【文献】
KENNEDY J H, ZHANG Z,Improved stability for the SiS2-P2S5-Li2S-LiI Glass system,Solid State Ionics,1988年 9月,Vol.28/30 No.Pt.1,726-728
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CuKα線を用いたX線回折測定で得られるXRDパターンにおいて、2θ=20.2°±0.5°、24.0°±0.5°及び29.7°±0.5°の位置に現れるピークと、2θ=24.8°±0.5°〜26.1°±0.5°の位置にピークと、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶性固体電解質。
硫化リチウムと、硫化リンと、硫化ケイ素と、ハロゲン化合物とを含む原料を混合し、硫化ガス雰囲気下において、500〜650℃で焼成する工程を備えた結晶性固体電解質の製造方法。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして溶け出して負極へ移動して吸蔵され、放電時には逆に負極から正極へリチウムイオンが戻る構造の二次電池であり、エネルギー密度が大きく、寿命が長いなどの特徴を有しているため、ビデオカメラ等の家電製品や、ノート型パソコン、携帯電話機等の携帯型電子機器、パワーツールなどの電動工具などの電源として広く用いられている。最近では、リチウム二次電池は、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などに搭載される大型電池へも応用されている。
【0003】
この種のリチウム二次電池は、正極、負極、及びこの両電極に挟まれたイオン伝導層から構成され、当該イオン伝導層には、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質フィルムからなるセパレータに非水系の電解液を満たしたものが一般的に用いられている。ところが、電解質として、このように可燃性の有機溶剤を溶媒とする有機電解液が使用されているため、揮発や漏出を防ぐための構造・材料面での改善が必要であったほか、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善も必要であった。
【0004】
これに対し、固体電解質を用いて電池全体を固体化してなる全固体型リチウム二次電池は、可燃性の有機溶媒を用いていないため、安全装置の簡素化を図ることができ、しかも製造コストや生産性に優れたものとすることができる。さらには、セル内で直列に積層して高電圧化を図れるという特徴も有している。また、この種の固体電解質では、Liイオン以外は動かないため、アニオンの移動による副反応が生じないなど、安全性や耐久性の向上につながることも期待される。
【0005】
この種の固体電解質として、高いリチウムイオン伝導性を示す固体電解質として、Li
7PS
6、Li
4P
2S
6、Li
3PS
4などの結晶相を含有する硫化物系固体電解質が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
これらの中で、Li
3PS
4の結晶相を含有する結晶性固体電解質は、化学的安定で、かつ導電率が高いために特に注目されている材料である。また、非晶性の固体電解質については、有機溶媒に浸漬すると、分解してしまうため、結晶性の高い固体電解質(「結晶性固体電解質」と称する)の方が実用的に好ましいと考えられる。
【0007】
このようなLi
3PS
4の結晶相を含有する結晶性固体電解質に関しては、例えば特許文献2において、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質として、Li
(4-x)P
xGe
(1-x)S
4(xは、0<x<1を満たす)の組成を有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度I
Aに対する、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度I
Bの比率(I
B/I
A)が0.50未満であることを特徴とする硫化物固体電解質が開示されている。
【0008】
ところで、この種の固体電解質を用いて固体電解質層を形成する場合、固体電解質と、有機溶剤からなる分散媒とを混合し粉砕してスラリー化させ、得られたスラリーを基板上に塗工して固体電解質層形成用塗工膜を製膜し、これを乾燥させて固体電解質層を形成することが行われている。
しかし、硫黄を含有する硫化物固体電解質は反応性が極めて高いため、スラリーを調製する際に使用可能な分散媒が、トルエン、ヘプタン等の非極性溶媒に限られていた。
【0009】
この点に関し、特許文献3は、非極性溶媒以外の溶媒として、3級アミン;エーテル;チオール;エステル基の炭素原子に結合した炭素数3以上の官能基およびエステル基の酸素原子に結合した炭素数4以上の官能基を有するエステル;ならびにエステル基の炭素原子に結合したベンゼン環を有するエステルの少なくとも1つからなる分散媒なども、硫化物固体電解質をスラリー化する際の溶媒(分散媒)として使用できることを開示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(本固体電解質)
本実施形態に係る結晶性固体電解質(「本固体電解質」と称する)は、組成式(1):Li
xSi
yP
zS
aHa
w(式中、HaはBr、Cl、I及びFのいずれか一種又は二種以上を含む。2.4<(x−y)/(y+z)<3.3)で示され、Sの含有量が55〜73質量%であって、Siの含有量が2〜11質量%であって、且つ、Ha元素の含有量が0.02質量%以上であることを特徴とする結晶性固体電解質である。
【0018】
固体電解質とは、電子ではなく、Li
+などのイオンを通じる固体である。中でも、本固体電解質は、化学的安定性が高いため、例えばNMP、アセトン、DMFなどの極性溶媒を用いてスラリー化することができる。しかも、これらの溶媒に浸漬した後の導電率を高く維持することができる。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に浸漬した後の導電率(室温)を1×10
−5S・cm
−1以上とすることができる。
さらに言えば、後述するように、メカニカルミリング処理を必要とせず、例えば通常のボールミルなどの手段で混合することにより製造できるから、生産性及び経済性においても実用的である。
【0019】
上記組成式(1)において、2.4<(x−y)/(y+z)<3.3であることは、PS
4型四面体分子構造を基本構造とする点で共通しており、共通の物性を有していると考えられる。すなわち、Li
3+αSi
αP
1−αS
4を満たすものであれば、x−y=3.0、y+z=1.0で(x−y)/(y+z)=3.0となるから、(x−y)/(y+z)の値がこの3.0を中心として2.6〜3.1の範囲内である組成であれば、その構造はLi
3+αSi
αP
1−αS
4に準ずるものと考えられ、Li
3+αSi
αP
1−αS
4と同様の効果が得られると考えられる。
かかる観点から、「(x−y)/(y+z)」は、2.5〜3.2であるのが好ましく、その中でも2.4〜3.1であるのがさらに好ましい。
【0020】
なお、Liの含有量(質量%)としては、11.5〜14.9質量%であるのが好ましく、中でも11.5質量%以上或いは13.8質量%以下、その中でも11.5質量%以上或いは13.6質量%以下であるのがさらに好ましい。
また、Pの含有量(質量%)としては、4.6〜14.0質量%であるのが好ましく、中でも4.8質量%以上或いは13.7質量%以下、その中でも5.0質量%以上或いは13.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
上記組成式(1)において、Siの含有量は2〜11質量%であるのが好ましい。Siの含有量が2質量%より少ない場合であっても、又、11質量%より多い場合であっても、固体電解質はイオン導電性の低い結晶構造を呈するようになるため、初期導電率が低下する傾向が認められる。極性溶媒に対して安定でも、初期導電率が低ければ使用上の問題となるため好ましくない。
かかる観点から、Siの含有量は2〜11質量%であるのが好ましく、中でも3質量%以上或いは9質量%以下、その中でも4.5質量%以上或いは8.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0022】
上記組成式(1)において、Ha元素の含有量は0.02質量%以上であるのが好ましい。Ha元素の含有量が0.02質量%より少ないと、極性溶媒との反応性が強くなり、化学安定性が低くなるため、溶媒(例えばNMP)浸漬後の導電率が小さくなってしまう。他方、Ha元素の含有量が多過ぎると、導電率の高い結晶構造が保てなくなり、導電率が低下することになる。
かかる観点から、Ha元素の含有量は0.02質量%以上であるのが好ましく、中でも10質量%以下、その中でも3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0023】
なお、上記組成式(1)において、S元素の含有量は55〜73質量%であるのが好ましい。S元素の含有量が55〜73質量%であれば、Liイオン伝導性の高い結晶構造をとりやすくなり、導電率を高くできる点で好ましい。
かかる観点から、S元素の含有量は55〜73質量%であるのが好ましく、中でも57質量%以上或いは72質量%以下、その中でも60質量%以上或いは71質量%以下であるのがより一層好ましい。
【0024】
なお、本固体電解質は、Li、Si、P、S及びHaを上記範囲で含んでいれば、他の元素を含むことも可能である。
【0025】
本固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定で得られるXRDパターンにおいて、下記Li−Si−P−S型結晶構造に由来するピークのほかに、2θ=24.8°±0.5°〜26.1°±0.5°の位置にピークを有することが好ましい。
本固体電解質がこのようなXRDパターンを有する場合には、溶媒に浸漬した後の導電率をさらに高く維持することができる。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に浸漬した後の導電率(室温)を1×10
−4S・cm
−1以上とすることができる。
【0026】
上記のLi−Si−P−S型結晶構造とは、結晶格子中の位置座標においてa=bの正方晶であり、PS
4またはSiS
4四面体の中心がa=0、b=0、c=0.5の位置と、a=0、b=0.5、c=0.69の位置と、以下の対称性を満たす位置とに存在しており、その対称性はa=0、b=0.5を通るc軸がc=0.5ずつ並進する4回らせん対称を持っており、004面が110方向の映進面となり、220面が001方向の映進面となり、200面が鏡映面となっているという特徴を有する結晶構造である。
【0027】
上記Li−Si−P−S型結晶構造は、CuKα線を用いたX線回折測定で得られるXRDパターンにおいて、少なくとも2θ=20.2°±0.5°、24.0°±0.5°及び29.7°±0.5°の位置に現れる結晶構造である。
【0028】
他方、2θ=24.8°±0.5°〜26.1°±0.5°の位置に現れるピークは、Ha元素を含有する相、すなわち基本構造である上記Li−Si−P−S型結晶構造とは異なる異相に由来するピークであると推測することができる。
例えばHa元素としてI(ヨウ素)を含む場合には、2θ=24.8°±0.5°の位置にピークが出現する。
また、Ha元素としてBr(臭素)を含む場合には、2θ=25.2°±0.5°の位置にピークが出現する。
また、Ha元素としてCl(塩素)を含む場合には、2θ=25.6°±0.5°の位置にピークが出現する。
そして、Ha元素としてF(フッ素)を含む場合には、2θ=26.1°±0.5°の位置にピークが出現する。
【0029】
(本固体電解質の製造方法)
次に、本固体電解質の製造方法の一例について説明する。但し、ここで説明する製造方法はあくまでも一例である。
【0030】
本固体電解質は、硫化リチウムと、硫化リンと、硫化ケイ素と、ハロゲン化合物とを含む原料を混合し、適当な強度で粉砕した後、必要に応じて乾燥させ、硫化ガス雰囲気下において、500℃〜650℃の温度領域で焼成し、必要に応じて解砕乃至粉砕し、必要に応じて分級する工程を備えた製造方法により製造することができる。但し、この製造方法に限定するものではない。
【0031】
原料混合後の粉砕は、振動ミルやメカニカルミリングのように強度の高い粉砕を行うと、得られる固体電解質がイオン導電性の低い結晶構造(安定構造)をとるようになり、初期導電率が低下することになってしまう。そのため、準安定構造をとるように、ボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー等で粉砕するのが好ましい。この際、少なくとも振動ミルやメカニカルミリングで粉砕して結晶性を一旦低下させる必要はない。
【0032】
焼成は、硫化水素ガス(H
2S)流通下で、500℃〜650℃の温度領域、中でも600℃以下、その中でも575℃以下の温度領域で焼成するのが好ましい。
上記の如く硫化水素ガス(H
2S)流通下、500℃以上で焼成することにより、結晶性の高い固体電解質を得ることができる。また、650℃以下で焼成することにより、電子伝導の少ない固体電解質とすることができる。さらに575
℃以下で焼成することにより、上記Li−Si−P−S型結晶構造(すなわち準安定構造)に由来するピークを有するものとなり、特に好ましい。
【0033】
なお、原料及び焼成物は、大気中で極めて不安定で、水分と反応して分解し、硫化水素ガスを発生したり、酸化したりするため、これらは不活性ガス雰囲気に置換したグローブボックス等を通じて、原料を炉内にセットして焼成物を炉から取り出す一連の作業を行うのが好ましい。
また、未反応のH
2Sガスは、有毒ガスであるため、排気ガスをバーナーなどで完全燃焼させた後、水酸化ナトリウム溶液で中和させて亜硫酸ナトリウムなどとして処理するのが好ましい。
【0034】
(本固体電解質の用途)
本固体電解質は、全固体リチウム二次電池又は全固体リチウム一次電池の固体電解質層や、正極・負極合材に混合する固体電解質等として使用できる。
例えば正極と、負極と、正極及び負極の間に上記の固体電解質からなる層を形成することで、全固体リチウム二次電池を構成することができる。
【0035】
ここで、固体電解質からなる層は、例えば固体電解質とバインダー及び溶剤から成るスラリーを基体上に滴下し、ドクターブレードなどで擦り切る方法、スラリー接触後にエアーナイフで切る方法、スクリーン印刷法等で作製することができる。或いは、固体電解質の粉体をプレス等により圧粉体を作製した後、適宜加工して作製することもできる。
正極材としては、リチウム二次電池の正極活物質として使用されている正極材を適宜使用可能である。
負極材についても、リチウム二次電池の正極活物質として使用されている正極材を適宜使用可能である。
【0036】
(用語の解説)
本発明において「固体電解質」とは、固体状態のままイオン、例えばLi+が移動し得る物質全般を意味する。
【0037】
また、本発明において「X〜Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Yより小さいことが好ましい」旨の意図を包含する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0039】
(実施例1)
表1に示した組成式となるように、硫化リチウム(Li
2S)と、硫化リン(P
2S
5)と、硫化ケイ素(SiS
2)と、ハロゲン化リチウムとして臭化リチウム(LiBr)とをそれぞれ秤量して混合し、容量100mLのアルミナ容器に原料の合計質量の20倍質量のジルコニウムボールと原料とを入れ、入江商会社製卓上型ボールミル「V−1M」で12時間粉砕して混合粉末を調製した。この混合粉末をカーボン製の容器に充填し、これを管状電気炉にて硫化水素ガス(H
2S、純度100%)を1.0L/min流通させながら、昇降温速度300℃/hにて昇温した後、550℃で4時間焼成し、降温した。その後、試料を乳鉢で解砕し、目開き53μmの篩いで整粒して粉末状の試料を得た。
この際、上記秤量、混合、電気炉へのセット、電気炉からの取り出し、解砕及び整粒作業は全て、十分に乾燥されたArガス(露点−60℃以下)で置換されたグローブボックス内で実施した。
【0040】
得られた試料を下記のように分析したところ、組成式:Li
xSi
yP
zS
aHa
w(式中、HaはBr。(x−y)/(y+z)=3.00)で示すことができる結晶性固体電解質であり、
Siの含有量は6.2質量%、Brの含有量は0.04質量%であることが判明した。
また、得られた試料を下記のようにX線回折測定したところ、2θ=20.2°、24.0°、25.2°、27.0°、29.1°、29.7°の位置にピークを確認した。これらのうち、20.2°±0.5°、24.0°±0.5°、29.7°±0.5°及び24.8°±0.5°〜26.1°±0.5°の各範囲のピーク値のみを表3に示した(下記実施例も同様)。
【0041】
(実施例2−9)
表1となるように原料の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして試料を作製し、評価した。
【0042】
(実施例10−13)
実施例3において、焼成温度を575℃(実施例10)、525℃(実施例11)、650℃(実施例12)、600℃(実施例13)にそれぞれ変えて試料を作成し、評価した。
【0043】
(比較例1−3)
実施例1において、表1となるように原料の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして試料を作製し、評価した。
【0044】
(比較例4)
実施例3において、H
2Sの代わりにArをフローさせて650℃にて焼成を行って試料を作製し、評価した。
【0045】
(比較例5)
実施例3において、混合粉末を焼成しないでそのまま試料とし、評価した。
【0046】
(比較例6)
実施例3において、焼成温度を700℃に変更した以外は、実施例3と同様にして試料を作製し、評価した。
【0047】
【表1】
【0048】
<生成相及び組成比の測定>
実施例・比較例で得られた試料について、生成相をX線回折法で測定した。また、各組成比をICP発光分析法で測定した。
図1には、実施例1〜13及び比較例1で得られた試料についてのX線回折チャートを示した。
実施例Li、Si、P、Ha、SにつきICP分析を行い、それらの分析値(質量%)をモル数に換算したうえで(x−y)/(y+z)の値を示した。
【0049】
【表2】
【0050】
<導電率の測定>
実施例・比較例で得た試料について、先ず下記要領で導電率(初期)を測定した。
次に、サンプルに対して10倍量(質量)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒(温度25℃)又はその他の溶媒に浸漬し、300℃のホットプレートでNMP又はその他の溶媒を乾燥させた後、次のようにしてイオン導電率(単位S・cm
−1)を測定した。
【0051】
この際、グローブボックス内で一軸加圧成形してペレットを作製し、その後200MPaでCIP成形を行い、更にペレット上下両面に電極としてのカーボンペーストを塗布した後、180℃で30分熱処理を行い、イオン導電率測定用サンプルを作製した。また、イオン導電率の測定は、室温(25℃)にて交流インピーダンス法にて行った。
【0052】
交流インピーダンス法は、交流電圧の周波数を変化させながらインピーダンス成分である抵抗成分を測定する方法であり、測定試料における各抵抗成分の周波数依存性、つまり緩和時間の違いにより、各抵抗成分を分離することができる。
固体電解質は、リチウムイオン伝導により電気伝導性を発現するが、緩和時間については、経験的にバルク抵抗<粒界抵抗<電極界面抵抗の順で小さいことが知られているため、周波数に対してインピーダンスをプロット(コールコールプロットと称する)することで、各抵抗成分の大きさを求めることができる。そこで、本実施例では、バルク抵抗成分と粒界抵抗成分を合わせたものをイオン導電率として算出した。
【0053】
また、インピーダンスの算出に当たっては、インピーダンスをコールコールプロットという標記方法でプロットしたとき、通常の固体電解質であれば、最低でも1回は、はっきりと横軸(位相差=0°)近傍にプロットが近づく点が現れるため、この点をイオン伝導のインピーダンスとして(推定し)読み取り、イオン導電率に換算することが行われる。
この際、コールコールプロットにおいて、はっきりと横軸(位相差=0°)近傍にプロットが近づく点が現れない場合には、読み取りができないことになる。固体電解質は、電子ではなく、Li
+などのイオンを通じる固体であるが、測定サンプルが電子伝導性を有する場合には、このように読み取りができなくなる。表中の「読取不能」とは、このように測定サンプルが電子伝導性を有しており、読み取りができなかった結果を示すものである。他方、表中の「測定不能」とは、測定される信号がノイズよりも小さいため正確な値をさせないことを示すものであり、具体的な数字として1×10
−6S・cm
−1未満である。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例の結果とこれまで発明者が行った試験結果を総合すると、少なくとも組成式:Li
xSi
yP
zS
aHa
w(式中、HaはBr、Cl、I及びFのいずれか一種又は二種以上を含む。2.4<(x−y)/(y+z)<3.3)で示される結晶性固体電解質において、Sの含有量が55〜73質量%であって、Siの含有量が2〜11質量%であって、Ha元素の含有量が0.02質量%以上であると、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの極性溶媒をスラリー化する際の分散媒として使用することができ、しかも、これらの溶媒に浸漬した際に導電率が低下するのを抑制することができることが分かった。
【0056】
また、各実施例・比較例で得られたサンプルのXRDパターンをもとに、実施例1〜13及び比較例1〜6で得られたサンプルの結晶構造の解析を行った。解析の結果、実施例1〜5及び実施例8〜11で得られたサンプルの結晶構造は、a=bの正方晶に、PS
4またはSiS
4四面体がa=0、b=0、c=0.5の位置と、a=0、b=0.5、c=0.69の位置と以下の対称性を満たす位置に存在しており、その対称性はa=0、b=0.5を通るc軸がc=0.5ずつ並進する4回らせん対称を持っており、004面が110方向の映進面となり、220面が001方向の映進面となり、200面が鏡映面となっている結晶構造(「新規Li−Si−P−S結晶構造」とも称する)であることが分かった。これはLi−Si−P−S系で過去に得られていないものであった。
【0057】
また、上の構造でシミュレーションされるXRDパターンのほかに2θ=24.8°±0.5°〜26.1°±0.5°の位置に含有するハロゲン種により変わるピークが観測された。
そして、このような新規Li−Si−P−S結晶構造を有すれば、溶媒に浸漬した後の導電率をさらに高く維持することができることが分かった。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に浸漬した後の導電率(室温)を1×10
−4S・cm
−1以上とすることができることが分かった。