【実施例】
【0014】
図1は、本発明の実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、例えば同期発電電動機として構成されて駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸22に動力を入出力するモータ30と、モータ30を駆動するインバータ56と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ58と、冷却液体としての冷却油を用いてモータ30を冷却する冷却装置60と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット70と、を備える。
【0015】
図2は、モータ30および冷却装置60の構成の概略を示す構成図である。モータ30は、図示するように、駆動軸22に接続されたロータ32と、三相のコイル46が巻回されたステータ40と、を備える。ここで、ロータ32は、無方向性電磁鋼板を打ち抜いて形成した複数のロータ部材が積層されて形成されるロータコア34と、ロータコア34の複数のスロットにそれぞれ嵌挿されディスプロシウムの含有量が比較的少ない永久磁石36と、を備える。また、ステータ40は、無方向性電磁鋼板を打ち抜いて形成した複数のステータ部材が積層されて形成されるステータコア42と、ステータコア42の複数のスロット44のそれぞれに巻回されたコイル46と、を備える。ステータコア42のスロット44付近には、コイル46の温度を検出する温度センサ92が取り付けられている。
【0016】
冷却装置60は、
図1に示すように、モータ30の下方に配置されたオイルパン62と、オイルパン62に貯留されている冷却油をモータ30に設けられた冷却油の供給口(図示せず)に供給する電動ポンプ64と、モータ30内からモータ30外への冷却油の放出位置に設けられたバルブ66と、を備える。なお、バルブ66を介してモータ30外に放出された冷却油はオイルパン62に戻る。
【0017】
電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートとを備える。電子制御ユニット70には、モータ30を駆動制御するために必要な信号(例えば、モータ30のロータ32の回転位置を検出する回転位置検出センサからの信号など)や、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,大気圧を検出する大気圧センサ89からの大気圧Pa、オイルパン62に貯留された冷却油の温度を検出する油温センサ90からの油温Toil,コイル46の温度を検出する温度センサ92からのコイル温度Tcoilなどが入力ポートを介して入力されている。また、電子制御ユニット70からは、インバータ56のスイッチング素子へのスイッチング制御信号や、電動ポンプ64への駆動信号,バルブ66への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0018】
こうして構成された実施例の電気自動車20は、基本的には、電子制御ユニット70によって実行される以下に説明する駆動制御によって走行する。電子制御ユニット70は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を計算し、要求トルクTr*に対応する要求動力Pのうちモータ30から出力可能な動力の割合である出力制限割合Routを要求動力Pに乗じた動力が駆動軸22に出力されるようインバータ56をスイッチング制御する。こうした制御により、電気自動車20は、モータ30から要求動力Pを出力制限割合Routで制限した動力を出力して走行する。なお、出力制限割合Routの詳細については後述する。
【0019】
また、実施例の電気自動車20では、オイルパン62に貯留されている冷却油は、電動ポンプ64の駆動によってモータ30の供給口に供給され、モータ30内を流れ、モータ30下部においてバルブ66が開成されているときにはバルブ66を介して下方に放出される。こうした冷却油の流れによってモータ30を冷却することができる。
【0020】
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、特に、出力制限割合Routを設定する処理について説明する。
図3は、電子制御ユニット70によって実行される出力制限割合設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、電子制御ユニット70により、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0021】
出力制限割合設定ルーチンが実行されると、電子制御ユニット70は、油温センサ90からの油温Toilや温度センサ92からのコイル温度Tcoilを入力し(ステップS100)、次式(1)を用いて過去10回にこのルーチンを実行した際に入力したコイル温度Tcoilの平均値であるコイル温度推定値Tcoilestを計算する処理を実行する(ステップS110)。式(1)中、Tcoil(n)は、過去n回目(nは自然数、実施例では、nは1〜10)にこのルーチンを実行した際に入力したコイル温度Tcoilである。コイル温度推定値Tcoilestを計算するのは以下の理由に基づく。
図4は、温度センサ92からのコイル温度Tcoil,コイル温度推定値Tcoilest,永久磁石36の温度である磁石温度Tmagの時間変化の一例を示す説明図である。温度センサ92からのコイル温度Tcoilは、図示するように、コイル46に流れる電流、つまり、電気自動車20の運転状態によっては比較的短い時間で過渡的に変化する。磁石温度Tmagは、永久磁石36の比熱が大きいため変化がコイル温度Tcoilに比べて緩やかであるため、コイル温度Tcoilに基づいて磁石温度Tmagを推定すると、磁石温度Tmagを過剰に低く推定したり、過剰に高く推定することがある。したがって、コイル温度Tcoilを用いて磁石温度Tmagを推定してモータ30を駆動制御すると、モータ30を適正に駆動制御できず、永久磁石36の温度が上昇し減磁が生じる場合がある。コイル温度推定値Tcoilestは、コイル温度Tcoilの平均値であるから、図示するように、モータ30の過渡的な駆動状態に拘わらず、概ね、磁石温度Tmagを反映していると考えられる。よって、コイル温度推定値Tcoilestを計算して、後述するように出力制限割合Routを設定することにより、より適正にモータ30を駆動制御できると考えられる。こうした理由により、ステップS110の処理ではコイル温度推定値Tcoilestを計算するのである。
【0022】
【数1】
【0023】
こうしてコイル温度推定値Tcoilestを計算したら、続いて、コイル温度Tcoilとコイル起因出力制限割合設定用マップを用いてコイル起因出力制限割合Rcoilを設定する(ステップS120)。
図5は、コイル起因出力制限割合設定用マップの一例を示す説明図である。コイル起因出力制限割合設定用マップでは、図示するように、コイル温度Tcoilが温度0(℃)から温度T1(例えば、155℃,160℃,165℃など)まではコイル起因出力制限割合Rcoilが100%であり、コイル温度Tcoilが温度T1以上になると徐々にコイル起因出力制限割合Rcoilが小さくなり、温度T2(例えば、175℃,170℃,175℃など)となるとコイル起因出力制限割合が0%となるものとした。ここで、温度T1は、永久磁石36の温度上昇を抑制して減磁を抑制するためにモータ30からの出力を制限したほうがよいと判断できるコイル46の温度の閾値であるものとした。コイル起因出力制限割合Rcoilは、図示するように、コイル温度Tcoilが高くなるにしたがってって小さくなる、即ち、モータ30からの出力が大きく制限されるよう設定されるものとした。このように設定したのは、コイル温度Tcoilが高くなるほど磁石温度Tmagが高くなる傾向にあり、永久磁石36の減磁を抑制するためにモータ30からの出力を大きく制限してモータ30の温度上昇を抑制することが望ましいためである。
【0024】
続いて、コイル温度推定値Tcoilestと温度T3(例えば、125℃,130℃,135℃など)とを比較する(ステップS130)。ここで、温度T3は、コイル温度推定値Tcoilestを用いて推定される磁石温度Tmagが永久磁石36に減磁が生じる温度の下限値よりマージン分低い温度として設定するものとした。したがって、ステップS130の処理は、永久磁石36の温度をこれ以上上昇させると減磁してしまうため永久磁石36の温度を上昇させることが適正でないか否かを判定する処理となる。
【0025】
コイル温度推定値Tcoilestが温度T3以上であるときには、これ以上永久磁石36の温度が上昇させるのは適正ではないと判断して、油温センサ90からの油温Toilと油温起因出力制限割合設定用マップを用いて油温起因出力制限割合Roilを設定する(ステップS140)。
図6は、油温起因出力制限割合設定用マップの一例を示す説明図である。参考のため、コイル温度起因出力制限割合設定用マップを一点鎖線で示している。油温起因出力制限割合設定用マップでは、図示するように、油温温度Toilが温度0(℃)から温度T4(例えば、105℃,110℃,115℃など)までは油温起因出力制限割合Roilが100%であり、油温Toilが温度T4以上になると徐々に油温起因出力制限割合Roilが小さくなり、温度T5(例えば、125℃,130℃,135℃など)となると油温起因出力制限割合が0%となるものとした。ここで、温度T4は、永久磁石36の温度上昇を抑制して減磁を抑制するためにモータ30からの出力を制限したほうがよいと判断できる冷却油の温度の閾値であるものとした。油温起因出力制限割合Roilは、図示するように、油温Toilが高くなるにしたがってって小さくなる、即ち、モータ30からの出力が大きく制限されるよう設定されるものとした。このように設定したのは、油温Toilが高くなるほど磁石温度Tmagが高くなる傾向にあり、永久磁石36の減磁を抑制するためにモータ30からの出力を大きく制限してモータ30の温度上昇を抑制することが望ましいためである。
【0026】
こうして油温起因出力制限割合Roilを設定したら、コイル起因出力制限割合Rcoilと油温起因出力制限割合Roilとのうち小さいほうの値を出力制限割合Routに設定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。このように、コイル温度推定値Tcoilestが温度T3以上であるときには、コイル温度Tcoilに基づいて設定したコイル起因出力制限割合Rcoilと油温Toilに基づいて設定した油温起因出力制限割合Roilとのうち小さいほうの値を出力制限割合Routに設定するのは、コイル温度Tcoilのみを用いて出力制限割合Rcoilを設定すると、時には磁石温度Tmagを実際より低めに推定してしまい、出力制限割合Routを高めに設定し、モータ30からの出力の制限が不足して永久磁石36の温度が上昇して減磁が生じる場合があるからである。このように、コイル温度推定値Tcoilestが温度T3以上であるときには、コイル起因出力制限割合Rcoilと油温起因出力制限割合Roilとのうち小さいほうの値を出力制限割合Routに設定することにより、コイル温度Tcoilのみに基づいて出力制限割合Routを設定するものに比して、より適正に出力制限割合Routを設定することができる。これにより、モータ30の出力をより適正に調整して永久磁石36の温度上昇を抑制し、永久磁石36の減磁を抑制することができる。実施例の電気自動車20では、永久磁石36としてジスプロシウムの含有量が比較的少ないものを用いているため減磁が開始する温度が比較的低いと考えられるが、こうした永久磁石36を用いていても、適正に永久磁石36の温度上昇を抑制し、永久磁石36の減磁を抑制することができる。
【0027】
コイル温度推定値Tcoilestが温度T3未満であるときには、永久磁石36の温度が低めであるため永久磁石36の温度が多少上昇しても永久磁石36に減磁が生じないと判断して、コイル起因出力制限割合Rcoilを出力制限割合Routに設定して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。ここで、コイル温度Tcoilのみに基づいて出力制限割合Routを設定するのは、ステップS150の処理のようにコイル温度Tcoilと油温Toilとに基づいて出力制限割合Rout設定すると、永久磁石36の温度の多少上昇が許容されるにも拘わらず油温Toilに基づいて出力制限割合Routが小さく設定され、モータ30からの出力が過剰に制限される場合があるからである。このように、コイル温度推定値Tcoilestが温度T3未満であるときには、コイル温度Tcoilに基づいて設定したコイル起因出力制限割合Rcoilを出力制限割合Routに設定することにより、モータ30の出力が過剰に制限されることを抑制することができる。
【0028】
以上説明した実施例の電気自動車20においては、コイル温度推定値Tcoilestが温度T3以上であるときには、コイル温度Tcoilに基づいて設定したコイル起因出力制限割合Rcoilと油温Toilに基づいて設定した油温起因出力制限割合Roilとのうち小さいほうの値を出力制限割合Routに設定することにより、コイル温度Tcoilのみに基づいて出力制限割合Routを設定するものに比して、より適正に出力制限割合Routを設定することができ、モータ30の出力をより適正に調整して永久磁石36の減磁を抑制することができる。また、コイル温度推定値Tcoilestが温度T3未満であるときには、コイル温度Tcoilに基づいて設定したコイル起因出力制限割合Rcoilを出力制限割合Routに設定することにより、モータ30の出力が過剰に制限されることを抑制することができる。
【0029】
実施例の電気自動車20では、ステップS120の処理で用いたコイル起因出力制限割合設定用マップでは、コイル温度Tcoilが温度0(℃)から温度T1まではコイル起因出力制限割合Rcoilが100%であり、コイル温度Tcoilが温度T1以上になると徐々にコイル起因出力制限割合Rcoilが小さくなり、温度T2となるとコイル起因出力制限割合が0%となるものとしたが、コイル起因出力制限割合Tcoilはコイル温度Tcoilが高くなるほど小さくなる傾向に設定すればよいから、コイル起因出力制限割合Tcoilをコイル温度Tcoilに対して階段状に変化するものとしコイル温度Tcoilが高くなるほど小さくなるものとしたり、コイル起因出力制限割合Toilをコイル温度Tcoilが高くなるほど単調減少するものとしたりしてもよい。
【0030】
実施例の電気自動車20では、ステップS140の処理に用いたオイル起因出力制限割合設定用マップでは、オイル温度Toilが温度0(℃)から温度T4までは起因出力制限割合Roilが100%であり、オイル温度Toilが温度T4以上になると徐々にオイル起因出力制限割合Roilが小さくなり、温度T5となるとオイル起因出力制限割合が0%となるものとしたが、オイル起因出力制限割合Toilはオイル温度Toilが高くなるほど小さくなる傾向に設定すればよいから、オイル起因出力制限割合Toilをオイル温度Toilに対して階段状に変化するものとしオイル温度Toilが高くなるほど小さくなるものとしたり、オイル起因出力制限割合Toilをオイル温度Toilが高くなるほど単調減少するものとしたりしてもよい。
【0031】
実施例の電気自動車20では、油温センサ90をオイルパン62に貯留された冷却油の温度を検出するものとしたが、冷却油の温度を検出可能な位置、例えば、バルブ66の入り口などに設置するものとしてもよい。
【0032】
実施例の電気自動車20では、ステップS130の処理により、コイル温度推定値Tcoilestが温度T3以上であるか否かを判定するものとしたが、ステップS130,S160の処理を行なわずに、コイル起因出力制限割合Rcoilと油温起因出力制限割合Roilとのうち小さいほうの値を出力制限割合Routに設定するものとしてもよい。
【0033】
実施例では、本発明の駆動制御装置を電気自動車に適用するものとしたが、電気自動車以外の電動車両、例えば、建設機械や列車などに適用するものとしてもよい。
【0034】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ30が「電動機」に相当し、冷却装置60が「冷却装置」に相当し、電子制御ユニット70が「駆動制御手段」に相当する。
【0035】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0036】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。