能である。ポリ乳酸の光学純度は99%以上であることが好ましく、より好ましくは99.3%以上、さらに好ましくは99.5%以上である。光学純度が99%未満であると著しく圧電率が低下する場合があり、圧電素子表面への擦り力によって十分な電気出力を得ることが難しくなる場合がある。
圧電性高分子
は、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を含み、これらの光学純度は99%以上であることが好ましい。
圧電性高分子は一軸配向しかつ結晶を含むものであることが好ましく、より好ましくは結晶を有する一軸配向ポリ乳酸である。なぜなら、ポリ乳酸はその結晶状態および一軸配向において大きな圧電性を示すためである。
【0033】
ポリ乳酸は加水分解が比較的早いポリエステルであるから、耐湿熱性が問題となる場合においては、公知の、イソシアネート、エポキシ、カルボジイミド化合物などの加水分解防止剤を添加してもよい。また、必要に応じてリン酸系化合物などの酸化防止剤、可塑剤、光劣化防止剤などを添加して物性改良してもよい。また、ポリ乳酸は他のポリマーとのアロイとして用いてもよいが、ポリ乳酸を主たる圧電性高分子として用いるならば、少なくとも50重量%以上含有していることが好ましく、さらに好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
アロイとする場合のポリ乳酸以外のポリマーとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート共重合体、ポリメタクリレート等が好適な例として挙げられるが、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、どのようなポリマーを用いてもよい。
【0034】
(表面導電層)
表面導電層の材料としては、導電性を示すものであれば使用可能である。材料として具体的には、銀や銅などの金属を含むペースト状のものを塗布したもの、銀、銅、酸化インジウム錫などを蒸着したもの、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、炭素繊維などの導電性高分子などを用いることができる。導電性を良好に保つ観点から、体積抵抗率としては10
−1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
−2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
−3Ω・cm以下である。
この表面導電層の厚みとしては、10nm〜100μmであることが好ましく、より好ましくは20nm〜10μm、さらに好ましくは30nm〜3μmである。薄すぎると導電性が悪くなって、電気出力が得られにくくなる場合があり、また、厚すぎるとフレキシブル性を失う場合がある。
【0035】
表面導電層としては、圧電性高分子上の全面に形成してもよく、また離散的に形成してもよい。この配置方法は目的に応じて設計することができるので、この配置に関しては特に限定はない。この表面導電層を離散的に配置し、電気出力をそれぞれの表面導電層から取り出すことで、圧電素子にかかる応力の強さと位置を検出することが可能となる。
表面導電層の保護、すなわち、最外層である表面導電層を人の手などの接触から防ぐ目的で、何らかの保護層を設けてもよい。この保護層は絶縁性であることが好ましく、フレキシブル性などの観点から高分子からなるものがより好ましい。もちろん、この場合には保護層上を擦ることになるが、この擦りによるせん断応力が圧電性高分子まで到達し、その分極を誘起できるものであれば特に限定はない。保護層としては、高分子などのコーティングによって形成されるものに限定されず、フィルムなどあるいは、それらが組み合わされたものであってもよい。保護層としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが好適に用いられる。
【0036】
保護層の厚みとしては出来るだけ薄い方が、せん断応力を圧電性高分子に伝えやすいが、薄すぎると破壊等の問題が発生しやすくなるため、好ましくは10nm〜200μm、より好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは70nm〜30μm、最も好ましくは100nm〜10μmである。
圧電素子は1本で使用する場合もあるが、複数本を並べて用いたり、布帛状に製編織して用いたり、組み紐に製紐してもよい。それによって布帛状、紐状の圧電素子を実現することも可能となる。布帛状、紐状にするにあたっては、本発明の目的を達成する限り、圧電素子以外の他の繊維と組み合わせて、混繊、交織、交編等を行ってもよく、また、スマートフォンの筐体の樹脂などに組み込んで使ってもよい。
【0037】
(圧電性素子の
参考態様2)
圧電素
子の参考態様として以下の圧電素子
がある。
1. 導電性繊維の表面を圧電性高分子で被覆した被覆繊維を少なくとも2本含み、各被覆繊維は、互いに略平行に配置され、かつ表面の圧電性高分子が互いに接触(但し、一体化している形態は除く)している圧電素子。
2. 圧電性高分子が、主としてポリ乳酸を含む前項1に記載の圧電素子。
3. 圧電性高分子が、主としてポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を含み、これらの光学純度は99%以上である前項1または2記載の圧電素子。
4. 圧電性高分子が、一軸配向しかつ結晶を含む前項1〜3のいずれか一項に記載の圧電素子。
5. 導電性繊維が、炭素繊維である前項1〜4のいずれか一項に記載の圧電素子。
6. 圧電素子に印加された応力の大きさおよび/または印加された位置を検出するセンサーである前項1〜5のいずれか一項に記載の圧電素子。
7. 検出される圧電素子に印加された応力が、圧電素子表面への擦り力である、前項6記載の圧電素子。
【0038】
(被覆繊維)
圧電素子は、導電性繊維の表面を圧電性高分子で被覆した被覆繊維を少なくとも2本含む。
図4は圧電素子の1つの
参考態様を表す構造模式図である。
図4中の、符号1は圧電性高分子、符号2は導電性繊維である。
圧電素子の長さは特に限定はないが、製造において連続的に製造され、その後に好みの長さにカットして利用してもよい。実際の圧電素子としての利用においては、1mm〜10m、好ましくは、5mm〜2m、より好ましくは1cm〜1mである。長さが短いと繊維形状である利便性が失われ、また、長いと導電性繊維の抵抗値の問題等で電気出力が低下する等の問題がある。
【0039】
(導電性繊維)
導電性繊維の材料としては、導電性を示すものであればよく、繊維状とする必要があることから、導電性高分子であることが好ましい。導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、炭素繊維などを用いることができる。また、高分子をマトリックスとして繊維状または粒状の導電性フィラーを入れたものでも良い。フレキシブルかつ長尺の電気特性の安定性の観点からより好ましくは炭素繊維である。
圧電性高分子からの電気出力を効率よく取り出すため、導電性繊維の電気抵抗は低いことが好ましく、体積抵抗率としては10
−1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
−2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
−3Ω・cm以下である。
【0040】
導電性繊維の直径は1μm〜10mmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜5mm、さらに好ましくは0.1mm〜2mmである。直径が小さいと強度が低下しハンドリングが困難となり、また、直径が大きい場合にはフレキシブル性が犠牲になる。
導電性繊維の断面形状としては円または楕円であることが、圧電素子の設計および製造の観点で好ましいが、これに限定されない。もちろん、導電性繊維は1本のみで使用してもよいし、複数本束ねて使用してもよい。
一般の炭素繊維はフィラメントがいくつか集まった束となったマルチフィラメントが普通であるが、これを用いてもよく、また、一本からなるモノフィラメントだけを用いるのでも良い。マルチフィラメントを利用した方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。
モノフィラメントの径としては1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜10μmである。フィラメント数としては、10本〜100000本が好ましく、より好ましくは100本〜50000本、さらに好ましくは500本〜30000本である。
【0041】
(圧電性高分子)
圧電性高分子としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸など圧電性を示す高分子であれば利用できるが、主としてポリ乳酸を含むことが好ましい。ポリ乳酸は溶融紡糸後に延伸によって容易に配向して圧電性を示し、ポリフッ化ビニリデンなどで必要となる電界配向処理が不要な点で生産性に優れている。さらに、ポリ乳酸からなる圧電性繊維はその軸方向への引張や圧縮応力では、分極が小さく、圧電素子として機能させることが困難であるが、せん断応力によっては比較的大きな電気出力が得られ、せん断応力を圧電性高分子に付与しやすい構成体を有する本発明の圧電素子においては好ましい。
圧電性高分子は、主としてポリ乳酸を含むことが好ましい。ここで「主として」とは、好ましくは90モル%、より好ましくは95モル%、さらに好ましくは98モル%以上のことを言う。
【0042】
ポリ乳酸としては、その結晶構造によって、L−乳酸、L−ラクチドを重合してなるポリ−L−乳酸、D−乳酸、D−ラクチドを重合してなるポリ−D−乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸などがあるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。圧電率の高さの観点で好ましくは、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸である。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸はそれぞれ、同じ応力に対して分極が逆になるために、目的に応じてこれらを組み合わせて使用することも可能である。ポリ乳酸の光学純度は99%以上であることが好ましく、より好ましくは99.3%以上、さらに好ましくは99.5%以上である。光学純度が99%未満であると著しく圧電率が低下する場合があり、圧電素子表面への擦り力によって十分な電気出力を得ることが難しくなる場合がある。圧電性高分子が、主としてポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を含み、これらの光学純度は99%以上であることが好ましい。
圧電性高分子は被覆繊維の繊維軸方向に一軸配向しかつ結晶を含むものであることが好ましく、より好ましくは結晶を有する一軸配向ポリ乳酸である。なぜなら、ポリ乳酸はその結晶状態および一軸配向において大きな圧電性を示すためである。
【0043】
ポリ乳酸は加水分解が比較的早いポリエステルであるから、耐湿熱性が問題となる場合においては、公知の、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物などの加水分解防止剤を添加してもよい。また、必要に応じてリン酸系化合物などの酸化防止剤、可塑剤、光劣化防止剤などを添加して物性改良してもよい。
また、ポリ乳酸は他のポリマーとのアロイとして用いてもよいが、ポリ乳酸を主たる圧電性高分子として用いるならば、少なくとも50重量%以上含有していることが好ましく、さらに好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
アロイとする場合のポリ乳酸以外のポリマーとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート共重合体、ポリメタクリレート等が好適な例として挙げられるが、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、どのようなポリマーを用いてもよい。
【0044】
(被覆)
各導電性繊維は、圧電性高分子で表面が被覆されている。導電性繊維を被覆する圧電性高分子の厚みは1μm〜10mmであることが好ましく、より好ましくは5μm〜5mm、さらに好ましくは10μm〜3mm、最も好ましくは20μm〜1mmである。薄すぎると強度の点で問題となる場合があり、また、厚すぎると電気出力を取り出すことが困難となる場合がある。
圧電性高分子と導電性繊維はできるだけ密着していることが好ましいが、密着性を改良するために、導電性繊維と圧電性高分子の間にアンカー層や接着層などを設けてもよい。
被覆の方法および形状は、印加された応力に対して電気出力を出すことが出来れば特に限定されるものではない。
例えば、電線を作る要領で溶融させた圧電性高分子を導電性繊維の周りに被覆させたり、導電性繊維の周りに圧電性高分子の糸を巻きつけたり、圧電性高分子フィルムで導電性繊維を挟んで接着するなどの方法が上げられる。また、このように圧電性高分子により被覆する際に、予め、導電性繊維を三つ以上設けておいても良いし、導電性繊維一本のみを圧電性高分子で被覆した後に、圧電性高分子の表面を接着することによっても本発明の圧電素子を得ることができる。接着の方法も特に限定されるものではないが、接着剤の使用、溶着などが挙げられ、単に密着しているだけでも良い。
【0045】
この圧電性高分子の導電性繊維の被覆状態であるが、導電性繊維と圧電性高分子の形状としては特に限定されるものではないが、例えば、一つの導電性繊維を圧電性高分子で被覆した繊維を後から接着させる方法で本発明の圧電素子を得る場合には、できるだけ同心円状に近いことが、導電性繊維間の距離を一定に保つという意味において好ましい。
なお、導電性繊維としてマルチフィラメントを用いる場合、圧電性高分子は、マルチフィラメントの表面(繊維周面)の少なくとも一部が接触しているように被覆していればよく、マルチフィラメントを構成する、すべてのフィラメント表面(繊維周面)に圧電性高分子が被覆していても、また、していなくともよく、マルチフィラメントを構成する内部の各フィラメントへの被覆状態は、圧電性素子としての性能、取扱い性等を考慮して、適宜設定すればよい。
本発明の圧電素子は少なくとも2本の導電性繊維を含むが、導電性繊維は2本に限定されず、より多くても良い。
【0046】
(平行)
各導電性繊維は、互いに略平行に配置される。導電性繊維間の距離は、1μm〜10mmであることが好ましく、より好ましくは5μm〜5mm、さらに好ましくは10μm〜3mm、最も好ましくは20μm〜1mmである。近すぎると強度の点で問題となる場合があり、離れすぎると電気出力を取り出すことが困難となる場合がある。ここで、「互いに略平行に配置」とは、複数の導電性繊維が互いに接触しないように配置することを意味し、導電性繊維の繊維長によって、許容されるずれ角は異なる。
【0047】
(接触)
各被覆繊維は、表面の圧電性高分子同士が互いに接触している。導電性繊維を芯とし、圧電性高分子を被覆層とする被覆繊維が、表面の被覆層において互いに接触している態様がある。また平行に並べた複数の導電性繊維を2枚の圧電性高分子フィルムではさんで被覆した態様もある。
【0048】
(製造方法(i))
圧電素子は、1本の導電性繊維の表面を圧電性高分子で被覆した被覆繊維を少なくとも二つ接着して製造することができる。この方法として以下の方法が挙げられる。
(i−1)導電性繊維を内側、圧電性高分子を外側にして、共押出して溶融紡糸したのちに延伸する方法などがある。
(ii−2)また、導電性繊維上に溶融押出した圧電性高分子を被覆し、被覆時に延伸応力をかけることで圧電性高分子を延伸配向させる方法を用いてもよい。
(iii−3)また、中空の延伸した圧電性高分子からなる繊維をあらかじめ作製し、その中に導電性繊維を挿入する方法でも良い。
(iv−4)また、導電性繊維と延伸した圧電性高分子からなる繊維を別々の工程で作製し、導電性繊維に圧電性高分子からなる繊維で巻き付けるなどして被覆する方法でも良い。この場合には、できるだけ同心円状に近くなるように被覆することが好ましい。
【0049】
この場合、圧電性高分子としてポリ乳酸を用いる場合の好ましい紡糸、延伸条件として、溶融紡糸温度は150〜250℃が好ましく、延伸温度は40〜150℃が好ましく、延伸倍率は1.1倍から5.0倍が好ましく、また、結晶化温度としては80〜170℃であることがそれぞれ好ましい。
巻き付ける圧電性高分子の繊維としては、複数のフィラメントを束ねたマルチフィラメントを用いてもよく、また、モノフィラメントを用いても良い。
巻き付けて被覆する形態としては、例えば、圧電性高分子からなる繊維を編組チューブのような形態とし、導電性繊維を芯として当該チューブに挿入することで被覆してもよい。また圧電性高分子からなる繊維を製紐して、丸打組物を製造するにあたり、導電性繊維を芯糸とし、その周囲に圧電性高分子からなる繊維を用いた丸打組紐を作製することで、被覆してもよい。圧電性高分子からなる繊維の単糸径は1μm〜5mmであり、好ましくは5μm〜2mm、さらに好ましくは10μ〜1mmである。フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは50本〜50000本、さらに好ましくは100本〜20000本である。
以上のような方法で製造した、導電性繊維の表面を圧電性高分子で被覆した被覆繊維を複数接着することにより本発明の圧電素子を得ることができる。
【0050】
(製造方法(ii))
また、平行に並べた複数の導電性繊維を圧電性高分子で被覆することによっても本発明の圧電素子を得ることができる。例えば、平行に並べた複数の導電性繊維を、二枚の圧電性高分子のフィルムにより挟むことによって本発明の圧電素子を得ることができる。また、この圧電素子を短冊状にカットすることによりフレキシブル性に優れた圧電素子を得ることができる。
【0051】
(保護層)
本発明の圧電素子の最表面には保護層を設けてもよい。この保護層は絶縁性であることが好ましく、フレキシブル性などの観点から高分子からなるものがより好ましい。もちろん、この場合には保護層上を擦ることになるが、この擦りによるせん断応力が圧電性高分子まで到達し、その分極を誘起できるものであれば特に限定はない。保護層としては、高分子などのコーティングによって形成されるものに限定されず、フィルムなどあるいは、それらが組み合わされたものであってもよい。保護層としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが好適に用いられる。
保護層の厚みとしては出来るだけ薄い方が、せん断応力を圧電性高分子に伝えやすいが、薄すぎると保護層自体が破壊される等の問題が発生しやすくなるため、好ましくは10nm〜200μm、より好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは70nm〜30μm、最も好ましくは100nm〜10μmである。この保護層により圧電素子の形状を形成することもできる。
【0052】
(複数の圧電素子)
また、圧電素子を複数並べて用いることも可能である。並べ方としても一次元的に一段で並べても、二次元的に重ねて並べても良く、さらには布状に編織して用いたり、組み紐に製紐したりしてもよい。それによって布状、紐状の圧電素子を実現することも可能となる。布状、紐状にするにあたっては、本発明の目的を達成する限り、圧電素子以外の他の繊維と組み合わせて、混繊、交織、交編等を行ってもよく、また、スマートフォンの筐体の樹脂などに組み込んで使ってもよい。このように本発明の圧電素子を複数本並べて使用する際においては、本発明の圧電素子は表面に電極を有さないため、その並べ方、編み方が広範に選択することができるという利点がある。
【0053】
(圧電素子の適用技術)
本発明の圧電素子
は、圧電素子表面を擦るなどして、印加された応力の大きさおよび/または印加された位置を検出するセンサーとして利用することができる。なお、本発明の圧電素子は、擦る以外の押圧力などによっても圧電性高分子にせん断応力が与えられるならば、電気出力を取り出すことはもちろん可能である。
ここで、「印加される応力」とは本発明の目的にも記載した通り、指の表面で擦る程度の応力を意味しており、この、指の表面で擦る程度の応力の目安としては、おおよそ1〜100Paである。もちろん、これ以上であっても印加された応力およびその印加位置を検出することが可能であることはいうまでもない。
指などで入力する場合には、1gf以上50gf以下(10mmN以上500mmN以下)の荷重であっても動作することが好ましく、さらに好ましくは1gf以上10gf以下(10mmN以上100mmN以下)の荷重で動作することが好ましい。もちろん、50gf(500mmN)を超える荷重であっても動作することは、上述の通りである。
【0054】
また、本発明の圧電素子
は、電気信号を印加することでアクチュエーターとして用いることができる。そのため本発明の圧電素子は、布帛状のアクチュエーターとして用いることができる。この本発明のアクチュエーターは、印加する電気信号を制御することで、布帛表面の一部に凸部や凹部を形成することや、布帛全体を巻き形状とすることが可能である。本発明のアクチュエーターは、物品を把持することができる。また、人体(腕、足、腰等)に巻きつける形状に変化させて、サポーター等として機能させることが可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に記載するが本発明はこれによって何らの限定を受けるものではない。
【0056】
参考例1
(ポリ乳酸の製造)
L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて180℃で2時間反応させ、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを減圧除去し、チップ化し、ポリ−L−乳酸(PLLA1)を得た。得られたPLLA1の重量平均分子量は15.2万、ガラス転移点(Tg)は55℃、融点は175℃であった。
【0057】
(圧電素子の評価)
参考例1において圧電素子は以下のように評価した。
圧電素子の長手方向に平行に、表面導電層(金蒸着面)表面に指を接触させて約0.5m/sの速度で擦ることで圧電特性を評価した(荷重は50gf(500mmN)以下で全実施例、比較例を通じ略同一になるように設定)。実施例の評価システムを
図2に示す。電圧評価は横河電機(株)製のデジタルオシロスコープDL6000シリーズ商品名『DL6000』を用いた。
【0058】
(圧電素子の製造)
導電性繊維として東邦テナックス(株)製の炭素繊維マルチフィラメントである品名『HTS40 3K』を用い、この繊維に対して、樹脂温度200℃にて溶融させたPLLA1を同心円状に被覆させ、直ちに空気中にて冷却し、長さ10mの被覆繊維1を得た。
ここで、被覆繊維1における炭素繊維が本発明における導電性繊維であるが、当該炭素繊維は直径7.0μmのフィラメント3000本を1束としたマルチフィラメントであり、体積抵抗率は1.6×10
−3Ω・cmであった。また、この導電性繊維の直径は0.6mm、被覆されたPLLA1層の厚みは0.3mmであった(被覆繊維1の直径は1.2mm)。
【0059】
次に、この被覆繊維1を繊維長12cmに切断し、内側の炭素繊維(導電性繊維)のみ両端を1cmずつ除去し、内側の炭素繊維(導電性繊維)の長さが10cm、外側のPLLA1層の長さが12cmの被覆繊維2を作成した。次にこの被覆繊維2を温度80℃に設定された引張試験機に入れ、被覆繊維2両端のPLLA1層のみからなる部分(端部の1cm)をそれぞれニップにて把持し、外側のPLLA1層のみを一軸延伸した。延伸速度は200mm/minとし、延伸倍率3倍に延伸した。その後、さらに、ニップにて把持したまま、温度を140℃まで上昇させ5分間加熱処理を行い、結晶化後、急冷して当該被覆繊維2を引張試験機から取り出した。
【0060】
得られた被覆繊維2は2層の同心円状の構成であり、直径は0.8mm、被覆されたPLLA1層の厚みは0.1mmであった。さらに、この被覆繊維表面の約半分に金を約100nmの厚みとなるように蒸着法によりコーティングし本発明の圧電素子を得た。この金の表面導電層の体積抵抗率は1.0×10
−4Ω・cmであった。
この圧電素子の概略図を
図1に記す。同様な方法でこの圧電素子を4本作成し、これらを
図2に示すように平行に並べて圧電特性の評価を行った。
圧電素子の評価結果を
図3に記す。2V以上の電圧と非常に大きな電圧が表面を擦るだけで得られることがわかった。圧電素子(センサー)としての機能を発揮することを確認した。
【0061】
参考例2
(ポリ乳酸の製造)
L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて180℃で2時間反応させ、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを減圧除去し、チップ化し、ポリ−L−乳酸(PLLA1)を得た。得られたPLLA1の重量平均分子量は15.2万、ガラス転移点(Tg)は55℃、融点は175℃であった。
【0062】
(圧電素子の評価)
参考例2において圧電素子は以下のように評価した。
圧電素子の長手方向に平行に、指を接触させて約0.5m/sの速度で擦ることで圧電特性を評価した。
参考例2における評価システムを
図5に示す。電圧評価は横河電機(株)製のデジタルオシロスコープDL6000シリーズ商品名『DL6000』を用いた。
【0063】
(圧電素子の製造)
導電性繊維として東邦テナックス(株)製の炭素繊維マルチフィラメントである品名『HTS40 3K』を用い、この繊維に対して、樹脂温度200℃にて溶融させたPLLA1を同心円状に被覆させ、直ちに空気中にて冷却し、長さ10mの被覆繊維1を得た。
ここで、被覆繊維1における炭素繊維が本発明における導電性繊維であるが、当該炭素繊維は直径7.0μmのフィラメント3000本を1束としたマルチフィラメントであり、体積抵抗率は1.6×10
−3Ω・cmであった。また、この導電性繊維の直径は0.6mm、被覆されたPLLA1層の厚みは0.3mmであった(被覆繊維1の直径は1.2mm)。
次に、この被覆繊維1を繊維長12cmに切断し、内側の炭素繊維(導電性繊維)のみ両端を1cmずつ除去し、内側の炭素繊維(導電性繊維)の長さが10cm、外側のPLLA1層の長さが12cmの被覆繊維2を作製した。次にこの被覆繊維2を温度80℃に設定された引張試験機に入れ、被覆繊維2両端のPLLA1層のみからなる部分(端部の1cm)をそれぞれニップにて把持し、外側のPLLA1層のみを一軸延伸した。延伸速度は200mm/minとし、延伸倍率3倍に延伸した。その後、さらに、ニップにて把持したまま、温度を140℃まで上昇させ5分間加熱処理を行い、結晶化後、急冷して当該被覆繊維2を引張試験機から取り出した。
得られた被覆繊維2は2層の同心円状の構成であり、直径は0.9mm、被覆されたPLLA1層の厚みは0.15mmであった。さらに、この被覆繊維2を2本溶着させ、表面の圧電性高分子の端の部分を除去し、導電性繊維を剥き出しにし、
図4に示すような圧電素子を得た。
この圧電素子を
図5に示すような構成で圧電特性の評価を行った。圧電素子の評価結果を
図6に記す。約6Vと非常に大きな電圧が表面を擦るだけで得られることがわかった。圧電素子(センサー)としての機能を発揮することを確認した。
【0064】
実施例3〜7
(ポリ乳酸の製造)
実施例3〜7において用いたポリ乳酸は以下の方法で製造した。
L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて180℃で2時間反応させ、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを減圧除去し、チップ化し、ポリ−L−乳酸(PLLA1)を得た。得られたPLLA1の重量平均分子量は15.2万、ガラス転移点(Tg)は55℃、融点は175℃であった。
【0065】
(圧電素子の評価)
実施例3〜7において圧電素子は以下のように評価した。
圧電素子に、変形を加えることで圧電特性を評価した。評価システムを
図2に示す。電圧評価は横河電機(株)製のデジタルオシロスコープDL6000シリーズ商品名『DL6000』を用いた。
実施例3〜7において用いた圧電性繊維、導電性繊維、絶縁性繊維は以下の方法で製造した。
【0066】
(圧電性繊維)
240℃にて溶融させたPLLA1を24ホールのキャップから20g/minで吐出し、887m/minにて引き取った。この未延伸マルチフィラメント糸を80℃、2.3倍に延伸し、100℃で熱固定処理することにより84dTex/24filamentのマルチフィラメント一軸延伸糸1を得た。このマルチフィラメント一軸延伸糸1を8束まとめて、圧電性繊維1とした。
【0067】
(導電性繊維)
東邦テナックス(株)製の炭素繊維マルチフィラメントである品名『HTS40 3K』を導電性繊維1として用いた。当該導電性繊維1は直径7.0μmのフィラメント3000本を1束としたマルチフィラメントであり、体積抵抗率は1.6×10
−3Ω・cmであった。
【0068】
(絶縁性繊維)
280℃にて溶融させたPET1を48ホールのキャップから45g/minで吐出し、800m/minにて引き取った。この未延伸糸を80℃、2.5倍に延伸し、180℃で熱固定処理することによりすることにより167dTex/48フィラメントのマルチフィラメント延伸糸を得た。このマルチフィラメント延伸糸を4束まとめて、絶縁性繊維1とした。
【0069】
実施例3
図7に示すように経糸に絶縁性繊維1を配し、緯糸に圧電性繊維1、導電性繊維1を交互に配した平織物を作製した。この平織物のうち圧電性繊維を挟む一対の導電性繊維を信号線としてオシロスコープに接続し、他の導電性繊維はアースに接続した。当該信号線を繋いだ導電性繊維に挟まれた圧電性繊維を指で擦ることにより
図8に示すような電圧信号が得られた。また、繊維を折り曲げることにより
図9に示すような電圧信号が得られた。圧電素子(センサー)として機能を発揮することを確認した。
【0070】
実施例4
図10に示すように経糸に圧電性繊維1と絶縁性繊維1とを交互に配し、緯糸に導電性繊維1と絶縁性繊維1を交互に配した平織物を作製した。この織物のうち20mm離れた一対の導電性繊維を信号線としてオシロスコープに接続し、他の導電性繊維はアースに接続した。この織物の信号線を繋いだ導電性繊維に挟まれた圧電性繊維を指で擦ることにより
図11に示すような電圧信号が得られた。圧電素子(センサー)として機能を発揮することを確認した。
【0071】
実施例5
図12に示すように経糸に絶縁性繊維1を配し、緯糸に圧電性繊維1、導電性繊維1を交互に配した平織物を作製した。この織物の両端近くの圧電性繊維を挟む一対の導電性繊維を信号線として電圧源に接続し、電圧を印加したところ、織物全体にねじれが生じた。圧電素子(アクチュエーター)として機能を発揮することを確認した。
【0072】
実施例6
図13に示すように経糸に絶縁繊維1を配し、緯糸に絶縁性繊維1、導電性繊維1、圧電性繊維1、導電性繊維1の順に配してサテン(朱子)織物を作製した。この織物のうち圧電性繊維をはさむ一対の導電性繊維を信号線としてオシロスコープに接続し、織物に捩じりの変形を加えたところ、
図14に示すような電圧信号が得られた。圧電素子(センサー)として機能を発揮することを確認した。
【0073】
実施例7
東邦テナックス(株)製の炭素繊維マルチフィラメントである品名『HTS40 3K』を芯として、マルチフィラメント一軸延伸糸1を丸打組物として組紐を2本作製した。
この2本の組紐を、ジクロロメタンを用いて、マルチフィラメント一軸延伸糸の繊維表面の一部を溶解させることで溶着し、
図1に示すような圧電素子を得た。
この圧電素子を、
図2に示すような構成で圧電特性の評価を行った。
この圧電素子の表面を擦ることにより5Vと非常に大きな電圧が得られることがわかり、圧電素子(センサー)としての機能を発揮することを確認した。
【0074】
比較例1
PLLA1を用いて、Tダイを有するフィルム溶融押出装置を用いて、樹脂温度200℃で成形後、40℃の冷却ロールにより急冷し未延伸フィルムを得た。その後、引き続き、テンター方式の横延伸機において、延伸倍率2.5倍、80℃で横延伸、その後、熱固定ゾーンにて140℃で結晶化させて、幅70cmの延伸フィルムを得た。このフィルムを幅1cm長さ10cmに切り出し、両面に金蒸着を施し圧電素子を作成した。この金の表面導電層の体積抵抗率は1.0×10
−4Ω・cmであった。
図2で圧電素子をこのフィルム圧電素子に変えた以外は
参考例1と同様に評価した。
この圧電素子を評価したが、約0.1V未満の電圧しか得られず、圧電素子の表面の擦り力を十分に電圧に変換できないことが分かった。本願が目的としている圧電素子(センサー)としての機能を発揮しないことを確認した。