(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱源によって加熱もしくは冷却源によって除熱された媒体を貯留する保温タンクにおいて、前記保温タンクの周囲の少なくとも一部に、請求項1〜8のいずれか一項に記載の真空断熱材が設けられている
ことを特徴とする保温タンク。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る真空断熱材1を示す断面模式図である。
図2は、実施の形態1に係る真空断熱材1の繊維シート2の拡大断面模式図である。
本実施の形態1に係る真空断熱材1は、断熱性能の向上が可能となる改良が加えられたものである。
【0013】
真空断熱材1は、材質がガラスである繊維を有する繊維シート2を積層して構成された芯材3と、たとえば樹脂などで構成される外被シート4aによって芯材3を密閉する外被材4とを有している。
【0014】
[芯材3]
芯材3は、
図1に示すように、予め設定されたサイズに切断された繊維シート2が、紙面の下側から上側にかけて複数積層されて構成されたものである。そして、芯材3は、外被材4内に封入されている。なお、繊維シート2の積層数及び厚みであるが、たとえば、大気圧と真空の圧力差による圧縮歪を想定して、真空断熱材1が所望の厚みとなるように設定される。
繊維シート2は、材質がたとえばガラスである湾曲チョップド繊維5と、この湾曲チョップド繊維5と同様に材質がたとえばガラスであるマイクロファイバ6とを有し、湾曲チョップド繊維5とマイクロファイバ6とが混合するように構成されたものである。
繊維シート2の製造方法については、たとえば中性水もしくは硫酸水溶液に湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6を分散させ、自動送り式抄紙機で抄紙してシート状に形成する。このシート状に形成したものを乾燥させて、厚さ0.5mm〜5mm程度の繊維シート2の原反を得る。そして、必要とする真空断熱材1の面積に合わせて繊維シート2の原反を裁断し、繊維シート2を得る。
なお、繊維シート2は、繊維シート2の繊維の方向が、繊維シート2の厚さ方向と垂直方向をなすように、抄紙して形成される。
また、必要に応じて、繊維溶液中もしくは抄紙後の繊維に無機系バインダ若しくは有機系バインダを添加してもよい。無機系バインダとしては、水ガラス、コロイダルシリカ、有機系バインダとしては、ポリウレタン(PU)系、ポリビニールアルコール(PVA)系などがある。
【0015】
(湾曲チョップド繊維5)
湾曲チョップド繊維5は、その平均の繊維径が、マイクロファイバ6の平均の繊維径より大きいものである。湾曲チョップド繊維5は、たとえば、次のようにして製造される。
(1)連続フィラメント製法を利用して直径4μm〜20μm程度範囲で比較的均一な直径のフィラメント(ガラス繊維)を製造する。
(2)その後に、素材が軟化し、且つ素材の融点よりも低い温度に加熱された2個の歯車の噛み合わせの間を、(1)で製造したフィラメントを通過させる。これにより、(1)で製造したフィラメントが熱変形し、波状に形成された湾曲無機フィラメント8を製造する(
図3参照)。
(3)そして、(2)で製造した湾曲無機フィラメント8を長さ4mm〜18mm程度の予め設定されたサイズに切断し、湾曲チョップド繊維5を得ることができる。
【0016】
ここで、(2)で説明した湾曲無機フィラメント8の製造方法については、これに限定されるものではない。たとえば、押し出された繊維を円筒状の芯に斜めに巻き付けて、コイル状に成形しても良い(
図4参照)。
【0017】
(マイクロファイバ6)
マイクロファイバ6は、単一な湾曲チョップド繊維5だけでは繊維シート2としてのシート化が困難であるので、このシート化に寄与する繊維である。マイクロファイバ6は、その平均の繊維径が、湾曲チョップド繊維5よりも小さいものである。マイクロファイバ6は、
図2に示すように、繊維シート2に湾曲チョップド繊維5とともに混合しているものである。
マイクロファイバ6は、一般的に、繊維径がある設定値(たとえば、3μm)よりも小さい場合には火炎法を利用して作製され、この設定値よりも大きい場合には遠心法で作製されるものである。なお、本実施の形態1に係る真空断熱材1は、火炎法にて作製した場合を例に説明する。
【0018】
本実施の形態1では、湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6がガラス繊維で構成されているものとして説明するが、これに限定されるものではない。たとえば、湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6を、セラミックス繊維、シリカ繊維などで構成してもよい。
また、マイクロファイバ6は、有機繊維でも良い。たとえば、ポリエステル繊維及びポリプロピレン繊維などは、メルトブローン製法で平均径数μmの繊維を作製することができる。但し、この場合には、乾燥条件を、真空断熱材1を適用する対象を有機繊維が分解、溶融(一部軟化を含む)しない温度領域にすることが必要である。
さらに、本実施の形態1では、湾曲チョップド繊維5とマイクロファイバ6とは、同じガラス繊維である場合を例に説明するが、それに限定されるものではなく、異なる繊維であってもよい。
【0019】
[外被材4]
外被材4は、2枚の外被シート4a内に、湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6を有する繊維シート2が複数積層された芯材3を収納しているものである。外被材4は、ラミネート構造体であり、たとえば外側からON(延伸ナイロン)25μm/PET(ポリエステル)12μm/AL(アルミ)箔7μm/CPP(未延伸ポリプロピレン)30μmからなるものである。次に、芯材3を外被材4に挿入して真空断熱材1を製造する方法について説明する。
【0020】
(1)まず、2枚の外被シート4aで予め製袋化した外被材4を作製しておき、芯材3を乾燥させてから外被材4にガス吸着剤とともに挿入する。
(2)その後に、(1)で得られたものを真空チャンバ内に配置する。
(3)真空チャンバ内を減圧にして、予め設定される圧力、たとえば0.1Pa〜3Pa程度の真空圧にする。そして、この状態で、外被材4の残りの開口部をヒートシールにより密閉する。
(4)真空チャンバ内を大気圧に戻し、真空チャンバ内から取り出して真空断熱材1を得ることができる。
【0021】
なお、2枚の外被シート4aによって芯材3を挟み込む様に真空チャンバ内に配置し、真空チャンバ内で減圧した後に、上下の外被シート4aの周囲をヒートシールにより密閉するようにしてもよい。
また、繊維シート2に含有される水分については、抄紙時の乾燥工程とは別に、裁断前後などに繊維シート2を加熱する工程を設けてもよい。また、真空過程で加熱する工程を設けてこの水分を除去してもよい。さらに、ガス吸着剤としては、たとえば酸化カルシウム(CaO)、ゼオライト、鉄粉、またリチウムやバリウムからなる材料のものを、単独もしくは複数組み合わせて用いてもよい。
【0022】
[真空断熱材1の熱伝導率について]
図3は、実施の形態1に係る真空断熱材1の波形状繊維の拡大断面模式図である。
図4は、実施の形態1に係る真空断熱材1の螺旋状繊維の拡大断面模式図である。
図5は、実施の形態1に係る真空断熱材1の繊維シート2の拡大断面模式図である。
図6は、実施の形態1に係る真空断熱材1の繊維傾斜角度θと熱伝導率の関係を示すモデル計算結果である。
図3〜
図6を参照して、真空断熱材1の熱伝導率について説明する。
なお、図において、Wは湾曲無機フィラメント8の切断長さを表したものであり、湾曲チョップド繊維5の両端を結ぶ線分の長さを示す。また、Ybは、真直ズレ幅を示している。すなわち、Ybは、湾曲チョップド繊維5の両端を結ぶ直線を基準線Y0としたとき、この基準線Y0に平行であって基準線Y0から一番離れている部分で湾曲チョップド繊維5と接する接線(後述の第1の接線Y1及び第2の接線Y2に対応)の位置に基づいて決定される。たとえば、
図3の例では、第1の接線Y1と第2の接線Y2との間の間隔がYbである。また、
図4の例では、接線は1本しか引けないので基準線Y0と接線Y3との間の間隔がYbとなる。このように、Ybは、湾曲チョップド繊維5の延びる方向とは交差する方向における最大距離に対応している。θは繊維積層面と繊維との傾斜角を表したものであり、tは真空封止後の繊維シート2の厚さを表したものである。
【0023】
本実施の形態1に係る真空断熱材1は、次に説明するように、湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6を有しており、バインダを添加せずに繊維シート2を構成することができ、断熱性能の低下を抑制することができるようになっている。すなわち、上述したように必要に応じて無機系バインダ若しくは有機系バインダを添加してもよいのであるが、本実施の形態1では、バインダを添加せずに、繊維シート2を構成している。
そこで、湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6の繊維径、長さ及び混合比率などの詳細構成について説明する。また、真空断熱材1が断熱性能を向上することを説明するため、「比較例1」及び「比較例2」の説明をするとともに、「切断長さW」及び「繊維傾斜角度θ」についても併せて説明する。
【0024】
(実施の形態1に係る真空断熱材1の詳細構成)
連続フィラメント製法によって製作された繊維直径の平均値がφ=約6μmの真直な無機フィラメントを製造する。次に、例えば約600℃に加熱させた歯車の間に通過させることによって無機フィラメントを波形状に湾曲加工させて湾曲無機フィラメント8を製造する。そして、湾曲無機フィラメント8を、切断長さW=約6mmに切断した湾曲チョップド繊維5を製造する。このとき、真直ズレ幅Yb=約0.9mmとなった。
一方、火炎法を利用して繊維直径の平均値がφ=約1μmであって、平均繊維長さが約1mm程度のマイクロファイバ6を製造する。
【0025】
そして、「『φ=約6μm』、『W=約6mm』、『Yb=約0.9mm』である湾曲加工された湾曲チョップド繊維5」と、「『φ=約1μm』、『平均繊維長さ約1mm』のマイクロファイバ6」とを混合比率が60/40wt%となるように混合させ、繊維シート2を製造する。
なお、繊維シート2の製造において、抄紙、乾燥させた後の繊維シート2の厚みtが、約1mmとなるように、上述の自動送り式抄紙機を利用する抄紙方法で繊維シート2を製造する。
【0026】
ここで、湾曲チョップド繊維5の混合比率が、60wt%より小さい場合の繊維シート2の作製をも実施しているが、湾曲チョップド繊維5の混合比率を60wt%とした場合においても、バインダを用いずに、繊維シート2のシート化をすることができた。ここで、混合比率とは、全体の繊維重量に占める割合を指している。すなわち、湾曲チョップド繊維5の混合比率が60wt%であるというのは、湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6を合わせた繊維シート2の全重量のうち湾曲チョップド繊維5が60%を占めているということである。
以降で詳しく述べるが、ある条件下においては、湾曲チョップド繊維5の混合比率が高い方が、断熱性能が向上するので、ここでの説明では、湾曲チョップド繊維5の混合比率が、上限である60wt%の場合の熱伝導率について述べる。
【0027】
このように製造された繊維シート2には、繊維の大きな結束が観察されなかった。そして、繊維シート2を用いて、後述の比較例1と同じ条件で真空断熱材1を製造し、熱伝導率を測定した結果、0.0015W/(m・K)が得られた。
【0028】
(比較例1:真直チョップド繊維)
以下の説明において、本実施の形態1に係る真空断熱材1及び真空断熱材1の有する各種構成(繊維シート2など)と、比較例のものとを区別するため、符号に「’」を付している。
本実施の形態1に係る真空断熱材1との比較をするために、湾曲チョップド繊維5の代わりに、湾曲加工を施していない真直チョップド繊維を用いて真空断熱材1’を製造した。
なお、真直チョップド繊維とマイクロファイバ6’との混合比率であるが、湾曲チョップド繊維5とは異なり、繊維の絡まりが小さくなっている分、シート化が難しく、真直チョップド繊維の混合比率の上限が40wt%であった。すなわち、真直チョップド繊維の混合比率がこれより増えると繊維がまとまらずにシートにできなかった。そこで、本比較例1では、真直チョップド繊維とマイクロファイバ6’との混合比率が、40/60wt%としている。
【0029】
その他の条件は、真空断熱材1の製造のものと同様である。
すなわち、連続フィラメント製法を利用して真直チョップド繊維を製造し、そのφ及びWは湾曲チョップド繊維5のものと同様である。また、マイクロファイバ6’も火炎法によって製造し、そのφ及び繊維長さはマイクロファイバ6と同様である。また、バインダも用いていない。さらに、繊維シート2’の製造において、抄紙、乾燥させた後の繊維シート2’の厚みtが、1mmとなるように、上述の自動送り式抄紙機を利用する抄紙方法で繊維シート2’を製造した。
【0030】
このように得られた真直チョップド繊維を用いた真空断熱材1’は、熱伝導率を測定した結果、0.0018W/(m・K)であった。
なお、真空断熱材1及び真空断熱材1’とした時のシート厚みは、抄紙後で約1mmであったものが、真空封止後は、大気圧によって約0.65mmになった。
【0031】
(比較例2:真直ズレ幅Yb)
比較例2として、湾曲チョップド繊維5の真直ズレ幅Ybについて検討した。比較例2では、真直ズレ幅Yb以外の条件については、真空断熱材1と同一である。
すなわち、湾曲チョップド繊維5’とマイクロファイバ6’との混合比率は40/60wt%としている。また、連続フィラメント製法を利用して湾曲チョップド繊維5’を製造し、湾曲チョップド繊維5’のφ、Wは湾曲チョップド繊維5と同様である。一方、Ybは2mmとした。
また、マイクロファイバ6’も火炎法によって製造し、そのφ及び繊維長さはマイクロファイバ6と同様である。また、バインダも用いていない。さらに、繊維シート2’の製造において、抄紙、乾燥させた後の繊維シート2’の厚みtが、1mmとなるように、上述の自動送り式抄紙機を利用する抄紙方法で繊維シート2’を製造した。
【0032】
その結果、繊維シート2’を得ることはできたが、この繊維シート2’を用いて真空断熱材1’を製造した結果、熱伝導率は0.0025W/(m・K)となり、真空断熱材1よりも断熱性能の悪化が認められた。
【0033】
(繊維傾斜角度θと熱伝導率の関係などについて)
ところで、湾曲無機フィラメント8の切断長さWが逆に短いと、
図5に示すように、抄紙時に繊維が積層面に対する傾斜角度が大きくなる可能性がある。そこで、繊維傾斜角度θと熱伝導率の関係についてモデル計算を行った。その解析結果が
図6である。
図6に示したθ=15°基準の計算結果より、繊維傾斜角度θの増加に対して熱伝導率の増加割合が大きくなることが分かる。したがって、繊維傾斜角度θは極力ゼロに近づける方が熱伝導率を小さくすることができることがわかる。
ここで、真空封止後の繊維シート2の厚みtと、湾曲チョップド繊維5の切断長さWと繊維傾斜角度θの関係は、
図5に示したように、sinθ=t/Wの関係となる。真空断熱材1の熱伝導率低減を図るには、繊維の傾斜角度が15°以下、できれば10°以下までに抑制するのが望ましい。その理由については後述する。
また、比較例2で実施した真空断熱材1’のYbは2mmと大きくしたため、繊維の湾曲が
図5中上方向に向いて繊維が配置された場合には、湾曲チョップド繊維5’の実質的な傾斜角度(
図5のθに対応)が大きくなり、上方向に熱移動が促進されたためだと考えられる。この湾曲チョップド繊維5’の傾斜角度と湾曲度合いを考慮すると、Yb/Wが0.2以下であることが望ましい。
【0034】
また、Ybは繊維シート2の厚みtよりも小さい値であることが望ましい。湾曲チョップド繊維5はおおよそ円弧状に湾曲している場合が多いが、その円弧を含む平面が繊維シート2の厚み方向に揃っている場合には、Ybがt以上となると(上記例ではt=1mmに対してYb=2mm)1本の湾曲チョップド繊維5で繊維シート2の上下面を繋ぐことになり熱移動が大きくなるからである。また、真空封止の際に繊維の滑り、移動、傾斜角の変化、繊維自体の折れ、及び変形などが生じやすくもなる。
Ybがt未満(上記例ではt=1mmに対してYb=0.9mm)であれば、1本の湾曲チョップド繊維5で繊維シート2の上下面を繋ぐ可能性が低くなり、熱移動が大きくなることを抑制し、真空封止の際に繊維の滑り、移動、傾斜角の変化、繊維自体の折れ、及び変形なども抑制される。
【0035】
真空断熱材1の芯材3を構成するガラス繊維について、繊維の積層断面を観察し、長径、短径および断面傾斜角に関して、合計100点のサンプルデータから繊維傾斜角を算出すると、サンプルの値は20°〜30°の範囲であった。これらの平均値を求めると約27°であった。
そこで、マイクロファイバ6に相当する不規則に傾斜分布した繊維の平均傾斜角度を45°とし、残りの湾曲チョップド繊維5に相当する繊維の傾斜角をX°として、前者を40%、後者を60%だけ混合させた場合に、その平均角度が27°になるようなXを求めると、X=15°となった。
したがって、より真空断熱材1の断熱性能の高性能化を図るには、湾曲チョップド繊維5の傾斜角度は15°以下になることが望ましい。
すなわち、切断長さWは、W≧t/sin15°、望ましくは、W≧t/sin10°にすることが有効である。一例として、t=0.65、θ=10°となる繊維シート2を考えると、W≧3.74mmであり、切断長さは約3.7mm以上にすることがよいとわかる。
【0036】
次に、湾曲チョップド繊維5の切断長さWを3.7mm≦W≦20mmの範囲で、Yb以外は上記比較例2に示した同一条件として、Ybの下限値を調べてみると、Yb/Wが0.1より小さくなると、作製した繊維シート2の引張強度が弱くなり、ロール巻取り等ハンドリングが困難になった。
したがって、湾曲チョップド繊維5について、Wは3.7mm以上、Yb/Wは、0.1以上0.2以下にするとよい。これにより、繊維シート化が容易になるとともに、この繊維シート2を芯材とする真空断熱材1の断熱性能を向上させることができる。
【0037】
(湾曲チョップド繊維5の繊維径と熱伝導率の関係について)
さらに、湾曲チョップド繊維5の繊維径の適正範囲を調べるために、湾曲チョップド繊維5とマイクロファイバ6の混合比率60/40wt%の繊維を芯材3とする真空断熱材1のモデル解析計算を実施した。
湾曲チョップド繊維5の繊維径と熱伝導率の関係を調べると、湾曲チョップド繊維5の軸方向は、繊維シート2の積層面と平行になりやすい分だけ繊維傾斜角度θが小さい。このように、繊維傾斜角度θが小さい分、湾曲チョップド繊維5の熱伝導率は低くなるが、湾曲チョップド繊維5の繊維径が大きくなるほど熱伝導率は上昇する。
【0038】
一方、マイクロファイバ6が100%の繊維シート2を芯材3とする真空断熱材1は、繊維軸方向がランダムに分布していることから平均的にθが大きく、むしろ湾曲チョップド繊維5とマイクロファイバ6とを混合させた場合よりも、熱伝導率が高くなった。
【0039】
ここで、湾曲チョップド繊維5の繊維径が約20μmの真空断熱材1と、マイクロファイバ6が100%の真空断熱材1とを比較したところ、熱伝導率が一致することが分かった。
したがって、湾曲チョップド繊維5の繊維径は、繊維径は20μm以下であることが望ましく、小さいほど熱伝導率を低減できるという効果を得ることができる。
本実施の形態に係る真空断熱材1では、湾曲チョップド繊維5の繊維径の平均値φ=約6μmと設定しているため、この効果を得ることができるようになっている。
【0040】
[本実施の形態1に係る真空断熱材1の効果]
本実施の形態1に係る真空断熱材1について、熱伝導率を抑制することができた理由について述べる。
湾曲無機フィラメント8を湾曲成形させたことによって、湾曲チョップド繊維5とマイクロファイバ6との絡みつきが向上されて、マイクロファイバ6の混合比率を低くした繊維シート2が製造することができた。
つまり、湾曲チョップド繊維5は積層方向へ立体的に傾斜せずに積層面と平行に近い方向に分布し、一方で、積層方向に繊維軸方向が向きやすいマイクロファイバ6を低減させたことで、繊維からの固体熱伝導が抑制される効果が得られていると考えられる。
また、真空断熱材1は、バインダを用いていないことから、バインダ自体からのガス化による真空度低下の問題もなく長期的な信頼性を確保しており、バインダに起因する繊維接触部の熱抵抗低下による熱伝導率の増加の問題もない。
このように、本実施の形態1に係る真空断熱材1は、製造コストが上昇することを抑制しながら、断熱性能の低下を抑制することができる。
【0041】
本実施の形態1に係る真空断熱材1は、連続フィラメント製法で作製された真直なフィラメントを湾曲させ切断した湾曲チョップド繊維5を基材とし、これに繊維径が細く伝熱が少ないマイクロファイバ6によって繊維同士を絡ませることによってシート化するものである。
これにより、真直チョップド繊維と比較して、湾曲チョップド繊維5の方がマイクロファイバ6との混合比率を高めることができることから、全体的に繊維シート2の積層面と繊維軸方向との傾斜角度を小さくすることができる。
また逆に、湾曲チョップド繊維5が、マイクロファイバ6と絡みつき易くなることで、添加するバインダを無くして繊維シート2を製造することができる。
したがって、製造コストが上昇することを抑制しながら、断熱性能の低下を抑制している真空断熱材1を得ることができる。
【0042】
実施の形態2.
本実施の形態2では、実施の形態1と同一部分には同一符号とし、実施の形態1との相違点を中心に説明するものとする。本実施の形態2では、「真直チョップ繊維或いは湾曲チョップド繊維5」と「マイクロファイバ6」との混合比率に応じて熱伝導率が異なることについて説明したものである。
【0043】
(実施の形態2に係る真空断熱材1の詳細構成)
本実施の形態2に係る真空断熱材1の構成について説明する。
本実施の形態2に係る真空断熱材1は、実施の形態1で説明した湾曲チョップド繊維5と、マイクロファイバ6との混合比率を80/20wt%とする繊維を抄紙したものである。すなわち、実施の形態2では、実施の形態1と比較すると湾曲チョップド繊維5の混合比率が大きくなっている。
これは、予め設定された範囲内であれば、湾曲チョップド繊維5の混合比率が大きいほどに熱伝導率を抑制することができることを考慮したものである。ただし、湾曲チョップド繊維5の混合比率を増加させると、繊維シート2を形成することは困難になりやすくなる。そこで、本実施の形態2では、バインダ添加を約0.5%添加して湾曲チョップド繊維5及びマイクロファイバ6を繊維シート2としている。
【0044】
このように、本実施の形態2に係る真空断熱材1は、湾曲チョップド繊維5と、マイクロファイバ6との混合比率を80/20wt%として熱伝導率を抑制するとともに、繊維同士の結着を促進するのに利用されるバインダが添加されたものとなっている。そして、熱伝導率を測定した結果、0.0014W/(m・K)であった。
【0045】
平均繊維径が8μm以下のマイクロファイバ6は、一般に製法上の特徴から縮れた短繊維となる。短繊維は、繊維シート2に形成するときに、繊維自体が繊維シート2内で積層方向に傾斜し易く、繊維自体からの固体熱伝導が大きくなる。
また、繊維の縮れも、不規則な三次元的な構造になることから、繊維自体が積層方向に傾斜する傾向が強くなる。
一方、湾曲チョップド繊維5は、比較的真直度が高いことから、適切な繊維シート2の厚みの範囲であれば、積層方向と繊維軸方向とが概ね直角に近くなる。
したがって、適切な繊維径と湾曲度合いと繊維長さであれば、湾曲チョップド繊維5の含有量の多い方が、無機繊維の固体熱伝導を抑制することができる。
このように、本実施の形態2に係る真空断熱材1は、湾曲チョップド繊維5の比率を実施の形態1よりも大きくし、且つ、バインダの添加をするものの、その添加量については抑制することができており、真空断熱材1の断熱性能が低減してしまうことを抑制することができるようになっている。
【0046】
(実施の形態2に係る真空断熱材1の変形例の詳細構成)
図13は、実施の形態2に係る他の実施例を示す真空断熱材1の詳細構成図である。
図13に示すように、変形例では、繊維シート2が第1の湾曲チョップド繊維5b及び第2の湾曲チョップド繊維5aを有している。すなわち、実施の形態1では、繊維シート2が湾曲チョップド繊維5と、湾曲繊維としてのマイクロファイバ6とを有しているものであったが、実施の形態2に係る変形例では、繊維シート2が第1の湾曲チョップド繊維5bと、湾曲繊維としての第2の湾曲チョップド繊維5aとを有しているものである。
【0047】
第1の湾曲チョップド繊維5bは、実施の形態1と同じように連続フィラメント製法によって製作されたものである。なお、実施の形態1では、繊維直径の平均値がφ=約6μmのフィラメントを湾曲加工した湾曲無機フィラメント8を利用した場合を例に説明したが、本変形例では、繊維直径の平均値がφ=約9μmのフィラメントを湾曲加工して湾曲無機フィラメント8としている。すなわち、本変形例に係る第1の湾曲チョップド繊維5bは、φ=約9μmの湾曲無機フィラメント8を切断長さWが約6mmとなるように切断することで得たものであって、φ=約9μmである。
第2の湾曲チョップド繊維5aも、第1の湾曲チョップド繊維5bと同一の製法(連続フィラメント製法)によって製作されたものである。なお、第2の湾曲チョップド繊維5aは、繊維直径の平均値がφ=約4μmのフィラメントを湾曲加工した湾曲無機フィラメント8を切断長さWが約6mmとなるように切断して得られたものである。すなわち、第2の湾曲チョップド繊維5aは、第1の湾曲チョップド繊維5bとは切断長さW(繊維長さ)が同様であり、Ybと関連する湾曲度合いも同様であるが、繊維直径の平均値φが異なっており、φ=約4μmである。
【0048】
本変形例では、第1の湾曲チョップド繊維5bと第2の湾曲チョップド繊維5aの比率を80/20wt%となるように混合させて、繊維シート2を作製した。真空断熱材1を
作製する手順は実施の形態1に示したものと同様である。但しこの場合、繊維シート2の作製にはバインダが必要であった。すなわち、抄紙時にガラス繊維重量比で1wt%のポリウレタン系バインダを添加して加熱することによってガラス繊維を溶着させることで、安定な繊維シート化が可能となった。そして、繊維シート2を実施の形態1と同様に積層し、これを芯材とする真空断熱材1を作製して熱伝導率を測定した結果、0.0015W/(m・K)であった。
【0049】
つまり、本実施の形態に係る真空断熱材1は、第1の湾曲チョップド繊維5bに繊維直径の平均値φが異なる第2の湾曲チョップド繊維5aを混合することで、バインダの低減が図れることから、コスト低減が図ることができる。また、バインダ低減による熱移動が抑制されることから断熱性能の向上が図ることができる。
なお、本変形例において、第2の湾曲チョップド繊維5aとして、第1の湾曲チョップド繊維5bとは繊維直径の平均値φが異なるものを一例として説明したが、それに限定されるものではない。たとえば、切断長さW(繊維長さ)又は湾曲度合いが異なっていてもよい。さらに、繊維直径の平均値φ、切断長さW及び湾曲度合いのうちの複数の条件が異なっていてもよい。なお、湾曲度合いを表す指標としては、たとえばYb/Wを採用することができる。
【0050】
なお、本実施の形態2に係る変形例では、繊維シート2が、マイクロファイバ6の代わりに第2の湾曲チョップド繊維5aを有する場合について説明したが、実施の形態1で説明した各種の関係は同様に成立する。
具体的には、実施の形態1では、(1)真直ズレ率と切断長さとの関係であるYb/Wは、0.1以上0.2以下にするとよいこと、(2)繊維シート2の厚みt、湾曲チョップド繊維5の切断長さW、及び繊維傾斜角度θの関係はsinθ=t/Wであり、θが15°以下がよく、できれば10°以下にするとよいこと、について説明した。これらは、マイクロファイバ6の代わりに第2の湾曲チョップド繊維5aを採用した場合においても成立する。すなわち、第1の湾曲チョップド繊維5b及び第2の湾曲チョップド繊維5aの両方について、上記(1)(2)の関係性を持たせることで、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0051】
(比較例3)
比較例3として、真直チョップド繊維(平均径φ=約6μm)を100%としたガラス繊維シートを作製した。
実施の形態1で説明したように、湾曲チョップド繊維5が100%である繊維シート2’を得ることは困難なので、抄紙時にポリウレタン系バインダを付着させ、加熱することでガラス繊維を溶着させた。
その結果、バインダ量としては、約2wt%以上添加することで、繊維のシート化を図ることができた。このバインダ量が約2wt%の繊維シート2’を実施の形態1と同様に積層し、これを芯材3’とする真空断熱材1’を作製した。
熱伝導率を測定した結果、0.0017W/(m・K)であった。
【0052】
(比較例4)
また、比較例4として、湾曲チョップド繊維5’が100%である繊維シート2’を製造した。このときのバインダ量は、比較例3と同様に約2%であった。そして、熱伝導率を測定した結果、0.0017W/(m・K)であり、比較例3の真直チョップド繊維のものと同じであった。
このように、真直チョップド繊維が100%の真空断熱材1’と、湾曲チョップド繊維5’が100%の真空断熱材1とでは、熱伝導率についての差異は見られなかった。
【0053】
比較例4では直径6μmのほぼ単一の太さの繊維を用いたため、バインダ量が比較的多く必要であった。一方、変形例では、太い湾曲チョップド繊維(第1の湾曲チョップド繊維5b)と細い湾曲チョップド繊維(第2の湾曲チョップド繊維5a)とを混合したことにより、細い湾曲チョップド繊維は太い湾曲チョップド繊維の隙間に入って、太い湾曲チョップド繊維どうしを固定する媒体として働き、少ないバインダでも固定できるようになっている。
【0054】
(比較例5)
さらに、比較例5として、真直チョップド繊維とマイクロファイバ6’の混合比率を80/20wt%とする繊維を抄紙したところ、バインダ添加は約1%で繊維シート2’を得ることができた。
この得られた繊維シート2’を芯材3とする真空断熱材1’を製造して熱伝導率を測定した結果、0.0016W/(m・K)であった。
【0055】
このように、本実施の形態2に係る真空断熱材1の方が、比較例3〜5の真空断熱材1’よりも断熱性能が高いことが分かる。
【0056】
[本実施の形態2に係る真空断熱材1の効果]
本実施の形態2に係る真空断熱材1は、本実施の形態1に係る真空断熱材1の有する効果に加えて次の効果を有する。
本実施の形態2に係る真空断熱材1は、湾曲チョップド繊維5と湾曲繊維としてのマイクロファイバ6との混合比率を80/20wt%とした。また、変形例では、第1の湾曲チョップド繊維5bと、湾曲繊維としての第2の湾曲チョップド繊維5aとの混同比率を80/20wt%とした。すなわち、実施の形態2に係る真空断熱材1及びその変形例では、実施の形態1と比較すると湾曲チョップド繊維5の混合比率を増大させた。これにより、繊維シート2の繊維軸方向が、繊維シート2の積層方向に傾斜することが抑制され、真空断熱材1の熱伝導率を低減することができる。
【0057】
なお、変形例では、湾曲繊維として第2の湾曲チョップド繊維5aを採用した場合を例に説明したが、それに限定されるものではない。たとえば、湾曲繊維として、第2の湾曲チョップド繊維5aとマイクロファイバ6とを組み合わせた繊維を採用してもよく、たとえば、第1の湾曲チョップド繊維5bを80wt%、第2の湾曲チョップド繊維5aを10wt%、マイクロファイバ6を10wt%などとしてもよい。これによっても、本実施の形態2に係る真空断熱材1の変形例と同様の効果を得ることができる。
【0058】
本実施の形態2に係る真空断熱材1は、実施の形態1と比較すると湾曲チョップド繊維5の混合比率を増大させたため、バインダを添加している。バインダが添加されると、その分、繊維同士の融着が発生するため熱伝導率が上昇してしまうが、湾曲チョップド繊維5の混合比率を増大させたことによる熱伝導率の低減の効果の方が優っており、結果として真空断熱材1の熱伝導率が増大することを抑制することができるようになっている。
【0059】
また、繊維質のほとんど(90%以上など)が湾曲繊維であるなら少量(たとえば10%以下)の真直チョップド繊維が混ざっていてもよい。また、その場合は、チョップド繊維のうち湾曲した湾曲チョップド繊維5が多くを占め、真直チョップド繊維が少なくなるようにすればよい。このように、真直チョップド繊維が少量混ざっていても、本実施の形態2に係る真空断熱材1及びその変形例と同様の効果を得ることができる。
【0060】
さらに、湾曲チョップド繊維5が、湾曲度合いとして主に0.1≦Yb/W≦0.2のもので構成されていれば、Yb/Wが0.1よりも小さい、又はYb/Wが0.2よりも大きいものが少量含まれていてもよい。この態様であっても、本実施の形態2に係る真空断熱材1及びその変形例と同様の効果を得ることができる。
【0061】
実施の形態3.
本実施の形態3では、実施の形態1、2と同一部分には同一符号とし、実施の形態1、2との相違点を中心に説明するものとする。実施の形態1、2では、火炎法を利用して作製したマイクロファイバ6が用いられているが、本実施の形態3では、遠心法を利用して作製したマイクロファイバ7を用いている点で異なっている。
【0062】
(実施の形態3に係る真空断熱材1の詳細構成)
図7は、実施の形態3に係る真空断熱材1の繊維シート2の拡大断面模式図である。
図7において、繊維シート2は、湾曲チョップド繊維5とマイクロファイバ7で構成されている。
マイクロファイバ7は、遠心法で作製された直径が約φ=4μmで、繊維長さが約10mm程度の縮れた繊維である。遠心法で作製された繊維は、火炎法で作製される繊維よりも繊維径が大きく長いので、空間的にランダムに縮れている。また、繊維径が大きいので繊維が絡まりにくくなる。
【0063】
湾曲チョップド繊維5とマイクロファイバ7の混合比率を80/20wt%として繊維シート2を製造したところ、バインダの添加量は約1wt%であった。なお、湾曲チョップド繊維5については、実施の形態1、2のものと同様のものである。
そして、実施の形態1、2と同様の手順で真空断熱材1を製造し、熱伝導率を測定したところ、0.0016W/mKであった。これは、実施の形態2における比較例5と同等の数値である。
すなわち、本実施の形態3に係る真空断熱材1は、実施の形態2の真空断熱材1と比較すると、約0.5%程度だけバインダの添加量は増加してしまっている。しかし、遠心法で製造したマイクロファイバ7であっても、熱伝導率を0.0016W/mK程度まで抑制することができる上に、遠心法は、火炎法よりも生産性が高いため、マイクロファイバ6よりも低コストでマイクロファイバ7を製造することができる分、真空断熱材1の製造コストを抑制することができる。
【0064】
(比較例6)
比較例6として、実施の形態1と同様の湾曲チョップド繊維5と、遠心法で作製した平均直径が約φ6μmで繊維長さが約10mm程度のマイクロファイバ7’とを混合比率が80/20wt%となるように構成した繊維シート2’を製造した。このときバインダ添加量は約2wt%弱で、実施の形態2の比較例3の真直チョップド繊維の場合よりもやや少なかった。この比較例6の真空断熱材1’について、熱伝導率を測定すると、0.0017W/mKであり、比較例3の真空断熱材1’と同等であった。
このように、比較例6では、バインダの添加量が比較例3よりも減少しているにもかかわらず、熱伝導率が同等であることから、マイクロファイバ7’の平均直径を増大させた分、熱移動が多くなっていることを示唆している。
【0065】
マイクロファイバ6が太くなると剛性が高くなり、湾曲チョップド繊維5の配列はランダムに曲がったマイクロファイバ6に大きく影響されることで、湾曲チョップド繊維5の繊維傾斜角度θの平均が大きくなったこと、ならびに、太いマイクロファイバ自体が、繊維積層方向に伝熱媒体となって、熱を伝え易くなったことで、特性が低下したと考えられる。したがって、マイクロファイバ6の太さは湾曲チョップド繊維5よりも細いことが望ましい。そして、湾曲チョップド繊維5がシート面に概ね平行となるように配列し、その間に細く柔軟なマイクロファイバ6がある状態が望ましい。
【0066】
このことから、マイクロファイバ7の平均繊維径は、湾曲チョップド繊維5の平均径よりも小さくした方が、真空断熱材1の熱伝導率が増大することを抑制することができる。
これについては、実施の形態1、2に係る真空断熱材1についても言えることである。
すなわち、マイクロファイバ6の平均繊維径は、湾曲チョップド繊維5の平均繊維径よりも小さくした方が、真空断熱材1の熱伝導率が増大することを抑制することができる。
【0067】
[本実施の形態3に係る真空断熱材1の効果]
本実施の形態3に係る真空断熱材1は、湾曲チョップド繊維5と、火炎法よりも生産性の高い遠心法を利用して得られるマイクロファイバ7とを用いて繊維シート2が形成されるので、製造コストが上昇することを抑制しながら、断熱性能の低下を抑制することができる。
【0068】
実施の形態4.
本実施の形態4では、実施の形態1〜3と同一部分には同一符号とし、実施の形態1〜3との相違点を中心に説明するものとする。実施の形態1〜3では、火炎法を利用して製造したマイクロファイバ6、或いは遠心法を利用して製造されたマイクロファイバ7が用いられているが、本実施の形態3では、マイクロファイバ6及びマイクロファイバ7の両方を用いている点で異なっている。
【0069】
図8は、実施の形態4に係る真空断熱材1の繊維シート2の拡大断面模式図である。
図8において、繊維シート2は、「実施の形態1〜3と同様の湾曲チョップド繊維5」と、「実施の形態1、2の火炎法を利用して得られたマイクロファイバ6、及び実施の形態3の遠心法を利用して得られたマイクロファイバ7」とを有している。
【0070】
[本実施の形態4に係る真空断熱材1の効果]
本実施の形態4に係る真空断熱材1は、この繊維シート2を有しているので、実施の形態1及び実施の形態2に係る真空断熱材1と、実施の形態3に係る真空断熱材1との中間の機能を果たすことができる。
すなわち、本実施の形態4に係る真空断熱材1は、製造コスト及び断熱性能の効果が、実施の形態1、2と実施の形態3との中間となることから、真空断熱材1を適用する先のコストパフォーマンスを考慮して、適切な選定をすれば、コストと断熱性能の両立をより図ることができる。
【0071】
実施の形態5.
図9は、実施の形態5に係る保温体(保温タンク22)の断面模式図である。
図9において、保温タンク22の周囲の少なくとも一部に真空断熱材1が設けられている。すなわち、円筒形状の保温タンク22の胴部24aの約2/3に円筒形状の真空断熱材1を巻き付けている。また、胴部24aの残り約1/3と上下の鑑板部24bは非真空断熱材23で被覆してある。
【0072】
真空断熱材1は、実施の形態1で示したものと同じ仕様であり、また作製は、実施の形態1で示した手順で行っている。さらに、真空断熱材1は、保温タンク22が円筒状であることに対応するように、円筒形状に曲げ加工がなされている。
非真空断熱材23は、EPS(ビーズ法発泡ポリスチレン)断熱材で、保温タンク22の上下の部分は、鑑板部24bの形状に合わせて成形している。
タンク内部には水が満たされており、加熱源(図示せず)により沸き上げたものである。加熱源としては、タンク内部に設けた電気ヒータから直接加熱する場合、また、他の加熱源であるたとえば燃料電池発電システムなどの排熱回収回路からの循環水による間接加熱などの手法がある。
【0073】
胴径600mmで容量370Lの保温タンク22を用いて、電気ヒータにてタンク内部を90℃の温水で満たし、外気を4℃に設定した環境にて放熱評価を実施した。
まず、厚み8mmの真空断熱材1と厚み50mmの非真空断熱材23を用いて、8時間経過した前後で放熱量を測定した。
次に、比較例1として示した真空断熱材1’を用いたタンクと比較したところ、実施の形態1の真空断熱材1を適用した保温タンク22の方が、約4%の放熱量が低減できていることが確認された。これにより、実施の形態1に係る真空断熱材1を適用することによって、外気との高い断熱性を有する円筒形状保温タンクが実現できる。
【0074】
また、本実施の形態5では、加熱源を例に説明したが、これが冷熱源であってもよい。
たとえば、冷凍機などによって冷却された水、若しくはアイスシャーベットなどが直接もしくは間接的に保温タンク22内部を除熱し、保温タンク22内部を周囲温度より低温に維持するものである。このように、冷熱源であっても、真空断熱材1を適用することでより熱遮性を向上させた保温タンク22を実現できる。
【0075】
[実施の形態5の変形例]
図10は、
図9とは異なる保温体200の断面模式図である。
図10において、保温体200は、外箱201と、外箱201の内部に配置された内箱202と、外箱201と内箱202との隙間に配置された真空断熱材1とを有している。
また、保温体200は、内箱202と外箱201で形成された空間のうち真空断熱材1が配置されていない空間には、ポリウレタンフォームで構成される断熱材203で充填されている。保温体200に、実施の形態1〜4に係る真空断熱材1を適用することで、断熱性能が高く、しかも長期信頼性のある保温体200を得ることができる。
【0076】
実施の形態6.
図11は、実施の形態6に係るヒートポンプ式給湯500のシステム構成図である。
このヒートポンプ式給湯500は、実施の形態5に係る保温タンク22を有しているものである。
図11において、ヒートポンプユニット31は、循環媒体が循環する冷媒循環回路36と、これが流通する複数の機器で構成されている。すなわち、ヒートポンプユニット31は、大気から熱を授受し循環冷媒に授与する空気熱交換器35と、循環媒体を加圧する圧縮機25と、循環冷媒から熱を除去する熱交換器29と、循環媒体を体積膨張させる膨張弁26とを有している。冷媒循環回路36において、第1熱交換器としての熱交換器29は凝縮器として機能し、第2熱交換器としての空気熱交換器35は蒸発器として機能している。
【0077】
熱交換器29で加熱された他の媒体は、三方弁28を経由して保温タンク22の上部と接続されている。また、保温タンク22の下部と熱交換器29との間には水ポンプ34aが設けられている。このように、媒体循環回路37は、熱交換器29、三方弁28、保温タンク22及び水ポンプ34aなどを有している。
また、保温タンク22に上部には温水を取り出して市水32と混合弁27aで混合して給湯に用いる給湯回路38と、混合弁27bにて市水32と混合して浴槽33に供給する回路が設けられている。
さらに、浴槽33からは、水ポンプ34bと風呂熱交換器30に接続する回路が設けられている。また、市水32は保温タンク22の下部に接続されている。
【0078】
次に、保温タンク22の内部の水を加熱する動作について説明する。
ヒートポンプユニット31は、たとえばCO
2 を冷媒として用い、冷媒循環回路36にて循環される。まず、CO
2 冷媒は、空気熱交換器35で大気中の熱を吸収する。次に、圧縮機25で圧縮されて百数十℃まで温度が上昇する。そして、熱交換器29で媒体循環回路37を流通する、たとえば水と熱交換が行われる。
熱を奪われたCO
2 冷媒は、膨張弁26にてさらに温度が低下されて、再度、空気熱交換器35に供給されて循環される。熱交換器29にて加熱された水は、たとえば90℃強まで加熱され、保温タンク22の上部に供給される。また、保温タンク22の下部からは温度の低い冷水が取り出され、水ポンプ34aにて熱交換器29に、この冷水が供給される。
【0079】
この様にヒートポンプユニット31を加熱源として用いて、保温タンク22内部の水を加熱させる。
加熱された温水は、用途に応じて使用されるが、たとえば、保温タンク22の上部から取り出した温水(保温タンク22の下部に市水32を供給することで水圧にて押し上げる)は、混合弁27aにて市水32と混合させて適切な温度になる様に調整された後、給湯用として給湯回路38に供給される。
また、同様に混合弁27bにて市水32と混合された温水が浴槽33に供給される。
一方、浴槽33の追い焚きには、風呂熱交換器30にて、浴槽33内の温水と、保温タンク22内の温水を熱交換させて利用する。
【0080】
実施の形態5で示した保温タンク22に、真空断熱材1を適用し、家庭用の給湯機システムの性能を評価した。JIS C 9220に基づいて、給湯機システムの効率を評価した結果、年間給湯効率が約0.5%向上することが確認された。
これにより、実施の形態1〜4の真空断熱材1を適用した保温タンク22を用いた給湯機システムは、より省エネ性に優れた給湯機システムを提供することができる。
【0081】
[実施の形態6の変形例]
図12は、
図11とは異なるヒートポンプ式給湯機501のシステム構成図である。
図12において、媒体循環回路37は、三方弁28bによって、保温タンク22を循環する回路と、これと分岐してラジエータ39に接続する回路が設けられている。また、保温タンク22を流通する循環回路は、保温タンク22内部の水とは幾何学的に分離されている。冷媒循環回路36の冷媒にはR410Aを用いている。その他の構成は、
図11と同じである。
【0082】
ヒートポンプユニット31を構成する熱交換器29で加熱された媒体循環回路37を流通する約70℃弱の温水は、通常はラジエータ39に供給されて、部屋の暖房に用いられる。ラジエータ39で大気に熱を与えて温度が低下した水は、水ポンプ34aによって熱交換器29に戻ることによって、媒体循環回路37を形成している。一方で、三方弁28bの切り替えにより、ラジエータ39への温水の供給を停止し、保温タンク22に設けられた螺旋形状の管を通過させることによって、保温タンク22に満たされた水を加温し、温水として貯える。保温タンク22の貯えられた温水は、シャワーなどの給湯として利用される。
【0083】
図12に示すものは、暖房を主目的とした給湯システムであるため、暖房負荷の小さい時間帯に保温タンク22に温水を貯え保温しておくことが必要である。ヒートポンプ式給湯機501は、保温タンク22が真空断熱材1を有しているため、保温タンク22からの放熱が低減され、より省エネ性に優れた給湯機システムを提供することができる。
【0084】
なお、上記にて保温タンク22の加熱方法や浴槽33の追い焚きや給湯の一例を示したが、何もこれに限定されるものではなく、ヒートポンプの原理を利用してタンク内部の水を直接加熱するものや、媒体循環回路37を流通させる媒体とタンク内部の水を幾何学的に分離して間接加熱するものであってもよい。
【0085】
また、冷媒循環回路36を循環する冷媒には、CO
2 冷媒、R401A冷媒を利用した例を示したが、これに限定されるものではなく、たとえば、使用条件などによってはイソブタンなどであっても良い。