(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の左車輪を駆動する第1電動機と、前記第1電動機と前記左車輪との動力伝達経路上に設けられた第1変速機と、を有する左車輪駆動装置と、前記車両の右車輪を駆動する第2電動機と、前記第2電動機と前記右車輪との動力伝達経路上に設けられた第2変速機と、を有する右車輪駆動装置と、前記第1電動機と前記第2電動機とを制御する電動機制御手段と、を備える車両用駆動装置であって、
前記第1及び第2変速機は、それぞれ第1乃至第3回転要素を有し、
前記第1変速機の前記第1回転要素に前記第1電動機が接続され、
前記第2変速機の前記第1回転要素に前記第2電動機が接続され、
前記第1変速機の前記第2回転要素に前記左車輪が接続され、
前記第2変速機の前記第2回転要素に前記右車輪が接続され、
前記第1変速機の前記第3回転要素と前記第2変速機の前記第3回転要素とが互いに連結され、
前記車両用駆動装置は、作動及び非作動可能とされ、作動とすることにより前記第3回転要素の回転を規制するとともに非作動とすることにより前記第3回転要素の回転を許容する回転規制手段と、
前記回転規制手段を作動とし、前記第1電動機及び前記第2電動機の回転数が前記車両の速度に比例する第3回転要素規制状態と、前記回転規制手段を非作動とし、前記第1電動機及び前記第2電動機の回転数が前記車両の速度に比例しない第3回転要素自由状態と、を切り替える状態切替手段と、をさらに備え、
前記状態切替手段が、前記第3回転要素規制状態から前記第3回転要素自由状態に切り替えるときに、電動機仕様により定まる前記第1電動機又は前記第2電動機の上限トルクが切り替え前と切り替え後とで異なり、且つ、前記切り替え後の前記第1電動機又は前記第2電動機の上限トルクである自由状態上限トルクが前記切り替え時点での前記切り替え前における上限トルクである規制状態上限トルクより高い場合に、
前記電動機制御手段は、前記切り替え後の前記第1電動機又は前記第2電動機の制限トルクである自由状態制限トルクを、切り替え時点での前記切り替え前における前記規制状態上限トルク、及び該規制状態上限トルクよりも絶対値の小さい値に設定された前記第1電動機又は前記第2電動機の制限トルクである規制状態制限トルクのうちの何れか小さいものと略等しい値に設定することによって、前記切り替え後における前記自由状態上限トルクよりも小さいものとし、前記第1電動機又は前記第2電動機の発生するトルクが前記自由状態制限トルク未満となるよう制御することを特徴とする車両用駆動装置。
前記状態切替手段は、前記第1電動機の回転状態量関連値、前記第2電動機の回転状態量関連値、前記左車輪の回転状態量関連値、前記右車輪の回転状態量関連値、又は前記車両の速度の何れかである第1参照値に基づいて前記切り替えを行い、
前記状態切替手段は、さらに前記第1電動機のトルク状態量関連値、前記第2電動機のトルク状態関連値、前記左車輪のトルク状態量関連値、若しくは前記右車輪のトルク状態量関連値の何れかである第2参照値、前記車両の旋回状態量関連値である第3参照値、又は、前記車両の横加速度関連値、若しくは路面摩擦状態関連値の何れかである第4参照値の何れかに基づいて前記切り替えを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
前記第2参照値が所定値以上のときに、前記状態切替手段は、前記回転規制手段を非作動として前記第3回転要素自由状態とすることを特徴とする請求項3に記載の車両用駆動装置。
前記状態切替手段は、前記第1電動機の回転状態量関連値、前記第2電動機の回転状態量関連値、前記左車輪の回転状態量関連値、前記右車輪の回転状態量関連値、又は前記車両の速度の何れかである第1参照値に基づいて前記回転規制手段を作動として前記第3回転要素規制状態とした状態で、前記第1参照値とは異なる他の参照値に基づいて前記回転規制手段を非作動として前記第3回転要素自由状態に切り替えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
前記他の参照値は、前記第1電動機のトルク状態量関連値、前記第2電動機のトルク状態関連値、前記左車輪のトルク状態量関連値、若しくは前記右車輪のトルク状態量関連値の何れかである第2参照値、前記車両の旋回状態量関連値である第3参照値、又は、前記車両の横加速度関連値、若しくは路面摩擦状態関連値の何れかである第4参照値の少なくとも一つであることを特徴とする請求項6に記載の車両用駆動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、省エネルギー化及び燃費向上の要請、快適性向上の要請等が強くなっており、特許文献1に記載の車両用駆動装置においても、制御性について改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、制御性に優れた車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
車両の左車輪(例えば、後述の実施形態の左後輪LWr)を駆動する第1電動機(例えば、後述の実施形態の第1電動機2A)と、前記第1電動機と前記左車輪との動力伝達経路上に設けられた第1変速機(例えば、後述の実施形態の第1遊星歯車式減速機12A)と、を有する左車輪駆動装置と、前記車両の右車輪(例えば、後述の実施形態の右後輪RWr)を駆動する第2電動機(例えば、後述の実施形態の第2電動機2B)と、前記第2電動機と前記右車輪との動力伝達経路上に設けられた第2変速機(例えば、後述の実施形態の第2遊星歯車式減速機12B)と、を有する右車輪駆動装置と、前記第1電動機と前記第2電動機とを制御する電動機制御手段(例えば、後述の実施形態の制御装置8)と、を備える車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の後輪駆動装置1)であって、
前記第1及び第2変速機は、それぞれ第1乃至第3回転要素を有し、
前記第1変速機の前記第1回転要素(例えば、後述の実施形態のサンギヤ21A)に前記第1電動機が接続され、
前記第2変速機の前記第1回転要素(例えば、後述の実施形態のサンギヤ21B)に前記第2電動機が接続され、
前記第1変速機の前記第2回転要素(例えば、後述の実施形態のプラネタリキャリア23A)に前記左車輪が接続され、
前記第2変速機の前記第2回転要素(例えば、後述の実施形態のプラネタリキャリア23B)に前記右車輪が接続され、
前記第1変速機の前記第3回転要素(例えば、後述の実施形態のリングギヤ24A)と前記第2変速機の前記第3回転要素(例えば、後述の実施形態のリングギヤ24B)とが互いに連結され、
前記車両用駆動装置は、作動及び非作動可能とされ、作動とすることにより前記第3回転要素の回転を規制するとともに非作動とすることにより前記第3回転要素の回転を許容する回転規制手段(例えば、後述の実施形態の油圧ブレーキ60A、60B)と、
前記回転規制手段を作動とし、前記第1電動機及び前記第2電動機の回転数が前記車両の速度に比例する第3回転要素規制状態(例えば、後述の実施形態のリングロック状態)と、前記回転規制手段を非作動とし、前記第1電動機及び前記第2電動機の回転数が前記車両の速度に比例しない第3回転要素自由状態(例えば、後述の実施形態のリングフリー状態)と、を切り替える状態切替手段(例えば、後述の実施形態の制御装置8)と、をさらに備え、
前記状態切替手段が、前記第3回転要素規制状態から前記第3回転要素自由状態に切り替えるときに、電動機仕様により定まる前記第1電動機又は前記第2電動機の上限トルクが切り替え前と切り替え後とで異な
り、且つ、前記切り替え後の前記第1電動機又は前記第2電動機の上限トルクである自由状態上限トルクが前記切り替え時点での前記切り替え前における上限トルクである規制状態上限トルクより高い場合に、
前記電動機制御手段は、前記切り替え後の前記第1電動機又は前記第2電動機の制限トルクである自由状態制限トルク(例えば、後述の実施形態のリングフリー制限トルク)を、切り替え時点での前記切り替え前における前
記規制状態上限トルク(例えば、後述の実施形態の上限トルク)、及び該規制状態上限トルクよりも絶対値の小さい値に設定された前記第1電動機又は前記第2電動機の制限トルクである規制状態制限トルク(例えば、後述の実施形態のリングロック制限トルク)のうちの何れか小さいものと略等しい値に設定することによって、前記切り替え後における前
記自由状態上限トルクよりも小さいものとし、前記第1電動機又は前記第2電動機の発生するトルクが前記自由状態制限トルク未満となるよう制御することを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記電動機制御手段は、前記切り替え後に、前記車両の車速が上昇したときに、又は所定時間経過したときに、前記自由状態制限トルクを、前記
自由状態上限トルクの範囲内で変更することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加えて、
前記状態切替手段は、前記第1電動機の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態のレゾルバ検出値、サンギヤ21Aの回転数)、前記第2電動機の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態のレゾルバ検出値、サンギヤ21Bの回転数)、前記左車輪の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪速センサ検出値、プラネタリキャリア23Aの回転数)、前記右車輪の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪速センサ検出値、プラネタリキャリア23Bの回転数)、又は前記車両の速度(例えば、後述の実施形態の車速)の何れかである第1参照値に基づいて前記切り替えを行い、
前記状態切替手段は、さらに前記第1電動機のトルク状態量関連値(例えば、後述の実施形態のモータトルク、モータ駆動力、モータ電流)、前記第2電動機のトルク状態関連値(例えば、後述の実施形態のモータトルク、モータ駆動力、モータ電流)、前記左車輪のトルク状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪トルク、車輪駆動力)、若しくは前記右車輪のトルク状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪トルク、車輪駆動力)の何れかである第2参照値、前記車両の旋回状態量関連値(例えば、後述の実施形態のヨーモーメント、アンダーステア、オーバーステア)である第3参照値、又は、前記車両の横加速度関連値(例えば、後述の実施形態の横加速度、横力)、若しくは路面摩擦状態関連値(例えば、後述の実施形態の路面抵抗、スリップ状態量)の何れかである第4参照値の何れかに基づいて前記切り替えを行うことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加えて、
前記第2参照値が所定値以上のときに、前記状態切替手段は、前記回転規制手段を解放して前記第3回転要素自由状態とすることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加えて、
前記状態切替手段は、前記第2参照値に基づく切り替えよりも前記第1参照値に基づく切り替えを優先することを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加えて、
前記状態切替手段は、前記第1電動機の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態のレゾルバ検出値、サンギヤ21Aの回転数)、前記第2電動機の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態のレゾルバ検出値、サンギヤ21Bの回転数)、前記左車輪の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪速センサ検出値、プラネタリキャリア23Aの回転数)、前記右車輪の回転状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪速センサ検出値、プラネタリキャリア23Bの回転数)、又は前記車両の速度(例えば、後述の実施形態の車速)の何れかである第1参照値に基づいて前記回転規制手段を締結して前記第3回転要素規制状態とした状態で、前記第1参照値とは異なる他の参照値(例えば、後述の実施形態の第2〜第4参照値)に基づいて前記回転規制手段を解放して前記第3回転要素自由状態に切り替えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の構成に加えて、
前記他の参照値は、前記第1電動機のトルク状態量関連値(例えば、後述の実施形態のモータトルク、モータ駆動力、モータ電流)、前記第2電動機のトルク状態関連値(例えば、後述の実施形態のモータトルク、モータ駆動力、モータ電流)、前記左車輪のトルク状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪トルク、車輪駆動力)、若しくは前記右車輪のトルク状態量関連値(例えば、後述の実施形態の車輪トルク、車輪駆動力)の何れかである第2参照値、前記車両の旋回状態量関連値(例えば、後述の実施形態のヨーモーメント、アンダーステア、オーバーステア)である第3参照値、又は、前記車両の横加速度関連値(例えば、後述の実施形態の横加速度、横力)、若しくは路面摩擦状態関連値(例えば、後述の実施形態の路面抵抗、スリップ状態量)の何れかである第4参照値の少なくとも一つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項
1に記載の発明によれば、第3回転要素自由状態では、電動機と車輪との回転数の相関が無くなる一方で、左右の車輪に絶対値の等しい反対方向のモータトルクを伝達することができるが、第3回転要素自由状態の制限トルクを第3回転要素規制状態の制限トルクと略等しい値とすることで回転規制手段の締結状態から解放状態への移行時のトルク急変を抑制することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、第1及び第2電動機の回転状態等である第1参照値に基づいて第3回転要素規制状態と第3回転要素自由状態とを切り替えることで、電動機の高回転域で電動機への動力伝達を遮断し過回転を防止したり、電動機の低回転域で電動機への動力伝達を遮断し効率の悪化を低減したりすることができる。さらに、第2乃至第4参照値に基づいて第3回転要素規制状態と第3回転要素自由状態とを切り替えることで、電動機トルク不足の解消、車両旋回性の向上、又は車両安定性の向上が図れる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、車速が高い領域では、第3回転要素規制状態よりも第3回転要素自由状態の方が電動機で発生できるトルクが大きいので、トルク若しくは駆動力が大きいときに第3回転要素自由状態とすることによって車両旋回性、安定性が向上する。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、第1参照値に基づく切り替えを優先することで、電動機の過回転による損傷を確実に防止することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、第1及び第2電動機の回転状態等である第1参照値に基づいて第3回転要素規制状態と第3回転要素自由状態とを切り替えることで、電動機の高回転域で電動機への動力伝達を遮断し過回転を防止したり、電動機の低回転域で電動機への動力伝達を遮断し効率の悪化を低減したりすることができる。さらに、他の参照値に基づいて第3回転要素規制状態と第3回転要素自由状態とを切り替えることで、電動機トルク不足の解消、車両旋回性の向上、又は車両安定性の向上が図れる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、第2参照値に基づいて第3回転要素自由状態に切り替えることにより電動機トルク不足を解消することができ、第3参照値に基づいて第3回転要素自由状態に切り替えることにより車両旋回性を向上させることができ、第4参照値に基づいて第3回転要素自由状態に切り替えることにより車両安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず、本発明に係る車両用駆動装置の一実施形態を
図1〜
図3に基づいて説明する。
本発明に係る車両用駆動装置は、電動機を車軸駆動用の駆動源とするものであり、例えば、
図1に示すような駆動システムの車両に用いられる。以下の説明では車両用駆動装置を後輪駆動用として用いる場合を例に説明するが、前輪駆動用に用いてもよい。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5とが直列に接続された駆動装置6(以下、前輪駆動装置と呼ぶ。)を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この前輪駆動装置6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この前輪駆動装置6と別に車両後部に設けられた駆動装置1(以下、後輪駆動装置と呼ぶ。)の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪駆動装置6の電動機5と後輪Wr側の後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bとは、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能となっている。符号8は、車両全体の各種制御をするための制御装置である。
【0023】
図2は、後輪駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、同図において、10A、10Bは、車両3の後輪Wr側の左右の車軸であり、車幅方向に同軸上に配置されている。後輪駆動装置1の減速機ケース11は全体が略円筒状に形成され、その内部には、車軸駆動用の第1及び第2電動機2A、2Bと、この第1及び第2電動機2A、2Bの駆動回転を減速する第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bとが、車軸10A、10Bと同軸上に配置されている。この第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを駆動する左車輪駆動装置として機能し、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを駆動する右車輪駆動装置として機能し、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aと第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bとは、減速機ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。
【0024】
減速機ケース11の左右両端側内部には、それぞれ第1及び第2電動機2A、2Bのステータ14A、14Bが固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する円筒軸16A、16Bが結合され、この円筒軸16A、16Bが車軸10A、10Bと同軸で相対回転可能となるように減速機ケース11の端部壁17A、17Bと中間壁18A、18Bとに軸受19A、19Bを介して支持されている。また、円筒軸16A、16Bの一端側の外周であって減速機ケース11の端部壁17A、17Bには、ロータ15A、15Bの回転位置情報を第1及び第2電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。
【0025】
また、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、このサンギヤ21A、21Bに噛合される複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、プラネタリギヤ22A、22Bの外周側に噛合されるリングギヤ24A、24Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bから第1及び第2電動機2A、2Bの駆動力が入力され、減速された駆動力がプラネタリキャリア23A、23Bを通して出力されるようになっている。
【0026】
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、例えば
図3に示すように、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bとが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはプラネタリキャリア23A、23Bに支持され、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向内側端部が径方向内側に伸びて車軸10A、10Bにスプライン嵌合され一体回転可能に支持されるとともに、軸受33A、33Bを介して中間壁18A、18Bに支持されている。
【0027】
なお、中間壁18A、18Bは第1及び第2電動機2A、2Bを収容する電動機収容空間と第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bを収容する減速機空間とを隔て、外径側から内径側に互いの軸方向間隔が広がるように屈曲して構成されている。そして、中間壁18A、18Bの内径側、且つ、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12B側にはプラネタリキャリア23A、23Bを支持する軸受33A、33Bが配置されるとともに中間壁18A、18Bの外径側、且つ、第1及び第2電動機2A、2B側にはステータ14A、14B用のバスリング41A、41Bが配置されている(
図2参照)。
【0028】
リングギヤ24A、24Bは、その内周面が小径の第2ピニオン27A、27Bに噛合されるギヤ部28A、28Bと、ギヤ部28A、28Bより小径で減速機ケース11の中間位置で互いに対向配置される小径部29A、29Bと、ギヤ部28A、28Bの軸方向内側端部と小径部29A、29Bの軸方向外側端部を径方向に連結する連結部30A、30Bとを備えて構成されている。この実施形態の場合、リングギヤ24A、24Bの最大半径は、第1ピニオン26A、26Bの車軸10A、10Bの中心からの最大距離よりも小さくなるように設定されている。小径部29A、29Bは、それぞれ後述する一方向クラッチ50のインナーレース51とスプライン嵌合し、リングギヤ24A、24Bは一方向クラッチ50のインナーレース51と一体回転するように構成されている。
【0029】
ところで、減速機ケース11とリングギヤ24A、24Bの間には円筒状の空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対する制動手段を構成する油圧ブレーキ60A、60Bが第1ピニオン26A、26Bと径方向でオーバーラップし、第2ピニオン27A、27Bと軸方向でオーバーラップして配置されている。油圧ブレーキ60A、60Bは、減速機ケース11の内径側で軸方向に伸びる筒状の外径側支持部34の内周面にスプライン嵌合された複数の固定プレート35A、35Bと、リングギヤ24A、24Bの外周面にスプライン嵌合された複数の回転プレート36A、36Bが軸方向に交互に配置され、これらのプレート35A、35B,36A、36Bが環状のピストン37A、37Bによって締結及び解放操作されるようになっている。ピストン37A、37Bは、減速機ケース11の中間位置から内径側に延設された左右分割壁39と、左右分割壁39によって連結された外径側支持部34と内径側支持部40間に形成された環状のシリンダ室38A、38Bに進退自在に収容されており、シリンダ室38A、38Bへの高圧オイルの導入によってピストン37A、37Bを前進させ、シリンダ室38A、38Bからオイルを排出することによってピストン37A、37Bを後退させる。なお、油圧ブレーキ60A、60Bは電動オイルポンプ70に接続されている(
図1参照)。
【0030】
また、さらに詳細には、ピストン37A、37Bは、軸方向前後に第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bを有し、これらのピストン壁63A、63B,64A、64Bが円筒状の内周壁65A、65Bによって連結されている。したがって、第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bの間には径方向外側に開口する環状空間が形成されているが、この環状空間は、シリンダ室38A、38Bの外壁内周面に固定された仕切部材66A、66Bによって軸方向左右に仕切られている。減速機ケース11の左右分割壁39と第2ピストン壁64A、64Bの間は高圧オイルが直接導入される第1作動室S1とされ、仕切部材66A、66Bと第1ピストン壁63A、63Bの間は、内周壁65A、65Bに形成された貫通孔を通して第1作動室S1と導通する第2作動室S2とされている。第2ピストン壁64A、64Bと仕切部材66A、66Bの間は大気圧に導通している。
【0031】
この油圧ブレーキ60A、60Bでは、第1作動室S1と第2作動室S2に不図示の油圧回路からオイルが導入され、第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bに作用するオイルの圧力によって固定プレート35A、35Bと回転プレート36A、36Bを相互に押し付けが可能である。したがって、軸方向左右の第1,第2ピストン壁63A、63B,64A、64Bによって大きな受圧面積を稼ぐことができるため、ピストン37A、37Bの径方向の面積を抑えたまま固定プレート35A、35Bと回転プレート36A、36Bに対する大きな押し付け力を得ることができる。
【0032】
この油圧ブレーキ60A、60Bの場合、固定プレート35A、35Bが減速機ケース11から伸びる外径側支持部34に支持される一方で、回転プレート36A、36Bがリングギヤ24A、24Bに支持されているため、両プレート35A、35B,36A、36Bがピストン37A、37Bによって押し付けられると、両プレート35A、35B,36A、36B間の摩擦締結によってリングギヤ24A、24Bに制動力が作用し固定(ロック)され、その状態からピストン37A、37Bによる締結が解放されると、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容される。
【0033】
即ち、油圧ブレーキ60A、60Bは、締結時にリングギヤ24A、24Bをロックして、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路を動力伝達可能な接続状態とし、解放時にリングギヤ24A、24Bの回転を許容して、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路を動力伝達不能な遮断状態とする。
【0034】
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。即ち、リングギヤ24Aとリングギヤ24Bとは、インナーレース51によって一体回転可能に互いに連結されている。またアウターレース52は、内径側支持部40により位置決めされるとともに、回り止めされている。
【0035】
一方向クラッチ50は、車両3が第1及び第2電動機2A、2Bの動力で前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に説明すると、一方向クラッチ50は、第1及び第2電動機2A、2B側の順方向(車両3を前進させる際の回転方向)のトルクが後輪Wr側に入力されるときに係合状態となるとともに第1及び第2電動機2A、2B側の逆方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときに非係合状態となり、後輪Wr側の順方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに非係合状態となるとともに後輪Wr側の逆方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに係合状態となる。言い換えると、一方向クラッチ50は、非係合時に第1及び第2電動機2A、2Bの逆方向のトルクによるリングギヤ24A、24Bの一方向の回転を許容し、係合時に第1及び第2電動機2A、2Bの順方向のトルクによるリングギヤ24A、24Bの逆方向の回転を規制している。なお、逆方向のトルクとは、逆方向の回転を増加させる方向のトルク、又は、順方向の回転を減少させる方向のトルクをさす。
【0036】
このように本実施形態の後輪駆動装置1では、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路上に一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60A、60Bとが並列に設けられている。なお、油圧ブレーキ60A、60Bは2つ設ける必要はなく、一方にのみ油圧ブレーキを設け、他方の空間をブリーザ室として用いてもよい。
【0037】
ここで、制御装置8(
図1参照)は、車両全体の各種制御をするための制御装置であり、制御装置8には車輪速センサ値、第1及び第2電動機2A、2Bのモータ回転数センサ値、操舵角、アクセルペダル開度AP、シフトポジション、バッテリ9における充電状態(SOC)、油温などが入力される一方、制御装置8からは、内燃機関4を制御する信号、第1及び第2電動機2A、2Bを制御する信号、電動オイルポンプ70を制御する制御信号などが出力される。
【0038】
即ち、制御装置8は、第1及び第2電動機2A、2Bを制御する電動機制御手段としての機能と、回転規制手段としての油圧ブレーキ60A、60Bの締結状態と解放状態とを切り換える状態切替手段としての機能を、少なくとも備えている。
【0039】
図4は、各車両状態における前輪駆動装置6と後輪駆動装置1との関係を第1及び第2電動機2A、2Bの作動状態とあわせて記載したものである。図中、フロントユニットは前輪駆動装置6、リアユニットは後輪駆動装置1、リアモータは第1及び第2電動機2A、2B、OWCは一方向クラッチ50、BRKは油圧ブレーキ60A、60Bを表わす。また、
図5〜
図10、
図12〜
図17は後輪駆動装置1の各状態における速度共線図を表わし、LMOTは第1電動機2A、RMOTは第2電動機2B、左側のS、Cはそれぞれ第1電動機2Aに連結された第1遊星歯車式減速機12Aのサンギヤ21A、第1遊星歯車式減速機12Aのプラネタリキャリア23A、右側のS、Cはそれぞれ第2遊星歯車式減速機12Bのサンギヤ21B、第2遊星歯車式減速機12Bのプラネタリキャリア23B、Rは第1及び2遊星歯車式減速機12A、12Bのリングギヤ24A、24B、BRKは油圧ブレーキ60A、60B、OWCは一方向クラッチ50を表わす。以下の説明において第1及び第2電動機2A、2Bによる車両前進時のサンギヤ21A、21Bの回転方向を順方向とする。また、図中、停車中の状態から上方が順方向の回転、下方が逆方向の回転であり、矢印は、上向きが順方向のトルクを表し、下向きが逆方向のトルクを表す。
【0040】
停車中は、前輪駆動装置6も後輪駆動装置1も駆動していない。従って、
図5に示すように、後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bは停止しており、車軸10A、10Bも停止しているため、いずれの要素にもトルクは作用していない。このとき、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)している。また、一方向クラッチ50は、第1及び第2電動機2A、2Bが非駆動のため係合していない(OFF)。
【0041】
そして、キーポジションをONにした後、EV発進、EVクルーズなどモータ効率のよい前進低車速時は、後輪駆動装置1による後輪駆動となる。
図6に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bが順方向に回転するように力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには順方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が係合しリングギヤ24A、24Bがロックされる。これによりプラネタリキャリア23A、23Bは順方向に回転し前進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が逆方向に作用している。このように車両3の発進時には、キーポジションをONにして第1及び第2電動機2A、2Bのトルクをあげることで、一方向クラッチ50が機械的に係合してリングギヤ24A、24Bがロックされる。
【0042】
このとき、油圧ブレーキ60A、60Bを弱締結状態に制御する。なお、弱締結とは、動力伝達可能であるが、油圧ブレーキ60A、60Bの締結状態の締結力に対し弱い締結力で締結している状態をいう。第1及び第2電動機2A、2Bの順方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50が係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達可能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bも弱締結状態とし第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで、第1及び第2電動機2A、2B側からの順方向のトルクの入力が一時的に低下して一方向クラッチ50が非係合状態となった場合にも、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とで動力伝達不能になることを抑制できる。また、後述する減速回生への移行時に第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態とするための回転数制御が不要となる。一方向クラッチ50が係合状態のときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力を一方向クラッチ50が非係合状態のときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力よりも弱くすることにより、油圧ブレーキ60A、60Bの締結のための消費エネルギーが低減される。なお、以下の説明では、一方向クラッチ50が係合状態となっているか、若しくは油圧ブレーキ60A、60Bが締結状態となっていることで、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が規制され(以下、リングロック状態と呼ぶ。)、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とが接続状態となって動力伝達可能な状態における第1及び第2電動機2A、2Bの駆動制御をリングロック制御とも呼ぶ。
【0043】
前進低車速走行から車速があがりエンジン効率のよい前進中車速走行に至ると、後輪駆動装置1による後輪駆動から前輪駆動装置6による前輪駆動となる。
図7に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bの力行駆動が停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このときも、油圧ブレーキ60A、60Bを弱締結状態に制御する。
【0044】
図6又は
図7の状態から第1及び第2電動機2A、2Bを回生駆動しようすると、
図8に示すように、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行を続けようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このとき、油圧ブレーキ60A、60Bを締結状態(ON)に制御する。従って、リングギヤ24A、24Bがロックされるとともに第1及び第2電動機2A、2Bには逆方向の回生制動トルクが作用し、第1及び第2電動機2A、2Bで減速回生がなされる。このように、後輪Wr側の順方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bを締結させ、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能な状態に保つことができ、この状態で第1及び第2電動機2A、2Bを回生駆動状態に制御することにより、車両3のエネルギーを回生することができる。
【0045】
続いて加速時には、前輪駆動装置6と後輪駆動装置1の四輪駆動となり、後輪駆動装置1は、
図6に示す前進低車速時と同じ状態となる。
【0046】
前進高車速時には、前輪駆動装置6による前輪駆動となるが、このとき第1及び第2電動機2A、2Bを停止させ油圧ブレーキ60A、60Bを解放状態に制御する。一方向クラッチ50は、後輪Wr側の順方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるので非係合状態となり、油圧ブレーキ60A、60Bを解放状態に制御することでリングギヤ24A、24Bは回転し始める。
【0047】
図9に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bが力行駆動を停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このとき、サンギヤ21A、21Bには、サンギヤ21A、21B及び第1及び第2電動機2A、2Bの回転損失が抵抗として入力され、リングギヤ24A、24Bにはリングギヤ24A、24Bの回転損失が発生する。
【0048】
油圧ブレーキ60A、60Bを解放状態に制御することで、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容され(以下、リングフリー状態と呼ぶ。)、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とが遮断状態となって動力伝達不能な状態となる。従って、第1及び第2電動機2A、2Bの連れ回りが防止され、前輪駆動装置6による高車速時に第1及び第2電動機2A、2Bが過回転となるのが防止される。以上では、リングフリー状態のときに第1及び第2電動機2A、2Bを停止させたが、リングフリー状態で第1及び第2電動機2A、2Bを駆動してもよい(以下、リングフリー制御と呼ぶ。)。リングフリー制御については後述する。
【0049】
後進時には、
図10に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bを逆力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには逆方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。
【0050】
このとき油圧ブレーキ60A、60Bを締結状態(ON)に制御する。従って、リングギヤ24A、24Bがロックされて、プラネタリキャリア23A、23Bは逆方向に回転し後進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が順方向に作用している。このように、第1及び第2電動機2A、2B側の逆方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bを締結させ、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能に保つことができ、第1及び第2電動機2A、2Bのトルクによって車両3を後進させることができる。
【0051】
このように後輪駆動装置1は、車両の走行状態、言い換えると、第1及び第2電動機2A、2Bの回転方向が順方向か逆方向か、及び第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側のいずれから動力が入力されるかに応じて、油圧ブレーキ60A、60Bの締結・解放が制御され、さらに油圧ブレーキ60A、60Bの締結時であっても締結力が調整される。
【0052】
図11は、車両が停車中の状態からEV発進→EV加速→ENG加速→減速回生→中速ENGクルーズ→ENG+EV加速→高速ENGクルーズ→減速回生→停車→後進→停車に至る際の電動オイルポンプ70(EOP)と、一方向クラッチ50(OWC)、油圧ブレーキ60A、60B(BRK)のタイミングチャートである。
【0053】
先ず、キーポジションをONにしてシフトがPレンジからDレンジに変更され、アクセルペダルが踏まれるまでは、一方向クラッチ50は非係合(OFF)、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)状態を維持する。そこから、アクセルペダルが踏まれると後輪駆動(RWD)で後輪駆動装置1によるEV発進、EV加速がなされる。このとき、一方向クラッチ50が係合(ON)し、油圧ブレーキ60A、60Bは弱締結状態となる。そして、車速が低車速域から中車速域に至って後輪駆動から前輪駆動になると内燃機関4によるENG走行(FWD)がなされる。このとき、一方向クラッチ50が非係合(OFF)となり、油圧ブレーキ60A、60Bはそのままの状態(弱締結状態)を維持する。そして、ブレーキが踏まれるなど減速回生時には、一方向クラッチ50が非係合(OFF)のまま、油圧ブレーキ60A、60Bが締結状態(ON)となる。内燃機関4による中速クルーズ中は、上述のENG走行と同様の状態となる。続いて、さらにアクセルペダルが踏まれて前輪駆動から四輪駆動(AWD)になると、再び一方向クラッチ50が係合(ON)する。そして、車速が中車速域から高車速域に至ると、再び内燃機関4によるENG走行(FWD)がなされる。このとき、一方向クラッチ50が非係合(OFF)となり、油圧ブレーキ60A、60Bが解放状態(OFF)となり、第1及び第2電動機2A、2Bに駆動要求がない場合には第1及び第2電動機2A、2Bを停止させ、駆動要求がある場合には後述するリングフリー制御を行う。そして、減速回生時には、上述した減速回生時と同様の状態となる。そして、車両が停止すると、一方向クラッチ50は非係合(OFF)、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)状態となる。
【0054】
続いて、後進走行時には、一方向クラッチ50は非係合(OFF)のまま、油圧ブレーキ60A、60Bが締結状態(ON)となる。そして、車両が停止すると、一方向クラッチ50は非係合(OFF)、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)状態となる。
【0055】
続いて、リングフリー制御について説明する。
リングフリー制御は、一方向クラッチ50が非係合状態で且つ油圧ブレーキ60A、60Bが解放状態、言い換えると連結されたリングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容される状態(リングフリー状態)における第1及び第2電動機2A、2Bの駆動制御であり、目標ヨーモーメント(目標左右差トルク)を発生させるために第1及び第2電動機2A、2Bに目標トルクを発生させたり(目標トルク制御)、第1及び/又は第2電動機2A、2Bを目標回転数に制御(目標回転数制御)したりすることができる。
【0056】
<目標トルク制御>
リングフリー状態では、上記したように第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とが遮断状態となって動力伝達不能な状態になるが、第1電動機2Aに順方向又は逆方向のトルクが発生するように且つ第2電動機2Bに第1電動機2Aと絶対値が等しく反対方向(逆方向又は順方向)のトルクが発生するように制御することによって、第1及び第2電動機2A、2Bに回転数変動を生じさせずに左後輪LWrと右後輪RWrとに左右差トルクを発生させて所期のヨーモーメントを発生させることは可能である。
【0057】
例えば車両3に時計回りのヨーモーメントMを発生させる場合を例に、
図12(a)を参照しながら具体的に説明する。第1電動機2Aに順方向の第1モータベーストルクTM1が発生するようにトルク制御を行うことで、サンギヤ21Aには順方向の第1モータベーストルクTM1が作用する。このとき、
図9と同様に、プラネタリキャリア23Aには車軸10Aから前進走行しようとする順方向のトルク(図示せず)が作用している。従って、第1遊星歯車式減速機12Aにおいては、プラネタリキャリア23Aが支点となり、力点であるサンギヤ21Aに順方向の第1モータベーストルクTM1が作用したことで、作用点であるリングギヤ24A、24Bに逆方向の第1モータベーストルク分配力TM1′が作用する。なお、
図12及び以降の図において、前述の各回転要素に定常的に加わる損失等によるベクトルも図示省略している。
【0058】
一方、第2電動機2Bに逆方向の第2モータベーストルクTM2が発生するようにトルク制御を行うことで、サンギヤ21Bには逆方向の第2モータベーストルクTM2が作用する。このとき、
図9と同様に、プラネタリキャリア23Bには車軸10Bから前進走行しようとする順方向のトルク(図示せず)が作用している。従って、第2遊星歯車式減速機12Bにおいては、プラネタリキャリア23Bが支点となり、力点であるサンギヤ21Bに逆方向の第2モータベーストルクTM2が作用したことで、作用点であるリングギヤ24A、24Bに順方向の第2モータベーストルク分配力TM2′が作用する。
【0059】
ここで、第1モータベーストルクTM1と第2モータベーストルクTM2は、絶対値の等しい反対方向のトルクなので、リングギヤ24A、24Bに作用する逆方向の第1モータベーストルク分配力TM1′と順方向の第2モータベーストルク分配力TM2′は互いに打ち消しあう(相殺)。従って、第1モータベーストルクTM1と第2モータベーストルクTM2は回転変動に寄与せず、サンギヤ21A、21Bとリングギヤ24A、24Bはそれぞれの回転状態が維持される。このとき、プラネタリキャリア23Aには、第1モータベーストルクTM1に第1遊星歯車式減速機12Aの減速比を掛け合わせた順方向の左後輪トルクTT1が作用するとともに、プラネタリキャリア23Bには、第2モータベーストルクTM2に第2遊星歯車式減速機12Bの減速比を掛け合わせた逆方向の右後輪トルクTT2が作用する。
【0060】
第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bの減速比は等しいので、左右後輪トルクTT1、TT2は絶対値の等しい反対方向のトルクとなり、これにより左右後輪トルクTT1、TT2の差(TT1−TT2)に応じた時計回りのヨーモーメントMが安定的に発生することとなる。
【0061】
第1及び第2電動機2A、2Bを目標トルク制御する際の目標モータベーストルクは、車両3の目標ヨーモーメントに基づいて求められる。この目標モータベーストルクの求め方について以下の式を用いて説明する。
【0062】
左後輪LWrの左後輪目標トルクをWTT1、右後輪RWrの右後輪目標トルクをWTT2、左右後輪LWr、RWrの合計目標トルク(左後輪トルクと右後輪トルクとの和)をTRT、左右後輪LWr、RWrの目標トルク差(左後輪トルクと右後輪トルクとの差)をΔTTとしたとき、下記(1)、(2)式が成立する。
【0063】
WTT1+WTT2=TRT (1)
WTT1−WTT2=ΔTT (2)
【0064】
なお、ΔTTは、目標ヨーモーメント(時計回りを正)をYMT、車輪半径をr、トレッド幅(左右後輪LWr、RWr間距離)をTrとすると、以下の(3)式で表される。
ΔTT=2・r・YMT/Tr (3)
【0065】
ここで、リングフリー状態では第1及び第2電動機2A、2Bによる同一方向のトルクは、後輪Wrに伝達されないため、左右後輪LWr、RWrの合計目標トルクTRTは零である。従って、左右後輪LWr、RWrの目標トルクWTT1、WTT2が上記(1)、(2)式から一義的に決まる。
即ち、WWT1=−WTT2=ΔTT/2 (4)
【0066】
また、左後輪LWrに連結される第1電動機2Aの目標モータベーストルクをTTM1、右後輪RWrに連結される第2電動機2Bの目標モータベーストルクをTTM2としたとき、左右の第1及び第2電動機2A、2Bの目標モータベーストルクTTM1、TTM2は、以下の(5)、(6)式から導かれる。
【0067】
TTM1=(1/Ratio)・WTT1 (5)
TTM2=(1/Ratio)・WTT2 (6)
なお、Ratioは、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bの減速比である。
【0068】
上記(4)〜(6)式から左右の第1及び第2電動機2A、2Bの目標モータベーストルクTTM1、TTM2は、以下の(7)、(8)式で表される。
TTM1=(1/Ratio)・ΔTT/2 (7)
TTM2=−(1/Ratio)・ΔTT/2 (8)
従って、車両3の目標ヨーモーメントYMTに基づいて左右後輪LWr、RWrの目標トルク差ΔTTを求め、該目標トルク差ΔTTの半分のトルクを第1遊星歯車式減速機12Aの減速比で除した値を、目標トルク制御する第1及び第2電動機2A、2Bの目標モータベーストルクTTM1、TTM2とすることで、所期のヨーモーメントを発生させることができる。
【0069】
<目標回転数制御>
リングフリー状態、すなわち一方向クラッチ50が非係合状態で且つ油圧ブレーキ60A、60Bが解放状態においては、第1及び第2電動機2A、2Bから同一方向のトルクを発生させても連結されたリングギヤ24A、24Bがロックされておらず、また前述のモータトルク分配力の相殺も生じないため、後輪Wrにトルクは伝達されず、サンギヤ21A、21B(第1及び第2電動機2A、2B)とリングギヤ24A、24Bの回転数変動が生じるのみである。
【0070】
この場合、第1及び第2電動機2A、2Bに絶対値の等しい同一方向の回転制御トルクを発生させることで、回転制御トルクを後輪Wrに伝達せずに第1及び/又は第2電動機2A、2Bを所期の回転数に制御することができる。
【0071】
例えば第1及び第2電動機2A、2Bの回転数を下げる場合を例に、
図12(b)を参照しながら具体的に説明する。第1電動機2Aに逆方向の第1回転制御トルクSM1が発生するようにトルク制御を行うことで、サンギヤ21Aには逆方向の第1回転制御トルクSM1が作用する。このとき、
図9と同様に、プラネタリキャリア23Aには車軸10Aから前進走行しようとする順方向のトルク(図示せず)が作用している。従って、第1遊星歯車式減速機12Aにおいては、プラネタリキャリア23Aが支点となり、力点であるサンギヤ21Aに逆方向の第1回転制御トルクSM1が作用したことで、作用点であるリングギヤ24A、24Bに順方向の第1回転制御トルク分配力SM1′が作用する。
【0072】
同様に、第2電動機2Bに逆方向の第2回転制御トルクSM2が発生するようにトルク制御を行うことで、サンギヤ21Bには逆方向の第2回転制御トルクSM2が作用する。このとき、
図9と同様に、プラネタリキャリア23Bには車軸10Bから前進走行しようとする順方向のトルク(図示せず)が作用している。従って、第2遊星歯車式減速機12Bにおいては、プラネタリキャリア23Bが支点となり、力点であるサンギヤ21Bに逆方向の第2回転制御トルクSM2が作用したことで、作用点であるリングギヤ24A、24Bに順方向の第2回転制御トルク分配力SM2′が作用する。
【0073】
ここで、第1及び第2回転制御トルクSM1、SM2は絶対値の等しい同一方向のトルクなので、リングギヤ24A、24Bに作用する第1及び第2回転制御トルク分配力SM1′、SM2′も、絶対値の等しい同一方向のトルクとなり、第1及び第2回転制御トルク分配力SM1′、SM2′は、リングギヤ24A、24Bの回転数を上げる方向に作用する。このとき、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bには、第1及び第2回転制御トルクSM1、SM2に釣り合うトルクが存在しないため、プラネタリキャリア23A、23Bには、第1及び第2回転制御トルクSM1、SM2による左右後輪トルクが発生しない。従って、第1及び第2回転制御トルクSM1、SM2は、回転変動にのみ寄与し、第1及び第2電動機2A、2Bの回転数並びにサンギヤ21A、21Bの回転数を下げるとともに、第1及び第2回転制御トルク分配力SM1′、SM2′は、リングギヤ24A、24Bの回転数を上げる。このように第1及び第2回転制御トルクSM1、SM2を適宜発生させることによって、第1及び第2電動機2A、2Bを任意の目標回転数に制御することができ、やがて第1及び第2電動機2A、2Bがモータ目標回転数になる。
【0074】
なお、後輪駆動装置1は、リングギヤ24A、24Bが連結されているため、第1電動機2Aのモータ目標回転数と第2電動機2Bのモータ目標回転数を同時に満足するように制御することはできない場合があり、その場合には、いずれか一方の電動機のモータ目標回転数を満足するように一方の電動機を目標回転数制御することとなる。
【0075】
<目標トルク制御+目標回転数制御>
図12(a)及び(b)は、リングフリー状態において、目標ヨーモーメントを発生させるために第1及び第2電動機2A、2Bに目標トルクを発生させる目標トルク制御と、第1及び/又は第2電動機2A、2Bを目標回転数に制御する目標回転数制御とを別々に説明したものであるが、これを同時に行うことで、所期のヨーモーメントを発生させつつ第1及び/又は第2電動機2A、2Bを所期の回転数に制御することができる。
【0076】
図13は、
図12(a)に記載の第1及び第2モータベーストルクTM1、TM2とその分配力である第1及び第2モータベーストルク分配力TM1′、TM2′、
図12(b)に記載の第1及び第2回転制御トルクSM1、SM2とその分配力である第1及び第2回転制御トルク分配力SM1′、SM2′をあわせて記載したものである。
【0077】
この場合、実際には、第1電動機2Aからは順方向の第1モータトルクM1(第1モータベーストルクTM1+第1回転制御トルクSM1)が発生しており、第2電動機2Bからは逆方向の第2モータトルクM2(第2モータベーストルクTM2+第2回転制御トルクSM2)が発生していることになり、これにより、プラネタリキャリア23Aには順方向の左後輪トルクTT1が作用するとともに、プラネタリキャリア23Bには逆方向の右後輪トルクTT2が作用し、時計回りのヨーモーメントMが発生する。また、同時に、第1及び第2電動機2A、2Bの回転数並びにサンギヤ21A、21Bの回転数が下がり、リングギヤ24A、24Bの回転数は上がることとなり、やがて、第1及び第2電動機2A、2Bがモータ目標回転数になる。
【0078】
次に、本発明の特徴であるリングロック制御とリングフリー制御との切り替えについて説明する。本発明では、リングロック制御とリングフリー制御との切り替えを行う場合として、以下の4つの参照値(第1参照値〜第4参照値)に基づいて切り替えを行う。
【0079】
<第1参照値>
上記した例では、前進中車速時から前進高車速時に移行するに際し、油圧ブレーキ60A、60Bを弱締結状態から解放状態に切り換えることで、リングロック制御からリングフリー制御へと移行する場合について説明した。即ち、車両3の速度である車速を参照値として、この参照値と予め定められた閾値を比較することで、リングロック制御からリングフリー制御へと移行する場合を例示した。なお、車速を参照値とする代わりに、車速と相関のある、第1電動機2Aの回転状態量関連値(例えばレゾルバ20Aの検出値、サンギヤ21Aの回転数等)を用いてもよく、第2電動機2Bの回転状態量関連値(例えばレゾルバ20Bの検出値、サンギヤ21Bの回転数等)を用いてもよく、左後輪LWrの回転状態量関連値(例えば車輪速センサ検出値、プラネタリキャリア23Aの回転数等)を用いてもよく、右後輪RWrの回転状態量関連値(例えば車輪速センサ検出値、プラネタリキャリア23Bの回転数等)を用いてもよい。これらの車速、第1電動機2Aの回転状態量関連値、第2電動機2Bの回転状態量関連値、左後輪LWrの回転状態量関連値、及び右後輪RWrの回転状態量関連値を第1参照値と呼ぶと、第1参照値に基づいてリングロック制御からリングフリー制御へと移行することにより、第1及び第2電動機2A、2Bが過回転となるのが防止される。
【0080】
図14(a)〜(c)を参照しながら、リングロック制御からリングフリー制御への切り替えについて説明する。
図14(a)は、車両3が中車速域(前進中車速時)における左旋回中、即ち、左後輪LWrと右後輪RWrの回転数差に応じて、第1遊星歯車式減速機12Aのサンギヤ21Aとプラネタリキャリア23Aに対し、第2遊星歯車式減速機12Bのサンギヤ21Bとプラネタリキャリア23Bの回転数が大きくなっており、後輪駆動装置1は車両3の旋回をアシストするため、第1電動機2Aからは逆方向の第1モータベーストルクTM1を発生させ、第2電動機2Bからは第1モータベーストルクTM1と絶対値の等しい反対方向(順方向)の第2モータベーストルクTM2を発生させることで、反時計回りヨーモーメントMを発生させている状態を示している。
【0081】
この状態で第1参照値としての車速が閾値を超えて高車速域に至ると、油圧ブレーキ60A、60Bの解放指令が入力される。油圧ブレーキ60A、60Bを解放した場合、左後輪LWrと右後輪RWrとに接続されるプラネタリキャリア23A、23B(C)以外の、サンギヤ21A、21B(S)及びリングギヤ24A、24B(R)は任意の回転数とすることが可能となる。例えば、
図14(b)に示すように、回転数MA1で回転している第1電動機2Aを効率のよい回転数MA2で回転させるために、回転数MA2を第1電動機2Aのモータ目標回転数に設定し、油圧ブレーキ60A、60Bを解放する。また、モータ実回転数MA1とモータ目標回転数MA2との回転数差に応じた逆方向の第1回転制御トルクSM1を第1電動機2Aにさらに発生させるとともに、第2電動機2Bにもさらに第1回転制御トルクSM1と絶対値の等しい同一方向(逆方向)の第2回転制御トルクSM2を発生させる。
【0082】
このとき、実際には、第1電動機2Aからは第1モータトルクM1(第1モータベーストルクTM1+第1回転制御トルクSM1)が発生しており、第2電動機2Bからは第2モータトルクM2(第2モータベーストルクTM2+第2回転制御トルクSM2)が発生していることになる。そして、第1電動機2Aのモータ実回転数MA1が、モータ目標回転数MA2になった時点で、
図14(c)に示すように、第1及び第2回転制御トルクSM1、SM2を消滅させる。このときの第2電動機2Bの回転数並びにサンギヤ21Bの回転数は、右後輪RWrに連結されるプラネタリキャリア23Bの回転数とリングギヤ24A、24Bの回転数により一義的に決まることとなる。
【0083】
このように、リングフリー状態であっても、両方の電動機に絶対値の等しい同一方向の回転制御トルクを付加することで、所期のヨーモーメントを発生させつつ第1及び第2電動機2A、2Bの過回転を防止することができる。
【0084】
ところで、リングロック状態では、リングギヤ24A、24Bが固定されているため、車速に応じて左右後輪LWr、RWrに接続されたプラネタリキャリア23A、23Bの回転数が上昇すると、それに伴いサンギヤ21A、21B及びサンギヤ21A、21Bに接続された第1及び第2電動機2A、2Bの回転数も上昇する。電動機は、モータ回転数が上がるに従って出力可能なモータトルクが減少する性質を有する。従って、リングロック状態では、モータ回転数が車速に比例するため、
図15(a)に示すように、車速の上昇に伴って第1及び第2電動機2A、2Bで出力可能なモータトルクが減少してしまう。
【0085】
これに対し、リングフリー状態では、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容されているため、車速に応じて左右後輪LWr、RWrに接続されたプラネタリキャリア23A、23Bの回転数が上昇しても、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数に関わらずサンギヤ21A、21B及びサンギヤ21A、21Bに接続された第1及び第2電動機2A、2Bの回転数を自由に設定することができる。従って、リングフリー状態では、モータ回転数が車速に比例せず、
図15(b)に示すように、車速の上昇に関わらず、第1及び第2電動機2A、2Bで出力可能なモータトルクを電動機仕様により定まる電動機の上限トルク(MOT上限トルク)を限度として自由に設定することが可能となる。
【0086】
そこで、制御装置8は、
図16に示すように、リングロック状態からリングフリー状態に切り替えるときに、切り替え後の第1及び第2電動機2A、2Bの制限トルクであるリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を、切り替え時点でのリングロック状態における、電動機仕様により定まる第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)よりも絶対値の大きい値に設定し、第1及び第2電動機2A、2Bの発生するトルクがリングフリー制限トルク(RF制限トルク)未満となるよう制御する。
【0087】
なお、
図16及び以降の図面における、電動機仕様により定まる電動機の上限トルク(MOT上限トルク)は、車両3の発進時等に適用される短時間定格駆動トルクでもよく、電動機のオーバーヒートを考慮して短時間定格駆動トルクよりも絶対値の小さい値に設定された連続定格駆動トルクでもよい。また、
図16及び以降の図面における、リングフリー制限トルク(RF制限トルク)は、電動機仕様により定まる電動機の上限トルク(MOT上限トルク)を限度として自由に設定することができる。
【0088】
この制御を、
図14(a)〜
図14(c)の例に当てはめると、制御装置8は、
図14(c)における第1及び第2電動機2A、2Bのリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を、
図14(a)における第1及び第2電動機2A、2Bの電動機仕様により定まる上限トルクよりも絶対値の大きい値に設定し、
図14(c)の第1及び第2モータベーストルクTM1、TM2が、設定したリングフリー制限トルク(RF制限トルク)未満となるよう制御する。
【0089】
また、制御装置8は、
図17に示すように、リングロック状態において、第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)よりも絶対値の小さい値に第1及び第2電動機2A、2Bの制限トルクであるリングロック制限トルク(RL制限トルク)が設定してもよく、この場合、切り替え後の第1及び第2電動機2A、2Bの制限トルクであるリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を、切り替え時点でのリングロック制限トルク(RL制限トルク)よりも絶対値の大きい値に設定し、第1及び第2電動機2A、2Bの発生するトルクがリングフリー制限トルク(RF制限トルク)未満となるよう制御する。
【0090】
このように、リングフリー状態では、第1及び第2電動機2A、2Bと左右後輪LWr、RWrとの回転数の相関が無くなる一方で、左右後輪LWr、RWrに絶対値の等しい反対方向のモータトルクを伝達することができることを活かし、油圧ブレーキ60A、60Bの解放後の制限トルクをリングロック状態時の制限トルクよりも引き上げることで、車両操安性の向上が図れる。
【0091】
上記した
図16及び
図17の実施例では、切り替え後の第1及び第2電動機2A、2Bの制限トルクであるリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を、切り替え時点でのリングロック状態における、第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)又はリングロック制限トルク(RL制限トルク)よりも絶対値の大きい値に設定したが、
図18及び
図19に示すように、切り替え後の第1及び第2電動機2A、2Bの制限トルクであるリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を、切り替え時点でのリングロック状態における、第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)又はリングロック制限トルク(RL制限トルク)と略等しい値に設定し、第1及び第2電動機2A、2Bの発生するトルクがリングフリー制限トルク(RF制限トルク)未満となるよう制御してもよい。
【0092】
このように、リングフリー状態では、第1及び第2電動機2A、2Bと左右後輪LWr、RWrとの回転数の相関が無くなる一方で、左右後輪LWr、RWrに絶対値の等しい反対方向のモータトルクを伝達することができるが、油圧ブレーキ60A、60Bの解放後の制限トルクをリングロック状態時の制限トルクと略等しい値とすることで、リングロック状態からリングフリー状態への移行時のトルク急変を抑制することができる。
【0093】
なお、切り替えから車速がさらに上昇した後若しくは所定時間経過後に、
図20に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bのリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を電動機仕様により定まる電動機の上限トルク(MOT上限トルク)の範囲内で変更してもよい。これにより、目標ヨーモーメントが変化した場合であっても、車両操安性を維持することができる。なお、
図16〜
図20では第1及び第2電動機2A、2Bを力行駆動する場合について述べたが、回生駆動する場合も同様である。
【0094】
このように、リングロック状態では車速の上昇に応じて出力可能なモータトルクが次第に減少するが、リングロック状態からリングフリー状態へと切り換えることにより、車速に関わらず出力可能なモータトルクが上昇することとなる。以下で説明する第2〜第4参照値は、この性質を利用したものであり、制御装置8は、第1参照値に基づいて油圧ブレーキ60A、60Bの締結状態と解放状態を切り換えることでリングロック状態とリングフリー状態との切り替えを行い、さらに他の参照値である第2〜第4参照値の少なくとも一つに基づいて該切り換えを行う。
【0095】
以下で説明する第2〜第4参照値に基づいて切り換えた場合も、切り替え後の第1及び第2電動機2A、2Bの制限トルクであるリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を、切り替え時点でのリングロック状態における、第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)若しくはリングロック制限トルク(RL制限トルク)よりも絶対値の大きい値に設定し、又は、切り替え時点でのリングロック状態における、第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)若しくはリングロック制限トルク(RL制限トルク)と略等しい値に設定し、第1及び第2電動機2A、2Bの発生するトルクがリングフリー制限トルク(RF制限トルク)未満となるよう制御する点は、第1参照値に基づいて切り替えを行う場合と同様である。
【0096】
<第2参照値>
第2参照値は、第1電動機2Aのトルク状態量関連値(例えば第1電動機2Aのモータトルク、第1電動機2Aのモータ駆動力、第1電動機2Aのモータ電流等)、第2電動機2Bのトルク状態関連値(例えば第2電動機2Bのモータトルク、第2電動機2Bのモータ駆動力、第2電動機2Bのモータ電流等)、左後輪LWrのトルク状態量関連値(例えば左後輪LWrの車輪トルク、左後輪LWrの車輪駆動力等)、若しくは右後輪RWrのトルク状態量関連値(例えば右後輪RWrの車輪トルク、右後輪RWrの車輪駆動力等)の何れかである。
【0097】
例えば、ある車速で出力可能なモータトルクが要求トルクに対して低い場合、リングロック状態からリングフリー状態へ切り換えることにより、出力可能なモータトルクが増えることで、要求出力を満たすことができる。なお、上記したように、リングフリー状態では第1及び第2電動機2A、2Bによる同一方向のトルクは、後輪Wrに伝達されないため、要求トルクはヨーモーメント要求を満たすためのトルクである。
【0098】
このように、前進中車速時において第1参照値である車速が所定の閾値に至る前であっても、ヨーモーメント要求に対する要求トルクを満たすために第2参照値に基づいて、油圧ブレーキ60A、60Bを解放し、第1及び第2モータベーストルクTM1、TM2をあげることで第1及び第2電動機2A、2Bのトルク不足を解消することができる。
【0099】
また、第2参照値についてある所定の閾値を設け、第2参照値が閾値以上のときに、油圧ブレーキ60A、60Bを解放するように制御してもよい。高車速域では、リングロック状態よりもリングフリー状態の方が電動機で発生できるトルクが大きいので、トルク若しくは駆動力が大きいときに油圧ブレーキ60A、60Bを解放することによって車両旋回性、安定性が向上する。ただし、この場合であっても、第2参照値に基づく切り替えよりも第1参照値に基づく切り替えを優先することにより、電動機の過回転による損傷を確実に防止することができる。
【0100】
一方で、リングロック状態における左右後輪LWr、RWrの合計目標トルクTRTがある所定の閾値以下の場合、リングフリー状態へ切り換えてもよい。左右後輪LWr、RWrの合計目標トルクTRTがある所定の閾値以下では左右後輪LWr、RWrの合計目標トルクTRTを満たす必要性が低下するので、リングフリー制御へと移行して旋回性向上を優先させることもできる。なお、両閾値については、それぞれ任意に設定することができる。
【0101】
<第3参照値>
第3参照値は、車両3の旋回状態量関連値(例えばヨーモーメント、アンダーステア・オーバーステアか否か等)である。
【0102】
例えば、ヨーモーメントが所定の閾値を越える場合若しくはアンダーステアが検出された場合等では、モータトルクの制限を解除して第1及び第2電動機2A、2Bで大きな差トルクを発生させることで、大きなヨーモーメントを発生させることができる。これにより、アンダーステアを解消することができる。
【0103】
このように、前進中車速時(リングロック状態)において第1参照値である車速が所定の閾値に至る前であっても、第3参照値としてヨーモーメントが所定の閾値を越える場合若しくはアンダーステアが検出された場合、第3参照値に基づいて、油圧ブレーキ60A、60Bを解放し、第1及び第2モータベーストルクTM1、TM2の差トルクを大きくすることでアンダーステアを解消して車両旋回性を向上させることができる。
【0104】
<第4参照値>
第4参照値は、車両3の横加速度関連値(例えば横加速度、横力等)、若しくは路面摩擦状態関連値(例えば路面抵抗、スリップ状態量等)の何れかである。
【0105】
例えば、横加速が所定の閾値を越える場合若しくは路面抵抗が大きい場合等では、左右後輪LWr、RWrのグリップ力が高いので、モータトルクの制限を解除して第1及び第2電動機2A、2Bで大きな差トルクを発生させることで、車両安定性を向上させることができる。
【0106】
このように、前進中車速時(リングロック状態)において第1参照値である車速が所定の閾値に至る前であっても、第4参照値として横加速が所定の閾値を越える場合若しくは路面抵抗が大きい場合、第4参照値に基づいて、油圧ブレーキ60A、60Bを解放し、第1及び第2モータベーストルクTM1、TM2の差トルクを大きくすることで車両安定性を向上させることができる。
【0107】
以上説明したように、切り替え後の第1及び第2電動機2A、2Bの制限トルクであるリングフリー制限トルク(RF制限トルク)を、切り替え時点でのリングロック状態における、第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)若しくはリングロック制限トルク(RL制限トルク)よりも絶対値の大きい値に設定し、又は、切り替え時点でのリングロック状態における、第1及び第2電動機2A、2Bの上限トルク(MOT上限トルク)若しくはリングロック制限トルク(RL制限トルク)と略等しい値に設定し、第1及び第2電動機2A、2Bの発生するトルクがリングフリー制限トルク(RF制限トルク)未満となるよう制御することで、車両操安性の向上が図れたり、リングロック状態からリングフリー状態への移行時のトルク急変を抑制したりすることができる。
【0108】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、リングギヤ24A、24Bにそれぞれ油圧ブレーキ60A、60Bを設ける必要はなく、連結されたリングギヤ24A、24Bに少なくとも1つの油圧ブレーキが設けられていればよく、さらに必ずしも一方向クラッチを備えている必要はない。この場合、油圧ブレーキを解放状態から締結状態に制御することで、リングロック状態からリングフリー状態へと変更することができる。
また、回転規制手段として油圧ブレーキを例示したが、これに限らず機械式、電磁式等任意に選択できる。
また、サンギヤ21A、21Bに第1及び第2電動機2A、2Bを接続し、リングギヤ同士を互いに連結したが、これに限らずサンギヤ同士を互いに連結し、リングギヤに第1及び第2電動機を接続してもよい。
また、前輪駆動装置は、内燃機関を用いずに電動機を唯一の駆動源とするものでもよい。