特許第6026631号(P6026631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ▲高▼味 充日児の特許一覧 ▶ 株式会社 T&Gの特許一覧

特許6026631フルボ酸含有液の製造方法および製造装置
<>
  • 特許6026631-フルボ酸含有液の製造方法および製造装置 図000002
  • 特許6026631-フルボ酸含有液の製造方法および製造装置 図000003
  • 特許6026631-フルボ酸含有液の製造方法および製造装置 図000004
  • 特許6026631-フルボ酸含有液の製造方法および製造装置 図000005
  • 特許6026631-フルボ酸含有液の製造方法および製造装置 図000006
  • 特許6026631-フルボ酸含有液の製造方法および製造装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6026631
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】フルボ酸含有液の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/44 20060101AFI20161107BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20161107BHJP
   C02F 3/30 20060101ALI20161107BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C12P7/44
   C02F3/00 G
   C02F3/30 Z
   C12M1/00 H
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-253790(P2015-253790)
(22)【出願日】2015年12月25日
【審査請求日】2016年4月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305035288
【氏名又は名称】▲高▼味 充日児
(73)【特許権者】
【識別番号】511183917
【氏名又は名称】株式会社 T&G
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼味 充日児
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−068197(JP,A)
【文献】 特開昭62−163792(JP,A)
【文献】 特開2014−162723(JP,A)
【文献】 特開2000−189983(JP,A)
【文献】 特開平07−323297(JP,A)
【文献】 特開2015−147702(JP,A)
【文献】 特開平11−169886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
C12P 7/44
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性物質とフルボ酸蛍光スペクトル比が5,000〜30,000であるフルボ酸馴養汚泥とを混合した有機性物質混合液を溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として4時間以上培養することで、前記有機性物質混合液の有機物質を嫌気的培養により低減させ嫌気的培養液とする嫌気的培養工程と、
前記嫌気的培養液の溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として6時間以上培養することで、前記嫌気的培養液中にフルボ酸を増加させフルボ酸含有培養液を得る好気的培養工程と、
前記好気的培養工程で培養されている培養完了前の培養液を前記嫌気的培養工程へ返送する好気的培養液返送工程と、
前記好気的培養工程から得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得ることを特徴とするフルボ酸含有液の製造方法。
【請求項2】
前記好気的培養工程から得られるフルボ酸含有培養液を、前記嫌気的培養工程および/または前記好気的培養工程に返送するフルボ酸含有培養液返送工程を有することを特徴とする請求項1記載のフルボ酸含有液の製造方法。
【請求項3】
前記好気的培養工程から得られるフルボ酸含有培養液を、フルボ酸含有液と、フルボ酸馴養汚泥とに分離する分離工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のフルボ酸含有液の製造方法。
【請求項4】
前記分離工程で分離されたフルボ酸含有培養液のフルボ酸馴養汚泥を、前記嫌気的培養工程および/または前記好気的培養工程に返送するフルボ酸馴養汚泥返送工程を有することを特徴とする請求項3記載のフルボ酸含有液の製造方法。
【請求項5】
有機性物質とフルボ酸蛍光スペクトル比が5,000〜30,000であるフルボ酸馴養汚泥とを混合した有機性物質混合液を溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として培養することで、前記有機性物質混合液中の有機物質を嫌気的培養により低減させ嫌気的培養液とする嫌気的培養工程と、
前記嫌気的培養液を溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として培養することで、前記嫌気的培養液中にフルボ酸を増加させフルボ酸含有培養液を得る好気的培養工程と、
前記嫌気的培養工程と前記好気的培養工程とを所定の時間で交互に切替え、前記嫌気的培養工程を合計4時間以上行い、前記好気的培養工程を合計6時間以上行うことで得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得ることを特徴とするフルボ酸含有液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフルボ酸含有液の製造方法において、前記有機性物質として、廃棄性有機性物質を用いることで、前記廃棄性有機性物質を処理する廃棄物処理方法。
【請求項7】
有機性物質とフルボ酸蛍光スペクトル比が5,000〜30,000であるフルボ酸馴養汚泥とが混合された有機性物質混合液の溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として培養可能であり、前記有機性物質混合液中の有機物質が嫌気的培養により低減された嫌気的培養液を収容する嫌気的培養槽と、
前記嫌気的培養液を溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として培養可能であり、前記嫌気的培養液中のフルボ酸が増加されたフルボ酸含有培養液を収容する好気的培養槽と、
前記好気的培養槽の培養液を前記嫌気的培養槽へ返送する好気的培養液返送手段と、
前記好気的培養槽から得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得る取出手段と有することを特徴とするフルボ酸含有液の製造装置。
【請求項8】
有機性物質とフルボ酸蛍光スペクトル比が5,000〜30,000であるフルボ酸馴養汚泥とが混合された有機性物質混合液を収容する混合槽と、
前記混合槽内で前記有機性物質混合液の溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として培養可能であり、前記有機性物質混合液中の有機物質が嫌気的培養により低減された嫌気的培養液とする嫌気的培養手段と、
前記混合槽内で前記嫌気的培養液の溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として培養可能であり、前記嫌気的培養液中のフルボ酸が増加されたフルボ酸含有培養液とする好気的培養手段と、
前記混合槽内で前記嫌気的培養手段と前記好気的培養手段とを所定の時間で交互に切替可能な培養条件切替手段と、
前記好気的培養手段により得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得る取出手段と有することを特徴とするフルボ酸含有液の製造装置。
【請求項9】
有機性物質とフルボ酸含有液とを混合し、溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下の環境下で行う培養と、溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上の環境下で行う培養とを行うことで得られてなるフルボ酸蛍光スペクトル比が5,000〜30,000であるフルボ酸馴養汚泥。
【請求項10】
請求項9記載のフルボ酸馴養汚泥と、有機性物質とを混合した混合物を好気的雰囲気下で24時間以上培養することで、フルボ酸含有物質を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性物質を用いるフルボ酸含有液の製造方法および製造装置に関する。特に、フルボ酸濃度が高い一方でフミン酸濃度が低減された、フルボ酸含有液の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
腐植物質とは、生物の死後、生物体有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊した「化学構造が特定されない有機物(非生体有機物)」の総称と言われている。この腐植物質についても、機能性を示すものと、機能性を示さないものとがあることが経験的に知られており、これは、その自然界の有機物である生物体有機物が、土へ還ろうとするときの中間生成物が含まれるか否かの影響が大きいものと考えられる。この中間生成物を含むとき、すなわち機能性を示す腐植物質については、腐植前駆物質と呼ばれることがある。(非特許文献1)
【0003】
この腐植物質(または腐植前駆物質)に相当するものは、自然界に存在していたものであり、古くから腐植物質の認識の有無は不明だとしても、作物の生育や、病気・けがへの薬効等の効果を様々な形で利用されてきたものである。一方、近年、発達した化学物質等を積極的に利用しようとする近代的な農業や廃棄物処理方法が広く用いられている。しかしながら、このような近代的な農業や廃棄物処理とは別に、古くから活かされてきたこの腐植物質を用いることが改めて見直され始めており、人工的に製造されたフルボ酸を選択的に高濃度で含む溶液等も一部販売されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、フェノール又は/およびフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物を産出するように順養された土壌性通性嫌気性細菌等よりなる細菌群を利用する廃水の処理方法等に関する技術である。この「フェノール又は/およびフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物」は、ケイ酸分等と反応することで腐植化の重縮合反応が惹起されるものであり、腐植物を利用する優れた廃水処理方法を開示しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−66199号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】内水護「自然と輪廻 土・自然・人間・社会 ベーシック文明論」18−28頁,漫画社,1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や非特許文献1にみられるように、腐植前駆物質や腐植物質(腐植物)を利用する技術が検討されている。ここで腐植物には、その成分の腐植化度合(重縮合反応化度合)として、ヒュミンやフルボ酸、フミン酸等が含まれていることが知られている。そして、一般的な腐植物質において、フルボ酸とフミン酸との比率は2:8程度の重量比で含まれている。
【0008】
特許文献1に示されるように、有機性物質を含む廃水の処理工程において、この腐植物質に相当するものを使用するものはあるが、腐植物質におけるフルボ酸、フミン酸等も単純物質ではなく、いずれも複数の有機化合物の群として捉えられていることや、それぞれの分離が困難なことからも、具体的にどの物質がどのような効果を奏するかについては、十分には検討されてこなかった。しかしながら、市販されているフルボ酸を含む溶液は(微)生物活性液としての有効性等も期待されており、さらに農業用などのように大量にできるだけ安価な商品の提供が求められる用途などへの利用を図るためにはフルボ酸を選択的に高濃度で含む製品が求められている。
【0009】
係る状況下、本発明の目的は、腐植物質のうちで(微)生物活性液としての利用が期待されるフルボ酸に関して、一般的な腐植物質の比率と比べて、フミン酸に対してフルボ酸を高比率で含有するフルボ酸高比率含有液と、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、フルボ酸がフミン酸等の他の腐植物前駆物質等と分離され高比率で配合されている高濃度フルボ酸含有液等を活用する廃棄物処理等の過程で、意外にも、フミン酸をほとんど含まない高濃度フルボ酸含有液(フルボ酸高比率含有液)を用いて馴養されたフルボ酸馴養汚泥を用いて、有機性物質を所定の条件で培養することで、培養液から、フルボ酸含有液を効率よく採取することができることを見出した。
【0011】
有機性物質を原料として、フルボ酸含有液を製造するにあたっては、次のような知見等が関連する。先ず、フルボ酸自体が、フェノール及び/又はフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物を、有機物等と反応させることで生じる腐植物質(特に腐植前駆物質)の内、酸およびアルカリへの溶解性からフミン酸と区別されるものの、様々な構造を有する有機物等の混合物であること。さらに、本発明によるフルボ酸含有液は、それ自体に、フルボ酸以外の成分は少ない方が良く、例えばケルダール窒素を含む全窒素等も除去された方が良いこと。
【0012】
また、本発明が、有機性物質を含む液の廃液処理の作業から得られた液を詳しく分析することで見出された想定外の結果に基づくこと。よって、厳密な作用機序を特定することは難しい点がある。一方、この発明を実施するためには、有機性物質混合液中の余分な有機物や全窒素を低減することは重要な指標であり、このためには、フルボ酸が豊富な環境で馴養されたフルボ酸馴養汚泥を用いて、好気的条件で行われる好気的培養と、嫌気的条件で行われる嫌気的培養とを組み合わせてこれらの工程を交互に行うような構成を有することが重要であり、また、このとき嫌気的培養に相当する処理を先に行った方が良いという知見等に基づくものである。
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0014】
本発明の製造方法は、有機性物質とフルボ酸馴養汚泥とを混合した有機性物質混合液を溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として4時間以上培養することで、前記有機性物質混合液の有機物質を嫌気的培養により低減させ嫌気的培養液とする嫌気的培養工程と、前記嫌気的培養液の溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として6時間以上培養することで、前記嫌気的培養液中にフルボ酸を増加させフルボ酸含有培養液を得る好気的培養工程と、前記好気的培養工程で培養されている培養完了前の培養液を前記嫌気的培養工程へ返送する好気的培養液返送工程と、前記好気的培養工程から得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得ることを特徴とするフルボ酸含有液の製造方法に関するものである。
【0015】
[有機性物質]
本発明のフルボ酸の製造方法および製造装置は、有機性物質を原料として、フルボ酸含有液を得ることができる製造方法および製造装置に関する。この有機性物質は、特に食品農産物や畜産物等の食品や自然加工品の生産工程で生じる自然界の有機性物質で、土へ還る有機性物質を用いることができる。例えば、米、野菜、果実のような農作物それ自体や、それらおよびその加工品を生産する過程で生じる農産物加工残渣、家畜等の畜舎排泄物(糞尿)、畜舎汚水、刈芝草、食品工場等の工場廃水、家庭等の生活廃水などがあげられる。
【0016】
[有機性物質混合液]
これらの有機性物質は、フルボ酸含有液と混合されて有機性物質混合液として、本発明の嫌気的培養、好気的培養等の所定の工程に付される。この混合にあたっては、有機性物質が懸濁液や溶液等の液状の場合、そのまま使用し汚泥と混合してよい。また、もし、有機性物質として固形のものを用いる場合、汚泥との混合比率によっては、そのまま固形状で混合してもよく、粉砕して細かくして混合してもよい。なお、この混合液は、適宜、水で希釈したり、pH調整剤や当該有機性物質を培養する際に不足する栄養源等を混合して用いてもよい。
【0017】
[フルボ酸含有液]
そして、本発明により得られるフルボ酸含有液は、フルボ酸が高比率で含有されており、フミン酸等の含有量が低い。よって、このフルボ酸含有液はフルボ酸の利用に適した液であり、それ自体を適宜希釈して、フルボ酸溶解液として用いることもできる。
【0018】
[フルボ酸およびフミン酸]
なお、本願におけるフルボ酸およびフミン酸は、日本腐植物質学会の属する国際腐植物質学会の分類に基づき、生物体有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊して生じる化学構造が特定されていない有機物(非生体有機物)である腐植物のうち、アルカリ・酸に対する溶解性での分類を行う。すなわち、フルボ酸は、アルカリに可溶であり、かつ、酸に可溶な成分である。一方、フミン酸は、アルカリに可溶であるが、酸に不溶な成分である。なお、ヒュミンは、アルカリに不溶であり、かつ、酸に不溶な成分である。
【0019】
[フルボ酸濃度・活性)の測定例]
フルボ酸含有液やフルボ酸馴養汚泥等に含まれているフルボ酸の程度は、フルボ酸が混合物質であり、かつ他の有機物の有無の影響も大きいため具体的な成分ごとの濃度で規定することが適切ではなく、具体的な数値では規定できない場合がある。このフルボ酸の濃度は、そのフルボ酸活性の程度に関する、3D蛍光スペクトルを指標とすることができる。この3D蛍光スペクトルはUV〜可視光範囲程度の光を用いて、励起光−蛍光の波長と、その強度の分布に基づいて判断する。この分布の傾向がフルボ酸のものかを確認し、その特徴的なピークが310nm−410nm(励起光波長−蛍光波長)付近にみられればフルボ酸活性が高い(フルボ酸濃度が高い)ものと判断される。
【0020】
そして、そのフルボ酸濃度は、簡易的には、410nm付近のピークにおける蛍光波長に基づく検量線を作成し、推定濃度として算出することができる。この推定濃度として、フルボ酸含有培養液は、原料となる有機物質や製造条件にもよるが、およそ10mg/L〜300mg/Lとなる。
【0021】
また、そのフルボ酸活性は、簡易的には3D蛍光スペクトルのピークとなる波長での蛍光強度と、その励起光波長の吸光度との比として、410nm付近の蛍光強度ピーク値/310nm付近の励起光強度ピーク値(蛍光波長の蛍光強度(If)/励起光波長の吸光度(Abs))から、「フルボ酸−蛍光スペクトル比」として求めることができる。例えば、本発明のフルボ酸馴養汚泥や、フルボ酸馴養汚泥を得るために用いる高濃度フルボ酸含有液の場合、このフルボ酸−蛍光スペクトル比が、5,000〜30,000程度の値を示す。
【0022】
なお、一般的な廃水等の有機性物質含有液の腐植化が進まない段階では、このフルボ酸−蛍光スペクトル比は、ほとんど0に近い値である。本発明のフルボ酸馴養汚泥を得るために、有機性物質含有液と、高濃度フルボ酸高濃度含有液とを混合(有機性物質混合液の状態)すると、このフルボ酸−蛍光スペクトル比は、100〜500程度となる。そして、前記したようなフルボ酸馴養汚泥を得るための嫌気的な条件の培養と、好気的な条件の培養とを行うことで、フルボ酸高濃度含有液相当(フルボ酸−蛍光スペクトル比が、5,000〜30,000程度)を示す汚泥を得ることができる。このフルボ酸−蛍光スペクトル比は、フルボ酸含有液は1,000〜10,000程度、フルボ酸含有培養液は2,000〜30,000程度の値を示す。なお、この比は濃度を示す値ではなくフルボ酸の質や活性の指標であり、有機性物質との接触による反応等で大きく増減する。
【0023】
一方、フミン酸の含有については、フミン酸を特定する精製や分析を行ってその濃度を基に判断することができる。この判断を簡易的に行う場合、前述したフルボ酸の測定を行うときの、3D蛍光スペクトルによって、UV〜可視光範囲程度の光を用いて、励起光−蛍光の波長と、その強度の分布に基づいて判断することができる。フミン酸が存在する場合、450nm/530nm(励起光/蛍光)付近に、ピークがみられる。また、液の黒色度が高くなり、前述したフルボ酸−蛍光スペクトル比において、310nm付近の励起光波長の吸光度(Abs)が高くなったり、410nm付近の蛍光波長の蛍光強度(If)が低くなったりして、フルボ酸−蛍光スペクトル比が、フルボ酸含有液として好ましい範囲となりにくい。よって、本発明のフルボ酸含有液は、通常の腐植物質である、フルボ酸:フミン酸が2:8相当の腐植物質溶液と同様のダブルピークがみられない、またはフミン酸に相当するピークがこの一般的なダブルピークの値より低いことを指標とすることができる。または、フルボ酸−蛍光スペクトル比を指標としてもよい。
【0024】
本発明の製造方法は、前記好気的培養工程から得られるフルボ酸含有培養液を、前記嫌気的培養工程および/または前記好気的培養工程に返送するフルボ酸含有培養液返送工程を有することを特徴とすることができる。このフルボ酸含有培養液返送工程を有することで、よりフルボ酸含有液製造に適したフルボ酸馴養汚泥が馴養される。また、フルボ酸馴養汚泥を別途調製し添加する必要性が減り、この製造方法を安定して繰り返し行うことができる。
【0025】
本発明の製造方法は、前記好気的培養工程から得られるフルボ酸含有培養液を、フルボ酸含有液と、フルボ酸馴養汚泥とに分離する分離工程を有することを特徴とすることができる。フルボ酸含有培養液を、フルボ酸含有液と、フルボ酸馴養汚泥とに分離することでより効率よくフルボ酸含有液と、フルボ酸馴養汚泥とをそれぞれ得ることができる。
【0026】
本発明の製造方法は、前記分離工程で分離されたフルボ酸含有培養液のフルボ酸馴養汚泥を、前記嫌気的培養工程および/または前記好気的培養工程に返送するフルボ酸馴養汚泥返送工程を有することを特徴とするフルボ酸含有液の製造方法とすることができる。フルボ酸含有培養液を分離して、フルボ酸馴養汚泥のみを返送することで、より効率よく汚泥の馴養ができ、本発明の製造方法を繰り返し行うことができる。
【0027】
また、本発明の製造方法は、有機性物質とフルボ酸馴養汚泥とを混合した有機性物質混合液を溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として培養することで、前記有機性物質混合液中の有機物質を嫌気的培養により低減させ嫌気的培養液とする嫌気的培養工程と、前記嫌気的培養液を溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として培養することで、前記嫌気的培養液中にフルボ酸を増加させフルボ酸含有培養液を得る好気的培養工程と、前記嫌気的培養工程と前記好気的培養工程とを所定の時間で交互に切替え、前記嫌気的培養工程を合計4時間以上行い、前記好気的培養工程を合計6時間以上行うことで得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得ることを特徴とするフルボ酸含有液の製造方法に関するものである。
【0028】
本発明は、本発明のフルボ酸含有液の製造方法において、前記有機性物質として、廃棄性有機性物質を用いることで、前記廃棄性有機性物質を処理する廃棄物処理方法とすることもできる。これにより、廃棄性物質を処理することができ、さらに、本来、廃棄物であったものからフルボ酸製造等に有用なフルボ酸含有培養液を得ることができる。この廃棄性有機性物質とは、廃棄される有機性物質全般であり、例えば、農産物加工残渣、家畜等の畜舎排泄物(糞尿)、畜舎汚水、刈芝草、食品工場等の工場廃水、家庭等の生活廃水などが挙げられる。
【0029】
本発明の製造装置は、有機性物質とフルボ酸馴養汚泥とが混合された有機性物質混合液の溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として培養可能であり、前記有機性物質混合液中の有機物質が嫌気的培養により低減された嫌気的培養液を収容する嫌気的培養槽と、前記嫌気的培養液を溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として培養可能であり、前記嫌気的培養液中のフルボ酸が増加されたフルボ酸含有培養液を収容する好気的培養槽と、前記好気的培養槽の培養液を前記嫌気的培養槽へ返送する好気的培養液返送手段と、前記好気的培養槽から得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得る取出手段と有することを特徴とするフルボ酸含有液の製造装置に関するものである。この装置は、複数槽を有することで、嫌気的培養工程と、好気的培養工程を分けて行う本発明の製造方法に適した装置である。
【0030】
本発明の製造装置は、有機性物質とフルボ酸馴養汚泥とが混合された有機性物質混合液を収容する混合槽と、前記混合槽内で前記有機性物質混合液の溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として培養可能であり、前記有機性物質混合液中の有機物質が嫌気的培養により低減された嫌気的培養液とする嫌気的培養手段と、前記混合槽内で前記嫌気的培養液の溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として培養可能であり、前記嫌気的培養液中のフルボ酸が増加されたフルボ酸含有培養液とする好気的培養手段と、前記混合槽内で前記嫌気的培養手段と前記好気的培養手段とを所定の時間で交互に切替可能な培養条件切替手段と、前記好気的培養手段により得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得る取出手段とを有することを特徴とするフルボ酸含有液の製造装置に関するものである。この装置は、単槽でも嫌気的培養工程と、好気的培養工程とを行うこともでき、単槽で培養条件を切り替えながら行う本発明の製造方法に適した装置である。
【0031】
本発明のフルボ酸の馴養汚泥は、有機性物質とフルボ酸含有液とを混合し、溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下の環境下で行う培養と、溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上の環境下で行う培養とを行うことで得られてなるフルボ酸馴養汚泥に関するものである。この馴養汚泥は、本発明のフルボ酸の製造方法および製造装置に適した汚泥であり、フミン酸をほとんど産生することなくフルボ酸を優占的に産生する汚泥である。
【0032】
本発明のフルボ酸馴養汚泥は、高濃度でフルボ酸を含有し、一方で、フミン酸をほとんど含有しない、高比率でフルボ酸を含有する高濃度フルボ酸含有液を用いて、生成される。このフルボ酸高濃度含有液と、有機性物質とを混合し、有機性物質等に由来する一般土壌細菌等の存在下で、常温〜40℃弱程度の温度で嫌気的な条件(溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下の環境下)と、好気的な条件(溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上の環境下)とで培養することでフルボ酸馴養汚泥は生成される。このような条件で培養することで、フルボ酸生産に関連する菌が優勢であり、かつ硝化菌や脱窒菌のような、好気性細菌群や嫌気性細菌群等が含まれる汚泥を得ることができる。
【0033】
本発明は、前記フルボ酸馴養汚泥と、有機性物質とを混合した混合物を好気的雰囲気下で24時間以上培養することで、フルボ酸含有物質を製造する方法とすることができる。このフルボ酸含有物質を製造する方法においては、例えば、畜舎の糞や、植物廃棄物の残渣等の有機性物質を水中に分散等させることなく加工し、フルボ酸を高比率で含有しフミン酸をほとんど含有しないフルボ酸含有物質を製造することができる。このフルボ酸含有物質は、有機質肥料(堆肥や堆厩肥等)の加工工程に準じて製造することができ、有機性肥料として用いることができる。
【0034】
この培養を行うとき、有機性物質は水中への分散等を行っていない固形状等のまま培養を開始することができるため、一般的に非常に高い有機物を含んでおりBOD相当値も高く、好気的雰囲気下としても酸素消費が早く、嫌気的条件に近い状態となる。一方、嫌気的条件で十分に有機物を分解等行った後は、好気的条件となる部分と、嫌気的条件になる部分とが混合物中にそれぞれ生じ、本発明のフルボ酸含有培養液の製造時の嫌気的培養工程や、好気的培養工程に相当する培養が起こる。これにより、水分濃度が低い状態のフルボ酸含有物質を得ることができる。
【0035】
この培養は、好気的雰囲気下で24時間以上行うことが必要である。好気的雰囲気下とするためには、空気中で当該混合物を数時間(例えば1〜24時間、または培養時間の1/2〜1/10時間)毎に、混合物全体をかき混ぜるような切り返しを行うこと、この切り返しと適宜組み合わせて、製造環境で混合物の下部などからエアレーション装置を設けることが有効である。
【0036】
この培養時間は、有機性物質の種類にもよるが、48時間以上とすることが好ましく、72時間以上とすることが好ましい。特に糞等の有機物濃度が極めて高いものの場合、1週以上(さらに2週以上の場合もある)行うこともある。一方、3月以内とすることが好ましく、2月以内とすることが好ましい。この培養時間は、全有機物濃度や、全窒素濃度等を測定しながら設定したり、さらに、本発明のフルボ酸含有液の測定に用いるような3D蛍光スペクトルを観察しながらフルボ酸が得られていることを確認しながら行うことができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の製造方法および製造装置によれば、腐植物質のうち(微)生物活性液としての利用が期待されるフルボ酸に関して、一般的な腐植物質の比率と比べて、フミン酸に対してフルボ酸を高比率で含有するフルボ酸高比率含有液(フルボ酸含有液)やフルボ酸含有物質を製造することができる。また、本発明のフルボ酸馴養汚泥は、本発明の製造方法や製造装置に好適に用いられる汚泥であり、腐植物質の内でもフルボ酸を選択的に生産することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に関するフルボ酸含有液の製造方法の実施形態の一例を示す図である。
図2】本発明に関するフルボ酸製造装置の一例を示す図である。
図3】本発明に関するフルボ酸含有液の製造方法の実施形態の他の一例を示す図である。
図4】本発明に関するフルボ酸製造装置の他の一例を示す図である。
図5】本発明により得られるフルボ酸含有液等の3D蛍光スペクトルの分布の測定結果の例を示す図である。
図6】標準段度フミン酸の3D蛍光スペクトルの分布の測定結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0040】
[第一の実施形態(製造方法)]
図1は、本発明に関するフルボ酸含有液の製造方法S100の実施形態の1例を示す図である。製造方法S100は、混合された有機性物質液とフルボ酸馴養汚泥との混合液を嫌気的に培養する嫌気的培養工程S1と、嫌気的培養工程S1により加工された嫌気的培養液を好気的に培養しフルボ酸含有培養液を得る好気的培養工程S2と、好気的培養工程S2の培養液を嫌気的培養工程S1に返送する返送工程S3と、好気的培養工程S2で得られたフルボ酸含有培養液からフルボ酸含有液を取り出す取出し工程S4と、フルボ酸含有培養液を嫌気的培養工程S1や好気的工程S2に返送するための返送工程S51、返送工程S52、返送工程S53とを有する製造方法である。
【0041】
嫌気的培養工程S1は、有機性物質液とフルボ酸馴養汚泥とを混合した有機性物質混合液を溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下として4時間以上培養する。これにより、有機性物質を嫌気的に微生物で加工する工程である。このとき、前記有機性物質混合液中の硝酸性窒素(硝酸・硝酸イオンに加えて、塩濃度が高い場合などに残存することがある亜硝酸・亜硝酸イオンも含む)も脱窒される。
【0042】
本実施形態の嫌気的培養工程S1は、有機性物質混合液の溶存酸素濃度を0.1mg−O/L以下とする工程である。本実施形態の有機性物質は液状の有機性物質液として供給される。そして、フルボ酸馴養汚泥と混合されて、有機性物質混合液となる。この有機性物質混合液に酸素(空気)の供給を行わない場合、主としてフルボ酸馴養汚泥由来の好気性細菌群が混合液中の酸素を消費して、混合液中の酸素は低下して前述したような嫌気的培養工程S1に適した状態(嫌気的状態)となり、嫌気性細菌群が優勢となる。
【0043】
本発明の嫌気的培養工程S1は、混合液の溶存酸素濃度を所定の範囲として4時間以上培養する工程である。このような培養時間で培養することで、嫌気的培養工程に供されている有機性物質混合液の有機物が嫌気的に培養されて嫌気的培養液とする。なお、ここで嫌気的培養工程S1に供されている有機性物質混合液は、混合直後のそれ自体に含まれる硝酸性窒素が少ない場合であっても、好気的培養工程S2で培養されている培養中の硝化された液が、嫌気的工程S1には逐次返送されながら培養されているため、混合液のケルダール窒素(全窒素のうち、有機性窒素とアンモニア性窒素の総称)が好気的培養工程S2で硝化され返送されて嫌気的培養工程S1で脱窒される硝酸性窒素が存在したものとなっている。なお、この培養時間は、嫌気的培養工程の滞留時間として管理することもできる。この滞留時間は、その工程の反応を行う場(槽)に流入する液量(有機性物質の溶液の流入量および、好気的培養液の返送量、フルボ酸含有培養液の・フルボ酸馴養汚泥の返送量の総量)と、その場(槽)の有効容積から求められる。
【0044】
この嫌気的培養工程S1は、有機性物質の種類・濃度や、培養工程の温度、培養工程のpH、汚泥の馴養状態などによって、前記有機性物質混合液中の有機物を嫌気的に培養し嫌気的培養液とするまで4時間以上行われる。この時間は、6時間以上とすることが好ましく、8時間以上とすることがより好ましい。一方、有機物の嫌気的培養が完了すればよく培養時間の上限は定めなくてもよいが、長時間行う必要性は低く、さらに、嫌気的培養工程および好気的培養工程の時間を長くするほど、有機性物質中の代謝産物がさらに消費され、フルボ酸がほとんど含有されなくなる可能性もあることから、その上限は、72時間以内とすることが好ましく、50時間以内とすることがより好ましい。
【0045】
この嫌気的培養工程S1は、前記有機性物質混合液中の有機物を嫌気的に培養し嫌気的培養液とすることができるように、その運転条件が適宜設定される。具体的には、温度は20℃〜45℃とすることが好ましく、30℃〜40℃とすることが好ましい。また、pHは7.5以上のアルカリ性とすることが好ましく、pHの上限は9以下程度とすることが好ましい。
【0046】
次に、好気的培養工程S2は、前記嫌気的培養液の溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上として6時間以上培養することで、前記嫌気的培養液のケルダール窒素を好気的に培養するなどしてフルボ酸含有培養液を得る工程である。
【0047】
好気的培養工程S2は、前記嫌気的培養工程S1で嫌気的培養された嫌気的培養液をこの好気的培養工程S2を行う場に送液して行われる。この好気的培養工程S2では、嫌気的培養液の溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上とし、好気的条件で行う。このために好気的培養工程S2では培養液に酸素を供給する手段が必要となる。本発明のように汚泥を有効活用する方法においては、曝気することで空気を供給し、溶存酸素濃度を上昇させることが最も一般的であり、この曝気によっても良いし、その他の方法で行っても良い。この好気的培養工程S2の溶存酸素濃度は、その培養温度の水温や反応性、他の溶解物等との関係でその上限が定まるが、この好気的培養工程S2に適した温度で実施するとき、1.0mg−O/L程度を上限とすることが好ましく、0.7mg−O/L程度を上限とすることがより好ましい。
【0048】
本発明のフルボ酸の製造方法では、嫌気的培養工程S1と、好気的培養工程S2とによって、生産されたフルボ酸が一定量含まれるフルボ酸含有液を得ることを目的とする。このとき、有機物と、フェノールおよび/またはフェノール露出基のある化合物を含む微生物代謝産物(フェノール系代謝産物)を持つフルボ酸馴養汚泥とが、重縮合反応することでフルボ酸前駆物質である塊状産物が生成する。そして、その塊状産物がケイ酸塩と反応することでフルボ酸は得られる。よって、このフェノール系代謝産物が生成されるように、嫌気的培養工程と好気的培養工程とを行うことが重要であり、溶存酸素濃度の制御を行わなければフェノール系代謝産物が生成されにくい場合がある。一方、溶存酸素濃度が高すぎるとフェノール系代謝産物を超えて、さらに分解が進む場合があり、フルボ酸を得ることができない場合がある。なお、本発明の好気的培養工程S2等に、フルボ酸生成を促進するためのケイ酸塩を適宜添加してもよい。
【0049】
この好気的培養工程S2は、嫌気的培養液の溶存酸素濃度を所定の範囲として6時間以上培養する工程である。このような培養時間で培養することで、好気的培養工程に供されている嫌気的培養液の有機物が消費され、前述したフェノール系代謝産物等の反応によりフルボ酸が含有されるフルボ酸含有培養液が得られる。また、このフルボ酸含有培養液はフミン酸が一般的な腐植物質で含まれる濃度よりも少ない。また、好気的培養工程S2でケルダール窒素を好気的に培養し、嫌気的培養工程S1に返送されることで硝酸性窒素も脱窒され、十分に全窒素が除去される。なお、好気的培養工程S2の前に嫌気的培養工程S1が設けられるが、一般的に嫌気的培養工程S1ではケルダール窒素は除去されにくいことが知られており、主として有機性物質由来の混合液中のケルダール窒素として残存したまま好気的培養工程S2に供される。なお、この培養時間は、好気的培養工程の滞留時間として管理することもできる。
【0050】
この好気的培養工程S2は、有機性物質の種類・濃度や、培養工程の温度、汚泥の馴養状態などによって、好気的培養工程に供されている嫌気的培養液の有機物を好気的に培養しフルボ酸含有培養液が得られるまで6時間以上行われる。この時間は、8時間以上とすることが好ましく、10時間以上とすることがより好ましい。一方、有機物の好気的培養が完了すればよく培養時間の上限は定めなくてもよいが、長時間行う必要性は低く、さらに、嫌気的培養工程および好気的培養工程の時間を長くするほど、有機性物質中の代謝産物がさらに消費され、フルボ酸がほとんど含有されなくなる可能性もあることから、その上限は、72時間以内とすることが好ましく、50時間以内とすることがより好ましい。
【0051】
この好気的培養工程S2は、嫌気的培養液中の有機物の好気的培養ができ、嫌気的培養液のケルダール窒素を好気的に培養しフルボ酸含有培養液が得られるように、その運転条件が適宜設定される。具体的には、温度は20℃〜45℃とすることが好ましく、30℃〜40℃とすることが好ましい。また、pHは6.5以上のほぼ中性〜アルカリ性とすることが好ましく、pHの上限は9以下程度とすることが好ましい。
【0052】
返送工程S3は、好気的培養工程S2で培養されている培養完了前の培養液を嫌気的培養工程S1へ返送する好気的培養液返送工程である。この返送工程S3で返送する液量(返送量)は、好気的培養工程S2で生成する硝酸性窒素濃度に応じて適宜設定される。例えば、返送量は、嫌気的培養工程の槽に、1日(24時間)あたり50〜300%(=1日あたりの返送量/嫌気的培養工程の槽の培養液量×100%)程度返送されるように設定するができる。
【0053】
この返送工程S3で返送される培養液は、前述したとおり、好気的培養工程S2で行われる培養が完了する途中段階のものを返送してよい。これは、有機性物質混合液、嫌気的培養液のケルダール窒素は主としてこの好気的培養工程S2で低減されるためである。一方、好気的培養工程S2で培養される液にはケルダール窒素を硝化した硝酸性窒素が含まれているため、この硝酸性窒素を脱窒するために、培養完了前の段階でこの硝酸性窒素を含む培養液を嫌気的工程S1に付す必要がある。
【0054】
取出し工程S4は、好気的培養工程S2から得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得るものである。この取出し工程S4で取り出されるフルボ酸含有液は、好気的培養工程S2で十分な時間培養されることでフルボ酸含有培養液そのものでもよい。または、フルボ酸含有培養液には、汚泥も含まれることから、適宜沈降分離等の方法で汚泥を分離した上澄みにあたる部分だけを得たり、さらにろ過や濃縮しても良い。
【0055】
なお、この製造方法S100では、フルボ酸含有培養液を嫌気的培養工程S1や好気的工程S2に返送するための返送工程S51、返送工程S52および返送工程S53(返送工程S51〜S53)を行わずに、この製造方法S100を実施しても良い。しかし、フルボ酸含有培養液を嫌気的培養工程S1や好気的工程S2に返送するための返送工程S51〜S53を行うことで、供給される有機性物質に適したフルボ酸馴養汚泥となり、かつ新たなフルボ酸馴養汚泥を供給せずに長期間安定した製造を行うことができる。なお、一般的な廃棄物処理においては、処理後のBODは0に近いほどよいが、本発明ではフルボ酸が得られることからもBODは完全に0とはならない。すなわち、BODが0にならない条件で反応を進め終了することからも単なる廃棄物処理法の延長上から見出すことができない知見である。
【0056】
[第二の実施形態(製造装置)]
図2は、本発明に関する製造装置の1例であるフルボ酸製造装置100を示す図である。フルボ酸製造装置100は、嫌気的培養槽2と、好気的培養槽3とを有しており、さらに、好気的培養液返送手段として機能するポンプ41や配管42を有している。さらに、このフルボ酸製造装置100においては、有機性物質槽1から有機性物質が供給され、フルボ酸含有培養液の分離のために分離槽5と、フルボ酸含有液(特にフルボ酸馴養汚泥)を返送するためのポンプや配管、培養が完了したフルボ酸含有培養液を取り出すための配管等を有する。以下、フルボ酸製造装置100について、各構成をさらに詳述する。
【0057】
フルボ酸含有液の原料となる有機性物質(液)は、有機性物質槽1に貯留されて用いられる。この有機性物質槽1に貯留されるものは、廃棄性有機性廃棄物質等とすることもできる。この有機性物質槽に貯留されるものは、固体でも液体でも構わないが、混合槽としても機能する嫌気的培養槽2への搬送性、および嫌気的培養槽2での混合性を考慮すると、この有機性物質槽1で懸濁液等の液状としておいてもよい。
【0058】
嫌気的培養槽2は、本発明のフルボ酸含有液の製造方法における嫌気的培養工程を行うために重要な槽である。本実施形態において、嫌気的培養槽2には、適宜切り替え弁11を切り替えて、有機性物質槽1に貯留されていた有機性物質が流入される。また、さらに、この嫌気的培養槽2に、別途、フルボ酸馴養汚泥を添加して、有機性物質とフルボ酸馴養汚泥とを混合して有機性物質混合液を収容し、嫌気的培養槽2を混合槽とすることができる。この混合にあたっては、嫌気的培養槽2に給気配管23にポンプ22を用いて曝気することで、混合・撹拌することができる。
【0059】
この嫌気的培養槽2には、適宜曝気の撹拌方法で混合された有機性物質混合液は、曝気を停止することで、フルボ酸馴養汚泥に含まれていた好気性細菌群が優先的に好気性反応をすることでその溶存酸素を消費して、溶存酸素濃度0.1mg−O/L以下の嫌気的な環境となり、嫌気的細菌群が優勢となる。そして、有機性物質混合液の有機物の嫌気的消費や、好気的培養槽3から返送される硝酸性窒素等を含む培養液に含まれる硝酸性窒素を脱窒する嫌気的培養が行われ嫌気的培養液が得られる。
【0060】
好気的培養槽3は、本発明のフルボ酸含有液の製造方法における好気的培養工程を行うために重要な槽である。嫌気的培養槽2で得られ収容されていた嫌気的培養液は、切り替え弁21を適宜反応時間等を設定し切り替えることで好気的培養槽3に送液される。この好気的培養槽3では、嫌気的培養液に含まれている有機物を好気的に消費し、有機物の消費過程で生成したフェノール系代謝産物がケイ酸塩の存在下で腐植化の重縮合が惹起される等の反応をすることでフルボ酸が生成される。好気的培養槽3は、嫌気的培養槽2から送液された嫌気的培養液を溶存酸素濃度0.2mg−O/L以上とするために、給気配管34を介して、ポンプ33を用いて曝気されて、空気などを供給することができる構成となっている。この曝気量は、好気的培養槽3の溶存酸素濃度を測定し設定範囲内となるようにポンプ33の運転を制御する制御部32により管理される。なお、この曝気は、空気の供給のみでなく、好気的培養槽3中に収容されている液の撹拌も行う。この好気的培養槽は、培養中の溶存酸素濃度を一定以上で維持するように、曝気が連続的あるいは断続的に行われる。
【0061】
さらに、好気的培養槽3と嫌気的培養槽2とを連結するように設けられる配管42と、少なくとも好気的培養槽3から嫌気的培養槽2へと送液するポンプ41とは、好気的培養液返送手段として機能する。そして、この好気的培養液返送手段は、本発明のフルボ酸含有液の製造方法における好気的培養液返送工程を行う構成の一例である。
【0062】
これらの嫌気的培養槽および好気的培養槽で、適宜返送しながら培養することで、嫌気的培養および好気的培養の消費過程でフルボ酸が含有されるフルボ酸含有培養液が得られる。また、これらの反応に伴う消費過程でケルダール窒素を好気的に培養し、嫌気的培養槽で硝酸性窒素も脱窒され、全窒素が十分に除去される。
【0063】
培養が完了したフルボ酸含有培養液は、好気的培養槽3から、切替弁31を切り替えて分離槽5に送液されて、沈降分離される。このフルボ酸含有培養液は、汚泥と培養液とを含むものであり、この培養液の汚泥はフルボ酸により生成(馴養)されたフルボ酸馴養汚泥となっている。沈降分離後に、フルボ酸含有培養液の上澄みは、切替弁51を送液に切り替えて配管52を介してフルボ酸含有液として取り出される。なお、好気的培養槽3からフルボ酸含有培養液のまま取り出して、適宜汚泥等を分離してもよい。
【0064】
分離槽5で沈殿するフルボ酸馴養汚泥は、ポンプ62により送液され、切替弁63を切り替えて配管64を介して好気的培養槽3に返送したり、切替弁63を切り替えて配管65を介して嫌気的培養槽2に返送したりすることで、有機性物質を適宜供給しながら、安定してフルボ酸含有液を製造する装置として運転することができる。
【0065】
これらの第一の実施形態および第二の実施形態に係る製造方法および製造装置は、連続的に有機性物質を供給し、フルボ酸含有液を得ることに適した構成である。
【0066】
[第三の実施形態(製造方法)]
図3は、本発明に関するフルボ酸含有液の製造方法S101の実施形態を示す図である。製造方法S101は、有機性物質液とフルボ酸馴養汚泥とを混合した有機性物質混合液を嫌気的に培養する嫌気的培養工程S11を行い、嫌気的培養工程の時間を所定時間行ったとき、好気的培養工程S21を開始し、所定時間経過したとき、嫌気的培養工程S11および好気的培養工程S21の時間が、それぞれ所定の合計時間経過するまで、嫌気的培養工程S11と好気的培養工程S21とを交互に繰り返して行い、培養が完了したのち、フルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を取り出す工程を有する。この構成は、いわゆるバッチ式の製造方法である。
【0067】
この嫌気的培養工程S11は前述の実施形態1に係る嫌気的培養工程S1のように、混合後に酸素等の供給を行わなければ溶存酸素濃度が0.1mg−O/Lとなり、嫌気的に培養することができる。この製造方法S101によるとき、好気的培養工程への送液および好気的培養工程からの返送を行わない構成とすることができるため、嫌気的培養を所定時間行った後、好気的培養工程S21を行い、また所定時間経過後に嫌気的培養工程S11を開始するように、交互に繰り返すことで、実質的に実施形態1における返送工程に相当する加工を行うことができる。
【0068】
この好気的培養工程S21は、嫌気的培養工程S11が所定時間経過したときに、その嫌気的培養工程S11を経た嫌気的培養液に、曝気するなどの方法で、溶存酸素濃度を0.2mg−O/L以上とすることで、好気的培養工程S21を開始することができる。このような溶存酸素濃度の好気的条件とすれば、フルボ酸馴養汚泥中の好気性細菌群が発現し、有機物の好気的消費や、ケルダール窒素の硝化などを行う。
【0069】
このS11の所定時間と、S21の所定時間は、S11の合計設定時間およびS21の合計設定時間から、それぞれの比率を求め、その比で求めた時間を1時間ごとに繰り返す等の設定とすることができる。例えばS11の合計時間を10時間、S21の合計時間を10時間と設定するとき、それらの時間の比は、1:1となるため、S11を30分行いS21を30分行う1時間の加工を1単位として、これを20回行うことで、それぞれの合計時間を達成することができる。
【0070】
これらの嫌気的培養工程S11および好気的培養工程S21を、交互に行うことで、好気性細菌群の代謝機能が活性化し、より多くの代謝産物の産出を促し、その代謝産物と有機物との重縮合反応も促進され、高比率で含有されるフルボ酸含有培養液が得られる。また、好気的培養工程で嫌気的培養液のケルダール窒素を硝化し、嫌気的培養工程で硝酸性窒素も脱窒され、十分に全窒素が除去される。
【0071】
[第四の実施形態(製造装置)]
図4は、本発明に関する製造装置の1例として、フルボ酸製造装置101を示す図である。フルボ酸製造装置101は、反応槽7を有しており、これにエアレーション(曝気)を行うことができるポンプ71およびポンプ71から給気する給気配管72を有している。この反応槽7には、有機性物質槽1から送液される液量を調整するために、運転間隔を制御する送液制御装置13が取り付けられた切替弁12を切り替えることで、有機性物質が供給される。
【0072】
この反応槽7には、有機性物質槽1から供給された有機性物質と、別途仕込まれる、あるいは、その前の反応後に残存しているフルボ酸馴養汚泥とを加えることで有機性物質混合液が収容される。すなわち、反応槽7がまず混合槽として機能する。そして、この混合槽では、前述の実施形態でも示した通り、特に酸素を供給しなければ酸素が消費され溶存酸素濃度が低下し0.1mg−O/L以下となり、嫌気的培養が行われる。よって、嫌気的培養を目的とする時は酸素を供給せず、その培養時間を管理することで嫌気的培養手段となる。さらに、この反応槽7に取り付けられているポンプ71から曝気して空気を供給することで嫌気的培養後の培養液を好気的培養することができる。すなわち、曝気するためのポンプ71およびその給気配管72が好気的培養手段となる。
【0073】
さらに、好気的培養手段の起動の有無、換言するとポンプ71の稼働の有無で、嫌気的培養と、好気的培養とを切り替える培養条件切替が可能であり、この切り替えは、前述の第三の実施形態に示したように所定時間ごとに繰り返し切り替えて運転することができ、その曝気時間の制御を運転時間の制御手段73に記憶させて、ポンプ71を制御することで実施することができる。このフルボ酸製造装置101は、前述の第三の実施形態に係る製造方法の実施に適した装置であり、いわゆるバッチ式の製造を行うものである。
【0074】
嫌気的培養および、その後の好気的培養が完了すれば、この混合槽内にフルボ酸含有培養液が得られる。このフルボ酸含有培養液は、好気的培養の運転終了後に曝気等の撹拌因子を停止して静置しておくことで、沈降分離させることもできる。この沈降分離を行って、取出し手段となる切替弁53と配管55とを用いて、その上澄みを取り出せばフルボ酸含有液を得ることができる。
【0075】
なお、沈降分離することで沈殿した汚泥は、フルボ酸馴養汚泥として用いることができるため、このまま反応槽7に残して利用しても良いし、過剰に発生したフルボ酸馴養汚泥であれば、切替弁81を切り替えて配管82から取り出しても良い。ここで、嫌気的な加工となる嫌気的培養工程を先に行うことで、供給する有機性物質量に対して発生する汚泥は少なくなるという利点もある。
【0076】
これらの嫌気的培養工程S11および好気的培養工程S21を、交互に行うことで、好気的培養工程で嫌気的培養液のケルダール窒素を硝化し、嫌気的培養工程で硝酸性窒素も脱窒され、十分に全窒素が除去され、これらの反応に伴い、好気性細菌群の代謝機能が活性化し、より多くの代謝産物の産出が促され、その代謝産物と有機物との重縮合反応も促進されて、高比率で含有されるフルボ酸含有培養液が得られる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
1.測定方法
「溶存酸素濃度」
(株)堀場製作所製「ハンディpHメーター D−55」の溶存酸素濃度測定用電極を取り付けて測定した。
【0079】
「ORP」
(株)堀場製作所製「ハンディpHメーター D−55」のORP測定用電極を取り付けて測定した。
【0080】
「pH」
(株)堀場製作所製「ハンディpHメーター D−55」のpH測定用電極を取り付けて測定した。
【0081】
「T-N」
JIS K0102(2013)「45.4 銅カドミウムカラム還元法」に則って測定した。
【0082】
「BOD」
JIS K0102(2013)「21 生物化学的酸素消費量(BOD)」に則って測定した。
【0083】
「NH
(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―NH4」を用いて測定した。
【0084】
「NO
(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―NO2」を用いて測定した。
【0085】
「NO
(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―NO3」を用いて測定した。
【0086】
「COD」
(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―COD」を用いて測定した。
【0087】
「3D蛍光スペクトル測定」
装置:F―4500形 (HITACHI)
測定条件:フォトマル電圧:700V、スリット幅:2.5nm
試料調製:粉末試料を0.01M NaOHで溶解させ、試料溶液とした。
励起光波長240nm〜540nm、蛍光波長290nm〜590nmの測定を行い、3Dスペクトルを求めた。
(1)フルボ酸
分布から410nm付近(390〜450nm)のピーク値/310nm付近(300nm〜360nm範囲内)のピークの有無を判断し、フルボ酸の有無を確認した。さらに、410nm付近(390〜450nm)のピーク値/310nm付近(300nm〜360nm範囲内)のピーク値(蛍光波長の蛍光強度(If)/励起光波長の吸光度(Abs))を、「フルボ酸−蛍光スペクトル比」とした。
(2)フミン酸
フミン酸が存在する場合、450nm/530nm(励起光/蛍光)付近に、ピークがみられるため、このピークの有無を確認した。
【0088】
2.フルボ酸馴養汚泥(I)の製造
[原料]
・有機性物質(i):豚舎汚水(BOD:6,800mg/L、T−N:2,200mg/L)
・高濃度フルボ酸含有液(i):リードアップ Lot.No.2J11, 3C01, 3K07, 4B01(株式会社T&G社製「フルボ酸を含む水溶液」の製品名称)
・シリケイト(i):株式会社サンクロック科学研究所製、グリーンタフ微粉末(医王石)
・水(生活用水相当)
【0089】
[製造工程]
前記有機性物質(i)100Lと、水500Lとを混合した混合液に高濃度フルボ酸含有液(i)700mLおよびシリケイト(i)1,000gを添加し、撹拌後、常温で、曝気して培養した。なお、この培養工程で有機性物質(i)混合直後から混合液の有機物の消費に伴い、必然的に6時間程度は嫌気的培養条件となる。この曝気状態での培養を72時間行い、有機性物質(i)が消費された後、さらに有機性物質(i)を200L添加して、曝気状態での培養を再度48時間行った。その後、さらに、有機性物質(i)を200L添加して、曝気状態での培養を再度24時間行い得られた培養液をフルボ酸馴養汚泥(I)として製造した。なお、培養中のpHは6.5〜7.5であり、ORP値は150mV以下であった。この製造により得られたこのフルボ酸馴養汚泥(I)のフルボ酸−蛍光スペクトル比は、およそ35,000であり、フミン酸に相当するピークは観察されなかった。
【0090】
3.フルボ酸含有培養液の製造
前記2.項に記載の原料、製造工程で得られたフルボ酸馴養汚泥(I)などを用いて、フルボ酸含有培養液を製造した実施例について、以下に述べる。
【0091】
[実施例1]
フルボ酸製造装置100の構成を有する製造装置を用いて、豚舎汚水からフルボ酸の製造を行った。
【0092】
[有機性物質槽]
有機性物質槽1に、豚舎汚水を貯留した。この豚舎汚水は、BODがおよそ6,800mg/L、T−Nがおよそ2,200mg/Lであった。
【0093】
[嫌気的培養工程(1)]
有効容積150Lの嫌気的培養槽2に、運転開始時に前記フルボ酸馴養汚泥(I)100L(MLSS3,000mg/L)を加え、ここに前記有機性物質槽1に貯留されている豚舎汚水を50L/dayの流量で連続的に供給して混合し有機性物質混合液として、嫌気的培養工程(1)を行った。この嫌気的培養槽2では、撹拌の目的で、曝気を定期的に行ったが、流入する有機物の消費過程で溶存酸素は直ちに消費され、運転中の平均溶存酸素濃度は0.1mg/L以下を維持した。
【0094】
この槽の容積V1(150L)と、有機性物質槽1の有機性物質の溶液(豚舎汚水)の流入量q1(50L/day)と、後述する好気的培養槽3からの返送量q2(50L/day)と、分離工程5から嫌気的培養槽2へのフルボ酸馴養汚泥の返送量q3(25L/day)とから、この槽での平均滞留時間はおよそ28.8時間である(平均滞留時間=V1/(q1+q2+q3):150/(50+50+25))。また、この嫌気的培養工程(1)における運転中のpHは8.0〜9.5であり、ORPは−350mV以下として管理した。
【0095】
[好気的培養工程(1)]
容積200Lの好気的培養槽3に、前記嫌気的培養工程(1)で嫌気的に培養された嫌気的培養液は、供給される。この好気的培養槽3では、制御部32、ポンプ33、給気配管34により、曝気することで、溶存酸素濃度が平均0.5mg/Lとなるように運転し、好気的培養工程(1)を行った。
【0096】
この槽の容積V2(200L)と、嫌気的培養槽2に流入し好気的培養槽3へフローする液量(有機性物質の溶液(豚舎汚水)の流入量q1(50L/day)および、好気的培養槽3からの返送量q2(50L/day)、分離工程からのフルボ酸馴養汚泥の返送量q3(25L/day))と、分離槽5から好気的培養槽3へ返送する返送量q4(10L/day)から、この槽での平均滞留時間はおよそ35.6時間である(平均滞留時間=V2/(q1+q2+q3+q4):200/(50+50+25+10))。また、この好気的培養工程(1)における運転中のpHは6.5〜8.0であり、ORPは150mV以下として管理した。
【0097】
[好気的培養液返送工程(1)]
好気的培養工程(1)で好気的に培養された培養液は、返送手段として機能するポンプ41、配管42によって、50L/dayの流量で、定常的に嫌気的培養工程(1)を行う嫌気的培養槽2に返送した。
【0098】
[分離工程・フルボ酸馴養汚泥返送工程]
好気的培養液返送工程(1)から適宜返送されながら、嫌気的培養工程(1)および好気的培養工程(1)により培養加工された液は、フルボ酸含有培養液(1)として、分離槽5に流入させ、分離槽5で自然沈降分離によって、上澄みであるフルボ酸含有液と、沈降するフルボ酸馴養汚泥とに分離した。そして沈降物をフルボ酸馴養汚泥(1)として、25L/dayを嫌気的培養槽2に、25L/dayを好気的培養槽3に返送しながら運転した。なお、分離槽で分離された上澄みであるフルボ酸含有液をフルボ酸含有液(1)として取り出した。このフルボ酸含有液(1)として得られる液量は、豚舎汚水の供給量である50L/dayとほぼ同量である。これは、本発明のフルボ酸含有液の製造装置では、適宜次の工程への送液や、返送しながら運転している間にほぼ取り出されないため、最初に供給する量が取出し量となるためである。
上記条件の運転を4週以上連続して安定した運転を行うことができ、豚舎汚水の処理方法としても優れたものであった。
【0099】
[フルボ酸含有液(1)の評価]
得られたフルボ酸含有液(1)のBODは、安定して100mg/L以下であり、T−Nは150mg/L以下であり、pHは6.5〜8.0であった。なお、このフルボ酸含有液(1)は、適宜フィルター(孔径0.4μmの中空糸膜等)を用いて、固形物を取り除き、1次精製したフルボ酸含有液を得ることができる。なお、この1次精製したフルボ酸含有液のpHは7.2、BODは2.7mg/L、全窒素(T−N)は130.0mg/Lであり、大腸菌は検出されなかった。
【0100】
[実施例2]
フルボ酸製造装置100の構成を有する製造装置を用いて、廃棄トマト粉砕液からフルボ酸の製造を行った。
【0101】
[有機性物質槽]
有機性物質槽1に、廃棄トマト粉砕水を貯留した。この廃棄トマト粉砕液は、BODがおよそ5,000mg/L、T−Nがおよそ1,000mg/Lであった。
【0102】
[嫌気的培養工程(2)]
容積25Lの嫌気的培養槽2に、前記フルボ酸馴養汚泥(I)20L(MLSS3,000mg/L)を加え、ここに前記有機性物質槽1に貯留されている廃棄トマト粉砕液を10L/dayの流量で供給して混合し有機性物質混合液として、嫌気的培養工程(2)を行った。この嫌気的培養槽2では、撹拌の目的で、曝気を定期的に行ったが、流入した有機物の消費過程で溶存酸素は直ちに消費され、運転中の平均溶存酸素濃度は0.1mg/L以下を維持した。
【0103】
この槽の容積V1´(25L)と、有機性物質槽1の有機性物質の溶液(廃棄トマト粉砕液)の流入量q1´(10L/day)と、後述する好気的培養槽3からの返送量q2´(10L/day)と、分離工程5から嫌気的培養槽2へのフルボ酸馴養汚泥の返送量q3´(5L/day)とから、この槽での平均滞留時間はおよそ24時間である(平均滞留時間=V1´/(q1´+q2´+q3´):25/(10+10+5))。また、この嫌気的培養工程(2)における運転中のpHは8.0〜9.5であり、ORPは−350mV以下として管理した。
【0104】
[好気的培養工程(2)]
容積500Lの好気的培養槽3に、前記嫌気的培養工程(2)で嫌気的に培養された嫌気的培養液は、供給される。この好気的培養槽3では、制御部32、ポンプ33、給気配管34により、曝気することで、溶存酸素濃度が平均0.6mg/Lとなるように運転し、好気的培養工程(2)を行った。
【0105】
この槽の容積V2´(30L)と、嫌気的培養槽2に流入し好気的培養槽3へフローする液量(有機性物質の溶液(廃棄トマト粉砕液)の流入量q1´(10L/day)および、好気的培養槽3からの返送量q2´(10L/day)、分離工程からのフルボ酸馴養汚泥の返送量q3´(5L/day))と、分離槽5から好気的培養槽3へ返送する返送量q4´(2L/day)から、この槽での平均滞留時間はおよそ26.7時間である(平均滞留時間=V2´/(q1´+q2´+q3´+q4´):30/(10+10+5+2))。また、この好気的培養工程(2)における運転中のpHは6.5〜8.0であり、ORPは150mV以下として管理した。
【0106】
[好気的培養液返送工程(2)]
好気的培養工程(2)で好気的に培養された培養液は、返送手段として機能するポンプ41、配管42によって、10L/dayの流量で、定常的に嫌気的培養工程(2)を行う嫌気的培養槽2に返送した。
【0107】
[分離工程・フルボ酸馴養汚泥返送工程]
好気的培養液返送工程(2)から適宜返送されながら、嫌気的培養工程(2)および好気的培養工程(2)により培養加工された液は、フルボ酸含有培養液(2)として、分離槽5に流入させ、分離槽5で自然沈降分離によって、上澄みであるフルボ酸含有液と、沈降するフルボ酸馴養汚泥とに分離した。そして沈降物をフルボ酸馴養汚泥(2)として、5L/dayは嫌気的培養槽2に、2L/dayは好気的培養槽3に返送した。なお、分離槽で分離された上澄みであるフルボ酸含有液をフルボ酸含有液(2)として取り出した。このフルボ酸含有液(2)として得られる液量は、豚舎汚水の供給量である10L/dayとほぼ同量である。
上記条件の運転を1週連続して安定した運転を行うことができた。
【0108】
[フルボ酸含有液(2)の評価]
得られたフルボ酸含有液(2)のBODは、安定して100mg/L以下であり、T−Nは100mg/L以下であり、pHは6.5〜7.5であった。なお、このフルボ酸含有液(2)は、適宜フィルター(孔径0.4μmの中空糸膜等)を用いて、固形物を取り除き、1次精製したフルボ酸含有液を得ることができる。
【0109】
[実施例3]
フルボ酸製造装置101の構成を有する製造装置を用いて、キャベツ外葉懸濁液からフルボ酸の製造を行った。
【0110】
[有機性物質]
有機性物質としてキャベツ外葉を粉砕して用い、水で希釈した懸濁液(キャベツ外葉懸濁液)とした。このキャベツ外葉懸濁液は、BODがおよそ4,000mg/L、T−Nがおよそ8
00mg/Lであった。
【0111】
[反応槽7]
容積120Lの反応槽7に、前記キャベツ外葉懸濁液10Lと、フルボ酸馴養汚泥(I)110Lとを混合して有機性物質混合液(3)とした。
この有機性物質混合液(3)を、嫌気的培養と好気的培養との培養加工を行った。
反応槽7には、ポンプ71と、給気配管72と、ポンプ71の運転を制御する制御手段73が設けられており、この運転時間の制御手段73の設定により、反応槽7内での嫌気的培養と、好気的培養とを切り替えながら運転することができる。
【0112】
ポンプ71の運転を停止し、培養工程時間中の溶存酸素濃度が平均0.1mg/L以下となった状態で培養される嫌気的培養工程(1´)を24分と、培養工程時間中の溶存酸素濃度が平均0.7mg/Lとなるように設定された状態で培養される好気的培養工程(1´)を36分行う運転を、標準サイクル(1´)として設定し、この標準サイクル(1´)を繰り返し実施することで合計20時間の培養加工を行った。これにより、嫌気的培養工程(1´)は合計8時間、好気的培養工程(1´)は合計12時間行った。
【0113】
なお、この嫌気的培養工程(1´)における運転中のpHは7.0〜8.0であり、ORPは−350mV以下として管理した。また、この好気的培養工程(1´)における運転中のpHは6.5〜7.5であり、ORPは100mV以下として管理した。
【0114】
[分離工程]
所定回数の標準サイクル(1´)を行った後、嫌気的培養と好気的培養を所定時間終了した培養液は、フルボ酸含有培養液となっている。このフルボ酸含有培養液を、反応槽7内で4時間静置(曝気撹拌停止)することで、上澄みであるフルボ酸含有液と、沈降するフルボ酸馴養汚泥とに自然沈降分離した。そして沈降物の100Lをフルボ酸馴養汚泥(1´)として、反応槽7内に残した。また、残部となる上澄み約1,00Lをフルボ酸含有液(3)として取り出した。
【0115】
この単槽のバッチ式の運転を1週以上連続して安定した運転を行うことができ、キャベツ外葉の処理方法としても優れたものであった。
【0116】
[フルボ酸含有液(3)の評価]
得られたフルボ酸含有液(3)のBODは、安定して100mg/L以下であり、T−Nは100mg/L以下であり、pHは6.5〜7.5であった。なお、このフルボ酸含有液(3)は、適宜フィルター(孔径0.4μmの中空糸膜等)を用いて、固形物を取り除き、1次精製したフルボ酸含有液を得ることができる。
【0117】
実施例1〜3により得られたフルボ酸含有液を、「3D蛍光スペクトル測定」により評価した結果、いずれもフルボ酸が含有されていることを確認することができた。ここで、「標準段戸フルボ酸(日本腐植物質学会頒布 標準フルボ酸:略称DFA)」および、実施例1、2のフルボ酸含有液の3D蛍光スペクトルの分布を図5に示す。なお、参考として、標準フミン酸(SHA:土壌由来段戸フミン酸)の3D蛍光スペクトルの分布を図6に示す。図6から明らかなようにフミン酸を含む場合、450nm/530nm(励起光/蛍光)付近に、ピークがみられる。
【0118】
また、「フルボ酸−蛍光スペクトル比」は、標準段戸フルボ酸が約30,500(蛍光420nm/励起光320nm)、実施例1のフルボ酸含有培養液で約28,000、実施例2のフルボ酸含有培養液で約24,000であった。
【0119】
「フルボ酸の測定」
フルボ酸含有液にフルボ酸が含まれていることは、簡易的なため運転状況の確認の指標としても適している「3D蛍光スペクトル測定」に加えて、「液体1H−および13C−NMR」「13C CP MASNMRスペクトル」、「フーリエ変換遠赤外分光法(FT−IR)」、「元素分析」、「蛍光X線」、「3D蛍光スペクトル測定」、「界面活性能測定」、「UV−visスペクトル測定」、「TG−DTA」、「官能基分析 ・全酸度分析、・カルボキシル基分析、・全水酸基」による分析を行い、フルボ酸の標準試薬の一つである、標準段戸フルボ酸に匹敵するフルボ酸を得ることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、有機性物質からフルボ酸含有液を得ることができる。このフルボ酸含有液は、腐植の作用機序や腐植関連物質の研究への利用や、農業等の産業への利用のために効率的な生産が求められていたものであり、これを得ることができる本発明の製造方法および製造装置は有用である。また、この有機性物質としては産業廃棄物として処理される有機物も用いることができ、廃棄物処理技術としても有用である。
【符号の説明】
【0121】
S100、S101 フルボ酸製造方法
S1、S11 嫌気液培養工程
S2、S21 好気的培養工程
S3 返送工程
S4、S41 取出し工程
S51、S52、S53 返送工程
【0122】
1 有機性物質槽
11、12、21、31、51、53、61、63、81 切替弁
13 送液制御装置
100、101 フルボ酸製造装置
2 嫌気的培養槽
22、33、71 ポンプ
23、34、72 給気配管
3 好気的培養槽
32 制御部
41、62 ポンプ
42、52、64、65 配管
5 分離槽
54 取液制御装置
55、72、82 配管
7 反応槽
73 制御手段
【要約】      (修正有)
【課題】腐植物質のうちで(微)生物活性液としての利用が期待されるフルボ酸に関して、一般的な腐植物質の比率と比べて、フミン酸に対してフルボ酸を高比率で含有するフルボ酸高比率含有液フルボ酸高比率含有液の製造方法の提供。
【解決手段】有機性物質とフルボ酸馴養汚泥とを混合した有機性物質混合液の有機物質を嫌気的培養により低減させ嫌気的培養液とする嫌気培養工程S1と、前記嫌気的培養液にフルボ酸を増加させフルボ酸含有培養液を得る好気的培養工程S2と、好気的培養工程S2で培養されている培養完了前の培養液を嫌気的培養工程S1へ返送する好気的培養液返送工程S3と、好気的培養工程S2から得られるフルボ酸含有培養液から、フルボ酸含有液を得る取出し工程S4を特徴とするフルボ酸含有液の製造方法S100。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6