(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6026105
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】精製水製造装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20161107BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
C02F1/44 A
C02F1/44 H
B01D61/12
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-281925(P2011-281925)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-128911(P2013-128911A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】593012181
【氏名又は名称】東洋紡エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】谷口 清士
(72)【発明者】
【氏名】濱田 貴千
(72)【発明者】
【氏名】河中 昇
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−119345(JP,A)
【文献】
特開平01−011610(JP,A)
【文献】
特開2009−106832(JP,A)
【文献】
特開2001−000969(JP,A)
【文献】
特開2011−120988(JP,A)
【文献】
特開2005−270710(JP,A)
【文献】
特開2007−175624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過膜装置で処理し精製水を製造する装置において、
上記ろ過膜装置に通じる原水供給ラインに設けられる原水供給ポンプと、
上記ろ過膜装置のろ過水ラインに設けられる流量発信器を有し、上記流量発信器から送信される流量信号に基づいて上記原水供給ポンプの回転数を制御し、ろ過水流量を一定にするろ過水流量制御手段と、
上記ろ過膜装置の濃縮水ラインに設けられ濃縮水流量を一定にする濃縮水定流量弁と、
上記ろ過膜装置と上記濃縮水定流量弁との間に介設され、濃縮水圧力を減圧する減圧弁とを備え、
上記減圧弁と上記濃縮水定流量弁との間から分岐され、濃縮水を上記原水供給ラインに帰還させる濃縮水帰還ラインをさらに有し、
上記濃縮水帰還ラインに、濃縮水流量を一定にする第二の濃縮水定流量弁が設けられていることを特徴とする精製水製造装置。
【請求項2】
上記ろ過膜装置が逆浸透膜またはナノろ過膜を有する請求項1に記載の精製水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜またはナノろ過膜を有するろ過膜装置を用いて原水を処理する精製水製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用水、水道水、井戸水などの比較的清浄度の高い水を処理して精製水を製造する製造装置において、これらの水を逆浸透膜またはナノろ過膜を用いて処理する装置は従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような逆浸透膜、ナノろ過膜によるろ過では、原水の温度によってろ過水の透過量が大きく変化する。例えば、逆浸透膜、ナノろ過膜(以下、ろ過膜と呼ぶ)への原水供給圧力が一定とすれば、原水温度25℃でのろ過水量を100とすると、ろ過膜の特性により異なるが、10℃ではおおよそ65に減少し、35℃では逆に128となり、10℃と35℃では約2倍のろ過水量差となる。
【0004】
また、ろ過膜の閉塞によりろ過水量が減少することもある。したがって、この種の膜ろ過装置を安定して運転するためには、年間を通して一定のろ過水量を確保することと一定の回収率(ろ過水量÷原水量×100%)を維持する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−281023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ろ過水量と回収率を維持するために、原水を加温して原水温度を一定にし、透過水量を一定にする方法があるが、この場合、原水を加温するための設備と大きなエネルギーとを必要とする。
【0007】
特に、この種のろ過膜装置では一定の濃縮水排水が必要であり、この濃縮水排水の加熱に供したエネルギーについては有効利用されることなく廃棄されることになる。また、原水を加温するこの方法では、ろ過膜の閉塞による透過水量の減少については排除することが出来ないという問題もある。
そこで、供給水量や供給水圧を一定にするために、ろ過水供給ポンプの吐出量、圧力を制御する方法がある。
【0008】
具体的には、原水供給ポンプの回転数を制御する方法や、原水供給ポンプの出口側に制御弁を設け、吐出量を制御する方法である。
しかし、ろ過膜への供給水量や供給水圧を一定にしても、この方法だけでは、ろ過水量と回収率を一定にすることは出来ない。なぜなら、ろ過水量と回収率を一定にするためには、濃縮水量も同時に一定にする必要があるからである。
【0009】
濃縮水量を一定にするためには、濃縮水ラインに流量を制御する手段、例えば、制御弁と流量発信器を設け、濃縮水量を一定にする方法が考えられるが、この場合、装置が複雑雑になり高価な装置になってしまう。
【0010】
本発明は以上のような従来の精製水製造装置における課題を考慮してなされたものであり、原水の温度変動に影響されず、一定のろ過水量と一定の回収率を維持することができる精製水製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ろ過膜への供給水量を一定とする手段と、ろ過時に発生する濃縮水量を簡便な構成によって一定にすることで、原水の温度変動に影響されず、ろ過水量と回収率を一定にし得る精製水製造装置の実現に至った。
【0012】
本発明の第一の形態は、原水をろ過膜装置で処理し精製水を製造する装置において、
上記ろ過膜装置に通じる原水供給ラインに設けられる原水供給ポンプと、
上記ろ過膜装置のろ過水ラインに設けられる流量発信器を有し、上記流量発信器から送信される流量信号に基づいて上記原水供給ポンプの回転数を制御し、ろ過水流量を一定にするろ過水流量制御手段と、
上記ろ過膜装置の濃縮水ラインに設けられ濃縮水流量を一定にする濃縮水定流量弁と、
上記ろ過膜装置と上記濃縮水定流量弁との間に介設され、濃縮水圧力を減圧する減圧弁と、
上記減圧弁と上記濃縮水定流量弁との間に介設される圧力指示器とを備えていることを要旨とする。
【0013】
本発明の第二の形態は、上記圧力指示器と上記濃縮水定流量弁との間から分岐され、濃縮水を上記原水供給ラインに帰還させる濃縮水帰還ラインをさらに有し、
上記濃縮水帰還ラインに、濃縮水流量を一定にする第二の濃縮水定流量弁が設けられていることを要旨とする。
【0014】
本発明における上記ろ過膜装置としては、逆浸透膜またはナノろ過膜を使用することが好ましく、逆浸透膜によってろ過されたろ過水は例えば医療用水に使用され、ナノろ過膜によってろ過されたろ過水は例えば脱硬度、脱シリカ用水に使用される。
【0015】
本発明における濃縮水定流量弁としては、一次側(流入側)または二次側(流出側)に水圧の変動があっても一定の流量を供給するように構成された定流量弁を使用する。その動作原理は、流体圧力を弁体内のピストン(可動弁)で受け、スプリング力とのバランスで弁体内の流体通過面積を変え、一定流量を得るようになっている。
【0016】
この種の定流量弁は、通常、一カ所に過大な流量が流れないようにするために使用されることが多いが、本発明では濃縮水ラインの流量を一定にするために用いている。
【0017】
また、上記定流量弁は圧力変動に対する制御装置を必要としないため、省スペース、省コストが図れるという利点がある反面、作動差圧範囲に制約がある。そこで、本発明では濃縮水の圧力が定流量弁の上記作動差圧範囲内に収まるよう、定流量弁の上流側に減圧弁を設け、濃縮水圧力を減圧している。
【発明の効果】
【0018】
本発明の精製水製造装置によれば、原水温度に影響されず、年中、一定のろ過水量と一定の回収率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る精製水製造装置の第一実施形態を示す構成図である。
【
図2】本発明に係る精製水製造装置の第二実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明に係る精製水製造装置の基本構成を第一実施形態として示したものである。
同図において、精製水製造装置Aは、原水供給ラインL1に可変容量型の原水供給ポンプ1とろ過膜装置2が設けられ、ろ過膜装置2からのろ過水ラインL2にろ過水流量発信器3が設けられている。
【0022】
また、ろ過水流量発信器3からの流量信号を受けて作動するろ過水流量調整器4、原水ポンプインバータ5を有し、ろ過膜装置2からの濃縮水ラインL3に濃縮水の圧力を減圧させる減圧弁6、濃縮水定流量弁7、その濃縮水定流量弁7入口側の圧力を表示する圧力指示器8が設けられている。
【0023】
上記ろ過膜流量発信器3で測定された流量信号に基づいてろ過水流量調整器4で水量を測定し、必要な信号を原水ポンプインバータ5に発信し、原水供給ポンプ1の回転数を変更することにより、ろ過膜装置2に供給する水量を制御している。
上記ろ過膜流量発信器3、ろ過水流量調整器4および原水ポンプインバータ5は、ろ過水流量を一定にするろ過水流量制御手段として機能する。
【0024】
それにより、ろ過水については、原水の温度、ろ過膜装置2におけるろ過膜の閉塞にかかわらず、原水供給ポンプ1の吐出能力範囲内で一定にすることが出来る。
一方、濃縮水量は、濃縮水定流量弁7を設けることによって一定水量に保たれる。
【0025】
しかし、市販の定流量弁は、許容できる定流量弁の差圧範囲に限度がある。例えば、東京計装株式会社製のFPCシリーズでは0.05から0.7MPaであり、NSPWシリーズでは0.03から1.0MPaである。
【0026】
逆浸透膜やナノろ過膜を用いた精製水製造装置における原水の供給圧力は、原水が低温時には1MPaを超えることが多く、濃縮水圧力は原水供給圧力より0.1MPa程度低いだけであるため、濃縮水をそのままの圧力では定流量弁に供給すると、上記差圧範囲から外れてしまうことになる。
【0027】
これを解決するために、本実施形態では、濃縮水定流量弁7上流側の濃縮水ラインL3に濃縮水圧力を減圧するための減圧弁6を配置している。この減圧弁6は、グローブ弁やニードル弁やバタフライ弁など、ある程度、減圧する圧力を調整できる弁を選択することが望ましい。なお、この減圧弁6をオリフィス等の減圧装置に代えることも出来るが、調整の容易さを勘案すれば上述の弁類を使用することが望ましい。
【0028】
また、濃縮水定流量弁7入口側の濃縮水ラインL3の圧力を目視するために、圧力指示器8を設置する。
通常、濃縮水排水は無圧排水として排出されるため、濃縮水定流量弁7入口側の濃縮水ラインL3において圧力指示器8によって指示される圧力は、濃縮水定流量弁7を設けた場合の差圧とほぼ同一となる。
【0029】
そこで、濃縮水を減圧するための減圧弁6を調整し、濃縮水定流量弁7の差圧を設定する。
このとき、原水の温度変動と濃縮水定流量弁7の作動範囲を勘案して差圧を設定すれば、原水の温度、ろ過膜閉塞にかかわらず、一定のろ過水量と回収率を維持することができる精製水製造装置を実現することができる。
【0030】
図2は本発明に係る精製水製造装置の第二実施形態を示したものである。
なお、
図2において
図1と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0031】
同図に示す精製水製造装置Bでは、減圧弁6と濃縮水定流量弁7との間の濃縮水ラインL3から分岐ラインL4を分岐させ、原水供給ポンプ1上流側の原水供給ラインL1に接続している。それにより、濃縮水の一部を循環させるようになっている。
上記分岐ラインL4には第二の濃縮水定流量弁9が設けられ、濃縮水を循環させる場合であっても一定のろ過水量と回収率を維持することができるようになっている。
【0032】
この構成では、原水の温度変動と濃縮水定流量弁7、第二の濃縮水定流量弁9の作動範囲を勘案して差圧を設定することにより、原水の温度、ろ過膜閉塞に影響されず、一定のろ過水量と回収率を維持することができる精製水製造装置を提供することができる。
【実施例】
【0033】
図1の構成により、本発明の精製水製造装置の実証テストを行った。
原水供給ポンプ1:GRUNDFOS社 CR1−19
ろ過膜装置2:東洋紡績株式会社 HA5230
ろ過水流量発信器3:東フロコーポレーション株式会社 HF−GCC30
ろ過水流量調整器4:オムロン株式会社 E5CN
原水ポンプインバータ5:三菱電機株式会社 FR−D720
減圧弁6:ニードル弁
濃縮水定流量弁7:東京計装社製 FPC 7.0L/min
(差圧範囲0.05〜0.7MPa)
圧力指示器8:ブルゾン管式圧力指示器
テストに際しては、原水温度を変動させて測定を実施した。
【0034】
測定項目は原水温度、ろ過膜供給圧力、ろ過水量、濃縮水量、定流量弁(濃縮水定流量弁)入口圧力を測定した。
回収率は計算値(ろ過水量÷(ろ過水量+濃縮水量)×100%)である。
なお、濃縮水量については容器に回収して測定した。
【0035】
テスト結果を表1に示す。
表1に示すとおり、10℃から30℃の原水温度範囲において、濃縮水定流量弁の入口圧力は差圧範囲(0.05〜0.7MPa)以内に入っており、手動による調整を必要とせずに精製水製造装置を運転出来ることが確認された。
【0036】
【表1】
【符号の説明】
【0037】
1 原水供給ポンプ
2 ろ過膜装置
3 ろ過水流量発信器
4 ろ過水流量調整器
5 原水ポンプインバータ
6 減圧弁
7 濃縮水定流量弁
8 圧力指示器
9 第二の濃縮水定流量弁
L1 原水供給ライン
L2 ろ過水ライン
L3 濃縮水ライン
L4 分岐ライン