【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギーベンチャー技術革新事業」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(D)補強繊維を、前記(A)シリカエアロゲルと前記(B)水熱合成原料液固形分との総和に対して最大10質量%含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の断熱材組成物。
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンブロックを親水部とし、ポリオキシプロピレンブロックを疎水部とするノニオン系界面活性剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の断熱材組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔断熱材組成物〕
(1)組成
本発明の断熱材組成物は、(A)気孔率60%以上のシリカエアロゲル、(B)水熱反応により結晶を形成できるセラミックス原料液(以下「水熱合成原料液」という)、(C)界面活性剤、及び(D)補強繊維を含有する成形可能な断熱材組成物である。
必須成分として含有する上記(A)(B)(C)(D)成分の他、さらに、(E)赤外線作用材を含有することが好ましい。
以下、各成分について説明する。
【0018】
(A)シリカエアロゲル
本発明で使用するシリカエアロゲルとは、気孔率60体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上の気孔を有する、粒径50nm〜5mm、好ましくは、使用するシリカエアロゲルの90%以上が粒径1μm〜5mmの範囲内、より好ましくは5μm〜1mm、さらに好ましくは10μm〜500μmの範囲内にあるゲル粒子ある。粒径が500μm以下のシリカエアロゲルを使用することにより、組成物における分散性が良好となるためか、成形により得られる断熱材の強度が高められる。
【0019】
このような粒径のシリカエアロゲルは、当該粒径範囲を有する市販品を用いてもよいし、上記範囲よりも粒径が大きいシリカエアロゲルを適宜粉砕処理して用いてもよい。
【0020】
本発明で使用するシリカエアロゲルは、ナノサイズ(約10〜50nm)の気孔を有し、気孔内には、空気が含有され、密度0.1〜0.4g/cm
3程度と非常に軽い。
【0021】
本発明で用いられるシリカエアロゲルは、好ましくは表面に疎水基を有する、疎水性エアロゲルである。具体的には、粒子表面に、下記式で表わされる3置換シリル基が結合することで疎水性となっている。式中、R
1,R
2,R
3は同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜18のアルキル基、又は炭素数6〜18のアリール基から選ばれ、好ましくはメチル基、エチル基、シクロヘキシル基、フェニル基である。
【0023】
エアロゲルは、気孔率の増加に伴って、自由電子行程を阻害する数10nmの空気孔が多くなるので、熱伝導率が小さくなる。粒子表面に疎水基を有することから、水性媒体中に分散しても、気孔内への水の侵入が防止される。このことは、組成物の状態、さらには成形後の断熱材の状態においても、エアロゲル本来の高い気孔率を保持できること、ひいては優れた断熱性を発揮できることを意味する。
【0024】
このように表面に疎水基を有するシリカエアロゲルは、単独では水性媒体中に均一に分散することができないが、界面活性剤の共存により、水性媒体中に分散させることができる。
【0025】
(B)水熱反応により結晶を形成できるセラミックス原料液(水熱合成原料液)
水熱合成原料液とは、水熱反応によりセラミックス結晶を合成ないし成長させることができるセラミックス原料を水性媒体に溶解ないし分散させてなる溶液ないし懸濁液である。
【0026】
形成されるセラミックス結晶は、水熱反応により結晶化できるものであればよく、例えば、ケイ酸カルシウム水和物、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸塩、チタン酸バリウム等のチタン酸塩、アルミナ水和物、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。これらのうち、ケイ酸カルシウム水和物は、シリカエアロゲルの化学的構造、特に多孔構造に影響を及ぼさないような条件で、結晶形成、育成が可能であり、また原料入手容易性の点からも有利である。また、ケイ酸カルシウム水和物は、それ自体、耐熱性に優れ、断熱性を有しているので、シリカエアロゲルの一部の代替え断熱材としての役割を果たすことができるからである。
【0027】
水熱合成原料は、形成しようとするセラミックス結晶に応じて適宜選択される。例えば、ケイ酸カルシウム水和物結晶を形成しようとする場合、水熱合成原料として、生石灰又は消石灰とケイ酸(またはその原料となるケイ砂)とが用いられる。水熱合成原料として、ケイ酸ナトリウムを使用する場合には、二酸化ケイ素と炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムとが用いられる。また、チタン酸バリウム原料を用いる場合には、例えば、炭酸バリウム等のバリウム源と二酸化チタン等のチタン源を用いることができる。水熱合成原料は、いずれも2又は3成分の混合物であり、成分の混合比率は、形成しようとする結晶の種類に応じて、適宜設定される。
【0028】
形成しようとする結晶形態は、針状、繊維状、短冊状、層状、板状、粒子状などのいずれであってもよいが、好ましくは繊維状又は針状結晶を形成することである。繊維状又は針状結晶は、エアロゲルの多孔構造に及ぼす影響が小さく、またセラミックス結晶同士で絡み合うことができるためか、結合力に優れる傾向があり、断熱材の成形品の強度アップに寄与することができる。使用する水熱合成原料の組成、後述する水熱反応条件によって、結晶の種類、形状を制御することが可能である。
【0029】
ケイ酸カルシウム水和物結晶の場合、ゾノトライト結晶(6CaO・6SiO
2・H
2O)、ネコアイト(Ca
3(Si
6O
15)・8H
2O)、オケナイト(Ca
3(Si
6O
15)・6H
2O)、フォーシャガイド(Ca
4(Si
3O
9)(OH)
2)等のウォラストナイト類;11Åトバモライト(Ca
5・(Si
6O
18H
2)・4H
2O)、9Åトバモライト(Ca
5・(Si
6O
18H
2)等のトバモライト類;トルコスタイト(Ca
14・(Si
8O
20)・(Si
16O
38)
8・2H
2O)等のグリオライト類などがある。これらのうち、繊維状結晶であるウォラストナイト類、短冊状であるトバモライト類が好ましく、より好ましくはウォラストナイト類、特に好ましくはゾノトライト結晶である。
【0030】
水熱合成原料としてケイ酸カルシウム原料を用いる場合、生石灰又は消石灰とケイ酸(またはその原料となるケイ砂)との混合割合は、形成しようとするケイ酸カルシウム水和物結晶におけるCa,Siの含有比率応じて、混合割合を設定することが好ましい。針状ないしは繊維状の結晶、特に好ましいゾノトライト結晶(6CaO・6SiO
2・H
2O)を形成したい場合、Ca源である消石灰とSi源であるケイ石を1:1の割合で混合することが好ましい。
【0031】
(B)水熱合成原料液は、以上のような水熱合成原料を水性媒体中に溶解ないし懸濁分散した懸濁液である。水性媒体としては、水、水と低級アルコールの混合液などが挙げられ、好ましくは、環境、取り扱い性、作業性の点から水である。水熱合成原料液における水熱合成原料、すなわち固形分の濃度は特に限定されず、通常、1〜30質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【0032】
(B)水熱合成原料液には、上記水熱合成原料の他、すでに形成された結晶、種結晶などが含まれていてもよい。
【0033】
(A)シリカエアロゲルと(B)水熱合成原料液との混合質量比は、成形可能な範囲であればよく、シリカエアロゲル(A)と(B)水熱合成原料液の固形分との含有質量比(A:B固形分)で、通常、8:2〜3:7、好ましくは7:3〜5:5の範囲から選択することができる。これらの範囲から、求める特性、使用する水熱合成性原料の種類に応じて適宜選択される。シリカエアロゲルは、それ自体、硬化性、粘着性を有しない。このため、成形された断熱材の形状を保持する観点から、通常、(A)シリカエアロゲルと(B)水熱合成原料液の固形分の総量に対する、(B)水熱合成原料の含有割合(B/(A+B))で20質量%程度必要であり、成形体中のシリ
カエアロゲルの結着力の点からは30質量%以上とすることが好ましい。一方、水熱合成原料から形成されるセラミックス結晶は、それ自体、ある程度の断熱性を有するものの、通常、高多孔性のシリカエアロゲルと比べて劣る傾向にある。したがって、求められる断熱性能にもよるが、シリカエアロゲル(A)と(B)水熱合成原料液の固形分の総量に対する、(B)水熱合成原料の含有割合(B/(A+B))として、70質量%程度以下にしておくことが好ましく、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0034】
(C)界面活性剤
界面活性剤は、シリカエアロゲルが水性媒体中で安定的に分散できるように、さらには、(B)水熱合成原料液に含まれる水熱合成原料との混合性を高めるために、添加されている。
すなわち、本発明で使用するシリカエアロゲルは、粒子表面が疎水化処理されていることから、単独では、水性媒体中に均一に分散することができないが、界面活性剤の共存下で、水性媒体中に均一に分散することが可能となり、水熱合成原料液と均一に混ざりあうことが可能となる。
【0035】
界面活性剤のこのような役割から、組成物で使用する水性媒体、好ましくは水に溶解する界面活性剤が好ましく用いられる。界面活性剤の種類としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることが可能で、特に限定しないが、好ましくはノニオン系界面活性剤が用いられる。
より好ましくは、水性媒体に対する溶解性との関係で、ポリプロピレングリコールを疎水部とし、エチレンオキシドを親水部とするノニオン系界面活性剤であり、好ましくは界面活性剤分子におけるエチレンオキシドのポリマーブロック(ポリオキシエチレンブロック)が20〜60質量%のものが用いられる。また、重量平均分子量が、2000〜7000程度のものを使用することが好ましい。
【0036】
界面活性剤は、シリカエアロゲル含有量の0.1質量%〜20質量%含有させることが好ましく、より好ましくは0.3質量%〜10質量%である。界面活性剤が少なすぎると、シリカエアロゲルを均一に分散させることが困難となる。
【0037】
(D)補強繊維
本発明の組成物は、補強繊維を含有することで、組成物の成形性が改善され、さらに成形された断熱材の強度を高めることができる。
【0038】
本発明において使用できる繊維としては、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維等のセラミックス繊維、炭素繊維等の無機繊維;アラミド繊維、パルプ繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を用いることができる。
【0039】
本発明の組成物に含有される繊維のサイズは、特に限定しないが、径2〜20μmであることが好ましく、より好ましくは5〜15μmである。また繊維長は2〜20mm程度が好ましく、より好ましくは3〜15mm程度である。
【0040】
このような繊維は、(A)シリカエアロゲルと(B)水熱合成原料液の固形分総量100質量部に対して、最大10質量部含有させることができ、好ましくは1質量部〜5質量部である。補強繊維の含有量が多くなるにしたがって、成形性は向上し、また成形体の強度もアップするが、断熱性が低下することになる。
【0041】
(E)赤外線作用材
赤外線作用材とは、赤外線を吸収又は反射することができる物質である。具体的には炭化ケイ素、酸化チタン、カーボンブラック、ジルコン、(Fe,Mn)(Fe,Mn)
2O
4:CuO(アスペン社の「AX9912」)等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0042】
これらの赤外線作用材を含むことで、熱源からの熱エネルギーを吸収、あるいは断熱材内での反射を繰り返すことにより熱エネルギーを低減させることができるので、断熱性を増大させることができる。使用する赤外線作用材の種類は、断熱材の用途(断熱の対象となる熱源の温度)に応じて適宜選択される。例えば、カーボンブラックのような炭素材料は、150℃以上では酸化劣化してしまうため、150℃以下の断熱仕様に適している。炭化ケイ素、酸化チタン等の無機化合物では、輻射熱エネルギーの低減に効果的であることから、200℃以上の高温を断熱する仕様において好ましく用いられる。
【0043】
赤外線作用材の含有量は、赤外線作用材の種類にもよるが、組成物全量(成分(A),(B),(C),(D),(E)の総量)に対して0質量%超〜50質量%、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%とすることが好ましい。50質量%を超えると、相対的にシリカエアロゲルの含有率が低下するため、断熱性の向上効果が小さくなる傾向にあり、コスト的に増大するからである。
【0044】
(2)組成物の調製
本発明の組成物は、以上のような成分を、所定比率で配合することにより調製される。配合方法、各成分の配合順序などは特に限定しないが、シリカエアロゲルの表面が疎水性であること、界面活性剤の不在下では、(A)シリカエアロゲルと(B)水熱合成原料液とを均一に混合させることは困難であることに鑑みて、a)水熱合成原料液に界面活性剤を添加した後、シリカエアロゲルを添加混合する方法;b)予めシリカエアロゲルを界面活性剤の存在下で水性媒体中に分散させてなるシリカエアロゲル分散液を調製し、このシリカエアロゲル分散液と水熱合成原料液を混合する方法などが挙げられる。添加混合は、所定量を一度に添加して混合する方法、少量ずつ添加混合する方法のいずれもよいが、好ましくは少量ずつ添加混合する方法である。また、固形分濃度が高い組成物を調製した後、水性媒体で希釈することにより、所定の固形分濃度の組成物を調製するようにしてもよい。
【0045】
補強繊維は、i)予め(B)水熱合成原料液を混合しておいてもよいし、ii)予めシリカエアロゲル分散液に補強繊維を混合しておいてもよいし、iii)シリカエアロゲル分散液と(B)水熱合成原料液の混合液に補強繊維を添加していてもよいし、iv)シリカエアロゲル分散液又は水熱合成原料液を添加混合する際に、補強繊維を一緒に添加混合するようにしてもよいし、v)含有させる繊維の一部分を(B)水熱合成原料液及び/又はシリカエアロゲル分散液に含有させておき、残りの補強繊維を(B)水熱合成原料液とシリカエアロゲル分散液の混合の際、あるいは混合後に後添加してもよい。
【0046】
添加混合は、溶液を攪拌しながら行うことが好ましく、溶液を超音波振動させた状態で行ってもよい。
【0047】
赤外線作用材を含有する場合には、補強繊維とともに添加混合してもよいし、上記i)〜v)の方法において、補強繊維に代えて、赤外線作用材を添加混合するようにしてもよい。
【0048】
以上のようにして得られる組成物は、(A)シリカエアロゲル、(B)水熱合成原料液、必要に応じて添加される繊維が均一に分散した水性媒体スラリーであり、成形材料として用いることができる。固形分濃度が高い組成物を、成形現場にて水性媒体を加えることで希釈するようにしてもよい。
【0049】
〔断熱
成形体の製造方法〕
本発明の断熱
成形体の製造方法は、上記本発明の断熱材組成物を、所定形状を有する金型内に注入及び脱水して一次成形体を得る工程;及び一次成形体を加熱加圧して、前記(B)水熱合成原料液からセラミックス結晶を合成ないし育成させる工程を含む。
【0050】
前記一次成形体は、前記断熱材組成物を、濾水部を有する金型に注入することにより作製することが好ましい。
【0051】
以下、上記断熱材組成物を用いて、本発明の断熱
成形体を製造する方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、図に示す成形金型は実施形態の1つであり、本発明の方法を限定するものではない。
【0052】
(1)一次成形体の作製工程
調製した断熱材組成物から一次成形体を作製する工程は、成形しようとする形状の充填部を有する金型内に、スラリー状の断熱材組成物を注入し、余分な水を脱水することにより行う。具体的には、濾水部となる多数の排水孔を設けた成形用金型に、断熱材組成物を注入し、プレスすることにより行う。例えば、
図1(a)に示すような、底面が濾水用メッシュ3となっている金型1の充填部2にスラリー状断熱材組成物を注入する。水分が濾水用メッシュ3を通じて、排水孔3aから排水される。次いで、金型1の充填部2に対応したプレス体4を充填部2に押入れ、充填部2内の断熱材組成物10を図中の白矢印方向に圧縮し(
図1(b))、さらに脱水をすることで、金型1の充填部2の形状を有する一次成形体を得る。一次成形体は、断熱材組成物の水性媒体を脱水したもので、粘土状の成形体となっている。
【0053】
プレス時の脱水は、
図1に示すような金型の一面からだけでなく、金型の複数個所から行うこともできる。
図2では、濾水部となる複数の通気孔5aが開設されたプレス体5を使用することで、圧縮により、金型1の底面の濾水用メッシュ3とプレス体5の通気孔5aの双方から脱水され、一次成形体が得られる。
図1及び
図2において、白抜き矢印はプレス方向を示し、黒矢印は排水方向を示している。
【0054】
金型は、成形しようとする断熱材の形状に対応する充填部を有する金型を使用する。
図1及び
図2では、充填部形状が円筒形であったが、例えば、
図3に示すような断面U字状の充填部2’を有する金型1’を用いることで、断面U字状の一次成形体を作製することができる。金型1’の底面には濾水部となる濾水用メッシュ3’が敷設されている。
【0055】
(2)加熱加圧工程
作製した一次成形体を加熱加圧する。この加熱加圧工程は、水熱合成原料からセラミックス結晶を合成ないし育成する工程であり、通常、オートクレーブを用いて行う。従って、加熱温度、加熱時間、加圧圧力は、使用する水熱合成原料の組成、形成しようとする結晶の種類に応じて適宜設定される。
【0056】
例えば、ケイ酸カルシウム水和物原料を用いた場合、一次成形体の加圧は、3〜20気圧程度、好ましくは8〜15気圧程度、加熱温度は100〜250℃程度、好ましくは150〜200℃程度で行い、加熱加圧時間は、特に限定しないが、1〜10時間程度行うことが好ましい。例えば、ゾノトライト結晶が繊維状(針状)に成長させたい場合、加熱温度は、150〜250℃、加圧圧力は、8〜15気圧、加熱加圧時間は、1時間〜8時間程度とすることが好ましい。
【0057】
水熱反応によるセラミックス結晶の合成は、シリカエアロゲル及び補強繊維の表面で進行し、形成されたセラミックス結晶は、シリカエアロゲルの粒子表面、シリカエアロゲル粒子間、シリカエアロゲルと補強材との間隙などで結晶化する。得られる結晶は、加熱加圧工程の条件、使用する水熱合成原料の組成、形成される結晶の種類により異なるが、通常、粒径(針状、繊維状の場合には長径又は長さ)1〜50μm程度である。従って、このようにして、合成されたセラミックス粉末結晶が、エアロゲル粒子に対して結合剤として働き、成形体としての形状保持を可能にすると考えられる。すなわち、高気孔のシリカエアロゲルは、単独では粘結性を有さず、成形しても形状保持できず、加圧により崩壊してしまうが、本発明の組成物を用いて成形した断熱材では、加熱加圧工程で、水熱合成原料が結晶化し、この際、形成される結晶粉末同士が結着していたり、さらにはシリカエアロゲルや補強繊維にも結着することができるので、結果として、シリカエアロゲル粒子の結合剤として働くことができると考えられる。すなわち、成形された断熱材の圧壊が防止されていると考えられる。
【0058】
二次成形体は、所望により、さらに乾燥に供してもよい。乾燥は単なる風乾であってもよいし、熱風乾燥、又はオーブン内に放置することにより行ってもよい。また、400℃以上で焼成することが好ましい。焼成により、耐熱性、断熱性、強度をアップすることができる。
【0059】
本発明の断熱
成形体は、以上のようにして成形されることから、その形状は、シート状、板状だけでなく、カップ状、筒状、角柱状、バルク状をはじめ、成形用金型を選択することにより、所望の形状に成形することが可能であり、さらに穴や凹凸を付した断熱材を成形することもできる。従って、取付穴の後加工等が不要となるので、後加工に伴う損傷を回避することができる。
【0060】
〔断熱材〕
本発明の断熱材は、気孔率60%以上のシリカエアロゲル、セラミックス結晶、及び補強繊維を含有する成形された断熱材である。さらに赤外線作用材が含まれていてもよい。
【0061】
上記構成を有する断熱材は、特に限定しないが、本発明の断熱材組成物を用いて製造することができ、より具体的には、本発明の断熱材の製造方法により製造することができる。従って、上記セラミックス結晶は、断熱材組成物中の水熱合成原料から形成される結晶であることから、通常、粒径(繊維状又は針状結晶の場合には、長径又は長さ)1〜50μm程度である。シリカエアロゲルとセラミックス結晶の含有量比は、原料である断熱材組成物と同程度となる。
【0062】
なお、断熱材原料である断熱材組成物には、界面活性剤が含まれているが、界面活性剤は、有機系化合物であることから、通常、セラミックス結晶の形成工程である加熱加圧工程で、一部ないし全部が焼失していると考えられる。
【0063】
本発明の断熱
成形体において、シリカエアロゲルの高気孔構造の大部分が保持されていることから、シリカエアロゲル本来の優れた断熱性を発揮することができる。
【0064】
上記セラミックス結晶は、シリカエアロゲル粒子を保持する役割を果たす。すなわち、シリカエアロゲルは粘結性を有していない。このため、シリカエアロゲル単独又は補強繊維とともに水性媒体に分散懸濁させたスラリーを、成形型にいれて、加熱加圧しても、保形性を有する成形体を得ることができない。本発明においては、セラミックス結晶がシリカエアロゲルの周囲を取り巻くようにして形成されるとともに、さらにセラミックス結晶同士で結着することにより、保形性を有する成形体(断熱材)を得ることができる。シリカエアロゲルの構造を破壊しない程度の加熱加圧条件であっても、水熱合成可能なセラミックス原料を用いることで、シリカエアロゲル同士をバインドするように、セラミックス粉末結晶が形成されるので、結合剤として作用することができる。
【0065】
セラミックス結晶が、好ましく用いられるケイ酸カルシウム水和物結晶、特にゾノライト結晶の場合、それ自体、0℃にて40mW/m・K、400℃にて80mW/m・K程度で、断熱性を有している。したがって、シリカエアロゲルとケイ酸カルシウムの合計量に対するケイ酸カルシウム水和物の含有率が20重量%以上であっても、シリカエアロゲルに基づく優れた断熱性の低下を抑制できる。一方、ゾノライト結晶をはじめとする針状又は繊維状結晶は、板状、球状結晶と比べて、シリカエアロゲル、補強繊維と絡み合いやすく、少量で優れた結合力を発揮することができ、ひいては、断熱材における補強繊維量、シリカエアロゲル量を高めることができるので、成形された断熱材の強度、断熱性能を高めることができる。
【0066】
以上のような構成を有する断熱材は、シリカエアロゲルの特性に基づき、優れた断熱性、耐熱性、耐火性を有している。具体的には、組成にもよるが、200℃以上、または400℃以上、または600℃以上の耐熱性を有し、25℃における熱伝導性25mW/mK以下、好ましくは20mW/mK以下を達成することができる。さらに、400℃以上で焼成処理ないし400℃以上の温度に長時間曝された後でも、25℃で30mW/mK以下、好ましくは28mW/mK以下の断熱性を保持することができる。
【0067】
本発明の断熱
成形体は、断熱
成形体の状態においても、シリカエアロゲルの粒子の高気孔率が保持されているので、このような優れた断熱性を有することができる。しかも、シリカエアロゲルの粒子の高気孔に基づき、軽量であることから、断熱
成形体が装着される熱機器の軽量化にも役立つ。
【0068】
また、本発明の断熱
成形体は、成形体表面にコーティングを施したものであってもよい。コーティングを施すことで、断熱材表面が他の部材と接触したり、こすれたりした場合に、表面のシリカエアロゲルの粒子がこぼれ落ちたり、表面の捕捉されていないシリカエアロゲル粉末の飛散を防止できる。
【0069】
以上のようにして製造される断熱材は、JIS A9510に準じて測定される曲げ強度として3N/cm
2以上、好ましくは5N/cm
2以上、より好ましくは7N/cm
2以上の強度を有している。かかる曲げ強度は、ケイ酸カルシウムボードや石こうボードと比べて低いが、本発明の断熱材はすでに所望の形状に成形されているので、打ち抜きや切削等の破損性の高い後加工が不要であり、運搬、持ち運びや、被断熱材への装着作業等における破損防止には、3N/cm
2以上の強度で十分満足できる。
【0070】
〔多層断熱材〕
本発明に係る断熱材は、1層構造体に限定しない。例えば、異なる組成を有する断熱材組成物で形成される断熱材層を組み合わせたものであってもよい。例えば、シリカエアロゲルの含有量、セラミックス結晶の含有量、補強繊維の含有量が異なる断熱材層を組み合わせた多層断熱材であってもよい。好ましい多層断熱材の態様は、赤外線作用材を含まない断熱材からなる第1の断熱層と赤外線作用材を含む断熱材からなる第2の断熱層を含む多層構造の断熱材(多層断熱材)である。
【0071】
赤外線作用材を含まない第1の断熱材層(α層)と赤外線作用材を含む第2の断熱材層(β層)との組み合わせとしては、α/βの2層構造の他、α/β/α、β/α/βの3層構造などが挙げられる。この場合、β層を2層以上含む場合、異なる赤外線吸収材を含む層β1、β2とを組み合わせてもよい。例えば、β1/α/β2のように組み合わせてもよい。
【0072】
赤外線作用材を含まない断熱材層(α層)は、熱の放散に優れている。したがって、α層が低温側となるように使用することが好ましい。一方、赤外線作用材を含む断熱材層は、熱エネルギーを自ら吸収あるいは層内で熱エネルギーを反射させることで熱エネルギーを低減させる作用があると考えられる。したがって、β層が熱源側となるように使用することが好ましい。
【0073】
〔用途〕
本発明の断熱材は、優れた断熱性に加えて、耐熱性、耐火性、難燃性に優れているので、高温の断熱を要する用途、箇所に好適に用いることができる。具体的には高温の熱機器の断熱に適している。また、型を選択することによって、種々の形状に対応可能であることから、従来、グラスウールのような無形物を充填するしかなかったような部位、機器にも装着できる断熱材として有効である。
【0074】
代表的な用途としては、燃料電池の改質器のような600℃以上の熱機器に装着される断熱材、高温になる部分に用いられる建材、家電製品の断熱材、汎用のケイ酸カルシウムボードよりも低い熱伝導率が要求される汎用断熱板などが挙げられる。
【0075】
赤外線作用材を含む断熱材層(β層)と赤外線作用材を含まない断熱材層(α層)とを組み合わせた多層断熱材の場合、熱源側がβ層となるようにすることが好ましい。したがって、例えば、円柱状、角柱状の熱機器に装着される多層断熱材では、熱源側となる内周面がβ層で構成され、室温側となる外周面がα層で構成した円筒状、半球状、熱機器が挿入される挿入部をする角柱状の多層断熱材が好ましく用いられる。
【実施例】
【0076】
〔断熱材組成物の調製:成分比率と断熱性能の評価〕
断熱材組成物No.1−8:
(A)シリカエアロゲルとして、CABOT社の1.2〜4.0mmのシリカエアロゲルの粉末(「シリカエアロゲルA’」)をミキサーで粉砕したシリカエアロゲル(「シリカエアロゲルA」)を用いた。シリカエアロゲルAの粒度を、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所製、分散液:エタノール)で測定したところ、10〜400μmであった。
【0077】
(B)水熱合成原料液として、生石灰(CaO))水溶液とシリカ(SiO
2)水溶液をCaO:SiO
2=1:1(固形分の質量比)で混合したケイ酸カルシウム原料液(固形分濃度約5質量%)を用いた。
【0078】
(C)界面活性剤としては、ポリプロピレングリコールを疎水基とし、エチレンオキシドのポリマーブロックを親水部とするノニオン系界面活性剤(総分子量中のエチレンオキシド含有率40質量%)を用いた。(D)補強繊維としては、ガラス繊維(平均繊維径13μm、平均繊維長6mm)、シリカ繊維及び/又はパルプ繊維を用いた。
【0079】
上記(A)〜(D)の成分を、表1に示す割合で混合し、断熱材組成物No.1〜8を調製した。組成物は、ケイ酸カルシウム水和物原料液に、所定量の界面活性剤及び繊維を添加した後、上記シリカエアロゲルを少量ずつ添加することにより調製した。なお、表1中のケイ酸カルシウム原料液の量は、固形分量(ケイ酸カルシウム原料)としての量を示している。
【0080】
調製した組成物を、濾水部を有する金型に注入して一次成形体とした後、180℃で10.5気圧、4時間オートクレーブで加熱加圧処理した。その後、180℃の乾燥器中に10時間静置して、厚み20〜30mmの板状断熱材を得た。
得られた板状断熱材について、25℃の熱伝導率(mW/mK)を、英弘精機(株)HC−074を用いて測定した(表1中、「熱伝導率1」)。測定後、650℃で2時間、焼成した。焼成後、室温に冷却した断熱材について、JIS A9510に準じて曲げ強度(N/cm
2)を測定し、下記基準に基づいて、「◎」〜「×」の4段階で評価した。また、焼成後、室温にもどした断熱材No.1−3について、熱伝導率(mW/mK)を測定した(表1中、「熱伝導率2」)。結果を表1にあわせて示す。
◎:7N/cm
2以上
○:5〜7N/cm
2
△:3〜5N/cm
2
×:3N/cm
2未満
【0081】
断熱材組成物No.9:
シリカエアロゲルAに代えて、粉砕前のシリカエアロゲルA’を用いた以外は、No.1と同様にして、断熱材組成物を調製し、さらにNo.1と同様にして、熱伝導率(焼成前)及び曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
参考例1:
市販のケイ酸カルシウムボード(参考例1)について、同様に評価した結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
界面活性剤を添加せずに、ケイ酸カルシウム水溶液にシリカエアロゲルの粉末を添加したところ、シリカエアロゲルの粉末とケイ酸カルシウム水溶液とが分離してしまい、組成物自体を調製することはできなかった(No.8)。
【0085】
No.1〜No.6は、いずれも界面活性剤を含有しているので、成形可能な組成物として調製することができた。しかしながら、シリカエアロゲルとケイ酸カルシウムの総和に対して、補強繊維量が少ないと、得られる成形体は崩壊しないものの、強度が十分ではなかった(No.2,3)。
一方、No.3とNo.4との比較から、シリカエアロゲル量に対する界面活性剤量が同じであっても、補強繊維量を増大することで、成形体の強度を改善できることがわかる。補強繊維量を調節することで、ケイ酸カルシウムボード(参考例1)に匹敵する強度を確保することも可能である(No.5)。
【0086】
No.1〜3の比較から、ケイ酸カルシウムとシリカエアロゲルとの混合比率について、シリカエアロゲルの含有比率を高めるほど、熱伝導率が小さくなり、断熱性に優れていることがわかる。従って、求められる断熱性に応じて、シリカエアロゲルの含有率を高めればよい。ただし、シリカエアロゲルの含有割合が高くなりすぎると、相対的にケイ酸カルシウムの含有割合が少なくなるため、補強繊維量を増やしても、成形可能な組成物を得ることはできなかった(No.7)。このことから、ケイ酸カルシウム水和物は、断熱材における結合剤の役割も果たしていると考えられる。
【0087】
さらに、No.1とNo.9の比較から、シリカエアロゲルは、粒径が小さいほど、強度的に優れた断熱材が得られることがわかる。
【0088】
No.1〜3の焼成前の熱伝導率1と焼成後の熱伝導率2の結果から、焼成後においても、焼成前と同程度の熱伝導率、すなわち28mW/mK以下の熱伝導率が得られ、ケイ酸カルシウムボードと比べて、優れた断熱性を保持していた。
【0089】
〔赤外線作用材を含む断熱材No.11−18及び評価〕
(E)赤外線作用材として、炭化ケイ素(SiC:E1)、酸化チタン(TiO:E2)、カーボンブラック(CB:E3)のいずれか1種又は2種の組み合わせを用いた。(A)シリカエアロゲル,(B)ケイ酸カルシウム水和物原料液,(C)界面活性剤,(D)補強繊維としては、No.1と同様のものを使用した。
【0090】
(A)〜(E)を表2に示す量(質量部)だけ混合して、断熱材組成物No.11〜18を調製した。組成物は、ケイ酸カルシウム水和物原料液に、所定量の界面活性剤、補強繊維、及び赤外線作用材を添加した後、上記シリカエアロゲルを少量ずつ添加することにより調製した。比較のために、赤外線作用材を添加しない断熱材組成物No.10を調製した。なお、調製した断熱材組成物No.10−18は、いずれも、(A)シリカエアロゲルと(B)ケイ酸カルシウム原料の含有質量比(A:B)は8:2である。また、シリカエアロゲルとケイ酸カルシウム原料の含有量総和に対する補強繊維の含有量比率(D/(A+B))は、いずれも8質量%である。
【0091】
調製した断熱材組成物No.10〜18を用いて、No.1と同様にして、厚み23mmの板状断熱材を作製した。No.10の断熱材の電子顕微鏡写真を撮像した。得られた写真を
図4に示す。
【0092】
図4において、塊状物としてのシリカエアロゲル粒子(
図4中、Aで示す)と、水熱反応により形成されたケイ酸カルシウム水和物の針状乃至繊維状結晶(
図4中、Bで示す)が認められる。針状乃至繊維状は、そのサイズから、ケイ酸カルシウム水和物のゾノライト結晶であることがわかる。形成されたゾノライト結晶は、シリカエアロゲル粒子間間隙を埋めるように、多数のゾノライト結晶が絡み合いながら存在しており、結合剤としての役割を果たしていると考えられる。
【0093】
次に、それぞれの組成物から得られた板状断熱材No.10〜18の強度を、No.1の場合と同様にして測定評価した。また、
図5に示すように、厚み150mmのイビデン社製のセラミックボード11上に、ヒータ12をセットし、そのヒータ12上に作製した断熱材13を載置した。ヒータ12及び断熱材13の4側面のイビデン社製セラミックボード14で囲み遮熱した状態で、ヒータ12を700℃に加熱した。断熱材13の上面から1mmのところに熱電対を差し込み、温度が一定になったときの温度(T
1)を測定し、下記式により断熱性能を算出した。ヒータとの温度差が大きいほど、断熱性能に優れている。これらの測定結果を表2に示す。
断熱性能=700−T
1【0094】
【表2】
【0095】
表2からわかるように、赤外線作用材を含有する断熱材組成物No.11−18は、赤外線作用材を含有しない断熱材組成物No.10と比べて、約50℃以上も断熱性能が向上した。さらに、赤外線作用材としてセラミック粒子を使用した場合には、強度の増大にも寄与できた(No.13、14、16)。
【0096】
〔多層断熱材の作製及び評価〕
赤外線作用材を含有する断熱材組成物No.13、赤外線作用材を含有しない断熱材組成物No.10を用いて、それぞれ厚み20mmの板状断熱材p1、p2を作製した。
図6に示すように、イビデン社製遮熱ボード(厚み150mm)11上にヒータ12をセットし、ヒータ12上に、作製した多層断熱材p1又はp2を、表3に示す順番で積層して、3層構造(13a,13b,13c)の断熱材(厚み60mm)L1及びL2を作製した。次いで、ヒータ12及び断熱材13の4側面をイビデン社製遮熱ボード14で囲んだ。
【0097】
かかる状態において、ヒータ12を650℃に加熱し、作製した多層断熱材L1、L2の最上面における温度(T
2)を測定した。さらに、
図7に示すように、各多層断熱材の3層目13c上に、室温遮熱用ボードとして、Porextherm製遮熱ボード(厚み25mm)16を載置し、3層目13cと室温遮熱用ボード16との接触面における温度(T
3)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
室温側温度T
2について、L1とL2とを比較すると、熱源側に赤外線作用材を含有する断熱材層p1とし、室温側に赤外線作用材を含有しない断熱材層p2とした多層断熱材L2の方が、赤外線作用材を含む断熱材層p1のみからなる断熱材L1よりも低く、断熱性に優れることがわかる。一方、遮熱ボード16により外界(室温)と遮熱した場合、赤外線作用材を含有する断熱材層p1のみからなる断熱材L1の方が、高温部材との接触面における温度T
3が低かった。
これらの結果から、赤外線作用材を含有した断熱材層と赤外線作用材を含有しない断熱材層とを組み合わせた多層断熱材を、熱源側が赤外線作用材を含有する断熱材層となるように用いることで、より優れた断熱性能を得られることがわかる。