【実施例】
【0036】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
参考例1:抗ヘモグロビン抗体及び抗HbA1c抗体の調製
(I)材料と方法
(1)精製HbA0及び精製HbA1cの調製
HbA0及びHbA1cは、非特許文献(Melisenda J.McDonald et al、JBC、253(7)、2327−2332、1978)記載のBio−Rex70(バイオラッド社)を用いるイオン交換クロマトグラフィーにより、ヒト赤血球溶血液から精製し、以降の実験に用いた。
【0038】
(2)各種ペプチド、及び糖化ペプチドの調製
2種類のアミノ配列のペプチド(VHLTC(配列番号1)及びVHLTPEEKYYC(配列番号2):アルファベットはアミノ酸の一文字表記を示す)は、ペプチド自動合成装置を用いFmoc法により合成、及び精製した。各ペプチドの純度は、HPLCにより95%以上であることを確認した。また、各ペプチドの分子量は、質量分析(MALDI−TOF法)により理論値と同じであることを確認した。
前記2種類のペプチドを特許文献1記載の方法にて糖化し、糖化ペプチド(f−VHLTC及びf−VHLTPEEKYYC:fは、フルクトシル化を意味する)を精製した。すなわち、各配列のペプチドそれぞれとグルコースを無水ピリジン中で反応させて糖化ペプチドを合成し、HPLCで精製した。各糖化ペプチドの分子量は、質量分析(MALDI−TOF法)により理論値、すなわち各ペプチドの分子量に162を加算した分子量と同じであることを確認した。
【0039】
(3)ペプチド結合タンパク、及び糖化ペプチド結合タンパクの調製
ペプチド結合タンパク、及び糖化ペプチド結合タンパクは、前記(2)で調製したペプチド又は糖化ペプチドを、次のようにしてキャリアタンパクであるオブアルブミン(OVA)に結合させて調製した。すなわち、150mmol/L NaCl含有20mmol/L リン酸緩衝液(pH7.2)(以下、総称的に「PBS」ということがある)に5mg/mLの濃度に溶解したペプチド(VHLTC)、又は糖化ペプチド(f−VHLTC)を、5mg/mLの濃度で精製水に溶解したマレイミド活性型オブアルブミン(PIERCE社製)と1対1の容量比で混和後、室温で緩やかに反応容器を回転させながら2時間インキュベートして調製し、PBSで透析した後、使用した(VHLTC−OVA、f−VHLTC−OVA)。
【0040】
(4)抗ヘモグロビン抗体及び抗HbA1c抗体の調製
抗ヘモグロビン抗体は、前記(1)の精製HbA0を免疫原として常法にて作製したマウスモノクローナル抗体を使用した。当該モノクローナル抗体は、抗原固相化ELISAで精製HbA1c及び精製HbA0のいずれとも反応する性質を有している。
抗HbA1c抗体は、特許文献1記載の方法にて作製したマウスモノクローナル抗体を使用した。すなわち、前記(2)で合成した糖化ペプチド(f−VHLTPEEKYYC)をスカシ貝ヘモシアニンに結合させ、これを免疫原とした。ハイブリドーマのスクリーニングでは、抗原固相化ELISAで精製HbA1cと反応し、かつ精製HbA0と反応しない株を選択した。クローニングを経て、最終的に抗原固相化ELISAで精製HbA1cと反応し、かつ精製HbA0と反応しないモノクローナル抗体を得た。
【0041】
実施例1:N末端露出剤候補によるヘモグロビンのN末端露出と抗原抗体反応阻害の確認
(I)材料と方法
(1)競合ELISA法による、N末端露出剤候補のN末端露出率確認試験
(a)糖化ペプチド結合タンパク(f−VHLTC−OVA)をPBSで1μg/mLの濃度に希釈後、50μL/wellずつ96穴マイクロプレートに分注し、4℃で一晩静置した。
(b)前記(a)のマイクロプレートを0.05%Tween20(登録商標)含有PBS(以下、「PBST」という)400μL/wellで3回洗浄後、ブロッキング液(1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBST、以下、「BSA−PBST」という)を100μL/wellずつマイクロプレートに分注し、室温で1時間静置し、f−VHLTC−OVA固定化プレートを作製した。
(c)EDTA採血管で採取した血液を、10℃、3000rpmで5分間遠心して血球を分離し、当該血球を−70℃以下で凍結・融解することで赤血球を溶血させて、溶血赤血球とした(以降の各試験において溶血赤血球を検体とする場合、同様に調製した)。表1及び表2に記載のN末端露出剤候補を、表1及び表2記載の濃度含有する5mmol/L MES緩衝液(pH6.0)を検体前処理液とし、前記溶血赤血球と前記検体前処理液を1対50の容量比でよく混合し、25℃で静置した。5分後、当該混合液を5mmol/L MES(pH6.0)で32倍に希釈し、検体液とした。なお、ネガティブコントロールは、表1及び表2に記載のN末端露出剤候補を含まない5mmol/L MES緩衝液(pH6.0)を検体前処理液として使用し、前記と同様の操作で溶血赤血球を処理し、ネガティブコントロール用検体液を調製した。
(d)前記(b)のマイクロプレートをPBSTで3回洗浄後、前記(c)の各検体液を25μL/wellずつマイクロプレートに分注した。続いて、BSA−PBSTで1.0μg/mLに希釈した抗HbA1c抗体を25μL/wellずつマイクロプレートに分注し、室温で1時間振とうした。
(e)前記(d)のマイクロプレートをPBSTで3回洗浄後、Polyclonal Goat Anti−mouse Immunogloblins/HRP(Dako Denmark A/S社製)をBSA−PBSTで5000倍に希釈した溶液を50μL/wellずつマイクロプレートに分注し、室温で1時間振とうした。
(f)前記(e)のマイクロプレートをPBSTで3回洗浄後、オルトフェニレンジアミン塩酸塩(東京化成社)を2mg/mL、過酸化水素を0.02%の濃度で含むクエン酸緩衝液(pH5.0)を50μL/wellずつマイクロプレートに分注し、室温で10分間静置した。
(g)前記(f)のマイクロプレートに、1.5N硫酸を50μL/wellずつ分注して反応を停止させた後、プレートリーダーで492nmの吸光度を測定した。
【0042】
(2)N末端露出率の算出
前記(1)の競合ELISA法は、プレートに固定化された糖化ペプチドと検体液中のHbA1cによる競合阻害法である。検体前処理液中にN末端露出剤が存在しないためヘモグロビンのN末端が露出されないネガティブコントロールの場合には、測定系中で糖化ペプチドとHbA1cの競合が起こらないため、測定される吸光度が最大となる。一方、N末端露出剤によるN末端露出度合いの増加に伴い競合も増加し、測定される吸光度は減少する。前記(1)(g)にて測定された吸光度から、下記の式を用いて各N末端露出剤候補の露出率(競合の度合)を算出し、各N末端露出剤候補のN末端露出効果の指標とした。本露出率が大きいほどN末端露出効果が高いといえる。本実施例では、露出率が10%以上の場合を、「N末端露出効果あり」と判定する基準とした。
露出率(%)=[(A−B)/A]×100
A:ネガティブコントロールの吸光度
B:各検体液の吸光度
【0043】
(3)ELISA法による、N末端露出剤候補の抗原抗体反応阻害率確認試験
前記(1)競合ELISA法の手順(c)において、表1及び表2に記載の濃度でN末端露出剤候補を含む5mmol/L MES緩衝液(pH6.0)を溶血赤血球と混合することなく、そのまま検体液として使用した以外は、前記(1)と同様の手順で行った。
【0044】
(4)抗HbA1c抗体に対する抗原抗体反応阻害率の算出
N末端露出剤候補が、抗HbA1c抗体とプレートに固定化された糖化ペプチドとの抗原抗体反応を阻害する場合、阻害度合いの増加に伴い測定される吸光度が減少する。測定された吸光度から、下記の式を用いて、各N末端露出剤候補の抗原抗体反応阻害率を算出し、各N末端露出剤候補の抗原抗体反応阻害効果の指標とした。本阻害率が大きいほど、抗原抗体反応阻害効果が高いといえる。本実施例では、N末端露出剤候補が高濃度であることを考慮し、実用的な観点から抗原抗体反応が成立していると考えられる阻害率が70%未満の場合を、「抗原抗体反応を阻害しない」と判定する基準とした。
阻害率(%)=[(C−D)/C]×100
C:ネガティブコントロールの吸光度
D:各検体液の吸光度
【0045】
(II)結果
(1)各N末端露出剤候補のN末端露出率及び抗原抗体反応阻害率の比較
前記(I)(2)及び同(4)により算出された各N末端露出剤候補のN末端露出率、及び抗原抗体反応阻害率を表1及び表2の各欄に示す。
【0046】
N末端露出剤候補として試験した界面活性剤の中で、前記露出率基準より「N末端露出効果あり」と判定されたものは、非イオン性界面活性剤では、ショ糖脂肪酸エステル型のうちスクロースモノラウレート、アニオン性界面活性剤では、サルフェート型、スルホネート型、カルボン酸型、ポリカルボン酸高分子型、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、カチオン性界面活性剤では、アンモニウム型、ベンザルコニウム型、両性界面活性剤では、胆汁酸誘導体を除くベタイン(スルホベタイン型、アルキルベタイン型、アミドベタイン型等)のカテゴリに属する界面活性剤であった(ここで、胆汁酸誘導体とは、胆汁酸由来のアシル基が形成するアミド結合を介してスルホベタイン等の両性イオン基と結合している化合物をいう)。この結果は、本実施例で使用した以外の抗HbA1c抗体を用いて試験した場合でも同様であった。なお、表1及び表2における界面活性剤のカテゴリは、通常使用される分類、例えば、界面活性剤分析研究会編(1987)、「新版界面活性剤分析法」、幸書房、吉田時行ら編(2000)、「新版界面活性剤ハンドブック」、工学図書株式会社、日本国特許庁ホームページ、「標準技術集(農薬製剤技術)データベース:界面活性剤、http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/nouyaku/0005.html」等に記載された分類を基礎に、市販品のカタログ等の製品情報を考慮して分類したものである。
【0047】
N末端露出剤候補として試験した界面活性剤の中で、前記阻害率基準より「抗原抗体反応を阻害しない」と判定されたものは、いずれも前記「N末端露出効果あり」と判定された界面活性剤(スクロースモノラウレート、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤)であった。
以上より、本実施例で「N末端露出効果あり」と判定され、かつ「抗原抗体反応を阻害しない」と判定された前記界面活性剤群を「本発明のN末端露出剤」として選択した。
【0048】
N末端露出剤候補として試験した界面活性剤以外の成分のうち、本実施例の露出率及び阻害率の判定基準を同時に満たしたのは、カオトロピック剤(塩酸グアニジン、及び塩酸グアニジン・亜硝酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20(登録商標))混合物)であった。タンパク変性剤として広く用いられる尿素の場合は、抗原抗体反応を阻害しない一方で、N末端露出効果を全く認めなかった。還元剤であるL-システイン、及びジチオスレイトールを用いた場合、N末端露出効果が認められたが、同時に抗原抗体反応も大きく阻害された。有機溶媒であるジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、及び2−ブタノールを用いた場合は、抗原抗体反応を阻害しない一方で、N末端露出効果はごく僅かであった。
以上より、カオトロピック剤を「本発明のN末端露出剤」として選択した。
【0049】
本実施例の競合ELISA法によるN末端露出率確認試験において、吸光度の減少がN末端露出剤による抗原抗体反応阻害のためではないことを以下により確認した。選択された本発明の各N末端露出剤を含む検体前処理液を、溶血赤血球を添加せずに、直接、5mmol/L MES緩衝液(pH6.0)で32倍に希釈して検体液(N末端露出剤を含むが溶血赤血球を含まない)とし、ネガティブコントロール(N末端露出剤を含まないが溶血赤血球を含む)と比較した。選択された本発明のN末端露出剤のいずれを用いた場合においてもN末端露出効果に対して十分に小さいものであり、抗原抗体反応の阻害はなかった。この試験は、選択された本発明のN末端露出剤濃度を前記(I)(3)の32倍稀薄濃度に変更して、本実施例のELISA法による抗原抗体反応阻害率確認試験を実施したものに相当する。
【0050】
また、f−VHLTC−OVAに代えてヘモグロビンを固定化したプレートと後記する抗ヘモグロビン抗体を用い、本実施例(I)1(3)、及び同(4)と同様の方法にて、選択された本発明の各N末端露出剤による抗原抗体反応阻害の有無を確認したところ、いずれのN末端露出剤も「抗原抗体反応を阻害しない」と判定された。以上より、選択された本発明のN末端露出剤によって抗ヘモグロビン抗体の認識部位が損なわれる、もしくは抗ヘモグロビン抗体との抗原抗体反応が阻害されることなく、抗HbA1c抗体等とのサンドイッチ法により検体中のヘモグロビンを検出可能であることを確認した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
比較例1:粒子イムノクロマト法によるHbA1c測定(1)
(I)材料と方法
(1)未処理サンプルパッド
未処理サンプルパッドとして、セルロースメンブレン(ミリポア社、シュアウィック(登録商標) C083)を用いた。
【0054】
(2)金コロイド粒子標識抗体含有パッドの作製
527nmにおける吸光度が1.0O.D./mLである金コロイド粒子水溶液(粒径50nm、pH9.0)に対して、抗ヘモグロビン抗体を終濃度1.5μg/mLとなるよう添加し、室温で10分間攪拌した。さらに、当該金コロイド−抗ヘモグロビン抗体混合液に、BSAを終濃度0.3%となるよう添加し、室温で5分間攪拌してブロッキング処理を行った。続いて、当該混合液を10℃にて10000rpmで45分間遠心し、沈渣(金コロイド粒子標識抗ヘモグロビン抗体)を得た。得られた金コロイド粒子標識ヘモグロビン抗体を、531nmにおける吸光度が4.0O.D./mLとなるよう1.3%(w/v)カゼインを含む20mmol/L PBS(pH7.0)を用いて懸濁し、金コロイド粒子標識抗体液とした。ガラス繊維シート(日本ポール社、No.8964)を前記金コロイド粒子標識抗体液に浸漬し、液が垂れない程度に液切りした後、乾燥機で乾燥させて金コロイド粒子標識抗体含有パッドとした。
【0055】
(3)ラテックス粒子標識抗体含有パッドの作製
1%(w/v)の赤色ラテックス懸濁液(ポリスチレンラテックス粒子、粒径150nm、20mmol/L トリス緩衝液(pH8.5))に対して、抗ヘモグロビン抗体を終濃度0.25mg/mLとなるよう添加し、4℃で2時間攪拌した。さらに当該ラテックス−抗ヘモグロビン抗体混合液に、BSAを終濃度1%となるよう添加し、4℃で1時間攪拌してブロッキング処理を行ないラテックス粒子標識抗ヘモグロビン抗体を得た。得られたラテックス粒子標識抗ヘモグロビン抗体を、100倍量(v/v)の20mmol/L リン酸緩衝液(pH7.0)を用いて3回透析した後、ラテックス粒子に対してカゼインを終濃度1.3%(w/w)となるよう添加し、ラテックス粒子標識抗体液とした。ガラス繊維シート(日本ポール社、No.8964)を前記金コロイド粒子標識抗体液に浸漬し、液が垂れない程度に液切りした後、乾燥機で乾燥させて金コロイド粒子標識抗体含有パッドとした。
【0056】
(4)抗体固定化メンブレンの作製
10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.0)に対し、抗HbA1c抗体を1.0mg/mL、スクロースを2.5%(w/v)となるように添加し、抗HbA1c抗体固定化試薬(以下、「A1c用抗体」ということがある)とした。ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF180)上に、当該抗A1c用抗体をライン状に塗布(
図1(e))し、乾燥機で乾燥させたものを抗体固定化メンブレンとした(
図1(d))。以下、A1c用抗体が塗布されたライン(
図1(e))を「A1cライン」ということがある。
【0057】
(5)イムノクロマトデバイスの作製
プラスチック製粘着シート(a)に、前記(4)で作製した抗体固定化メンブレン(d)を貼り、未処理サンプルパッド(b)、前記(2)又は(3)で作製した2種類の粒子標識抗体含有パッド(c)、及び吸水パッド(ワットマン社、BTS−SP300)(f)を
図1のように配置した。すなわち、前記(4)で作製した抗体固定化メンブレン(d)において、測定試料の展開方向における上流側の末端近傍に、前記(2)又は(3)で作製した粒子標識抗体含有パッド(c)のいずれか一つを配置し、この粒子標識抗体含有パッド(c)に一部重なるように、未処理サンプルパッド(b)を配置した。また前記(4)で作製した抗体固定化メンブレン(d)の測定試料の展開方向における下流側の末端に、当該メンブレンと一部重なるように吸水パッド(f)を配置した。各部材の配置後、さらにその上から、透明プラスチックシール(g)で覆った。貼り合わせたシートは6mm幅で裁断し、テストストリップとした。当該テストストリップの外寸は、6mm×70mm(幅×長さ)であった。測定の際は、プラスチック製の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、当該ハウジングは
図1中には図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトデバイスの形態とした。
【0058】
(6)検体液の調製
実施例1で選択したN末端露出剤を、表3に記載の濃度になるように、0.3%BSA、0.05%プロクリン(登録商標)300を含む10mmol/L トリス緩衝液(pH7.2)(以下、「BSA−Tris」ということがある)に溶解し、検体前処理液とした。続いて、各検体前処理液500μLに溶血赤血球1μLを添加してよく混合し、検体液とした。
【0059】
(7)測定
前記混合から30秒後、当該検体液150μLを前記(5)で作製したイムノクロマトデバイスのサンプルパッドに滴下し、A1cラインへの各粒子標識抗体の集積(以下、「A1c検出ラインの形成」等ということがある)を確認した。さらに、滴下から15分後に、ハウジングよりテストストリップを取り出して、
図1上段に記載の側面図における粒子標識抗体含有パッド(c)の終端と抗体固定化メンブレン(d)の接触部位の近傍(以下「標識パッド接点」という)における金コロイド粒子標識抗体又はラテックス粒子標識抗体の凝集を目視観察した。
【0060】
(II)結果
結果を表3に示す。実施例1で選択したN末端露出剤として、スクロースモノラウレート(非イオン性界面活性剤)、ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム(カチオン性界面活性剤)、ラウリルベタイン(両性界面活性剤)、塩酸グアニジン(カオトロピック剤)をそれぞれ含む検体前処理液を用いて溶血赤血球を処理した検体液を、未処理サンプルパッドに滴下し測定したところ、以下の結果であった。
【0061】
(1)金コロイド粒子標識抗体で検出した場合
ラウリル硫酸ナトリウムを含む検体液の場合を除き、A1c検出ラインの形成は再現性が不良であり、塩酸グアニジンを含む検体液の場合にはA1c検出ラインが形成されなかった。また、ラウリル硫酸ナトリウムを含む検体液の場合を除き、標識パッド接点における金コロイド粒子標識抗体の凝集が確認された。金コロイド粒子標識抗体の凝集の程度は、N末端露出剤として、塩酸グアニジン又は臭化ラウリルトリメチルアンモニウムを用いた場合が最も大きかったが、スクロースモノラウレート又はラウリルベタインを用いた場合にも明瞭に確認できた。
【0062】
(2)ラテックス粒子標識抗体で検出した場合
塩酸グアニジンを含む検体液の場合にはA1c検出ラインが形成されず、その他のN末端露出剤でもA1c検出ラインの形成は再現性が不良であった。また、いずれのN末端露出剤を含む検体液の場合でも、標識パッド接点におけるラテックス粒子標識抗体の凝集が確認された。ラテックス粒子標識抗体の凝集の程度は、N末端露出剤として、塩酸グアニジン、又は臭化ラウリルトリメチルアンモニウムを用いた場合が最も大きく、次いでラウリルベタイン又はラウリル硫酸ナトリウム、さらにスクロースモノラウレートを用いた場合の順であった。
【0063】
以上のように、N末端露出剤として、金コロイド粒子標識抗体の凝集を認めなかったラウリル硫酸ナトリウムを用いた場合でも、ラテックス粒子標識抗体の凝集が確認されたことより、実施例1で選択したN末端露出剤を含む検体液を粒子イムノクロマト法に広く適用しようとした場合、N末端露出剤のカテゴリに拘わらず粒子標識抗体を凝集させ、粒子イムノクロマト法による測定系が成立しない場合があることが確認された。
【0064】
【表3】
【0065】
表3において、「−」は粒子標識抗体の凝集あるいはA1c検出ラインの形成を認めず、「+」、「++」、「+++」は+の数に応じて粒子標識抗体の凝集の程度が大きいか、又はA1c検出ラインの形成が明瞭であったことを示す。なお「±」は、A1c検出ライン形成の再現性が不良であったことを示す。
【0066】
比較例2:環状多糖類による粒子標識抗体凝集の改善効果の確認(1)
(I)材料と方法
(1)環状多糖類水溶液の作製
表4に示す環状多糖類のいずれかを、表4に記載の濃度含有する5mmol/L MES緩衝液(pH6.0)を調整し、環状多糖類水溶液を作製した。また、糖が環状に結合してなる環状多糖類と類似した構造を有するカリックスアレーン類(フェノールが環状に結合してなる)も、前記と同様にその水溶液を調製し、参考条件として試験した。
【0067】
(2)イムノクロマトデバイスの作製
比較例1(I)(1)に記載の未処理サンプルパッドと、同(2)に記載の金コロイド粒子標識結合抗体含有パッドと、同(4)に記載の抗体固定化メンブレンを用い、同(5)に記載の方法と同様にしてイムノクロマトデバイスを作製した。
【0068】
(3)検体液の調製
臭化ラウリルトリメチルアンモニウム(実施例1で選択されたN末端露出剤:カチオン性界面活性剤)を、0.75%(w/v)となるよう、BSA−Trisに溶解し、検体前処理液とした。続いて、当該検体前処理液500μLに溶血赤血球1μLを添加してよく混合し、検体液とした。前記混合から30秒後、当該検体液80μLに、前記(1)で調製した環状多糖類水溶液50μLを混合し、環状多糖類含有検体液とし、直ちに測定に使用した。
別途、α−シクロデキストリンを50mmol/Lとなるよう、BSA−Trisに溶解し、N末端露出剤、及び溶血赤血球の添加は行わず、そのままコントロール用検体液として使用した。
【0069】
(4)測定
当該各環状多糖類含有検体液150μLを、前記(2)で作製したイムノクロマトデバイスのサンプルパッドに滴下し、A1c検出ラインの形成を確認した。さらに、滴下から15分後に、ハウジングよりテストストリップを取り出して、標識パッド接点における金コロイド粒子標識抗体の凝集を目視確認した。なお、参考条件として試験したカリックスアレーン類は、臭化ラウリルトリメチルアンモニウムを含む検体液と混合すると検体液が白濁したことから、サンプルパッドへ滴下以降の操作を行わなかった。
【0070】
(II)結果
結果を表4に示す。いずれの環状多糖類含有検体液を測定した場合でも、環状多糖類非添加の検体液を測定した場合と比較して、A1c検出ラインの形成が確認されるものの形成された検出ラインは明瞭ではなく、再現性もいまだ不良であった。また、標識パッド接点における金コロイド粒子標識抗体の凝集はいずれの環状多糖類を使用した場合でも、環状多糖類非添加の検体液を測定した場合と比較して改善されてはいたが、A1c検出ラインの形成が不良であることより、その効果は実用上十分なものとはいえなかった。
また、N末端露出剤、及び溶血赤血球を含んでいないコントロール用検体液を測定した場合には、環状多糖類非添加の検体液を測定した場合と比較して程度は小さいものの標識パッド接点に凝集が確認された。従来、シクロデキストリンは、微粒子の分散安定化効果が知られているため、シクロデキストリンと金コロイド粒子標識抗体の混合液であるコントロール用検体液の測定おいて、金コロイド粒子標識抗体の凝集が生じることはないものと考えられたが、意外にも金コロイド粒子標識抗体を凝集させる場合があることがわかった。以上より、単に環状多糖類をN末端露出剤と共存させて測定を行っただけでは粒子イムノクロマト法には適用できないことが確認された。
なお、環状多糖類に代えて、シクロデキストリンの構成糖であるグルコースを用いて非環状糖水溶液を調製し、本比較例と同様に操作したが、粒子標識抗体凝集及びA1c検出ラインの形成は、環状多糖類非添加の場合と同様であった。以上より、環状多糖であることが、粒子標識抗体凝集及びA1c検出ライン形成の改善に有効であることが確認された。
【0071】
【表4】
【0072】
表4において、「+」、「++」は+の数に応じて粒子標識抗体凝集の程度が大きいか、又はA1c検出ラインの形成が明瞭であったことを示す。なお「±」は、ライン形成の再現性が不良であったことを示す。
【0073】
比較例3:環状多糖類による粒子標識抗体凝集の改善効果の確認(2)
(I)材料と方法
(1)シクロデキストリン浸漬サンプルパッドの作製
精製水に、α−シクロデキストリン(ナカライテスク、10005−82)又はモノクロロトリアジノ化βシクロデキストリン(株式会社シクロケム、CAVASOL(登録商標)W7 MCT)を、10%(w/v)となるよう溶解し、環状多糖類水溶液を作製した。比較例1(I)(1)の未処理サンプルパッドを当該環状多糖類水溶液に10分間浸漬した後、液が垂れない程度に液切りした後、室温で減圧乾燥し、2種類のシクロデキストリン浸漬サンプルパッドとした。
【0074】
(2)イムノクロマトデバイスの作製
比較例1(I)(1)に記載の未処理サンプルパッド又は前記(1)で作製した2種類のシクロデキストリン浸漬サンプルパッドと、比較例1(I)(2)に記載の金コロイド粒子標識結合抗体含有パッドと、比較例1(I)(4)に記載の抗体固定化メンブレンを用い、比較例1(I)(5)に記載の方法と同様にしてイムノクロマトデバイスを作製した。各デバイスに組み込んだサンプルパッドの種類により、デバイスA(未処理サンプルパッド)、デバイスB(α−シクロデキストリン浸漬サンプルパッド)、デバイスC(モノクロロトリアジノ化βシクロデキストリン浸漬サンプルパッド)とした(表5)
【0075】
(3)検体液の調製と測定
臭化ラウリルトリメチルアンモニウム(実施例1で選択されたN末端露出剤:カチオン性界面活性剤)を、0.75%(w/v)となるよう、BSA−Trisに溶解し、検体前処理液とした。続いて、当該検体前処理液500μLに溶血赤血球1μLを添加してよく混合し、検体液とした。当該検体液を比較例1(I)(7)と同様に測定した。
【0076】
(II)結果
結果を表5に示す。デバイスA(未処理サンプルパッド)では、A1c検出ラインの形成を全く認めず、また標識パッド接点において金コロイド粒子標識抗体の凝集塊が密集した状態で確認され、比較例1及び2の結果を再現した。このように、N末端露出剤を含む検体液を、そのまま粒子イムノクロマト法に適用した場合、粒子標識抗体の凝集が生じ、測定系が成立しない。これに対しデバイスB(α−シクロデキストリン浸漬サンプルパッド)、デバイスC(モノクロロトリアジノ化βシクロデキストリン浸漬サンプルパッド)では、A1c検出ライン形成の再現性は不良であったものの、標識パッド接点における金コロイド粒子標識抗体の凝集は、デバイスB、CともデバイスAに対して明らかに改善されていた。金コロイド粒子標識抗体の凝集が改善されながら、A1c検出ライン形成の改善が見られない理由の一つとして、シクロデキストリン溶液の粘性の影響が考えられる。すなわち、乾燥状態でサンプルパッドに含まれていたシクロデキストリンが、検体液の添加により再溶解し、サンプルパッドより漏出して抗体固定化メンブレンに到達し、当該メンブレン上を検体液と一緒に展開しようとするため、検体液の当該メンブレン上での展開が不均一になるか妨害され、検体液(特にHbA1cと粒子標識抗体の免疫複合体)がA1cラインまで均一かつ十分に到達することができなかったことが考えられる。
このように、環状多糖類は、N末端露出剤による金コロイド粒子標識抗体の凝集を抑制・改善する効果を有することが確認される一方で、その粘性の高さ等が原因となって粒子イムノクロマト法への適用の障害となることがわかった。
【0077】
【表5】
【0078】
表5において、「−」は粒子標識抗体の凝集あるいはA1c検出ラインの形成を認めず、「+」、「++」、「+++」は+の数に応じて粒子標識抗体の凝集の程度が大きいか、又はA1c検出ラインの形成が明瞭であったことを示す。なお、「±」は、ライン形成の再現性が不良であったことを示す。
【0079】
実施例2:本発明の方法を用いた環状多糖類による粒子標識抗体凝集の改善効果の確認
(I)材料と方法
(1)シクロデキストリン化学結合サンプルパッドの作製
精製水に、炭酸ナトリウムを4%(w/v)、モノクロロトリアジノ化βシクロデキストリン(株式会社シクロケム、CAVASOL(登録商標)W7 MCT)を10%(w/v)となるよう溶解した。比較例1(I)(1)の未処理サンプルパッドを当該液に10分間浸漬した後、液が垂れない程度に液切りした後、室温で減圧乾燥させた。続いて150℃にて10分間加熱した後、精製水に浸漬して未反応原料を洗浄・除去し、さらに70℃で30分乾燥させて、シクロデキストリン化学結合サンプルパッドとした。
【0080】
(2)イムノクロマトデバイスの作製
比較例1(I)(1)に記載の未処理サンプルパッド又は前記(1)で作製したシクロデキストリン化学結合サンプルパッドと、比較例1(I)(2)又は比較例1(I)(3)に記載の2種類の粒子標識結合抗体含有パッドと、比較例1(I)(4)に記載の抗体固定化メンブレンを用い、比較例1(I)(5)に記載の方法と同様にしてイムノクロマトデバイスを作製した。
【0081】
(3)検体液の調製と測定
実施例1で選択したN末端露出剤として、スクロースモノラウレート、ラウリル硫酸ナトリウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、ラウリルベタイン、塩酸グアニジンを使用し、比較例1(I)(6)と同様の方法で検体液を調製した。測定は、比較例1(I)(7)と同様の方法で行った。
【0082】
(II)結果
結果を表6に示す。
(1)金コロイド粒子標識抗体で検出した場合
N末端露出剤として塩酸グアニジンを使用した場合を除き、A1c検出ラインの形成は明瞭に、かつ再現性よく確認された。また、標識パッド接点における金コロイド粒子標識抗体の凝集も、N末端露出剤として塩酸グアニジンを使用した場合を除き、顕著に改善され、目視で確認されることはなかった。
【0083】
(2)ラテックス粒子標識抗体で検出した場合
N末端露出剤として塩酸グアニジンを使用した場合を除き、A1c検出ラインの形成は明瞭に、かつ再現性よく確認された。また、標識パッド接点におけるラテックス粒子標識抗体の凝集は、ラウリル硫酸ナトリウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、ラウリルベタインで顕著に改善され、目視で確認されることはなかった。スクロースモノラウレートでは、未処理サンプルパッドを使用した場合と比較して凝集は減少していたが、わずかに観察される場合があった。塩酸グアニジンの場合には、ラテックス粒子標識抗体の凝集がなお確認された。
【0084】
以上より、サンプルパッドとしてシクロデキストリン化学結合パッドを組み込んだテストストリップを格納・搭載したイムノクロマトデバイスは、N末端露出剤として非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを検体前処理に用いた場合にも使用することができ、検出用の標識粒子として金コロイド粒子、ラテックス粒子のいずれを用いた場合にも凝集の改善に有効であった。
なお、塩酸グアニジンをN末端露出剤として使用した場合に、粒子凝集、及びA1cラインエ形成の改善効果が界面活性剤をN末端露出剤とした場合と比較して低かった理由の一つとして、N末端露出に必要な塩酸グアニジンの量(濃度)が界面活性剤群の量(濃度)よりも高いことが考えられる。これより、検体液中の塩酸グアニジンに対する環状多糖類の量比を適切な範囲に調整することで本発明の効果を得ることができると推測される。
【0085】
【表6】
【0086】
表6において、「−」は粒子標識抗体の凝集あるいはA1c検出ライン形成を認めず、「+」、「++」は+の数に応じて粒子標識抗体の凝集の程度が大きいか、又はA1c検出ラインの形成が明瞭であったことを示す。
【0087】
実施例3:本発明の方法を用いたHbA1cの定量的測定
(I)材料と方法
(1)イムノクロマトデバイスの作製
実施例2(I)(1)に記載のシクロデキストリン化学結合サンプルパッド、比較例1(I)(2)に記載の金コロイド粒子標識結合抗体含有パッド、比較例1(I)(4)に記載の抗体固定化メンブレンを用い、比較例1(I)(5)に記載の方法と同様にしてイムノクロマトデバイスを作製した。
【0088】
(2)比較測定
EDTA採血管で採取した血液を、10℃、3000rpmで5分間遠心して赤血球を分離した。酵素法によるHbA1c測定試薬「ノルディア(登録商標)N HbA1c」(積水メディカル株式会社)、「ノルディア(登録商標)N HbA1c用HbA1c前処理液」(積水メディカル株式会社)、及び汎用自動分析装置「BM9130」(日本電子株式会社)を用い、添付文書に従ってHbA1c(%)(検体中の総ヘモグロビン濃度に対するHbA1c濃度)を測定した。
【0089】
(3)検体液の調製
臭化ラウリルトリメチルアンモニウム(実施例1で選択されたN末端露出剤:カチオン性界面活性剤)を、0.75%(w/v)となるよう、BSA−Trisに溶解し、検体前処理液とした。前記(2)で得られた赤血球1μLを、500μLの当該検体前処理液に添加し、よく混合して検体液とした。
【0090】
(4)測定
前記混合から30秒後、当該検体液150μLを前記(1)で作製したイムノクロマトデバイスのサンプルパッドに滴下し、10分後のA1cライン吸光度(反射光)を、ラピッドピア(浜松ホトニクス)で測定した。
【0091】
(II)結果
10人分の赤血球について、本発明のイムノクロマトデバイス及びノルディア(登録商標)N HbA1cで測定した結果を、表7、
図2に示す。本発明のシクロデキストリン化学結合パッドを組み込んだイムノクロマトデバイスを用いた測定では、ノルディアN HbA1cを用いて測定したHbA1c(%)の濃度に依存した吸光度が測定された(相関係数r=0.964)。以上より、本発明の方法によれば検体中の総ヘモグロビン濃度に対するHbA1c濃度を測定できることが確認された。
【0092】
【表7】
【0093】
参考例2:抗HbA0特異抗体の調製
(I)材料と方法
(1)材料
抗HbA0抗体は、前記参考例1(I)(3)で調製したペプチド結合タンパク(VHLTC−OVA)を免疫原として、常法にて作製したマウスモノクローナル抗体を使用した。ハイブリドーマのスクリーニングでは、抗原固相化ELISAで精製HbA0と反応し、かつ精製HbA1cと反応しない株を選択した。前記スクリーニングで選択された株についてクローニングを実施し、抗HbA0モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを独立行政法人産業技術総合研究所(2008年11月28日付け、日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1中央第6)に寄託した。寄託番号は以下のとおりである。
抗体番号:85201
受託番号:FERM BP−11187
【0094】
なお、精製HbA0固定化プレートと前記抗HbA0抗体を用い、実施例1(I)1(3)、及び同(4)と同様の方法にて、表1及び表2記載の各N末端露出剤による抗原抗体反応阻害の有無を確認したところ、いずれのN末端露出剤も「抗原抗体反応を阻害しない」と判定された。以上より、選択された本発明のN末端露出剤によって抗HbA0抗体の認識部位が損なわれる、もしくは抗HbA0抗体との抗原抗体反応が阻害されることなく、抗ヘモグロビン抗体とのサンドイッチ法により検体中のHbA0を検出可能であることを確認した。
【0095】
実施例4:本発明の方法を用いたHbA1cとHbA0の同時検出
(1)抗体固定化メンブレンの作製
10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.0)に対し、参考例2で作製した抗HbA0抗体を1.0mg/mL、スクロースを2.5%(w/v)となるように添加し、抗HbA0抗体固定化試薬(以下、A0用抗体という)とした。A1c用抗体は、参考例1(I)(4)に記載のA1c用抗体を使用した。前記2種の抗体固定化試薬を、ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF180)に、展開の開始方向からA1c用抗体(
図3(e))、A0用抗体(
図3(f))の順序で、ライン状に、相互に間隔をあけて塗布し、乾燥機で乾燥させたものを抗体固定化メンブレンとした(
図3(d))。以下、A1c用抗体が塗布されたライン(
図3(f))を「A0ライン」ということがある。
【0096】
(2)イムノクロマトデバイスの作製
抗体固定化メンブレンとして前記(1)で作製した抗体固定化メンブレンを使用した以外は、実施例3と同様の方法でイムノクロマトデバイスを作製した。
【0097】
(3)検体液の調製
臭化ラウリルトリメチルアンモニウムを、0.75%(w/v)となるよう、BSA−Trisに溶解し、検体前処理液とした。続いて、当該検体前処理液500μLに溶血赤血球1μLを添加してよく混合し、検体液とした。
【0098】
(4)測定
前記混合から30秒後、当該検体液150μLを前記(2)で作製したイムノクロマトデバイスのサンプルパッドに滴下し、A1cラインまたはA0ラインへの粒子標識抗体の集積(以下、「A1c又はA0検出ラインの形成」等ということがある)を確認した。さらに、滴下から15分後に、ハウジングよりテストストリップを取り出して、
図3上段に記載の側面図における粒子標識抗体含有パッド(c)の終端と抗体固定化メンブレン(d)の接触部位の近傍(以下「標識パッド接点」という)における金コロイド粒子標識抗体又はラテックス粒子標識抗体の凝集を目視観察した。
【0099】
(II)結果
本発明のシクロデキストリン化学結合パッドを組み込んだイムノクロマトデバイスを用いた測定では、A1c検出ライン、HbA0検出ラインとも良好に形成が確認できた。また、標識パッド接点における金コロイド粒子の凝集も認めなかった。以上より、本発明の方法では粒子イムノクロマト法によるHbA1cとHbA0の同時検出が可能であり、従来達成されていなかった、HbA0を直接測定してHbA1c(%)を算出する方法を簡便に実施することが可能になった。