(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザー光に対して低損失性の低損失弾性絶縁部材から構成されるシート状部材と、当該シート状部材の平面と略平行を成すと共に略一方向に揃えて前記シート状部材内に配置された複数の金属線とを含むコアシートを形成するコアシート形成工程と、
一のコアシートに含まれる金属線の向きと、他のコアシートに含まれる金属線の向きとを略一致させた状態で、前記レーザー光に対して高損失性の高損失絶縁部材から構成される高損失層が、前記一のコアシートと、前記他のコアシートとの間に配置されるように、2枚以上のコアシートを積層するコアシート積層工程と、
前記コアシート積層工程を経て得られた積層体を、前記金属線の長さ方向と略直交する方向から切断する積層体切断工程と、
前記積層体切断工程を経ることにより作製され、前記コアシートに対応し且つ前記金属線が厚み方向に略平行に配置されたコア部分と、前記高損失層に対応する高損失部分とを含むレーザーエッチング用シートの少なくともいずれか一方の平面の略全面に対して、前記レーザー光を照射して、前記高損失部分を選択的にエッチングするレーザーエッチング工程と、
を少なくとも経て、異方導電性部材を製造することを特徴とする異方導電性部材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
回路基板、半導体装置等の各種のデバイスの検査を目的として、デバイスと検査装置とを電気的に接続するために、弾性を有する絶縁性部材からなるシートの厚み方向に複数の金属線が配置された異方導電性部材が用いられている。そして、これらの異方導電性部材の中でも、種々の目的から、シートの表面に意図的に凹凸を設けた異方導電性部材も提案されている(特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1に記載の異方導電性部材では、小さな押圧力で接続するために、接続時に異方導電性部材が両面から押圧された際に、異方導電性部材を構成する弾性材料の逃げ場を確保すべく、シートの表面に溝が設けられている。そして、この異方導電性部材は、以下の手順で作製される。まず、金属板上に金属線を一定ピッチで立設する。続いて、この金属線の周囲を、レーザー光に対して低損失の弾性絶縁材により充填した後、レーザー光に対して高損失の弾性絶縁材により充填する。この際、金属線の先端が露出するように充填を行う。次に、金属線の先端を囲むように、高損失の弾性絶縁材からなる層の一部をレーザー照射によって選択的にエッチングして、溝を形成する。そして、最後に、金属板をウエットエッチングにより除去する。
【0004】
また、特許文献2に記載の異方導電性部材は、凹部の中に設けられた電極に対しても安定的な電気的接続を行えることを目的としている。この異方導電性シートは、表面から突出した相対的に高さの低い金属線と表面から突出した相対的に高さの高い金属線とを有しており、相対的に高さの高い金属線が電極と対応するように配置された構造を有する。また、相対的に高さの高い金属線が配置された部分は、異方導電性シートの表面も相対的に高さの低い金属線が配置された部分に対して凸部を形成している。このため、圧縮接続を行う際に、小さな圧縮荷重でも所定の圧縮量が得られ、さらに、小さな圧縮量にかかわらず導通抵抗を安定化できる。
【0005】
なお、この異方導電性シートは、(1)絶縁性シートの表面と絶縁性シートの厚み方向に配置された金属線の端面とが略面一を成すシートを作製する工程と、(2)このシートの少なくとも片面に炭酸ガスレーザーを照射して絶縁性シートを構成する弾性材料のみを選択的にエッチングする工程と、(3)炭酸ガスレーザーを照射した面の所定の領域に対してYAGレーザを照射して、当該領域内に存在する金属線および弾性材料をエッチングする工程と、を順次実施することにより作製される。
【0006】
しかし、特許文献2に記載の異方導電性部材の製造で使用するYAGレーザーの照射では金属線の融解速度が遅いため、結果として生産性も低い。それゆえ、特許文献3に記載の技術では、このような生産性の低さを改善すべく、YAGレーザーの代わりに可視光領域の波長を有するレーザーを照射している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、(1)最終工程では、金属線を立設するために必要な金属板をウエットエッチングにより除去する必要がある。このため、このウエットエッチング時に、弾性絶縁材にエッチング液が浸透し、弾性絶縁材を劣化させる可能性がある。
【0009】
(2)これに加えて、製造過程において得られる中間製品の層構造が、その厚み方向に対して非対称的な構造、すなわち、金属板、低損失の弾性絶縁材からなる層、および、高損失の弾性絶縁材からなる層、がこの順に積層された構造を有する。このため、中間製品を厚み方向に沿って切断し複数枚のシートに等分するプロセスを経て最終製品を得ることができず、量産性の点でも問題がある。
【0010】
(3)また、製造に際して金属板を使用するため、この金属板のサイズに応じた型枠を準備して、この型枠内に、弾性絶縁材の原料を流し込む必要がある。それゆえ、最終製品の外形寸法が変更される毎に、成形用の型枠が必要となる。このため、外形寸法の異なる複数種類の最終製品に対応するためには、これに応じた複数種類の型枠が必要となる。
【0011】
(4)さらに、溝部の形成に際しては所定の位置にレーザー光を照射する必要がある。このため、最終製品の溝の形成位置・寸法が変更される毎に、レーザー加工の際の位置決め治具・レーザ走査制御用のプログラムが必要となる。よって、多品種生産に対応しようとした場合、レーザー加工プロセスが煩雑になる。
【0012】
これに対して、特許文献2、3に記載の技術では、金属板を用いておらず、また、製造過程において得られるブロック状の中間製品の層構造が、その厚み方向に対して対称的な構造を有する。このため、上述した(1)〜(3)に示す問題は容易に回避できる。しかし、波長の異なる2種類のレーザーを用いてレーザー加工を2回行う必要がある上に、2回のレーザー加工のうち、1回は、所定の領域に対してレーザー光を選択的に照射する必要がある。このため、最終製品の相対的に高さの低い金属線が形成される領域が変更される毎に、レーザー加工の際の位置決め治具・レーザ走査制御用のプログラムが必要となる。したがって、多品種生産に対応しようとした場合、特許文献2に記載の技術と同様にレーザー加工プロセスが煩雑になる。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、多品種生産に対応する場合でもレーザー加工プロセスが煩雑化するのを抑制できる異方導電性部材の製造方
法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明の異方導電性部材の製造方法は、レーザー光に対して低損失性の低損失弾性絶縁部材から構成されるシート状部材と、当該シート状部材の平面と略平行を成すと共に略一方向に揃えてシート状部材内に配置された複数の金属線とを含むコアシートを形成するコアシート形成工程と、一のコアシートに含まれる金属線の向きと、他のコアシートに含まれる金属線の向きとを略一致させた状態で、レーザー光に対して高損失性の高損失絶縁部材から構成される高損失層が、一のコアシートと、他のコアシートとの間に配置されるように、2枚以上のコアシートを積層するコアシート積層工程と、コアシート積層工程を経て得られた積層体を、金属線の長さ方向と略直交する方向から切断する積層体切断工程と、積層体切断工程を経ることにより作製され、コアシートに対応し且つ金属線が厚み方向に略平行に配置されたコア部分と、高損失層に対応する高損失部分とを含むレーザーエッチング用シートの少なくともいずれか一方の平面の略全面に対して、レーザー光を照射して、高損失部分を選択的にエッチングするレーザーエッチング工程と、を少なくとも経て、異方導電性部材を製造することを特徴とする。
【0015】
本発明の異方導電性部材の製造方法の一実施形態は、コアシート積層工程では、2枚のコアシートの間に接着材層のみが配置され、接着材層が高損失層として機能することが好ましい。
【0016】
本発明の異方導電性部材の製造方法の他の実施形態は、コアシート積層工程では、2枚のコアシートの間に、(1)一方のコアシートと他方のコアシートに各々接して配置される2層の接着材層と、(2)2層の接着材層の間に位置する弾性層と、が配置され、弾性層が高損失層として機能することが好ましい。
【0017】
本発明の異方導電性部材の製造方法の他の実施形態は、2層の接着材層も高損失層として機能することが好ましい。
【0018】
本発明の異方導電性部材の製造方法の他の実施形態は、高損失層が、吸光剤を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の異方導電性部材の製造方法の他の実施形態は、吸光剤が、カーボン系着色剤であることが好ましい。
【0020】
本発明の異方導電性部材の製造方法の他の実施形態は、レーザー光がYAGレーザー光であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、多品種生産に対応する場合でもレーザー加工プロセスが煩雑化するのを抑制できる異方導電性部材の製造方法
を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】コアシート形成工程の一例を示す斜視図である。ここで、
図1(A)は、第一の未硬化層を示す図であり、
図1(B)は、第一の未硬化層の表面に複数本の金属線を配置した状態を示す図であり、
図1(C)は、第一の未硬化層の表面に配置された複数本の金属線を覆うように第二の未硬化層を形成して得られた未硬化シートを示す図であり、
図1(D)は、
図1(C)に示す未硬化シートを硬化させて得られたコアシートを示す図である。また、
図1(E)は、コアシートの他の例を示す図である。なお、図中に示すXYZ方向は互いに直交する関係を有し、以下に説明する図においても同様である。
【
図2】コアシート積層工程を経て得られた積層体の断面構造の一例を示す模式断面図である。
【
図3】コアシート積層工程を経て得られた積層体の断面構造の他の例を示す模式断面図である。
【
図5】積層体切断工程を経て得られたレーザーエッチング用シートの断面構造の一例を示す模式断面図である。
【
図6】積層体切断工程の他の例を示す斜視図である。
【
図7】積層体切断工程を経て得られたレーザーエッチング用シートの断面構造の他の例を示す模式断面図である。
【
図8】本実施形態の異方導電性部材の製造方法により製造された異方導電性部材の一例を示す模式断面図である。ここで、
図8(A)は、レーザーエッチング用シートの片面のみをレーザーエッチングすることにより作製された異方導電性部材の断面構造について示す図であり、
図8(B)は、レーザーエッチング用シートの両面をレーザーエッチングすることにより作製された異方導電性部材の断面構造について示す図である。
【
図9】本実施形態の異方導電性部材の製造方法により製造された異方導電性部材の一例を示す模式断面図である。ここで、
図9(A)は、レーザーエッチング用シートの片面のみをレーザーエッチングすることにより作製された異方導電性部材の断面構造について示す図であり、
図9(B)は、レーザーエッチング用シートの両面をレーザーエッチングすることにより作製された異方導電性部材の断面構造について示す図である。
【
図10】本実施形態の異方導電性部材の製造方法により製造された異方導電性部材を用いたデバイス間の電気的接続の一態様(ピンポイント接続)を示す模式断面図である。
【
図11】本実施形態の異方導電性部材の製造方法により製造された異方導電性部材を用いたデバイス間の電気的接続の他の態様(ランダム接続)を示す模式断面図である。
【
図12】本実施形態の異方導電性部材の製造方法により製造された異方導電性部材を用いたデバイスの検査方法について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<異方導電性部材の製造方法>
本実施形態の異方導電性部材の製造方法では、コアシート形成工程、コアシート積層工程、積層体切断工程およびレーザーエッチング工程がこの順に実施される。以下、各工程を図面に基づき説明する。
【0027】
(コアシート形成工程)
まず、コアシート形成工程では、レーザーエッチング工程で使用されるレーザー光に対して低損失性の低損失弾性絶縁部材から構成されるシート状部材と、当該シート状部材の平面と略平行を成すと共に略一方向に揃えてシート状部材内に配置された複数の金属線とを含むコアシートを形成する。このコアシートは、たとえば、
図1に例示するプロセスを用いて作製することができる。
【0028】
まず、平坦な基材(
図1中、不図示)の上に、未硬化状態の弾性絶縁材料を層状に配置し、第一の未硬化層10Aを形成する(
図1(A))。続いて、この未硬化層10Aの表面10Sに、複数本の金属線20を略一方向(図中、矢印Y方向)に揃えて配置する(
図1(B))。この場合、互に隣り合う2本の金属線20間の距離は、
図1(B)に示すように、通常、一定の距離に設定されることが好ましい。その後、第一の未硬化層10Aの表面10Sに配置された金属線20を覆うように、未硬化状態の弾性絶縁材料を層状に配置し、第二の未硬化層10Bを形成する(
図1(C))。そして、第一の未硬化層10Aと第二の未硬化層10Bとの間に金属線20が配置された未硬化シート10を硬化させることにより、低損失弾性絶縁部材から構成されるシート状部材30と、当該シート状部材30の平面30S(図中、矢印Z方向で示されるシート状部材30の厚み方向あるいは未硬化層10A、10Bの積層方向と直交する面)と略平行を成すと共に略一方向(図中、矢印Y方向)に揃えてシート状部材30内に配置された複数の金属線20とを含むコアシート40A(40)を得る(
図1(D))。
【0029】
ここで、
図1(D)に示すコアシート40Aでは、コアシート40Aの端面30E(金属線20の軸方向と直交する端面)の幅方向(図中、矢印X方向)に沿って、金属線20は一列を成すように配置されている。しかし、金属線20は、端面30Eの幅方向に沿って、複数列を成すようにコアシート40内に配置されていてもよい。たとえば、
図1(B)に示すプロセスと
図1(C)に示すプロセスとを交互に繰り返すことにより
図1(E)に例示するように、端面30Eの幅方向に沿って、金属線20が2列を成すように配置されたコアシート40B(40)を作製することもできる。しかしながら、通常は、
図1(D)に示すコアシート40Aを用いることが好ましい。以下の説明では、
図1(D)に示すコアシート40Aを用いることを前提として説明する。
【0030】
(コアシート積層工程)
コアシート積層工程では、一のコアシート40に含まれる金属線20の向きと、他のコアシート40に含まれる金属線20の向きとを略一致させた状態で、レーザーエッチング工程で使用されるレーザー光に対して高損失性の高損失絶縁部材から構成される高損失層が、一のコアシート40と、他のコアシート40との間に配置されるように、2枚以上のコアシート40を積層する。
【0031】
図2および
図3は、コアシート積層工程の一例を示す模式断面図であり、具体的には、コアシート積層工程を実施することにより得られた積層体中において、この積層体の厚み方向に対して互いに隣り合う1対のコアシート40間における層構造の一例を示す図である。
【0032】
図2に示す積層体50A(50)では、コアシート40A、接着材層60A、コアシート40Aの順に積層された層構造を有しており、
図3に示す積層体50B(50)では、コアシート40A、接着材層60B、弾性層70、接着材層60B、コアシート40Aの順に積層された層構造を有している。
図2および
図3に示すように、一のコアシート40A1に含まれる金属線20と他のコアシート40A2に含まれる金属線20とは、図中において、紙面に対して垂直を成す方向を向くように配置されている。
【0033】
図2に示す積層体50Aでは、接着材層60Aは、高損失層80としての機能も有する高損失接着材層である。また、
図3に示す積層体50Bでは、弾性層70は、高損失層80としての機能も有する高損失弾性層である。また、弾性層70は、その厚みを適宜選択することにより、互に隣り合う2つのコアシート40A間の距離を調整するダミー層としての機能も発揮することができる。それゆえ、このダミー層(弾性層70)の厚みを調整することで、積層体50Aを用いても作製することが困難なピッチを持つ異方導電性部材を容易に作製することができる。なお、積層体50Bにおいて、接着材層60Bがさらに高損失層80の機能を有する高損失接着材層であってもよい。
【0034】
図2および
図3に示す積層体50を作製する場合、コアシート40Aの片面上に各層を、塗布形成するなどにより積層し、その後、再びコアシート40Aを積層する。そして、コアシート積層工程では、このプロセスを所望の回数だけ繰り返す。その後、コアシート40A間に形成された各層について、必要に応じて真空脱泡処理を行い、さらに加熱処理等することで硬化させる。これにより、厚み方向において互いに隣接する1対のコアシート40A間に1層以上の高損失層80が配置された積層体50を得ることができる。
【0035】
なお、弾性層70の厚みは、異方導電性部材の接続相手であるコネクタ等の接続部の構造に応じて適宜選択される。
【0036】
(積層体切断工程)
積層体切断工程では、積層体50を、金属線20の長さ方向と略直交する方向から切断する。これにより、コアシート40Aに対応し、且つ、金属線20が厚み方向に略平行に配置されたコア部分と、高損失層80に対応する高損失部分とを含むレーザーエッチング用シートを得る。切断に際しては、スライサー等の公知の切断手段を適宜利用できる。
【0037】
たとえば、
図2に示す積層体50Aでは、
図4中の点線Cで示すラインに沿って切断が行われる。これにより、
図5に示すレーザーエッチング用シート100A(100)を得る。ここで、
図5に示すレーザーエッチング用シート100Aでは、コアシート40Aに対応し且つ金属線20がレーザーエッチング用シート100Aの厚み方向に略平行に配置されたコア部分110と、レーザーエッチング用シート100Aの幅方向において互いに隣り合う2つのコア部分110の間に位置し、接着材層60A(高損失層80)に対応する高損失部分120A(120)と、を有している。
【0038】
また、
図3に示す積層体50Bでは、
図6中の点線Cで示すラインに沿って切断が行われる。これにより、
図7に示すレーザーエッチング用シート100B(100)を得る。ここで、
図7に示すレーザーエッチング用シート100Bでは、コアシート40Aに対応し且つ金属線20がレーザーエッチング用シート100Bの厚み方向に略平行に配置されたコア部分110と、レーザーエッチング用シート100Bの幅方向において互いに隣り合う2つのコア部分110の間に、一方のコア部分110側から他方のコア部分110側へと次に示す順で配置された、接着材部分130と、高損失部分120B(120)と、接着材部分130と、を有している。ここで、接着材部分130は、積層体50Bにおける接着材層60Bに対応する部分であり、高損失部分120Bは、積層体50Bにおける弾性層70(高損失層80)に対応する部分である。
【0039】
(レーザーエッチング工程)
レーザーエッチング工程では、
図5および
図7に例示するレーザーエッチング用シート100の少なくともいずれか一方の平面の略全面に対して、レーザー光を照射して、高損失部分120を選択的にエッチングする。レーザー照射に際しては、たとえば、
図5および
図7に示すように、図中、レーザーエッチング用シート100の上方側からのみレーザー光L1を照射してもよく、レーザーエッチング用シート100の上方側からレーザー光L1を照射すると共に、下方側からもレーザー光L2を照射してもよい。なお、レーザーとしては、高損失部分120を選択的にエッチングできるものであれば特に限定されないが、たとえば、YAGレーザーなどの赤外線レーザーを使用することが好ましい。なお、レーザー照射する場合、レーザー光L1の照射条件とレーザー光L2の照射条件とは、波長については同一とされるが、波長以外のその他の照射条件(照射時間、出力等)は同一としてもよく、異なるものとしてもよい。
【0040】
このレーザーエッチング工程では、レーザーエッチング用シート100の表面の一部の領域を選択的にレーザー照射するのではなく、レーザーエッチング用シート100の表面の略全面をレーザー照射するため、作製する異方導電性部材の寸法形状等が変更されても、その都度に、使用する位置決め治具の交換や、レーザ走査位置を設定するプログラミングの変更等のレーザー加工条件を大幅に変更する必要がない。このため、多品種生産に対応する場合でもレーザー加工プロセスが煩雑化するのを抑制できる。その結果、レーザー加工条件の大幅変更に伴う生産ラインのダウンタイムを抑制でき、結果的に、生産性を向上させることができる。
【0041】
これに加えて、本実施形態の異方導電性部材の製造方法では、レーザー加工は、基本的に1種類の波長のレーザーを用いて、1回の処理を行うだけで十分である。従って、2種類の異なる波長のレーザーを用いて、2回の処理を行う必要がある特許文献2,3に記載の方法と比べて、本実施形態の異方導電性部材の製造方法では、レーザー加工に要するトータルの時間やレーザー加工設備のコストを大幅に削減することもできる。
【0042】
以上に説明した本実施形態の異方導電性部材の製造方法では、必要に応じて上述した4つの工程に加えて、さらにその他の工程を適宜実施してもよい。
【0043】
なお、シート状部材30あるいはコア部分110を構成する低損失弾性絶縁部材は、レーザーエッチング工程で使用されるレーザー光L1、L2に対する耐エッチング性が、高損失層80あるいは高損失部分120よりも高い部材である。この低損失弾性絶縁部材は、エラストマー性の絶縁性樹脂や絶縁性ゴム等の弾性材料を主材料として構成される。ここで、エラストマー性の絶縁性樹脂としては、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等のエラストマー性の熱硬化性樹脂、あるいは、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、軟質塩化ビニル樹脂等のエラストマー性の熱可塑性樹脂を例示でき、絶縁性ゴムとしては、シリコーンゴム等の各種の合成ゴムを例示できる。
【0044】
また、高損失層80あるいは高損失部分120は、レーザーエッチング工程で使用されるレーザー光に対する耐エッチング性が低損失弾性絶縁部材よりも低い材料から構成される。具体的には、接着材層60Aは、エポキシ系接着材等の各種の接着材を主材料として構成され、弾性層70は、上述したものと同様のエラストマー性の絶縁性樹脂や絶縁性ゴム等の弾性材料を主材料として構成される。
【0045】
コアシート40A等の低損失性の部材からなる層(低損失層)と高損失層80(あるいは高損失部分120)との、レーザー光に対する耐エッチング性の差異は、これらの部材・層を構成する主材料の種類を互いに異なるものとすることで作り出してもよいが、通常は、高損失層80(あるいは高損失部分120)を構成する主材料に対して、レーザー光を効率的に吸収する吸光剤をさらに添加することで作り出すことが好ましい。後者の場合、低損失性の弾性絶縁部材に吸収剤を分散混合させた材料や、低損失性の接着材に吸収剤を分散混合させた材料を高損失絶縁部材として用いることができる。
【0046】
吸光剤としては、たとえば、カーボンブラックなどのカーボン系着色剤などを挙げることができる。カーボン系着色剤は、YAGレーザー(波長:1064nm)などの赤外域に発光波長を持つレーザー光を効率的に吸収することができるため、レーザーエッチング工程において、赤外域に発光波長を持つレーザー光を使用する場合に好適な吸光剤である。なお、吸光剤としてはカーボン系着色剤などの黒色顔料以外に、他色の顔料も適宜利用できる。また、顔料は2種類以上を併用してもよいが、この場合でも良好なレーザー加工性を確保する観点からはカーボン系着色剤と他種類の顔料とを組み合わせることが好適である。高損失層80(あるいは高損失部分120)に含有される吸光剤の含有量は、レーザー照射条件や要求されるエッチング深さなどに応じて適宜選択されるが、レーザー加工性の確保あるいはレーザー加工された表面の凹凸(加工ムラ)の発生を防ぐ観点からは、0.1質量%以上が好ましい。また、含有量の上限値は、原料費を抑制する等の実用上の観点から10質量%以下が好ましい。
【0047】
金属線20としては、公知の導電性金属を用いて線状に形成された部材であれば特に限定されないが、たとえば、純金線、合金金線、金メッキ真鍮線等の金メッキ線、銅合金線、ニッケル−チタン合金等の形状記憶合金からなる金属線等を適宜利用することができる。
【0048】
<異方導電性部材>
本実施形態の異方導電性部材の製造方法により製造された異方導電性部材は、
図8および
図9に例示する断面構造を有する。すなわち、異方導電性部材200は、コア部分110と、高損失部分120とを少なくとも含む。そして、コア部分110内に配置された金属線20は、異方導電性部材200の厚み方向に略平行に配置されると共に、一方の端部が異方導電性部材200の一方の面202T側に露出し、他方の端部が異方導電性部材200の他方の面202B側に露出している。ここで、異方導電性部材200の平面方向において、互に隣り合う位置にある2つのコア部分110の間に高損失部分120が配置されている。そして、異方導電性部材200の少なくとも一方の面(面202Tまたは面202B)には凸部140が形成される。
【0049】
なお、
図8(A)は、
図5に示すレーザーエッチング用シート100Aを片面側からのみレーザー照射することにより作製された異方導電性部材200A(200)の断面構造を示す模式断面図であり、
図8(B)は、
図5に示すレーザーエッチング用シート100Aを両面側からレーザー照射することにより作製された異方導電性部材200B(200)の断面構造を示す模式断面図である。ここで、
図8に示す異方導電性部材200A、200Bでは、互に隣り合う2つのコア部分110の間に接着材層60A(高損失部分120A)のみが設けられている。また、凸部140A(140)は、レーザーエッチングされた高損失部分120Aに対してコア部分110が凸を成すよう突出した部分である。
【0050】
また、
図9(A)は、
図7に示すレーザーエッチング用シート100Bを片面側からのみレーザー照射することにより作製された異方導電性部材200C(200)の断面構造を示す模式断面図であり、
図9(B)は、
図7に示すレーザーエッチング用シート100Bを両面側からレーザー照射することにより作製された異方導電性部材200D(200)の断面構造を示す模式断面図である。ここで、
図9に示す異方導電性部材200C、200Dでは、互に隣り合う2つのコア部分110の間に、1つの高損失部分120Bと2つの低損失性の接着材部分130とが配置されており、一方のコア部分110側から他方のコア部分110側へと、低損失性の接着材層60Bから構成される接着材部分130、弾性層70(高損失層80)から構成される高損失部分120B、低損失性の接着材層60Bから構成される接着材部分130がこの順に配置されている。また、凸部140B(140)は、レーザーエッチングされた高損失部分120Bに対してコア部分110および接着材部分130が凸を成すよう突出した部分である。
【0051】
なお、特許文献2、3に記載の技術では、異方導電性部材の表面のうち、電気的接続に直接関与する部分は、レーザーエッチングに際して、炭酸ガスレーザにより金属線の周囲のマトリックス材料が積極的に除去される。このため、レーザーエッチングされた面に対して、金属線の先端部は大幅に突出し易い傾向にある。したがって、特許文献2、3に記載の方法により製造された異方導電性部材を用いて接続を行った場合、金属線の先端部に過度の荷重集中が生じ易く、結果的に、先端部が折れ曲がり易い。それゆえ、回路基板などの各種デバイスの検査等のように、同じ異方導電性部材を繰り返し使用する場合には、耐久性に欠ける。
【0052】
しかしながら、本実施形態の異方導電性部材の製造方法では、レーザー照射により深くエッチングされるのは高損失部分120のみであるため、金属線20を含むコア部分110は、全くエッチングされないか、エッチングされたとしても極めて僅かである。このため、レーザーエッチングされた面に対して、金属線20の先端部は面一を成すか、あるいは、若干突出する程度である。このため、異方導電性部材200を用いて接続を行った場合に、金属線20の先端部に過度の荷重集中が生じることにより、先端部が折れ曲がることも無い。したがって、異方導電性部材200を用いて繰り返し接続を実施しても、長期に渡って安定した電気的接続を容易に確保できる。
【0053】
これに加えて異方導電性部材200の少なくとも片面には、その頂面内に金属線20の先端部が露出した凸部140が設けられる。このため、デバイスの接続部に対して接続する場合、両面共に面一を成す異方導電性部材の片面全面を押し付けて接続する場合と比べて、異方導電性部材200全体に加える荷重(全荷重)をより低荷重としても安定した電気的接続が確保できる。この理由は、接続部に対する接触面積が凸部140の頂面のみに限定されるため、全荷重を小さくしても、単位面積当たりの荷重は低下しないあるいは高く維持できるためである。
【0054】
一方、特許文献2,3に記載の技術を用いて製造される異方導電性部材では、平面方向の全面に渡って金属線が配置される。そして、電気的接続に直接関与しない相対的に高さの低い金属線も存在するため、異方導電性部材の硬度を見かけ上、より大きくしてしまう。その結果、異方導電性部材全体としては圧縮変形し難くなるため、結果的に、より低い荷重で安定的な電気的接続を行うことが難しい。しかしながら、異方導電性部材200は、その製造に際して、金属線20を含むコアシート40Aのみを積層するのではなく、コアシート40Aと、金属線20を用いる必要の無いその他の層(接着材層60A、接着材層60B、弾性層70等)とを交互に積層するプロセスを経て作製される。このため、異方導電性部材200では、異方導電性部材200の平面方向の一部分(コアシート40Aに対応するコア部分110)のみに電気的接続に直接関与する金属線20のみが配置される。それゆえ、異方導電性部材200は、特許文献2,3に記載の異方導電性部材と比べて、より低い荷重で安定的な電気的接続を行うこともより容易である。
【0055】
異方導電性部材200は、電気的接続に用いるのであれば特に限定されず、様々な接続形態・用途で利用可能である。たとえば、接続面に複数の接続端子が配置された第一のデバイスと、接続面に複数の接続端子が配置された第二のデバイスとを、異方導電性部材により電気的に接続する場合、以下の(1)および(2)に例示するような接続態様で接続できる。
(1)1つの接続端子に対して、1つのコア部分110が対応するように正確に位置を合わせて接続する接続態様(ピンポイント接続)
(2)接続に際してピンポイント接続のような正確な位置合わせが不要であり、かつ、1つの接続端子に対して、1つ以上の範囲内において任意の数のコア部分110が対応するように接続する接続態様(ランダム接続)
【0056】
ここで、ピンポイント接続は、互に隣り合う2つのコア部分110のピッチと接続端子のピッチが略一致している場合に利用することができ、ランダム接続は、凸部140の頂面のサイズよりも接続端子の電極面のサイズの方が十分に大きい場合に利用することができる。
【0057】
図10は、接続面に複数の接続端子が配置された第一のデバイスと、接続面に複数の接続端子が配置された第一のデバイスとを、片面のみに凸部140が設けられた異方導電性部材200E(200)を用いてピンポイント接続した例を示す模式断面図である。なお、
図10中、異方導電性部材200Eの断面構造の詳細については、金属線20を除いて記載を省略してある。
【0058】
図10において、第一のデバイスの一部を構成する接続部300Aは、面内に2個以上の凹部310が設けられた接続面320Xと、この接続面320Xの面内であって且つ凹部310の底面310Bに位置するように配置された接続端子330Xとを備えている。ここで、接続端子330Xは、接続部300Aを構成する樹脂製のハウジング340Xに支持されると共に埋め込まれるように配置されている。また、第二のデバイスの一部を構成する接続部300Bは、接続面320Yと、この接続面320Yの面内に配置された2個以上の接続端子330Yとを有している。ここで、接続端子330Yは、接続部300Bを構成する樹脂製のハウジング340Yに支持されており、かつ、接続面320Yと面一を成すように配置されている。ここで、接続端子330Xおよび接続端子330Yは、互いに隣り合う2つの凸部140の距離と同様の間隔で、接続部300A、300Bの幅方向(図中の矢印W方向)に沿って等間隔で配置されている。そして、接続端子330X、330Yの幅は、凸部140の幅と略同程度である。
【0059】
電気的接続に際しては、凸部140が凹部310内に差し込まれるように、第一デバイス側の接続部300Aと、第二デバイス側の接続部300Bとの間に異方導電性部材200Eが配置される。これにより、金属線20の一方の端部が接続端子330Xと接触し、金属線20の他方の端部が接続端子330Yと接触する。すなわち、
図10に示すピンポイント接続では、1対の接続端子330X、330Yと、1つの凸部140とが1:1で対応するように接続される。
【0060】
図11は、接続面に複数の接続端子が配置された第一のデバイスと、接続面に複数の接続端子が配置された第一のデバイスとを、
図10に示したものと同様の異方導電性部材200Eを用いてランダム接続した例を示す模式断面図である。
【0061】
図11において、第一のデバイスの一部を構成する接続部300Cおよび第二のデバイスの一部を構成する接続部300Dは、同一の構造を有し、具体的には、接続面320Zと、この接続面320Zの面内に配置された2個以上の接続端子330Zとを有している。ここで、接続端子330Zは、接続部300C、300Dを構成する樹脂製のハウジング340Zに支持されており、かつ、接続面320Zと面一を成すように配置されている。ここで、接続端子330Zは、接続部300C、300Dの幅方向(図中の矢印W方向)に沿って等間隔で配置されている。なお、接続端子330Zの幅は、凸部140の幅の数倍の長さを有している。
【0062】
電気的接続に際しては、
図11に示す例では、互に向き合うように配置された1対の接続端子330Zの間に、複数個の凸部140が対応して位置するように、第一デバイス側の接続部300Cと、第二デバイス側の接続部300Dとの間に異方導電性部材200Eが配置される。これにより、金属線20の一方の端部が第一デバイス側の接続端子330Zと接触し、金属線20の他方の端部が第二デバイス側の接続端子330Zと接触する。すなわち、
図11に示すランダム接続では、矢印W方向に対して、接続端子330Zの任意の位置に1個以上の凸部140が配置される。
【0063】
異方導電性部材200は、2つのデバイス間を電気的に接続するために用いるのであれば特にその用途は限定されない。たとえば、異方導電性部材200を、検査対象デバイス(第一デバイス)と、この検査対象デバイスを検査するために用いる測定装置(第二デバイス)との接続に用いることができる。なお、検査対象デバイスとしては、液晶ディスプレイモジュール、有機ELディスプレイモジュール、あるいは、撮像素子モジュールなどのモジュール化されたデバイスを例示することができる。
図12に示すように、これらの検査対象デバイス400は、一般的に、検査対象デバイス本体402と、この検査対象デバイス本体402に対して配線404を介して取り付けられたコネクター406とを有する。ここで、コネクター406は
図10に例示した接続部300Aのような構造を有する。なお、検査対象デバイス400が携帯型電子機器に搭載される小型のデバイスである場合、検査対象デバイス400が有するコネクター406としては、通常、隣り合う2つの接続端子330Xのピッチが0.6mm以下程度のコネクター(いわゆるマイクロコネクター)が用いられる。
【0064】
一方、測定装置は、これらの検査対象デバイスの動作・性能等の検査が可能なものであればその構成は特に限定されない。しかしながら、
図12に例示するように測定装置410は、一般的に、測定装置本体412と、配線414を介してこの測定装置本体412に接続された測定基板416とを備える。そして、この測定基板416の表面の一部を占めるように接続部(
図12中、不図示)が設けられる。このような検査用途では、異方導電性部材200Eは、測定基板416に固定された状態で、検査対象デバイス400のコネクター406に対して脱着を繰り返すことになる。ここで、異方導電性部材200Eは、たとえば、異方導電性部材200Eに取り付けられたアライメント部材を介して測定基板416に固定したり、あるいは、測定基板416に取り付けられたソケット内にはめこむなどにより測定基板416に固定することが好ましい。
【0065】
なお、アライメント部材には、たとえば、位置決め穴を設けておくことができる。この場合、アライメント部材の位置決め穴と、測定基板側に設けた位置決め穴とを一致させた状態で、これら2つの位置決め穴にピンあるいはネジを差し込むことで、異方導電性部材200Eを、測定基板416上の所定の位置に固定することができる。なお、
図12中、コネクター406(接続部300A)、測定基板416および異方導電性部材200Eの詳細な構成については記載を省略してある。
【0066】
一方、電子機器内には、CPUなどを搭載した回路基板や、各種のディスプレイモジュール、撮像素子モジュールなどの複数のデバイスが配置され、これらデバイスは配線やコネクター等の接続部を介して互いに接続される。したがって、異方導電性部材200を、ひとつの電子機器内に搭載される複数のデバイスのうち、少なくともいずれか2つのデバイス(第一デバイスおよび第二デバイス)を接続するために用いてもよい。
【0067】
この場合、異方導電性部材200は、各種電子機器内に配置されるデバイス間の接続に用いることができるが、特に、スマートフォンや、携帯電話、タブレット型コンピューター、ノートタイプ型パーソナルコンピューター、パーソナルディジタルアシスタンス(PDA)、音楽再生機能を持つ携帯型プレーヤ等の携帯型電子機器内に配置されるデバイス間の接続に用いることが好ましい。このような携帯型電子機器では、サイズが極めて小さく、ハウジングが樹脂製で機械的強度も小さいマイクロコネクターが用いられることが多い上に、デバイスを構成する基板も薄くて剛性が低いために、大きな力を加えてマイクロコネクターを接続することは困難である。大きな力(大荷重)を加えた場合、マイクロコネクターが壊れたり、基板が変形・破損する可能性が高いためである。これに加えて、携帯型電子機器内には、複数のデバイスが高密度に配置されるため、マイクロコネクターを接続する際に、外部から大きな力を加えること自体が困難な場合も多い。しかしながら、異方導電性部材200を用いれば、小さな力(低荷重)でマイクロコネクターを接続しても、電気的接続が容易に確保できる。