(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記決定工程では、前記熔融ガラス処理装置の温度、前記熔融ガラス処理装置の温度分布、および前記気相空間中の白金族金属の濃度のうちの少なくとも1つに基づいて、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度を決定する、請求項3に記載のガラス基板の製造方法。
前記熔融ガラス処理装置の温度が、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度以上に保たれるよう、前記不活性なガスの温度を調整する、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
前記処理工程では、さらに、前記熔融ガラス処理装置の温度が、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度以上に保たれるよう、前記不活性なガスの流量を調整する、請求項1から6のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
熔融ガラスを含む液相と、前記液相の液面と内壁とにより囲まれた気相空間とを有し、前記気相空間に接する内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置を有するガラス基板製造装置であって、
前記熔融ガラス及び前記白金族金属に不活性なガスを前記気相空間に供給し、
前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が低減されるよう、前記熔融ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるような温度に、前記不活性なガスの温度を、前記気相空間に供給する前に調整する、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、装置内雰囲気中の酸素濃度を下げようとした場合に、装置内雰囲気の温度が低下してしまう領域が発生し、雰囲気中に存在する白金族金属の揮発物が凝集する場合があることが分かった。
【0006】
本発明は、白金族金属の揮発物の凝集を低減できるガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下(1)〜(22)を提供する。
(1)ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスを含む液相と、前記液相の液面と内壁とにより囲まれた気相空間とを有し、前記気相空間と接する内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する処理工程と、を備え、
前記処理工程では、前記熔融ガラス及び前記白金族金属に不活性なガスを前記気相空間に供給し、
前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が低減されるよう
、前記熔融ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるような温度に調整された前記不活性なガスを前記気相空間に供給する、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0008】
(2)ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と内壁とにより囲まれた気相空間が形成され、前記気相空間と接する内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する処理工程と、を備え、
前記処理工程では、前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が、前記熔融ガラス及び前記白金族金属に不活性なガスの温度調整をしなかった場合における、前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集よりも低減されるよう
、前記熔融ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるような温度に調整された、前記不活性なガスを前記気相空間に供給することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0009】
(3)前記不活性なガスの温度を調整する前に、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度を決定する決定工程を備え、
前記処理工程では、前記決定工程で決定された、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度となるよう、前記不活性なガスの温度を調整する、上記(1)または上記(2)に記載のガラス基板の製造方法。
【0010】
(4)前記決定工程では、前記熔融ガラス処理装置の温度、前記熔融ガラス処理装置の温度分布、および前記気相空間中の白金族金属の濃度のうちの少なくとも1つに基づいて、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度を決定する、上記(3)に記載のガラス基板の製造方法。
【0011】
(5)前記熔融ガラス処理装置の温度が、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度以上に保たれるよう、前記不活性なガスの温度を調整する、上記(1)から上記(4)のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0012】
(6)前記熔融ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるよう、前記不活性なガスの温度を調整する、上記(1)から上記(5)のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0013】
(7)前記不活性なガスの温度を、前記熔融ガラス処理装置の最高温度以下となるよう調整する、上記(1)から上記(6)のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0014】
(8)前記処理工程では、さらに、前記熔融ガラス処理装置の温度が、前記揮発物の凝集が低減されるような前記温度以上に保たれるよう、前記不活性なガスの流量を調整する、上記(1)から上記(7)のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0015】
(9)前記熔融ガラス処理装置は、前記熔融ガラス処理装置内を流れる前記熔融ガラスの清澄を行う清澄装置であり、
前記清澄装置は、前記熔融ガラスの流れ方向に形成された温度分布を有している、上記(1)から上記(8)のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0016】
(10)前記不活性なガスの温度を、前記熔融ガラス処理装置内における白金族金属の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差が2Pa以下となるように調整する、上記(1)から上記(9)のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0017】
(11)ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、前記気相空間に接する壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置を用いて前記熔融ガラスを処理する処理工程と、を備え、
前記処理工程では、前記ガラス処理装置の温度が前記気相空間に存在する白金族金属の飽和蒸気圧となる温度以上となるよう
、前記ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるような温度に調整された、前記熔融ガラス及び前記白金族金属に前記不活性なガスを前記気相空間に供給する、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0018】
(12)熔融ガラスを含む液相と、前記液相の液面と内壁とにより囲まれた気相空間とを有し、前記気相空間に接する内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置を有するガラス基板製造装置であって、
前記熔融ガラス及び前記白金族金属に不活性なガスを前記気相空間に供給し、
前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が低減されるよう、
前記熔融ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるような温度に、前記不活性なガスの温度を、前記気相空間に供給する前に調整する、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
【0019】
(13)熔融ガラスの表面と内壁とにより囲まれた気相空間が形成され、前記気相空間に接する内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置を有するガラス基板製造装置であって、
前記熔融ガラス処理装置は、
前記熔融ガラス及び前記白金族金属に不活性なガスを前記気相空間に供給する供給装置と、
前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が、前記熔融ガラス及び前記白金族金属に不活性なガスを前記気相空間に供給せずに前記処理工程を行った場合における、前記気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集よりも低減されるよう、
前記熔融ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるような温度に、前記不活性なガスの温度を、前記気相空間に供給される前に調整する調整装置と、を有することを特徴とするガラス基板製造装置。
【0020】
(14)前記不活性なガスの温度を調整する前に、前記揮発物の凝集が低減されるよう調整される前記不活性なガスの温度を決定する決定装置を有し、
前記決定された前記不活性なガスの温度となるよう、前記不活性なガスの温度を調整する、上記(12)または上記(13)に記載のガラス基板製造装置。
【0021】
(15)前記揮発物の凝集が低減されるよう調整される不活性なガスの温度は、前記熔融ガラス処理装置の温度、前記熔融ガラス処理装置の温度分布、および前記気相空間中の白金族金属の濃度のうちの少なくとも1つに基づいて決定される、上記(14)に記載のガラス基板製造装置。
【0022】
(16)前記不活性なガスの温度を、前記熔融ガラス処理装置の温度が、前記白金族金属の揮発物の凝集が低減されるような前記温度以上に保たれるよう調整する、上記(12)から上記(15)のいずれか一つに記載のガラス基板製造装置。
【0023】
(17)前記不活性なガスの温度を、前記熔融ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるよう調整する、上記(12)から上記(16)のいずれか一つに記載のガラス基板製造装置。
【0024】
(18)前記不活性なガスの温度を、前記熔融ガラス処理装置の最高温度以下となるよう調整する、上記(12)から上記(17)のいずれか一つに記載のガラス基板製造装置。
【0025】
(19)前記処理工程では、さらに、前記熔融ガラス処理装置の温度が前記白金族金属の揮発物の凝集が低減されるような前記温度以上に保たれるよう、前記不活性なガスの流量を調整する、上記(12)から上記(18)のいずれか一つに記載のガラス基板製造装置。
【0026】
(20)前記熔融ガラス処理装置は、前記熔融ガラスを流しながら前記熔融ガラスの清澄を行う清澄装置であり、
前記清澄装置は、前記熔融ガラスの流れ方向に形成された温度分布を有している、上記(12)から上記(19)のいずれか一つに記載のガラス基板製造装置。
【0027】
(21)前記不活性なガスの温度を、前記熔融ガラス処理装置内における白金族金属の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差が2Pa以下となるように調整する、上記(12)から上記(20)のいずれか一つに記載のガラス基板の製造方法。
【0028】
(22)熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、前記気相空間に接する壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置を有するガラス基板製造装置であって、
前記ガラス処理装置の温度が前記気相空間に存在する白金族金属の飽和蒸気圧となる温度以上となるよう、
前記ガラス処理装置の最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるような温度に、前記熔融ガラス及び前記白金族金属に前記不活性なガスの温度を、前記気相空間に供給する前に調整する、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の効果】
【0029】
本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置によれば、白金族金属の揮発物の凝集を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置について説明する。
図1は、本発明のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
以降で説明する白金または白金合金等は、白金族金属であり、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、およびこれらの金属の合金を含む。
【0032】
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、成形工程(ST4)と、徐冷工程(ST5)と、切断工程(ST6)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0033】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。なお、ガラス原料には清澄剤が添加されることが好ましい。清澄剤については、環境負荷低減の点から、酸化錫が好適に用いられる。
【0034】
清澄工程(ST2)は、清澄槽の、白金又は白金合金等で構成される清澄管の内部で行われる。清澄工程では、清澄槽の管内の熔融ガラスが昇温される。この過程で、清澄剤は、還元反応により酸素を放出し、後に還元剤として作用する物質となる。熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡は、清澄剤の還元反応により生じたO
2と合体して体積が大きくなり、熔融ガラスの液面に浮上して破泡し消滅する。泡に含まれたガスは、清澄槽に設けられた気相空間を通じて外気に放出される。
【0035】
その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させる。この過程で、清澄剤の還元反応により得られた還元剤が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に溶けこむことで、泡が消滅する。
【0036】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。
【0037】
成形装置では、成形工程(ST4)及び徐冷工程(ST5)が行われる。
成形工程(ST4)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後述する本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法が用いられる例を挙げて説明する。
徐冷工程(ST5)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0038】
切断工程(ST6)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
熔解工程(ST1)の後から成形工程(ST4)の前の間の各工程は、熔融ガラス処理装置において熔融ガラスを処理する処理工程であり、以降の説明では、代表して清澄工程を例にして説明する。
【0039】
本実施形態のガラス基板の製造方法では、熔解工程の後から成形工程の前までの間に用いられる装置において以下の方法が実施される。
すなわち、ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程の後、熔融ガラスを、シートガラスに成形する前に、熔融ガラスを処理するための熔融ガラス処理装置に導入し、熔融ガラス処理装置を通過させる。この処理装置は白金または白金合金等を含む金属製の管あるいは槽を含む。そのとき、熔融ガラス処理装置は、熔融ガラスを含む液相と、液相の液面(表面)と内壁とにより囲まれた気相空間とを有し、気相空間に接する装置の内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されている。このように、熔融ガラス処理装置には、熔融ガラスの導入によって、熔融ガラスの表面と内壁とにより囲まれた気相空間が形成される。
【0040】
この熔融ガラス処理装置の気相空間には、雰囲気中の酸素濃度を低減するために、熔融ガラス、および、白金または白金合金等に対して不活性なガス(以降、不活性ガスともいう)が供給される。これにより、白金または白金合金の揮発を低減することができる。なお、装置内に供給する不活性ガスの温度が低いと、不活性ガスが流入した装置内の部分およびその近傍の部分で雰囲気温度が低下し、雰囲気中に存在する白金族金属の揮発物が凝集する場合がある。そこで、不活性ガスは、気相空間中に存在する白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度(以降、凝集低減温度ともいう)に予め調整され、気相空間に供給される。これにより、気相空間に存在する白金または白金合金等の揮発物の凝集を低減することができる。凝集低減温度とは、気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が現在よりも低減されるような温度、または、気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集が、不活性ガスの温度調整をしなかった場合における、気相空間に存在する白金族金属の揮発物の凝集よりも低減されるような温度、をいう。ここでいう凝集は、凝集の程度(例えば凝集物の量)を意味する。
【0041】
このような熔融ガラス処理装置は、熔解工程の後から成形工程の前の間の各工程で用いられる装置であって、液相と気相空間とを有する装置に適用される。例えば、清澄工程を行う清澄槽、均質化工程を行う攪拌槽、および、清澄槽、攪拌槽、成形装置に熔融ガラスを供給するためのガラス供給管に適用される。以降の説明では、代表して清澄槽に適用した形態で説明する。
【0042】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST6)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔融ガラス生成装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔融ガラス生成装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。
【0043】
図2に示す例の熔解槽(熔解装置)101は、ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる。清澄槽102は、白金または白金合金等からなる清澄管102a(
図3参照)を含む。清澄管102aの中において、熔融ガラスMGが液面を有するように気相空間が形成された状態で熔融ガラスMGを通過させる間、清澄槽102に設けられた少なくとも一対の電極板(
図3参照)間に電流を流して清澄管102aを通電加熱して、熔融ガラスMGから気相空間に泡を放出させる脱泡処理を少なくとも行う。攪拌槽103の中において、熔融ガラスMGが液面を有するように気相空間が形成された状態で熔融ガラスMGを通過させる間、攪拌槽103に設けられたスターラ103aによって熔融ガラスMGを攪拌して均質化する。
成形装置200は、成形体210を含み、清澄槽102、攪拌槽103で処理された熔融ガラスMGを、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、成形してシートガラスSGとする。さらに、成形装置200において、板厚偏差、歪、及び反りがシートガラスSGに生じないように、シートガラスSGが徐冷される。
切断装置300は、徐冷したシートガラスSGを切断してガラス基板とする。
【0044】
(清澄工程及び清澄槽)
図3(a)は、清澄工程を行う装置の構成を主に示す図である。
清澄工程は、脱泡処理と吸収処理とを含む。以降の説明では、清澄剤として酸化錫を用いた場合を例に説明する。酸化錫は、従来一般的に用いられていた亜ヒ酸に比べて清澄機能は低いが、環境負荷が低い点で清澄剤として好適に用いることができる。しかし、酸化錫は、清澄機能が亜ヒ酸に比べて低いので、酸化錫を用いた場合、熔融ガラスMGの清澄工程時の熔融ガラスMGの温度を従来より高くしなければならない。この場合、例えば清澄工程における熔融ガラスの温度の最高温度は、例えば、1630℃〜1720℃であり、好ましくは、1670℃〜1710℃である。なお、清澄工程における熔融ガラスの最高温度は、清澄剤による清澄を十分に行う観点から、熔解工程における熔融ガラスの最高温度との温度差が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。熔融ガラスの温度が変化すると、清澄工程において還元される酸化錫の量が変化するとともに、熔融ガラスの粘度が変化して熔融ガラスから気相空間に放出される酸素量も変化する。このため、熔融ガラスの温度が清澄槽に導入される前から後にかけて変化して熔融ガラスの温度履歴が形成されると、気相空間に放出される酸素量は変化する。したがって、清澄槽に導入される前後での熔融ガラスの温度差が大きいほど、清澄槽内で放出されるガス量が増加し、清澄が十分に行われる。
【0045】
熔解槽101で熔解された熔融ガラスMGは、ガラス供給管104(
図2参照)により、清澄槽102に導入される。
【0046】
清澄槽102は、供給装置および調整装置を有しており、好ましくは、決定装置をさらに有している。供給装置は、不活性ガスを気相空間に供給する装置である。調整装置は、不活性ガスの温度を、凝集低減温度となるように、気相空間に供給される前に調整する装置である。決定装置は、後述する決定工程を行う装置である。具体的に、清澄槽102は、
図3(a)に示すように、白金または白金合金等からなる長尺状の清澄管102aを含み、ガス導入管102h,102iと、清澄管102aの頂部に設けられた通気管102bと、電極板102c,102dと、フランジ102e,102fと、を備える。
【0047】
清澄管102aは、具体的には、熔融ガラスを含む液相とこの熔融ガラスの液面と清澄管102aの内壁とにより囲まれた気相空間とを有する。気相空間を囲む清澄槽102の内壁の少なくとも一部は白金または白金合金等の材料で構成されている。清澄管102aの気相空間には、不活性ガスが供給されるとともに、不活性ガスは、凝集低減温度に調整される。すなわち、不活性ガスは、気相空間に供給される前に、予め凝集低減温度に調整される。凝集低減温度は、不活性ガスの温度を調整する前に予め決定されることが好ましい。すなわち、本実施形態のガラス基板の製造方法は、上記した各工程の他に、不活性ガスの温度を調整する前に凝集低減温度を決定する決定工程を有し、清澄工程では、不活性なガスの温度を、決定工程で決定された凝集低減温度となるよう調整することが好ましい。不活性ガスの温度を、予め決定された凝集低減温度を目標温度として調整することで、不活性ガスの温度は、単に加熱等によって調整される場合と比べて適正な温度に調整される。不活性ガスの温度が適正な温度に調整される結果、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されつつ、不活性ガスの温度が高くなり過ぎることが抑えられる。
【0048】
決定工程では、具体的に、清澄槽の温度、清澄槽の温度分布、および気相空間中の白金または白金合金等の濃度のうちの少なくとも1つに基づいて、凝集低減温度を決定することが好ましい。このようなパラメータに基づいて凝集低減温度が決定されることで、これら各パラメータのうち少なくとも1つが変化した場合に、凝集低減温度を改めて決定する(再設定する)ことができ、不活性ガスをより適切な温度に調整することができる。凝集低減温度を決定するのに用いられるパラメータは、清澄槽の温度、清澄槽の温度分布、および気相空間中の白金または白金合金等の濃度のいずれか1つ、いずれか2つの組み合わせ、または、全てのパラメータであってもよい。このような温度調整は、清澄槽の温度、清澄槽の温度分布、および気相空間中の白金または白金合金等の濃度をモニタリングし、これらパラメータの変化をフィードバックさせて行うことができる。各パラメータの変化に関しては後で説明する。
【0049】
清澄槽102は、不活性ガスを気相空間内に導入するガス導入管102h,102iを有する。不活性ガスには、例えば、窒素ガス、あるいは、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の希ガス、あるいは、これらのガスの混合ガスが用いられる。気相空間の酸素濃度は、不活性ガスを導入することで10%以下、より好ましくは5%以下となることが好ましい。ガス導入管102h,102iは、清澄管102aの内壁に設けられたガス導入口102j,102kに接続されており、
図3(b)に示すように、不活性ガスがガス導入口102j,102kを通って気相空間に導入される。
図3(b)は、清澄管102aの内部のガスの流れを説明する図である。
【0050】
ガス導入管102h,102iからの不活性ガスの導入は、本実施形態では、ガス導入口102j,102kのようなノズルから導入されるが、必ずしもノズルに制限されず、公知の方法で不活性ガスが導入されてもよい。導入される不活性ガスは、清澄管102aの温度が白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上の温度に保たれるよう、調整されていることが好ましい。このように、清澄管102aが全体として、凝集低減温度以上の温度に保たれていることにより、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、温度が低下した部分およびこれに隣接する部分において、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集することが低減される。あるいは、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下することを抑制できる。
【0051】
上記した凝集低減温度としては、例えば、清澄管102aの最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれる温度が挙げられる。清澄管102aがこのような温度差に保たれることで、清澄管102aの白金または白金合金等で構成された内壁から揮発した揮発物の凝集を効果的に低減することができる。白金または白金合金等の飽和蒸気圧は温度が低い程低くなるため、揮発物の一部は温度の低い領域で凝集し易くなる。特に、清澄管102aの最低温度となる部分およびこれに隣接する部分では、このような揮発物の凝集が起きやすい。したがって、清澄管102aにおける上記温度差を150℃以内にすることで、揮発物が飽和蒸気圧の温度依存性の曲線(飽和蒸気圧曲線)に従って凝集する量は少なくなる。このため、気相空間と接する内壁に白金または白金合金等の凝集物が析出する量は少なく、析出した凝集物の一部が離脱し、微粒子となって熔融ガラスGに落下することは少なくなる。これによって、熔融ガラスGに白金族金属の異物が混入することを抑制できる。なお、ここでいう温度差は、清澄管102aの内壁の温度差である。上記温度差は、好ましくは100℃以内であり、より好ましくは50℃以内である。あるいは、上記した凝集低減温度としては、例えば、清澄管102aの温度を、気相空間に存在する白金または白金合金等の飽和蒸気圧となる温度以上にする不活性ガスの温度が挙げられる。
【0052】
また、上記した凝集低減温度としては、清澄管102aの温度を、清澄管102aにおける白金または白金合金等の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差が2Pa以下となるような温度にする不活性ガスの温度が挙げられる。これは、清澄管102aの最高温度と最低温度との差が大きくなり、清澄管102aにおける白金または白金合金等の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差が大きくなるほど、白金または白金合金等の凝集物が析出する量が多くなるためである。白金または白金合金等の飽和蒸気圧の最大値と最小値との差は、0〜2Paであることが好ましく、0.01〜1.5Paであることがより好ましい。
なお、白金または白金合金等の異物(凝集物)は、一方向に細長い線状物である。白金または白金合金等の凝集物の最大長さとは、白金または白金合金等の凝集物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形の最大長辺の長さをいう。最小長さとは、白金族金属の異物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形の最小短辺の長さをいう。本明細書では、白金または白金合金等の異物(凝集物)は、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100を超える白金族金属の異物を指す。例えば、白金族金属の異物の最大長さは50μm〜300μm、最小長さは0.5μm〜2μmである。
【0053】
不活性ガスの温度調整を行う場合は、温度調整に必要な熱量を減らし、エネルギー効率を高める観点から、不活性ガスの温度を、清澄管102aの最高温度以下となるよう調整することが好ましい。例えば、清澄管102aの温度が1400〜1750℃である場合に、不活性ガスの温度は500〜1750℃に調整されることが好ましく、800℃〜1500℃に調整されることがより好ましい。
なお、不活性ガスの温度調整は、不活性ガスが気相空間に導入される前に予め行われていればよく、清澄管102a内での熔融ガラスの清澄と並行して、不活性ガスの温度調整が行われてもよい。
【0054】
不活性ガスの温度調整は、具体的には、加熱によって行われる。加熱の方法は、特に制限されないが、例えば、
図4(a)および
図4(b)に示す加熱機構を用いて行うことができる。加熱機構は、上記調整装置に含まれる。
図4(a)および
図4(b)はいずれも、不活性ガスの温度調整に用いられる加熱機構の例を示す図であり、
図3(b)に示される清澄管102aをガス導入管102iに注目して示す図である。ここでは図示されないが、
図4(a)および
図4(b)に示す加熱機構は、ガス導入管102hにも適用される。
【0055】
図4(a)に示す例では、清澄管102aの周りは、耐火物レンガ110で覆われている。耐火物レンガ110は、ガス導入管102iの周りを覆うよう設けられている。耐火物レンガ110は、清澄管102aを保温する断熱材であり、清澄管102aから伝わる熱を予熱として保持できる。ガス導入管102iが耐火物レンガ110に覆われていることで、不活性ガスは、ガス導入管102iを通るときに温められる。また、耐火物レンガには、一般的に隙間が存在していることが多く、その隙間から不活性ガスが漏れ出すことがある。そのため、不活性ガスが漏れを防ぎ、清澄管102a内に導入される不活性ガスの流量を精度よく調整できる点で、不活性ガスは、ガス導入管102iを介して清澄管102a内に導入されることが好ましい。一方で、ガス導入管102iは省略されてもよい。この場合は、例えば、ガス導入管102iの代わりに耐火物レンガ110によって不活性ガスの流路が形成されるように、耐火物レンガ110を清澄管102aの周りに設けてもよい。不活性ガスは、耐火物レンガ110内で形成された上記流路を、耐火物レンガ110に接触しながら通過することで、清澄管102a内に導入される前に温められる。
【0056】
図4(b)に示す例では、ガス導入管102iの周りには、ヒータ120が設けられている。ヒータ120には、電熱コイル、ハロゲンヒータ等の公知の加熱機構が用いられる。ヒータ120は、
図4(b)において、電熱線をガス導入管102iの周りに巻きつけて構成された電熱コイルである。ヒータ120は、清澄時にガス導入管102i内を通る不活性ガスの温度が所定の温度範囲に保たれるよう、図示されない制御装置によって温度制御される。この場合、ヒータ120の熱源には、白金又は白金合金を用いることが好ましい。また、ヒータ120とガス導入管102iとを絶縁するために、例えば、ガス導入管102i又はヒータ120のいずれかに溶射膜を設けることが好ましい。
ヒータ120は、電熱コイルの代わりに、図示されないハロゲンヒータが用いられてもよい。ハロゲンヒータは、ガス導入管102iの側壁に向かい合うよう、1または複数台が配される。
【0057】
図4(a)および
図4(b)に示される加熱機構のほか、例えば、図示されない電極が用いられてもよい。この場合、ガス導入管102iは白金又は白金合金等からなる材料で構成されることが好ましい。電極は、例えばガス導入管102iの長手方向(
図4の上下方向)の両端に接続され、これら電極の間に電流を流すことで、ガス導入管102iは通電加熱される。
以上説明した、
図4(a)に示す加熱機構、
図4(b)に示す加熱機構、およびその他の加熱機構は、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0058】
不活性ガスは、清澄工程において、さらに、流量が調整されることが好ましい。ここでいう流量は、清澄管102aの気相空間内に供給される不活性ガスの供給量をいう。不活性ガスの流量は、具体的には、清澄管102aの温度が、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれるように調整される。また、不活性ガスの流量は、清澄管102aの酸素濃度が目標酸素濃度となるように調整される。目標酸素濃度とは、清澄管102aにおける白金または白金合金等の揮発物の蒸気圧が、清澄管102aの温度から求められた飽和蒸気圧以下となるような酸素濃度である。
清澄管102a全体が、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれていることにより、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、温度が低下した部分およびこれに隣接する部分において、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集するのを低減できる。不活性ガスの流量が多い場合と少ない場合とでは、不活性ガス温度が等しくても、流量が多い場合の方が清澄管102aの温度に与える影響が大きい。例えば、不活性ガスの温度が清澄管102aよりも低い場合には、流量が多いほど、清澄管102aの温度は大きく低下する。しかし、不活性ガスの流量が調整されることで、白金または白金合金等の揮発物を低減しつつ、白金または白金合金等の揮発物の凝集を低減することができる。不活性ガスの流量は、不活性ガスの流量、ガス導入管102iの直径及び長さから求められる清澄管102aに流れ込む不活性ガスの温度と、この不活性ガスによって変化する清澄管102a温度に基づいて決定することができる。例えば、不活性ガスの流量は、5〜20リットル/分である。不活性ガスの流量の調整は、たとえば、ガス導入管102h,102iと、不活性ガスの図示されない供給源との間に配された弁を操作することで行われる。
なお、不活性ガスは、連続的または断続的に、清澄管102a内に供給することができる。
【0059】
図3の説明に戻り、通気管102bは、
図3(b)に示すように、清澄管102aの気相空間と大気とを接続し、気相空間内の気体や不活性ガスを大気に排出する。通気管102bは、清澄槽102の略中央部で、フランジ102eとフランジ102fとの間に設けられている。本実施形態の通気管102bの形状は、煙突状に真っ直ぐ上方に延びる形状をなしているが、この形状に制限されない。途中で屈曲する形状等であってもよい。
清澄槽102には、気相空間中の気体を吸引する吸引装置が設けられることが好ましい。また、吸引装置は、通気管102bと接続するように設けられることが好ましい。ガス導入管、吸引装置、又はその両者を用いて気相空間の気圧を調整することで、気相空間内に所望の気流を発生させることができる。
【0060】
清澄管102aには、フランジ102e,102fを介して電極板102c,102dが設けられている。フランジ102eは、清澄管102aの一方の端部に設けられている。フランジ102fは、清澄管102aの長手方向の途中の位置に設けられている。勿論、フランジ102fも、清澄管102aの他方の端部に設けられてもよい。電極板102c,102dは、電力供給源である交流電源102gと接続され、所定の電圧が印加される。フランジ102e,102fは、導電性を有する金属で構成され、電極板102c、102dからの電流を、清澄管102aの周上に均一に分散するように流す。電極板102c,102dは、清澄管102aに電流を流して清澄管102aを通電加熱することにより、清澄管102aを流れる熔融ガラスMGの温度を例えば1630℃以上に昇温する。
一方で、熔融ガラスMGは、清澄管102a内において、熔融ガラスMGが液面を有するように流れる。上述した清澄管102aの通電加熱により粘性が例えば120〜400ポアズになった熔融ガラスMGは、熔融ガラスMG内で清澄剤の作用により膨張した泡を浮上させ、熔融ガラスMGの液面で破泡させ気相空間に泡に含まれるガスを放出する。すなわち、脱泡処理が行われる。したがって、清澄管102aは、その内部に、熔融ガラスMGが液面を有するように気相空間を有する。
清澄管102a内の上方の気相空間で破泡して放出された気体は、通気管102bから清澄管102a外の大気に放出される。
清澄管102a内を流れる熔融ガラスMGの温度は例えば1630℃以上に維持された後、清澄管102aの後半部分以降または後続するガラス供給管105以降において徐々に(段階的にあるいは連続的に)降温され、泡の吸収処理が行われる。吸収処理では、上述したように気泡が熔融ガラスMGの降温により熔融ガラスMG内に吸収され消滅する。
図3(a)では、一対の電極板102c,102dを設けた例が示されているが、例えば、清澄管102aの後半部分において降温する場合、電極板102c,102dの他に1対以上の電極板を設けてもよい。
【0061】
なお、清澄管102aは、上述したように、通電加熱により高温(例えば、1700℃程度)に加熱されるので、白金または白金合金等からなる清澄管102aの内壁から白金または白金合金等が揮発し易い。しかも、清澄管102aの気相空間は、上述したように、大気と通じているので気相空間内には酸素が存在し、さらに、脱泡により生じた気体にも酸素が成分として含まれているので、気相空間内の酸素濃度は、大気の酸素濃度よりも高くなっている。したがって、白金または白金合金等の揮発は促進される。このように、気相空間には、清澄管102aの内壁から気化した白金または白金合金の揮発物を多く含んでいる。
【0062】
本実施形態の清澄槽102では、
図3(a)に示すように、ガス導入口102j,102kをフランジ102e,102fを設けた部分に設けられる。これは、ガス導入口102j,102kから導入された不活性ガスが、
図3(b)に示すように、通気管102bに向かって流れるようにするためである。フランジ102e,102fは、電極板102c,102dからの電流を清澄管102aの周上に均一に拡散するために設けられるが、フランジ102e,102fは、清澄管102aから伝わる熱を外部に放射するため、また、熱によるフランジ102e,102fの破損を抑制するための図示されない冷却装置がフランジ102e,102fに併設されてフランジ102e,102fを冷却するので、フランジ102e,102fが設けられる清澄管102aの内壁の部分、すなわち、フランジ対応部分の温度は、このフランジ対応部分の周りの温度に比べて低くなっている。
【0063】
図5は、清澄管102aの内壁の温度の清澄管102aの長手方向に沿った温度分布の一例を模式的に示す図である。このような温度は、熱電対等を清澄管102aの内壁あるいは内壁に近い気相空間に配置して計測することで取得することができる。また、清澄管102aの外壁に配置した熱電対等で計測し取得した温度を用いて、清澄管102aの内壁の温度分布を取得してもよい。熱電対等は、清澄管102aの長手方向に沿って複数箇所に設けられることが好ましい。清澄管102aの場合、フランジ102e,102fが設けられるフランジ対応部分で温度が周りの部分の温度に比べて低く、さらに言うと、最も低く、通気管102bに進むにつれて温度が徐々に高くなっている。しかし、通気管102bは、大気に近い領域に突出する管であるので、大気への熱の放射は避けられない。このため、通気管102bの設けられる部分では、温度が低下する。しかし、この部分の温度は、フランジ対応部分の温度よりも高い。清澄管102aでは、このような温度分布を有する。なお、本実施形態において、熔融ガラス処理装置が清澄槽である場合、清澄工程における清澄槽102の最高温度は、1630〜1750℃であることが好ましく、1670〜1750℃であることがより好ましい。熔融ガラス処理装置の最高温度が低すぎる場合は、熔融ガラス処理装置が清澄槽である場合に、清澄不足となってしまうことから、清澄槽の最高温度は、このような温度範囲であることが好ましい。清澄槽102の温度は、例えば清澄管102の外壁に設けた熱電対によって測定できる。
【0064】
このような清澄槽102において、上述した清澄槽102の温度、清澄槽102の温度分布、および気相空間中の白金または白金合金等の濃度の各パラメータは、下記のように変化しうる。
清澄槽102の温度は、通電加熱によって清澄管102aを流れる電流量や、清澄管102aの放熱量が変化することで変化する。清澄管102aの放熱量は、清澄管102aに隣接して配置された部材(耐火物レンガ110等)の熱伝導率や、清澄槽102を冷却するための後述する冷却装置の有無、その冷却能力によって変化する。
清澄槽102の温度分布は、例えば、清澄管102aの長手方向における温度分布であり、上述した清澄槽102の最高温度と最低温度の温度差として表される。清澄槽102の温度分布は、清澄槽102の加熱量の分布や、放熱量(冷却量)の分布によって変化する。清澄槽102の加熱量の分布は、清澄管102のフランジ102e、102fの位置や、通電加熱によって清澄管102aを流れる電流量(通電量)の分布によって変化する。清澄槽102の放熱量の分布は、例えば、清澄管102aに隣接して配置された部材(耐火物レンガ110等)の熱伝導率や、清澄管102aのフランジ102e、102fの形状等によって変化する。
【0065】
気相空間中の白金または白金合金等の濃度は、気相空間の白金または白金合金等の蒸気圧(以降、白金蒸気圧ともいう)を用いて特定することができる。熔融ガラス処理装置の気相空間の白金蒸気圧は、例えば1〜10Paであり、熔融ガラス処理装置が清澄槽である場合は、例えば3〜10Paである。気相空間の白金蒸気圧は、清澄槽102からの白金または白金合金等の揮発量や、気相空間内の気流の流速等によって変化する。白金または白金合金等の揮発量は、清澄槽102の温度や、気相空間内の酸素濃度、気相空間の白金蒸気圧によって変化する。気相空間の白金蒸気圧は、白金または白金合金等の揮発量や、気相空間内の気流の流速によって変化する。気相空間の酸素濃度は、熔融ガラスから放出される酸素量や、気相空間に供給される不活性ガスの量によって変化する。熔融ガラスから放出される酸素量は、熔融ガラスの温度や、熔融ガラスの熱履歴、熔融ガラス中の清澄剤(例えば酸化錫)の含有量によって変化する。熔融ガラスの熱履歴は、例えば熔融ガラスの温度が清澄槽に導入される前から後にかけて変化することで形成される。
このような各パラメータの変化に基づいて凝集低減温度を決定し、これを目標温度として不活性ガスの温度調整を行うことで、不活性ガスの温度が適正な温度に調整され、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されつつ、不活性ガスの温度が高くなり過ぎることが抑えられる。
【0066】
本実施形態によれば、清澄管102a内の雰囲気中の酸素濃度を低減するために、不活性ガスが供給されるとともに、不活性ガスは、気相空間中に存在する白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度に調整され、気相空間に供給される。したがって、清澄管102aが上記温度分布を有していても、清澄管102a内の雰囲気の酸素濃度を低減することで白金または白金合金等の揮発を低減しながら、フランジ対応部分や通気管102bおよびこれらに隣接する部分における白金または白金合金等の揮発物の凝集を低減できる。
特に、清澄管102aが全体として、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれている場合は、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集するのを低減できる。この場合に、例えば、不活性ガスの温度が、清澄管102aの最高温度を示す部分と最低温度を示す部分との温度差が150℃以内に保たれるよう調整される場合は、清澄管102aの白金または白金合金等で構成された内壁から揮発した揮発物の凝集を効果的に低減することができる。その際、不活性ガスの温度を、清澄管102aの最高温度以下となるよう調整することで、さらに、温度調整に必要な熱量を減らし、エネルギー効率を高めることができる。
また、清澄管102aの温度が、白金または白金合金等の揮発物の凝集が低減されるような温度以上に保たれる温度に調整される場合は、不活性ガスが気相空間に導入されて、清澄管102aの温度が局部的に低下しても、温度が低下した部分およびこれに隣接する部分において、気相空間内に存在する白金または白金合金等の揮発物が凝集するのを低減できる。
【0067】
(ガラス組成)
このようなガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は用いられる。
SiO
2:55〜75モル%、
Al
2O
3:5〜20モル%、
B
2O
3:0〜15モル%、
RO:5〜20モル%(RはMg、Ca、Sr及びBaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)、
R’
2O:0〜0.8モル%(R’はLi、K、及びNaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)。
上記ガラスは、高温粘性が高いガラスの一例である。このようなガラスにおいて、清澄管102aにおいて適正な熔融ガラスの粘度で脱泡を行うために熔融ガラスを高温に加熱する。このため、清澄管102aの内壁から揮発物は多量に揮発し、揮発物の凝集が問題となる。このような場合、白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する本実施形態の効果は顕著となる。なお、本実施形態において製造されるガラス基板において、酸化錫の含有量は、例えば、0.01〜0.3モル%であり、好ましくは0.03〜0.2モル%である。酸化錫の含有量が0.01%以上であることで、清澄不良を抑制できる。また、酸化錫の含有量0.3モル%以下であることで、酸化錫の2次結晶の生成を抑制できる。
【0068】
このとき、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であってもよい。すなわち、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であるガラスは、高温粘性が特に高く、清澄をし難いガラスの一例である。そのため、白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する本実施形態の効果はより顕著となる。また、アルカリ金属酸化物の含有量が少ないほどガラス粘度は高くなる傾向にあるので、アルカリ金属酸化物の合量であるR’
2Oが0〜0.8モル%であるガラスは特に粘性が高い。粘度が高いガラスを十分に清澄させるためには清澄槽温度(白金または白金合金)の温度を高くする必要があるが、このような粘度の高いガラスを製造する場合であっても、本実施形態を適用することで白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果が得られる。
【0069】
また、本実施形態の白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果は、上述した高温粘性の高いガラスを用いる場合の他、熔解温度の高いガラスを用いる場合においても、顕著となる。例えば、熔解温度の指標となる粘度が10
2.5ポアズであるときの温度が1500℃以上であるガラスを製造する場合には、本実施形態の白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果が顕著となる。
【0070】
ガラス基板の歪点は650℃以上であってもよく、690℃以上であることがより好ましく、730℃以上であることがさらに好ましい。また、歪点が高いガラスは、粘度が10
2.5ポアズにおける熔融ガラスの温度が高くなる傾向にあり、清澄がし難くなるため、本実施形態の効果が顕著となる。
【0071】
また、酸化錫を含み、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度が1500℃以上となるようにガラス原料を熔解した場合、より本実施形態の効果が顕著となり、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は、例えば1500〜1700℃であり、1550〜1650℃であってもよい。
【0072】
本実施形態で製造されるガラス基板は、ディスプレイ用ガラス基板、特にフラットパネルディスプレイ用ガラス基板として好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を用いた酸化物半導体ディスプレイ、LTPS(低温ポリシリコン)ディスプレイ、有機ELディスプレイ等に用いられるディスプレイ用ガラス基板として好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0073】
さらに、作製するガラス基板の板厚が薄いガラス基板、例えば0.01mm〜0.5mm、さらには0.01mm〜0.3mm、さらには0.01mm〜0.1mmのガラス基板においても、本実施形態の白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果は、板厚の厚いガラス基板に比べて顕著となる。清澄管102a等の内壁に凝集した白金または白金合金等の凝集物の一部が微粒子となって熔融ガラス中に落下し、熔融ガラス中に混入しガラス基板に含まれる。この場合、ガラス基板の板厚が薄いほど、欠陥となる微粒子はガラス基板の表面に位置することが多い。ガラス基板の表面に位置する微粒子は、ガラス基板を用いたパネル製造工程において離脱すると、離脱した部分が凹部となり、ガラス基板上に形成される薄膜が均一に形成されず、画面の表示欠陥をつくる。したがって、本実施形態のように清澄管102aにおいて白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果は、板厚が薄いガラス基板ほど大きくなる。
【0074】
なお、本実施形態では、清澄槽102に適用した例を示したが、熔融ガラスを均質化する攪拌槽103や、ガラス供給管104,105,106に適用することもできる。
攪拌槽103の内壁のうち温度が低い部分は、攪拌槽103の天井壁と側壁の接続部分である場合が多い。この場合、上記接続部分から不活性ガスを気相空間内に供給することが好ましい。このとき、攪拌槽103とスターラ103aとの間の隙間から気相空間内の気体やガスを不活性外部に流すことができる。
ガラス供給管104,105,106には、管の途中で、熔融ガラスのバブリング、攪拌、流量調整を行うものがある。このようなガラス供給管には、気相空間が形成されており、ガラス供給管に設けたガス導入管から不活性ガスを気相空間内に供給することが好ましい。この場合、ガラス供給管に別途設けた隙間から気相空間内の気体や不活性ガスを外部に流すことができる。
【0075】
(実験例)
上記説明した製造方法に従って、ガラス原料を溶かして熔融ガラスをつくり、
図4(a)に示す清澄槽にて清澄工程を行った。清澄工程の間、清澄管内には、温度調整を行った窒素ガスを供給した。窒素ガスの温度調整は、窒素ガスを、耐火物レンガに囲まれたガス供給管を通過させて温めることにより行った。なお、清澄工程は、清澄槽に設けた2つの電極板間に電流を流すことにより行い、清澄管の最高温度が1650〜1700℃となる温度範囲で行った。清澄後、熔融ガラスをシートガラスに成形し、100枚のガラス基板を作成した(実施例1〜6、比較例1〜2)。このとき、窒素ガスの温度は、清澄管の最高温度と最低温度との差が各設定した温度を保つように決定した。清澄時間は1時間であった。なお、ガラス基板のガラス組成は、SiO
2 66.6モル%、Al
2O
3 10.6モル%、B
2O
3 11.0モル%、MgO,CaO,SrO及びBaOの合量 11.4モル%、SnO
2 0.15モル%、Fe
2O
3 0.05モル%、アルカリ金属酸化物の合量0.2モル%であり、であり、歪点は660℃、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は1570℃であった。
一方、不活性ガスの温度調整を行わなかった点を除いて、上記実施例と同様にして、熔融ガラスの清澄を行った(比較例)。比較例において、最低温度と最高温度との差は200〜350℃であった。
【0076】
実施例および比較例のガラス基板の白金異物の有無を、目視で確認したところ、最低温度と最高温度との差が150℃以下の実施例では、白金異物が確認されたガラス基板の数は、最低温度と最高温度との差が350℃である場合の1/6以下に抑えられ、清澄管内に温度調整を行った不活性ガスを供給することにより、白金または白金合金等の揮発物の凝集を低減できることが確認された。
【0077】
より具体的な窒素温度調整の結果を下記表1に示す。清澄管において最低温度となる領域と最高温度となる領域との温度差が10℃、50℃、80℃、100℃、120℃、170℃、200℃、250℃である場合において、ガラス基板1kgあたりの白金異物数をカウントした。なお、表1では、最高温度と最低温度の温度差が120℃である場合の白金異物数を1.0としたときの、この白金異物数に対する夫々の条件における白金異物数の比率を示した。温度差が200℃、250℃である場合(比較例1〜2)に対し、窒素温度を調整し、上記温度差を10℃、50℃、80℃、100℃、120℃、170℃に保った場合(実施例1〜6)では、ガラス基板中の白金異物の量を抑制できたことは明らかである。特に、温度差が10℃、50℃、80℃、100℃、120℃となるように制御してガラス基板を製造した場合、ガラス基板の白金異物は、0.001個/kg以下に抑えることができ、特に好ましいことがわかった。
【0079】
図6は、実施例1〜6、比較例1〜2の結果の一例を示す図である。
図6に示すグラフの縦軸は、温度差が120℃である場合の白金異物数を1.0としたときのこの白金異物数に対する夫々の条件における白金異物数の比率である。温度差が170℃を超えると比率が急激に立ち上がり(増大し)、ガラス基板の歩留まりが急激に悪化する。以上のことからも比率が1.5を超えないように、窒素温度を調整することで、温度差を150℃以下に保つことが好ましいことがわかる。
【0080】
以上、本発明のガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。