(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】窒素スパッタリングガス中で10重量%のアルミニウムを含有するシリコンターゲットからスパッタされたシリコンアルミニウム窒化物についての屈折率(「n」)と減衰係数(「k」)を示す図。
【
図2】化学量論的誘電体安定化層と直接接する亜化学量論的誘電体層を含む光学スタックを示す図。
【
図3】2つの化学量論的誘電体安定化層の間にあり、それらと直接接する亜化学量論的誘電体層を含む光学スタックを示す図。
【
図4】空気中730℃で4分間の加熱前後の39nm厚のNiCrO
x試料についての屈折率nと減衰係数kを示す図。
【
図5】NiCrO
x層を含む単一銀低放射率光学スタックの焼き入れの際の透過率変化(デルタ%TY)をNiCrO
x層の厚さの関数として示す図。
【0016】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、光学スタックの光学的性質を、特に加熱および焼き入れ(tempering)中において、安定化させ得る亜化学量論層を単独でまたは1つまたはそれ以上の安定化層とともに提供する。
【0017】
プロセスの制限により、多元素化合物は、化学量論により指示される正確な元素比を有する薄膜としてほとんど堆積されない。
【0018】
この点に鑑み、ここで用いる用語「化学量論的」は、1またはそれ以上の元素の酸化物、窒化物もしくは酸窒化物であって、酸素および/または窒素の他の元素に対する原子比が、該1またはそれ以上の元素の酸化物、窒化物もしくは酸窒化物化合物の原子比の±5%以内であるところのものをいう。例えば、「化学量論的」酸化スズは、ここでは、SnOx(ここで、1.9≦x≦2.1)をいう。「化学量論的」窒化シリコンは、ここでは、Si
3N
y(ここで、3.8≦y≦4.2)をいう。Si−10重量%Alの「化学量論的」酸窒化物は、ここでは、(Si
0.9Al
0.1)
3(O
xN
y)
w(ここで、x+y=1;xが1に近づくにつれ、wは6に近づき、yが1に近づくにつれ、wは4に近づく)をいう。
【0019】
ここで用いる用語「亜化学量論的」とは、1またはそれ以上の元素の酸化物、窒化物もしくは酸窒化物であって、酸素および/または窒素の他の元素に対する原子比が、該1またはそれ以上の元素の酸化物、窒化物もしくは酸窒化物化合物の95%未満で、少なくとも30%であるところのものをいう。例えば、「亜化学量論的」酸化スズは、SnOx(ここで、0.6≦x<1.9)をいう。「
亜化学量論的」窒化シリコンは、ここでは、Si
3N
y(ここで、1.2≦y<3.8)をいう。
【0020】
化学量論もしくは亜化学量論層における酸素および/または窒素の原子比は、当該分野でよく知られている種々の技術を用いて決定することができる。例えば、nとkの測定は、化学量論を見積もるために用いることができる。多くの化学量論的酸化物および窒化物についてのnおよびkの値は、文献に記載されており、容易に立証される。具体的な亜化学量論的材料のいくつかの標準試料についてのnおよびk値は、容易に得ることもできる。これらの値を、個々の化学量論もしくは亜化学量論層のそれらと比較することにより、個々の層における酸素および/または窒素の原子比が示され得る。x線光電子分光法(XPS)およびラザフォード後方散乱(RBS)のような表面分析技術も、化学量論を決定するために用いることができる。
【0021】
ここで用いる用語「誘電体」とは、「化学量論的」もしくは「亜化学量論的」であり得る酸化物、窒化物または酸窒化物であって、可視光に対して少なくとも部分的に透明であり、薄膜中に干渉効果を生じるものをいう。
【0022】
ここで用いる用語「均質」は、一方の表面から他方の表面にわたって化学組成の勾配を持たない層を記述する。かくして、用語「均質」は、単一化合物からなる層を記述する。用語「均質」は、2種またはそれ以上の異なる化合物の均一な混合物からなる層をも記述する。
【0023】
本発明は、その態様において、1つまたは2つの安定化層と接する亜化学量論的誘電体層を有する光学スタックを提供する。好ましくは、安定化層は、亜化学量論層と直接接する。
【0024】
亜化学量論層は、酸素および/または窒素と少なくとも1種の金属元素または半導体元素との反応から生じ得る亜化学量論的誘電体組成である。好適な金属元素には、遷移金属、Mg、Zn、Al、In、Sn、SbおよびBiが含まれる。好ましくは、金属元素には、Mg、Y、Ti、Zr、Nb、Ta、W、Zn、Al、In、Sn、SbおよびBiが含まれる。好適な半導体元素には、SiおよびGeが含まれる。亜化学量論層は、該層のnおよびkを上げるTi、FeおよびCuのような元素の酸化物、窒化物および酸窒化物でドープすることができる。ドーパントとホスト材料の共スパッタリングは、不均質な組成を有する層、例えばドーパント濃度が頂部から底部へと変化している層を生成させ得る。好ましくは、亜化学量論層は、均質な組成を有する。
【0025】
亜化学量論層は、光学スタックにおいて主として光学的干渉層として好ましく機能する。亜化学量論層は、10〜100nm、好ましくは15〜80nm、より好ましくは25〜70nmの範囲内の厚さを有し得る。亜化学量論層が10nm未満の厚さであると、光学的干渉を十分に及ぼし得ない。亜化学量論層が100nmを超える厚さであると、可視光を吸収しすぎて光学スタックを暗くし得る。
【0026】
上に述べたように、亜化学量論的誘電体層は、1つまたは2つの安定化層と直接接することができる。安定化層に用いることのできる材料は、熱に曝された際に、隣接する亜化学量論層の化学的および光学的変化を減少させるものである。好ましくは、各安定化層は、均質な組成を有する。
【0027】
安定化層は、酸素含有雰囲気中での加熱プロセス中に実質的に透明な化合物へ酸化する傾向にある金属材料であり得る。金属の安定化層は、例えば、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、AlもしくはMg、並びにこれらの元素の合金、アルミナイドおよびシリサイドを含み得る。
【0028】
安定化層は、また、亜化学量論層でもあり得る。安定化層が亜化学量論的誘電体である場合、その安定化層は、安定化層により接触される亜化学量論層の組成と異なる組成を有する。亜化学量論層は、加熱の際、その亜化学量論状態を維持し得るか、より化学量論的状態へ酸化し得る。
【0029】
好ましくは、安定化層は、化学量論的誘電体である。化学量論的安定化層は、安定化層により接触された亜化学量論層の、最高酸化状態にある化学量論層の酸化物、窒化物または酸窒化物(例えば、Nb
5+を有するNb
2O
5)中の金属および/または半導体元素との完全反応バージョンであり得る。あるいは、安定化層は、当該元素がその最高酸化状態にない亜化学量論層の酸化物、窒化物または酸窒化物(例えば、Nb
4+を有するNbO
2)の化学量論バージョンであり得る。また、安定化層は、亜化学量論層中に存在する元素とは異なる元素の化学量論的、部分的または完全反応酸化物、窒化物または酸窒化物であり得る。
【0030】
化学量論的安定化層は、亜化学量論層よりも可視光に対してより多く吸収性であるか、より少なく吸収性であり得る。Mg、Y、Ti、Zr、Nb、Ta、W、Zn、Al、In、Sn、Sb、BiおよびGeのような多くの元素は、該元素の最も完全反応化学量論的酸化物、窒化物または酸窒化物よりも、可視光に対してより光学的に吸収性である亜化学量論的酸化物、窒化物または酸窒化物を生成する。これに対し、Cr、Fe、NiおよびCuのようないくつかの金属は、1つを超える化学量論的酸化状態を有し、いくつかの場合、その最も完全反応状態は可視光に対し吸収性がない。これらの酸化物を加熱し、その後さらに酸化を行うことにより、光学的により吸収性の層が生じ得る。例えば、Cu
2OとCuOは、銅の2つの化学量論的酸化物であるが、Cu
2Oは可視波長において最小吸収性である。
【0031】
Mg、Y、Ti、Zr、Nb、Ta、W、Zn、Al、In、Sn、Sb、BiおよびGeの酸化物は、完全酸化状態において可視波長にわたってゼロに近い減衰係数kを有する(実質的に非吸収性である)傾向にある。AlおよびSiの窒化物は同じ傾向にある。この非吸収特性は、これらの物質の安定化層を、光学スタックにおいて非常に有用なものとさせている。多くの光学的設計のために、吸収性は非常に望ましくないものである。しかしながら、吸収性が許容されまたは望ましいいくつかの光学的設計が存在する。
【0032】
図1は、亜化学量論的および化学量論的SiAlO
xN
yスパッタフィルムの屈折率および減衰係数の値を比較するものである。
図1は、亜化学量論的SiAlO
xN
yが、化学量論的SiAlO
xN
yよりも高い屈折率と減衰係数を有することを示している。
【0033】
安定化層は、主として、亜化学量論層を化学的に安定化させるように機能する。好ましくは、亜化学量論層と接する安定化層は、亜化学量論層を、光学的性質の変化がほとんどあるいは全くなく、600℃まで、より好ましくは700℃まで、さらにより好ましくは800℃までの温度に、4〜5分間加熱することを可能とさせる。
【0034】
安定化またはクラッド層は、1〜10nm、このましくは2〜8nm、より好ましくは2〜5nmの範囲内の厚さを有し得る。
【0035】
態様において、亜化学量論層の屈折率は、少なくとも1.8(すなわち、n≧1.8)、より好ましくは少なくとも2.3(すなわち、n≧2.3)である。亜化学量論層の減衰係数kは、0.003≦k≦0.15の範囲内にあり得る。
【0036】
亜化学量論層誘電体の酸化物、窒化物または酸窒化物は、安定化層よりも高い屈折率を有し得、また1またはそれ以上の安定化層よりも厚くあり得る。これにより、亜化学量論層と化学量論層の組合せであって、当該組合せと同じ厚さの化学量論層よりも高い屈折率を有する組合せが結果し得る。
【0037】
あるいは、亜化学量論層誘電体の酸化物、窒化物または酸窒化物は、安定化層よりも低い屈折率を有し得る。1つまたはそれ以上の安定化層とそのような低い屈折率の亜化学量論層との組合せは、亜化学量論層よりもはるかに高い屈折率を有する層の均等物を生成し得る。
【0038】
亜化学量論層が2つの安定化層に挟まれている場合、その2つの安定化層は、同じであるか異なる組成および同じであるか異なる厚さを有し得る。
【0039】
本発明の光学スタックは、種々の層の積層体が層を順次気相堆積させる、スパッタのような通常の薄膜フィルム堆積技術により作ることができる。
【0040】
種々の金属および誘電体層の光学スタックは、ガラスのような透明基板の放射率を減少させ得る。
図2は、ガラス基板21上に堆積された低放射率(「低e」)の光学スタック20を示す。光学スタック20は、Ag、CuまたはAuのような赤外線反射性金属を含み得る金属層24および27を含む。ガラス基板21と金属層24の間に、化学量論的誘電体層23と直接接している亜化学量論的誘電体層22が存在する。金属層24と27の間に、化学量論的誘電体層26と直接接している亜化学量論的誘電体層25が存在する。
【0041】
図3は、ガラス基板31上に堆積された低e光学スタック30を示している。光学スタック30は、Ag、CuまたはAuのような赤外線反射性金属を含み得る金属層35および39を含む。ガラス基板31と金属層35の間に、化学量論的誘電体層32と34との間に挟まれ、それらと直接接している亜化学量論的誘電体層33が存在する。金属層35と39の間に、化学量論的誘電体層36と38に挟まれ、それらと直接接している亜化学量論的誘電体層37が存在する。
【0042】
図2および
図3において、表示「…」は、1またはそれ以上の特定されていない層の存在を示す。
【0043】
本発明の他の態様において、亜化学量論層の組成および厚さが加熱の際の亜化学量論層の光学特性の変化が当該スタックの残りの光学特性の変化を相殺するように選択された光学スタックが提供される。焼き入れ中の加熱により、スパッタされた亜化学量論的NiCrO
xのようないくつかの亜化学量論的材料は、可視光に対しより吸収性となり、屈折率の増加を示す。これに対し、ほとんどの低e光学スタックは、焼き入れ中により透明になり、明るくなる。当該分野でよく知られている技術により、加熱により可視光に対してより吸収性となる好適な亜化学量論的材料の好適な厚さを選択することは、焼き入れ中に過熱されたとき透過率の絶対変化(%TYの変化)1.0%以下、好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.25%以下(すなわち、それぞれ、±1.00%以下、±0.50%以下、または±0.25%以下の透過率変化)を受ける光学スタックを設計することを可能とさせる。加熱による透過率の増加に対抗するために、2〜20nm、好ましくは3〜12nmの厚さを有する亜化学量論的NiCrO
xを用いることができる。NiCrO
x層が薄すぎると、他のスタック層の透過率変化に対抗できない。NiCrO
xが厚すぎると、他のスタック層の透過率増加に打ち勝ち、その光学スタックは、焼き入れの際に、全体的により透明でなくなり、暗くなる。NiCrO
xの厚さは、明るくなりゼロの焼き入れ透過率変化を生じる他の層の傾向を正確にバランスさせるように設計することができる。好ましくは、亜化学量論的NiCrO
x層は、均質である。
【0044】
例
本発明を利用したガラス上の低eコーティングの例を以下の例に示す。誘電体コーティングは、室温の基板上への中周波(〜30kHz)のデュアルマグネトロンスパッタリングにより形成した。SiAlO
xN
yは、Ar/O
2/N
2雰囲気中、SiAlターゲットからスパッタした。ZnOは、Ar/O
2雰囲気中、Znターゲットからスパッタした。(Si
0.9Al
0.1)O
xN
yは、Siと10重量%のAlを含有するターゲットからスパッタした。Agは、Ar雰囲気中、AgターゲットからDCスパッタした。NiCrO
xは、Ar/O
2雰囲気中、NiCrターゲットからDCスパッタした。
【0045】
酸化物、窒化物および酸窒化物の化学量論組成は、スパッタ用ターゲットの組成とスパッタ雰囲気を制御することにより制御した。シリコンを含有する化学量論的窒化物およびシリコンを含有する化学量論的酸窒化物の化学量論組成を確認するために、光学的透明性を用いた。
【0046】
例1
安定化化学量論的SiAlO
xN
y層と接していない亜化学量論的SiAlO
xN
y層の焼き入れの際の光学特性の変化を、安定化化学量論的SiAlO
xN
y層と接しているときの同じ亜化学量論的SiAlO
xN
y層と比較した。
【0047】
この比較において、単一のAg層を含有する低e光学スタックを、ソーダ石灰ガラス基板(5cm×5cm×0.3cm)上に堆積させた。表1および2は、種々の層を堆積させた順番を示している。表1は、亜化学量論的SiAlO
xN
y層が安定化化学量論的SiAlO
xN
y層と接していない光学スタックを形成するために用いた堆積条件を示す。表2は、亜化学量論的SiAlO
xN
y層が安定化化学量論的SiAlO
xN
y層と接しているもう1つの光学スタックを形成するために用いた堆積条件を示す。
【0048】
デュアルマグネトロンスパッタリングによりSiAlO
xN
yを堆積させるために用いた2つのターゲットのそれぞれのサイズは、1m×110mmであり、0.11m
2の実効ターゲット表面積であった。SiAlO
xN
yは、17.8〜18.0kWの電力で、電力密度約16.3W/cm
2であった。亜化学量論的SiAlO
xN
yは、83sccmのN
2ガス流量でのスパッタリングにより得た。化学量論的SiAlO
xN
yは、98sccmのN
2ガス流量でのスパッタリングにより得た。
【表1】
【表2】
【0049】
塗布した基板をマッフル炉中、730℃で4分間焼き入れした。
【0050】
表3は、焼き入れにより生じた色変化(ΔE)を示す。ΔE(Lab)は、L、a
*およびb
*の値を含む色変化である。ΔE(ab)は、色だけ(a
*およびb
*)を含み、強さ(L)を含まない色変化である。
【表3】
【0051】
表3は、透過色変化は安定化化学量論的SiAlO
xN
yにより減少しなかったことを示している。これに対し、表3は、反射色変化は亜化学量論的SiAlO
xN
y層と直接接した安定化化学量論的SiAlO
xN
y層の追加により減少したことを示している。特に、ガラス側の反射色変化(すなわち、RgΔE)の減少は、0.5〜0.6色単位であった。表3は、亜化学量論的SiAlO
xN
y層を含む光学スタックの性質は亜化学量論的SiAlO
xN
y層を安定化化学量論的SiAlO
xN
y層で直接クラッドすることにより安定化できることを示している。
【0052】
例2
2つの単一銀低放射率光学スタックを作った。第1のスタックは、単一の亜化学量論的(Si
0.9Al
0.1)O
xN
y底部誘電体を持つものであった。第2のスタックは、亜化学量論的(Si
0.9Al
0.1)O
xN
yとガラス基板との間に熱的安定化化学量論的(Si
0.9Al
0.1)O
xN
y層を持つものであった。各スタックの頂部には、同一の(Si
0.9Al
0.1)O
xN
yが存在した。完全なスタック設計を以下に示す。
【0053】
第1のスタック:
ガラス/亜化学量論的(Si
0.9Al
0.1)O
xN
y/ZnO/Ag/NiCrO
x/(Si
0.9Al
0.1)O
xN
y
第2のスタック:
ガラス/化学量論的(Si
0.9Al
0.1)O
xN
y/亜化学量論的(Si
0.9Al
0.1)O
xN
y/ZnO/Ag/NiCrO
x/(Si
0.9Al
0.1)O
xN
y。
【0054】
両試料を焼き入れし、焼き入れによる色変化を点検した。ΔEa
*b
*で表現される色変化は、以下の式:
ΔEa
*b
*=(a
*BB − a
*AB)
2 + (b
*BB − b
*AB)
2]
0.5
(ここで、BBは、焼き入れ前の色、ABは、焼き入れ後の色)により算出した。
【0055】
透過についての焼き入れ色変化(TΔEa
*b
*)、ガラス側反射についての焼き入れ色変化(RgΔEa
*b
*)およびフィルム(すなわち、スタック)側反射についての焼き入れ色変化(RfΔEa
*b
*)を以下の表4に示す。
【表4】
【0056】
表4は、第2のスタックに(Si
0.9Al
0.1)O
xN
yの保護的安定化層を加えることが、ガラス側反射およびフィルム(光学スタック)側反射の両方について焼き入れ色シフトを減少させることを示している。
【0057】
本発明の態様において、安定化層は、ガラス側反射について4.0以下、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下の焼き入れ色シフトをもたらす。加えて、安定化層は、フィルム(光学スタック)側反射について4.0以下、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下の焼き入れ色シフトをもたらす。
【0058】
例3
以下の光学スタックを作成した:
6mmガラス基板/20nm化学量論的SiAlO
xN
y/8nmZnO/12nmAg/2nmNiCrO
x/5nm化学量論的SiAlO
xN
y/55nm亜化学量論的SiAlO
xN
y/5nm化学量論的SiAlO
xN
y/8nmZnO/15nmAg/2nmNiCrO
x/36nm化学量論的/SiAlO
xN
y。
【0059】
SiAlO
xN
yは、Siと10重量%のAlを含有するターゲットからスパッタした。
【0060】
この光学スタックにおいて、中間の誘電体(すなわち、化学量論的SiAlO
xN
y/亜化学量論的SiAlO
xN
y/化学量論的SiAlO
xN
y)は、主として、SiAlO
xN
yのより高い屈折率のバージョンである。これは、当該層についてのより低い物理的厚さと、堆積プロセスにおけるより高いスパッタ速度を可能とする。
【0061】
中間の誘電体の組み合わせは、表5に示す条件の下で堆積した。
【表5】
【0062】
光学スタックの色は、中間層の屈折率と光学厚さに非常に敏感である。通常、730℃で4分間のガラス焼き入れは、屈折率と光学厚さを変化させる。しかしながら、この変化は、亜化学量論層の両側の安定化化学量論層クラッドにより減少する。
【0063】
例4
スズ亜鉛酸化物(SnZnO
x)は、焼き入れ可能な低放射率設計に用いられる普通の誘電体材料である。薄膜設計においてある光学的効果を生み出すために、SnZnO
xを亜化学量論的状態で堆積させることができる。
【0064】
光吸収性亜化学量論的SnZnO
xN
yが化学量論的SiAlO
xN
y層を用いて熱的に安定化され得るかどうかを測定するために研究を行った。以下の表6に示すように、薄膜構造を石英基板上に形成した。
【表6】
【0065】
各層は、1メートル長のツイン−マグ(Twin-Mag)ターゲットからスパッタした。スパッタリングプロセスを安定化させ、アーク発生を減少させるために窒素を加えた。SiAlO
xN
yおよびSnZnO
xN
yのための操作条件を以下の表7に示す。
【表7】
【0066】
4つの試料を堆積させた後、焼成前後で、可視波長でパーセント吸光度を測定した。焼成は、670℃で5分間行った。400nmの波長における焼成前試料から焼成後のパーセント吸光度の変化を以下の表8に示す。
【表8】
【0067】
表8は、加熱による吸光度の減少が化学量論的SiAlO
xN
y層を有する試料についてより少なかったことを示している。
【0068】
化学量論的SnZnO
xN
yが光吸収性亜化学量論的SnZnO
xN
yを熱的に安定化させるかどうかを測定するために類似の研究を行った。これらのスタックにおいて、加熱による吸光度の減少は、SnZnO
xN
y層の有り無しで同じであった。
【0069】
例5
以下に示すような2つのNiCrO
x層を有する二重銀低放射率スタックを作った。
【0070】
ガラス/SiAlO
xN
y/ZnO/Ag/NiCrO
x/SiAlO
xN
y/ZnO/Ag/NiCrO
x/SiAlO
xN
y。
【0071】
このスタックの1つのバージョンにおいて、各NiCrO
x層はほぼ2nm厚であった。スタックの第2のバージョンにおいて、各NiCrO
x層はほぼ4nm厚であった。730℃で4分間のスタックの焼成前後で光透過率(TY)を測定した。結果を以下の表9に示す。
【表9】
【0072】
表9は、より厚いNiCrO
xを有する光学スタックが、加熱により、より小さい透過率変化(ΔTY)を有することを示している。このNiCrO
xの厚さの増加に伴うΔTYの減少は、NiCrO
xが加熱により透過率が減少し、より光吸収性となることを示している。
【0073】
例6
石英基板上に堆積した39nm厚のNiCrO
xフィルムの屈折率nおよび減衰係数kを、焼成前に、ウーラム(Woollam)M2000Uエリプソメーターを用い、波長の関数として測定した。空気中、730℃で4分間の焼成後、これら光学定数を再度測定した。
図4に示すように、NiCrO
xについてのnとkの両方は加熱により増加した。
【0074】
例7
Ag層上に堆積させたNiCrO
xバリヤー層の厚さだけを変えた4つの単一銀低放射率光学スタックを作った。光学スタックは、以下の一般的な設計を有していた。
【0075】
ガラス/3.5nm化学量論的SiAlO
xN
y/17nm亜化学量論的SiAlO
xN
y/6nmZnO/13,4nmAg/NiCrO
x/38nm化学量論的SiAlO
xN
y。
【0076】
NiCrO
xは、1メートル長の80重量%Ni−20重量%Crターゲットから反応的にDCスパッタした。SiAlO
xN
yは、Siと10重量%Alを含有するターゲットからスパッタした。スパッタリング条件を以下の表10に示す。
【表10】
【0077】
標準、すなわち対照のスタックにおいて、NiCrO
x層は、ほぼ2nmの厚さであった。NiCrO
x層の厚さは、他のスタックでは増加させた。
【0078】
スタックを空気中、670℃で
6分20秒間加熱することにより焼き入れした。
【0079】
透過率(%TY)は、加熱の前後で測定した。結果を以下の表11および
図5に示す。
【表11】
【0080】
表11および
図5は、焼き入れによる%TYの変化が、NiCrO
xの厚さを増加させるにつれて減少し、約10.5nmのNiCrO
x厚を超えると負になることを示している。これらの結果は、光学スタック中の約10.5nmのNiCrO
x厚が焼き入れの際にゼロの透過率変化を示す光学スタックをもたらすことを指し示している。これらの結果は、また、焼き入れの際のゼロの透過率変化がNiCrO
xの適切な選定によって、2つ以上の銀層を含む光学スタックにおいて達成され得ることを示している。
【0081】
焼き入れの前後の双方において、光学スタックを、水の下でのブラッシングを含む標準化された手法を用いて、濡れブラシ耐性について試験した。各試料上のブラッシングダメージを、標準スケールを用いて目視で定量した。結果を以下の表12に示すが、ここで「%ダメージ」は、ブラッシングにより損傷した表面積をいう。
【表12】
【0082】
表12は、焼き入れ前では、光学スタックは濡れブラシにより損傷されないことを示している。これに対し、焼き入れ後では、最も薄いNiCrO
xを有するスタックは最も多い表面ダメージを示したが、NiCrO
xの厚さを増加させるにつれ、濡れブラシダメージの量は減少した。
【0083】
値の範囲についてのここでの開示は、その範囲内のすべての数値の開示である。加えて、属についてのここでの開示は、属内のすべての種の開示である(例えば、属「遷移金属」の開示は、Nb、Ta等すべての遷移金属種の開示である)。
【0084】
本発明を具体的な態様に関して説明したが、本発明は説明した具体的な詳細に限定されず、それ自体当業者に示唆される種々の変更および修飾を含み、すべてが以下の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲内にある。