特許第6026857号(P6026857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6026857射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物及び該樹脂組成物からなる射出発泡成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6026857
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物及び該樹脂組成物からなる射出発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20161107BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20161107BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20161107BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20161107BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20161107BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20161107BHJP
【FI】
   C08L23/02
   B29C45/00
   C08L21/00
   C08L23/10
   C08J9/04 101
   C08J9/04CES
   B29K23:00
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-247404(P2012-247404)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2013-127053(P2013-127053A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2015年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-248874(P2011-248874)
(32)【優先日】2011年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 亮二
(72)【発明者】
【氏名】大倉 徹雄
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−102028(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/046103(WO,A1)
【文献】 特開2008−274155(JP,A)
【文献】 特開2009−235329(JP,A)
【文献】 特開2010−100826(JP,A)
【文献】 特開2000−178372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08L 23/02
B29C 45/00
C08J 9/04
C08L 21/00
C08L 23/10
B29K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ゴム成分を含み、メルトフローレート(230℃、5.00kg)が1g/10分以上70g/10分以下、タイプA硬度が40以上80以下であるオレフィン系エラストマー(A)50〜95重量%と、下記(a)〜(c)の特性を満たす改質ポリプロピレン系樹脂(B)5〜50重量%を含んでなる射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物。
(a)メルトフローレート(230℃、2.16kg)が5g/10分以上
(b)200℃でのメルトテンションが0.5cN以上
(c)200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが下記i)、ii)を満たす
i)MFRが5.0g/10分以上30g/10分未満の場合、tanδが2.0以下
ii)MFRが30g/10分以上の場合、tanδが4.0以下
【請求項2】
前記改質ポリプロピレン系樹脂が、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られることを特徴とする、請求項1記載の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物を、射出発泡してなることを特徴とする、射出発泡成形体
【請求項4】
発泡倍率が2倍を超え10倍以下で、タイプA硬度が40〜80で、耐熱試験後(110℃、24時間放置)の成形品表面での光沢度Gs2と耐熱試験前の成形品表面光沢度Gs1が次の関係を満たすことを特徴とする請求項3記載の射出発泡成形体。
Gs2/Gs1≦2
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物およびそれを用いた射出発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や家具等の緩衝材、自動車内装材、食品包装材等の衝撃吸収性能やクッション性を必要とする部材において広く発泡体が利用されている。中でもクッション性や柔軟性が必要な用途にはオレフィン系エラストマーの発泡体が好適に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1,2には、オレフィン系エラストマーと流動性の低い長鎖分岐含有ポリプロピレンとの混合物を用いた発泡成形体の製法が開示されている。このような流動性の低い長鎖分岐含有ポリプロピレンを使用すると、セル状態の良好な発泡体が得られやすい傾向にあるが、射出発泡成形に適用する場合には長鎖分岐含有ポリプロピレンの流動性の低さが災いし、溶融樹脂を射出する際の流動性が不足し高い射出圧力が発生し機械に必要以上の負荷をかけることとなるばかりか、金型転写性が劣る傾向に有り、また成形体表面にフローマークが発生し易く外観を損なう傾向にあった。特に、高い発泡倍率が必要とされる場合には、前記長鎖分岐含有ポリプロピレンの配合比率を上げる必要があり、そのような場合には特に流動性が乏しい傾向にあった。
【0004】
このようは問題を解決する為に、特許文献3には、オレフィン系エラストマーとメルトフローレートの高い高溶融張力ポリプロピレンからなる射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物が開示されている。このような組成物を使用することで、確かに外観を損なわず、機械に必要以上の負荷を掛けることなく、高発泡倍率の発泡成形体を得ることが可能であった。しかしながら、使用するオレフィン系エラストマーの種類や適用される用途によっては耐熱性が不足する場合があった。
例えば、高い耐熱性、耐薬品性が求められる自動車内装部品においては、架橋ゴム成分を含むオレフィン系エラストマーが有効であることが知られているが、このようなオレフィン系エラストマーを前記方法で発泡成形した場合、十分な発泡性が得られず、所望のクッション性と耐熱性を有した発泡性成形体を得るのが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−296063号公報
【特許文献2】特開2003−41039号公報
【特許文献3】特開2011−102028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高発泡倍率で金型転写性が良好で、ソフト感に優れ、かつ耐熱性に優れた、特にインパネやドアトリム等自動車内装材に好適な射出発泡成形体を提供しうる射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、架橋ゴム成分を含む耐熱性に優れたオレフィン系エラストマーに特定のポリプロピレン系樹脂を混合することで、特に発泡性が乏しい前記オレフィン系エラストマーに効率的に発泡性を付与することが可能で、エラストマー発泡体特有のソフト感を有し、かつ、耐熱性に優れた射出発泡成形体が得られることを見出し本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の構成よりなる。
【0009】
1).架橋ゴム成分を含み、メルトフローレート(230℃、5.00kg)が1g/10分以上70g/10分以下、タイプA硬度が40以上80以下であるオレフィン系エラストマー(A)50〜95重量%と、下記(a)〜(c)の特性を満たす改質ポリプロピレン系樹脂(B)5〜50重量%を含んでなる射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物。
(a)メルトフローレート(230℃、2.16kg)が5g/10分以上
(b)200℃でのメルトテンションが0.5cN以上
(c)200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが下記i)、ii)を満たす
i)MFRが5.0以上30未満の場合、tanδが2.0以下
ii)MFRが30以上の場合、tanδが4.0以下
2).前記改質ポリプロピレン系樹脂が、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られることを特徴とする、1)記載の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物。
3).1)、2)のいずれかに記載の射出発泡成形用エラストマー組成物を、射出発泡してなることを特徴とする、射出発泡成形体
4).発泡倍率が2倍を超え10倍以下で、タイプA硬度が40〜80で、耐熱試験後(110℃、24時間放置)の成形品表面での光沢度Gs2と耐熱試験前の成形品表面光沢度Gs1が次の関係を満たすことを特徴とする3)記載の射出発泡成形体。
【0010】
Gs2/Gs1≦2
【発明の効果】
【0011】
本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物は、特定の耐熱性を有するオレフィン系エラストマーに対して、発泡性に優れた特定のポリプロピレン系樹脂を適量含んでなることから、耐熱性を有すると共に優れた発泡性を有している。そのため、ソフト感があり、かつ耐熱性に優れた高発泡倍率の射出発泡成形体を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物は、特定のオレフィン系エラストマーおよびポリプロピレン系樹脂を特定比率で含んでなる。
【0013】
本発明で用いられる架橋ゴム成分を含むオレフィン系エラストマー(A)は、所望の耐熱性が得られ、かつ改質ポリプロピレン系樹脂(B)との相溶性の観点から、ポリオレフィン系樹脂を含むハードセグメントと架橋ゴムを含むソフトセグメントとで構成されたものであることが好ましい。
【0014】
前記オレフィン系エラストマーとしては、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分との混練下(混練状態)で、ソフトセグメントを構成するゴムを架橋化することにより得られる動的架橋型オレフィン系エラストマーが好ましい。
【0015】
動的架橋型オレフィン系エラストマーは、通常、ポリオレフィンマトリックス(ハードセグメント)中に架橋ゴム粒子(ソフトセグメント)が30μm以下、または10μm以下の平均粒径で微分散した構造を有している場合が多く、均一なセル構造を有する発泡成形体を得るという観点から好ましい。
【0016】
ハードセグメントを構成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂又はポリエチレン系樹脂であることが好ましく、改質ポリプロピレン系樹脂との相溶性という観点から、ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0017】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体の他、プロピレン系ランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体が挙げられ、プロピレン系共重合体としては、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィン類との共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体など)などが例示できる。
【0018】
ソフトセグメントを構成する架橋ゴム成分としては、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、エチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体ゴムが一般的である。上記α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテンが挙げられる。また、上記ジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネンなどの非共役ジエンが挙げられる。
【0019】
架橋の程度は、完全架橋であってもよく、部分架橋であってもよいが、特に、成形性及び発泡性の点から、部分架橋が好ましい。
【0020】
このような動的部分架橋型オレフィン系エラストマーとしては、サーモラン(三菱化学(株)製)、ミラストマー(三井化学(株)製)、エスポレックス(住友化学(株)製)などが市販されている。
【0021】
これらのオレフィン系エラストマーを使用することで、耐熱性に優れかつクッション性に優れた発泡成形体が得られやすく、これらは単独使用みならず二種以上組み合わせて使用しても良い。
【0022】
本発明で用いられるオレフィン系エラストマー(A)のメルトフローレートは、1.0g/10分以上80g/10分以下、好ましくは2.0g/10分以上70g/10分以下である。オレフィン系エラストマーのメルトフローレートが上記範囲内にあると、流動性が確保され成形機や金型に必要以上に負荷がかかることなく射出充填が可能となり、光沢ムラやフローマークの無い所望の硬度の射出発泡成形体が得られ易い。ここで、メルトフローレート(以降、「MFR」と略す場合がある)とは、JIS K 7210(1999)記載のA法の規定に準拠し、メルトインデクサーS−01(東洋精機製作所製)を用い、230℃、一定荷重下でダイから一定時間に押し出される樹脂量から、10分間に押し出される量に換算した値をいう。オレフィン系エラストマーに関して前記一定荷重は5.00kgとした。なお、前記一定時間とは、メルトフローレートが0.5g/10分を超え1.0g/10分以下の場合は120秒間、1.0g/10分を超え3.5g/10分以下の場合は、60秒間、3.5g/10分を超え10g/10分以下の場合は30秒間、10g/10分を超え25g/10分以下の場合は10秒間、25g/10分を超え100g/10分以下の場合は5秒間、100g/10分を超える場合は3秒間である。前記一定時間で切り取った切り取り片を3個採取しその平均値を算出することとし、一回の測定で3個採取できない場合は3個採取できるまで測定を継続する。仮に、ある秒数で測定した際のメルトフローレートが対応する範囲に無かった場合は、そのメルトフローレートに応じた秒数で再度測定するものとする。
【0023】
本発明で用いられるオレフィン系エラストマー(A)は、タイプA硬度が40以上80以下、好ましくは45以上75以下である。タイプA硬度が上記範囲内にあると、得られる射出発泡成形体のクッション性や耐熱性などのバランスが良いものが得られ易い。ここで、タイプA硬度とは、JIS K6253に従い、23℃の環境下でタイプAデュロメータ硬さ試験により測定したものを言う。
【0024】
本発明で使用する改質ポリプロピレン系樹脂(B)は、(a)メルトフローレートが5g/10分以上、(b)200℃でのメルトテンションが0.5cN以上、(c)200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδに関して、MFRが5以上30未満の場合にはtanδが2.0以下、MFRが30以上の場合にはtanδ4.0以下であることが必要で、この条件を満たすことで、発泡性に乏しいオレフィン系エラストマー(A)に効率的に発泡性を付与することが可能となる。
【0025】
改質ポリプロピレン系樹脂(B)のメルトフローレートが上記範囲にあると、組成物の流動性が増し成形性が向上する為好ましく、好ましくは30g/10分以上、さらには70g/10分以上であることが好ましい。上限に関しては特に制約はないが、高すぎると計量が不安定になる場合があり、250g/10分以下であることが好ましい。
【0026】
さらに、改質ポリプロピレン系樹脂(B)のメルトフローレートはオレフィン系エラストマー(A)より高いことが好ましい。そうすることで、オレフィン系エラストマー(A)への分散性が向上する為か発泡性も良好な傾向を示す。
【0027】
ここで改質ポリプロピレン系樹脂(B)のメルトフローレートは、一定荷重を2.16kgとした以外は、前記オレフィン系エラストマー(A)と同様に測定した。
【0028】
メルトテンションは、上記範囲にあることで射出発泡成形時の溶融樹脂先端部での破泡が防止されシルバーストリークの発生を抑制し、成形体外観が良化する傾向にあり、好ましくは0.8cN、さらには1.0cNであることが好ましい。メルトテンションの上限は特に限定されないが、好ましくは15cN以下である。15cNを超えるとオレフィン系樹脂(A)との混合性が低下し外観が悪化する場合があり、より好ましくは10cN以下である。
【0029】
ここで、メルトテンションとは、メルトテンション測定用アタッチメントが装備されており、先端に内径1mmφ、長さ10mmのオリフィスを装着した10mmφのシリンダを有するキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、200℃、ピストン降下速度10mm/分で降下させた際にダイから吐出されるストランドを350mm下のロードセル付きプーリーに掛けて1m/分の速度で引き取り、安定後に引き取り速度を4分間で200m/分の速度に達する割合で増加させ、ストランドが破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重をいう。なお、ストランドが破断に至らない場合は、引き取り速度を増加させてもロードセル付きプーリーにかかる荷重が増加しなくなった点の荷重をメルトテンションとする。
【0030】
以上のような特性を有する改質ポリプロピレン系樹脂(B)樹脂としては、例えば、分岐構造あるいは高分子量成分を有するものが挙げられる。このような改質ポリプロピレン系樹脂(B)の製法としては、例えば、線状ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射するか、または線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、ラジカル重合開始剤を溶融混合するなどの方法が挙げられる。本発明においては、特に分岐構造を有するものが好ましく、その製法としては、線状ポリプロピレン樹脂、共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂が、高価な設備を必要としないことにより、安価に製造できる点から好ましい。
【0031】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(B)の製造に用いられる前記線状ポリプロピレン系樹脂とは、線状の分子構造を有しているポリプロピレン系樹脂であり、具体的にはプロピレンの単独重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体であって、結晶性の重合体があげられる。プロピレンの共重合体としては、プロピレンを75重量%以上含有しているものが、ポリプロピレン系樹脂の特徴である結晶性、剛性、耐薬品性などが保持されている点で好ましい。共重合可能なα−オレフィンは、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのうち、エチレン、1−ブテンが、耐寒脆性向上、安価等という点で好ましい。
【0032】
前記共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価で取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点から、特に好ましい。
【0033】
前記共役ジエン化合物の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下が好ましく、0.05重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。共役ジエン化合物の添加量が0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また、20重量部を超える添加量においては、効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0034】
前記共役ジエン化合物と共重合可能な単量体、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどを併用してもよい。
【0035】
ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、一般にケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、特に水素引き抜き能が高いものが好ましく、例えば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンなどのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下が好ましく、0.05重量部以上4重量部以下がさらに好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また、10重量部を超える添加量では、改質の効果が飽和してしまい経済的でない場合がある。
【0037】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、ラジカル重合開始剤を反応させるための装置としては、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、特に押出機が生産性の点から好ましい。
【0038】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、ラジカル重合開始剤を混合、混練(撹拌)する順序、方法にはとくに制限はない。線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、ラジカル重合開始剤を混合したのち溶融混練(撹拌)してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練(撹拌)したのち、共役ジエン化合物あるいはラジカル開始剤を同時に、あるいは、別々に、一括してあるいは分割して混合してもよい。混練(撹拌)機の温度は130℃以上300℃以下が、線状ポリプロピレン系樹脂が溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。またその時間は一般に1〜60分が好ましい。
【0039】
このようにして得られる改質ポリプロピレン系樹脂(B)の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0040】
オレフィン系エラストマー(A)および改質ポリプロピレン系樹脂(B)の混合方法は特に限定はなく、公知の方法で行うことができる。混合方法としては、例えば、ペレット状の両者をブレンダー、ミキサー等を用いてドライブレンドする、溶融混合する、溶剤に溶解して混合する等の方法が挙げられる。本発明においてはドライブレンドした上で射出発泡成形に供する方法が、熱履歴が少なくて済み、改質ポリプロピレン系樹脂(B)のメルトテンションの低下が少なくなる為好ましい。
【0041】
本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物は、オレフィン系エラストマー(A)を50重量%以上95重量%以下、改質ポリプロピレン系樹脂(B)を5重量%以上50重量%以下含んでなり、好ましくは、オレフィン系エラストマー組成物(A)を60重量%以上93重量%以下、改質ポリプロピレン系樹脂(B)を7重量%以上40重量%以下含んでなる[(A)および(B)の合計量は100重量%である]。
【0042】
オレフィン系エラストマー(A)および改質ポリプロピレン系樹脂(B)の配合比率が上記範囲内であると、軽量で高発泡倍率でソフト感があり、かつ耐熱性に優れた射出発泡成形体が得られる。
【0043】
本発明で用いられる発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成形に通常使用できるものであればとくに制限はない。化学発泡剤は、分解して炭酸ガス等の気体を発生するものであり、前記樹脂と予め混合してから射出成形機に供給することができる。化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
物理発泡剤は、成形機のシリンダ内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能するものである。物理発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
これらの発泡剤のうちでは、通常の射出成形機が安全に使用でき、均一微細な気泡が得られやすいものとして、化学発泡剤としては、無機系化学発泡剤、物理発泡剤としては、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスが好ましい。
【0046】
これらの発泡剤には、射出発泡成形体の気泡を安定的に均一微細にするために必要に応じて、例えばクエン酸のような有機酸等の発泡助剤やタルク、炭酸リチウムのような無機微粒子等の造核剤を添加してもよい。通常、上記無機系化学発泡剤は取扱性、貯蔵安定性、オレフィン系エラストマー組成物への分散性の点から、10〜50重量%濃度のポリオレフィン系樹脂のマスターバッチを作製し、使用されることが好ましい。
【0047】
上記発泡剤の使用量は、得られる射出発泡成形体の発泡倍率と発泡剤の種類や成形時の樹脂温度によって適宜設定すればよい。例えば、無機系化学発泡剤の場合は、通常、前記射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上20重量部以下、さらに好ましくは1重量部以上15重量部以下の範囲で使用される。無機系化学発泡剤を上記範囲で使用することにより、経済的に発泡倍率が2倍以上、且つ均一微細気泡の射出発泡成形体が得られやすい。また、物理発泡剤の場合は、本発明のポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部以下、好ましくは0.1重量部以上5重量部以下の範囲で、射出成形機に供給して使用される。
【0048】
発泡剤の添加方法については、予め、射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物に化学発泡剤をドライブレンドしたもの、もしくは、物理発泡剤を含浸させたものを射出成形機に供給してもよいし、発泡剤以外の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物を射出成形機に供給した後、成形機シリンダ途中から発泡剤を添加してもよい。
【0049】
本発明においては、さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤、ポリオレフィンワックス、等の流動性向上剤、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、架橋剤、連鎖移動剤、核剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を併用してもよい。必要に応じて用いられるこれらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用されるのはもちろんであるが、本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上40重量部以下で使用される。
以上のようにして得られる本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物は、射出発泡して射出発泡成形体とする。
【0050】
次に、本発明の射出発泡成形体の製造方法について具体的に説明する。
製造方法自体は公知の方法が適用でき、射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物のメルトフローレート、発泡剤の種類、成形機の種類あるいは金型の形状によって適宜成形条件を調整すればよい。
【0051】
本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物の場合は、樹脂温度170〜250℃、金型温度10〜100℃、成形サイクル1〜60分、射出速度10〜300mm/秒、射出圧10〜200MPaの条件で行うことが好ましい。また、金型内で発泡させる方法としては種々有るが、なかでも固定型と任意の位置に前進および後退が可能な可動型とから構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)が、表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が均一微細気泡になりやすく、軽量性に優れ、ソフト感の良好な射出発泡成形体が得られやすいことから好ましい。可動型を後退させる方法としては、一段階で行ってもよいし、二段階以上の多段階で行ってもよく、各段階で可動型を停止させる工程を入れるあるいは連続的に速度を変えて後退させても良く、後退させる速度も適宜調整してもよい。
【0052】
また、予め金型内を不活性ガス等で圧力をかけながら射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物を金型内に導入するいわゆるカウンタープレッシャー法を併用することで、シルバーストリークに起因する、射出発泡成形体の表面外観不良を低減することが出来るため好ましい。
【0053】
なお、本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物と発泡剤の溶融混合物を射出充填する際の金型のクリアランスは1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましく、さらには1.2mm以上2.5mm以下であることが好ましい。この範囲にあることで、軽量性に優れた高発泡倍率の射出発泡成形体が得られ易い。
【0054】
このようにして得られる本発明の射出発泡成形体は、微細な気泡を有し軽量性に優れるとともにソフト感に優れている。具体的には発泡倍率が2倍を超え10倍以下でタイプA硬度が40以上80以下であることが好ましく、さらには2.5倍以上10倍以下でタイプA硬度が45以上75以下であることが好ましい。発泡倍率とタイプA硬度が上記範囲にあることで、軽量で適度な剛性を有しかつ、ソフトな触感を有する発泡成形体が得られやすい。
【0055】
射出発泡成形体のタイプA硬度の測定方法は、オレフィン系エラストマーと同様の方法で行う。
【0056】
さらに本発明の射出発泡成形体は、優れた耐熱性を有する。具体的には110℃の恒温槽中に24時間放置する耐熱試験を実施し、耐熱試験前の光沢度をGs1、耐熱試験後の光沢度をGs2とし、両者が次の関係式を満たすことが好ましい。
Gs2/Gs1≦2、
さらには、Gs2/Gs1≦1.7
より好ましくは、Gs2/Gs1≦1.5
【0057】
耐熱性の低い材料の場合、耐熱試験により成形体表面に艶が発生し易くGs2が大きくなる傾向にある。Gs2/Gs1の数値が2を超える値になると、自動車内装部品など高温の使用環境下では艶が発生し外観が極度に悪化することとなり不適である。
【0058】
光沢度の測定は光沢計を用いて、JIS Z8741(1997)に基づき60度鏡面光沢度を測定することができる。光沢度の値が大きいほど艶があることを意味する。
【0059】
本発明により得られる射出発泡成形体は、その特徴から、インストゥルメントパネルやドアトリム、等の自動車内装部品に好適に用いられる。このような用途に使用する場合、射出発泡成形体は、単独での使用も可能であり、硬質の基材の上に積層し、表皮として使用することも可能である。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例によって、本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0061】
実施例および比較例において、各種の評価方法に用いられた試験法および判定基準は、次の通りである。
(1)メルトフローレート(MFR):
MFRは、JIS K 7210(1999)記載のA法の規定に準拠し、メルトインデクサーS−01(東洋精機製作所製)を用い、230℃、一定荷重下でダイから一定時間に押し出される樹脂量から、10分間に押し出される量に換算した値とした。
【0062】
前記一定荷重は、オレフィン系エラストマーの場合は5.00kg、改質ポリプロピレン系樹脂の場合は2.16kgとした。
なお、前記一定時間とは、メルトフローレートが0.5g/10分を超え1.0g/10分以下の場合は120秒間、1.0g/10分を超え3.5g/10分以下の場合は、60秒間、3.5g/10分を超え10g/10分以下の場合は30秒間、10g/10分を超え25g/10分以下の場合は10秒間、25g/10分を超え100g/10分以下の場合は5秒間、100g/10分を超える場合は3秒間である。
前記一定時間で切り取った切り取り片を3個採取しその平均値を算出することとし、一回の測定で3個採取できない場合は3個採取できるまで測定を継続する。仮に、ある秒数で測定した際のメルトフローレートが対応する範囲に無かった場合は、そのメルトフローレートに応じた秒数で再度測定するものとする。
【0063】
(2)メルトテンション:
メルトテンション測定用アタッチメントが装備されており、先端にφ1mm、長さ10mmのオリフィスを装着したφ10mmのシリンダを有するキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、200℃、ピストン降下速度10mm/分で降下させた際にダイから吐出されるストランドを350mm下のロードセル付きプーリーに掛けて1m/分の速度で引き取り、安定後に引き取り速度を4分間で200m/分の速度に達する割合で増加させ、ストランドが破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重をメルトテンションとした。なお、ストランドが破断に至らない場合は、引き取り速度を増加させてもロードセル付きプーリーにかかる荷重が増加しなくなった点の荷重をメルトテンションとした。
【0064】
(3)損失正接tanδ
ポリプロピレン系樹脂を、1.5mm厚のスペーサーを用いて、190℃にて5分間熱プレスして1.5mm厚のプレス板を作製し、ここから25mmφのポンチを用いて打ち抜き、試験片を得た。測定装置としては、TAインスツルメンツ社製粘弾性測定装置ARESを用い、25mmφのパラレルプレート型冶具を装着した。冶具を囲うように恒温槽を設置し、200℃に保温、冶具が予熱された後に、恒温槽を開け、パラレルプレート間に25mmφとした試験片を挿入して恒温槽を閉じ、5分間予熱した後にパラレルプレート間隔を1mmまで圧縮した。圧縮後、再度恒温槽を開き、パラレルプレートからはみ出した樹脂を真鍮のヘラで掻き取り、恒温槽を閉じて再度5分間保温した後に、動的粘弾性測定を開始した。
測定は、角振動数0.1rad/sから100rad/sまでの範囲で行い、各角振動数での貯蔵弾性率と損失弾性率および、計算値として損失正接tanδを得た。これらの結果のうち、角周波数1rad/sでの損失正接tanδの値を採用した。なお、歪み量は5%で、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0065】
(4)タイプA硬度:
JIS K6253に従い、タイプAデュロメータ硬さ試験を実施し、23℃における硬度を測定した。
【0066】
(5)発泡倍率:
箱形状の射出発泡成形体の底面部の厚みを測定し、当該部位の金型の型締め状態でのキャビティクリアランスt0で除することで算出する。
【0067】
(6)内部ボイド:
箱形状の射出発泡成形体の底面部を、ゲートを含む中心線で切断し、ゲートから30mmの位置から60mmまでの範囲の断面を観察し、発泡層に直径が1.5mm以上のボイド(内部の気泡が連通化するなどして生じる粗大な気泡)の有無を調べた。
ボイドが観察されないもの・・・○
ボイドが有るもの・・・×
【0068】
(7)耐熱性(耐熱試験、光沢度):
発泡成形体を110℃の恒温槽中に24時間放置する耐熱試験を実施し、耐熱試験前の光沢度をGs1、耐熱試験後の光沢度をGs2とした場合のGs2/Gs1を耐熱性の指標とした。Gs2/Gs1が大きいと耐熱試験による成形体表面の艶発生の程度がひどいことを意味する。具体的にはGs2/Gs1が2を超える場合、製品として許容できないレベルと判断した。
【0069】
光沢度の測定は光沢計(日本電色工業(株)製「VG−2000」)を用いて、J
IS Z8741(1997)に基づき60度鏡面光沢度を測定した。光沢度の値が大きいほど艶があることを意味する。
【0070】
次に、実施例、比較例で使用した樹脂材料、発泡剤を以下に示す。
(A)オレフィン系エラストマー
TP−1:サーモラン3655N[三菱化学製、動的架橋型オレフィン系エラストマー(部分架橋)、タイプA硬度65、MFR(230℃、5.00kg)4g/10分]
TP−2:バーシファイ3401[ダウケミカル日本製、非架橋型ポリオレフィン系エラストマー、タイプA硬度72、MFR(230℃、5.00kg)25g/10分]
【0071】
(B)改質ポリプロピレン系樹脂
MP−1:線状ポリプロピレン系樹脂としてメルトフローレート45g/10分のプロピレン単独重合体100重量部と、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート3.0重量部の混合物を、ホッパーから70kg/時で45mmφ二軸押出機(L/D=40)に供給してシリンダ温度200℃、回転数150rpmで溶融混練し、途中に設けた圧入部より共役ジエン化合物としてイソプレンモノマーを、定量ポンプを用いて0.24重量部(0.17kg/時で)供給し、前記ニ軸押出機中で溶融混練し、押し出されたストランドを水冷、細断することにより得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート212g/10分、メルトテンション1.6cN、tanδ1.1)
MP−2:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.4重量部、イソプレンモノマー供給量を0.3重量部に変更したこと以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート110g/10分、メルトテンション2.8cN、tanδ3.1)
MP−3:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を2.0重量部、イソプレンモノマー供給量を0.24重量部に変更したこと以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート190g/10分、メルトテンション1.7cN、tanδ2.8)
MP−4:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.4重量部、イソプレンモノマー供給量を0.36重量部に変更したこと以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート79g/10分、メルトテンション3.3cN、tanδ1.8)
MP−5:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.3重量部、イソプレンモノマー供給量を0.2重量部に変更したこと以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート205g/10分、メルトテンション1.3cN、tanδ4.9)
MP−6:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を0.3重量部、イソプレンモノマー供給量を0.38重量部に変更したこと以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート38g/10分、メルトテンション1.3cN、tanδ5.4)
MP−7:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.0重量部、イソプレンモノマー供給量を0.5重量部に変更したこと以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート22g/10分、メルトテンション5.1cN、tanδ1.7)
MP−8:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を0.3重量部、イソプレンモノマー供給量を0.45重量部に変更したこと以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート25g/10分、メルトテンション3.0cN、tanδ3.1)
【0072】
(C)発泡剤
BA−1:化学発泡剤マスターバッチ[永和化成製、ポリスレンEE275F、分解ガス量40ml/g]
実施例、比較例で使用した射出成形機、金型を、下記に記す。
(a)射出成形機
型締力350tで、コアバック機能およびシャットオフノズルを有する電動の射出成形機[宇部興産機械(株)製]
(b)金型
固定型(凹型)および、前進および後退が可能な可動型(凸型)から構成され金型で、縦250mm×横250mm×高さ100mmの箱形状で、内面側(凸型側)全面に深さ100μmの皮シボ模様が施工されたキャビティ(立壁部:傾斜10度、クリアランス3mm、底面部:クリアランスt0=2.0mm)を有し、固定型側底面部の中心位置に2.5mmφのバルブゲートを有する金型
【0073】
(実施例1)
オレフィン系エラストマー、改質ポリプロピレン系樹脂を表1に示す組成比でドライブレンドし、射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物を得た。
当該組成物100重量部に対して、化学発泡剤BA−1を8重量部添加したものを、シリンダ温度200℃に設定された射出成形機に供給し、背圧15MPaで溶融混練した後、ホットランナーを200℃、キャビティ面を30℃に温調した金型中に、射出速度100mm/秒で射出充填した。射出充填完了後に、底面部が所望の厚み(発泡倍率)となるように可動型を後退させて、キャビティ内の樹脂を発泡させた。発泡完了後100秒間冷却してから、射出発泡成形体を取り出した。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0074】
(実施例2)
オレフィン系エラストマーおよび改質ポリプロピレン系樹脂の配合比率を表1に示すとおりとし、発泡倍率を2.1倍とした以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0075】
(実施例3)
オレフィン系エラストマーおよび改質ポリプロピレン系樹脂の配合比率を表1に示すとおりとし、発泡倍率を2.5倍とした以外は、実施例1と同様に射出発泡成形体を得た。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0076】
(実施例4)
改質ポリプロピレン系樹脂をMP−2に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0077】
(実施例5)
改質ポリプロピレン系樹脂をMP−3に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0078】
(実施例6)
改質ポリプロピレン系樹脂をMP−4に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0079】
(実施例7)
オレフィン系エラストマーおよび改質ポリプロピレン系樹脂の配合比率を表1に示すとおりとし、発泡倍率を4倍とした以外は、実施例1と同様に射出発泡成形体を得た。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0080】
(実施例8)
改質ポリプロピレン系樹脂をMP−7に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。
得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
本発明の射出発泡成形用オレフィン系エラストマー組成物は優れた流動性を示すものであり、比較的小さな射出圧で成形可能である。また、発泡性に優れていることから、内部にボイド等の発生も無く、表面凹凸もなく金型転写性に優れ、ボイドの無い発泡倍率が2.1〜4倍で、タイプA硬度が58〜69の底面部を有する箱形状の射出発泡成形体が得られた。
【0083】
(比較例1)
改質ポリプロピレン系樹脂をMP−5に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた成形体は、内部ボイドが発生していた。
【0084】
(比較例2)
オレフィン系エラストマーおよび改質ポリプロピレン系樹脂の配合比率を表1に示すとおりとした以外は比較例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた成形体は、硬度が高くソフト感に劣るものであった。
【0085】
(比較例3)
オレフィン系エラストマーをTP−2に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた成形体は、耐熱性に劣るものであった。
【0086】
(比較例4)
改質ポリプロピレン系樹脂をMP−6に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた成形体は、内部ボイドが発生していた。
【0087】
(比較例5)
オレフィン系エラストマーおよび改質ポリプロピレン系樹脂の配合比率を表1に示すとおりとした以外は実施例2と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた成形体は、内部ボイドが発生していた。
【0088】
(比較例6)
改質ポリプロピレン系樹脂をMP−8に変更した以外は、実施例1と同様にして、射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた成形体は、内部ボイドが発生していた。