(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられたエンジン等の走行用駆動源からの駆動力が伝達される入力軸と、入力軸の回転中心軸線と平行に配置された出力軸と、入力軸の回転中心軸線上に設けられた複数の回転半径調節機構と、出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、一方の端部に回転半径調節機構に回転自在に外嵌される入力側環状部を有し、他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドとを備える四節リンク機構型無段変速機を備える動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、各回転半径調節機構は、入力軸の回転中心軸線上に偏心して設けられた円板状のカム部と、このカム部に偏心して回転自在に設けられた回転部と、複数のピニオンを軸方向に一体に備えるピニオンシャフトと、ピニオンを回転させる副駆動源とからなる。また、揺動リンクと出力軸との間には、第1ワンウェイクラッチが設けられている。第1ワンウェイクラッチは、揺動リンクが出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに、出力軸に揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに、出力軸に対して揺動リンクを空転させる。
【0004】
各カム部は、入力軸の回転中心軸線方向に貫通する貫通孔と、回転中心軸線に対する偏心方向に対向する位置に設けられ、カム部の外周面と貫通孔を構成する内周面とを連通させる切欠孔とを備える。また、切欠孔は、カム部の軸方向一方の端面から他方の端面に亘って設けられている。隣接するカム部同士はボルトで固定され、これにより、カム部連結体が構成される。カム部連結体の軸方向一端は、入力軸に連結され、カム部連結体と入力軸とでカムシャフトが構成されている。
【0005】
カム部連結体は、各カム部の貫通孔が連なることにより、中空となっており、その内部にはピニオンシャフトが挿入される。ピニオンシャフトには、副駆動源の駆動力が伝達される。挿入されたピニオンシャフトは各カム部の切欠孔から露出している。回転部にはカムシャフトを受け入れる受入孔が設けられている。この受入孔を形成する回転部の内周面には内歯が形成されている。
【0006】
内歯は、カムシャフトの切欠孔から露出するピニオンシャフトと噛合する。入力軸とピニオンシャフトとを同一速度で回転させると、回転半径調節機構の回転半径が維持される。入力軸とピニオンシャフトの回転速度を異ならせると、回転半径調節機構の回転半径が変更されて、変速比が変化する。
【0007】
入力軸を回転させることにより回転半径調節機構を回転させると、コネクティングロッドの入力側環状部が回転運動して、コネクティングロッドの他方の端部と連結される揺動リンクの揺動端部が揺動する。即ち、回転半径調節機構、コネクティングロッド、及び揺動リンクで、てこクランク機構が構成される。揺動リンクは、第1ワンウェイクラッチを介して出力軸に設けられているため、出力軸に対して一方側に相対回転するときのみ出力軸に回転駆動力(トルク)を伝達する。
【0008】
各回転半径調節機構のカム部の偏心方向は、夫々位相を異ならせて入力軸周りを一周するように設定されている。従って、各回転半径調節機構に外嵌されたコネクティングロッドによって、揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達するため、出力軸をスムーズに回転させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照して、四節リンク機構型の無段変速機を有する本発明の動力伝達装置の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、変速比h(h=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂IVT(Infinity Variable Transmission)の一種である。
【0025】
図1を参照して、四節リンク機構型の無段変速機1は、内燃機関であるエンジンや電動機等の主駆動源ENGからの駆動力が伝達されることで回転中心軸線P1を中心に回転する入力軸端部2aと、回転中心軸線P1に平行に配置され、図示省略したデファレンシャルギヤを介して車両の駆動輪(図示省略)に回転動力を伝達させる出力軸3と、回転中心軸線P1上に設けられた6つの回転半径調節機構4とを備える。なお、デファレンシャルギヤの代わりにプロペラシャフトを設けてもよい。
【0026】
図1及び
図2を参照して、各回転半径調節機構4は、カム部としてのカムディスク5と、回転部としての回転ディスク6とを備える。カムディスク5は、円盤状であり、回転中心軸線P1から偏心されると共に、1つの回転半径調節機構4に対して2個1組となるように、各回転半径調節機構4に設けられている。また、カムディスク5には、回転中心軸線P1の方向に貫通する貫通孔5aが設けられている。また、カムディスク5には、回転中心軸線P1に対して偏心する方向とは逆の方向に開口し、カムディスク5の外周面と貫通孔5aを構成する内周面とを連通させる切欠孔5bが設けられている。
【0027】
各1組のカムディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組のカムディスク5で回転中心軸線P1の周方向を一回りするように配置されている。
【0028】
カムディスク5は、隣接する回転半径調節機構4のカムディスク5と一体的に形成されて一体型カム部5cが構成されている。この一体型カム部5cは、一体成型で形成してもよく、または、2つのカム部を溶接して一体化してもよい。各回転半径調節機構4の2個1組のカムディスク5同士はボルト(図示省略)で固定されている。回転中心軸線P1上の最も主駆動源側に位置するカムディスク5は入力軸端部2aと一体的に形成されている。このようにして、入力軸端部2aと複数のカムディスク5とで、カムディスク5を備える入力軸2が構成されることとなる。
【0029】
入力軸2は、カムディスク5の貫通孔5aが連なることによって構成される挿通孔60を備える。これにより、入力軸2は、主駆動源ENGとは反対側の一方端が開口し他方端が閉塞した中空軸形状に構成される。主駆動源側の他方端に位置するカムディスク5は、入力軸端部2aと一体的に形成されている。このカムディスク5と入力軸端部2aとを一体的に形成する方法としては、一体成型を用いてもよく、また、カムディスク5と入力軸端部2aとを溶接して一体化してもよい。
【0030】
また、各1組のカムディスク5には、カムディスク5を受け入れる受入孔6aを備える円盤状の回転ディスク6が偏心された状態で回転自在に外嵌されている。
【0031】
図2に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5の中心点をP2、回転ディスク6の中心点をP3として、回転中心軸線P1と中心点P2の距離Rxと、中心点P2と中心点P3の距離Ryとが同一となるように、カムディスク5に対して偏心している。
【0032】
回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。
【0033】
入力軸2の挿通孔60には、回転中心軸線P1と同心に、且つ、回転ディスク6の内歯6bと対応する個所に位置させて、ピニオン70がカムディスク5を有する入力軸2と相対回転自在となるように配置されている。ピニオン70は、ピニオンシャフト72と一体に形成されている。なお、ピニオン70は、ピニオンシャフト72と別体に構成して、ピニオン70をピニオンシャフト72にスプライン結合で連結させてもよい。本実施形態においては、単にピニオン70というときは、ピニオンシャフト72を含むものとして定義する。
【0034】
ピニオン70は、カムディスク5の切欠孔5bを介して、回転ディスク6の内歯6bと噛合する。ピニオンシャフト72には、隣接するピニオン70の間に位置させてピニオン軸受74が設けられている。このピニオン軸受74を介して、ピニオンシャフト72は、入力軸2を支えている。ピニオンシャフト72には、遊星歯車機構などで構成される差動機構8が接続されている。ピニオン70には、差動機構8を介して副駆動源14の駆動力が伝達される。
【0035】
回転ディスク6は、カムディスク5に対して距離Rxと距離Ryとが同一となるように偏心されているため、回転ディスク6の中心点P3を回転中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、回転中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
【0036】
回転ディスク6の周縁には、一方(入力軸2側)の端部に大径の入力側環状部15aを備え、他方(出力軸3側)の端部に入力側環状部15aの径よりも小径の出力側環状部15bを備えるコネクティングロッド15の入力側環状部15aが、軸方向に2個並べて2個一組のボールベアリングからなるコンロッド軸受16を介して回転自在に外嵌されている。出力軸3には、ワンウェイクラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
【0037】
ワンウェイクラッチ17は、揺動リンク18と出力軸3との間に設けられ、揺動リンク18が出力軸3に対して一方側に相対的に回転しようとするときに揺動リンク18を出力軸3に固定し(固定状態)、他方側に相対的に回転しようとするときに出力軸3に対して揺動リンク18を空転させる(空転状態)。
【0038】
揺動リンク18は、環状に形成されており、その下方には、コネクティングロッド15の出力側環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、出力側環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、出力側環状部15bの内径に対応する差込孔18cが穿設されている。差込孔18c及び出力側環状部15bには、揺動軸としての連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
【0039】
本実施形態においては、揺動リンク18の揺動端部18aが、ケース80の下方に溜まった潤滑油の油溜に油没するように、揺動端部18aを出力軸3の下方に配置されている。これにより、揺動端部18aを油溜で潤滑できると共に、揺動リンク18の揺動運動により、油溜の潤滑油を掻き揚げて、無段変速機1の他の部品を潤滑させることができる。
【0040】
なお、本実施形態の説明において、変速比は、入力軸の回転速度/出力軸の回転速度と定義する。
【0041】
図3は、回転半径調節機構4の偏心量R1(回転半径)を変化させた状態のピニオンシャフト72と回転ディスク6との位置関係を示す。
図3Aは偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、回転中心軸線P1と、カムディスク5の中心点P2と、回転ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト72と回転ディスク6とが位置する。このときの変速比hは最小となる。
【0042】
図3Bは偏心量R1を
図3Aよりも小さい「中」とした状態を示しており、
図3Cは偏心量R1を
図3Bよりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比hは、
図3Bでは
図3Aの変速比hよりも大きい「中」となり、
図3Cでは
図3Bの変速比hよりも大きい「大」となる。
図3Dは偏心量R1を「0」とした状態を示しており、回転中心軸線P1と、回転ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比hは無限大(∞)となる。本実施形態の無段変速機1は、回転半径調節機構4で偏心量R1を変えることにより、回転半径調節機構4の回転半径を調節自在としている。
【0043】
図4は、回転半径調節機構4の偏心量R1を変化させた場合の揺動リンク18の揺動範囲の変化を示している。
図4Aは、偏心量R1が最大のときの揺動リンク18の揺動範囲を示し、
図4Bは、偏心量R1が中のときの揺動リンク18の揺動範囲を示し、
図4Cは、偏心量R1が小のときの揺動リンク18の揺動範囲を示している。
図4から偏心量R1が小さくなるにつれて揺動範囲が狭くなることが分かる。そして、偏心量R1が「0」になると、揺動リンク18は揺動しなくなる。
【0044】
本実施形態においては、回転半径調節機構4と、コネクティングロッド15と、揺動リンク18とで、てこクランク機構20(四節リンク機構)が構成される。そして、てこクランク機構20によって、入力軸2の回転運動が揺動リンク18の揺動運動に変換される。本実施形態の無段変速機1は合計6個のてこクランク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト72を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で揺動端部18aを出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して、揺動リンク18が揺動する。
【0045】
コネクティングロッド15の出力側環状部15bは、出力軸3にワンウェイクラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各回転半径調節機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各回転半径調節機構4で順に回転させられる。
【0046】
また、本実施形態の動力伝達装置は、副駆動源14を制御する制御部(図示省略)を備えている。制御部は、CPUやメモリ等により構成された電子ユニットであるECUとTCUとで構成され、メモリなどの記憶部に保持された制御プログラムをCPUで実行することにより、副駆動源14を制御して、回転半径調節機構4の偏心量R1を調節する機能を果たす。
【0047】
制御部100は、
図10に示すように、通常出力調節部110と、上限判定部120と、待機出力設定部130と、待機工程実行部140と、記憶部150とを備える。通常出力調節部110では、主駆動源ENGの駆動力(トルク)や回転速度、駆動輪や被駆動輪の回転速度、現在の車両の走行速度(車速)、スロットル弁の開度、現在の偏心量R1などの所定情報(所定の車両情報)から目標回転半径としての目標偏心量を求める。そして、現在の回転半径としての現在の偏心量R1が目標偏心量となるように副駆動源14の出力を調節する。
【0048】
ここで、
図5に示すように、回転半径としての偏心量R1を一定に維持するために必要とされるピニオンのトルクは、入力軸2と出力軸3との間の駆動力の伝達に伴う反力と(
図5A参照)、遠心力による荷重と、主駆動源ENGの駆動力とによって求められる。そして、反力と遠心力による荷重とは互いに打ち消し合う方向に働き、回転半径としての偏心量R1が大きくなる高速回転時には、遠心力による荷重が反力を上回り、
図6に示すように、ピニオンのトルクは、低速回転のときと比較して反対方向のトルクが必要とされる。
【0049】
ところで、車両の駆動輪が滑っている場合や車両が跳ねて駆動輪が路面から離れている場合などの駆動力抜け状態では、
図6に示すように、回転半径調節機構で回転半径を一定に制御するために要求される力が大きくなる。特に、車両が最大速度で走行している場合には、顕著である。
【0050】
そして、従来の動力伝達装置では、駆動力抜け状態であっても、正常に制御できるようにするためには、回転半径調節機構の駆動源(副駆動源)として最大出力が高いものを採用する必要がある。
【0051】
そこで、本実施形態の動力伝達装置では、実験やシュミレーションなどにより、車両の駆動輪が滑っている場合や車両が跳ねて駆動輪が路面から離れている場合などの駆動力抜け状態によるときのみに要求されるピニオンのトルクの領域を定め、この駆動力抜け状態のときの領域と通常走行時のトルクの領域との境界に上限出力を設定している。なお、通常時の領域の方を余裕をみて駆動力抜け領域よりも若干広く設定し、上限出力を本来駆動力抜け状態の領域内に入る値に設定してもよい。
【0052】
図9は、本実施形態の動力伝達装置の模式図である。本実施形態の動力伝達装置の制御部100は、エンジン・コントロール・ユニットECUとトランスミッション・コントロール・ユニットTCUとで構成される。制御部100の記憶部150には、上限出力以下に設定される所定の待機出力が予め記憶されている。
【0053】
図11に示すように、本実施形態の動力伝達装置の制御部は、まず、STEP1で、駆動輪回転数や、被駆動輪回転数など、各種の車両情報を読み込む。そして、STEP2に進み、タイヤがスリップ(空転)しているか否かを判定する。タイヤがスリップしていない場合には、STEP1に戻る。STEP2でタイヤがスリップしていると判定した場合には、STEP3に進み、内燃機関からなる主駆動源ENGの駆動力(トルク)、駆動輪の回転数(回転速度)、回転半径としての偏心量R1を読み込む。
【0054】
そして、STEP4に進み、
図7に示す主駆動源ENGの駆動力(トルク)と偏心量R1とピニオントルクとの関係のグラフに基づいて制御部に記憶されるマップデータなどに基づき、現在の副駆動源が出力する駆動力、即ちピニオントルクを求める。
【0055】
そして、STEP5に進み、求められた現在のピニオントルクが上限出力を超えているか否かを判定する。上限出力以下の場合には、STEP3に戻る。上限出力を超えている場合には、STEP6に進み、上限出力以下に設定される所定の待機出力となるように副駆動源の出力を制御する待機工程モードに移行し、STEP7に進んで、副駆動源の出力が所定の待機出力となるように副駆動源に供給する電流値を固定する。また、主駆動源ENGから新たに駆動力が出力されると、主駆動源ENGの回転速度の低下に時間がかかる。このため、本実施形態においては、待機工程モード中は、主駆動源ENGが新たな駆動力を出力しないようにフューエルカットや点火禁止制御などを行ったり、リタードやドライブ・バイ・ワイヤでのスロットル弁の開度減少制御などによる出力低下制御を行うようにしている。
【0056】
そして、STEP8に進み、内燃機関からなる主駆動源ENGの回転数(回転速度)、駆動輪の回転数(回転速度)、回転半径としての偏心量R1を読み込む。そして、STEP9に進み、
図8に示す主駆動源ENGの回転数と偏心量R1とピニオントルクとの関係のグラフに基づいて制御部に記憶されるマップデータなどに基づき、現在の偏心量R1を維持するために必要なピニオントルクを求める。
【0057】
なお、STEP8で、駆動輪の回転数も読み込む理由は、タイヤがスリップしている状態であっても、主駆動源の駆動力が「0」にならない場合があり、駆動輪の回転数も考慮してピニオントルクを求めることで、より適切な値を得ることができるためである。従って、主駆動源の駆動力を「0」とみなすことができるような状況下であるならば、STEP8で駆動輪の回転数は読み込まなくてもよい。
【0058】
そして、STEP10に進み、求められたピニオントルクが上限出力以下であるかを判定する。上限出力を超えている場合には、STEP8に戻る。上限出力以下である場合には、STEP11に進み、待機工程を終了し、通常のピニオントルクの制御に戻る。
【0059】
本実施形態の差動機構8は、
図12に示すように、第1から第3の3つの遊星歯車機構PGS1〜PGS3で構成されている。第1遊星歯車機構PGS1は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSa及びリングギヤRaと噛合するプラネタリギヤPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなるシングルピニオン型で構成される。
【0060】
図13の上段に第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa、キャリアCa、リングギヤRaの3つの単式要素の回転速度を直線で表すことができる共線図を示す。第1遊星歯車機構PGS1の3つの単式要素を共線図での並び順に一方から、本実施形態においては、
図9の右側から順に、第1単式要素、第2単式要素、第3単式要素とすると、第1単式要素はサンギヤSa、第2単式要素はキャリアCa、第3単式要素はリングギヤRaとなる。
【0061】
共線図において、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をiとして、サンギヤSa(第1単式要素)とキャリアCa(第2単式要素)との間の間隔と、キャリアCa(第2単式要素)とリングギヤRa(第3単式要素)との間の間隔との比は、i:1となるように設定される。本実施形態においては、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比iは、2.00に設定されている。なお、
図13及び
図14の共線図において、下端の横線は回転速度が「0」であることを示し、破線は走行用駆動源90の動力が伝達されるカムシャフト51の回転速度と同一の「N1」であることを示している。
【0062】
第2遊星歯車機構PGS2は、サンギヤSbと、リングギヤRbと、サンギヤSb及びリングギヤRbと噛合するプラネタリギヤPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとからなるシングルピニオン型で構成される。
【0063】
図13の中段に第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb、キャリアCb、リングギヤRbの3つの単式要素の回転速度を直線で表すことができる共線図を示す。第2遊星歯車機構PGS2の3つの単式要素を共線図での並び順に一方から、本実施形態においては、
図13の右側から順に、第4単式要素、第5単式要素、第6単式要素とすると、第4単式要素はサンギヤSb、第5単式要素はキャリアCb、第6単式要素はリングギヤRbとなる。
【0064】
共線図において、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をjとして、サンギヤSb(第4単式要素)とキャリアCb(第5単式要素)との間の間隔と、キャリアCb(第5単式要素)とリングギヤRb(第6単式要素)との間の間隔との比は、j:1となるように設定される。本実施形態においては、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比jは、2.00に設定されている。
【0065】
第3遊星歯車機構PGS3は、サンギヤScと、リングギヤRcと、サンギヤScに大径部Pc1が噛合し、リングギヤRcに小径部Pc2が噛合する段付きプラネタリギヤPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとからなるシングルピニオン型で構成される。
【0066】
図13の下段に第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc、キャリアCc、リングギヤRcの3つの単式要素の回転速度を直線で表すことができる共線図を示す。第3遊星歯車機構PGS3の3つの単式要素を共線図での並び順に一方から、本実施形態においては、
図13の右側から順に、第7単式要素、第8単式要素、第9単式要素とすると、第7単式要素はサンギヤSc、第8単式要素はキャリアCc、第9単式要素はリングギヤRcとなる。
【0067】
共線図において、第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比((リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)×(段付きプラネタリギヤPcの大径部Pc1の歯数/小径部Pc2の歯数))をkとして、サンギヤSc(第7単式要素)とキャリアCc(第8単式要素)との間の間隔と、キャリアCc(第8単式要素)とリングギヤRc(第9単式要素)との間の間隔との比は、k:1となるように設定される。
【0068】
第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比kは、副駆動源14の駆動力を用いて第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1単式要素)を回転させたときに、ピニオン70と連結する第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第8単式要素)の回転速度が、サンギヤSa(第1単式要素)の回転速度に対して所望の回転速度となるように、適宜設定される。
【0069】
キャリアCa(第2単式要素)はキャリアCb(第5単式要素)に連結され、キャリアCa(第2単式要素)とキャリアCb(第5単式要素)とで第1連結体Ca−Cbが構成される。リングギヤRa(第3単式要素)はリングギヤRc(第9単式要素)に連結され、リングギヤRa(第3単式要素)とリングギヤRc(第9単式要素)とで第2連結体Ra−Rcが構成される。リングギヤRb(第6単式要素)はサンギヤSc(第7単式要素)に連結され、リングギヤRb(第6単式要素)とサンギヤSc(第7単式要素)とで第3連結体Rb−Scが構成される。
【0070】
第2連結体Ra−Rcは、入力軸2及びカムディスク5で構成されるカムシャフト51を介して走行用駆動源90(
図13参照)からの動力が伝達される第1入力要素である。サンギヤSa(第1単式要素)には、副駆動源14の駆動力が、副駆動源14の回転軸に設けられた調節用ピニオン14aに噛合する第1中間ギヤG1aと、この第1中間ギヤG1aに噛合する第2中間ギヤG1bとからなる第1ギヤ列G1を介して伝達される。従って、サンギヤSa(第1単式要素)は、副駆動源14の駆動力が第1ギヤ列G1を介して伝達される第2入力要素である。キャリアCc(第8単式要素)は、伝達部たるピニオン70に連結される伝達要素である。なお、第1ギヤ列G1を省略して、副駆動源14の駆動力を直接サンギヤSa(第1単式要素)に伝達させてもよい。
【0071】
サンギヤSb(第4単式要素)には、固定機構としてのブレーキB1が設けられている。ブレーキB1は、サンギヤSb(第4単式要素)を無段変速機1や差動機構8、副駆動源14等のケース80に固定して回転不能とする固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。本実施形態においては、ブレーキB1は常に固定状態とされている。
【0072】
差動機構8を上述した如く構成することにより、第1入力要素たる第2連結体Ra−Rcと伝達要素たるキャリアCc(第8単式要素)とが同一方向に同一速度で回転するとき、第2入力要素たるサンギヤSa(第1単式要素)の回転速度が「0」となる。これにより、本実施形態の動力伝達装置によれば、変速比hを一定に維持する場合には、副駆動源14は、第2入力要素たるサンギヤSa(第1単式要素)の回転速度が「0」となるように、駆動力を出力すればよい。また、変速比hを変更する場合であっても、副駆動源14は比較的低速の回転速度となるように制御するだけで足りる。
【0073】
従って、本実施形態の動力伝達装置によれば、従来のように副駆動源を比較的高速で回転させる必要があるものと比較して、副駆動源14に要求される回転速度を抑制することができる。
【0074】
図14は、変速比hが一定に維持される状態の共線図を示したものである。
図14から下段に示された第3遊星歯車機構PGS3の共線図において、カムシャフト51と連結された第2連結体Ra−Rcの回転速度が、ピニオン70が連結された第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第8単式要素)の回転速度と同一の「N1」であるとき、即ち、変速比hが一定に維持されるとき、
図14の上段に示された第1遊星歯車機構PGS1の共線図において、副駆動源14が連結された第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaの回転速度が「0」となることが分かる。
【0075】
これは、各遊星歯車機構のギヤ比を用いて計算で求めることもできる。例えば、N1が3000rpmであると仮定する。このとき、第2連結体Ra−Rcの回転速度は、3000rpmとなる。変速比hは一定に維持されているので、第2連結体Ra−Rcの回転速度と、第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第8単式要素)の回転速度は、同一の3000rpmとなる。
【0076】
第3遊星歯車機構PGS3のリングギヤRc(第9単式要素)とキャリアCc(第8単式要素)とが同一速度の3000rpmで回転するため、第3遊星歯車機構PGS3の各単式要素は相対回転不能なロック状態となり、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7単式要素)の回転速度、即ち、第3連結体Rb−Scの回転速度も3000rpmとなる。
【0077】
図14の中段に示す第2遊星歯車機構PGS2の共線図を参照して、リングギヤRb(第6単式要素)が3000rpmで回転し、サンギヤSb(第4単式要素)の回転速度が、ブレーキB1が固定状態であるため、0rpmとなる。第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比jは2.00に設定されているため、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5回転要素)、即ち、第1連結体Ca−Cbの回転速度は2000rpmとなる。
【0078】
図14の上段に示す第1遊星歯車機構PGS1の共線図を参照して、第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRa(第3単式要素)の回転速度が3000rpm、第1連結体Ca−Cb、即ち、キャリアCa(第2単式要素)の回転速度が2000rpm、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比iが2.00に設定されているため、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1単式要素)の回転速度が0rpmになることが分かる。
【0079】
従って、本実施形態の無段変速機1によれば、変速比hが一定であるときには、副駆動源14の駆動力が伝達される第2入力要素たるサンギヤSa(第1単式要素)の回転数をカムシャフト51と同一の回転数に制御する必要はなく、第2入力要素たるサンギヤSa(第1単式要素)の回転数が「0」となるように制御すればいいことが分かる。なお、
図13の共線図は、変速比hを変速している状態を示したものである。
【0080】
本実施形態の動力伝達装置によれば、車両の駆動輪が滑っている場合や車両が跳ねて駆動輪が路面から離れている場合などの駆動力抜け状態においてのみに要求される高い出力領域は、上限出力を超える領域となるように上限出力を設定できる。これにより、上限出力を超えて高い出力領域内に目標出力が設定される場合には、待機工程に移行し、目標出力が待機出力に設定される。これにより、副駆動源としては、高い出力領域まで出力可能な駆動源を採用する必要がなく、最大出力を待機出力が出せる程度のもので足りる。従って、副駆動源のコスト削減や小型化を図ることができる。
【0081】
また、本実施形態の動力伝達装置においては、回転半径調節機構の現状の回転半径を求める回転半径検知部と、回転半径検知部で求められた現状の回転半径に基づき、副駆動源の出力を補正する出力補正部とを備え、制御部は、待機工程中の場合に、出力補正部による副駆動源の出力の補正を禁止する。
【0082】
待機工程中においては、現状の副駆動源の出力が待機出力に設定され、現状の副駆動源の出力と、現状の回転半径と目標回転半径と一致させるために要求される副駆動源の目標出力とが一致しなくなり、副駆動源の出力を補正すること自体に技術的意味がなくなるからである。
【0083】
また、副駆動源の現状の出力と、通常時の副駆動源の目標出力との差が大きくなり過ぎたときに、動力伝達装置が故障していると認定する故障検知部を制御部が備える場合に、待機工程中に、動力伝達装置が故障していると誤って判定することを防止することができる。
【0084】
また、本実施形態の制御部が、副駆動源のみならず主駆動源をも制御するものである場合、制御部は、待機工程中の場合に、主駆動源の出力を低下させることが好ましい。かかる構成によれば、主駆動源の出力低下により迅速に副駆動源の目標出力を上限出力以下まで低下させることができる。
【0085】
また、本実施形態においては、主駆動源の回転数を検出する主駆動源回転数検出部が、主駆動源の駆動力を求める駆動力検知部としての機能を兼ね備える。そして、制御部は、上限判定部で副駆動源の出力が上限出力を超えているか否かを判定するときには、回転半径と主駆動源の駆動力とに基づいて副駆動源に要求される駆動力を求め、待機工程中の場合に、上限判定部で、上限判定部で副駆動源の出力が上限出力以下であるか否かを判定するときには、回転半径と主駆動源の回転速度とに基づいて副駆動源に要求される駆動力を求めることができる。
【0086】
かかる構成によれば、回転半径と主駆動源の回転速度とに基づいて副駆動源の目標出力が上限出力以下となるか否かを判定するため、主駆動源の出力に関わらず、例えば、主駆動源の出力を「0」としても、副駆動源の目標出力を適切に判定することができる。
【0087】
また、本実施形態においては、回転半径調節機構を、入力軸の回転中心軸線に対して偏心した状態で回転するカム部と、カム部に対して偏心した状態で回転自在な回転部と、副駆動源の駆動力が差動機構を介して伝達される伝達部とで構成し、差動機構を、入力軸を介して主駆動源からの動力が伝達される第1入力要素と、副駆動源の駆動力が伝達される第2入力要素と、伝達部に連結される伝達要素とを備え、第1入力要素と伝達要素とが同一方向に同一速度で回転するとき、第2入力要素の回転速度が「0」となるように、構成されている。
【0088】
さらに具体的には、差動機構は、サンギヤ、キャリア及びリングギヤの3つの単式要素を有する第1から第3の3つの遊星歯車機構で構成され、第1遊星歯車機構の3つの単式要素を共線図における並び順に一方から第1単式要素、第2単式要素、第3単式要素とし、第2遊星歯車機構の3つの単式要素を共線図における並び順に一方から、第4単式要素、第5単式要素、第6単式要素とし、第3遊星歯車機構の3つの単式要素を共線図における並び順に一方から、第7単式要素、第8単式要素、第9単式要素として、第2単式要素と第5単式要素とを連結して第1連結体が構成され、第3単式要素と第9単式要素とが連結して第2連結体が構成され、第6単式要素と第7単式要素とが連結して第3連結体が構成され、第2連結体は第1入力要素であり、第1単式要素は第2入力要素であり、第8単式要素が伝達要素であり、第4単式要素は回転不能に固定されるように構成されている。
【0089】
なお、本実施形態においては、主駆動源ENGの駆動力(出力トルク)や偏心量R1の検出誤差やノイズにより大きく誤った現状のピニオントルクの値に基づいて誤って待機工程に移行することを防止するため、STEP2で駆動輪及び被駆動輪の回転速度からタイヤがスリップしているか否かを判定し、スリップしている場合に、ピニオントルクが上限出力を超えているか否かを判定している。これにより、誤った検出結果に基づく待機工程への移行を防止することができる。但し、STEP2を省略してもよく、これによっても「副駆動源のコスト削減や小型化」という本発明の作用効果を得ることができる。
【0090】
また、本実施形態においては、入力軸端部2aと複数のカムディスク5とで入力軸2を構成し、入力軸2が、カムディスク5の貫通孔5aが連なることによって構成される挿通孔60を備えるものを説明した。
【0091】
しかしながら、本発明の入力軸はこれに限らず、例えば、入力軸の構成部品として、一端が開口し他端が閉塞する形状の挿通孔を有する中空の入力軸芯部を設け、円盤状のカムディスクに入力軸芯部を挿通できるように貫通孔を本実施形態のものよりも大きく形成して、各カムディスクを入力軸芯部の外周面にスプライン結合させて、複数のカムディスクを備える入力軸を構成させてもよい。
【0092】
この場合、中空の入力軸芯部には、カムディスクの切欠孔に対応させて切欠孔が設けられる。そして、入力軸芯部内に挿入されるピニオンは、入力軸芯部の切欠孔及びカムディスクの切欠孔を介して、回転ディスクの内歯と噛合する。
【0093】
また、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として、ワンウェイクラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、例えば、揺動リンクから出力軸にトルクを伝達可能な揺動リンクの出力軸に対する回転方向を切換自在に構成されるツーウェイクラッチであってもよい。
【0094】
また、本実施形態の動力伝達装置においては、カムディスク5を連結したカムシャフトを入力軸2とし、カムシャフトに主駆動源ENGの動力が伝達され、ピニオンシャフト72に副駆動源14の駆動力が伝達されるものを説明した。しかしながら、本発明の動力伝達装置はこれに限らず、例えば、ピニオンシャフトを入力軸として、主駆動源の駆動力をピニオンシャフトに伝達し、カムシャフトに副駆動源の動力を伝達してもよい。この場合、本発明の伝達部はカムシャフトとなる。