特許第6027093号(P6027093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6027093ポリビニルブチラール上にスクリーン印刷できる組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027093
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】ポリビニルブチラール上にスクリーン印刷できる組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/10 20140101AFI20161107BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20161107BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20161107BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C09D11/10
   C09D11/03
   C03C27/12 D
   B32B17/10
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-504375(P2014-504375)
(86)(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公表番号】特表2014-513176(P2014-513176A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】FR2012050785
(87)【国際公開番号】WO2012140362
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2015年2月18日
(31)【優先権主張番号】1153189
(32)【優先日】2011年4月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ウェリー
(72)【発明者】
【氏名】ウロディー デュクールティアル
(72)【発明者】
【氏名】アンジェリーク ドゥブレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ バルビエール
(72)【発明者】
【氏名】ビルジニー デュクロー
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−520856(JP,A)
【文献】 特開2005−220336(JP,A)
【文献】 特開2005−002168(JP,A)
【文献】 特開昭61−095083(JP,A)
【文献】 特開平03−221571(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0052886(US,A1)
【文献】 特表2008−504406(JP,A)
【文献】 特表2006−508232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/10
B32B 17/10
C03C 27/12
C09D 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層グレージングユニットの一部とすることを目的とするポリビニルブチラールのシートに、スクリーン印刷により黒色の印刷を施すための組成物であって、
・11〜13wt%のポリビニルブチラール、
・35〜40wt%の少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸ジエステル、
・20℃における当該組成物のブルックフィールド粘度が9Pa・sと13Pa・sの間であるように選ばれる量と比表面積の少なくとも1種の黒色顔料、及び、
・0.5〜2wt%のポリアクリレート、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
含有するポリビニルブチラールの[OH]含有量が17%と22%の間のポリ(ビニルアルコール)重量パーセントに相当することを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸ジエステルがコハク酸エステル、グルタル酸エステル又はアジピン酸エステルから選択されることを特徴とする、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の黒色顔料がカーボンブラックと黒色酸化鉄との混合物からなることを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の組成物。
【請求項5】
安息香酸エステル、フタル酸エステル及び/又はその誘導体、アジピン酸エステル及び/又はその誘導体、脂肪酸エステル、トリメリット酸トリオクチル、トリアセチン、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はトリメチルペンタンジオールジイソブチレートから選択される1種以上の可塑剤5〜10wt%を、湿潤剤として含むことを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の組成物。
【請求項6】
積層グレージングユニットの一部とすることを目的とするポリビニルブチラールのシートに、スクリーン印刷により印刷するための方法であって、当該シートに請求項1〜の1つに記載の組成物をスクリーン印刷用のスクリーンを通して塗布することを特徴とする印刷方法。
【請求項7】
塗布する組成物の湿潤層の厚みが10μmと50μmの間であることを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項8】
積層グレージングユニットの一部とすることを目的とし、請求項1〜の1つに記載の組成物を使用してスクリーン印刷により印刷されているポリビニルブチラールのシート。
【請求項9】
請求項記載のポリビニルブチラールのシートを含む積層グレージングユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルブチラールなどのプラスチック中間層を用いて互いに結合された2枚のガラス板から一般に構成される、積層グレージングユニットの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のフロントガラスなどのような積層グレージングユニットや同等のものには、太陽光線を反射し車室内の計器パネルの温度と室内温を下げるのを可能にする層、室内バックミラーのための支持体、特にITO層又は電熱線のネットワークのための電流供給ブスバー、太陽光線をフィルターにかける、所望により段階的に着色された、上方ストリップ、雨の検知器、などの多くの使われ方がある。そのため、積層グレージングユニットには多くの目的のために印刷が施され、グレージングユニットの端部は下にある接着剤を紫外線から保護しそして車体部品やシール類を、また製造者や種々の標準規格に関するマークを車外の人の視界から隠すためにその全周にわたって不透明にされ、室内バックミラーの支持体は車外の人の視界から隠すため不透明される。
【0003】
本発明は、より詳しく言えば、表面の一部を不透明にするため積層グレージングユニットに黒色印刷することに関する。
【0004】
平板ガラス上に、つまりは必要に応じての曲げ加工作業の前に、そのような印刷を施すことが通例である(これは、湾曲した表面に印刷するのははるかに難しいからである)。一つの好ましい方法はエナメルのスクリーン印刷であり、必要とされる光学的特性、すなわち良好な被覆率、不透明度及び分解能を生じさせることができ、容易に工業化することができる。
【0005】
平板ガラス上へのスクリーン印刷に欠点がないわけではない。積層品では、エナメルは、外側への配置を意図される、すなわち大気と接触するガラス板の内側面であり、面2と称される面に、及び/又は、内側への配置を意図され内部の雰囲気と接触する、特に輸送車両の搭乗室と接触するガラス板の外側面であり、面4と称される面に、スクリーン印刷される。
【0006】
組み立てられた積層品の構造体において内側の、面2にエナメル印刷することの欠点は、次のように説明することができる。2枚一組で曲げ加工する際のガラス板は、中間層の粉体が存在するにもかかわらずお互いどうし、あるいは曲げ加工装置の機械部品と、物理的に接触する。この物理的接触は、固化と乾燥が不十分である印刷表面が不利な影響を受けないようにするために、例えば、中間層の粉体のために切り離されているにもかかわらず2枚のガラス板が結合し、固化していないエナメルの表面に欠陥が生じるのを防ぐために、印刷された組成物をアニーリングするための追加の炉を事前に使用することを必要とする。このアニーリングは、生産ラインに追加のコストを発生させる追加の処理工程となる。
【0007】
組み立てられた積層品の構造体において外側の、面4へのエナメル印刷では、エナメルの硬化が、知られているようにして光学的欠陥を生じさせることになる。
【0008】
面2と4のこれらのエナメル印刷に共通するそのほかの欠点が存在する。
【0009】
第一に、エナメルはガラスと同じ量の熱を吸収するわけではないので、一方においてエナメル印刷したゾーンのための、そして他方においてエナメル印刷なしのゾーンのための完全に適合し差別化された加熱を規定することが必要である。よって、この加熱は、雨検出器、光検出器などを備えた及び備えない、積層グレージングユニット、フロントガラスの各構成ごとに変更しなくてはならない。
【0010】
更に、硬化後の黒色エナメルの光学密度はほぼ3程度である。ところが、この値よりわずかに大きい光学密度が必要とされることがあり、それは被着したエナメルの厚さを増加させることで得ることしかできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの問題は、ガラス板上ではなく、ポリビニルブチラールシートのような、積層グレージングユニットの構成に含まれる中間層接着シート上にスクリーン印刷を行うことで解決することができた。
【0012】
当然、処理のこの変更は、最終製品の仕様に、すなわち標準規格及び顧客の仕様に、機械的強度又は経年劣化の観点からばかりでなく、美的観点からも、いかなる場合も悪影響を与えてはならない。特に、次のものを挙げるべきである。
・良好な被覆率。これは透明性に受け入れられないような影響を及ぼさないピンホールの量が少なくなるという結果をもたらす。
・X−Rite 341装置又は同等のもので測定して少なくとも3に等しく、好ましくは4に等しい光学密度に相当する所要不透明度。
・顧客にとって受け入れることができる、すなわちガラス上にエナメル印刷するのと同様の印刷解像度と外観。
【0013】
従って、本発明の目的は、積層グレージングユニットの中間層ポリビニルブチラールシート上に黒色のスクリーン印刷をするための方法であって、前述の利点の組み合わせを有し、特に、30分を超えず、好ましくは10分を超えず、特に5分を超えない「タッチドライ」時間にて単一パスで行うことができる黒色スクリーン印刷方法を提供することである。上述の面2と面4へのエナメル印刷に関連する欠点、特にアニーリング炉を使用する追加工程の必要(面2)と面4に光学的欠陥が生じることが、解消されなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は本発明により達成され、その対象の一つは、積層グレージングユニットの一部とすることを目的とするポリビニルブチラールのシートに、スクリーン印刷により黒色の印刷を施すのに適した組成物であって、
・11〜13wt%のポリビニルブチラール、
・35〜40wt%の少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸ジエステル、及び、
・20℃における組成物のブルックフィールド粘度が9Pa・sと13Pa・sの間であるように選ばれる量と比表面積の少なくとも1種の黒色顔料、
を含むことを特徴とする組成物である。
【0015】
この組成物は、特に作業雰囲気条件下で、例えば10〜25℃及び20〜70%の湿度などで、それをこの方法にとって完全に適したものにし、且つ平板ガラス上への印刷と同等の印刷結果を保証する、スクリーン印刷用スクリ−ンとポリビニルブチラール基材とに関するレオロジーと親和力(表面張力)を有する。こうして開発されたインクは、インライン処理との相性のよい短いタッチドライ時間と同じ時間で、高い光学的特性を、特に前述のピンホールがなく十分な光学密度を、単一のスクリーン印刷処理で得るのを可能にする。更に、この組成物を用いてスクリーン印刷により印刷したポリビニルブチラールの中間層接着剤を含む積層グレージングユニットの構成要素の互いに対する結合力又は密着性は、全ての国において施行されている基準を満足するのを可能にする。印刷した中間層を有する積層体の密着性は、ねじり試験とボール落下試験を含めた種々の機械的試験によって、製造業者の仕様と標準規格により規定される限界値により、確認される。
【0016】
積層された印刷中間層はまた、経年劣化/塩水噴霧耐性、酸あるいは紫外線に対する耐性に関する法規を満足し、従って完成した製品の耐久性をその使用条件にかかわらず保証する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の組成物の好ましい特徴によれば、
・それが含有するポリビニルブチラールは、最大で90000に等しく、好ましさの増す順に、80000、70000、60000及び50000に等しく、また、少なくとも20000に等しく、好ましくは30000に等しいおおよその値を中心とする、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフィーによって評価される分子量を有し、
・それが含有するポリビニルブチラールの[OH]含有量は17%と22%の間のポリ(ビニルアルコール)重量パーセントに相当し、
・前記少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸ジエステルは、ジ(C1〜C6アルキル)の、好ましくはジメチル、ジエチル、ジプロピル又はジブチルの、特に好ましくはジメチルの、コハク酸エステル、グルタル酸エステル又はアジピン酸エステルから選択され、これらのジエステルのいくつかが混合物中に含有されることも可能であり、
・前記少なくとも1種の黒色顔料はカーボンブラックと黒色酸化鉄との混合物からなり、
・それは湿潤剤として有効量の可塑剤を、例えば5〜10wt%の安息香酸エステル、フタル酸エステル及び/又はその誘導体、アジピン酸エステル及び/又はその誘導体、脂肪酸エステル、トリメリット酸トリオクチル、トリアセチン、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はトリメチルペンタンジオールジイソブチレートなどを、単独で又はそれらのいくつかの混合物として含み、
・それは、シリコーンを含有しない有効量の界面活性剤を、特に0.5〜2wt%のポリアクリレートを含む。
【0018】
更に、本発明が対象とするこのほかのものは、
・積層グレージングユニットの一部とすることを意図するポリビニルブチラールのシートに、スクリーン印刷により印刷するための方法であって、当該シートに上述の組成物をスクリーン印刷用のスクリーンを通して、好ましくは10μmと50μmの間の湿潤層の厚さで塗布し、当該インクの化学組成が、中間層への薄い被着厚みでの印刷が、積層ガラスを得るための必須の工程を構成する脱気とオートクレーブ処理の良好な特性を保証するために最適化されている印刷方法、
・積層グレージングユニットの一部とすることを目的とし、そして上述の組成物を使用してスクリーン印刷により印刷を施されているポリビニルブチラールのシート、及び、
・そのようなポリビニルブチラールのシートを含む積層グレージングユニット、
である。
【0019】
次に、本発明を以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0020】
〔例1〕
ポリビニルブチラールの中間層シートに下記の表でもって詳細に説明される組成のインクをスクリーン印刷し、その後2枚のソーダ石灰フロートガラスを集成することによって、機械的特性が高くて、上述のとおりの高い光学的特性の黒色印刷を施した積層グレージングユニットが得られる。「タッチドライ」時間の10分は短く、連続のインライン工業プロセスに適合する。
下記の表において、全ての割合は重量百分率で示されている。
【0021】
【表1】
【0022】
ポリビニルブチラールの分子量は次のようにして評価する。ポリビニルブチラール粉末の3g/lのテトラヒドロフラン溶液を調製し、次いでWaters Styragel HR4Eタイプのゲル浸透クロマトグラフィーカラムへ1ml/分のテトラヒドロフラン流量で注入する。蒸発光散乱検出器を使ってクロマトグラムを得る。7〜7.1分で観測される幅広のピークから、PS換算で46000〜55000の、すなわち事実上約50000を中心とする分子量が示される。
【0023】
ポリビニルブチラールの[OH]含有量は18%のポリ(ビニルアルコール)重量百分率に相当する。
【0024】
湿潤剤は可塑剤としても働き、すなわちそれは印刷されたインクフィルムの光学的特性の劣化なしにそれがより多く変形するのを可能にする。ここでは、それはフタル酸ジメチルシクロヘキシルである。
【0025】
カーボンブラックの比表面積は65m2/gであり、一般には40〜150m2/gの値が好適である。
【0026】
ジエステルは、60wt%のグルタル酸ジメチル、20wt%のコハク酸ジメチル、及び20wt%のアジピン酸ジメチルの混合物である。
【0027】
界面活性剤はポリアクリレートであり、それはシリコーンを含有していない。
【0028】
インクの20℃でのブルックフィールド粘度は11Pa・sであり、本発明においては9Pa・sと13Pa・sの間の値が好適である。この測定は次のようにして行う。インクの粘度を、インク中でローラーを少なくとも8時間回転して安定な値まで低下させる。インクのサンプルを抜き出し、それについてコーンプレート形粘度計を使って粘度を測定する。
【0029】
〔比較例1〕
例1と同じ成分を、重量割合のみを湿潤剤は6%に、黒色酸化鉄は30%に、ジエステルは20%に、そしてシクロヘキサノンは22%に変更して混合する。
【0030】
ジエステルのほぼ半分をシクロヘキサノンで置き換えたことによって相対的に小さい割合のジエステルを含有するこの組成物にあっては、得られた粘度と乾燥速度は大量の工業的印刷を可能にするものではない。印刷時とオートクレーブ通過中に過大な数のピンホールの発生が観測され、スクリーン印刷用スクリーンでの乾燥が観測される。