特許第6027184号(P6027184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6027184シャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027184
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】シャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20161107BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   G01M17/00 A
   G01M17/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-100713(P2015-100713)
(22)【出願日】2015年5月18日
(65)【公開番号】特開2016-1173(P2016-1173A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-104582(P2014-104582)
(32)【優先日】2014年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513123975
【氏名又は名称】公益財団法人日本自動車輸送技術協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】野田 明
(72)【発明者】
【氏名】高畑 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅彦
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−152380(JP,A)
【文献】 特公昭58−037491(JP,B2)
【文献】 特開2001−289741(JP,A)
【文献】 特開2009−133631(JP,A)
【文献】 特許第4176406(JP,B2)
【文献】 中條智哉,土屋賢次,4WDシャシダイナモメータにおける車両駆動力特性に及ぼす影響要因の検討,学術講演会前刷集,社団法人自動車技術会,2008年10月22日,N0.98-08,第1-6頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 − 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、
比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
生成された速度信号に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定値は、前記被試験車両の前輪側に設置されたタイヤ冷却ファンに対し、後輪側に設置されたタイヤ冷却ファンから送出される風力が弱くなるよう設定しているシャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置。
【請求項2】
ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、
比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
生成された速度信号に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、
前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とするシャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置。
【請求項3】
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、
前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とする請求項1記載のシャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置。
【請求項4】
ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
前記被試験車両のタイヤ温度を検出する温度計を設け、前記温度計により検出された検出温度信号と温度設定値の差分に基づき温度信号を生成し、
生成された温度信号と前記速度信号を切替えるための切替器を設け、前記切替器により温度信号と速度信号を切替可能に構成し、前記切替器により切替えられた温度信号又は速度信号と、前記タイヤ冷却ファンの速度を検出した速度検出信号との差分に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定値は、前記被試験車両の前輪側に設置されたタイヤ冷却ファンに対し、後輪側に設置されたタイヤ冷却ファンから送出される風力が弱くなるよう設定しているシャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置。
【請求項5】
ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
前記被試験車両のタイヤ温度を検出する温度計を設け、前記温度計により検出された検出温度信号と温度設定値の差分に基づき温度信号を生成し、
生成された温度信号と前記速度信号を切替えるための切替器を設け、前記切替器により温度信号と速度信号を切替可能に構成し、前記切替器により切替えられた温度信号又は速度信号と、前記タイヤ冷却ファンの速度を検出した速度検出信号との差分に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、
前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とするシャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置。
【請求項6】
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、
前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とする請求項4記載のシャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置に係わり、特にタイヤの温度管理を行うためのタイヤ冷却ファンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費試験を行う場合、実路での惰行によって取得したデータに基づき、走行抵抗と等価慣性質量を設定してシャシダイナモメータに与える。シャシダイナモメータは設定されたパラメータに従って車両に対し負荷を与え、JC08などのモード走行を行うことで燃費計測が行われる。その燃費試験では、シャシダイナモメータで走行抵抗と等価慣性質量を実路と同等に再現するために、シャシダイナモメータ上に車両搭載した状態で惰行を行い、惰行時間が実路と同等となるように負荷調整が行われる。
【0003】
近年、この燃費試験において、車両コンディションの管理と共に、タイヤの温度管理が負荷条件を適切に与える上で重要となっていることが非特許文献によって報告されている。負荷調整を行う際、タイヤの温度状態により影響が発生すると車両へ与える負荷が変動する可能性があり、また、モード走行時もタイヤの温度状態によりタイヤ損失に変化が生じて燃費のばらつき要因になる可能性が生じる。
【0004】
なお、シャシダイナモメータにおいて、エンジン又はタイヤ等に風速を与えることは特許文献1によって公開されている。ただし、特許文献1においては、燃費評価精度の向上を図るためにタイヤの温度管理を行う技術については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−24126号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】井上他、「タイヤの温度特性が転がり抵抗に及ぼす影響について」2011年自動車技術会春季学術講演会、20115241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出願人は、タイヤの温度管理状態が、燃費試験時の負荷調整を行う際に車両へ与える負荷変動、及びタイヤ損失による燃費のばらつき要因になるか否かの検証試験を行った。
【0008】
本発明は、検証試験結果によりタイヤの温度管理方法の有無が、シャシダイナモメータへの走行抵抗設定時の惰行走行やモード走行時のタイヤ損失(抵抗)、走行仕事量に及ぼす影響度などを検証し、その結果に基づいてなされたもので、本発明が目的とするところは、燃費評価精度の向上を図るためのシャシダイナモメータにおけるタイヤ冷却制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は、ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、
比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
生成された速度信号に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定値は、前記被試験車両の前輪側に設置されたタイヤ冷却ファンに対し、後輪側に設置されたタイヤ冷却ファンから送出される風力が弱くなるよう設定していることを特徴としたものである。
【0010】
本発明の請求項2は、ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、
比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
生成された速度信号に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、
前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とすることを特徴としたものである。
【0011】
本発明の請求項3は、請求項1において、前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とすることを特徴としたものである。
【0012】
本発明の請求項4は、ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
前記被試験車両のタイヤ温度を検出する温度計を設け、前記温度計により検出された検出温度信号と温度設定値の差分に基づき温度信号を生成し、
生成された温度信号と前記速度信号を切替えるための切替器を設け、前記切替器により温度信号と速度信号を切替可能に構成し、前記切替器により切替えられた温度信号又は速度信号と、前記タイヤ冷却ファンの速度を検出した速度検出信号との差分に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定値は、前記被試験車両の前輪側に設置されたタイヤ冷却ファンに対し、後輪側に設置されたタイヤ冷却ファンから送出される風力が弱くなるよう設定していることを特徴としたものである。
【0013】
本発明の請求項5は、ローラ上に被試験車両を搭載し、ダイナモメータ制御装置によりタイヤ冷却ファンを介して被試験車両のタイヤとローラ接触部分に冷却風を送出しながら試験を行うシャシダイナモメータにおいて、
前記被試験車両のタイヤ冷却ファンを制御するインバータ、および車速に対する風速特性が設定される比率設定部を設け、比率設定部により設定された比率設定値と車速設定値を乗算して速度信号を生成し、
前記被試験車両のタイヤ温度を検出する温度計を設け、前記温度計により検出された検出温度信号と温度設定値の差分に基づき温度信号を生成し、
生成された温度信号と前記速度信号を切替えるための切替器を設け、前記切替器により温度信号と速度信号を切替可能に構成し、前記切替器により切替えられた温度信号又は速度信号と、前記タイヤ冷却ファンの速度を検出した速度検出信号との差分に応じて前記インバータを介してタイヤ冷却ファンを制御するよう構成し、
前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、
前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とすることを特徴としたものである。
本発明の請求項6は、請求項4において、前記比率設定部によって設定される車速に対する風速の比率設定は、
前記被試験車両の前後左右の各輪に設置されるタイヤ冷却ファンに対し、それぞれ各別に任意の設定を可能とすることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のとおり、本発明によれば、タイヤ個々に対する風速制御による温度管理を行うことによってシャシダイナモメータ上で負荷調整を行うときの実路と異なることに伴うタイヤ損失(抵抗)の変化が抑制され、したがって試験時に負荷条件を適切に与えることが出来て実路に近似した燃費試験が可能となり、評価精度の向上が図れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態を示すタイヤ冷却制御装置の構成図。
図2】シャシダイナモメータによる試験装置の概略図。
図3】比率設定による車速−風速特性図。
図4】試験結果による前輪タイヤ周辺の車速−風速特性図。
図5】試験結果による後輪タイヤ周辺の車速−風速特性図。
図6】タイヤ冷却条件による温度比較図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2はシャシダイナモメータの燃費試験装置の概略構成図を示したものである。1は被試験車両で、車両1の各輪はシャシダイナモメータのローラ2上に載置されており、車両自体は図示省略された拘束装置によって固定される。また、ローラ2は、路上惰行時に取得したデータに基づき、ダイナモメータ制御装置を介して制御される。3は被試験車両1の前面側より風力を送風する車両冷却ファン、11は4輪の各タイヤとローラ2との接触面に風力を送風するタイヤ冷却ファン、5は床面である。なお、図示省略されているが、タイヤ温度を計測するための非接触温度計と、タイヤ周辺風速を計測するための熱線式風速計が車体ボディなどに取り付けられている。
【0017】
本発明の説明に先立って、検証試験について説明する。
シャシダイナモメータ上に被試験車両1を搭載した状態で惰行を行い、走行抵抗と等価慣性質量を実路と同等に再現するためには、惰行時間が路上と同等になるよう負荷調整が行われる。試験に当たっては、実路とシャシダイナモメータ上におけるタイヤ周辺風速の比較、及びシャシダイナモメータ走行時のタイヤ温度管理がモード走行に及ぼす影響について試験を行った。
【0018】
(1)実路とシャシダイナモメータ上のタイヤ周辺風速の比較について
図4図5は、縦軸にタイヤ周辺の風速を、横軸に車速をとったもので、実路とシャシダイナモメータ上でのタイヤ冷却条件の違いによるタイヤ周辺風速の比較結果を示したものである。図4は前輪タイヤ周辺の場合、図5は後輪タイヤ周辺の場合を示している。
【0019】
前輪タイヤ周辺風速の比較図である図4において、線イは実路での車速に対する風速を示し、線ロはタイヤ冷却ファン11の風速をローラ2(車速)の速度に追従させた場合(以下これをタイヤ冷却ファン車速追従方式と呼称する)を示したものである。前輪タイヤ周辺風速では、タイヤ冷却ファン車速追従方式が他の冷却方式に比べて実路に似た車速に対する風速結果となっている。
また、図5で示す後輪タイヤ周辺風速の比較では、実路(線イ)での風速は線ロで示すタイヤ冷却ファン車速追従方式の約半分となっている。これは車両ボディの影響を受けているものと考えられる。
一方、シャシダイナモメータ上では、前輪側では近似しているタイヤ冷却ファン車速追従方式も、後輪側では車速比例に相当した風速を出しているため、実路と近似しない結果となっている。
【0020】
(2)モード走行時のタイヤ温度に及ぼすタイヤ冷却条件の影響について
図6はモード走行時のタイヤ冷却条件の違いによるタイヤ温度の最高値、最低値および平均値の比較結果である。図6ではタイヤ冷却ファン車速追従方式が他の方式と比較して低い結果となっている。これは、タイヤ冷却ファン車速追従方式の場合、他の方式と比較して車速の高速域まで冷却ファンが追従しているために他の方式より冷却が行われていると考えられる。また、JC08モードの最初の300秒のタイヤ温度の瞬時値も、タイヤ冷却ファン車速追従方式とした場合がモードを通して他の方式と比較して低い結果となっていた。
【0021】
なお、タイヤ温度の影響は、車両駆動力(走行抵抗式)のa項に相当するタイヤ単体の転がり抵抗に作用する。ちなみに、タイヤ温度が低い場合より高い方がタイヤ損失は減る。シャシダイナモメータでモード運転する前にはシャシダイナモメータの負荷調整が必要であるが、負荷調整時よりモード運転時の方がタイヤ温度の高い場合はタイヤ損失が減るため燃費が良くなる傾向にある。
【0022】
上記(1),(2)の他、モード走行時の車両総仕事量に及ぼすタイヤ冷却条件の影響、およびタイヤ冷却条件に対するJC08モード走行仕事量の推計の比較を行った結果、次のA〜Dの知見が得られた。
【0023】
A.シャシダイナモメータ上のタイヤ周辺の風速は、タイヤ冷却ファンの車速追従方式が実路の風速状況に近似している。ただし、実路では車両ボディの影響から、後輪側が前輪側に比較してタイヤ周辺風速が半減する。このため、実路走行に近づけるためには、後輪の風速設定を前輪とは別に設定できるようにすることが必要である。
【0024】
B.タイヤ温度は、タイヤ冷却ファン車速追従方式で運転した場合が最も低くなる。これは、高速域までタイヤ冷却ファンが追従するため、他の方式に比べてタイヤに当たる風量が多くなり冷却効果が高いためである。
【0025】
C.タイヤRRC(転がり抵抗係数)を使用してタイヤ損失分を求め、転がり抵抗の中の車両内部伝達ロスの試算をすることができた。
【0026】
D.タイヤ温度が及ぼす転がり抵抗仕事量においては、タイヤ周辺風速が実路相当でタイヤ温度が低い傾向になるタイヤ冷却ファン車速追従方式が、他の方式に比べて大きくなり、シャシダイナモメータ試験におけるタイヤ温度管理の必要性を把握することができた。
【0027】
したがって、本発明はシャシダイナモメータによる燃費評価を高精度に行うには、車両コンディションの管理と共に、タイヤの温度管理が負荷条件を適切に与える上で重要となっていることの把握に基づきなされたものである。
【0028】
図1はタイヤ冷却ファン車速追従方式に基づく実施例を示したものである。図1は、被試験車両を4WD車としたときの前後輪の各左側のみのタイヤ冷却ファンの制御装置10(10FL,10RL)の構成図を示しているが、右側のタイヤ冷却ファンの制御装置10(10FR,10RR)についても同様に構成されている。よって、左前輪側のタイヤ冷却ファンの制御装置10FLを代表として説明する。
【0029】
図1において、11はタイヤ冷却ファンで、ローラ2と被試験車両のタイヤとの接触面に対して冷却風を送出する位置に配設される。12は非接触の温度計でタイヤ近辺の車両ボディに取付けられる。13は減算部で、検出温度と温度設定Tsetとの差分が算出される。14はPI演算部で、算出された温度差分に対して比例・積分演算を行って所定の温度信号として出力する。15は切替器で、PI演算部17の出力信号と温度信号(PI演算部14の出力信号)との切り替えを行う。
【0030】
16は乗算部で、ダイナモメータ制御装置6よりのモード走行時の車速設定値が入力されており、この乗算部16において車速設定値と比率設定部7の比率設定値の乗算が行われてPI演算部17に入力され、速度信号が生成される。18は速度検出部で、パルスピックアップ等の検出器によってタイヤ冷却ファン11の速度を検出し、減算部19においてPI演算部14で生成された温度信号、又はPI演算部17で生成された速度信号との差分が求められる。
【0031】
20はインバータで、減算部19からの差分に応じた制御信号を生成し、この制御信号に基づいて変調された周波数でタイヤ冷却ファン11の回転数を制御して風力を送出する。そして、これら11〜20によってタイヤ冷却ファンの制御装置10(10FL,10RL,10FR,10RR)が構成される。
【0032】
なお、比率設定部7では、図4図5の試験結果に基づき風速設定が図3で示すような車速−風速特性となるよう車速に対する風速の比率設定が行われ、前輪側のタイヤ冷却ファンの制御装置10FLと後輪側のタイヤ冷却ファンの制御装置10RLへの比率分配を行う。例えば前輪側を0.7としたとき、後輪側が0.3となるように前後左右の各タイヤに対する風速設定が各個別に設定されるよう関数型な特性となっている。この比率設定部7の風速設定によって、タイヤ個々に対する風速制御による温度管理が可能となる。
【0033】
以上のように構成された本発明の動作を説明する。
前後輪側の各ダイナモメータ制御装置6には、予め実路での惰行によって取得したデータが記憶されおり、この記憶データに基づきダイナモメータ4を介してローラ2を駆動して燃費試験を行う。燃費試験に当たり、被試験車両に対しタイヤの温度条件が把握されているとは限らない。タイヤの温度条件が把握されていないとき、切替器15を予め端子a側に切り替える。
【0034】
切替器15が端子a側に切り替えられている場合について説明する。
比率設定部7で設定された比率が、例えば前輪側のタイヤ冷却ファンの制御装置10FLが0.7、後輪側のタイヤ冷却ファンの制御装置10RLが0.3であるとする。各乗算部16では、比率設定値と各ダイナモメータ制御装置6からの車速設定値との乗算が行われ、各PI演算部17で所定の速度信号が生成される。速度信号は、切替器15の端子aを介してそれぞれ減算部19に入力される。
【0035】
減算部19では、速度検出部18を介して検出されたタイヤ冷却ファン11の検出速度と速度信号との差分を算出し、この差分が0となるようインバータ20でタイヤ冷却ファン11を制御し、この制御により、前輪側0.7に対し後輪側が0.3となる比率で風速が送出される。すなわち、図3で示すように車速設定値がnであったとき、前輪側の風速はw1、後輪側風速はw2となるタイヤ冷却ファン車速追従方式による制御が行われ、実路での惰行走行時と同等のタイヤ冷却制御が行われる。
【0036】
次に、被試験車両の温度条件が把握されている場合について説明する。この場合、切替器15は端子b側に切り替えられる。
運転時のタイヤ温度は、各温度計12によりそれぞれ検出されて減算部13において検出温度と温度設定Tsetとの差分である温度検出値が求められ、PI演算部14で生成された温度信号は端子bを通って各減算部19に入力される。この温度設定Tsetは個々のタイヤ冷却ファンに対し設定可能とする。
各減算部19では、速度検出部18を介して検出されたタイヤ冷却ファン11の検出速度と温度信号との差分を算出し、この差分が0となるようインバータ20でタイヤ冷却ファン11を制御する。
【0037】
なお、上記ではタイヤ冷却ファンの風速の比率設定を、被試験車両の前後側でのみ異なる設定値としているが、4輪の各輪において車速に対しそれぞれ個別の比率設定、又は左右で車速に対する比率設定値とすることができる。
【0038】
したがって、本発明によれば、タイヤ個々に対する風速制御による温度管理を行うことにより、シャシダイナモメータ上で負荷調整を行うとき、実路と異なることに伴うタイヤ損失(抵抗)の変化が抑制され、したがって試験時の負荷条件を適切に与えることが可能となり、実路に近似した燃費試験ができ評価精度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1…被試験車両
2…ローラ
3…車両冷却ファン
4…ダイナモメータ
6…ダイナモメータ制御装置
7…比率設定部
10(10FL,10RL,10FR,10RR)…タイヤ冷却ファンの制御装置
11…タイヤ冷却ファン
12…温度計
13,19…減算部
14,17…PI演算部
15…切替器
16…乗算部
18…速度検出部
20…インバータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6