特許第6025992号(P6025992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025992
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】水素を援用するスート体のフッ素化
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20161107BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20161107BHJP
   C03B 8/00 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C03B8/04 P
   C03B8/04 R
   C03B8/04 C
   C03B37/018 C
   C03B8/00 B
【請求項の数】28
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-533512(P2015-533512)
(86)(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公表番号】特表2015-535795(P2015-535795A)
(43)【公表日】2015年12月17日
(86)【国際出願番号】EP2013068438
(87)【国際公開番号】WO2014048694
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年3月27日
(31)【優先権主張番号】12006738.4
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マーティン トロマー
(72)【発明者】
【氏名】マルテ シュヴェーリン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン グリム
(72)【発明者】
【氏名】フランク フレーリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス キルヒホーフ
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−270233(JP,A)
【文献】 特開2002−060238(JP,A)
【文献】 特開平01−219034(JP,A)
【文献】 特表2002−539504(JP,A)
【文献】 特表2009−515217(JP,A)
【文献】 特表2002−540057(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0104437(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0221459(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00 − 5/44
C03B 8/00 − 8/04
C03B 19/12 − 19/14
C03B 20/00
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程
a)スート体を調製する工程、及び
b)スート体を、Cn2n+2(n=1又は2)及び水素を含むガス混合物で、(1280−n×250)℃〜(1220−n×100℃の範囲内の温度で処理する工程、
を含むスート体のフッ素化方法。
【請求項2】
スート体の処理を、CF4及び水素を含むガス混合物を用いて、1050〜1120℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
スート体の処理を、C26及び水素を含むガス混合物を用いて、750〜1000℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記温度範囲が、850〜980℃であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ガス混合物が、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して65体積%までのCn2n+2(n=1又は2)及び水素を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ガス混合物が、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して5〜35体積%のCn2n+2(n=1又は2)及び水素を含むことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ガス混合物が、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して10〜60体積%のC26又はCF4を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記C26又はCF4の含有量が、12〜30体積%であることを特徴とする請求項7載の方法。
【請求項9】
ガス混合物が、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して35〜95体積%の窒素を含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記窒素の含有量が、70〜90体積%であること特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
ガス混合物が、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して、15体積%までの量で水素を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記水素の含有量が、5体積%までであることを特徴とする請求項11載の方法。
【請求項13】
前記水素の含有量が、1〜4体積%であることを特徴とする請求項11載の方法。
【請求項14】
前記水素の含有量が、1〜3体積%であることを特徴とする請求項11載の方法。
【請求項15】
前記スート体が、多孔質SiO2スート体であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記スート体が、析出したSiO2粒子を含むスート管であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記スート体が、平均密度0.48g/cm3〜0.77g/cm3及び5m2/gより大きい比表面積を有することを特徴とする請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
以下の工程
i)スート体を製造又は調製する工程、
ii)請求項1から17のいずれか1項記載のスート体をフッ素化する工程、及
iv)フッ素化されたスート体を、0.1barを下回る圧力で、かつフッ素化温度を上回る温度でガラス化する工程
を含む光学エレメント用合成ガラスの製造方法。
【請求項19】
前記圧力が、10-2barを下回ることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記温度が、1250℃〜1500℃であることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項21】
さらに、工程iii)としてフッ素化されたスート体を塩素化する工程を含むことを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項22】
スート体の製造を、少なくとも1の析出バーナーを用いて、材料被着のためにSiO2粒子をその長軸を中心に回転する支持体に析出することにより行うことを特徴とする請求項18から21のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
少なくとも2の析出バーナーを用いることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
合成ガラスがガラス管であることを特徴とする請求項18から23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
請求項1から17のいずれか1項記載の方法、又は請求項18から24のいずれか1項記載の方法を、光学エレメントの製造に用いる使用。
【請求項26】
前記光学エレメントが、光ファイバーであることを特徴とする請求項25記載の使用。
【請求項27】
請求項18から24のいずれか1項記載の方法により得られるガラスを、被覆管又は基盤管を形成しつつ伸長させることで、該ガラスを光ファイバーの一部として用いる使用。
【請求項28】
さらに、前記ガラスを、基盤管の内壁にコーティングさせる、請求項27記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スート体のフッ素化方法、前記方法により得られるフッ素化されたスート体並びに前記フッ素化方法を使用して光学エレメント用の合成ガラスを製造する方法、並びに前記製造方法により得られるガラスにも関する。
【0002】
商業用途のための合成石英ガラスの製造のためには、ケイ素含有出発物質からCVD法(化学的気相堆積)において加水分解及び/又は酸化によりSiO2粒子を作成し、前記SiO2粒子を支持体に堆積させる。この場合に、外側析出方法と内側析出方法とに区別されることができる。外側析出方法では、SiO2粒子を回転する支持体の外側に設ける。例としては、いわゆるOVD法(outside vapor phase deposition)又はPECVD法(plasma enhanced chemical vapor deposition)が挙げられる。内側析出方法のための既知の例としては、MVCD法(modified chemical vapor deposition)があり、この方法では外側から加熱される管の内壁にSiO2粒子が析出される。
【0003】
支持体表面の領域で温度が十分に高い場合には、SiO2粒子の直接ガラス化が生じる(「Direct glassification」)。
【0004】
これとは異なり、いわゆる「スート法」では、SiO2粒子の析出の間の温度は低いため、別個の方法工程において透明なガラスへと焼結される多孔質スート体が得られる。これに関する例は、DE 10 2007 024 725 A1から知られている「OVD法」であり、ここでは析出バーナーに燃焼ガスが水素及び酸素の形で並びにケイ素含有出発化合物が供給され、これは析出バーナーに属するバーナー火炎中でSiO2粒子へと変換され、前記粒子は析出バーナーの逆作動する運動下ではその長軸(Laengachse)を中心に回転する支持体に沿ってSiO2ブランクを形成しつつ層状に析出される。
【0005】
ミクロリソグラフィにおいて又は通信技術における光学部材のために使用される合成石英ガラスには、屈折率−均一性に関する高い要求が課せられる。
【0006】
石英ガラスの屈折率を低下させるためのドーパントとしてフッ素を使用することは、先行技術から知られている。そして、US 2001/0018835は、耐UVのFドープ石英ガラスを記載し、ここでスート体は水素又は酸素からの雰囲気において加熱され、その後の方法工程においてフッ素含有雰囲気における焼結が行われる。この二段階の処理によって、UV透過性の改善が達成されるものである。
【0007】
JP 63−225543 Aは、構造的欠陥を回避するとの目的でもって、多孔質ケイ素酸化物含有前駆体のフッ素ドーピング及びガラス化を記載する。
【0008】
EP 1 337 483 A1は、スート体の脱水素方法を記載し、ここでスート体は、塩素及び一酸化炭素からのガス混合物に曝される。
【0009】
JP 62−176937は、フッ素ドープ石英ガラスの製造方法を記載し、ここでスート体はまず、第一工程において、貧酸素雰囲気においてシラン(SiH4)で処理されて、酸素空格子点(Sauerstofffehlstelle)を生じせしめ、前記空格子点は後続のフッ素化工程においてSiF4形成の改善された形成を生じるものである。それによって、より高度なフッ素化がケイ素酸化物−スート体において達成されるものである。
【0010】
可能な限り高くかつ均一なドーピングを達成するために、許容可能な温度範囲において、含まれるフッ素とSiO2マトリックスとの反応を容易にし、かつ可能な限り迅速にスート体へと拡散侵入するドーピングガスを、SiO2スート体に使用しなければならない。しかし問題は、ドーピングプロセスの間の高いドーピング温度では、ドーピング度の増加とともにスート体の焼結が始まることである。結果として、孔が閉鎖し、フッ素化剤の所望の拡散は困難になり、そうして、予備焼結のために不均一性並びに部分的に変形されたスート体を生じる。
【0011】
SiO2含有スート体のフッ素化のためにテトラフルオロメタン及びヘキサフルオロエタンが良好に使用可能であることが見出された。それというのも、これらフッ素炭化水素は、慣用のフッ素化剤SiF4とは異なり良好に取り扱い可能であり、毒性を示さず、室温で不活性であり、加えて、比較的安価であるからである。しかし、テトラフルオロメタン又はヘキサフルオロエタンの使用により、熱分解のために比較的高温が、そしてそれと結び付いてフッ素含有反応種の形成が必要となる、という欠点がある。しかし、この高温では、既にスート体の著しい焼結が開始するが、この焼結は再度均一なフッ素化とは逆に作用する。さらに、フッ素炭化水素の使用では、ガラス中の高いフッ素含有量の達成のために必要な温度で、ドーピング装置において、またスート体においても析出することがあり、そして極端な場合にはガラスの黒色の着色を生じる炭素が発生することが示された。テトラフルオロメタン又はヘキサフルオロエタンを用いたフッ素化の間の煤の発生は、この方法に対して、そして、そこから製造されるスート体又は石英ガラスの品質に対して不利に作用する。
【0012】
意外なことに、水素をフッ素炭化水素であるテトラフルオロメタン又はヘキサフルオロエタンに添加することにより、フッ素含有反応種の形成は既に著しい低温で行われ、そして、改善され、より均一な拡散、ひいてはフッ素化が1又は複数のスート体において行われることが見出された。その理由は、HFの追加的な形成である可能性があり、なぜならば、この分子は極めて小さく、そのために、同様に形成されるSiF4に比較して、遙かにより良好にスート体の孔へと拡散導入できるからである。同時に、温度範囲の好適な選択によって、煤形成は抑制されることができる。
【0013】
本発明の第1の主題は、
以下の工程:
a)スート体を調製する工程、及び
b)スート体を、Cn2n+2(n=1又は2)及び水素を含むガス混合物で、(1280−n*250)℃〜(1220−n*100℃)の範囲内の温度で処理する工程、
を含むスート体のフッ素化方法に関する。
【0014】
スート体は、いわゆる「スート法」で製造される物質である。スート法では、SiO2粒子の析出の間の温度は低く選択されるため、別個の方法工程において透明なガラスへと焼結される多孔質スート体が発生する。
【0015】
一般に、SiO2スート体の構造は十分にガス通過性であり、それによって、均一な気相処理又は焼結が容易になる。高密度を有する層の領域では、これは限定的にのみ可能である。というのは、前記層は、乾燥プロセス又は焼結プロセスの際に不均一な処理結果を引き起こし得る拡散バリアーを作り出すからである。この問題は、その長い拡散経路のために、特に大体積SiO2スート体で問題である。
【0016】
本発明の範囲では、スート体は、好ましくは多孔質SiO2スート体、特に析出したSiO2粒子を含むスート管である。
【0017】
スート体の製造は、この場合に、支持体上に堆積されるSiO2粒子へと、ケイ素含有出発材料を加水分解及び/又は酸化することによって実行されてよい。
【0018】
好ましい一実施態様において、スート体は平均密度0.48g/cm3〜0.77g/cm3、好ましくはBET表面積として測定した5m2/gより大きい、5m2/g〜25m2/gの比表面積を有する。
【0019】
先行技術及び/又は本発明の方法に応じて製造したスート体は、石英ガラスの密度の22〜35%である密度を有してよく、ここで石英ガラス密度2.21g/cm3が基礎とされる。達成される密度は、特に沈積表面に対するバーナーの距離、調節される温度、ガスの化学量論量並びにバーナーの幾何学的形状に依存する。これらのファクターを変動させることで、様々な密度推移がスート体内で調節されることができ、例えば線状の、上昇性又は下降性の、半径方向の密度推移がスート体内で調節されることができる。密度分布の試験のために、スート体の局所密度が既知の方法を用いて約700の測定点で算出される。そのために、コンピュータートモグラフィ法を用いて50の撮影断片を作成し、この断片はそれぞれスート体の長軸を横断する断片を示す。半径方向の密度推移の決定のために、全50のコンピュータートモグラフィによる断片においてそれぞれ14の、おおよそ等間隔の測定点を撮影する。この方法を用いて、それぞれ半径方向の密度推移がスート体を通じて断面に沿って測定されること、そして、また密度プロファイルがスート体の長軸に沿って測定されることも可能にできる。
【0020】
密度の平均値Mは、全50の測定点の平均化から生じ、その幾何学的配置はスート体の長軸に沿って変動するが、中心軸に対するその幾何学的間隔は変動しない。平均的なスート体では、コンピュータートモグラフィ法によって50の断片がスート体を通じて生じ、その結果、それぞれ50の密度測定の平均化から密度の平均値が生じる。一般に、密度の平均値はそれぞれ正規分布しており、その結果、幅ρが決定されることができる。半径方向の密度プロファイルの測定には、それぞれ50の断片においてそのつどスート体の中央点に対するその半径方向の間隔が増加する14の測定点が決定される。したがって、中央値Mの幅ρの分散デルタは、14の点の統計を包含する。
【0021】
好ましくは、スート体の製造は、少なくとも1の、好ましくは少なくとも2の析出バーナーを用いて、材料被着のためにSiO2粒子をその長軸を中心に回転する支持体に析出することにより行う。
【0022】
更なる一実施態様において、析出方法は、多数の析出バーナーを用いて行うこともできる。そのために、少なくとも1の第1の装入媒体(ケイ素含有原料媒体を含む)、第2の装入媒体(燃焼媒体である)及び好ましくは第3の装入媒体(支援ガスである)を、それぞれのバーナーに供給し、SiO2粒子を回転する支持体の外側に析出させる。この場合に、析出バーナーの反応区域(本質的にバーナー火炎からなる)に、ケイ素含有原料媒体を供給し、この場合にこれを酸化及び/又は加水分解及び/又は熱分解によってSiO2粒子へと反応させ、前記SiO2粒子はスート体を形成して支持体上に堆積する。
【0023】
燃焼媒体は好ましくは水素、メタン、プロパン、ブタン、天然ガス又はその混合物から選択されてよい。
【0024】
ケイ素含有原料媒体は好ましくはシロキサン又はシラン、特にクロロシランの群に属する。クロロシランとして、特にSiCl4が使用できる。シロキサンとして、特にポリアルキルシロキサンの群からの化合物が使用できる。
【0025】
本発明の範囲では、ポリアルキルシロキサンの概念は、鎖状の分子構造も環状の分子構造も含む。ただし、ケイ素含有原料媒体が主成分としてD4(OMCTSとも称される)を有することが好ましい。D3、D4、D5との表記は、General Electric Inc.によって導入された表記に由来し、ここで「D」は基[(CH32Si]−O−を表す。したがって、D3はヘキサメチルシクロトリシロキサンを、D4はオクタメチルシクロテトラシロキサンを、D5はデカメチルシクロペンタシロキサンを、D6はドデカメチルシクロヘキサシロキサンを記す。好ましい変法において、ケイ素含有原料媒体の主成分はD4である。そして、D4の割合は、ケイ素含有原料媒体の少なくとも70質量%、特に少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、特に好ましくは少なくとも94質量%である。
【0026】
支援ガスとして好ましくは酸化剤、例えば酸素が使用できる。
【0027】
意外なことに、テトラフルオロメタン又はヘキサフルオロエタンを用いたSiO2スート体のフッ素化は、フッ素化を定義された温度範囲内で行い、かつ、フッ素炭化水素ガスを用いて水素の存在下で行う場合に、実質的に煤不含(russfrei)で行われることが示された。本発明では、フッ素化は、スート体を、Cn2n+2(n=1又は2)及び水素を含むガス混合物で、(1280−n*250)℃〜(1220−n*100℃)の範囲内の温度で処理することにより行われる。
【0028】
水素を併用するテトラフルオロメタンの使用は、この場合に、水素の存在下でヘキサフルオロエタンを用いたフッ素化に比較して幾分かより高温で行われる。
【0029】
好ましい実施態様において、スート体の処理は、CF4及び水素を含むガス混合物を用いて、1050〜1120℃の温度範囲で行われる。
【0030】
スート体の処理は、C26及び水素を含むガス混合物を用いて、好ましくは750〜1000℃、より好ましくは850〜980℃の温度範囲で行われる。
【0031】
スート体のフッ素化に使用される、Cn2n+2(n=1又は2)及び水素を含むガス混合物は、好ましくは不活性ガスで希釈して使用される。好ましくは、ガス混合物は、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して、65Vol.−%まで、好ましくは5〜35Vol.−%の、Cn2n+2(n=1又は2)及び水素を含む。
【0032】
ガス混合物中のフッ素炭化水素であるC26又はCF4の量は、好ましくはそのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して、好ましくは10〜60Vol.−%、特に12〜35Vol.−%である。
【0033】
ガス混合物中の水素量は、選択される反応条件下での爆発の危険性を可能な限り少なく維持するために、好ましくは可能な限り少なく維持される。好ましくは、ガス混合物は、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して、15Vol.−%まで、好ましくは5Vol.−%まで、特に1〜4Vol.−%、特別に1〜3Vol.−%の量で水素を含む。しかし、基本的には、化学量論上変換可能な割合までの、より高含有量の水素も可能であり、但し、爆発保護における著しい出費を必要とする。
【0034】
ガス混合物中のCn2n+2(n=1又は2)対水素の体積比は、好ましくは4:1〜1:4、特に3:1〜1:3、特殊には2:1〜1:1である。
【0035】
さらに、ガス混合物は不活性ガスを有してよい。好ましい不活性ガスは窒素又は希ガス、例えばアルゴン又はヘリウムである。不活性ガスは、ガス混合物の95Vol.−%までを構成してよい。本発明の方法の好ましい実施態様において、ガス混合物は、そのつど25℃でのガス混合物の全体積に対して、35〜95Vol.−%、特に70〜90Vol.−%の窒素を含む。
【0036】
さらに好ましい実施態様において、ガス混合物は本質的に塩素又は塩素含有化合物不含である。本質的に不含とは、本発明の範囲において、ガス混合物が、10000ppm未満(質量に対してparts per million)、好ましくは1000ppm未満の塩素及び/又は塩素含有化合物を有することを意味する。
【0037】
スート体のフッ素化は当業者に知られている反応器内で実施できる。反応器は通常は、ガス供給及びガス排出のための装置も圧力制御及び温度制御のための装置も提供するように設計されている。本発明のスート体フッ素化は、好ましくは、反応器外の圧力を下回る反応器内の圧力下で行われる。反応器内の低下した内圧によって、反応器からの反応ガスの漏出が回避できる。好ましくは、外圧(反応器外の圧力)と内圧(スート体のフッ素化が行われる反応器内の圧力)の間の圧力差は、少なくとも1mbar、特に少なくとも5mbar、特別に少なくとも10mbar、例えば少なくとも50mbarである。フッ素化は、典型的には雰囲気圧力を下回る圧力で、好ましくは800mbar〜1000mbar未満の範囲内で、例え850〜980mbarの範囲内で行われる。
【0038】
スート体のフッ素化は好ましくは連続的プロセスにおいて行われ、ここではスート体のフッ素化の間に反応器に本発明によってスート体の処理に予定されているガス混合物が連続的に供給される。反応器サイズ及びスート体サイズに応じて、ガス混合物の供給及び排出はこのために例えば0.5〜50l/分、好ましくは5〜20l/分の範囲内で行われてよい。
【0039】
フッ素化すべきスート体のサイズ及び質量に応じて、フッ素化は場合によっては、数時間にわたり行われる。典型的には、スート体のフッ素化の期間は1〜24時間、例えば3〜16時間である。
【0040】
本発明のフッ素化方法の好ましい実施態様において、スート体は処理工程b)前に乾燥される。スート体がまず乾燥される場合に、フッ素化及び得られるスート体の品質が顕著に改善されることができることが示された。通常は、スート体の乾燥は、800〜1150℃の範囲内の温度で行われる。それによって、ヒドロキシル基含有量50〜500ppmが達成される。
【0041】
さらに、熱による乾燥に追加してヒドロキシル基含有量を、脱水素ガス、例えば塩素を用いた処理によって低下させる手段が存在する。それによって、ヒドロキシル基含有量0.1ppm〜20ppmが達成できる。この含有量は、IR分光法によって透明なガラスに対して測定されることができ、前記ガラスは相応する乾燥工程に応じて焼結によって獲得される。
【0042】
フッ素化工程におけるフッ素は、存在するヒドロキシル基と反応することができるので、そのレベルも空間的分布もフッ素化に対して影響を有する。塩素化を用いた乾燥によって、極めて少ない均一なOH含有量がスート体の中で調節され、その結果、引き続くフッ素分布もまた極めて均一に行われる。但し、熱による乾燥のみを用いる場合のような高いフッ素含有量は達成できないが、熱による乾燥では他方でそこまで良好な均一性は達成できない。
【0043】
本発明のフッ素方法を用いて得られるスート体は、均一なフッ素化を示す。さらに、こうして得られるスート体は煤沈着に条件付けられる欠点を有しない。
【0044】
したがって、本発明の更なる主題は、本発明のフッ素化方法により得ることができるか又は前記方法によって得られるフッ素化されたスート体である。
【0045】
本発明のフッ素化は、通常は、光学エレメント用の合成ガラスの製造方法において使用される。
【0046】
したがって、本発明の更なる主題は、
以下の工程
i)スート体を製造又は調製する工程、
ii)本発明によるフッ素化に応じて、スート体をフッ素化する工程、
iii)任意に、フッ素化されたスート体を塩素化する工程、及び
iv)フッ素化されたスート体を、0.1barを下回る、好ましくは10-2barを下回る圧力で、フッ素化温度を上回る温度、好ましくは1250℃〜1500℃でガラス化する工程
を含む光学エレメント用合成ガラスの製造方法である。
【0047】
本発明の製造方法の工程i)において記載のスート体の製造又は調製は、前記した本発明のフッ素化方法におけるものと同様に行う。
【0048】
スート体の製造は、当業者に知られている様々な方法に応じて行うことができる。好ましくは、スート体の製造は、少なくとも1の、好ましくは少なくとも2の析出バーナーを用いて、材料被着のためにSiO2粒子をその長軸を中心に回転する支持体に析出することにより行う。
【0049】
本発明の製造方法の工程ii)において記載の本発明のフッ素化は、前記した本発明のフッ素化方法と同様に行う。工程i)において調製又は製造されたスート体の処理は、本発明のフッ素化方法の工程b)において記載したものと同様に行う。
【0050】
本発明の製造方法の工程iii)においては、さらに、フッ素化したスート体の塩素化工程が行われてよい。塩素化は、スート体の脱水のために利用され、そうして、スート体の又はスート体から製造される合成ガラスの品質の更なる改善を生じせしめる。塩素化は好ましくは、塩素を含むガス混合物によって行われる。好ましい実施態様において、塩素化のためのガス混合物は、25℃でのガス混合物の全体積に対して、10〜25Vol.−%の塩素を含む。塩素化のためのガス混合物は、典型的にはさらに不活性ガス、好ましくは窒素又はアルゴンを含む。更なる好ましい実施態様において、塩素化のためのガス混合物は、塩素ガス混合物の全体積に対して75〜90Vol.−%の窒素を含む。
【0051】
塩素化は好ましくは750〜1100℃の温度範囲で行われる。塩素化の期間は、スート体のサイズ及び形状に依存し、かつ、相応して変化してよい。典型的には、塩素化は、1〜24時間、好ましくは3〜16時間の期間にわたり行われる。
【0052】
反応器サイズ及びスート体サイズに応じて、ガス混合物の供給及び排出はこのために例えば0.5〜50l/分、好ましくは5〜20l/分の範囲内で行われてよい。
【0053】
工程iv)において、フッ素化されたスート体のガラス化は、0.1barを下回る、好ましくは10-2barを下回る圧力で、フッ素化温度を上回る温度、好ましくは1250℃〜1500℃で行われる。
【0054】
本発明の製造方法では、内側へと移動する溶融フロントを形成しつつ外側から加熱されることで、好ましくはスート管がガラス化される。
【0055】
本発明の製造方法で製造すべき合成ガラスは、好ましくはガラス管である。
【0056】
本発明の製造方法で得られるガラスは、特に高い品質によって優れており、かつ、本質的に煤不含である。
【0057】
本発明の更なる主題は、したがって、本発明の製造方法により得ることができるか又は得られるガラスである。
【0058】
本発明の更なる主題は、本発明のフッ素化方法又は本発明のフッ素化されたスート体、又は本発明の製造方法又は本発明のガラスを、光学エレメント、特に光ファイバーの製造のために用いる使用である。
【0059】
特に光ファイバーとしての使用は、ガラスを被覆管又は基盤管を形成しつつ伸長させ、好ましくは基盤管の内壁にコーティングさせることで行われる。
【0060】
ガラス化した管状スート体はいわゆる被覆管(「ジャケット管」)として予備成形品のコアロッドを被覆するために使用できる。さらに、フッ素化されたスート体は、その均一な半径方向の屈折率推移のために、スート体をガラス化し、基盤管を形成しつつ伸長させ、場合によっては基盤管の内側にMCVD法又はPCVD法を用いてコア材料を析出させることで、光ファイバーの予備成形品の製造のためにも使用できる。
【0061】
ガラス化及び伸長後に、基盤管は所定の均一な屈折率分布を管壁にわたり有する。したがって、そうして製造される基盤管は、所定の屈折率プロファイルが重要である、予備成形品の製造のために特に良好に適している。
【0062】
更なる好ましい使用可能性は、いわゆるコアロッドが調製され、ガラス管により覆われることによって、フッ素化されたスート体、好ましくはフッ素化されたスート管が、特に本発明の製造方法における脱水工程、例えば塩素化工程iii)及びガラス化後に、光ファイバーのための予備成形品の製造のための被覆材料として使用できることにある。この場合に、塩素化工程(iii)によって達成できる、ヒドロキシル基含有量が少ない場合に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1図1は、変法1に応じて、スート体をまず予備乾燥し、引き続き5体積%(Vol.−%)C26、5Vol.−%水素及び90Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて処理し、ガス混合物を50cm3/分のガス流でもって多孔質スート体と接触させ、温度を連続的に変更する場合を図示する図である。
図2図2は、変法2に応じて、スート体をまず予備乾燥し、引き続き5体積%(Vol.−%)CF4、5Vol.−%水素及び90Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて処理し、ガス混合物を50cm3/分のガス流でもって多孔質スート体と接触させ、温度を連続的に変更する場合を図示する図である。
【実施例】
【0064】
実験室試験において、SiO2スート体を中空円柱体(質量:150g、内径:10mm、外径:45mm、長さ:160mm、密度:0.64g/cm3)の形で、まず900℃の温度で12時間窒素ガス流50cm3/分で乾燥させる。
【0065】
変法1:ヘキサフルオロエタンでのフッ素化
スート体のフッ素化を、5体積%(Vol.−%)C26、5Vol.−%水素及び90Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて第1の変法において行う。ガス混合物を50cm3/分のガス流を用いて3時間にわたり900℃の温度で多孔質のスート体と接触させる。フッ素化を、反応器外圧、すなわち、周囲雰囲気圧を5mbar下回る反応器内圧で行う。
【0066】
引き続き、フッ素化ガス混合物を除去し、塩素化を20Vol.−%塩素及び80Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて900℃の温度及び50cm3/分のガス流で3時間にわたり実施する。
【0067】
得られるスート体は、均一なフッ素化を示し、かつ、煤残留物を示さなかった。スート体から引き続き本発明により製造されるガラスは、同様に煤を示さず、並びに、光学欠陥の欠点に関して明白に高い品質を示した。
【0068】
変法2:テトラフルオロメタンでのフッ素化
スート体のフッ素化を、5体積%(Vol.−%)CF4、5Vol.−%水素及び90Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて第2の変法において行う。ガス混合物を50cm3/分のガス流を用いて3時間にわたり900℃の温度で多孔質のスート体と接触させる。フッ素化を、反応器外圧、すなわち、周囲雰囲気圧を5mbar下回る反応器内圧で行う。
【0069】
引き続き、フッ素化ガス混合物を除去し、塩素化を20Vol.−%塩素及び80Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて900℃の温度及び50cm3/分のガス流で3時間にわたり実施する。
【0070】
得られるスート体は、均一なフッ素化を示し、かつ、煤残留物を示さなかった。スート体から引き続き本発明により製造されるガラスは、同様に煤を示さず、並びに、光学欠陥の欠点に関して明白に高い品質を示した。
【0071】
本発明のフッ素化のための最適温度範囲を決定するために、更なる試験を実施した。
【0072】
変法1に応じて、スート体をまず予備乾燥し、引き続き5体積%(Vol.−%)C26、5Vol.−%水素及び90Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて処理した。ガス混合物を50cm3/分のガス流でもって多孔質スート体と接触させ、温度を連続的に変更する(図1参照)。反応器から取り出されるガスを、反応温度に依存して連続的に試験した。意外なことに、ヘキサフルオロエタンを用いたフッ素化には、小さいが、フッ素化に関して高効率の温度範囲が存在することが示され、この温度範囲では既に強力なフッ素化が開始するが、なお煤形成を観察することができない。
【0073】
相応して、変法2に応じて、スート体をまず予備乾燥し、引き続き5体積%(Vol.−%)CF4、5Vol.−%水素及び90Vol.−%窒素からなるガス混合物を用いて処理した。ガス混合物を50cm3/分のガス流でもって多孔質スート体と接触させ、温度を連続的に変更する(図2参照)。反応器から取り出されるガスを、反応温度に依存して連続的に試験した。意外なことに、テトラフルオロメタンを用いたフッ素化には、小さいが、フッ素化に関して高効率の温度範囲が存在することが示され、この温度範囲では既に強力なフッ素化が開始するが、煤形成を観察することができない。
図1
図2