(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本願発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0013】
図1は、本実施形態に係る真空処理装置を示す平面図である。本実施形態の成膜装置はインライン式の装置である。インライン式とは、連結された複数のチャンバを経由して基板が搬送される形式の装置をいう。本実施形態の成膜装置は、複数のチャンバ111〜130が方形に無端状に連結されている。各チャンバ111〜130は、専用又は兼用の排気系によって排気される真空容器である。
【0014】
各チャンバ111〜130はゲートバルブを介して連結されている。各チャンバ111〜130にはゲートバルブを介してキャリア10を搬送できる搬送装置が設けられている。搬送装置は、キャリア10を垂直姿勢で搬送する搬送路を有している。基板1は、キャリア10に搭載されて
図1中不図示の搬送路に沿って搬送されるようになっている。チャンバ111は、キャリア10への基板1の搭載を行うロードロック室である。チャンバ130は、キャリア10からの基板1の回収を行うアンロードロック室である。なお、基板1は、中心部分に孔(内周孔部)を有する金属製若しくはガラス製の円板状部材である。
【0015】
チャンバ113〜129は各種処理を行う処理室である。具体的には、基板1に密着層を形成する密着層形成室113と、密着層が形成された基板1に軟磁性層を形成する軟磁性層形成室114、115、117と、軟磁性層の形成された基板1にシード層を形成するシード層形成室119と、シード層が形成された基板1に中間層を形成する中間層形成室120、121と中間層が形成された基板1に磁性膜を形成する磁性膜形成室124、125と、磁性膜の上に保護膜を形成する保護膜形成室128である。また、方形の角の部分のチャンバ112、116、123、127は、基板1の搬送方向を90度転換する方向転換装置を備えた方向転換室である。
【0016】
密着層形成室113、軟磁性層形成室114、115、117、シード層形成室119、中間層形成室120、121、磁気記録層形成室124、125の構成を説明する。密着層形成室113、軟磁性層形成室114、115、117、シード層形成室119、中間層形成室120、121、磁気記録層形成室124、125は、いずれもDCマグネトロンスパッタリングプロセスにより、密着層、軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層を基板に成膜するようになっている。各形成室は、ターゲット材質が異なるが基本的には同じ構成である。一例として、磁性膜形成室124の構成を説明する。
【0017】
磁性膜形成室124は、排気系と、プロセスガスを導入するガス導入系と、内部の空間に被スパッタ面を露出させて設けたターゲットと、放電用の電圧をカソード電極(ターゲット)に印加する電源と、ターゲットの背後に設けられた磁石装置とを有して構成されている。磁性膜形成室124は、キャリア10(基板1)を基準として左右が対称であり、キャリア10に保持された基板1の両面に同時に成膜できる。プロセスガスを導入しながら排気系によって磁性膜形成室124内を所定の圧力に保ち、この状態で電源部から電力を印加する。この結果、放電が生じてターゲットがスパッタされ、スパッタされたターゲット材料が基板1に達して基板1の表面に所定の磁性膜が形成される。なお、
図1は、上記で説明しなかった処理室も描かれている。これらの処理室は、基板1を冷却する基板冷却室や、基板1を持ち替える基板持替室である。
【0018】
キャリア10は、2枚の基板1を同時に保持することができる。キャリア10は、基板を保持するNi合金製のホルダーと、ホルダーを支持して搬送路上を移動するスライダとを有している。キャリア10は垂直姿勢で搬送路上を移動することができる。ホルダーに設けられた複数の部材(板ばね)で基板1の外周部の数カ所を支持できるため、基板1の成膜面を遮ることなくターゲットに対向した姿勢で基板1を保持できる。
【0019】
搬送装置は搬送路に沿って並べられた多数の従動ローラと、磁気結合方式により動力を真空側に導入する磁気ネジを備えている。キャリア10のスライダは永久磁石を備えており、スライダの永久磁石と回転する磁気ネジとを磁気結合することで、スライダ(キャリア10)を従動ローラに沿って移動させる。なお、キャリア10及び搬送装置の構成としては特開平8−274142号公報に開示された構成を採用しうる。もちろん、リニアモータやラックアンドピニオンを用いた搬送装置を用いてもよい。
【0020】
成膜装置内での基板の処理手順について説明する。まず、ロードロック室111内で未処理の2枚の基板1が最初のキャリア10に搭載される。このキャリア10は密着層形成室113に移動して、基板1に密着層が形成される。この際、次のキャリア10への2枚の未処理の基板1の搭載動作が行われる。1タクトタイムが経過すると、キャリア10は軟磁性層形成室114に移動し、基板1に軟磁性層が形成される。この際、次のキャリア10は密着層形成室113に移動し、基板1に密着層が形成され、ロードロック室111内でさらに次のキャリア10への基板1の搭載動作が行われる。
【0021】
このようにして、タクトタイム毎にキャリア10が隣のチャンバに搬送され、密着層、軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層、保護膜の形成が順次行われる。密着層は密着層形成室113、軟磁性層は軟磁性層形成室114、115、117、シード層はシード層形成室119、中間層は中間層形成室120、121、磁気記録層は磁気記録層形成室124、125でDCマグネトロンスパッタリングプロセスによって成膜される。保護膜は、DLC膜であり、保護膜形成室128でCVDプロセスによって成膜される。そして、保護膜形成の後、キャリア10はアンロードロックチャンバー130に達し、このキャリア10から処理済みの2枚の基板1の回収動作が行われる。
【0022】
図2はキャリア10の移動方向から見た保護膜形成室128の断面概略図である。
図2を用いて本実施形態の成膜装置の保護膜形成室128(保護膜形成装置、又はプラズマCVD装置)について説明する。保護膜形成室128は、排気系81と接続された真空容器(チャンバ)であり、キャリア10に保持された2つの基板1の両面に同時に成膜できる。この保護膜形成装置128の中央にはキャリア10を介して基板1が所定位置に保持されている。基板1は、上述の搬送装置で保護膜形成室128内を移動するキャリア10に保持されている。保護膜形成室128はキャリア10(基板1)を基準として水平方向に対称の構成を備えている。排気系81は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプを備えており、保護膜形成室128内を真空排気できる。
【0023】
保護膜形成室128は、基板1の電位を変更する電圧印加手段を備えている。キャリア10のホルダーに保持された基板1は、爪(板ばね)を介してホルダーと電気的に接続されており、ホルダーは放電電極831(放電電極部)から絶縁されているため、ホルダーの電位を変更することで基板1の電位を変更することができる。電圧印加手段は、基板電圧印加電源834若しくはアースに接続された電極をホルダーに接触させる装置である。ホルダーに印加する電位としては、接地電位のほかに、直流電源、パルス電源または高周波電源などから適宜選択できる。
【0024】
保護膜形成室128は、原料ガスを含むプロセスガスを導入するガス導入部82(ガス導入装置)と、導入されたプロセスガスにエネルギーを与えて基板1と放電電極831の放電面の間に電力を印加してプラズマを形成するプラズマ形成部83(電源部)を備えている。ガス導入系82は、プロセスガスとして、炭化水素ガスまたは炭化水素及びAr、Ne、Kr、Xe、水素、窒素ガスの混合ガスを所定の流量で導入できる。ガス導入系82は、ガスボンベなどのガス供給源、ガス供給源から供給されるガスの導入量をコントロールするマスフローコントローラー(MFC)、真空容器内にガスを導入するガス導入部材、及びこれらの部材の間でガスを流通させるガス管を有している。本実施形態では、後述する支持体841がガス導入部材を兼ねている。
【0025】
プラズマ形成手段83は、導入されたプロセスガスに高周波放電を生じさせてプラズマを形成する。プラズマ形成手段83は、保護膜形成室128内に設けられた放電電極831、放電電極831に整合器832を介して高周波電力を供給する放電用電源833を主要な構成要素として備えている。放電電極831は、絶縁ブロック836を介して保護膜形成室128に気密に接続されている。放電用電源833は、例えば、13.56MHzの高周波電力を放電電極831に供給できる。
【0026】
放電電極831は、内側が金属製で、チャンバ内に露出し基板と対向する表面(放電面)はカーボンから構成され、放電電極831の内部には永久磁石835(磁石ユニット)が設けられている。放電電極831の周囲には、放電電極831を取り囲む接地電位のシールド837と、放電電極831の基板側を覆う接地電位の非エロージョン部マスク838(マスク部)が、放電面と平行に設けられている。なお、永久磁石835は放電電極831の表面(放電面)に局所的に磁界を発生させる構成であり、放電電極831の放電面の裏側(基板の逆側)にあればよい。例えば、永久磁石835を放電電極831の背面に設けてもよい。
【0027】
本明細書では、放電電極831上に永久磁石835による磁界によりエロージョンが生じる領域、すなわちDLC膜が堆積しない部分をエロージョンされる領域(エロージョン領域)とし、磁界が弱くDLC膜が堆積する部分をエロージョンされない領域(非エロージョン領域)とする。エロージョン領域は永久磁石835の放電面上に平行磁界が生じるため強いプラズマが生じる箇所であり、非エロージョン領域は放電面上に平行磁界が生じないためプラズマは比較的弱い領域である。
【0028】
永久磁石835は内側に配置された環状の第1磁石と、第1磁石を囲む第2磁石とを備えている。第1磁石は一つの極性の磁極を放電面に向けており、第2磁石は第1磁石とは逆の極性の磁極を放電面に向けている。第1磁石と第2磁石はヨーク(不図示)に固定されて永久磁石を構成している。ヨークの形状は平板のみならず、ヨークの一部が第1磁石と第2磁石の間のスペースを埋めるような凸部を有する構造などであってもよい。
【0029】
放電電極831のエロージョン部は、保護膜形成室128内の放電空間に露出されている。非エロージョン部は非エロージョン部マスク838(マスク部)で覆われ、保護膜形成室128内の放電空間に対して遮蔽されている。非エロージョン部は、永久磁石835が配置される領域の外側に対向する放電電極831の部分であり、具体的には第2磁石の外側の対向する放電電極831の放電面側に生じる。本実施形態では、磁石ユニットに対向する放電面の領域を取り囲むように非エロージョン部マスク838は設けられている。言い換えると、少なくとも第2磁石の外縁の外側の対向する放電電極831の放電面側を覆うように非エロージョン部マスク838は設けられている。第2磁石の内側の縁部分が対向する放電電極831の放電面の領域よりも外側を覆う構成でもよい。非エロージョン部マスク838は、少なくとも第2磁石の外側の縁部分に対向する位置の放電電極831を覆うように構成されている。すなわち、第2電極の外周の直径以下の開口を有している。この開口の大きさや形状は、第2磁石に対向する領域の放電電極831に生じる非エロージョン領域の寸法に合わせて決められる。
【0030】
エロージョン部の面積や形状は、基板1に成膜される保護膜の膜厚分布や成膜レートにより定められる。基板1の内周孔部近傍では膜厚が不均一であり且つ成膜レートが速くなることがあるので、中心のプラズマ密度が低い円環状のプラズマを発生させることが望ましい。永久磁石835の配置や形状または露出させるエロージョン部の形状により、円環状のプラズマを発生させることができる。また、この放電電極831を覆った接地電位の非エロージョン部マスク838と放電電極831とは接触しておらず、放電電極831上を覆う非エロージョン部マスク838との間でプラズマが発生しない程度の隙間であることが好ましい。例えば、放電電極831と電極上を覆う非エロージョン部マスク838の間隙は3mm以下が好ましい。
【0031】
本実施形態では、エロージョン部は円状または円環形状となるが、矩形状の永久磁石(特に第2磁石)を用いれば細長い環状のエロージョン部が生じる。この場合、非エロージョン部マスク838は第2磁石の外側に対向する放電電極831の基板側を覆うように設けられる。また、多数の永久磁石の磁極を交互に配置した磁石ユニットを備える場合は、それらの永久磁石が配置される領域(磁石ユニットが配置される領域)の内側にエロージョン部が生じるが、この場合も非エロージョン部マスク838は永久磁石(磁石ユニット)が配置される領域の外側、すなわち第2磁石の外側に対向する放電面を覆うように設けられる。
【0032】
放電電極831を覆う非エロージョン部マスク838は、電極本体を取り囲む接地電位のシールド837または放電電極831を貫通する電気的に接地された支持体に不図示のネジにて固定される。非エロージョン部マスク838としては、AlやSUS等の金属材料を用いることができる。また、本実施形態のように複数の基板を保持できるキャリア10を用いた場合、非エロージョン部マスク838は複数のエロージョン部を露出させるように構成される。エロージョン部の各々のプラズマを孤立させるとプラズマが偏り、2枚の基板間の膜厚や膜厚分布のばらつきが大きくなるので、放電面上を覆う非エロージョン部マスク838の形状は、複数のエロージョン部に発生したプラズマが連続したプラズマとなるようにする。例えば、放電電極831上を覆う非エロージョン部マスク838の厚さを35mm以下とすることが好ましい。
【0033】
非エロージョン部マスク838とキャリア10との間にプラズマ遮蔽シールド839を設けることができる。プラズマ遮蔽シールド839はキャリア10に保持された基板1の最大幅と同程度以上の大きさの開口部を有している。さらに、プラズマ遮蔽シールド839と基板キャリア10とのクリアランスを5mm以下にすることが好ましい。
【0034】
非エロージョン部マスク838及びプラズマ遮蔽シールド839の電位状態は、高周波電圧や負の直流電圧が印加されていない状態であればよく、接地電位に限られない。例えば、フローティング電位や正の直流電圧が印加された状態でも良い。非エロージョン部マスク838は、高周波電圧や負の直流電圧が印加されていなければ、シールドに堆積された膜に向かってイオンが加速されないため、内部応力が高く剥離し易いDLC膜は堆積しない。
【0035】
プラズマ遮蔽シールド839により搬送機構側へのプラズマの広がりを防ぐことができる。非エロージョン部マスク838とプラズマ遮蔽シールド839を備えることで、プラズマを非エロージョン部マスク838とプラズマ遮蔽シールド839の間の空間(放電空間)に閉じ込めることができる。そのため、保護膜形成室128内にDLC膜が堆積するエリアを狭くでき、パーティクルの発生を一層抑制することができる。ここで、保護膜形成室128内の非エロージョン部マスク838及びプラズマ遮蔽シールド839の表面は、アルミナサンドブラスト、アルミアーク溶射処理の内少なくとも1つで表面処理されていることが好ましく、さらにその表面にエンボス加工されていることが好ましい。これらの表面処理によりDLC膜の剥離を防いでパーティクルの発生を抑制することができる。
【0036】
永久磁石835は、永久磁石またはこれに加えて永久磁石とヨークを組合せた構成とすることができ、1つ以上の円環形状、楕円形状、多角形状のうち少なくとも1つを有する構成とできる。永久磁石835としては、ネオジウム、SmCo等の永久磁石を用いることができる。永久磁石835のケースにはステンレス材を用いることができる。本実施形態では、
図2のように放電電極831の内部に複数の円環状のSmCo磁石が不図示のネジで固定されて配置されている。
【0037】
高周波電力が大きいときは、磁石が加熱されるので磁石を冷却しても良い。特に、キューリー点が低い磁石を用いる場合は、磁石の冷却機構を設けるのが好ましい。冷却機構は、例えば、放電電極831内部に冷却水を流して冷却すれば良い。また、磁石ケースを冷却用容器に収納し、容器内部に水等の冷媒を通して冷却してもよい。その場合、冷却用の容器を別途用いず、磁石ケースそのものを上述の容器の構造として冷媒がケース内部を循環できるようにしてもよい。
【0038】
保護膜形成室128において、排気系81によって所定の圧力まで排気され、ガス導入系82によってプロセスガスが所定の流量で導入される。本実施形態ではエチレンと水素の混合ガスを導入した。基板1は、キャリア10に保持された
図2に示す位置に停止している。この状態で、放電用電源833、放電電極831に高周波電圧が与えられる。この結果、対向空間に高周波電界が設定され、プロセスガスに高周波放電が生じてプロセスガスのプラズマが形成される。さらに、成膜中に基板1に電圧印加手段(基板電圧印加電源834)により電圧を印加することで基板1にDLC膜保護膜が形成されるようになっている。
【0039】
保護膜形成室128の放電電極831のエロージョン部は、基板1の対向位置に調整された円環形状となるように永久磁石835が調整されている。そのため、放電電極831の電極上を覆う非エロージョン部マスク838は、円環形状のエロージョン部の内側に形成される非エロージョン部を覆う内側マスク(マスク)と、外側の非エロージョン部を覆う外側マスク(第2マスク部)に分割される構成であってもよい。非エロージョン部マスク838を内側と外側に分割した構成については第2実施例で詳しく述べる。
【0040】
本実施形態の特徴について述べる。放電電極831の背面に放電電極831の表面に局所的に磁界を発生させる永久磁石835を設け、永久磁石835によって生じる放電電極831の非エロージョン部の表面を非エロージョン部マスクで覆う構成は本実施形態の特徴である。加えて、永久磁石835によって生じる放電電極831のエロージョン部を放電用に保護膜形成室128内の放電空間に露出させることは本実施形態の特徴である。露出した放電電極831表面へのDLC膜の堆積レートに比べてエロージョン部のスパッタリングレートを速くすることで露出した放電電極831の表面にDLC膜を堆積しない効果が得られる。
【0041】
ここで、本実施形態の放電電極831上へのDLC膜の堆積を防止するメカニズムを説明する。放電電極831に高周波電圧を印加すると、放電電極831には自己バイアス電圧と呼ばれる負の直流電圧が発生する。この自己バイアス電圧によりプラズマ中のイオンが加速されることで、放電電極831はイオン衝撃により電極材料がスパッタリングされる。
【0042】
まず、本実施形態の構成を有さない真空処理装置について述べると、この自己バイアスによるスパッタリングレートに比べてDLC膜の堆積レートが速いために放電電極の露出した領域にはDLC膜が堆積する。放電電極に堆積したDLC膜はイオン衝撃により内部応力の高い硬質のDLC膜になりうる。この硬質DLC膜は、堆積量が増えると剥離し易く、保護膜形成室内にカーボンの微粒子(パーティクル)が生じる。
【0043】
放電電極の内部に永久磁石を配置し、放電電極表面に局所的な磁界を発生させることで、放電電極表面のスパッタリング効果を強めることができる。エロージョンは平行磁場に対応した部分にできるので、平行磁界を拡大しエロージョン部を広げる磁石が必要であるが、放電電極表面を一様にDLC膜の堆積レートに比べてスパッタリングレートを速くする永久磁石の構成は、工業的に使用するのは難しい。
【0044】
そこで、本実施形態では、スパッタリングレートに比べてDLC膜の堆積レートが速い部分及び非エロージョン部を電気的に接地された非エロージョン部マスク838で覆うことで放電電極831にDLC膜が堆積しないようにしている。なお、非エロージョン部マスク838に堆積するDLC膜は、軟質のDLC膜であり、内部応力小さく膜の堆積量が増加しても剥離しにくい。従って、本実施形態のように、耐食性や生産性を満足する、最適なエロージョン形状にすることによって、酸素プラズマクリーニングによるDLC膜除去プロセスを行わなくてもDLC膜剥離による保護膜形成室内へのパーティクル発生を防止できる。
【0045】
図3は本実施形態の真空処理装置で製造される磁気記録媒体の断面模式図である。
図3を参照して垂直磁気記録媒体30の層構成を説明する。垂直磁気記録媒体30は、非磁性基板1の両面に、密着層2、軟磁性層3、シード層4、中間層5、磁気記録層6、7、DLC保護膜8が形成されてなり、保護膜8の上に、潤滑膜9が形成されることが好ましい。なお、基板1(非磁性基板)の両面に磁気記録媒体が形成されるため、
図3では一方の層のみを示している。
【0046】
以下、上記磁気記録媒体の保護膜8以外の各層について説明する。基板1としては、ソーダライムガラスの他に、化学強化したアルミノシリケート、ニッケルリンを無電解めっきしたAl−Mg合金基板、シリコン、硼珪酸ガラス等からなるセラミクス、または、ガラスグレージングを施したセラミックス等からなる非磁性の剛体基板を用いることができる。
【0047】
密着層2は、ソーダライムガラスからのアルカリ金属の電気化学溶出を防ぐため、またガラスと軟磁性層との密着性を向上するための層で、厚さは任意である。密着層2の材料としては、AlTi、AlTa、NiTa、またはCoTiAl等を用いることができる。また、特に用いる必要がなければ省略することもできる。
【0048】
基板冷却工程は、上部軟磁性層3cの形成後ではなく、上部軟磁性層3cの形成前、あるいはグラニュラー磁気記録層6の形成前に実施してもよい。さらにこれらのタイミングで複数回の冷却工程を組み合わせてもよい。もちろん、不要であれば省略してもよい。
【0049】
軟磁性層3は、下部軟磁性層3a、反強磁性結合誘発層3b、上部軟磁性層3cが積層されて構成されている。軟磁性層3の材料としては、FeCo合金、FeTa合金、Co合金等とRu合金等との積層体を用いることができる。シード層4の材料としては、NiW合金、NiFe合金、NiTa合金、TaTi合金等を用いることができる。中間層5にはRuやRu合金の積層体を用いることができる。
【0050】
磁気記録層6の材料としては、CoCrPt合金等のCoCr系合金、SiO2等の酸化物系材料を中にCoPt等の強磁性粒子をマトリックス状に含ませた材料あるいはこれらの積層体を用いることができる。
【0051】
図3に示した磁気記録媒体の層構成は一例であり、これ以外の磁気記録媒体を製造できることはもちろんである。本発明の真空処理装置により製造される他の磁気記録媒体としては、例えば、ビットパターン媒体、熱アシスト媒体、マイクロ波アシスト媒体等のエネルギーアシスト型の磁気記録媒体がある。
【実施例】
【0052】
以下、上記実施形態に属する実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0053】
(実施例1)
図4に本実施例1の保護膜形成室の構成を示す。
図4は、
図2の左側半分に相当する領域を拡大したものである。
図4の説明では本実施例の構成として特徴のある構成について記載する。
図5は
図4のA方向からの非エロージョン部マスク838aの概略図である。
図1にて説明したものと同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0054】
保護膜形成室128aの放電電極831のエロージョン部は、基板1の対向位置に調整された円形状とした。エロージョン部は直径140mmとした。この放電電極831を覆う非エロージョン部マスク838aは、電極本体を取り囲む接地電位のシールド837に不図示のネジにて固定した。非エロージョン部マスク838aの厚さは10mmの部材を使用し、放電電極831と非エロージョン部マスク838aの間隙は2mmとした。非エロージョン部マスク838aは第2磁石の外縁の外側の対向する放電電極831の基板側を覆うように設けられている。本実施例の非エロージョン部マスク838aの開口部の直径は第2磁石の外径とほぼ等しい。
【0055】
永久磁石835aは、放電電極831の水冷されたCu電極の内部に埋め込まれており、電極表面との距離を9mmとした。永久磁石835aは、2重円環形状とし、外側の永久磁石は電極表面側をN極、電極背面側をS極とし、内側の永久磁石は電極表面側をS極、電極背面側をN極とした。外側の永久磁石は直径162mm、内側の永久磁石は直径54mm、厚さは10mmとした。永久磁石の材料としてはSmCo磁石を用いた。
【0056】
また、非エロージョン部マスク838aとキャリア10との間にプラズマ遮蔽シールド839aを設け、その開口部を直径120mmとし、さらにそのプラズマ遮蔽シールド839aと基板キャリア10とのクリアランス(隙間)を5mm以下とした。非エロージョン部マスク838a表面は、エンボス加工されており、さらにアルミアーク溶射処理をされている。その他の非エロージョン部マスク(プラズマ遮蔽シールド839、シールド837)には、アルミナサンドブラストで処理されている。
【0057】
実施例1の真空処理装置を用いた磁気記録媒体の製造方法について説明する。ガラス基板(外径65mm、内径15mm、厚さ0.8mm)である基板1の上にNiTa密着層を5nm、FeCoTaZr合金下部軟磁性層3aを20nm、Ru合金反強磁性層3bを0.5nm、FeCoTaZr合金下部軟磁性層3cを20nm、NiWシード層4を8nm、Ru中間層5を15nm、CoCrSiO2合金からなるグラニュラー磁性層18nmとCoCrPtB磁性層7nmの磁気記録層6、7を順次積層した。次に、キャリアに装着された非磁性基板を保護膜形成室に搬送し、この磁性層が形成された非磁性基板の両面にDLC保護膜8を形成した。上記各層の成膜には、
図1に示すインライン装置(真空処理装置)を用いた。所望の膜組成と同じ組成の合金ターゲットを用意し、それをDCマグネトロンスパッタリングすることで上記のような合金層を成膜した。
【0058】
保護膜形成室128aには、ターボ分子ポンプで排気しながら、原料ガスであるエチレンガスを50sccm、同時に水素ガスを15sccm導入した。上述の実施例1においては、保護膜形成室128aへの導入ガスとして、炭化水素ガスと水素ガスの混合ガスを用いたが、これに限られることはない。炭化水素ガスまたはこれとともにAr、Ne、Kr、Xe、水素、窒素ガスのうち少なくとも1つを混合した混合ガスでもよい。ガスを導入しはじめてから、0.5sec後に放電電極831に高周波電力を1000W印加して、混合ガスを放電によりプラズマ化する。そして、硬質DLC保護膜を形成する為に、基板にバイアス電圧を印加する。基板にバイアス電圧を印加する際には、接地電位及び放電電極831から絶縁されたNi合金からなる基板バイアス印加電極を基板端面に接触させることで−250Vを印加する。基板側へのバイアス電流は基板保持分も含めてトータル0.6A程度である。このプラズマを保持する時間を調節することで、炭素を主成分とし水素と窒素を含有するDLC保護膜8を3.0nm形成する。このとき保護膜形成室128aの圧力は1.5Paであった。この後、DLC保護膜8が形成された磁気記録媒体を保護膜形成室128aから排出する。
【0059】
(実施例2)
図6に実施例2の保護膜形成室の構成を示す。
図2の左側半分に相当する領域を拡大したものである。
図6の説明では本実施例の構成として特徴のある構成について記載する。
図7は
図6のB方向から見た非エロージョン部マスク838bの概略図である。
図1にて説明したものと同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。保護膜形成室128bの放電電極831のエロージョン部は、基板1の対向位置に調整された円環形状とした。エロージョン部は外側の直径140mm、内側の直径70mmとした。
【0060】
この放電電極831の電極上を覆う非エロージョン部マスク838bにおいて、140mmより外側の非エロージョン部を覆う外側マスク(マスク838b−1)は、非エロージョン部の外側を覆うように外径140mmよりやや大きい円形の開口を2つ有する平板である。外側マスク(マスク838b−1)は、放電電極831を取り囲む接地電位のシールド837に不図示にネジにより固定した。また、内径140mmより内側の非エロージョン部を覆う内側マスク838b−2(第2マスク)は、厚さ2mm、直径70mmの円形平板状のシールドとし、放電電極831を貫通する電気的に接地された支持体841に不図示のネジにて固定した。放電電極831を貫通する支持体841で非エロージョン部マスク838b−2を支持することで、リング状のエロージョン部の内側に非エロージョン部マスク838bを設ける場合に、エロージョン部の上に配線やシールドを横切らせずに非エロージョン部マスク838bを固定できる。
【0061】
支持体841は管状部材で形成されており、プロセスガスは支持体の内部を通過して真空容器内に導入される。支持体841は放電電極831の中心(円環形状のエロージョン部の中心)に配置されているためエロージョン部の各部に均一な圧力でプロセスガスを供給できる。本実施形態の内側シールドは、永久磁石835の内側の環状磁石(第1磁石)の内側に対向する放電電極831の表面側を少なくとも覆うように設けられている。内側シールドの寸法は、第1磁石に対向する領域の放電電極831に生じる非エロージョン領域の寸法に合わせて決定される。例えば、内側シールドの直径は第1磁石の外径以上の直径の円板状でもよい。
【0062】
(実施例3)
図8に実施例3の保護膜形成室の構成を示す。
図2の左側半分に相当する領域を拡大したものである。
図8の説明では本実施例の構成として特徴のある構成について記載する。
図1にて説明したものと同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。保護膜形成室128cの放電電極831のエロージョン部は、基板1の対向位置に調整された2重の円環形状とした。エロージョン部の外側の円環の直径140mm、その内側の直径110mm、内側の円環の外円の直径は90mm、内円の直径は70mmとした。
【0063】
この放電電極831の電極上を覆う非エロージョン部マスク838cを3種類に分割した。140mmより外側の非エロージョン部を覆う非エロージョン部マスク(マスク)は、電極本体を取り囲む接地電位のシールド837に不図示にネジにより固定する。また、内径140mmより内側の非エロージョン部マスク838c−2(第2マスク)は、放電電極831を貫通する電気的に接地された支持体841に不図示のネジにて固定した。マスク(838c−1)と第2マスク(838c−2)の間に第3マスク838c−3を備えている。マスク(838c−1)と第2マスク(838c−2)の構成は上述の第2実施例のマスク838b−1、第2マスク838b−2と同様である。
【0064】
第3マスク838c−3は、マスク838c−1と第2マスク838c−2の間の位置(中間位置)に設けられ、この位置に生じる非エロージョン領域を覆うものである。通常は、マスク838c−1と第2マスク838c−2の間の位置(中間位置)に非エロージョン領域が生じることは少ないが、例えば、第1磁石と第2磁石の間に別の永久磁石やヨークを配置した場合に、この中間位置に非エロージョン領域が生じることがある。最内部の第2マスク(838c−2)は円形状であり、その外側の第3マスク(838c−3)は円環形状である。支持体841は管状部材で形成されており、プロセスガスは支持体の内部を通過して真空容器内に導入される。
【0065】
(磁気記録媒体の評価)
上述した実施例1〜3の磁気記録媒体に対して、耐食性試験及び金属コンタミネーション測定を行った。耐食性試験は以下の条件で行った。温度75℃、相対湿度90%の温湿度環境内に4日間磁気記録媒体を放置する。そして4日後に温湿度環境槽から磁気記録媒体を取り出し、取り出した磁気記録媒体を光学式の表面検査装置(Optical Surface Analyzer,OSA)によって、磁気記録媒体表面の腐食点を計数した。本試験による腐食点の個数は、概ね100個以下であれば、ハードディスクドライブ用に用いる磁気記録媒体として十分な耐食性を得られることが経験的に分かっている。この評価の結果を表1に示す。表1よると本発明の製造装置及び製造方法で作製した磁気記録媒体は良好な耐食性であることが確認できた。
【表1】
【0066】
保護膜中の金属コンタミネーションの測定には、二次イオン質量分析装置を用い、金属電極の測定結果により規格化した。測定元素は、測定元素は不純物として含まれる代表的な元素であるMg、Al、Feとした。これは、保護膜形成室128(128a,128b,128c)の電極として従来使用していたメタル電極材の構成元素である。この評価の結果を表2に示す。表2によると本発明の製造装置及び製造方法で作製した磁気記録媒体は、金属の不純物が混入していないことが確認できた。
【表2】