【実施例】
【0020】
以下に、実施例に基づいて、本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明にかかるヒューム除去方法の実施例1〜6及び比較例1〜5について、ヒューム除去性を評価した。
実施例1〜6及び比較例1〜5においては、濃度が0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にキレート剤を添加したものを、溶媒として用いた。また、実施例1〜6及び比較例1〜5において、ヒュームが付着した亜鉛めっき鋼板を、液温40℃とした溶媒中に2分間浸漬した。
【0021】
実施例1、実施例2、及び比較例1では、キレート剤としてEDTAを溶媒に添加した。また、実施例3、実施例4、及び比較例2では、キレート剤としてDTPAを溶媒に添加した。さらには、実施例5、実施例6、及び比較例3では、キレート剤としてクエン酸を溶媒に添加した。そして、比較例7ではアジピン酸を、比較例8ではアミノヘキサン酸を、キレート剤として溶媒に添加した。
【0022】
[実施例1〜6]
実施例1では、溶媒である水酸化ナトリウム水溶液に、EDTAを、濃度が10mmol/Lとなるまで添加した。さらに、炭酸ガス又は水酸化ナトリウムを溶媒に添加することにより、溶媒のpHが9となるよう調整を行った。炭酸ガスを溶媒に添加するとpHは小さくなり、水酸化ナトリウムを溶媒に添加するとpHは大きくなる。
〈実施例1におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:EDTA
・キレート剤濃度:10mmol/L
・溶媒のpH:9
【0023】
実施例2は、実施例1のEDTA濃度を10mmol/Lから50mmol/Lに変更したものである。
〈実施例2におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:EDTA
・キレート剤濃度:50mmol/L
・溶媒のpH:9
【0024】
実施例3は、実施例1のキレート剤を、EDTAからDTPAに変更したものである。
〈実施例3におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:DTPA
・キレート剤濃度:10mmol/L
・溶媒のpH:9
【0025】
実施例4は、実施例1のキレート剤をEDTAからDTPAに変更し、キレート剤の濃度を10mmol/Lから50mmol/Lに変更したものである。
〈実施例4におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:DTPA
・キレート剤濃度:50mmol/L
・溶媒のpH:9
【0026】
実施例5は、実施例1のキレート剤をEDTAからクエン酸に変更し、あわせて、溶媒のpHを9から5に変更したものである。
〈実施例5におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:クエン酸
・キレート剤濃度:10mmol/L
・溶媒のpH:5
【0027】
実施例6は、実施例1のキレート剤をEDTAからクエン酸に変更して、溶媒のpHを9から5に変更し、さらに、キレート剤の濃度も10mmol/Lから50mmol/Lに変更したものである。
〈実施例6におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:クエン酸
・キレート剤濃度:50mmol/L
・溶媒のpH:5
【0028】
[比較例1〜5]
比較例1は、実施例1のEDTA濃度を10mmol/Lから2mmol/Lに変更したものである。
〈比較例1におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:EDTA
・キレート剤濃度:2mmol/L
・溶媒のpH:9
【0029】
比較例2は、実施例1のキレート剤をEDTAからDTPAに変更し、キレート剤の濃度を10mmol/Lから2mmol/Lに変更したものである。
〈比較例2におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:DTPA
・キレート剤濃度:2mmol/L
・溶媒のpH:9
【0030】
比較例3は、実施例1のキレート剤をEDTAからクエン酸に変更し、キレート剤の濃度を10mmol/Lから2mmol/Lに変更したものである。あわせて、溶媒のpHを、9から5に変更した。
〈比較例3におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:クエン酸
・キレート剤濃度:2mmol/L
・溶媒のpH:5
【0031】
比較例4は、実施例1のキレート剤をEDTAからアジピン酸に変更し、キレート剤の濃度を10mmol/Lから50mmol/Lに変更したものである。
〈比較例4におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:アジピン酸
・キレート剤濃度:50mmol/L
・溶媒のpH:9
【0032】
比較例5は、実施例1のキレート剤をEDTAからアミノヘキサン酸に変更し、キレート剤の濃度を10mmol/Lから50mmol/Lに変更したものである。
〈比較例5におけるヒューム除去方法の実施条件〉
・キレート剤:EDTA
・キレート剤濃度:50mmol/L
・溶媒のpH:9
【0033】
表1は、実施例と比較例について、ヒューム除去性を評価した結果を示す表である。ヒューム除去性は、ヒュームの付着残量を目視で評価した。ヒューム除去性の評価基準の一例は
図2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
図2は、本発明の実施の形態にかかるヒューム除去方法の、ヒューム除去性の評価基準を示す図である。
図2の(A)〜(C)は、本実施形態にかかるヒューム除去方法を、溶接後の亜鉛めっき鋼板に実施した後の、亜鉛めっき鋼板の表面の写真である。(A)は粉状ヒュームが残存している状態、(B)は粉状ヒュームが一部除去されている状態、(C)は粉状ヒュームが完全に除去されている状態の一例である。
【0036】
実施例と比較例についての、ヒュームの付着残量の評価結果から、以下のことが推察できる。
亜鉛めっき鋼板に付着しているヒューム量に対して、キレート剤の絶対量が足りないと、ヒュームが十分に除去できないと推察される。キレート剤は、1:1の比率で金属イオンと反応して錯塩を形成することで、ヒュームを溶解していると考えられるからである。
【0037】
比較例1〜3の評価結果では、キレート剤濃度が2mmol/Lと低い場合は、ヒュームを十分に除去できていない。キレート剤は1:1の比率で金属イオンと反応するため、ヒューム量に対してキレート剤の絶対量が足りず、ヒュームを十分に除去できていないと推察される。
【0038】
実施例1及び2の評価結果から、本実施例において発生するヒューム量では、EDTA濃度は10〜50mmol/Lが好ましいと考えられる。
また、実施例3〜6の評価結果から、キレート剤としてDTPA又はクエン酸を用いた場合も同様に、濃度は10〜50mmol/Lが好ましいと考えられる。
【0039】
なお、ヒュームを除去するために必要なキレート剤の濃度は、鋼板に付着したヒューム量によって変化するものであり、本実施例の濃度に限定されるものではない。
鋼板に付着したヒューム量が本実施例よりも少ない場合には、本実施例よりも低いキレート剤濃度でも、ヒュームを十分に除去できると考えられる。それに対して、鋼板に付着したヒューム量が本実施例よりも多い場合には、本実施例よりも高いキレート剤濃度であっても、ヒュームを十分に除去できないことがあると考えられる。
【0040】
溶媒のpHは、添加するキレート剤の亜鉛とのキレート安定度定数が大きくなる範囲に調整する。
EDTA又はDTPAを添加した溶媒のpHは、8〜11とするのが好ましく、さらには、9〜10とするのがより好適である。キレート安定度定数は、pHが8〜11の範囲で大きくなり、pHが9〜10の範囲でさらに大きくなるからである。
【0041】
また、溶媒のpHは、鋼板上の亜鉛めっきを必要以上に溶解しない範囲に調整する。クエン酸を添加した溶媒のpHは、3〜6とするのが好ましく、さらには、4〜5とするのがより好適である。pHが3より小さいと、亜鉛めっきの溶解過多となるおそれがある。他方、pHが6より大きいと、キレート安定度定数が十分に大きくならず、ヒューム除去性が悪化するおそれがある。
【0042】
さらにまた、キレート剤として、アジピン酸やアミノヘキサン酸を用いた場合には、ヒュームは十分に除去できなかった。
EDTA、DTPA、クエン酸はカルボキシメチル基を持っているのに対して、アジピン酸やアミノヘキサン酸はカルボキシメチル基を持たない。カチオン帯電している亜鉛イオンとキレート錯体を形成するためには、少なくとも一つのカルボキシメチル基が必要だと推察される。
【0043】
表2は、鋼板の防錆性能評価結果を示す表であり、ヒューム除去性と鋼板の防錆性能との相関を示している。亜鉛めっき鋼板の試験片に対して、本発明にかかるヒューム除去方法でヒュームを除去した後に、化成処理及び電着塗装を行い、その後に防錆性能評価を行った。
【0044】
【表2】
【0045】
表2における防錆性能評価は、CCT−C試験を90サイクルで行った。CCTとは、Cyclic Corrosion Testの略語であり、複合サイクル腐食試験のことである。CCT試験の中でも、C法は、海塩粒子が飛来する一般的な大気環境を想定した試験法である。
【0046】
CCT−C試験では、まず、5%塩水を試験片に4時間連続で噴霧した後に、5時間で強制乾燥を行う。つづいて、湿潤雰囲気に試験片を12時間保持し、2時間の強制乾燥の後に1時間の自然乾燥を行う。CCT−C試験は、以上の24時間1サイクルの処理を行う試験方法である。
このCCT−C試験を90サイクル繰り返した後に、試験片の腐食面積率と最大浸食深さを測定する。
【0047】
表2から、ヒューム除去性が高いほど、腐食面積率及び最大浸食深さが小さくなり、防錆性能が向上していることがわかる。
本発明にかかるヒューム除去方法でヒュームを除去した後に、塗装を施した鋼板は防錆性能が向上する。鋼板表面が滑らかになり、塗装が均一に塗布されるからである。均一に塗布された塗料ははがれにくいため、鋼板の防錆性能が向上する。
【0048】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、溶媒に添加するキレート剤は一種に限定されるものではなく、二種以上を混合して用いてもよい。