特許第6026293号(P6026293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6026293
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】圧粉磁心とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20161107BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20161107BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20161107BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20161107BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20161107BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01F1/24
   H01F1/30
   H01F1/14 C
   H01F27/24 D
   H01F27/24 C
   H01F41/02 D
   H01F41/02 C
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-7024(P2013-7024)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2014-138134(P2014-138134A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2014年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】綱川 昌明
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
(72)【発明者】
【氏名】田村 泰治
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−249802(JP,A)
【文献】 特開平02−047812(JP,A)
【文献】 特開平06−267723(JP,A)
【文献】 特開2009−070885(JP,A)
【文献】 特開2007−092162(JP,A)
【文献】 特開2010−232223(JP,A)
【文献】 特開2011−040473(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139368(WO,A1)
【文献】 特開2006−210847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12−1/375、1/44、3/00−3/14
H01F 27/24−27/26、41/00−41/04
H02K 1/02
B22F 1/00−8/00、
C22C 1/04−1/05、33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質で構成された第1の軟磁性粉末と、前記第1の軟磁性粉末より平均粒径が小さい非晶質で構成された第2の軟磁性粉末とを混合して得られる複合磁性粉末に、結着性樹脂が混合されてなる圧粉磁心において、
前記第1の軟磁性粉末は、その平均粒径が30μm〜100μmであり、少なくとも一つの主な面を有し、前記主な面の端部が丸みを帯びた形状で、前記主な面の円形度が0.7776以上0.98以下であり、
前記第2の軟磁性粉末の平均粒径が8μm〜15μmであり、
前記第1の軟磁性粉末と前記第2の軟磁性粉末の比率が、75:25から50:50の間であることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記複合磁性粉末に、軟化点が前記第1の軟磁性粉末および第2の軟磁性粉末の結晶化温度より低いガラス粉末が混合されていることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記第2の軟磁性粉末の円形度が0.962以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記第1の軟磁性粉末が、Fe基アモルファスの粉砕粉であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記結着性樹脂がメチルフェニル系シリコーン樹脂であことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
非晶質で構成された第1の軟磁性粉末と、前記第1の軟磁性粉末より平均粒子径が小さい非晶質で構成された第2の軟磁性粉末を混合して得られる複合磁性粉末に、結着性樹脂を混合して乾燥する工程と、
この乾燥した複合軟磁性粉末、結着性樹脂の混合物を所定の形状に成形する工程と、
前記第1の軟磁性粉末および第2の軟磁性粉末の結晶化温度より低い温度で熱処理する工程と、を含む圧粉磁心の製造方法において、
前記第1の軟磁性粉末は、その平均粒径が30μm〜100μmであり、少なくとも一つの主な面を有し、前記主な面の端部が丸みを帯びた形状で、前記主な面の円形度が0.7776以上0.98以下であり、
前記第2の軟磁性粉末の平均粒径が8μm〜15μmであり、
前記第1の軟磁性粉末と前記第2の軟磁性粉末の比率が、75:25から50:50の間であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記複合磁性粉末に軟化点が前記第1の軟磁性粉末および第2の軟磁性粉末の結晶化温度より低いガラス粉末が混合され、前記熱処理工程が、前記ガラス粉末の軟化点より高い温度で行われることを特徴とする請求項6に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記第2の軟磁性粉末の円形度が0.962以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
前記第1の軟磁性粉末が、Fe基アモルファスの粉砕粉であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項10】
前記結着性樹脂がメチルフェニル系シリコーン樹脂で、前記熱処理する工程が非還元雰囲気中で行われることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑用チョークコイル等に使用される圧粉磁心及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源等の出力波形を平滑するために、チョークコイルが使用されている。各種電子機器の高性能化・多機能化に伴い、それに使用されるチョークコイルの磁心においても、大電流でも特性変化の小さいものが要求されている。具体的には、優れた直流重畳特性と低損失特性を有する磁心が求められている。この種の磁心としては、従来から、フェライト磁心や圧粉磁心が使用されている。中でも、非晶質軟磁性合金(アモルファス軟磁性合金)の粉末から作製された圧粉磁心は、直流重畳特性に優れ、損失が少ない特性を有している。
【0003】
これらの非晶質軟磁性合金粉末(以下、合金粉末という)を用いて圧粉磁心とするためには、異なる粒径を有する合金粉末を混合して高密度化を図り、成形性や強度を向上させることが知られている。例えば、特許文献1の圧粉磁心は、大きな粒子であるFe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉と、小さな粒子であるFe系アモルファス合金アトマイズ球状粉とを主成分とする。また、特許文献2の圧粉磁心は、異なる粒径を有する2種類以上の合金粉末が混合されて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4944971号公報
【特許文献2】特許第5023041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で用いられているFe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉は明瞭なエッジを有している。従って、このエッジにより絶縁樹脂による皮膜が破られ、絶縁性能が劣化する可能性があった。また、異なる粒径の粉末を混合する場合、隣合う大きな粒径の粉末の間に生じた隙間に小さな粒径の粉末が入り込むことで密度を高めることができる。しかし、粉末がエッジを有している場合には、隣合う粉末がぴったり寄り添ってしまい、粉末間に生じる隙間が減少することが考えられるため、密度が低下する可能性があった。
【0006】
また、特許文献2では、大きい粒径の粉末として球形状の粉末が用いられている。この場合、隣合う粉末は点接触となる。点接触の場合、面接触よりも抵抗が大きいので、直流重畳特性が劣化する可能性があった。また、粉末同士の接触面積が少なくなり、成形体の強度が低下する可能性もあった。以上のように、異なる粒径の合金粉末を混合して圧粉磁心を成形する場合には、その粉末の粒径や形状により圧粉磁心の特性や強度が劣化することが知られている。
【0007】
本発明の目的は、高密度かつ、直流重畳特性や低損失特性に加え、成形性や強度を向上させた圧粉磁心及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
非晶質で構成された第1の軟磁性粉末と、前記第1の軟磁性粉末より平均粒径が小さい非晶質で構成された第2の軟磁性粉末を混合して得られる複合磁性粉末に、結着性樹脂が混合されてなる圧粉磁心において、前記第1の軟磁性粉末は、その平均粒径が30μm〜100μmであり、少なくとも一つの主な面を有し、前記主な面の端部が丸みを帯びた形状で、前記主な面の円形度が0.7776以上0.98以下であり、前記第2の軟磁性粉末の平均粒径が8μm〜15μmであり、前記第1の軟磁性粉末と前記第2の軟磁性粉末の比率が、75:25から50:50(75:25及び50:50を含む、以下、請求項も含めて同じ)の間であることを特徴とする。
【0009】
本発明において、軟化点が前記第1の軟磁性粉末および第2の軟磁性粉末の結晶化温度より低いガラス粉末が混合されていても良い。また、前記第2の軟磁性粉末の円形度が0.962以上とすることが好ましい。前記第1の軟磁性粉末が、Fe基アモルファスの粉砕粉であっても良い。前記結着性樹脂がメチルフェニル系シリコーン樹脂であっても良い。また、前記の圧粉磁心を得る製造方法も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0010】
以上のような本発明によれば、平均粒径が異なる2種類以上の非晶質軟磁性粉末を混合した場合であっても、低損失で直流重畳特性に優れた圧粉磁心と圧粉磁心の製造方法を提供することができる。また、メチルフェニル系シリコーン樹脂を用いることで、成形性や強度をも向上させた圧粉磁心を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の合金粉末のSEM像であり、(a)は主な面を有する合金粉末、(b)は主な面を有しない合金粉末を示す。
図2】第2の合金粉末のSEM像であり、(a)は円形度0.962の水アトマイズ粉、(b)は円形度0.965の水アトマイズ粉を示す。
図3】本実施形態の直流重畳特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.圧粉磁心]
[1.1 構成]
(概要)
本実施形態の圧粉磁心について、以下に詳細に説明する。なお、ここでは圧粉磁心の構成要素に着目して説明を行い、具体的な製造方法については後に改めて説明することとする。本実施形態の圧粉磁心は、非晶質で構成された第1の軟磁性粉末(以下、第1の合金粉末という)と、第1の合金粉末より平均粒子径が小さい非晶質で構成された第2の軟磁性粉末(以下、第2の合金粉末という)を混合して得られる複合磁性粉末に、結着性樹脂を混合されてなるものである。
【0013】
第1の合金粉末は、粉砕粉を用いることが好ましい。第2の合金粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造されるものを使用できるが、特に、水アトマイズ法によるものが好ましい。理由は、水アトマイズ法はアトマイズ時に急冷するため、粉末が結晶化しにくいからである。また、複合磁性粉末には、軟化点が第1および第2の軟磁性粉末の結晶化温度より低いガラス粉末と潤滑性樹脂が混合されていても良い。
【0014】
本実施形態の圧粉磁心は、第1の合金粉末と第2の合金粉末が、75:25から50:50の混合比率で混合されているものである。例えば、合金粉末のうち、75wt%を第1の合金粉末とした場合、残りの25wt%を第2の合金粉末とする。この範囲で混合することで、圧粉磁心の密度が向上し、5.70g/cm以上の密度を有する圧粉磁心とすることができ、透磁率を増加させることができる。
【0015】
(第1の合金粉末)
第1の合金粉末としては、Fe基アモルファスの粉砕粉を用いることができる。この粉砕粉は、例えば、厚み25μmの薄帯を粉砕したものである。第1の合金粉末の成分としては、例えば、Si成分が6.7%、B成分が2.5%、Cr成分が2.5%、C成分が0.75%、残り成分がFeのものを使用することができる。他にも、合金粉末としては、FeBPN(NはCu,Ag,Au,Pt,Pdから選ばれる1種以上の元素)が使用できる。このような第1の合金粉末の結晶化開始温度は、通常、470℃前後である。
【0016】
第1の合金粉末は、平均粒径が30μ〜100μmの範囲のものを用いることが好ましい。この範囲より平均粒径が大きいと渦電流損失が増大し、この範囲より平均粒径が小さいと、密度低下によるヒステリシス損失が増加する。
【0017】
図1(a)のSEM像に示すように、粉砕粉は少なくとも1つの主な面を有している。すなわち、粉砕粉は球形のように連続する面を有する形状ではなく、例えば半球や板状のような複数の異なる面で構成される形状を有する。主な面には、比較的面積が大きく、また平坦に近い面が該当する。例えば粉砕粉が半球であると考えた場合には、その半球を構成する面の、球面ではなく円状の面である。また、例えば粉砕粉が高さの低い長方体であると考えた場合に、この長方体を形成する面の中で、最も大きくかつ対向する2つの長方形状の面のことである。
【0018】
一方、図1(b)に示すアトミックス社のKUAMET6B2は、球形に近い形状をしており、主な面を有していない。図1(b)の粉砕粉は、円形度0.980であるが、主な面を有していない粉砕粉は、実施例に示すように、直流重畳特性が劣るため、使用することができない。
【0019】
主な面の形状は長方形に限定されるものではなく、方形や円形など種々の形状があり、また均一である必要はない。粉砕粉が複数の主な面を有する場合には、各主な面の面積は異なっていてもよく、粉砕粉を構成する面のうち、面積の大きい順に2つ以上の面を主な面とする。また、主な面は必ずしも平行に対向している必要はなく、隣接する3面でもよく、角度をもって向かいあっていても良い。
【0020】
主な面の端部は、丸みを帯びた形状をしている。丸みを帯びた形状とは、端部が曲面形状を有しており、頂点を有する角がないことを意味する。曲面形状は真円の弧の形状に限定されるものではなく、角が無ければ曲面形状と解して良い。
【0021】
粉砕粉の主な面の円形度は0.98以下であることが好ましい。参考までに、正多角形を用いて円形度を説明すると、正12角形の円形度は0.9885、正8角形の円形度は0.9737である。従って、本実施形態の粉砕粉の主な面における円形度が0.980の場合、正12角形と正8角形の中間程度ということになる。ただし、主な面の形状は正多角形に限定されるものではない。
【0022】
また、例えば正三角形の円形度は、0.7776であり、主な面は少なくとも正三角形程度の円形度を有していることが好ましい。円形度がそれ以下になると、主な面の端部にエッジが生じやすくなるからである。以上のような粉砕粉としては、例えば、安泰科技社の粉砕粉が使用できる。
【0023】
(第2の合金粉末)
第2の合金粉末は、第1の合金粉末より平均粒径が小さい合金粉末を用いる。この第2の合金粉末としては、Fe系(Fe―Si−Bなど)の合金アトマイズ粉を用いることができる。このような第2の合金粉末の結晶化開始温度は、通常、450℃前後である。
【0024】
図2に示す通り、粉末の形状は球形であり、その平均粒径が5μ〜30μmの範囲のもの、好ましくは5μ〜20μmの範囲のもの、更に好ましくは8μ〜15μmの範囲のものを用いることができる。この範囲より平均粒径が大きいとアトマイズ時に冷却速度が追いつかなくなり結晶化してしまい、円形度が低くなり球形が崩れるといった問題が生じる可能性がある。また、この範囲より平均粒径が小さいと、成形時に金型のクリアランス(10μm程度)に入り込み、齧りが発生する。
【0025】
第2の合金粉末の円形度は0.962以上であることが好ましい。参考までに、正多角形を用いて円形度を説明すると、正6角形の円形度は0.9523、正8角形の円形度は0.9737である。従って、本実施形態の第2の粉末の円形度が0.962の場合、正6角形と正8角形の中間程度、円に近い形状をしているということになる。ただし、第2の合金粉末は、円や楕円などの複合形状であり、大きくは球形に属する形状である。以上のような第2の合金粉末としては、図2(a)のアトミックス社のPF10や、図2(b)の安泰科技社の♯325を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
合金粉末としては、Fe−Si−B合金の他、これにNb、Cu、C等の元素を追加したFe−Si−B系合金、Fe−Cr−P系合金、Fe−Zr−B系合金、センダスト系合金、Co−Fe−Si−B系合金等の各種公知の軟磁性合金のアモルファス粉末を単独又は混合して使用することができる。
【0027】
(結着性樹脂)
結着性樹脂は、混合された第1の合金粉末と第2の合金粉末を混合して得られた複合磁性粉末に混合される。結着性樹脂は、熱処理中に一定温度に達すると熱分解する。圧粉磁心の熱処理が大気中で行われることで、結着性樹脂は非晶質である軟磁性合金の粉末の周りを覆う膜となる。結着性樹脂としては、常温で複合磁性粉末を加圧した場合に、ある程度緻密化された状態の成形体が得られ、しかも、その成形体が過大な力が加わらない限り、所定の形状を維持することができる程度の粘性のある樹脂を用いる。
【0028】
結着性樹脂としては、例として、シリコーン系樹脂、ワックス等が挙げられる。シリコーン系樹脂としては、メチルフェニル系シリコーン樹脂を用いることが好ましい。メチルフェニル系シリコーン樹脂は、200℃前後で加熱乾燥することで、成型時のバインダー(結着剤)として作用する。さらに350℃程度でSi基に直結しているメチル基が熱分解する。その後、シリカ(SiO)層として、軟磁性粉末表面に残り、これが強固なバインダー、絶縁膜とすることができる。
【0029】
メチルフェニル系シリコーン樹脂の添加量は、複合磁性粉末に対して、1.0〜3.0wt%が適量である。これよりも少なければ、成形体の強度が不足して、割れが発生する。また、これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する。また、樹脂の粉末の平均粒径は、第2の合金粉末の平均粒径以下が良い。これより大きいと、密度低下の要因となる。
【0030】
その他の結着性樹脂としては、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンを使用することができる。混合するEAAエマルジョンの添加量は、複合磁性粉末に対して0.5〜2.0wt%が適量である。この場合、乾燥温度80〜150℃で2時間乾燥すると良い。EAAエマルジョンの代わりに、濃度12%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を用いても良い。濃度12%のPVA水溶液の添加量は、複合磁性粉末に対して0.5〜3.0wt%が適量である。
【0031】
(ガラス)
ガラスは、粉末として複合磁性粉末に混合されても良い。ガラスとしては、ビスマス系またはリン酸系の低融点ガラスを使用する。また、転移点および軟化点が、第1および第2の合金粉末の結晶化開始温度よりも低いガラスを使用することが好ましい。軟化点が結晶化の開始温度よりも低いガラスを使用することで、ガラスが軟化する温度まで加熱した場合でも、合金粉末の結晶化による磁気特性の低減を防止することができる。
【0032】
ガラスとして、転移点及び軟化点が合金粉末の結晶化開始温度よりも、約50℃程度低い流動性のあるものを使用する。転移点および軟化点と、熱処理温度との差が大きいことにより、ガラスの粘度が低くなり流動性を増すことから、合金粉末間において流動しやすくなる。よって、機械的強度を向上させることができる。
【0033】
代表的なガラスとしては、ビスマス系のガラス(Bi・B)があげられる。ガラスの混合量は、所望の透磁率にあわせて設定する。ただし、複合磁性粉末に対するガラスの混合量が少ないと、合金粉末間のコーティングが充分でなくなるため、渦電流損失が大きくなってしまう。ガラスの混合量が多いと、合金粉末の透磁率低下につながるとともに、合金粉末同士が凝縮してしまい、充分な磁気特性が確保できない。ガラスの混合量は、例えば、合金粉末の0.75wt%〜1.5wt%程度の範囲から選択すれば良い。
【0034】
ガラス粉末の平均粒径は0.5μ〜3μmが好ましい。ガラス粉末の平均粒径が0.5μm未満になると、合金粉末に対して、ガラス粉末が小さくなりすぎる。このため、合金粉末同士の接触を十分に防止することが困難になり、渦電流の発生を十分に防止、抑制することが困難となる。また、ガラス粉末の平均粒径が3μmより大きくなると、合金粉末に対して、ガラス粉末が大きくなりすぎるため、合金粉末同士に隙間ができて透磁率と密度が低下する。また、合金粉末同士の接触を十分に防止することが困難になり、渦電流の発生を十分に防止、抑制することが困難になる。
【0035】
(潤滑性樹脂)
複合磁性粉末に混合される潤滑性樹脂としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩、ステアリン酸石鹸、エチレンビスステアラマイドなどのワックスなどを使用する。具体的には、エチレンビスステアラマイド、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミなどである。これらを混合することにより、粉末同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上させ成形密度を高くすることができる。
【0036】
潤滑性樹脂の添加により、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。この場合の潤滑性樹脂の添加量は、複合磁性粉末の0.1〜2.0wt%である。これよりも少なければ、十分な効果を得ることができず、これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0037】
[1.2 作用効果]
上記のような構成を有する圧粉磁心の作用効果は以下のとおりである。
(1)第1の合金粉末に、少なくとも1つの主な面を有する合金粉末を用いることで、隣り合う粉末が面接触となる。面接触の場合には、点接触よりも抵抗を少なくすることができるので、直流重畳特性を向上させることができる。
【0038】
(2)第1の合金粉末の主な面の端部が丸みを帯びた形状をしているため、絶縁樹脂の皮膜が破られることが無く絶縁性能を向上させることができる。エッジがある場合には、隣合う粉末の間に生じる空間が小さくなるが、端部が丸みを帯びた形状をしている場合には、その分だけ空間を広げることができる。従って、その空間部に第2の合金粉末が入り込むことによって、圧粉磁心の密度を向上させることができる。
【0039】
(3)第2の合金粉末として、第1の合金粉末よりも平均粒径の小さい粉末を用いているため、上記隙間に第2の合金粉末が入りこみ、圧粉磁心の密度を向上させることができる。従って、成形体強度をさらに高めることができる。これにより、圧粉磁心の密度を5.70g/cm以上にすることで、透磁率を高めることができる。
【0040】
(4)結着性樹脂は、高温で熱処理を行っても絶縁性が劣化せず、酸化などによるヒステリシス損失が増加しない。また、メチルフェニル系シリコーン粘着剤を用いた場合には、粉末同士の粘着力を増すことができるため、成形体強度をさらに高めることができる。また、圧粉磁心の熱処理を大気中で行うことで、緻密で強固なシリカ膜となる。大気中で熱処理を行うことで、熱分解してメチル基が炭素として残ることがないので、機械的強度が改善出来る。
【0041】
(5)ガラスを添加することで、成形体の成形性を十分に優れたものとしつつ、成形密度を高くすることができる。
【0042】
(6)潤滑性樹脂としてステアリン酸の金属塩を使用する場合は、触媒効果により金属の種類によってメチル基の熱分解速度(温度)を速めることが可能となるので、より低温からでも、丈夫なシリカ層が形成される。
【0043】
[2. 圧粉磁心の製造方法]
上記のような本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。
(1)平均粒径が異なる2種類以上の合金粉末を混合する工程。
(2)混合した複合磁性粉末に対して、結着性樹脂を添加する工程。
(3)結着性樹脂添加工程で得られた混合物を、加圧して成形体を作製する成形工程。
(4)成形工程を経た成形体を熱処理する工程。
【0044】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(1)混合工程
混合工程では、第1の合金粉末と第2の合金粉末を混合して得られる複合磁性粉末のうち、例えば75wt%が平均粒径66μm、円形度0.972の第1の合金粉末とされ、残りの25wt%が平均粒径13μm、円形度0.965の第2の合金粉末とされて、両者が混合される。さらに、複合磁性粉末に対して0.75wt%〜1.5wt%のガラス粉末と、複合磁性粉末に対して0.3wt%の潤滑性樹脂(以下、潤滑性樹脂(前)という)が混合されても良い。前記の混合物は、例えば混合機(V型混合機)を使用して2時間混合すれば良い。
【0045】
(2)結着性樹脂の添加工程
複合磁性粉末と、例えばガラス粉末と潤滑性樹脂が混合された混合物に対して、複合磁性粉末に対して2wt%の結着性樹脂を添加して、さらに混合して150℃で2時間乾燥させる。その後、300μmの目開きの篩に通す。なお、結着性樹脂の添加および混合は、前記(1)の混合工程で行なっても良い。また、結着性樹脂の添加工程後においても、潤滑性樹脂(以下、潤滑性樹脂(後)という)を混合しても良い。潤滑性樹脂(後)の添加量は、潤滑性樹脂(前)を混合している場合には、その混合量との合計が、複合磁性粉末に対して2.0wt%を超えないようにする。
【0046】
結着性樹脂の添加工程において、シランカップリング剤を加えることもできる。カップリング剤を添加した場合は、結着性樹脂の分量を少なくすることができる。相性の良いシランカップリング剤としては、アミノ系のシランカップリング剤を使用することができ、特にγ―アミノプロピルトリエトキシシランを用いると良い。結着性樹脂に対するシランカップリング剤の添加量は、0.25%以上から1.0%以下が好ましい。結着性樹脂にこの範囲のシランカップリング剤を添加することで、成形された圧粉磁心の密度の標準偏差、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0047】
(3)成形工程
成形工程では、結着性樹脂を添加した混合物を金型内に充填して、加圧成形する。その場合、金型温度は常温が好ましいが、25〜100℃の範囲としても良い。この温度範囲で成形することで、粉末同士の接する面積を増やすことができ、成形体強度を向上させることができる。また、成形圧力は、例えば、1300〜1700MPaとする。
【0048】
(4)熱処理工程
成形体に対する熱処理は、第1および第2の軟磁性粉末の結晶化温度より低い温度で行われる。また、熱処理は大気雰囲気などの非還元雰囲気で行う。非還元雰囲気としては、大気中以外にも、100%窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中でも良い。非還元雰囲気での熱処理により、ガラス中の酸素を失うこと無く、本来のガラスの性質を保ち、合金粉末の周囲をコーティングする機能を果たす。
【0049】
例えば、成形体を450℃以下で30分間熱処理を行うことで圧粉磁心が作成される。450℃以下で熱処理を行うのは、複合磁性粉末の結晶化温度以下で、ある程度の圧環強度を維持するためである。一方、温度を上げ過ぎると絶縁性能の劣化から磁気特性が劣化するため、特に渦電流損失が大きく増加してしまうことにより、鉄損が増加するのを抑制するためである。
【0050】
熱処理温度は、420〜480℃が好ましく、加熱時間は30分〜4時間程度が好適である。このような温度と加熱時間を保持する理由は、複合磁性粉末の結晶化温度以下かつ、ガラスを混合した場合にはガラスの軟化点以上の状態で、圧粉磁心を環状に成形した場合に必要とする圧環強度を確保するためである。一方、熱処理温度を上げ過ぎると、複合磁性粉末の結晶化が進み、透磁率が低下、鉄損が増加する。そのため、420〜480℃を保持することは、鉄損の増加を抑制するために効果的である。
【実施例】
【0051】
本発明の実施例を以下に説明する。まず、実施例の特性評価に用いた項目について、その測定項目と測定手法を以下に説明する。
【0052】
(1)測定項目
(a)円環強度(単位MPa):JIS 2507に基づき測定した。
(b)直流重畳特性:インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社:4294A)を用いて測定した。各圧粉磁心に1次巻線(20ターン)を施し、100kHz、0.5Vでのインダクタンスを測定、透磁率を計算により求めた。
(c)コアロス:BHアナライザ(岩通計測株式会社:SY8232)を用いて測定した。圧粉磁心に1次及び2次巻線を施し、100kHz、最大磁束密度Bm=50mTでの鉄損を測定した。
(d)円形度および粒度:粒子画像分析装置(Malvern社:morphologi G3s)を用いて測定した。円形度および粒度は、それぞれ粒子5000個について測定した。
【0053】
(2)サンプルの作成方法
特性比較で使用する試料は、グループA〜Eに別けて作成した。なお、各グループにおける作成方法は以下の通りである。すなわち、混合工程後に結着性樹脂の添加工程を経て、150℃で2時間乾燥し、篩通し(目開き300μm)を行った。その後、さらに潤滑性樹脂(後)を混合し、室温にて1700MPaで加圧成形を行い、外径16mm、内径8mm、高さ5mmの成形体とした。表1に、混合された材料の構成を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
各グループの材料構成の特徴を以下にまとめる。各グループにおいて変化を与えた項目についてはアスタリスクを付して表示する。
(a)グループA
グループAは、実施例1および2、比較例1〜3で構成されており、第1の合金粉末と第2の合金粉末の混合比率を変化させたグループである。第1の合金粉末としては、図1(a)に示すような主な面を有するものを使用する。
*第1の合金粉末:平均粒径66μm、円形度0.972、含有量0〜100wt%
*第2の合金粉末:平均粒径13μm、円形度0.965、含有量0〜100wt%
・潤滑性樹脂(前):ステアリン酸リチウム、含有量0.3wt%
・結着性樹脂:メチルフェニル系シリコーン粘着剤、含有量2.0wt%
・潤滑性樹脂(後):ステアリン酸リチウム、含有量0.3wt%
【0056】
(b)グループB
グループBは、実施例3および比較例4で構成されており、第2の合金粉末を変化させたグループである。潤滑性樹脂(前後)と結着性樹脂の構成は、グループAと同じである。第1の合金粉末としては、図1(a)に示すような主な面を有するものを使用する。
・第1の合金粉末:平均粒径66μm、円形度0.972、含有量50wt%
*第2の合金粉末:(実施例3)平均粒径8μm、円形度0.962、含有量50wt%
(比較例4)平均粒径33μm、円形度0.98、含有量50wt%
【0057】
(c)グループC
グループCは、実施例4および5で構成されており、ガラスを混合し、その混合比率を変化させたグループである。その他の構成は、グループAの実施例1と同じである。第1の合金粉末としては、図1(a)に示すような主な面を有するものを使用する。
*ガラス:リン酸系の低融点ガラス(平均粒径D50=1.1μm、軟化点=410℃)
含有量(実施例4)0.75wt% (実施例5)1.5wt%
【0058】
(d)グループD
グループDは、実施例6から構成されており、潤滑性樹脂(前)が混合されておらず、潤滑性樹脂(後)が0.6wt%添加されている点で実施例5と異なる。第1の合金粉末としては、図1(a)に示すような主な面を有するものを使用する。
【0059】
(e)グループE
グループEは、比較例5から構成されており、第1の合金粉末として、図1(b)に示すような主な面を有していない球形に近いものを使用した。第1、第2の合金粉末の平均粒径も、他のグループに比較して小さい。潤滑性樹脂(前後)と結着性樹脂の構成は、グループAと同じである。
・第1の合金粉末:平均粒径33μm、円形度0.980、含有量75wt%
・第2の合金粉末:平均粒径8μm、円形度0.962、含有量25wt%
・ガラス:リン酸系の低融点ガラス(平均粒径D50=1.1μm、軟化点=410℃)、含有量3.5wt%
【0060】
(3)測定結果
表2は、前記のような各比較例及び実施例の特性をまとめた表である。また、各比較例および実施例の直流重畳特性を示すグラフを図3に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
(a)グループAについての考察
グループAは、第1と第2の合金粉末の混合比率を変化させたグループである。まず、第1の合金粉末のみの比較例1は、密度、透磁率、直流重畳特性が低く、コアロスが高い。また、第2の合金粉末のみの比較例3は、コアロスは低いが、その他の特性項目も低い。
【0063】
一方、第1および第2の合金粉末を75:25から50:50の間で混合した実施例1および2は密度が向上し、透磁率が増加している。また直流重畳特性も比較例と比べて良い。しかし、第1および第2の合金粉末を25:75で混合した比較例2は、密度、透磁率、直流重畳特性が悪く、コアロスが高い。
【0064】
以上より、第1の粉末と、第1の粉末よりも平均粒径が小さい第2の粉末を混合することで、圧粉磁心の密度が向上することが分かる。また、本実施形態では第1の合金粉末の主な面の端部が丸みを帯びた形状をしているため、粉末間の空間を広げることができ、更に密度が向上される。さらに混合比率を75:25から50:50とすることで、圧粉磁心の特性が上記のように最良となる。
【0065】
(b)グループBについての考察
グループBは、第2の合金粉末を変化させたグループである。粒度が大きい第2の粉末を混合した比較例4よりも、粒度が小さい第2の粉末を混合した実施例3の方が密度が向上している。よって、実施例3の透磁率が増加しており、直流重畳特性も比較例4と比べて良い。
【0066】
グループAの結果も鑑みると、第2の粉末の構成条件は、第1の粉末よりも平均粒径が小さく、かつ、その平均粒径が5μ〜30μmの範囲のもの、好ましくは5μ〜20μmの範囲のもの、更に好ましくは8μ〜15μmの範囲のものを用いることがで、圧粉磁心の密度が向上することが分かる。
【0067】
(c)グループCについての考察
グループCは、ガラスを混合し、その混合比率を変化させたグループである。ガラスが混合されていない実施例1と比べると、密度が向上し、コアロスが低減していることが分かる。これは、渦電流損失が低減していることによるものと考えられる。
【0068】
(d)グループDについての考察
グループDは、ガラスを混合した場合において、潤滑性樹脂(前)を混合しなかったグループである。この実施例6を、潤滑性樹脂(前)を混合した実施例5と比較すると、密度の低下がみられる。しかし、ガラスを混合したことによる効果を得ることはできている。この結果を鑑みると、潤滑性樹脂は2回に分けて混合することが、よりガラス混合の効果を得ることができるため好適である。また、図3からも明らかな通り、2回に分けることで直流重畳特性も向上する。
【0069】
(e)グループEについての考察
粒径の異なる2つの合金粉末を混合しているグルーブEの比較例5は、一見すると、密度、透磁率共に高く、コアロスも小さい。しかし、図3から明らかな通り、直流重畳特性が悪い。その理由は、図1(b)に示すように、合金粉末が球形に近く、主な面を有しないために、合金粉末同士が点状に接触することから、接触部分での電気的な特性が図1(a)の本件発明の合金粉末と異なるからと推察される。
図3
図1
図2