【文献】
MIMURA H,UPTAKE BEHAVIOR OF AMERICIUM ON ALGINIC ACID AND ALGINATE POLYMER GELS,JOURNAL OF RADIOANALYTICAL AND NUCLEAR CHEMISTRY,2001年,V247 N1,P33-38
【文献】
NAYAK D,BIOSORPTION OF TOXIC,HEAVY,NO-CARRIER-ADDED RADIONUCLIDES BY CALCIUM ALGINATE BEADS,JOURNAL OF RADIOANALYTICAL AND NUCLEAR CHEMISTRY,KLUWER ACADEMIC PUBLISHERS,2005年12月 1日,V267 N1,P59-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊系列から生じる錯体形成していないイオンの溶液濃度は、前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の溶液濃度の10%以下である、請求項1又は2に記載の医薬製剤。
溶液中に存在する前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊系列から生じる錯体形成していないイオンの比率は、前記少なくとも1種の多糖バイオポリマーによって捕捉されたものと比較して、10%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊系列から生じる錯体形成していないイオンの溶液濃度は、前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の最も寿命の長いものの少なくとも4半減期の期間の単位時間当たりの放射性崩壊の総カウントの10%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬製剤。
前記医薬製剤を調製することと、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の前記溶液を前記少なくとも1種の多糖バイオポリマーから分離することとの間の保存期間の50%を超える期間について、前記接触を実施する、請求項9又は10に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部放射性核種療法(endoradionuclide therapy)の分野、特にアルファ線内部放射性核種療法に関する。さらに詳しくは本発明は、内部放射性核種療法に使用される製剤の安全性と有効性と、このような製剤と、これらの製造、治療及び安全な保存のための方法と、に関する。
【0002】
内部放射性核種療法の基礎的原理は、例えば癌治療法のための、望ましくない種類の細胞の選択的破壊である。放射性崩壊は、高エネルギー粒子及び/又は電磁放射線が有する多量のエネルギーを放出する。放出されたエネルギーは、細胞に細胞障害を引き起こし、直接のまたは間接的な細胞死滅を招く。明らかなように、疾患の治療に有効であるためには、このエネルギーと細胞傷害が、主に望ましくない腫瘍細胞を又は腫瘍増殖を支持する細胞を排除するように、放射線は選択的に疾患組織を標的としなければならない。
【0003】
いくつかの種類のベータ粒子放射体が、癌の治療に有効であると長い間考えられている。最近では、アルファ線放射体が、抗腫瘍剤で使用するための目標となっている。アルファ線放射体はいくつかの点でベータ線放射体とは異なり、例えばアルファ線放射体は組織中で大きなエネルギーと短い放射範囲を有する。生理学的環境での典型的なアルファ線放射体の放射範囲は、一般に100μm未満であり、わずかに数個の細胞の直径と同等である。アルファ線放射体は標的に向けられ有効に制御される時、標的細胞を超えて通過していく放射エネルギーは比較的少なく、従って、まわりの健康な組織への傷害が最小になるため、この比較的短い範囲が、アルファ線放射体を微小転移巣を含む腫瘍の治療に特に適したものにしている。これに対して、ベータ粒子は水中で1mm又はそれ以上の範囲を有する。
【0004】
アルファ粒子放射線のエネルギーは、ベータ粒子、ガンマ線、及びX線に比較して高く、典型的には5〜8MeVであり、すなわちベータ粒子放射線のエネルギーより5〜10倍高く、ガンマ放射線のエネルギーより少なくとも20倍高い。非常に短い距離での非常に大きなエネルギー量の供給は、アルファ放射線に、ベータ放射線やガンマ放射線と比較して、極めて高い線エネルギー付与(LET)(linear energy transfer)を与える。これが、アルファ放射性核種の例外的な細胞毒性の理由であり、また健康な組織への照射による許容できない副作用を避けるために必要な放射性核種分布の制御と研究のレベルに対し、厳しい要求を課している。
【0005】
すなわち、アルファ線放射性核種は非常に強力であるが、これを、非疾患組織での取り込みがほとんど又は全く無しで、腫瘍に投与することが重要である。これは、担体としてキレート化分子DTPAに結合したモノクローナル抗体、すなわち臨床的に使用されている放射性医薬ゼバリン(Zevalin)(登録商標)(Goldsmith, S.J, Semin. Nucl. Med. 40: 122-35. Radioimmunotherapy of lymphoma: Bexxar and Zevalin)を使用して、ベータ線放射性核種であるイットリウム90(Y−90)を投与する時に証明されているものと同様に行うことができる。すなわち、放射性核種と担体−キレート化剤結合体との複合体が投与される。起源の異なる完全長抗体以外に、他のタイプのタンパク性担体が記載されており、例えば抗体フラグメント(Adams et al., 「イットリウム90で標識されたCHX−A”−6.5ダイアボディは、免疫不全症マウスでの樹立されたヒト腫瘍異種移植片の増殖を阻害する(A single treatment of yttrium-90-labeled CHX-A"-C6.5 diabody inhibits the growth of established human tumor xenografts in immunodeficient mice)」、Cancer Res. 64: 6200-8, 2004)、ドメイン抗体(Tijink et al., 「アルブミン結合を介する抗表皮増殖因子受容体であるナノボディの改良された腫瘍ターゲティング:モジュラーナノボディ技術の利用(Improved tumor targeting of anti-epidermal growth factor receptor Nanobodies through albumin binding: taking advantage of modular Nanobody technology)」、Mol. Cancer Ther. 7: 2288-97, 2008), リポカリン(lipochalins) (Kim et al., 「再プログラム化されたヒトリポカリン2によるランタニド(III)キレート錯体の高親和性認識(High-affinity recognition of lanthanide(III) chelate complexes by a reprogrammed human lipocalin 2)」、J. Am. Chem. Soc. 131: 3565-76, 2009), アフィボディ分子(affibody molecules) (Tolmachev et al., 「
177Lu標識HER2特異アフィボディ分子を使用するHER2陽性微小異種移植片の放射性核種療法(Radionuclide therapy of HER2-positive microxenografts using a
177Lu-labeled HER2-specific Affibody molecule)」、Cancer Res. 15:2772-83, 2007)、及びペプチド (Miederer et al., 「(神経内分泌腫瘍のソマトスタチン受容体放射線療法のためのアルファ粒子発生核種225Acの前臨床評価(Preclinical evaluation of the alpha-particle generator nuclide
225Ac for somatostatin receptor radiotherapy of neuroendocrine tumors)」、Clin. Cancer Res. 14:3555-61, 2008)がある。
【0006】
多くの医薬的に関連するアルファ線放射体の分解又は「崩壊(decay)」は、「娘(daughter)」核種の生成を引き起こし、これもまたアルファ線放射を伴って崩壊する。娘核種の崩壊は、第3の核種の生成を引き起こし、これもまたアルファ線放射体のことがあり、放射性崩壊の系列、「崩壊系列(decay chain)」、の継続につながることがある。従って、医薬的に関連するアルファ線放射体の医薬製剤はしばしば、それ自体がアルファ線放射体である崩壊生成物を含むであろう。このような状況においては、製剤は放射性核種の混合物を含み、その組成は、製剤化後の時間と、崩壊系列中の異なる放射性核種の半減期とに依存する。
【0007】
アルファ粒子の非常に高いエネルギーは、その大きな質量と一緒になると、核崩壊で放出された粒子に、大きな運動量を付与する。その結果、アルファ粒子が放出されると、等しいが反対の運動量が残りの娘核に付与され、結果として「核反跳(nuclear recoil)」が起きる。この反跳は、ほとんどの化学結合を破壊し、分解時に、親核種が存在するキレート錯体から、新たに生成された娘核種を追い出すのに充分強力である。このことは、娘核種自体がアルファ線放射体であるか又は継続する放射性崩壊系列一部であるという点で、非常に大きな意味を持つ。
【0008】
上記の反跳作用のために、及び放射性崩壊による化学的性質の変化のために、最初に取り込まれた放射性核種の放射性崩壊からこうして生成された娘核種は、キレート化剤と錯体を形成しないことがある。従って、親核種とは異なり、娘核種及び崩壊系列中の以後の生成物は、担体に結合していない場合がある。すなわち、アルファ線放射性医薬製剤の保存は典型的には、遊離の娘核種と崩壊系列中の以後の放射性核種の蓄積、すなわち「内部成長(ingrowth)」、を引き起こし、これらは、もう有効に結合もキレート形成もしていない。結合していない放射性同位体は、所望の製剤中に取り込まれた標的化機構によっては制御されず、従って患者に投与すると、放射性崩壊生成物は、腫瘍組織に向けられず、体内に分布されて健康な組織の望ましくない照射となるであろう。
【0009】
多くの放射性同位体は、専用の製造施設で生成し精製する必要があるため、生成と投与との間のある保存期間は避けられず、医薬製剤は、実用的な程度に保存に対して安定で安全あることが望ましい。過去の方法の大きな問題は、目的とするアルファ線放射性核種が再生産されてしまう組成物を投与することにあった。すなわち、この組成物は、目標量に対して、目的としないアルファ線放射性核種の量を変更することができない。
【0010】
保存期間中の望ましい核種の崩壊は計算でき補正できるが、これは、組成物をより毒性にし及び/又は安全な保存期間を短くし及び/又は好ましくない方法で治療ウィンドウを変化させ得る目的としない娘生成物の蓄積を回避していない。従って、さらに、保存中に組成物が安全であること、又は保存された組成物が安全であることが確保される方法を提供することが、この組成物に有益であろう。
【0011】
トリウム227の分解後の事象は、挑戦の例と見なすことができる。半減期が約18.7日であるトリウム227は、アルファ粒子を放出して分解してラジウム223となる。一方ラジウム223は約11.4日の半減期を有し、分解してラドン219になり、ポロニウム215を生成し、これは鉛211を生成する。これらの各工程は、アルファ線を放射し、ラドン219とポロニウム215の半減期は、それぞれ4秒未満と2ミリ秒未満である。最終的な結果は、例えばキレート化トリウム227の新たに調製された溶液中の放射能は、最初の19日間は上昇し、次に低下し始めるというものである。腫瘍に標的化するのに利用できるトリウム227の量は明らかに減少し続け、従ってトリウム227から得られる総放射能の画分はこの19日の間に低下し、平衡に達する。単純な方法で娘核種が特異的に除去されるなら、トリウム227の量のみを考慮すればよく、治療ウィンドウ(治療効果と有害作用との関係)は、保存期間に無関係となるであろう。
【0012】
医薬溶液中の娘核種の内部成長のさらなる態様は、抗体のような担体の放射線分解に関する。放射線分解は、担体と放射能の両方の濃度に依存するため、娘核種が存在することによる溶液中の放射能の上昇は、望ましい保存可能期間に関連して、許容される出発放射能に制限を加える。すなわち、娘核種に由来する放射能が担体に到達することを阻止できれば、いずれの放射能出発濃度であっても、保存可能期間の点で有益であろう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、多糖バイオポリマーから形成される生体適合性かつ生体分解性のヒドロゲル粒子が、親核種の崩壊後のカチオン性娘核種を極めてよく保持することを立証した。このことは、投与前に調製されるが、錯体形成していない娘放射性核種からの汚染が比較的低レベルで投与可能な高品質の放射性医薬の調製と投与に大きな利点がある。
【0021】
従って、第1の態様において、本発明は、「少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種と少なくとも1種の多糖バイオポリマーとを含む医薬製剤」を提供する。好ましくは、前記多糖バイオポリマーは、錯体形成していないイオンを吸収するか又は吸収することができるものである。特に、前記多糖バイオポリマーは、錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊から生じる錯体形成していないイオンを吸収するか又は吸収することができるものである。これらは、直接の娘核種でも、その放射性崩壊系列のさらに下流の娘核種でもよい。
【0022】
錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊系列から生じる錯体形成していない放射性同位体の溶液中のレベルを低く維持することは特に重要であり、従って、多糖バイオポリマーがこれらを吸収するか又は吸収することができることが好ましい。本明細書において、用語「娘同位体(daughter isotope)」は、放射性同位体の直接の崩壊生成物、及び更に1回以上の崩壊が起こった場合(状況が許す場合)に生じる崩壊系列の下流の同位体の両方を示すのに使用される。同様に、放射性核種の「崩壊系列から生じる(resulting from the decay chain)」同位体という記載は、その放射性同位体のその崩壊の結果として生成するいずれの同位体、及びその崩壊系列において引き続いて起こる崩壊から生じる更にいずれの娘生成物を含む。
【0023】
驚くべきことに、本発明者らは、適切なバイオポリマーが、錯体形成した放射性同位体の溶液から錯体形成していない不要なイオンを吸収するのに極めて有効であることを立証した。従って、第2の態様において、本発明は、「少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の注射溶液を作製する方法であって、前記方法は、前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の医薬製剤を、少なくとも1種の多糖バイオポリマーに接触させ、次に、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の前記溶液を、前記少なくとも1種の多糖バイオポリマーから分離することを含む方法」を提供する。典型的には、この分離は、ろ過、好ましくは無菌ろ過の手段を含む。これは、投与前の最終工程として特に適している。
【0024】
対応する態様において、本発明はさらに、「少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の溶液を含む医薬製剤から、少なくとも1種の錯体形成していない放射性核種を除去する方法であって、前記方法は、前記医薬製剤を少なくとも1種の多糖バイオポリマーに接触させることを含む方法」を提供する。好ましくは、このような方法は、更に、前記多糖バイオポリマーから前記溶液を分離することを含む。任意の適切な分離方法、例えば本明細書に記載された分離方法が、本態様及び任意の適切な態様において使用できる。
【0025】
さらなる態様において、本発明はさらに、「少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の溶液を含む医薬製剤から、少なくとも1種の錯体形成していない放射性核種を除去するための、少なくとも1種の多糖バイオポリマーの使用」を提供する。このような使用は、典型的には、「前記多糖バイオポリマーを前記医薬製剤に接触させ、次に、前記多糖バイオポリマーを前記溶液から(例えばろ過により)分離する」ことによる。
【0026】
この医薬製剤は投与の準備が整った投与器具(例えばシリンジ)で直接提供してもよいので、別の態様において、本発明はさらに、本明細書に記載の医薬製剤を含む投与器具を提供する。このような器具は、典型的には、投与前又は投与中に溶液からバイオポリマーを分離するための方法を備えている。このような器具は、例えば、無菌フィルターのようなフィルターでもよい。シリンジフィルターは、シリンジや類似の器具に適している。
【0027】
本発明は投与前の医薬製剤の最終的精製に非常に適しているので、さらなる態様において、本発明はさらに、「注射溶液の調製のためのキットであって、前記キットは、少なくとも1種の多糖バイオポリマーと、錯体形成したアルファ線放射性核種の少なくとも1種の溶液とを含む、キット」を提供する。このようなキットは、一般に、本明細書に記載の医薬製剤を含む。任意に及び好ましくは、キットは、バイオポリマーからキットの溶液成分を分離するための手段をさらに含む。この点では、フィルター器具が好適である。本発明のキットは投与器具を含んでよく、これは、本明細書に記載されたようなプレフィルド投与器具でもよい。
【0028】
本発明の方法及び使用により作製され又は作製できる注射溶液は、治療における使用、特に過形成性疾患又は腫瘍性疾患の治療における使用に極めて適している。
【0029】
本明細書において、用語「医薬製剤(pharmaceutical preparation)」は、医薬的に許容し得る担体、賦形剤、及び/又は希釈剤を有する放射性核種の調製物(preparation)を示す。しかし、医薬製剤は最終的に投与される形態でなくてもよい。例えば、医薬製剤は、投与前に少なくとも1種の追加の成分の添加を必要としてもよく、及び/又は無菌ろ過のような最終調製工程を必要としてもよい。追加の成分は、例えば最終溶液をインビボの注射に適したものにするのに使用される緩衝液でもよい。本発明の状況に応じて、医薬製剤は、所望の放射性核種錯体の放射性崩壊系列から生じるかなりのレベルの錯体形成していない放射性核種を含んでもよく、これは、好ましくは、投与前に本発明の方法によって相当程度除去される。このような方法は、製剤の保存期間の大部分の期間中にこのような錯体形成していない放射性核種を連続的に吸収するものであってもよく、又は投与直前の最終段階に実施するものであってもよい。医薬製剤は、本明細書に記載の少なくとも1種のバイオポリマー成分を含んでもよい。そのようなポリマーに結合しているか又はそのようなポリマー内にある金属イオンはいずれも、製剤内に含有されてはいるが、本明細書における製剤中の親放射性核種の場合とは異なり、「溶液中にある(in solution)」とも「錯体形成していない(uncomplexed)」とも見なされず、すなわち「溶液濃度(solution concentration)」という記載には含まれない。
【0030】
医薬製剤の場合とは異なり、本明細書における「注射溶液(injectable solution)」又は「最終処方(final formulation)」は投与の準備が整った医薬を示す。このような処方(formulation)はまた、医薬的に許容し得る担体、賦形剤、及び/又は希釈剤を有する錯体形成した放射性核種の製剤を含み、さらに、無菌で、適切な浸透圧を有するが、許容されないレベルの錯体形成していない放射性崩壊生成物は含まない。そのようなレベルは、本明細書でさらに考察する。本明細書で記載したように、溶液の調製にバイオポリマーを使用することは好ましいが、注射溶液はバイオポリマー成分を含まないことは明らかである。
【0031】
本発明は、「不要な放射性崩壊生成物を捕捉するために少なくとも1種の多糖バイオポリマーの構造体を使用し、患者への投与の直前に、上乗せされた放射性粒子を溶液から迅速に分離する、投与の準備が整った放射性製剤の無菌最終処方の精製及び調製のための簡単な方法」を提供する。この分離は、患者への投与に使用するために最終処方をシリンジ内に引く時に実施する無菌ろ過によって行ってもよい。
【0032】
本記載の通り実施すると、本発明は、治療に使用される放射性医薬の精製及び最終処方のための簡便なキット(本明細書に記載されたキット)を提供する。本発明のキットは、例えば、医薬溶液を有するバイアル、無菌フィルター及びシリンジを含んでもよい。キットの構成要素は、別々に分かれていても、1個にまとめられていてもよい。
【0033】
本発明は、「例えばキットとして提供される構成要素を使用する、注射用の最終処方の調製手順の使用」を提供する。本発明の方法及び/又は使用のいずれの手順もインキュベーション工程を含んでよく、この工程では、医薬製剤は、例えば軽い振とうにより混合されて、粒子として又はバイアルの内表面上の皮膜として備えられている多糖バイオポリマーによって、娘核種を最適に捕捉することが可能である。
【0034】
錯体形成した放射性核種の溶液とバイオポリマーとが接触する本発明の医薬製剤は、溶液中で、錯体形成していない金属イオンは低濃度であることが好ましく、特に、錯体形成していない放射性金属イオンは低濃度であることが好ましい。典型的には、例えば、放射性同位体(例えばアルファ線放射性同位体)の錯体形成していないイオンの溶液濃度は、好ましくは、(溶液からの)単位時間当たりの放射性崩壊の総カウントの10%以下であり、残りは錯体形成したアルファ線放射性核種の崩壊により生じるものである。これは、好ましくは、総カウントの5%以下、さらに好ましくは、3%以下である。バイオポリマーは錯体形成していない放射性娘同位体を捕捉するように作用するので、バイオポリマーと捕捉された核種からの単位時間当たりの放射性崩壊の放射能カウントがはるかに大きいことは明らかであろう。しかし、このバイオポリマーは、投与前に溶液成分から分離される。すなわち、これに相応して、本発明の方法と使用は、錯体形成したアルファ線放射性同位体を含む溶液成分を、捕捉された錯体形成していない放射性イオンを含むバイオポリマー成分から分離する工程を含んでよく、これによって、放射性同位体(例えば、アルファ線放射性同位体)の錯体形成していないイオンの濃度が単位時間当たりの放射性崩壊の総カウントの10%以下である溶液が残る。これは好ましくは、総カウントの5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
【0035】
同様に、錯体形成していない放射性核種の溶液濃度は低いので、典型的には、本明細書に記載の医薬製剤においては、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊系列から生じる錯体形成していないイオンの溶液濃度は、前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の溶液濃度の10%(mol/L)以下である溶液濃度であってもよい。これは、好ましくは、総カウントの5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
【0036】
さらに、錯体形成していない放射性核種の溶液濃度は低く、そのような放射性核種の大部分はバイオポリマーにより捕捉されるので、典型的には、本明細書に記載の医薬製剤においては、溶液中の錯体形成していないイオン(特に、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊系列から生じるもの)の崩壊から生じる放射能カウントは、前記少なくとも1種の多糖バイオポリマーにより捕捉される錯体形成していないイオンの崩壊から生じるカウントの10%以下であるカウントであってもよい。これは、好ましくは、総カウントの5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
【0037】
本発明の種々の態様の更なる利点は、放射性医薬の作製時点とその投与時点との間で経過する保存及び輸送の期間にわたって、錯体形成していない放射性核種を溶液中で低レベルに維持するためにバイオポリマーが使用できることである。すなわち、本明細書に記載の医薬製剤は、好ましくは、錯体形成していない放射性核種のイオンの溶液濃度が、錯体形成したアルファ線放射性核種の最も寿命の長いものの少なくとも2半減期の期間の総放射性崩壊カウント(医薬製剤の溶液部分の総放射性崩壊カウント)(単位時間当たりの崩壊)の10%以下である。この期間は、好ましくは前記半減期の3半減期であり、さらに好ましくは4半減期である。
【0038】
本発明の医薬製剤には、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種が含まれている。一般に、そのような核種は、核の質量が少なくとも100であり、半減期が4時間から1年の間、好ましくは1日から60日の間である。好適な錯体形成したアルファ線放射性核種は、
227Th、
223Ra、
225Acから選択される少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種を含む。最も好ましいアルファ線放射体は、
227Thである。
【0039】
本発明の医薬製剤及びこれに相応して得られる注射溶液において、少なくとも1種のアルファ線放射性核種は、適切なキレート化物質を用いて錯体形成されている。種々の適切なアルファ線放射性核種について、多くの適切なキレート化剤が知られており、例えば、DOTA(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸)に基づくもの及び他の大環状キレート化剤、例えばキレート基を含むヒドロキシフタル酸若しくはヒドロキシイソフタル酸、並びにDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)の種々の変異体、又はオクタデンテートヒドロキシピリジノン含有キレート化剤がある。好適な例は、ヒドロキシピリジノン
部分(例えば、1,2−ヒドロキシピリジノン
部分及び/又は3,2−ヒドロキシピリジノン
部分)を含むキレート化剤である。これらは、
227Thと組合せて使用するのに十分適している。
【0040】
本発明の医薬製剤及びこれに相応して得られる注射溶液において、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種は、好ましくは、少なくとも1種の標的化のための
部分に結合している。そのような成分の多くは当該分野で公知であり、任意の適切な標的化のための
部分が単独で又は組み合せて使用できる。適切な標的化のための
部分は、ポリペプチド及びオリゴペプチド、タンパク質、DNA及びRNAフラグメント、アプタマー等を含む。好適な成分は、ペプチド及びタンパク質のバインダー、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体(IgG型及びIgM型抗体を含む)、又はタンパク質若しくはフラグメントの混合物、又はタンパク質の構築物を含む。抗体、抗体の構築物、抗体のフラグメント(例えば、Fabフラグメント、単一ドメイン抗体、1本鎖可変領域フラグメント(scFv)等)、抗体フラグメントを含む構築物、又はこれらの混合物が特に好ましい。
【0041】
本明細書に記載の種々の成分以外に、医薬製剤は任意の適切な医薬的に適合性のある成分を含んでもよい。放射性医薬の場合、これらは典型的には少なくとも1種の安定剤を含む。アスコルビン酸(ascorbate)及び/又はクエン酸(citrate)のようなラジカルスカベンジャーは、非常に適している。血清アルブミン(例えばBSA)も、特にタンパク質及び/又はペプチドの成分(例えば、抗体及び/又はこれらのフラグメント)を保護するために、適切な添加剤である。
【0042】
本発明の方法と使用において、医薬製剤の溶液部分とバイオポリマーとの接触は、医薬の調製時からその投与の少し前まで、連続的に行ってもよい。これは、最も好適な方法である。あるいは、この接触を、投与のために溶液を引き出す直前のほんの短時間の間だけ実施することも可能である。すなわち、一つの好適な実施態様において、前記医薬製剤を調製することと、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の前記溶液を前記少なくとも1種の多糖バイオポリマーから分離することとの間の保存期間の50%を超える期間について、前記接触を実施する。
【0043】
別の態様において、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の前記溶液を前記少なくとも1種の多糖バイオポリマーから分離する前に、8時間以下の間(例えば、3時間以下の間)、好ましくは1時間以下の間、前記接触を実施する。
【0044】
本発明の方法、使用、キット及び器具を含む本発明のすべての態様において、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種を含む溶液を多糖バイオポリマーから分離することが好ましい。バイオポリマーが表面皮膜(例えば、バイアル上又はプレートのウェル上の表面被膜)である場合、これは、単に溶液を引き出すか又はデカントすることによって行われる。しかし、この分離はろ過によって実施することが好ましい。好ましくは、そのようなろ過は無菌ろ過であり、従って、注射に適した無菌溶液ができる。これに相応して、本発明のキットは、任意に及び好ましくは、さらに、フィルター(例えば、孔径0.45μm又は孔径約0.22μm)を含む。すべての場合において、孔径が0.45μm以下のフィルター、好ましくは0.22μm以下のフィルターによるろ過が好ましい。
【0045】
本発明のすべての態様は、少なくとも1種の放射性核種に結合する性質を有する少なくとも1種の多糖バイオポリマーの構造体に関する。
【0046】
本発明のすべての態様での使用に適した多糖バイオポリマー構造体は、充分な表面積を提供し、有効量の放射性核種に結合できる限りは、いかなる形及び大きさでもよい。
【0047】
放射性核種に結合するための大きくて規則的な表面が得られ、また、製造が容易なことから、その粒子は、典型的には、ほぼ球形である。しかし、充分な表面積を達成できる他の粒子形も適しており、例えば楕円、棒状及び板状の粒子、繊維、シート、スレッド、及び織布が含まれる。また、多糖バイオポリマーはバイアルの内表面を皮膜するために使用してもよく、この場合、注射用の最終処方の調製が容易になる。
【0048】
無菌ろ過を容易にするために、粒子又は構造体の大きさは、使用するフィルター(通常、球状粒子について0.22又は0.45μmのカットオフ)に入り込むほど小さくてはいけない。すなわち、粒子や他の構造体を製造し、又は取り扱う場合には、医薬的に許容される無菌フィルターに入り込むような形や大きさが含まれないように注意しなければならない。このことは、大きな表面積を得ることよりも重要である。従って、粒子の寸法の最小サイズは、好ましくは、少なくとも0.4μm、さらに好ましくは、少なくとも0.5μm、最も好ましくは、少なくとも10μmである。適切なカットオフ値より小さい寸法を有するものは、粒子の1%以下であることが好ましい。
【0049】
本発明に包含される方法で使用される粒子は、均一(homogeneous)でも不均一(inhomogeneous)でもよく、ここで、均一性については、粒子の内側から外側への多糖バイオポリマーの濃度勾配が参照される。均一な多糖バイオポリマー粒子は、粒子の断面を通して多糖バイオポリマーが規則的に分布し、濃度勾配が実質的にゼロである。本明細書において、「濃度勾配(concentration gradient)」は、粒子の中心から粒子の表面へ向かっての距離の関数としての、粒子中の多糖バイオポリマーの濃度である。不均一な多糖バイオポリマー粒子は、粒子を通して多糖バイオポリマーが不規則に分布する。これは、一般に、粒子の中心よりも粒子の表面に向かって多糖バイオポリマーの濃度が高い。均一な球及び不均一な球を
図1に例示する。均一な粒子及び不均一な粒子の両方とも、本発明の目的に有効である。
【0050】
好ましくは、本発明の多糖バイオポリマー粒子を、金属イオンを使用して架橋する。好適な架橋可能な多糖はアルギ
ネート(alginates)であり、これは任意の適当なカチオンを用いて架橋される。アルギ
ネートは、褐藻類中に存在する構造多糖であり、乾物量の最大40%を構成する。その主要な機能は、藻類組織に強度と柔軟性とを与えることである。アルギ
ネートは、β−D−マンヌロン酸(M)とα−L−グルロン酸(G)が1−4−結合した残基の非分岐の2成分共重合体である(
図2に示す)。この2つのウロン酸モノマーの相対量とポリマー鎖に沿ったこれらの連鎖配列は、アルギ
ネートの起源によって大きく変動する。ウロン酸残基は、ブロックのパターンでポリマー鎖に沿って分布し、G残基の同種重合体のブロック(Gブロック)、M残基の同種重合体のブロック(Mブロック)、及びM単位とG単位の交互の配列を有するブロック(MGブロック)が共存する。すなわち、アルギ
ネート分子は、モノマーの組成のみで全体を表すことはできない。平均ブロック長を計算するために、アルギ
ネート鎖中のM残基とG残基の配列のNMR解析が必要であり、適切な方法は当該分野で公知である。また、アルギ
ネートが規則的な繰り返し単位を持たないことはNMR解析により証明されている。アルギ
ネートの機能的性質は、おもにG含量、Gブロック長中のGの平均数、及び分子量により影響を受ける。
【0051】
アルギ
ネートはほとんどの2価及び多価のカチオンとともにゲルを形成するが、カルシウムが最も広く使用される。1価のカチオンと2価のMg
2+イオンは、ゲル化を誘導しない(I . W. Sutherland, "Alginates", Biomaterials; Novel Materials from Biological Sources, D. Byrom, ed., New York, 1991, pp.309-331)。ゲル化反応は、アルギ
ネート分子内のGブロック間の鎖内結合に2価カチオンが入ってくる時に起こり、ゲルの形の3次元ネットワークができる。例えば、カルシウムイオンによるゲル化は、室温及び生理的pHで形成、固定される熱安定性ゲルを瞬時に形成する。ゲル強度は、グルロン酸含量とGブロック中のG単位の平均数(N
G>1)とに依存する。さらに、使用するアルギ
ネートの分子量を上げた場合、少なくとも分子量のある限界までは、ゲルの強度も増加する。アルギ
ネートゲルが多くの金属カチオンに有効に結合することは、本発明者らにより確認されている。このことは、種々の放射性核種の捕捉を可能にするのに有利であるばかりではなく、所望の放射性核種の崩壊後に放射性崩壊系列が連続して続き、その時には種々の化学的に異なる放射性同位体が存在することから、非常に重要である。さらに、これらの追加される放射性同位体は、例えばアルギ
ネートにより捕捉し、溶液から除去するよう制御しない場合には、親放射性核種を有する錯体である標的化のための
部分を放射線分解してしまう可能性がある。
【0052】
アルギ
ネートゲルの性質が製造法に大きく依存することは証明されている。カルシウムイオンがアルギ
ネート溶液の液滴中へ拡散することによってゲルビーズが形成される時、ビーズ中のポリマーの不均一な分布が起こる。これは、ゲル化領域へのアルギ
ネート分子の拡散速度に対するビーズへのゲル化イオンの拡散速度の差により説明することができる(G. Skjak-Braek, O. Smidsrod & H. Grasdalen, 「不均一多糖イオン性ゲル("Inhomogeneous polysaccharide ionic gels")」、Carbohydr. Res., 10, 1989, pp.31-54)。均一性に影響を与える別の因子は、Na
+又はMg
2+のような非ゲル化イオンの存在である。このようなイオンは、ゲル化プロセス中にゲル化イオンと競合して、より均一なビーズを作る。より均一なビーズは、また、より不均一なビーズより、機械的に強くかつ高い多孔性を有する。例えば、塩化カルシウムとともに塩化ナトリウムを加えると、より均一なゲルビーズが生成する。高濃度のゲル化イオンと非ゲル化イオンの両方を用いてゲル化された高分子量アルギ
ネートの場合に、最大の均一性に達する。
【0053】
本出願については、高い多孔性より機械的強度が好ましい。
【0054】
本発明のすべての態様に適用可能なさらなる実施態様において、多糖バイオポリマーは、その完全性を維持し、及び/又は放射線分解による崩壊を低減するために、任意に、少なくとも1種の材料で被覆してもよい。
【0055】
本発明のさらなる実施態様は、混合ポリマーからなる粒子又は他の構造体を使用するものである。ここで、混合ポリマーは、アルギ
ネートと構造完全性及び/又は形をさらに提供する別のポリマーとを組合せることにより得られ、かつ、その混合ポリマーには、治療用核種を担持する抗体のようなタンパク質は付着しない。過去に医薬製剤で使用されているポリマーが好適であり、例えば、ポリエチレングリコール及びその分岐構造体がある。
【0056】
ある態様において、本発明は、「放射性金属に結合する能力を有する少なくとも1種の多糖バイオポリマーの粒子と、少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤又は担体とを含む医薬製剤」を提供する。医薬的に許容し得る担体及び賦形剤は、当業者に公知であり、例えば、塩、糖及び他の浸透圧調整剤、緩衝剤、酸、塩基,及び他のpH調整剤、粘度調整剤、着色剤等がある。
【0057】
特に好適なものは等張の生理食塩水であるが、生理学的に許容されかつ放射性核種の担体−キレート結合錯体と適合性のある任意の他の液性担体又は担体の混合物が使用できる。そのような液性及びゲルの担体又は担体システムの多くは、医薬製剤の製造分野の当業者に公知である。
【0058】
本発明の組成物または医薬処方から得られる注射溶液は、ある範囲の疾患の治療に適しており、過形成性疾患及び腫瘍性疾患のような好ましくない細胞増殖に関する疾患の治療に特に適している。例えば、転移性及び非転移性の癌性疾患(例えば、小細胞および非小細胞の肺癌、悪性黒色腫、卵巣癌、乳癌、骨癌、結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、肉腫、リンパ腫、白血病、前立腺の腫瘍、及び肝臓腫瘍)は、すべて適切な標的である。治療の「対象(subject)」は、ヒト又は動物であり、特に哺乳動物、特に霊長類、イヌ、ネコ、又はげっ歯動物でもよい。
【0059】
本発明の他の態様は、本発明の組成物の提供又は治療に使用される医薬の製造における本発明の組成物の使用である。そのような治療は、特に、上記で特定したものを含む疾患の治療である。本明細書において、「治療(treatment)」には、反応的及び予防的な治療、原因的及び対症的な療法、及び緩和が含まれる。
【0060】
本発明から得られる医薬の治療における使用は、併用療法の一部でもよく、これは、治療の必要な対象への本発明の注射溶液の投与及び1つ以上の追加の治療を含む。適切な追加の治療法は、手術、化学療法、及び放射線療法(特に外部ビーム放射線療法)を含む。
【0061】
併用療法は、本発明の特に好適な実施態様であり、これは、同時に、逐次的に、若しくは交互に、又はこれらの組合せで実施してもよい。すなわち、併用療法は、1種類の治療の後に1種類以上の他の治療を行うことを含み、ここで、各種類の治療は1回以上繰り返されてもよい。同時に行う併用療法の1つの例は、同じ時点で、(同じ投与法又は異なる投与法によって)本発明の最終処方の投与と化学療法とを組合せたものである。このような併用治療は、例えば腫瘍が手術で除去された後のように、同時に実施する治療を開始することによって、逐次的に実施する治療と組み合わせてもよい。併用療法は、患者の状態に基づいて、必要に応じて1回またはそれ以上繰り返してもよい。
【0062】
交互に実施する併用療法の例は、本発明の最終処方の投与を伴い、異なる日又は異なる週で交互に行う、1種類以上の治療期間の化学療法である。
【0063】
さらなる態様において、本発明は、本発明の方法を実施するための器具又はキット、例えばあらかじめ充填された器具を含む。これらは、例えば、本発明の組成物が充填されたバイアル、シリンジ、又は他の容器、シリンジへ無菌フィルターが連結されたもの、最終処方を投与するために用いられるその他の投与器具を含む。すなわち、典型的な器具は、本発明の組成物によってすぐに精製するためのキットであり、例えば、担体に結合しキレート化した1次放射性核種及び内部成長した娘核種の放射性製剤の溶液が容器中(好ましくは、シリンジのような投与容器)に保存され、その溶液中に含まれているある量の多糖バイオポリマー粒子を含むキットである。放射性製剤は混合され、インキュベートされ、そして最終処方は、例えば、無菌ろ過、遠心分離、又は重力分離、又はこれらの単位操作の組合せにより単離される。
【0064】
実施例に示されるように、
227Th
4+の調製物(preparation)中の内部成長した
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+の核種のほぼ100%は、アルギ
ネートゲルビーズに結合する。
【0065】
本発明の医薬組成物から形成される及び形成可能な注射溶液、及び本発明のキットを使用して形成される注射溶液は、明らかに本発明のさらなる態様を形成する。そのような溶液は、例えば、少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種と少なくとも1種の医薬的に許容し得る担体もしくは希釈剤の溶液を含む注射溶液でもよく、ここで、前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の放射性崩壊系列から生じる任意の錯体形成していないイオンの溶液濃度は、前記少なくとも1種の錯体形成したアルファ線放射性核種の溶液濃度の10%以下である。このような溶液は、本発明のいずれかの方法によって、及び/又は本発明のいずれかの組成物からバイオポリマー成分を除去することによって(例えば、ろ過によって)、形成されるか又は形成可能である。
【実施例1】
【0067】
(アルギ
ネートゲルビーズ上への放射性核種の捕捉)
この実施例では、その娘核種である
211Pb
2+及び
211Bi
3+と平衡である
223Ra
2+の溶液を使用した。
【0068】
あらかじめ形成したアルギ
ネートゲルビーズの既知量を、例えば、精製水、0.9%NaCl溶液(生理食塩水とも呼ぶ)又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBSとも呼ぶ)を使用して、連続して洗浄し、過剰のゲル化カチオンを除去する。放射性核種を酸性溶液に導入する場合は、低pH(高酸濃度)の悪影響を避けるために、中和緩衝液が推奨される。
【0069】
223RaCl
2溶液としてのラジウム223を、PBSの一定分量で希釈する。この溶液の放射性含量(Bq/mLとして測定される)は、適切な手段により測定する。このような手段には、特に限定されないが、2つの技術の名前を挙げると、高性能ゲルマニウム検出器(HPGe、EG&G Ortec、GEM15−Pゲルマニウム検出器)又はヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器(NaI、Perkin Elmer、Wizard 1480)を使用するガンマ分光法がある。
【0070】
次に、アルギ
ネートゲルビーズの既知量(重量)を放射能の既知量(Bq/mL)と混合する。
223Ra
2+の結合のため、室温条件、間欠的振盪及び30〜60分のインキュベーション条件は、すべての利用可能な
223Ra
2+とその娘核種を結合するのに充分である。
【実施例2】
【0071】
(カルシウム架橋した均一及び不均一なアルギ
ネートゲルビーズへの
223Ra
2+及び娘核種の結合)
アルギ
ネートをゲル化する方法は、アルギ
ネートゲルの内部構造に影響を与えることがある。アルギ
ネートゲルビーズの中央部分を通してアルギ
ネート濃度を評価すると、ゲル化溶液中に存在する塩化ナトリウムで作製したゲルと、ゲル化溶液中に存在するマンニトールで作製したゲルとの間には差がある。ナトリウムイオンは、ゲル化反応中にカルシウムと競合する非ゲル化カチオンの代表である。これは、形成中のゲルビーズ内のアルギ
ネートの移動を有効に遅くする。アルギ
ネート分子が動かないと、形成されるゲルは全体を通して均一なアルギ
ネート濃度を有する(均一なゲル(homogeneous gel))。しかし、カルシウム結合と競合するか又はこれを妨害する他のイオンが無い場合は、不均一なゲル(inhomogeneous gel)が形成される。この場合、カルシウムはアルギ
ネートの液滴の中へ拡散するが、一方では、液滴中のアルギ
ネートはゲル化領域に向かって移動する。これにより、ゲルビーズを通してアルギ
ネート勾配ができ、その結果、ビーズの外側部分に沿ってより高いアルギ
ネート濃度となり、ビーズの中心でより低いアルギ
ネート濃度となる(
図1)。ゲルビーズの外側部分に沿ったより高いアルギ
ネート濃度は、ビーズに強度を与えるとともに、さらなるイオン(放射性核種イオンを含む)と結合するために利用可能なより多くの結合部位を提供する。
【0072】
図3は、均一なカルシウム架橋したアルギ
ネートゲルビーズを作製し、次に
223RaCl
2の溶液中でインキュベートした実験の結果を示す。
【実施例3】
【0073】
(トリウム227の存在下における娘核種の捕捉)
カルシウム架橋した不均一なアルギ
ネートゲルビーズを、
227Th
4+としてのトリウム227の溶液とインキュベートした。
図4から明らかなように、
227Thの放射性崩壊中に生成した
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+の100%が、1時間のインキュベーション後に、あらかじめ形成されたアルギ
ネートゲルビーズに結合した。これに対し、結合した
227Th
4+は30%であった(
図4)。
【0074】
第2の実験を行い、捕捉が非常に迅速で、基本的に5分以内に完了することを証明した(
図5)。
【実施例4】
【0075】
(Th−227の調製物からの放射性娘核種の捕捉)
娘核種を有する
227Th標識モノクローナル抗体の調製物(総活性:1mLのPBS中で300kBq)を、不均一なカルシウム架橋又はストロンチウム架橋したアルギ
ネートゲル粒子/ビーズ(500mg)に加え、次に、室温で1時間インキュベートした。アルギ
ネートゲルビーズの放射性核種結合効率(radionuclide binding efficiency)は、インキュベーション溶液(S+beads)中、上清の半分(
1/
2S)中、及びアルギ
ネートゲルビーズを含む残存画分(
1/
2S+beads)中における各放射性核種の量を測定することにより評価した。測定は、高性能ゲルマニウム検出器(HPGe、EG&G Ortec、GEM15−P)で行なった。ゲルビーズへ結合している画分を計算するために、以下の式を使用した:
【0076】
【化1】
【0077】
カルシウム架橋及びストロンチウム架橋した不均一なアルギ
ネートゲル粒子中において、同様の高効率で、
227Th−mAbから放射性核種
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+が除去された(表1)。
【0078】
【表1】
【0079】
ビーズの容積は計算で考慮されないため、ゲルに結合した画分は、わずかに過小評価されている。
【実施例5】
【0080】
(Th−227の調製物からの放射性娘核種の除去)
娘核種を有する
227Th標識モノクローナル抗体の調製物(総活性:1mLのPBS中で65〜110kBq)を、不均一なストロンチウム架橋したアルギ
ネートゲル粒子(25〜500mg)に加え、次に、室温で5〜120分間インキュベートした。アルギ
ネートゲルビーズの放射性核種結合効率は、インキュベーション溶液(S+beads)中、上清の半分(
1/
2S)中、及びアルギ
ネートゲル粒子を含む残存画分(
1/
2S+beads)中に存在する各放射性核種の量を測定することにより評価した。測定は、高性能ゲルマニウム検出器(HPGe、EG&G Ortec、GEM15−P)で行なった。アルギ
ネートゲル結合核種の画分は実施例4のように計算したが、ビーズの容積は計算で考慮されないため、真の値はわずかに過小評価されている。
【0081】
結果を
図6と7に要約する。グラフは、
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+のほとんどが、
227Th−mAbを加えた25mg以上のアルギ
ネートゲルビーズのすべてから、5〜15分未満で除去されることを示す。約30%の
227Thに関連した放射能が平均して喪失することが観察された。しかし、アルギ
ネートゲルビーズを1mLの0.9%NaClで3回洗浄した後は、
227Thの回収率は95%以上まで上昇した。
227Thの放射化学純度は調べなかったが、喪失の一部はゲルに結合している遊離の
227Th
4+である可能性がある。
【実施例6】
【0082】
(トリウム227の調製物から不要な娘核種を除去の場合のアルギ
ネートゲルビーズとサイズ排除クロマトグラフィーとの比較)
放射能標識したタンパク質、ペプチド、抗体、又は他の高分子量化合物の調製物は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して精製し、溶液から遊離の放射性核種を除去することができる。しかし、調製物からの放射性カチオンの除去は、アルギ
ネートゲル粒子/ビーズを使用して、より迅速にかつ放射性調製物のより少ない操作で、実施できる。
【0083】
227Th−mAbとその放射性娘核種
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+を有する調製物を、アルギ
ネートゲルビーズと、NAP−5カラム(GE Healthcare Life Sciences)の従来のサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、精製した。
227Th−mAb溶液の一部(0.4mLの0.5MのNaOAc−緩衝液(pH5.5)中で5MBq)を、ストロンチウム架橋したアルギ
ネートゲルビーズ(0.3g)と室温で15分間インキュベートし、一方、他の一部は、NAP−5カラムの標準的方法を使用して精製した。異なる画分中に存在する各放射性核種の量を、高性能ゲルマニウム検出器(HPGe、EG&G Ortec、GEM15−P)を使用して測定した。
【0084】
【表2】
【0085】
結果を表2に要約し、両方の精製法による
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+の97〜99%の除去を示している。両方の方法とも、
227Thの放射性娘核種の除去について、非常に効率的である。アルギ
ネートゲル結合核種の画分を実施例4のように計算したが、ビーズの容積は計算で考慮されないため、真の値はわずかに過小評価されている。このことは、標準的方法と比較して、ゲルビーズを使用して捕捉された画分がわずかに小さいことを説明していると考えられる。
【0086】
アルギ
ネートゲルビーズによる精製は、あまり時間がかからず、非常に容易であり、簡単な標準的な実験室機器を使用するのみである。
【0087】
1)アルギ
ネートゲルビーズ精製の前に、調製はなかった。
【0088】
2)
227Th−mAbの調製物をアルギ
ネートゲルビーズに単に加えただけで、次に、静かに混合し、室温で15分インキュベーションした。
【0089】
3)アルギ
ネートゲルビーズは沈殿し、精製された
227Th−mAb溶液をピペットを使用して注意深く取り出した。
【0090】
これに対して、NAP−5カラムによる精製は、カラムのコンディショニング、異なる画分の溶出、及び調製物画分を特定するための溶出画分の測定等に必要な時間を含んでいる。
【実施例7】
【0091】
(アルギ
ネートゲルビーズの乾燥)
水溶液中に加えた乾燥したアルギ
ネートゲルビーズは、新たに調製したアルギ
ネートゲルビーズと同じカチオン結合性を有する
2つの方法を挙げると、アルギ
ネートゲルビーズは、凍結乾燥器又はSpeed−Vac濃縮器(Speed-Vac concentrator)を使用して乾燥させることができる。乾燥したアルギ
ネートゲルビーズは、フリーザー中に保存した場合、少なくとも1年の保存可能期間を有する。乾燥したアルギ
ネートゲルビーズは、直接使用するか、又は、使用前に適切な溶液(例えば、水、0.9%NaCl又はPBS)中で0.5〜1時間膨潤させてもよい。
【0092】
放射性娘核種
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+を含有する
227Th
4+溶液(総活性:1mLのPBS中で440kBq)の精製のために、0.2gの新鮮なアルギ
ネートゲルビーズと0.2g(湿重量)のSpeed−Vac乾燥アルギ
ネートゲルビーズを使用して、新鮮な及び乾燥したストロンチウム架橋したアルギ
ネートゲルビーズの比較を行なった。室温で1時間インキュベート後、上清の半分(
1/
2S)中、及びアルギ
ネートゲルビーズを含む残存画分(
1/
2S+beads)中に存在する各放射性核種の量を測定することにより、放射性核種結合効率を評価した。測定は、高性能ゲルマニウム検出器(HPGe、EG&G Ortec、GEM15−P)で行なった。アルギ
ネートゲル結合核種の画分は実施例4のように計算したが、ビーズの容積は計算で考慮されないため、真の値はわずかに過小評価されている。
【0093】
結果を表3に要約する。新鮮なアルギ
ネートゲルビーズと乾燥したアルギ
ネートゲルビーズを使用する場合の
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+の除去について、非常によく似た結果を示している。従って、新鮮なアルギ
ネートゲルビーズと乾燥したアルギ
ネートゲルビーズは、同様に効率的なカチオンスカベンジャーであることが示された。
【0094】
【表3】
【実施例8】
【0095】
(無菌溶液の精製のために乾燥したアルギ
ネートゲルを使用する改良方法)
無菌製造チェーンにおいて、2価及び多価のカチオンのスカベンジャーとしてのアルギ
ネートゲルビーズの使用を容易にするために、無菌の乾燥したアルギ
ネートゲルビーズを使用する改良された精製法を開発した。この方法は、汎用的で、堅牢で、簡単であり、標準的な実験室機器及び実験室の職員に公知の簡単な操作手順を使用する。
【0096】
この方法は、無菌の乾燥したアルギ
ネートゲルを含む無菌反応バイアル(例えば、特に限定されないが、アルギ
ネートゲルビーズが添加されたバイアル、又はアルギ
ネートゲルで被覆されたバイアル)からなる。精製すべき無菌溶液をバイアル中に加え、室温で静かに混合しながら15〜60分インキュベートするか、又は使用するまで単にバイアル中に保存する。精製溶液とアルギ
ネートゲルの簡単な分離が必要であり、その分離法の選択は、使用される反応バイアルの様式に依存する。分離法の例は、特に限定されないが、以下の通りである:
1.アルギ
ネートゲルで被覆され隔膜で密封された無菌容器の場合、精製された溶液は、無菌の0.22μmシリンジフィルターに連結された無菌シリンジを使用して取り出す。
【0097】
2.0.22μmフィルターユニット上のアルギ
ネートゲルビーズを有する無菌バイアルの場合、分離は遠心分離を使用して行い、次に、精製された無菌ろ液は無菌シリンジを使用して取り出す。
【0098】
例として、Speed−Vacで乾燥したストロンチウム架橋したアルギ
ネートゲルビーズ(0.2gの湿重量)を
227Th−mAbを含有する調製物の精製のために使用して、溶液中に存在する娘核種
223Ra
2+、
211Pb
2+及び
211Bi
3+(総活性:0.5mLのPBS中で2.5MBq)を除去した。乾燥したアルギ
ネートゲルビーズを、遠心分離0.22μmフィルターユニット、例えばUltrafree−MC 0.22μmGV遠心分離フィルターユニット(Millipore,CAS:UFC30GV0S)上に置いた。
227Th−mAbの調製物をフィルターユニットに加え、容器を密封し、バイアルを室温で間欠的に振盪しながら30分インキュベートした。300×gで3分間遠心分離し、次に2×0.5mLのPBSで洗浄することにより、精製された
227Th−mAbをアルギ
ネートゲルビーズから分離した。得られたろ液は、使用の準備が整っている、PBS中の
227Th−mAbの精製された無菌注射溶液である。