(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号47、48、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、75、76、77、78、79、80、81、89、90、91、92、95、102、103、104、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、136、169、170、171、172、173、174、177、178、179、180、183、184、187、188、189、190、191、192、209および210からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、1または2以上の追加のペプチドを含む、請求項1に記載の剤。
【発明を実施するための形態】
【0050】
発明の詳細な説明
一般的な技術および定義
他に具体的に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学および生化学における)により一般的に理解されるものと同じ意味を有するものとして理解されるべきである。
【0051】
他に示されない限り、本発明において利用される組み換えタンパク質、細胞培養および免疫学の技術は、標準的な手法であり、当業者に周知である。かかる技術は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons(1984);J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989);T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、第1巻および第2巻、IRL Press(1991);D.M. Glover and B.D. Hames(編)、DNA Cloning: A Practical Approach、第1~4巻、IRL Press(1995年および1996年);F.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley−Interscience(1988年、現在までの全てのアップデートを含む);Ed HarlowおよびDavid Lane(編)、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory,(1988);ならびにJ.E. Coliganら(編)、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons(現在までの全てのアップデートを含む)などのソースにおける文献を通して記載され説明される。
【0052】
本明細書において用いられる場合、単数の形態「a」、「an」および「the」は、文脈が他に明確に示さない限り、複数の側面を含む。したがって、例えば、「a peptide」は、単数のペプチド、ならびに2または3以上のペプチドなどを含む。さらに、抗原提示細胞とは、通常、かかる細胞の集団として提供される。
【0053】
用語「セリアック病」は、小腸の慢性炎症性疾患を指す。疾患は、多様な程度のグルテン感受性により特徴づけられる幅広い状態を包含し、扁平な小腸粘膜(過形成性の絨毛萎縮)により特徴づけられる重篤な形態、ならびに疲労、慢性下痢、栄養の吸収障害、体重減少、腹部膨満、貧血を含むより温和な症状により特徴づけられる他の形態、ならびに骨粗鬆症および腸の悪性腫瘍(リンパ腫および癌腫)についての実質的に増大したリスクを含む。
【0054】
用語「グルテンに対して感受性である」とは、セリアック病の症状の任意の1または2以上における状態、またはグルテンまたはそのペプチド断片に暴露された対象により不適切なT細胞応答が示されることを指す。グルテンに対して感受性でない対象において、グルテンの消化により引き起こされるT細胞応答は殆どまたは全くない。対照的に、グルテンに対して感受性の対象においては、グルテンの消化の後でグルテンから誘導されるペプチドに対して、不適切なCD4
+T細胞媒介性免疫応答が存在する。
【0055】
用語「免疫寛容」、「免疫学的寛容」、「寛容」または「脱感作する」とは、ここで、感作した、または過敏性の対象を、対象のグルテンに対する免疫学的反応性を低下させることにより、グルテンに対して感受性をより低くするか、非感受性または非反応性にすることとして定義される。免疫寛容は、例えば、膜表面を、本明細書において定義される寛容を誘導するグルテンの抗原性断片に暴露することにより、生じさせることができる。高用量および低用量の両方の抗原の膜投与は、免疫寛容をもたらし得、ここで、その後の抗原の全身投与に対する免疫反応は低下する。少なくとも2つの免疫寛容の機構が存在し得る。高用量の抗原に対する寛容は、Th1およびTh2細胞の不活化またはクローン欠失により生じると考えられる。対照的に、低用量の抗原に対する寛容は、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−10(IL−10)およびTGFβなどの抑制性サイトカインを産生するTreg細胞の刺激により媒介される傍観者(bystander)免疫抑制をもたらす。
【0056】
用語「免疫寛容を誘導する」とは、本明細書において用いられる場合、グルテンに感受性の対象において、グルテンに対する免疫寛容を生じさせるか、もたらすか、または引き起こすことを指す。
用語「過敏性」とは、ここで、グルテンに対して生理学的に異常に感受性であることとして定義される。
用語「アネルギー」とは、抗原に対するT細胞(またはB細胞)の、可逆的な非応答性または低応答性の状態を指す。
【0057】
本明細書において用いられる場合、「Treg」とは、T細胞のサブクラスであって、その主要な役割が、T細胞媒介性免疫を免疫反応の間に停止へ導くこと、および胸腺におけるネガティブ選択を逃れた自己反応性T細胞を抑制することであるものを指す。「Treg応答」とは、本明細書において用いられる場合、フォークヘッドファミリー転写因子FOXP3(forkhead box p3)および/またはMHCクラスII関連タンパク質LAG−3を発現するか、および/または高レベルのIL−2受容体アルファ鎖(CD25)を発現する、CD4
+またはCD8
+Treg細胞の集団の分化および増殖により特徴づけられる。また、MHCクラスI限定CD8
+のFOXP3発現Treg細胞のマイナー集団も存在する。末梢循環または脾臓におけるTreg細胞の存在は、CD4
+/CD25
+発現の分析により決定することができる。これは、フローサイトメトリーを用いて簡便に達成することができる。さらに、Treg細胞は、末梢血または脾臓に由来する単核細胞におけるFOXP3のmRNAのレベルを、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により決定することにより定量することができる。さらに、in vivoでのTreg応答の誘導は、末梢血またはリンパ節に由来する単核リンパ球からのTreg関連サイトカインの測定により評価することができる。Treg細胞は、典型的には、IL−10およびTGFβなどの抗炎症性サイトカインのより高い発現レベルを示し、これらのメディエーターの存在は、フローサイトメトリー、免疫組織化学的染色またはELISAなどの当該分野において公知の方法により決定することができる。
【0058】
用語「T細胞刺激性ペプチド」または「刺激性ペプチド」とは、T細胞を活性化することができるペプチドまたはエピトープを指す。
用語「活性化する(activate)」または「活性化する(activating)」または「活性化(activation)」とは、T細胞との関連において、1細胞上のMHC分子による、第2の(T)細胞上の適切なT細胞受容体へのエピトープの提示と、それと一緒のT細胞による共刺激分子の結合により、「T細胞応答」を惹起することを指す。
【0059】
本明細書において用いられる場合、「毒性ペプチド」とは、対象におけるT細胞の活性化を刺激するペプチドを指す。
用語「増殖(expansion)」とは、本明細書において用いられる場合、T細胞の活性化の後での、T細胞集団の増殖(proliferation)および増幅(amplification)を指す。
用語「免疫優性」とは、ペプチド(エピトープ)の、免疫系により最も容易に認識される、したがってT細胞応答などの誘導される免疫応答の特異性に最も影響を及ぼすサブユニットを指す。「免疫優性」は、本明細書において、「優性」と交換可能に用いられる場合がある。
【0060】
本明細書において用いられる場合、用語「T細胞応答を調節する」とは、グルテンに感受性の対象において、T細胞応答を調節または調整すること、例えばグルテンに対するT細胞応答が低下するまたは和らげられることを指す。
本明細書において用いられる場合、「サイトカイン分泌を改変する」とは、グルテンに感受性の対象によるサイトカインの分泌をいくらか変化させるまたは変更すること、例えば、対象におけるグルテン感受性の効果を低下させるかまたは和らげることを指す。用語は、特定のサイトカインまたはサイトカインの組み合わせの分泌の増大、および特定のサイトカインまたはサイトカインの組み合わせの分泌の低下の両方を包含する。
【0061】
本明細書において用いられる場合、「エピトープ」とは、免疫系、例えば、T細胞受容体または主要組織適合複合体(MHC)クラスIもしくはクラスII、抗体、B細胞受容体により認識される抗原またはペプチドの部分であって、その部分が高アフィニティー結合に十分であるものを指す。一般に、認識のための直線状エピトープは、少なくとも約7アミノ酸の長さであり、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸またはそれより長くともよい。
【0062】
用語「ポリエピトープ」とは、単一のポリペプチド鎖中に連結する2または3以上のエピトープ(ペプチド)の存在を指す。
本明細書において用いられる場合、「抗原」および「免疫原」ならびにこれらのバリエーションは、一般に交換可能となるように用いられ、免疫系により認識されるエピトープ含有構造を指す。
【0063】
用語「グルテン」または「グルテンタンパク質」とは、アルファ(α)、ベータ(β)、ガンマ(γ)およびオメガ(ω)グリアジン、ならびに、コムギ中の高分子量および低分子量(LMWおよびHMW)グルテニン、オオムギ中のB、CおよびDホルデイン、ライムギ中のβ、γおよびωセカリン、ならびに随意にカラスムギ中のアベニンを包含する。「グルテンペプチド」とは、グルテンタンパク質の1または2以上から誘導されるか、その中に包含されるペプチドである。
用語「グリアジン」とは、グルテンの水性アルコール溶解性の画分を指し、特に、限定的ではないが、コムギ、例えばTriticum aestivumから誘導されるグルテンの画分である。
用語「グルテニン」とは、グルテンの水性アルコールに不溶性の画分を指し、特に、限定的ではないが、コムギ、例えばTriticum aestivumから誘導されるグルテンの画分である。
【0064】
本明細書において用いられる場合、「ホルデイン」または「オオムギホルデイン」とは、オオムギ、Hordein vulgareから誘導されるグルテンを指す。
本明細書において用いられる場合、「セカリン」または「ライムギセカリン」とは、ライムギ、Secale ceraleから誘導されるグルテンを指す。
本明細書において用いられる場合、「アベニン」または「カラスムギアベニン」とは、カラスムギ、Avena sativaから誘導されるグルテンを指す。
【0065】
組織「トランスグルタミナーゼ」は、セリアック病における決定的な因子である。なぜならば、これは、グルテン特異的T細胞応答を促進するからである。組織トランスグルタミナーゼは、グルテンの選択的脱アミド化を引き起こし、これは次いで、HLA−DQ2または−DQ8分子に高アフィニティーで結合する一連のグルテンペプチドの産生を引き起こす。その結果引き起こされるHLA−DQ2 (DQ8)−グルテンペプチド相互作用は、炎症促進性CD4 T細胞応答を引き起こす。したがって、用語「脱アミド化」とは、グルタミンのグルタミン酸への転換、またはアスパラギンのアスパラギン酸への転換を指す。本明細書において用いられる場合、脱アミド化とは、特に、グルテン中のグルタミンのグルタミン酸への転換を指し、これはグルテンペプチドがT細胞を活性化する傾向を増大させるプロセスである。
【0066】
用語「ヒト白血球抗原」および「HLA」は、ここで、ヒト白血球細胞および血小板における遺伝子的フィンガープリントとして定義され、外来生物に対する身体の免疫系を活性化する上で決定的な役割を果たすタンパク質からなる。ヒトおよび他の動物において、HLAはまた、「主要組織適合複合体」(MHC)としても称される。
【0067】
本明細書において用いられる場合、用語「剤」とは、ペプチドおよび/またはポリヌクレオチドの収集物を指す。ペプチドおよび/またはポリヌクレオチドは、同じ組成物(ワクチンなど)中にあっても、異なる組成物またはその組み合わせ中(例えば、本明細書において定義される第1および第2のペプチドが一方の組成物中、第3のものが別の組成物中)にあってもよい。異なる組成物において、これらは、好ましくは、キットなどにおいて、近接している。したがって、本発明の方法は、本発明の剤の個々の成分であるペプチドおよび/またはポリヌクレオチドを、単一の組成物(ワクチン)において、または異なる組成物もしくはその組み合わせにおいて順次、提供する(例えば対象に投与する)ことを企図する。
【0068】
用語「対象」とは、対象がヒトであるか哺乳動物種およびまた鳥類の種を含む非ヒト動物であるかにかかわりなく、とりわけ、個体、患者、標的、宿主またはレシピエントを含む。用語「対象」とは、したがって、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、ゴリラ、マーモセット、アフリカミドリザル)、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、ロバ、ヤギ)、実験動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスター)、ペット動物(例えば、イヌ、ネコ)、捕獲された野生動物(例えば、キツネ、シカ、狩猟動物)および家禽を含む鳥類の種(例えば、ニワトリ、カモ、アヒル、シチメンチョウ)を含む。しかし、好ましい対象はヒトであり、より好ましくはHLA−DQ2
+であるヒトである。
【0069】
ペプチド
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、一般に交換可能となるように用いることができ、生物学的に活性な断片、ホモログを含む変異体および塩を包含する。しかし、用語「ペプチド」は、典型的には、50アミノ酸未満、より好ましくは25アミノ酸未満を含む、比較的短い分子を指すように用いられる。
【0070】
本明細書において定義される各ペプチドの全長は、例えば7〜50アミノ酸、例えば7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45または50アミノ酸であってよい。アナフィラキシーの可能性を低減する治療薬において、より短いペプチド、特に20またはそれより少ないアミノ酸長のものが有用である場合も企図されるが、複数のエピトープを有するより長いペプチドは、in vitroでの機能的なT細胞に基づく診断において、複数の短いペプチドと同じくらい効果的である可能性がある。
【0071】
本明細書において用いられる場合、「生物学的に活性な断片」は、例えば配列番号13、14または16の配列により定義される参照ペプチドよりも少ないアミノ酸からなる。好ましくは、生物学的に活性な断片は、グルテンに感受性の対象において、それが誘導されたペプチドと実質的に同等かまたはより高いT細胞応答を生じさせることができる。別の態様において、生物学的に活性な断片は、グルテンに感受性の対象において、それが誘導されたペプチドの少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%のT細胞応答を生じさせることができる。一態様において、生物学的に活性な断片は、14、13、12、11、10、9、8、および7アミノ酸長以下である。ペプチドの任意のもののいずれかの末端における欠失および/または付加は、特に企図される。
【0072】
配列番号13として提供されるペプチドの生物学的に活性な断片の例は、PELPを含むもの(配列番号234)であり、これは、T細胞の認識にとって必須であることが見出されている。
【0073】
したがって、配列番号13の好適な7merの断片は:
QPELPYP(配列番号235);PELPYPQ(配列番号236);PQPELPY(配列番号237)およびFPQPELP(配列番号238)を含むがこれらに限定されない。
配列番号13の好適な8merの断片は:
PELPYPQP(配列番号239);QPELPYPQ(配列番号240);PQPELPYP(配列番号241);FPQPELPY(配列番号242)およびPFPQPELP(配列番号243)を含むがこれらに限定されない。
配列番号13の好適な9merの断片は:
PELPYPQPQ(配列番号244);QPELPYPQP(配列番号245);PQPELPYPQ(配列番号246);FPQPELPYP(配列番号247);PFPQPELPY(配列番号248)およびQPFPQPELP(配列番号249)を含むがこれらに限定されない。
【0074】
配列番号13の好適な10merの断片は:
QPELPYPQPQ(配列番号250);PQPELPYPQP(配列番号251);PQPELPYPQP(配列番号252);FPQPELPYPQ(配列番号253);PFPQPELPYP(配列番号254);QPFPQPELPY(配列番号255)およびLQPFPQPELP(配列番号256)を含むがこれらに限定されない。
配列番号13の好適な11merの断片は:
PQPELPYPQPQ(配列番号257);FPQPELPYPQP(配列番号258);PFPQPELPYPQ(配列番号259);QPFPQPELPYP(配列番号260)およびLQPFPQPELPY(配列番号261)を含むがこれらに限定されない。
【0075】
配列番号13の好適な12merの断片は:
FPQPELPYPQPQ(配列番号262);PFPQPELPYPQP(配列番号263);QPFPQPELPYPQ(配列番号264)およびLQPFPQPELPYP(配列番号265)を含むがこれらに限定されない。
配列番号13の好適な13merの断片は:
PFPQPELPYPQPQ(配列番号266);QPFPQPELPYPQP(配列番号267)およびLQPFPQPELPYPQ(配列番号268)を含むがこれらに限定されない。
配列番号13の好適な14merの断片は:
QPFPQPELPYPQPQ(配列番号269)およびLQPFPQPELPYPQP(配列番号270)を含むがこれらに限定されない。
【0076】
配列番号14として提供されるペプチドの生物学的に活性な断片の例は、QPEQPFを含むもの(配列番号317)であって、これは、T細胞の認識にとって必須であることが見出されている。
配列番号14の好適な7merの断片は:
QPEQPFP(配列番号271)およびPQPEQPF(配列番号272)を含むがこれらに限定されない。
配列番号14の好適な8merの断片は:
QPEQPFPW(配列番号273);PQPEQPFP(配列番号274)およびFPQPEQPF(配列番号275)を含むがこれらに限定されない。
配列番号14の好適な9merの断片は:
QPEQPFPWQ(配列番号276);PQPEQPFPW(配列番号277);FPQPEQPFP(配列番号278)およびPFPQPEQPF(配列番号279)を含むがこれらに限定されない。
【0077】
配列番号14の好適な10merの断片は:
QPEQPFPWQP(配列番号280);PQPEQPFPWQ(配列番号281);FPQPEQPFPW(配列番号282);PFPQPEQPFP(配列番号283)およびQPFPQPEQPF(配列番号284)を含むがこれらに限定されない。
配列番号14の好適な11merの断片は:
PQPEQPFPWQP(配列番号285);FPQPEQPFPWQ(配列番号286);PFPQPEQPFPW(配列番号287)およびQPFPQPEQPFP(配列番号288)を含むがこれらに限定されない。
【0078】
配列番号14の好適な12merの断片は:
FPQPEQPFPWQP(配列番号289);PFPQPEQPFPWQ(配列番号290)およびQPFPQPEQPFPW(配列番号291)を含むがこれらに限定されない。
配列番号14の好適な13merの断片は:
PFPQPEQPFPWQP(配列番号292)およびQPFPQPEQPFPWQ(配列番号293)を含むがこれらに限定されない。
【0079】
配列番号16として提供されるペプチドの生物学的に活性な断片の例は、PIPEQPQを含むもの(配列番号294)であって、これは、T細胞の認識にとって必須であることが見出されている。
配列番号16の好適な8merの断片は:
PIPEQPQP(配列番号295)およびQPIPEQPQ(配列番号296)を含むがこれらに限定されない。
配列番号16の好適な9merの断片は:
PIPEQPQPY(配列番号297);QPIPEQPQP(配列番号298)およびEQPIPEQPQ(配列番号299)を含むがこれらに限定されない。
【0080】
配列番号16の好適な10merの断片は:
PIPEQPQPYP(配列番号300);QPIPEQPQPY(配列番号301);EQPIPEQPQP(配列番号302)およびPEQPIPEQPQ(配列番号303)を含むがこれらに限定されない。
配列番号16の好適な11merの断片は:
PIPEQPQPYPQ(配列番号304);QPIPEQPQPYP(配列番号305);EQPIPEQPQPY(配列番号306)およびPEQPIPEQPQP(配列番号307)を含むがこれらに限定されない。
【0081】
配列番号16の好適な12merの断片は:
PIPEQPQPYPQQ(配列番号308);QPIPEQPQPYPQ(配列番号309);EQPIPEQPQPYP(配列番号310)およびPEQPIPEQPQPY(配列番号311)を含むがこれらに限定されない。
配列番号16の好適な13merの断片は:
QPIPEQPQPYPQQ(配列番号312);EQPIPEQPQPYPQ(配列番号313)およびPEQPIPEQPQPYP(配列番号314)を含むがこれらに限定されない。
配列番号16の好適な14merの断片は:
EQPIPEQPQPYPQQ(配列番号315)およびPEQPIPEQPQPYPQ(配列番号316)を含むがこれらに限定されない。
【0082】
一態様において、剤またはワクチンは、配列番号13、14および/または16のペプチドの1より多くの生物学的に活性なペプチド断片を含む。例えば、配列番号13のペプチドは、一方はDQ2−α−I(配列番号3)に特異的なT細胞により認識され、他方はDQ2−α−II(配列番号4)に特異的なT細胞により認識される、2つの別々のペプチドで置換することができる。
【0083】
T細胞の認識のために必須である配列番号13のPELP断片内において、Eは、存在しなければならないか、または随意にDであってもよい。T細胞の認識のために、他の置換は許されない。したがって、配列番号13の任意の変異体または断片は、領域PELPまたはPDLPを含まなければならない。
【0084】
生物学的に活性な変異体は、定義されたペプチドと1または2以上のアミノ酸が異なるペプチドを含み、これはまた当該分野においてホモログとしても知られる。例えば、変異体は、ペプチドの任意の1または2以上において、1または2以上のアミノ酸置換を含んでもよい。本明細書において用いられる場合、「置換される」または「置換」は、アミノ酸残基の置換、付加、挿入、脱落および/または欠失(例えば変異体はまた断片であってもよい)を含む。特に、これは、本発明の方法におけるそれらの用途を失うか著しく低下することのない保存的置換を有するペプチドを指す。好ましくは、生物学的に活性な変異体は、グルテンに感受性の対象において、それが誘導されたペプチドと実質的に同等かまたはそれより高いT細胞応答を生じさせることができる。別の態様において、生物学的に活性な変異体は、グルテンに感受性の対象において、それが誘導されたペプチドの少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%のT細胞応答を生じさせることができる。
【0085】
ペプチドの生物学的に活性な変異体は、各々のペプチドの配列を改変し、次いで、生じたペプチドを、免疫応答、例えばT細胞の産生を刺激する能力についてアッセイすることにより、同定することができる。
【0086】
一態様において、本明細書において定義されるペプチド配列と比較した場合に、定義されるペプチドにおいて5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、さらにより好ましくはわずか1のアミノ酸を(置換、欠失または付加により)変化させる。
【0087】
代替的態様において、特定の配列(変異体)と参照配列(本明細書において定義されるペプチド)との間の同一性のパーセンテージは、少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、またはそれより高く、例えば少なくとも約96%、97%、98%、99%またはそれより高い。同一性のパーセンテージは、BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/)およびGAPなどの容易に利用可能なソフトウェアパッケージを使用して決定することができる。
【0088】
一態様において、第2ペプチドは、アミノ酸配列PQQPFPQPEQPFPWQP(配列番号320)、またはその生物学的に活性な断片もしくは変異体を含む。
別の態様において、第3のペプチドは、アミノ酸配列FPEQPIPEQPQPYPQQ(配列番号321)、またはその生物学的に活性な断片もしくは変異体を含む。
【0089】
天然のアミノ酸として、アラニン(A)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、リジン(K)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、バリン(V)、ヒドロキシプロリン(Oおよび/またはHyp)、イソジチロシン(IDT)およびジ−イソジチロシン(di−IDT)が挙げられる。ヒドロキシプロリン、イソジチロシンおよびジ−イソジチロシンは、翻訳後に形成される。天然のアミノ酸、特に20の遺伝子によりコードされるアミノ酸の使用は、特に企図される。
【0090】
置換は、置換されたアミノ酸が、参照配列中の対応するアミノ酸と類似の構造的または化学的特性を有する、保存的アミノ酸置換であってもよい。代わりに、置換は、所望の活性が維持される限りにおいて、非保存的アミノ酸置換であってもよい。
【0091】
例として、保存的アミノ酸置換は、1つの脂肪族または疎水性のアミノ酸を、例えば、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンの、別のものによって置換すること;1つのヒドロキシル含有アミノ酸を、例えば、セリンおよびスレオニンの、別のものによって置換すること;1つの酸性残基を、例えば、グルタミン酸またはアスパラギン酸の、別のものによって置換すること;1つのアミド含有残基を、例えば、アスパラギンおよびグルタミンの、別のものによって置き換えること;1つの芳香族残基を、例えば、フェニルアラニンおよびチロシンの、別のものによって置き換えること;1つの塩基性残基を、例えば、リジン、アルギニンおよびヒスチジンの、別のものによって置き換えること;ならびに1つの低分子アミノ酸を、例えば、アラニン、セリン、スレオニン、メチオニン、およびグリシンの別のものによって置き換えることを含む。
【0092】
かかる保存的置換を表1、好ましい置換の表題の下に示す。かかる置換が機能的活性の変化をもたらさない場合は、より実質的な変化、表1において表示される例示的置換を導入して、生じる変異体を機能的活性について分析してもよい。
【0094】
ペプチド変異体は、変異誘発または他の化学的方法により生成することができる。アラニンスキャンニングは、重要なアミノ酸を同定するための有用な技術である。この技術において、アミノ酸残基をAlaにより置き換え、ペプチドの活性に対するその効果を決定する。例えば、システイン残基を、ジスルフィド架橋を介した二量体形成を最少化するために置換してもよい。ペプチドのアミノ酸残基の各々を、当該ペプチドの重要な領域を決定するために、この様式において分析する。かかるペプチドを調製するための手段は、当該分野においてよく理解されている。
【0095】
天然に存在するアミノ酸に加えて、天然に存在しないアミノ酸または修飾アミノ酸もまた企図され、本発明の範囲内である。実際に、本明細書において用いられる場合、「アミノ酸」とは、天然に存在するアミノ酸、天然に存在しないアミノ酸、およびアミノ酸のアナログ、ならびに各々のDまたはL立体異性体を指す。
【0096】
天然に存在するアミノ酸のための好適な置換物として用いることができる、通常のものでないおよび/または非天然のアミノ酸の非限定的なリスト、およびそれらの標準的な略号を、表2において示す。
【0103】
本発明の範囲内に含まれるのは、翻訳または合成の間または後に(例えば、ファルネシル化、プレニル化、ミリストイル化、グリコシル化、パルミトイル化、アセチル化、リン酸化(ホスホチロシン、ホスホセリンまたはホスホスレオニンなど)、アミド化、公知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解、抗体分子または他の細胞リガンドへの結合などにより)修飾されたペプチドを含む剤である。限定されないが、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH
4による特異的化学分解、アセチル化、ホルミル化、酸化、還元、ツニカマイシンの存在下における代謝合成などを含む、当該分野において公知の多数の化学修飾方法のいずれかを利用してもよい。
【0104】
句「保護基」および「ブロッキング基」とは、本明細書において用いられる場合、ペプチドを、特にin vivoにおいて、望ましくない化学反応から保護するペプチドへの修飾を指す。かかる保護基の例として、カルボン酸およびボロン酸のエステル、アルコールおよびアセタールのエーテル、アルデヒドおよびケトンのケタールが挙げられる。好適な基の例として、アシル保護基、例えばフロイル、ホルミル、アジピル、アゼライル、スベリル、ダンシル、アセチル、テイル(theyl)、ベンゾイル、トリフルオロアセチル、スクシニルおよびメトキシスクシニルなど;芳香族ウレタン保護基、例えばベンジルオキシカルボニル(Cbz)など;脂肪族ウレタン保護基、例えば例えば、t−ブトキシカルボニル(Boc)または9−フルオレニルメトキシ−カルボニル(FMOC)など;ピログルタミン酸およびアミド化が挙げられる。効力の増大、活性の延長、精製の容易性、および/または半減期の延長を提供する他の多くの修飾は、当業者に公知であろう。
【0105】
一態様において、1または2以上のペプチドの1または2以上のグルタミン酸残基は、ペプチドに対するtTG活性により生成することができる。代替的態様において、この反応は、in vivoで、投与の後で生じる。
【0106】
ペプチドは、1または2以上の修飾を含んでもよく、これは天然の翻訳後修飾であっても、人工の修飾であってもよい。修飾は、アミノ、アセチル、アシル、カルボキシ、ヒドロキシもしくはハロゲン(例えばフッ素)基、または炭水化物基などの化学部分(典型的には水素、例えばC−H結合の置換により)を提供することができる。典型的には、修飾は、NまたはC末端において存在する。さらに、ペプチドの1または2以上は、PEG化されていてもよく、ここで、PEG(ポリエチレンオキシ基)は、血流中での増大した寿命期間を提供する。ペプチドの1または2以上はまた、他のタンパク質と、または標的細胞上の特異的部分へのターゲティングを可能にする特異的結合剤と、融合またはキメラタンパク質として組み合わされてもよい。
ペプチド変異体は、ペプチドがアミノ酸側鎖および/またはペプチド骨格のレベルで化学修飾されている状態において得ることができる。
【0107】
配列番号13、14および/または16を有するペプチドに対して、親ペプチドと比較して、分解に対する耐性を改善するため、または可溶性特性を最適化するため、あるいはバイオアベイラビリティを改善するために、特定の変更を行って、それにより類似のまたは改善された治療、診断および/または薬物動態学的特性を有するペプチドを提供してもよい。好ましいかかる修飾として、N末端アセチル基またはピログルタミン酸および/またはC末端アミドの使用が挙げられる。かかる修飾は、表5において示されており、これらは、遊離のNおよびC末端を有する親ペプチドと比較して、半減期およびバイオアベイラビリティを著しく増大する。N末端アセチル化およびC末端アミド化が、当該分野において治療用ペプチドに関して提案されるのに対して、N末端ピログルタミン酸の使用は、免疫寛容の誘導に関して、以前には議論されてこなかった。免疫寛容を誘導するために有用な他のペプチドはまた、N末端アセチルもしくはピログルタミン酸および/またはC末端アミドから利益を得ることができ、したがって、さらなる側面において、ペプチドのN末端をN末端アセチルまたはピログルタミン酸の付加により修飾すること、およびペプチドのC末端をC末端アミドの付加により修飾することを含む、ペプチドの半減期および/またはバイオアベイラビリティを改善するための方法が提供される。特定の態様において、ペプチドは、配列番号228、229および/または230として提供されるアミノ酸配列を含む。
【0108】
一態様において、配列番号13のペプチド変異体は、以下の配列を有する:
pyroELQPFPQPELPYPQPQ−アミド(配列番号228;NPL001);または
Ac−QLQPFPQPELPYPQPQ−アミド(配列番号231;NPL030)。
別の態様において、配列番号14のペプチド変異体は、以下の配列を有する:
pyroEQPFPQPEQPFPWQP−アミド(配列番号229;NPL002);または
Ac−QQPFPQPEQPFPWQP−アミド(配列番号232;NPL031)。
別の態様において、配列番号16のペプチド変異体は、以下の配列を有する:
pyroEPEQPIPEQPQPYPQQ−アミド(配列番号230;NPL003);または
Ac−FPEQPIPEQPQPYPQQ−アミド(配列番号233;NPL032)。
【0109】
用語「pyroE」は、N末端ピログルタミン酸を示し、用語「Ac」は、N末端アセチルを示す。
特定の態様において、剤またはワクチンは、NPL001、NPL002およびNPL003を含む。かかる剤またはワクチンは、本明細書においてNexVax2として記載される。
別の態様において、配列番号13のペプチド変異体は、配列:
LPYPQPELPYPQ(配列番号60;W01〜E7)を有する。
別の態様において、ペプチドの任意の1つにおける少なくとも1のグルタミンは、グルタミン酸により置換される。
【0110】
本明細書において記載される特定のペプチドは、特に、幾何または立体異性体の形態において存在してもよい。本発明は、シス−(Z)およびトランス−(E)異性体、R−およびS−エナンチオマー、ジアステレオマー、(D)−異性体、(L)−異性体、これらのラセミ混合物、およびこれらの他の混合物を含む全てのかかる形態を、本発明の範囲内に該当するものとして企図する。アルキル基などの付加的な不斉炭素原子もまた、置換基において存在してもよい。全てのかかる異性体ならびにこれらの混合物は、本発明において含まれることが意図される。
【0111】
別の例において、ペプチダーゼによる切断を防止するために、ペプチドの任意の1または2以上は、より安定なペプチドを提供するために、特に感受性のペプチド結合の代わりに、非切断可能なペプチド結合を含んでもよい。かかる非切断可能なペプチド結合は、ベータアミノ酸を含んでもよい。
【0112】
ある態様において、ペプチドの任意の1または2以上は、例えば解離し易いペプチド結合の代わりに官能基を含んでもよく、これは、適宜、セリン型、システイン型またはアスパラギン酸型のプロテアーゼの阻害を容易にする。例えば、本発明は、ペプチジルジケトンまたはペプチジルケトエステル、ペプチドハロアルキルケトン、ペプチドフッ化スルホニル、ボロン酸ペプチジル、ペプチドエポキシド、ペプチジルジアゾメタン、ホスホン酸ペプチジル、イソクマリン類、ベンゾオキサジン−4−オン類、カルバメート類、イソシアネート類、イサト酸無水物類などを含む。かかる官能基は、他のペプチド分子において提供されており、それらの合成のための一般的経路は公知である。
【0113】
変異体は、模倣物であってもよい。用語「模倣物」は、それが模倣する分子に対していくらかの化学的類似性を有しており目的の特定の活性(例えば、寛容を誘導する)を保持する物質を指すことを意図する。ペプチド模倣物の使用の背景となる論理的根拠は、タンパク質のペプチド骨格が、主に、アミノ酸側鎖を、T細胞とMHC−ペプチド、抗体と抗原、酵素と基質または足場タンパク質(scaffolding protein)とのもののような分子相互作用を容易にするように配向させるために、存在することである。ペプチド模倣物は、天然の分子と類似の分子相互作用を可能にするように設計される。模倣物は、オレフィン類、ホスホネート類、アザ−アミノ酸アナログなどを含む。当業者は、ペプチドの模倣物を設計するための方法を容易に理解し、それらを、本明細書において定義されるペプチドの模倣物を設計するために利用することができるであろう。
【0114】
ペプチドを、親水性分析により分析してもよく、これは、ペプチドの疎水性および親水性領域を同定し、それにより、結合実験、抗体合成などにおける実験的操作のためのペプチドの設計を助けるために用いることができる。また、二次構造分析を行って、特異的な構造モチーフを採用するペプチドの領域を同定してもよい。操作、翻訳、二次構造予測、親水性および疎水性プロフィール、オープンリーディングフレーム予測およびプロッティング、ならびに配列相同性の決定は、当該分野において利用可能なコンピューターソフトウェアプログラムを用いて達成することができる。限定されないが、X線結晶学、質量分析およびガスクロマトグラフィー、コンピューターモデリング、旋光分散(ORD)または円偏光二色性(CD)を含む、構造分析の他の方法もまた用いることができる。
【0115】
ペプチド、断片または変異体は、塩の形態、好ましくは薬学的に受容可能な塩の形態であってもよい。「薬学的に受容可能な塩」として、ペプチドの従来の非毒性塩または4級アンモニウム塩、例えば非毒性の有機または無機酸からのものが挙げられる。従来の非毒性の塩として、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルホン酸、リン酸、硝酸などの無機酸から誘導されるもの;および酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イソチオン酸などの有機酸から調製される塩が挙げられる。
【0116】
ペプチドは、剤またはワクチンにおいて、別々のペプチドとして、または結合した、例えばポリエピトープ構造において、提供することができる。一態様において、ペプチドは、単一のポリペプチド鎖(ポリエピトープストリング(polyepitope string))において、すなわち、直線状または環状の配置において、提示してもよい。別の態様において、ペプチドは、特にポリリジンなどのデンドリマー骨格に基づく、複数の抗原提示系において提示してもよい。ポリリジン骨格は、エピトープの非直線状の、分枝状配置を提供する。この系は、ペプチドが互いに干渉しないか、潜在性エピトープ(cryptic epitope)へ切断しにくく、それにより完全なT細胞応答を誘導することができる、というポリエピトープストリングより有利な点を提供する。
【0117】
抱合体
ペプチドの1または2以上を、標準的な方法を用いて化合物と抱合させてもよい。ペプチドが抱合することができる化合物の例として、限定されないが、放射性同位元素、蛍光標識、化学発光化合物、酵素標識、フリーラジカル、アビジン−ビオチン標識、バクテリオファージ標識、対象におけるペプチドの半減期を延長する化合物、アジュバント、MHC分子、またはこれらの断片が挙げられる。
【0118】
化合物は、抱合したペプチドの検出および/または単離を容易にするか、免疫原性を増大させることができる。
「抱合した」とは、本明細書において用いられる場合、共有または非共有結合を介してカップリングしていることを意味する。共有結合が好ましいが、化合物はまた、共有結合なしで、複合体化を介して、例えば水素結合または静電気、疎水性などの相互作用を介して、化合物に結合していてもよい。
【0119】
典型的な放射性同位元素として、
3H、
125I、
131I、
32P、
35S、
14C、
51Cr、
36Cl、
57Co、
58Co、
59Fe、
75Se、および
152Euが挙げられる。
典型的な蛍光標識として、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒドおよびフルオレサミンが挙げられる。
典型的な化学発光化合物として、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル類、イミダゾール類、アクリジニウム塩およびオキサレートエステルが挙げられる。典型的な生物発光化合物として、ルシフェリン、ルシフェラーゼおよびエクオリンが挙げられる。
典型的な酵素標識として、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、マレイン酸デヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼおよびペルオキシダーゼが挙げられる。
【0120】
一態様において、非特異的リンカーが、化合物と、それが抱合されるペプチドとの間に用いられる。かかるリンカーは、ペプチドの活性に関与しない。むしろ、リンカーは、ペプチドと機能的部分との間のスペーサーとして働き得る。リンカーの使用は、精製または検出を助けるためのものなどの、ペプチドの固定を含む。代わりに、リンカーは、化合物のペプチドへの付着を可能にするものであってもよく、これは、空間的または時間的に、細胞または組織などの特定の標的へのペプチドの特異的送達を可能にする。ワクチンとして用いられる場合、ペプチドの1または2以上を、ペプチドと免疫原性キャリアとの間のスペーサーとして働くかまたはペプチドと免疫原性キャリアとの間のカップリングの改善を可能にして潜在性エピトープの形成を防止するリンカーとカップリングしてもよい。
【0121】
一態様において、ペプチドの1または2以上は、その免疫原性を増大させるために、当該分野において公知の幾つかの抱合化学のいずれかを用いて、ジフテリアトキソイド(DT)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド(TT)またはインフルエンザウイルスの核タンパク質(NP)などのアジュバント(免疫原性キャリアタンパク質)に、共有結合によりカップリングされる。非特異的リンカーは、ペプチドと免疫原性キャリアとの間に存在することができ、好ましくは、免疫原性キャリアとのカップリングを容易にするために、および/またはペプチドと免疫原性キャリアとの間のスペーサーとして働くために、ペプチドに連結しているかまたは共合成されている。
【0122】
診断剤として用いられる場合、ペプチドの1または2以上は、好ましくは、先にワクチン接種のために用いられていない免疫原性キャリアに抱合させる。ワクチン接種の成功をモニタリングする場合、これは、診断剤が、ワクチンのキャリア画分に対して形成された抗体と反応することを防ぐ。
【0123】
一態様において、化合物は、MHCクラスII分子またはその結合断片である。MHCクラスII分子は、生物学的試料から精製することができる。代わりに、MHCクラスII分子は、組み換えにより生成してもよい。MHCクラスII分子のペプチド結合断片は、例えば精製されたかまたは組み換えの完全な分子の酵素切断により、得ることができる。代わりに、ペプチド結合断片を、組み換えにより生成してもよい。好ましい態様において、化合物は、組み換えの2ドメインのMHCクラスII分子である。
【0124】
その最も基本的な形態において、2ドメインのMHCクラスII分子は、哺乳動物のMHCクラスII分子のα1およびβ1ドメインを含み、ここで、α1ドメインのアミノ末端は、β1ドメインのカルボキシ末端に結合しており、ここで、ポリペプチドは、α2またはβ2を含まない。2ドメインのMHCクラスII分子は、共有または非共有相互作用により、本明細書において定義されるペプチドと結合する。ある態様において、ペプチドは、クラスII分子のβ1ドメインのアミノ末端と共有結合している。2ドメインのMHCクラスII分子はまた、蛍光標識または毒素などの検出可能な標識を含んでもよい。検出可能な標識または毒素がMHC分子と直接的な様式において(すなわち、無作為に付着するのではなく)共有結合する場合、それは、一般に、アミノ末端に結合したペプチド抗原との干渉を最少化するために、分子のカルボキシ末端に結合する。
【0125】
in vitroで、2ドメインのMHCクラスII分子を、T細胞を検出して定量するため、およびT細胞の機能を調節するために用いてもよい。したがって、選択されたペプチドをロードされたかかる分子は、そのペプチドに対して特異的であるT細胞の集団を検出し、モニタリングし、定量するために用いることができる。2ドメインのMHCクラスII分子/ペプチド抱合体はまた、グルテン特異的T細胞のアネルギーを誘導し、セリアック病に関連する症状を緩和するために用いることができる。代わりに、かかる分子は、より直接的に疾患を引き起こすT細胞を殺傷する毒素と抱合させてもよい。好適な毒素として、タンパク質毒素(例えば、リシン、ジフテリア、およびシュードモナス毒素)、化学療法剤(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、メトトレキサート、細胞毒、およびアンチセンスRNA)、細胞毒性T細胞表面分子に対する抗体、リパーゼ、ならびに「硬(hard)」放射、例えばベータ放射を放出する放射性同位元素が挙げられる。
【0126】
組み換えMHCクラスIIβ1α1分子の設計
哺乳動物のMHCクラスIIαおよびβ鎖タンパク質のアミノ酸配列、ならびにこれらのタンパク質をコードする核酸は、当該分野において周知であり、GenBankを含む多数のソースから利用可能である。
【0127】
典型的には、α1ドメインは、成熟α鎖の残基1〜90付近を含むものと考えられる。MHCクラスIIタンパク質のα1ドメインとα2ドメインとの間のネイティブなペプチドリンカー領域は、考慮される特定のα鎖に依存して、α鎖のアミノ酸76付近からアミノ酸93付近に広がる。したがって、α1ドメインは、α鎖のアミノ酸残基1〜90付近を含み得るが、当業者は、このドメインのC末端カットオフが必ずしも正確に定義されず、例えば、α鎖のアミノ酸残基70〜100の間の任意の点において生じ得ることを理解するであろう。α1ドメインの組成はまた、哺乳動物種および問題の特定のα鎖に依存して、これらのパラメーターの外で変化してもよい。
【0128】
同様に、β1ドメインは、成熟β鎖の残基1〜90付近を含むものと考えられる。MHCクラスIIタンパク質のβ1ドメインとβ2ドメインとの間のリンカー領域は、考慮される特定のβ鎖に依存して、β鎖のアミノ酸85付近からアミノ酸100付近に広がる。したがって、β1タンパク質は、アミノ酸残基1〜100付近を含み得るが、当業者は、このドメインのC末端カットオフが必ずしも正確に定義されず、例えば、β鎖のアミノ酸残基75〜105の間の任意の点において生じ得ることを理解するであろう。
【0129】
組み換え分子中に含めるために特定のドメインの配列を選択する場合、ドメイン全体を含めることが好ましい。このことが確実になされるために、ドメインの配列を、リンカーの一部、または隣接するドメインの一部までもを含むように、伸長させてもよい。α1およびβ1ドメイン中のアミノ酸の正確な数は、哺乳動物の種に依存して、ならびに種内の遺伝子のクラスの間で変化する。特定のドメインのアミノ酸配列を選択する場合に重要であるのは、アミノ酸の数に基づく正確な構造的定義よりも、むしろドメインの機能の維持である。さらに、当業者は、選択されるドメインの全アミノ酸配列よりもいくらか少ないものが利用される場合にもドメインの機能が維持されることを、理解するであろう。例えば、α1ドメインのアミノまたはカルボキシ末端のいずれかにおけるアミノ酸の数は、ドメインの機能に影響を及ぼすことなく減らすことができる。しかしながら典型的には、ドメイン配列のいずれかの末端から減らされたアミノ酸の数は、10以下であり、より典型的には5以下である。同様に、α1およびβ1ドメインは、ドメインの機能が維持されることを前提として、天然に存在する形態と比較して、1または2以上のアミノ酸配列のバリエーションを含んでもよい。
【0130】
特定の選択されたドメインの機能的活性は、ペプチドをロードした(loaded)MHCクラスIIβ1α1分子の背景において評価することができる。例えば、特定のβ1ドメインを試験するために、それを機能的なα1ドメインに結合させて、結果として生じるMHCクラスIIβ1α1分子にペプチドがロードされ、抗原特異的T細胞に結合する能力および/または、T細胞増殖などの抗原特異的T細胞の機能を阻害する能力について試験される。
【0131】
これらのドメインをコードする核酸分子は、PCRによる増幅などの標準的な手段により生成することができる。これらのドメインをコードするオープンリーディングフレームを増幅するためのプライマーを設計するための標準的なアプローチを用いることができる。これらのドメインの増幅のために好適なライブラリーとして、例えば、疑問になる哺乳動物の種から調製したcDNAライブラリーが挙げられる。かかるライブラリーは、市販されているか、標準的な方法により調製することができる。したがって、例えば、β1およびα1ポリペプチドをコードするコンストラクトを、4つのプライマーを用いるPCRにより生成することができる:β1コード領域の5’および3’末端に対応するプライマーB1およびB2、ならびにα1コード領域の5’および3’末端に対応するプライマーA1およびA2。α1およびβ1ドメインのコード領域のPCR増幅の後で、これらの増幅された核酸分子を、各々、標準的なクローニングベクター中にクローニングするか、または分子を一緒にライゲーションして、次いで好適なベクター中にクローニングすることができる。2つのコード領域の簡便なクローニングを容易にするために、制限酵素エンドヌクレアーゼ認識部位をPCRプライマー中に設計してもよい。例えば、プライマーB2およびA1は、各々、増幅された断片が、増幅および選択された制限酵素による消化の後で、容易に一緒にライゲーションされ得るように、好適な部位を含んでもよい。さらに、プライマーB1およびA2は、各々、選択されるベクターのポリリンカー部位中へのクローニングを容易にするために、制限酵素切断部位を含んでもよい。2つのドメインのコード領域のライゲーションは、コード領域が作動可能に連結される、すなわち、オープンリーディングフレームが維持されるように、行われる。増幅されたコード領域が別々にクローニングされる場合、断片を、クローニングベクターから逐次放出させ、ライゲーションの準備としてゲルで精製してもよい。
【0132】
ある態様において、ペプチドリンカーは、β1ドメインとα1ドメインとの間で提供される。典型的には、このリンカーは、2〜25アミノ酸の長さであり、各々のドメインがそのネイティブな立体配置へと自由に折りたたまれるように、ドメイン間の可橈性を提供するように働く。リンカー配列は、PCRプライマーをリンカー配列をコードするように設計することにより、簡便に提供することができる。したがって、上記の例において、リンカー配列は、B2もしくはA1プライマーのうちの一方、またはこれらのプライマーの各々の組み合わせによりコードされてもよい。
変異体MHCドメインのポリペプチドは、例えば部位特異的変異誘発またはPCRにより、当該ドメインをコードする分子のヌクレオチド配列を操作することにより、生成することができる。
【0133】
抗原性ペプチドのMHCクラスIIβ1α1分子への遺伝連鎖
MHCクラスIIβ1α1分子は、本明細書において定義されるペプチドと組み合わせて用いられる。MHCクラスIIβ1α1分子は、ペプチドのMHC分子への共有結合によるものを含む、多数の方法においてペプチドで「ロードされる」。このことは、発現されるペプチドがMHCクラスIIβ1α1分子のβ1のN末端に連結するように、選択されるペプチドをコードする核酸配列をMHC分子をコードするコンストラクトの5’末端に作動可能に連結することにより、簡便に達成することができる。この結果を得る一つの簡便な方法は、ペプチドをコードする配列を、MHCコード領域を増幅するために用いられるPCRプライマー中に組み込むことである。典型的には、リンカーペプチド配列をコードする配列は、抗原性ペプチドをコードする分子とMHCポリペプチドをコードする分子との間に含められる。抗原をMHC ポリペプチドに連結させるために、リンカーは、抗原性ペプチドがMHCポリペプチドのペプチド溝中にフィットするために十分な長さであるべきである。
【0134】
この抗原性ペプチドのMHC分子への連結のための遺伝子系は、異なる抗原性ペプチドを有する多数のMHC分子が生成される場合に特に有用である。記載された系は、MHCコード領域の5’末端において(すなわち、MHCクラスIIβ1α1分子のβ1の5'末端において)ユニークな制限酵素切断部位が含まれる発現ベクターの構築を可能にする。かかるコンストラクトと組み合わせて、各々の抗原コード領域が選択された制限酵素についての部位により挟まれた、抗原性ペプチドをコードする配列のライブラリーを作製する。特定の抗原のMHC分子中への包含を、次いで、単純に(a)抗原コード領域を選択された制限酵素により放出させること、(b)MHCコンストラクトを同じ制限酵素により切断すること、および(c)抗原コード領域をMHCコンストラクト中へライゲーションすることにより行う。この様式において、短時間において、多数のMHC−ポリペプチドコンストラクトを作製し、発現させることができる。
【0135】
空のβ1α1およびα1α2分子の抗原ローディング
MHCクラスIIβ1α1分子が、空(empty)の形態において(すなわち、結合する抗原性ペプチドなしで)発現され精製された場合に、抗原性ペプチドを、標準的な方法を用いて、分子中にロードすることができる。かかる方法は、精製されたMHC分子と精製されたペプチドの調製物との単純な共インキュベーション(co-incubation)を含む。
【0136】
例として、空のMHCクラスIIβ1α1分子(1mg/ml;40uM)を、10倍のモル濃度過剰なペプチド(1mg/ml;400uM)と共に、室温で24時間インキュベーションすることにより、ロードすることができる。その後、PBSに対する4℃で24時間の透析により、過剰な未結合ペプチドを取り除くことができる。当該分野において公知のことであるが、MHCクラスIIβ1α1分子へのペプチド結合は、放射性標識されたペプチドを用いるシリカゲル薄相クロマトグラフィー(TLC)により定量することができる。かかる定量に基づいて、所望の結果を得るために、ローディングを変化させる(例えば、ペプチドの過剰なモル濃度またはインキュベーションの時間を変化させる)ことができる。
【0137】
ポリヌクレオチド
用語「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」および「ポリヌクレオチド」は、一般に交換可能に用いられ、生物学的に活性な断片およびホモログを含む変異体を包含する。
剤の各構成要素であるポリヌクレオチドの全長は、例えば、21〜150ヌクレオチド、例えば21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150ヌクレオチドであってよい。
【0138】
核酸分子の「生物学的に活性な断片」は、参照ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列のものよりも少ないヌクレオチドからなり、少なくとも約21ヌクレオチドの長さを有し、少なくとも約35ヌクレオチドの長さを有してもよい。
用語「生物学的に活性な変異体」および「生物学的に活性な断片」は、本明細書において定義されるペプチドに関して上で記載されるものと類似の意味を有する。
【0139】
「生物学的に活性な変異体」は、参照ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に対して少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチドの配列を含み得る。同一性のパーセンテージは、BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/)およびGAPなどの容易に利用可能なソフトウェアパッケージを用いて決定することができる。
【0140】
代わりに、または加えて、「生物学的に活性な変異体」は、低ストリンジェンシー条件下において、参照ペプチドをコードするヌクレオチド配列(またはその相補的形態)にハイブリダイズしてもよい。本明細書において「低ストリンジェンシー」への言及は、ハイブリダイゼーションのための少なくとも約0〜少なくとも約15%v/vのホルムアミドおよび少なくとも約1M〜少なくとも約2Mの塩、ならびに、洗浄条件のための少なくとも約1M〜少なくとも約2Mの塩を指す。一般に、低ストリンジェンシーは、約25〜30℃から約42℃までである。温度は変化させることができ、ホルムアミドを置き換えるために、および/または代替的なストリンジェンシー条件を与えるために、より高い温度を用いてもよい。中程度または高ストリンジェンシーなどの代替的なストリンジェンシー条件は、必要である場合に適用することができる。本明細書において「中程度のストリンジェンシー」への言及は、ハイブリダイゼーションのための少なくとも約16%v/v〜少なくとも約30%v/vのホルムアミドおよび少なくとも約0.5M〜少なくとも約0.9Mの塩、ならびに、洗浄条件のための少なくとも約0.5M〜少なくとも約0.9Mの塩を指す。本明細書において「高ストリンジェンシー」への言及は、ハイブリダイゼーションのための少なくとも約31%v/v〜少なくとも約50%v/vのホルムアミドおよび少なくとも約0.01M〜少なくとも約0.15Mの塩、ならびに、洗浄条件のための少なくとも約0.01M〜少なくとも約0.15Mの塩を指す。
【0141】
一般に、洗浄は、Tm=69.3+0.41(G+C)%において行われる。しかし、二本鎖核酸分子のTmは、ミスマッチ塩基対の数が1%増加するごとに1℃低下する。ホルムアミドは、これらのハイブリダイゼーション 条件において随意に選択される。
特に好ましいストリンジェンシーのレベルは、以下の通り定義される:低ストリンジェンシーは、25〜42℃において、6×SSCバッファー、0.1%w/vのSDSであり;中程度のストリンジェンシーは、20〜65℃において、2×SSCバッファー、0.1%w/vのSDSであり;高ストリンジェンシーは、少なくとも65℃において、0.1×SSCバッファー、0.1%w/vのSDSである。
【0142】
生物学的変異体は、参照ポリヌクレオチドと1または2以上のヌクレオチドが異なるポリヌクレオチドを含む。例えば、変異体は、1または2以上の天然に存在するヌクレオチドの、アナログ(モルホリン環など)、メチル化ヌクレオチド、非荷電性結合などのヌクレオチド間修飾(例えば、メチルホスホネート類、ホスホトリエステル類、ホスホアミデート類、カルバメート類など)、荷電性結合(例えば、ホスホロチオエート類、ホスホロジチオエート類など)、ペンデント(pendent)部分(例えば、ポリペプチド)、介入物(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤、アルキル化剤、および修飾結合(例えば、α−アノマー核酸など)による置換を含んでもよい。
【0143】
ペプチドの1または2以上をコードするポリヌクレオチドは、ベクター中で提供されてもよい。
本明細書において定義されるペプチドの1または2以上をコードするポリヌクレオチドは、当該分野において周知の技術を用いて、ペプチドの組み換え産生のために用いてもよい。代わりに、ポリヌクレオチドは、対象をグルテンに対して免疫/寛容化するために用いてもよい。
本発明における使用のためのポリヌクレオチドは、コドン使用の縮重を配慮しながら、ペプチドの1または2以上から誘導することができるDNA配列を含む。これは、当該分野において周知であり、異なる発現宿主におけるコドン使用の知識も同様であり、これは、ペプチドの組み換え発現を最適化する上で有用である。
【0144】
ポリヌクレオチドがペプチドの1または2以上の組み換え産生のために用いられる場合、ポリヌクレオチドは、ペプチド単独についてのコード配列を含んでも、リーダー配列または分泌配列、プレ−またはプロ−もしくはプレプロ−タンパク質配列、リンカーペプチド配列、または他の融合ペプチド部分をコードするものなどの他のコード配列とのリーディングフレームについてのコード配列を含んでもよい。例えば、融合ペプチドの精製を容易にするマーカー配列がコードされていてもよい。ある態様において、マーカー配列は、pQEベクター(Qiagen, Inc.)中で提供されるようなヘキサ−ヒスチジンペプチド、またはHAタグ、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼである。ポリヌクレオチドはまた、転写される非翻訳配列、スプライシングまたはポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位およびmRNAを安定化させる配列などの、非コード5’および3’配列を含んでもよい。
【0145】
抗原提示細胞(APC)
本明細書において定義される剤および/またはペプチドは、APCを、例えば、第1、第2および第3のペプチド、それらの1もしくは2以上の生物学的に活性な断片もしくは変異体、および/またはそれらの1または2以上をコードするポリヌクレオチドでロードすることにより、送達することができる。
【0146】
好ましくは、APCは、対象のMHC表現型と共有するMHCクラスII分子を発現する、樹状細胞、マクロファージ、B−リンパ球および肝類洞内皮細胞からなる群より選択される。例えば、APCは、HLA−DQ2(例えば、HLA DQA1
*05およびHLA DQB1
*02)および/またはHLA DQ8を発現してもよい。この目的のために使用されるAPCは、ローディングの後でそれらが送達されるべき対象から単離されたものであっても、アロが一致する(allo-matched)対象から得たものであってもよい。
【0147】
APCを「ロードする」とは、APCをペプチド、それらの1もしくは2以上の生物学的に活性な断片もしくは変異体、またはそれらの1または2以上をコードするポリヌクレオチドとインキュベートまたはトランスフェクトすることを意味する。APCをロードすることは、脂質媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウムトランスフェクションなどの、従来の核酸トランスフェクション方法を用いて達成することができる。
【0148】
ペプチド生成
ペプチドは、任意の好適な様式において調製することができる。例えば、ペプチドは、組み換えにより、および/または合成により生成することができる。
ペプチドは、市販のペプチド合成機を用いる自動化された手順による合成を含む、標準的な化学技術により合成することができる。一般に、ペプチドのアナログは、固相ペプチド合成方法により調製され、これは、各々の保護されたアミノ酸残基を、C末端アミドを有するペプチドを得るためのジシクロヘキシルカルボジイミドによる活性化により、樹脂、好ましくは4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂の支持体へカップリングすることを含み得る。代わりに、クロロメチル樹脂(メリフィールド樹脂)を用いて、C末端に遊離のカルボン酸を有するペプチドを得てもよい。最後の残基を付着させた後で、保護されたペプチド−樹脂を、フッ化水素で処理して、ペプチドを樹脂から切断し、ならびに側鎖官能基を脱保護する。粗生成物を、ゲルろ過、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、分配クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーにより、さらに精製してもよい。
【0149】
所望の場合、および上記概説したように、剤のペプチド中に、合成の間または発現の間に、他の分子へのまたは表面への結合を可能にする多様な基を導入することができる。例えば、チオエステルを作るためにシステインを、金属イオン錯体へ結合させるためにヒスチジンを、アミドまたはエステルを形成させるためにカルボキシル基を、アミドを形成させるためにアミノ基を用いることなどができる。
【0150】
ペプチドはまた、無細胞翻訳系を用いて生成することができる。網状赤血球ライセートおよびコムギ胚芽抽出物などの標準的な翻訳系は、RNAを鋳型として用いる。一方、「カップリングされた(coupled)」および「結合された(linked)」系は、DNAの鋳型を用いて開始し、これがRNAへ転写され、次いで翻訳される。
代わりに、ペプチドは、宿主細胞を、1または2以上のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターでトランスフェクトすることにより、生成することができる。
【0151】
組み換え産生のために、ペプチドの1または2以上をコードする配列を含む組み換えコンストラクトを、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストリン媒介性トランスフェクション、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入(transduction)、スクレイプローディング(scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)または感染などの従来の方法により、宿主細胞中に導入する。
【0152】
ペプチドの1または2以上を、例えば、哺乳動物細胞(例えば、COS、CHO、BHK、293 HEK、VERO、HeLa、HepG2、MDCK、W138もしくはNIH 3T3細胞)、酵母(例えば、SaccharomycesもしくはPichia)、細菌(例えば、E. coli、P. pastorisもしくはB. subtilis)、昆虫細胞(例えば、Sf9細胞中のバキュロウイルス)、または他の細胞などの好適な宿主細胞において、適切なプロモーターの制御下において、従来の技術を用いて、発現させてもよい。好適な宿主株のトランスフェクション、および宿主株の好適な細胞密度への増殖の後で、細胞を遠心分離により収集して、物理的または化学的手段により破壊し、生じる粗抽出物を、ペプチドまたはその変異体のさらなる精製のために保持する。
【0153】
好適な発現ベクターとして、例えば、染色体の、非染色体の、および合成のポリヌクレオチド、例えばSV40の誘導体、細菌プラスミド、ファージDNA、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAとの組合せから誘導されたベクター、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、カナリアポックスウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、バキュロウイルス、ヘルペスウイルスおよびレトロウイルスなどのウイルスDNAが挙げられる。ポリヌクレオチドは、当該分野において公知の従来の手順により、発現ベクター中へ導入することができる。
【0154】
1または2以上のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、発現制御配列、すなわちmRNA合成を指揮するプロモーターに作動可能に連結していてもよい。かかるプロモーターの代表例として、LTRまたはSV40プロモーター、E. coliのlacまたはtrp、ファージラムダPLプロモーター、および原核もしくは真核細胞において、またはウイルスにおいて遺伝子の発現を制御することが知られている他のプロモーターが挙げられる。発現ベクターはまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位および転写ターミネーターを含んでもよい。
【0155】
発現ベクター はまた、複製起点、および、形質転換細胞、すなわち異種性ポリヌクレオチドを発現する細胞の選択を可能にするためのE. coliのアンピシリン耐性遺伝子などの選択マーカーを含んでもよい。ペプチドの1または2以上をコードする核酸分子を、翻訳開始および終結配列とインフレーム(in frame)で、ベクター中に組み込んでもよい。
【0156】
ペプチドの1または2以上は、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィーおよびHPLCを含む周知の方法により、組み換え細胞培養物から(すなわち、細胞または培養培地から)回収して精製することができる。単離および/または精製の間にペプチドが変性した場合、活性な立体配置を再生するために、タンパク質をリフォールディングするための周知の技術を用いることができる。
【0157】
グリコシル化されたペプチドを生成するために、組み換え技術を用いることが好ましい。グリコシル化されたペプチドを生成するために、組み換え技術において、COS−7およびHep−G2細胞などの哺乳動物を用いることが好ましい。
ペプチドをまた、より長いペプチドの切断により、特に食品抽出物から、調製してもよい。
【0158】
ペプチドの薬学的に受容可能な塩は、塩基または酸部分を含むペプチドから、従来の化学的方法により合成することができる。一般に、塩は、遊離の塩基または酸を、化学量論的な量のまたは過剰な、所望の塩を形成する無機または有機酸または塩基と、好適な溶媒中で反応させることにより、調製される。
【0159】
ワクチンおよび投与
本発明はまた、第1、第2および第3のペプチド、それらの1もしくは2以上の生物学的に活性な断片もしくは変異体、および/またはそれらの1または2以上をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを提供する。また提供されるのは、本発明のペプチドおよび/または本発明のポリヌクレオチドを含むワクチンである。
【0160】
本明細書において用いられる場合、用語「ワクチン」とは、グルテンに感受性の対象に対象のグルテンに対する応答を調節するために投与することができる、ペプチドを含むかまたはペプチドをコードする組成物を指す。ワクチンは、対象のグルテンに対する免疫学的反応性を低下させることができる。好ましくは、ワクチンは、グルテンに対する寛容を誘導する。
ワクチンの対象への投与により、グルテン特異的エフェクターT細胞の集団、例えばグルテン特異的CD4
+T細胞のクローン欠失により、またはその後のグルテン(またはそのペプチド)への暴露に対する前記T細胞の応答性が低くなるか好ましくは非応答性になるような前記T細胞の不活化(アネルギー)により、寛容を誘導することができる。
【0161】
代わりに、または加えて、ワクチンの投与により、対象のサイトカイン分泌プロフィールを改変する(例えば、減少したIL−4、IL−2、TNFαおよび/またはIFNγの増加、および/またはIL−10の低下をもたらす)ことができる。ワクチンは、IL−10および/またはTGFβを産生し、それによりグルテン特異的エフェクターT細胞を抑制する、サプレッサーT細胞の亜集団、例えばTreg細胞を誘導することができる。
本発明のワクチンは、グルテンに対する感受性を発達させることができる、例えばHLA−DQ2および/またはHLA−DQ8遺伝子を保有すると診断された対象の予防的処置、および/またはグルテンに感受性である対象、例えばセリアック病を有する対象の進行中の処置のために、用いることができる。多様な自己免疫およびモデル免疫条件、例えば実験的アレルギー性脳炎についての、免疫優性ペプチドの予防的活性を支持する相当量の動物のデータが存在する。
【0162】
本明細書において用いられる場合、用語「処置」は、疾患もしくは状態の進行を、抑止、阻害、遅延、もしくは逆転させること、または、疾患(例えばセリアック病)もしくは状態の臨床的症状を、緩和もしくは予防することを含む。
投与されるべきワクチン(または剤、ペプチド、ポリヌクレオチドおよび/またはAPC)の量は、「有効量」として言及される。用語「有効量」は、適切なまたは十分な条件下において投与した場合に、所望の治療的または生理学的効果を提供するために十分な量を意味する。単一の、または複数の用量を投与してもよい。望ましくない効果、例えば副作用が、所望の治療効果と共に、しばしば現れる。したがって、医師は、適切な「有効量」を決定する上で、潜在的なリスクに対する潜在的な利益のバランスをとる。必要とされる正確な量は、種、年齢、サイズおよび対象の一般的状態、投与の様式などに依存して、対象ごとに異なるであろう。したがって、正確な「有効量」を特定することは不可能である場合がある。しかし、任意の個々のケースにおける適切な「有効量」は、当業者により、寛容的な実験のみを用いて決定することができる。
【0163】
ワクチン(または剤、ペプチド、ポリヌクレオチドおよび/またはAPC)は、対象における、グリアジン、セカリン、ホルデイン、グルテニンおよび随意にアベニンタンパク質により代表されるような、コムギ、オオムギおよびライムギ、好ましくはコムギ、オオムギ、ライムギおよびカラスムギに対するT細胞応答を改変する。したがって、本発明にしたがって処置された対象は、好ましくは、少なくともコムギ、ライムギ、オオムギおよび随意にカラスムギを、通常はセリアック病の症状をもたらすであろう顕著なT細胞応答なしに、食べることができる。
本発明の剤の此処の成分を、同じ組成物において投与しても、異なる組成物またはそれらの組み合わせにおいて(例えば、第1および第2の本明細書において定義されるペプチドを1つの組成物において、第3のペプチドを別の組成物において)投与してもよい。異なる組成物中である場合、それらは、同時に投与しても、逐次投与してもよい。
【0164】
剤またはワクチンは、薬学的に受容可能なキャリアを含んでもよい。用語「薬学的に受容可能なキャリア」とは、対象、特に哺乳動物、ことさらヒトに投与された場合に、アレルギー性、毒性、または他の有害反応をもたらさない、分子的実体および組成物を指す。薬学的に受容可能なキャリアは、固体または液体であってよい。薬学的に受容可能なキャリアの例として、限定されないが、本発明の活性剤の活性に影響を及ぼさない、希釈剤、賦形剤、溶媒、界面活性剤、懸濁剤,緩衝化剤、潤滑剤、アジュバント、ビヒクル、乳化剤、吸収剤、分散媒、コーティング剤、安定化剤、保護コロイド、粘着剤、増粘剤、チキソトロピック剤、浸透剤、封鎖剤(sequestering agent)、等張剤および吸収遅延剤が挙げられる。
【0165】
キャリアは、従来用いられているもののうちのいずれであってもよく、可溶性および活性剤との反応性の欠失などの物理化学的考慮によってのみ、ならびに投与の経路により、限定される。本発明のために好適なキャリアとして、従来用いられているもの、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンガー溶液、緩衝化溶液、ヒアルロナン、グリコール類、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。リポソームもまたキャリアとして用いることができる。
医薬組成物を製造するための技術は、当該分野において公知であり、Remington's Pharmaceutical Sciences、第16版、Mack Publishing Company(1980年)により例示される。
【0166】
用語「アジュバント」は、一般に、1または2以上の本明細書において定義されるペプチドの免疫原性を増強するように設計された免疫刺激性物質を指す。好ましくは、アジュバントは、Th1応答をもたらさず、さらに、免疫寛容を促進し、および/または炎症を低減する。好適なアジュバントとして、1)アルミニウムベースの鉱物塩アジュバント、例えばAl(OH)
3ゲルまたはリン酸アルミニウムであるが、カルシウム、鉄または亜鉛の塩であってもよい;および2)デキサメタゾン(Kang et al., 2008)が挙げられる。
【0167】
投与は、経口で、局所(経皮)で、非経口で、吸入スプレーにより、または直腸で、従来の非毒性の薬学的に受容可能なキャリアを含む投与単位製剤におけるものであってよい。用語「非経口」とは、本明細書において用いられる場合、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、結膜下、腔内(intracavity)、経皮および皮下注射、肺もしくは鼻腔への投与のためのエアロゾル、または注入、例えば浸透圧ポンプによる投与を含む。
【0168】
本発明の活性化合物は、経口での使用のために好適な形態、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性の懸濁液、分散可能な散剤もしくは顆粒、乳液、ハードもしくはソフトカプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤であってもよい。経口での使用を意図される組成物は、医薬組成物の製造のための当該分野において公知の方法に従って調製され、かかる組成物は、薬学的に上品かつ美味な製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤および保存剤からなる群より選択される1または2以上の剤を含む。
【0169】
錠剤
活性成分を薬学的に受容可能な賦形剤との混合物において含む錠剤はまた、公知の方法により製造することができる。用いられる賦形剤は、例えば、(1)炭酸カルシウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性な希釈剤;(2)コーンスターチまたはアルギン酸などの造粒剤および崩壊剤;(3)スターチ、ゼラチンまたはアラビアゴムなどの結合剤、ならびに(4)ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクなどの潤滑剤であってよい。錠剤を、コーティングしても、胃腸管における崩壊および吸収を遅延させ、それによりより長期にわたる持続的作用をもたらすために、公知の技術によりコーティングしてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間的遅延材料を用いてもよい。それらはまた、制御放出のための浸透圧治療用錠剤を形成するために、コーティングしてもよい。
【0170】
一部の場合において、経口での使用のための製剤は、ハードゼラチンカプセルの形態であってもよく、ここで活性成分は、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンなどの不活性な固体の希釈剤と混合される。それらはまた、活性成分が、例えばピーナッツ油、流動パラフィンまたはオリーブ油などの水性または油性の溶媒と混合されている、ソフトゼラチンカプセルの形態であってもよい。
【0171】
水性懸濁液
水性懸濁液は、通常、活性剤量を、水性懸濁液の製造のために好適な賦形剤との混合物において含む。かかる賦形剤は、(1)カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアラビアゴムなどの懸濁剤;または(2)C2〜C18脂肪酸のPEGエステル、Tween 80またはポリエチレンオキシドソルビタンモノラウレート、Brijまたはポリオキシエチレンアルコール、Triton-Xまたはポリエチレングリコールp−イソオクチルフェニルエーテル、Triton-N、およびTriton A-20または4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、ホルムアルデヒドおよびオキシランとのポリマー、DECON、トリスまたは2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールおよびCremophor ELなどの分散剤もしくは湿潤剤を含み得る。
【0172】
水性懸濁液はまた、1または2以上の保存剤、例えば、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエート;1または2以上の着色剤;1または2以上の香味剤;および、スクロース、アスパルテームまたはサッカリンなどの1または2以上の甘味剤を含み得る。
【0173】
油性懸濁液
油性懸濁液は、活性成分を、植物油、例えばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油またはココナッツ油、オメガ3脂肪酸を含む魚油中、または流動パラフィンなどの鉱物油の中に懸濁することにより、製剤化することができる。油性懸濁液は、増粘剤、例えばミツロウ、固形パラフィンまたはセチルアルコールを含んでもよい。甘味剤および香味剤を、美味な経口製剤を提供するために添加してもよい。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加により保存することができる。
【0174】
分散可能な散剤および顆粒
分散可能な散剤および顆粒は、水性懸濁液の製造のために好適である。それらは、活性成分を、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1または2以上の保存剤との混合物中に提供する。好適な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、既に先に述べたものにより例示される。追加の賦形剤、例えば、上記の甘味剤、香味剤および着色剤もまた存在してもよい。
【0175】
乳液
医薬組成物はまた、水中油型乳液の形態におけるものであってもよい。油相は、オリーブ油またはラッカセイ油などの植物油であっても、流動パラフィンなどの鉱物油であっても、これらの混合物であってもよい。好適な乳化剤として、アラビアゴム、トラガカントガム、大豆、レシチン、ポリオキシエチレンオキシドソルビタンモノラウレート(Tween 80)が挙げられる。乳液はまた、甘味剤および香味剤を含んでもよい。
【0176】
シロップおよびエリキシル剤
シロップおよびエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、アスパルテームまたはスクロースとともに製剤化してもよい。かかる製剤はまた、粘滑薬、保存剤、香味剤および着色剤を含んでもよい。
【0177】
注射剤(injectable)
医薬組成物は、無菌の注射可能な水性または油性の懸濁液の形態であってよい。この懸濁液は、上記の好適な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて公知の方法に従って製剤化することができる。無菌注射用製剤は、非毒性の非経口で受容可能な希釈剤または溶媒中の懸濁液、例えば1,3−ブタンジオール中の溶液であってよい。使用することができる受容可能なキャリアの中には、水、リンガー溶液および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌の硬化油は、溶媒または懸濁媒として従来用いられている。この目的のために、合成のモノ−またはジ−グリセリドを含む、任意の無菌の(bland)硬化油を用いることができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸が、注射剤の製剤において使用できる。
【0178】
非経口投与のために好適な組成物として、限定されないが、水性および非水性の無菌注射溶液が挙げられる。皮下投与のための適切な送達機構として、限定されないが、インプラント、デポー剤、注射(needle)、カプセル、または浸透圧ポンプが挙げられる。
【0179】
持続放出組成物
持続放出組成物を製造することができる。持続放出製剤の好適な例として、固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは、成形した物品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。持続放出マトリックスの例として、ポリエステル、ハイドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタミン酸との共重合体、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT
TM(乳酸−グリコール酸子ポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射可能ミクロスフェア)などの分解性乳酸−グリコール酸共重合体、ならびにポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸共重合体などのポリマーは、分子を100日間を超えて放出することができるが、特定のハイドロゲルは、タンパク質をより短い期間放出する。
【0180】
活性剤を、例えば、従来の技術によるまたは界面重合によるマイクロカプセル製剤、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル中に、コロイド状薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)において、またはマクロエマルジョンにおいて、封入してもよい。
【0181】
持続放出のためのマイクロカプセル化は、ヒト成長ホルモン(rhGH)、インターフェロン(rhIFN)、インターロイキン−2およびMN rgp120について、成功裏に行われてきた。これらのタンパク質の持続放出製剤は、その生体適合性および広範な生分解性特性のためにPLGAポリマーを用いて開発された。PLGA、乳酸およびグリコール酸の分解製品は、ヒトの体内において速やかに除去される。さらに、このポリマーの分解性は、その分子量および組成に依存して、数カ月から数年まで調整することができる。
【0182】
遺伝子治療
さらなる態様において、対象への投与を目的として、1または2以上の本明細書において定義されるペプチドをコードするポリヌクレオチドを、組み換え発現ベクター中に挿入する。
用語「組み換え発現ベクター」とは、1または2以上のペプチドをコードする核酸の挿入または組み込みにより操作された、当該分野において公知のプラスミド、ウイルスまたは他のビヒクルを指す。かかる発現ベクターは、宿主における挿入された遺伝子配列の効率的な転写を促進するプロモーター配列を含む。発現ベクターは、典型的には、複製の起点、プロモーター、ならびに形質転換細胞の表現型による選択を可能にする特定の遺伝子を含む。
【0183】
一態様において、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)から誘導されたものであり、十分なレベルの本明細書において定義されるペプチドの発現を誘導することができる、構成的なまたは調節可能なプロモーターを含む。好ましくは、ウイルスベクターは、WO 93/24641において記載されるものなどの、AAVの逆位末端反復配列を含む。好ましい態様において、ウイルスベクターは、pTR-UF5プラスミドのポリヌクレオチド配列を含む。pTR-UF5プラスミドは、pTR.sub.BS-UF/UF1/UF2/UFBシリーズのプラスミド(Zolotukiin et al., 1996; Klein et al., 1998)の改変バージョンである。
【0184】
目的とする発明について有用なプロモーターとして、例えば、サイトメガロウイルス即時初期プロモーター(CMV)、ヒト伸長因子1−αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1aおよびU1b)、α−ミオシン重鎖プロモーター、サルウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β−アクチンプロモーター、およびCMVエンハンサー/β−アクチンプロモーターを含むハイブリッド調節エレメントが挙げられる。これらのプロモーターは、広範な哺乳動物細胞において活性であることが示されている。
【0185】
プロモーターは、1または2以上の本明細書において定義されるペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドと作動可能に連結する。「作動可能に連結する」により、プロモーターエレメントが、コード配列に対して、コード配列の発現を生じさせることができるように位置していることが意図される。
また本発明のベクターによる使用のために企図されるのは、誘導性かつ細胞型特異的なプロモーター、例えば、Tet−誘導性プロモーター(Clontech, Palo Alto, Calif.)およびVP16-LexAプロモーター(Nettelbeck et al., 1998)である。
【0186】
所与のプロモーターからの転写のレベルを増大させるために機能することができる転写エンハンサーエレメントもまた、ベクター中に含めることができる。エンハンサーは、一般に、プロモーター配列に対して3’または5’のいずれかの向きにおいて配置される。天然のエンハンサーに加えて、合成のエンハンサーを本発明において用いてもよく、例えば、筋特異的エレメント、血清応答因子結合エレメント(SRE)、筋細胞特異的エンハンサー因子−1(MEF−1)、筋細胞特異的エンハンサー因子−2(MEF−2)、転写エンハンサー因子−1(TEF−1)およびSP−1を含む(Li et al., 1999; Deshpande et al., 1997; Stewart et al., 1996; Mitchell and Tjian, 1989; Briggs et al., 1986; Pitluk et al., 1991)、Spc5-12から誘導されたエレメントから無作為に組み立てられた合成エンハンサーを、ベクター中に用いてもよい。
【0187】
遺伝子治療方法は、患者の細胞または組織のex vivoまたはin vivoでの処置により行うことができる。ベクターを、当該分野において公知の方法を用いて、好適な細胞、細胞株または組織中に導入する。ウイルス粒子およびベクターは、細胞または組織中に、in vitroまたはin vivoで導入することができる。企図される方法として、トランスフェクション、形質導入、注入および吸入が挙げられ、例えば、ベクターを、目的のベクターを含むリポソームを用いて、ベクター単独による直接トランスフェクション、エレクトロポレーションにより、または微粒子銃(particle bombardment)により、細胞に導入することができる。
【0188】
投与
活性物質を投与単位形態において製剤化することは、投与の容易性および投与の均一性のために特に有用である。「投与単位形態」とは、本明細書において用いられる場合、処置されるべき対象のための単位投与に適した物理的に分離した単位を指す。各々の単位は、必要とされる医薬用キャリアとの関連において所望の治療効果をもたらすために計算された予め決定された量の活性剤を含む。投与単位形態についての詳細は、活性剤の特有の特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに目的の処置のための活性剤を配合のする技術における限定要因により決定され、これらに依存する。代わりに、組成物は、複数用量形態において提示してもよい。
【0189】
投与単位の例は、密封されたアンプルおよびバイアルを含み、使用の直前に無菌の液体キャリアの添加のみを必要とする凍結乾燥状態において保存することができる。
剤またはワクチンはまた、容器、パック、またはディスペンサー中に、投与のための説明書と共に含めることができる。
【0190】
投与される実際の量(または用量もしくは投与量)ならびに投与の速度および時間経過は、処置される状態の性質および重篤度に依存する。処置の処方箋、例えば、投与量、タイミング、頻度などの決定は、一般的な医師または専門家(ヒトの医師、獣医師または医科学者を含む)の責任の範囲内であり、典型的には、処置されるべき障害、対象の状態、送達の部位、投与の方法、および医師に知られる他の要因を考慮する。技術およびプロトコルの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences,、第18版(1990)(Mack Publishing, Company, Easton, PA, U.S.A.)において見出すことができる。用量、投与頻度、期間、投与の経路および維持療法の必要性は、他のペプチド免疫治療薬についての基準に基づくことができる。
【0191】
有効量は、1分間、1時間、1日、1週間または1カ月あたり、ng/体重1kg〜g/体重1kgで測定することができる。
本発明の剤またはワクチンのin vivoでの投与が用いられる場合、通常の投与量は、1日あたり、約10ng/kg〜100mg/哺乳動物の体重1kg、またはそれより多く、好ましくは約1μg/kg/day〜10mg/kg/1日で、投与の経路に依存して、変化し得る。特定の投与量および送達の経路についての指導は、文献において提供される。
【0192】
剤またはワクチンの毒性および治療効力は、標準的な薬学的手順により、細胞培養または実験動物において、IC
50および最大耐用量を決定することにより、決定することができる。これらの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータを、ヒトのために好適な範囲を処方するために用いることができる。
【0193】
診断および処置の効力
本明細書において定義されるペプチドはまた、診断剤としても有用である。
一例において、グルテン寛容を、本明細書において定義されるペプチドに暴露された、刺激された細胞、例えばTreg細胞から分泌されるIL−10および/またはTGFβを測定することによりアッセイする。Treg細胞は、大量のIL−10およびTGFβを産生する能力により特徴づけられる。IL−10は、免疫抑制に関与する主要なサイトカインの一つであると考えられ、抑制の標的は、エフェクター細胞におけるIL−2の転写制御であると考えられる。
【0194】
別の例において、グルテン寛容を、刺激された細胞、例えば、グルテン特異的CD4
+T細胞から分泌されるIFNγを測定することによりアッセイする。
診断試験は、全血またはそこから単離された、および/または分画された細胞を用いてin vitroで行ってもよい。
【0195】
一例において、細胞は、先にペプチドの1または2以上に(単独で、あるいはMHC分子もしくはその断片、またはペプチドをロードしたAPCと組み合わせて)暴露されている。別の例において、細胞は、ペプチドとの(単独での、あるいはMHC分子もしくはその断片、またはペプチドをロードしたAPCと組み合わせての)共インキュベーションにより、in vitroで刺激される。
【0196】
剤の直接的なT細胞媒介性の効果は、末梢血または組織(例えば小腸)から単離された細胞を利用する機能的アッセイにより、モニタリングすることができる。コグネイトT細胞の下流でのペプチド投与の効果は、免疫細胞の型、組織、生体液(例えば、血漿、腸分泌物、尿または糞便)を用いてアッセイすることができる。
【0197】
一般に、コグネイトT細胞により認識されたペプチドの生物学的効果は、用量レジメン、投与の様式、および、ペプチドが修飾されているかまたは免疫学的特性を有する別の化合物、例えばアジュバントと共投与されるか否かに依存して、炎症促進性であるかまたは免疫寛容誘発性であるかのいずれかである。ペプチドに基づく治療用ワクチンにおける使用のために選択されたこれらのおよび他のペプチドは、一般に、短く(<29アミノ酸)、水溶性であり、自然免疫効果を有さず、病原性T細胞の実質的な特性により認識される。T細胞媒介性疾患および他のヒト疾患の動物モデルにおける観察に基づいて、初回投与の後に、コグネイトT細胞の活性化が起こる。しかし、剤の繰り返しの投与は、T細胞のアネルギーおよび/または寛容を誘導すると予測される。進行中の定期的なペプチド投与は、グルテンに対する寛容を維持し、小腸における炎症を抑制し、炎症促進性グルテン特異的T細胞を全身的に阻害することが予測される。
【0198】
したがって、治療成功の重要なマーカーは、計画的なグルテン消化の後での、小腸における炎症の不在である。グルテン消化の後での正常なまたは炎症した腸組織を予測する可能性がある免疫の代替的マーカーは、免疫活性化、炎症または寛容に関連する可溶性または細胞結合型タンパク質または低分子を測定するための、純粋な、または粗の、免疫細胞、生体液または組織試料の混合物を利用する、広範囲のアッセイを含む。これらのアッセイは、げっ歯類、ヒトにおける免疫疾患、特にセリアック病に精通した免疫学者、免疫組織学者および医師に周知である。より具体的には、セリアック病およびグルテンにより誘導される免疫の活性を評価するマーカーは、小腸の組織学、血清IgAおよびIgG特異的グリアジン(タンパク質またはペプチド)、ならびにtTGを含む多様な宿主タンパク質が含まれる。
【0199】
セリアック病のペプチド免疫治療をモニタリングする上での使用のために、またはセリアック病の診断のために適している、セリアック病における免疫の一般的な、および特異的なマーカーとして、以下が含まれる:
(a)血液または組織から単離されたCD4
+T細胞に対するペプチドの直接的効果は、ex vivo/in vitroで、ペプチドにより刺激されたサイトカイン放出、T細胞増殖、またはin vivoで変化する場合があるCD4
+T細胞マーカーの決定により、モニタリングすることができる。
【0200】
(b)ぺプチドまたはグルテンに対して特異的な個々のCD4
+T細胞の頻度および表現型は、一般に、細胞の直接的な計数により、例えばFACS分析により、評価することができる。通常ではグルテンフリー食に従っているセリアック病を有する患者におけるグルテンの経口消化は、ペプチドおよびグルテンに対して特異的なT細胞を刺激することが一般的に知られている。グルテンチャレンジなどの臨床試験を、血液または他の組織において誘導されるT細胞を評価するために用いてもよい。次いで、単離されたT細胞の表現型を、新鮮なまま、またはin vitroでの短期増殖の後で、評価することができる。T細胞のアッセイは、MHC−ペプチド複合体、抗原により刺激された細胞内サイトカイン、または抗原により活性化されたT細胞上で誘導される他の細胞表面マーカーに依存し得る。CD4
+T細胞の機能的状態は、多様な細胞表面および細胞内マーカー、例えば、CD25およびCD69を含む活性化マーカー、または「寛容」および調節性T細胞の機能のマーカー、例えば、GITRおよびFOXP3の存在と相関する。IFNγ、IL−4、IL−5およびIL−13などのサイトカインの産生、およびIL−17の産生は、古典的なTh1、Th2またはTh17の炎症促進性免疫応答について、炎症促進性であると考えられる。対照的に、IL−10およびTGFβの分泌は、免疫寛容誘発性の免疫応答に関連する。炎症促進性免疫応答のマーカーが低下すること、および/または免疫寛容誘発性の免疫応答のマーカーが強化されることが予測される。
【0201】
(c)CD4
+T細胞に対するペプチドの効果はまた、細胞の混合物、例えば、全血、PBMC、組織から単離された単核細胞を用いて、またはペプチドと共にインキュベートされた組織を用いて、測定することができる。個々のまたは複数のタンパク質またはサイトカインおよびケモカインなどの関連する免疫もしくは疾患関連タンパク質をコードするRNAを、ペプチドとの短期のインキュベーションの後で評価してもよい。患者に対するグルテンもしくはそのペプチドの投与の前および/もしくは後でのPBMCを用いるIFNγELISpotなどのアッセイ、またはPBMCを用いるケモカインおよびサイトカインの多重アッセイは、患者からのペプチド特異的T細胞の生物学的効果を検出することができる。ペプチドの治療効果は、炎症促進性免疫応答に関連するマーカーから、免疫寛容に関連するマーカー(例えばIL−10)へのシフト、およびIFNγなどの炎症促進性マーカーの一般的な減少により示される。
【0202】
(d)組織に対するペプチドの効果は、現実的であり得る。機能的アッセイは、PPD(精製タンパク質誘導体)の皮内適用および24〜72時間後の注射部位における発赤の直径の評価を伴う結核のためのMantoux試験におけるもののように、遅延型過敏を評価するためのペプチドの皮膚への直接的適用の形態をとり得る。ペプチドはまた、同じ様式において評価するために、他の粘膜および皮膚部位に適用してもよい。診療において、ペプチドおよび穀物のいずれから誘導されたタンパク質により刺激された免疫応答も、セリアック病において重要である。例えば、選択されるペプチドを用いる免疫治療が、ペプチドに対して特異的なT細胞により刺激される免疫応答の抑制をもたらすのみならず、「寛容」が「感染性」であり、また他のグルテンから誘導されるペプチドおよびグルテン自体に対する炎症促進性免疫の抑制をももたらすことが予測される。したがって、ペプチド治療の効果はまた、セリアック病において、上記のアッセイにおけるペプチドの代わりに多様な穀物(コムギ、ライムギ、オオムギ)から誘導されるグルテンを用いて、モニタリングすることができる。実際、ネコに感受性の喘息のためのペプチド治療は、治療用ペプチドが誘導された元の全タンパク質抗原を利用する皮膚試験などによりモニタリングされている(Oldfield et al., 2002)。
【0203】
(e)最終的に、ペプチド免疫治療の臨床的効果は、グルテンに暴露された組織の組織学的試験により評価する。これは、典型的には小腸であるが、実験的設定においては口腔および直腸の粘膜もまた評価され、原理的には食道および結腸などの他の部位においても評価され得る。これらの部位からの組織は、直接的な可視化により、典型的には内視鏡生検により、採取することができる。内視鏡による直接的な可視化はまた、粘膜の外観によってセリアック病を診断するために用いられてきた。、絨毛萎縮症は、標準的な内視鏡および拡大カプセル内視鏡により評価することができる。したがって、ペプチドの寛容誘発性効果は、胃腸管における顕微鏡的な組織損傷の検出により簡便に評価することができる。
【0204】
(f)ペプチドもしくは他のグルテンペプチドに特異的な免疫グロブリン、またはセリアック病に関連する自己抗原は、疾患の活性、および、ペプチド自体の治療効果を損ない得るオプソニン化活性に関する、グルテン免疫のマーカーを提供する。
【0205】
(g)ペプチドもしくはグルテンに特異的なIgE、または末梢血好塩基球によるヒスタミン放出などの、アナフィラキシーに関連するマーカーの存在はまた、ペプチド免疫治療の合併症および治療を調整または停止する必要性を予測するために用いることができる。
【0206】
食品試験
本発明はまた、組成物または食品がセリアック病を引き起こすことができるか否かを決定する方法を提供し、該方法は、組成物または食品試料中の本発明の剤、本発明のペプチドおよび/または本発明のポリヌクレオチドの存在を検出することを含む。典型的には、これは、結合アッセイを用いることにより行うことができ、ここで、1または2以上の本明細書において定義されるペプチドに特異的な様式において結合する1または2以上の化合物を、組成物と接触させ、ペプチド/化合物複合体の形成を検出して、ペプチドの存在を確認するために用いる。一例において、化合物は抗体である。任意の好適なフォーマットの結合アッセイを用いることができる。典型的には、アッセイは、非競合的なサンドウィッチ型ELISAにおいて、グルテンペプチドに対するモノクローナル抗体を利用する。食品試料は、まず抽出し、随意に希釈し、次いでアッセイにおいて試験する。
【0207】
組成物または食品は、典型的には、グルテンを発現する植物からの材料を含む。かかる材料は、収穫された産物(例えば種)などの植物の部分であってよい。材料は、小麦粉またはグルテンを含む食品などの植物材料の加工製品であってもよい。好適な結合アッセイにおける食品材料の加工および試験は、慣用的である(例えば、Kricka, 1998を参照)。組成物または食品材料を、化合物と接触させる前に、tTGで処置してもよい。
【0208】
一態様において、組成物または食品材料を、脱アミド化または非脱アミド化形態における、本明細書において定義されるペプチドに特異的である、少なくとも2、3、5、10またはそれより多くの抗体と接触させる。好ましくは、抗体は、プロテアーゼ耐性である配列に対するものであり、コムギにおけるα、β、γおよびωグリアジンならびにLMWおよびHMWグルテニン、オオムギにおけるB、CおよびDホルデイン、ライムギにおけるβ、γおよびωセカリン、ならびに随意にカラスムギにおけるアベニンの検出を可能にする。
本明細書において定義されるペプチド/エピトープに対する抗体は、食品中のグルテンの検出および/または定量のためのアッセイにおける使用のためのキットの形態において提供してもよい。
【0209】
プロテアーゼ同定
本発明はまた、本明細書において定義されるペプチドを切断することができるプロテアーゼを同定する方法を提供し、該方法は、ペプチドを、プロテアーゼと、該ペプチドの特異的切断をもたらしタンパク質分解生成物を生成するための条件下において接触させること、および該タンパク質分解生成物を検出することを含む。一例において、タンパク質分解生成物は、例えば、SDS−PAGE、HPLC、ELIZAまたはウェスタンブロットを用いて検出する。さらなる例において、ペプチドを、蛍光ドナーと消光アクセプターとの間の分子内共鳴エネルギー転移を可能にするために、蛍光ドナーおよび消光アクセプターに融合させる。切断の際に、ドナーとアクセプターとは分離し、ドナーの蛍光放出の検出を可能にする。典型的には、ペプチドは、蛍光ドナーと消光アクセプターとを、約100オングストローム未満の距離で分離する。蛍光ドナーは、ペプチドのC末端に結合することができ、消光アクセプターは、ペプチドのN末端に結合することができ、逆もまた然りである。
【0210】
例
例1:免疫優性ペプチドの決定
対象
志願者は、年齢18〜70歳の成人であり、厳密にグルテンフリー食に従っている。全ての志願者がHLA DQAB1
*05およびHLA DQB1
*02の両方をコードする遺伝子を保有することを、末梢血DNAの配列特異的プライマー混合物を用いたPCRにより決定した(Bunce et al., 1995; Olerup et al., 1993; Mullighan et al., 1997)。セリアック病を有する志願者を、ESPGAN基準に基づいて診断した(Report of Working Group of European Society of Paediatric Gastroenterology and Nutrition, 1990)。グルテンチャレンジを経験しているセリアック病を有する対象は、少なくとも1カ月の間グルテンフリー食を摂取し、順守することを要求された(陽性tTG−IgAまたはEMAは例外であった)。健康なHLA DQ2(筋内膜IgA陰性)は、グルテンチャレンジを開始する前に4週間、厳密にグルテンフリー食に従った。
【0211】
3日間のグルテンチャレンジ
コムギチャレンジ:朝食および昼食に、Sainsburyの「standard white sandwich bread」(UK−パイロット(Pilot)ライブラリーを評価するため)またはBaker's Delightの「white bread block loaf」のいずれかの50gの2切れ。
【0212】
オオムギチャレンジ:粒状のオオムギ(Ward McKenzie, Altona, Australia)をリゾットとして調理したもの(1日あたり乾燥重量150g)。リゾットの分量は、朝食、昼食および夕食用に当量の分量に分けた。
【0213】
ライムギチャレンジ:1日あたり乾燥重量100gのライムギ粉の、マフィンの形態における、朝食時に開始して毎日消費。原料のライムギ粉は、Long Ashton Research Station(英国)において「隔離」して育て、その後手作業で製粉したライムギから、または、Biodynamicのライムギ粉(Eden Valley Biodynamic Farm, Dumbleyung, Australia)からのものであった。
【0214】
コムギ、オオムギおよびライムギチャレンジの組み合わせ:25gの小麦粉(White Wings, Goodman Fielder, Australia)、22gのオオムギ粉(Four Leaf Milling, Tarlee, South Australia)および22gのライムギ粉(Four Leaf Milling, Tarlee, South Australia)からなる2のマフィンを毎日食した。
【0215】
抗原
合成ペプチド(純度>70%)を、Research Genetics(USA)、Mimotopes(Australia)またはPepscan(Netherlands)から購入した。モルモット肝臓tTG(Sigma T5398)による脱アミド化は、先に記載された通りであった(Anderson et al., 2000)。ペプチド(2mg/ml)またはグリアジン(Sigma G3375)を、4時間、37℃で、10倍過剰量において、炭酸水素アンモニウム(pH8)中のキモトリプシン(Sigma C3142)またはトリプシン(Sigma T1426)と共に、または5%酢酸(pH2.5)中のペプシン(Sigma P6887)と共に、インキュベートし、次いで、NaOHでpH7に中和し、最後に、15分間煮沸した。プロラミンタンパク質濃度を、BCA法(Pierce, USA)により決定した。ホルデインおよびセカリンの画分を、他の穀物から隔離されて育てたライムギおよび大麦の手作業で製粉した粉を用いて調製し、公開された方法(Tatham, A.S., Gilbert, S.M., Fido R.J., and Shewry, R. Extraction, separation, and purification of what gluten proteins and related proteins of barley, rye, and oats. In: Marsh M, ed., Celiac disease methods and protocols. Totowa: Humana (2000) pp55-73)に従って分画した。
【0216】
ペプチドライブラリー
コムギ、オオムギおよびライムギグルテンペプチドのライブラリーを、アラインメントおよび系統学(「パイロット」ライブラリー、配列表、表3および4を参照)により、または、NCBI Genbankにおいて2006年に、グリアジン、グルテニン、ホルデインおよびセカリンについて、それらのゲノムコード(野生型)配列(「包括的(Comprehensive)」ライブラリー)、もしくは野生型およびin silicoでのtTG脱アミド化配列(「検証(Verification)」ライブラリー)の両方において、エントリーに適用された、カスタム化されたアルゴリズムを用いて、規定の脱アミド化モチーフ(Beissbarth, et al., 2005)に従って、設計した。
【0219】
ELISpotアッセイ
96ウェルプレート(MSIP−S45−10; Millipore, Bedford, MA)を用いるIFNγELISpotアッセイ(Mabtech, Sweden)を、グルテンチャレンジを開始した6日後における0800時と正午との間に採取された末梢血からの末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、先に記載したとおり行った。簡単に述べると、ELISpotプレートを、PBSで希釈した1:100の濃度(50μl/ウェル)の無菌のキャプチャー抗サイトカイン抗体でコーティングし、ホイルで包んで一晩4℃に置いた。使用の前に、各プレートを3回無菌PBSで洗浄し、2時間37℃での10%のFCS(50μl/ウェル)を含むRPMIの添加により非特異的結合をブロッキングした。5×の濃度での抗原を各ウェルに添加し(25μl)、その後、完全培地(100μl)中に懸濁した新たに単離したPBMCを添加し、一晩(16〜20時間)37℃で5%のCO
2インキュベーター中でインキュベートした。細胞および培養培地を、次いで廃棄し、プレートを、冷たい蒸留水で1回、次いで0.05%のTween-20(Sigma P2287, St Louis, USA)を含むPBSで3回、およびPBSで3回洗浄した(各洗浄は200μl/ウェル)。0.5%のFCS(50μl/ウェル)を含むPBS中で希釈されたビオチン化抗サイトカインmAb(1:1000)を、2時間室温でインキュベートした。ウェルを、PBSで6回洗浄し(200μl/ウェル)、ストレプトアビジン−ALP(1:1000)を添加し(50μl/ウェル)、1時間室温でインキュベートした。洗浄の後でBCIP−NBT発色剤基質を添加し(50μl/ウェル)、スポットを発色させた。スポットが初めに可視化したとき、冷水下における洗浄により、発色を停止させた。個々のウェルにおけるスポット形成単位(SFU)の数を、コンピューター支援ビデオ画像分析(AID ELISpot Reader System, AID Autoimmun Diagnostika GmbH, Strassberg, Germany)により計数した。結核菌精製タンパク質誘導体(PPD RT49)(5μg/ml)および/または破傷風トキソイド(CSL)(10の光形成単位/ml)を、陽性対照の抗原とした。
【0220】
T細胞クローンの単離
PBMCを、ヘパリン処置した全血から、Leucosepチューブ中でFicoll-Paque Plusを用いて単離した。固有層単核細胞(LPMC)を、小腸生検から、まず試料をPBS中1mMのDTTで処置し、その後、37℃での30分間の2.4U/mLのディスパーゼII中での2回のインキュベーションにより、単離した。次いで生検を刻み、37℃で1時間、2U/mLのリベラーゼブレンザイム(Liberease Blendzyme)3およびRPMI中でインキュベートした。PBMCおよびLPMCを、PBS中で3回洗浄した。典型的には、0.5〜1×10
6のLPMCを回収し、2000ラドで照射した1.5〜3×10
6の自己PBMCと混合した。
【0221】
PBMCおよびLPMCを、先に記載される通り(Mannering et al., 2003; Mannering et al., 2005)、0.1μMのCFSEで染色し、96ウェルプレート中に、2×10
5細胞/ウェルでプレートした。ペプチドおよびタンパク質抗原をそれぞれ32μg/mLおよび100μg/mLで用いた。7〜10日後に、CD4
+の増殖をフローサイトメトリー(FACSAria, BD)により測定した。CD4
+CFSE
dimPI−細胞を、培地中に2×10
5のPBMC(2000ラドで照射したもの)、2×10
4のJY−EBV(5000ラドで照射したもの)、20U/mLの組み換えヒトIL−2、5ng/mLの組み換えヒトIL−4および30ng/mLの抗CD3(OKT3)を含む、96ウェルプレートの単一のウェル中に選別した。細胞に、7日間ごとに2週間、IL−2の最終濃度が20U/mL、IL−4が5ng/mLとなるように、サイトカインを含む培地を与えた。第25日において、増殖するクローンを同定して、20U/mLのIL−2および5ng/mLのIL−4を含む48ウェルプレート中で増殖させた。
3H−チミジン増殖アッセイまたはIFNγELISpotにより、抗原特異性を決定した。15mlの培地中に30ng/mLのOKT3と5×10
7のPBMC(2000ラドを照射したもの)および5×10
6のJY−EBV(5000ラドを照射したもの)とを含む培養フラスコ中で、特異的クローンのラージスケール増殖を行った。24時間後に、IL−2を50U/mLの最終濃度まで添加した。第3日において、増殖物を洗浄し、50U/mLのIL−2を含有する25mlの培地中に再懸濁した。第7日において、細胞を半分に分けて、50U/mLの最終濃度でIL−2を含む12.5mlの培地で満たした。増殖させた細胞を、第10日において、
3H−チミジン増殖アッセイまたはIFNγELISpotにより、抗原特異性について試験した。
【0222】
T細胞クローンの特徴づけ
増殖させた抗原特異的クローンを、IOTest Beta Mark(Beckman Coulter)を用いてクロナリティーについて試験した。陰性クローンがクローンされたことをTCR Vβ鎖のPCRにより確認した。HLAによる限定を、抗HLA−DR(10μg/ml、クローンL243)およびHLA−DQ(10μg/ml、クローンSPVL3)抗体により決定した。コグネイト抗原に対するクローンによるIFNγ、IL−4、IL−5、IL−10、IL−13およびIL−17の分泌を、HLA DQ2
+HLA DQ8−ドナーからの照射APC(2000ラド)を利用するELISpotアッセイにおいて決定した。配列番号228、229および230(それぞれNPL001、NPL002およびNPL003)のリジンスキャニングを、これらのペプチドに特異的なクローンを使用するELISpotまたは増殖アッセイにおいて行った。
【0223】
データ分析
ELISpot応答は、SFUが、培地のみよりも4倍大きく、かつ10SFU/ウェルよりも大きい場合に、有意であるとみなした。増殖アッセイは、刺激インデックス(SI)が3よりも大きい場合に有意であるとみなした。SFUまたはSIを、試験された最も反応性が高いペプチド、ペプチドプールまたはカクテルのパーセンテージとして表わすことにより、データセットを、ドナー間またはクローン間の可変性について正規化した。反応性ペプチドおよびペプチドプールに、少なくとも1つのペプチドまたはプールに応答するドナーの応答を正規化したものの平均値と等価の、0〜100の「スコア」を割り当てた。
【0224】
例2:in vivoグルテンチャレンジにより誘導された新鮮なポリクローナルT細胞を用いた主要な優性ペプチドの決定
先の研究において、グルテン特異的T細胞が、HLA DQ2
+セリアック病ドナーが経口でのグルテンチャレンジを開始した6日後の血液中でピークに達することが示されている。第6日において、セリアック病ドナーからのPBMCの、DQ2−α−I(配列番号3)およびDQ2−α−II(配列番号4)エピトープを含むtTG処置グリアジン(500μg/ml)およびα−グリアジンp57−73 QE65(配列番号8)の至適濃度に対するIFNγELISpot応答は、有意に相関していた(r=0.80、p<0.0001)。17merに対するIFNγELISpot応答の中央値は、tTG処置グリアジン(500μg/ml)に対するものの51%であった(n=17、範囲:0〜155%)。しかし、α−グリアジンp57−73 QE65(配列番号8)は、必ずしも常に免疫優性ではなかった。IFNγELISpot応答は、3/17のドナーにおけるtTG処置グリアジンに対するもの(Anderson et al., 2005)の5%未満と等価であった。
【0225】
これらの観察に基づくと、α−グリアジンp57−73 QE65(配列番号8)に付加的なグルテンペプチドならびにエピトープ配列番号4および/または5を含むペプチドはまた、in vivoグルテンチャレンジにより誘導されたT細胞の実質的集団を刺激する筈である。本発明者らは、α−グリアジンp57−73 QE65(配列番号8)ならびに配列番号4および/または5のエピトープを含むペプチドを用いるペプチドに基づく免疫治療が、疾患に関連するグルテン特異的T細胞集団の十分な大部分を、単独で一貫して標的とする確信がなかった。本発明者らは、α−グリアジンp57−73 QE65(配列番号8)ならびに配列番号4および/または5を含むペプチドのいずれも部分アゴニストであること、ならびに、配列番号8、4および/または5に関する配列が実質的により多くのT細胞を刺激するか、または免疫優性エピトープを含む追加のペプチドが、コムギ、オオムギまたはライムギにより発現されるグルテンタンパク質の中に存在することを仮説立てた。
【0226】
相同性の検索
α−グリアジンp57−73 QE65(配列番号8)のコアとなる5つのアミノ酸であるP
ELPY(配列番号22)に対する全ての置換は、グルテンチャレンジにより誘導される末梢血T細胞によるその認識を無効にする。
【0227】
SwissProtおよびTremblデータベースを、配列P
ELPY(配列番号22)および相当する野生型配列PQLPY(配列番号23)を有する17merをコードする穀類遺伝子について検索した。13のコムギα−グリアジン17merはPQLPYを有し、1つは8〜12位にPQLSYを有するもの(配列番号24)を見出したが、配列PELPYを有するものはなかった。
図1に関して、ELISpot応答は、T細胞エピトープDQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)およびDQ2−α−III(配列番号5)を有する多様な17merのから示され、これは、α−グリアジンファミリーのタンパク質のうちの多型性が高い領域に由来する。8人のセリアック病ドナー(コムギグルテンチャレンジを開始した6日後)からのPBMCの、核配列配列PQLPY(配列番号23)またはPQLSY(配列番号24)を各々が含む14の天然に存在するα−グリアジン17merに対する、正規化したIFNγELISpot応答を
図1に示す。17merを、tTGによる前処理をして、もしくはしないで、または9位のグルタミン(Q9)をグルタミン酸(E9)と置換して評価した。データを、α−グリアジンp57−73 QE65(25μg/ml)に対するものに対して正規化した、ドナーのELISpot応答の平均値±SEMとして表わす。
【0228】
α−グリアジンp57−73 QE65(配列番号8)と、C末端においてセリンがプロリンまたはロイシンで置換されていることによってのみ異なる2つの17merは、tTGにより前処理された場合に、または9位におけるグルタミンをグルタミン酸に置換した場合に、配列番号8と同程度に活性であった。DQ2−α−II(配列番号4)と、DQ2−α−I(配列番号3)またはDQ2−α−III(配列番号5)のいずれかとの両方を含む17merは、最大数のT細胞を刺激した。これらの知見は、腸のT細胞クローンのパネルが11のうち5つの構造的に区別し得る組み換えα−グリアジンを認識したが、DQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)またはDQ2−α−III(配列番号5)を含むもののみであったというArentz-Hansenら(2000年)により報告されたものと一致した。幾つかの他のα−グリアジンp57−73の脱アミド化された多型は、弱い活性であり、Arentz-Hansenら(2000年)により研究されたものの中に存在しなかったPQPQPFLP
QLPYPQPQS(配列番号25;W09)は、tTGにより前処理されたかまたは9位にグルタミン酸を有する場合(PQPQPFLP
ELPYPQPQS(配列番号26))に、DQ2−α−II(配列番号4)およびDQ2−α−III(配列番号5)を含む17merとほぼ同程度に活性であった。先のα−グリアジンp57−73 QE65の置換スキャニングに基づいて、本発明者らは、コア配列PQ[ILMP][PST](配列番号27)を有するホモログについて、より許容的な検索を行った(Anderson et al., 2006)。
【0229】
12のグリアジン、グルテニン、ホルデインおよびセカリン配列を合成したが、一つのみ(ω−グリアジンペプチド、AAG17702(141−157))が、培地単独よりも活性であった。このω−グリアジンペプチド、PQQPFPQP
QLPFPQQSE(配列番号28;AAD17702(141−157))は、tTGにより前処理された場合または9位にグルタミン酸を有する場合(PQQPFPQP
ELPFPQQSE(配列番号29))に、α−グリアジンp57−73 QE65の32±6%活性であった(25μg/ml;平均値±SEM、n=5ドナー)。
【0230】
腸クローンおよびin vivoグルテン誘導末梢血ポリクローナルT細胞のためのエピトープ
次に本発明者らは、腸T細胞クローンについて報告されたエピトープを含む脱アミド化された15merを評価した:GLIA−20 PFRP
QQPYPQ(配列番号30)をその脱アミド化形態PFRP
EQPYPQ(配列番号31)において、DQ2−γ−I PQQSFP
QQ
Q(配列番号32)をその脱アミド化形態PQQSFP
EQ
E(配列番号33)において、DQ2−γ−II IQP
QQPAQL(配列番号34)をその脱アミド化形態IQP
EQPAQL(配列番号35)において、DQ2−γ−III
QQP
QQPYP
Q(配列番号36)をその脱アミド化形態
EQP
EQPYP
E(配列番号37)において、DQ2−γ−IV SQP
QQ
QFPQ(配列番号38)をその脱アミド化形態SQP
EQ
EFPQ(配列番号39)において、Glu 5 QIP
QQPQQF(配列番号40)をその脱アミド化形態QIP
EQPQQF(配列番号41)において、およびGlt−156 PFS
QQQ
QSPF(配列番号42)をその脱アミド化形態PFS
EQQ
ESPF(配列番号43)において、ならびにまた、DQ2−γ−V LQPQQPFPQQPQQPYPQQPQ(配列番号44)、およびα−グリアジンp31−49 LGQQQPFPPQQPYPQPQPF(配列番号45)(0.1〜100μg/mlの範囲にわたって)。8/9のHLA DQ2セリアック病ドナーにおいて、脱アミド化グリアジンに対するIFNγELISpot応答を検出した(中央値23、範囲13〜153SFU/10×10
6PBMC)。
図2は、DQ2−α−I(配列番号3)およびDQ2−α−II(配列番号4)を含む(5μM)、17位にロイシンを有する脱アミド化α−グリアジンp57−73 QE65の変異体、QLQPFPQPELPYPQPQL(配列番号46)、ならびに、DQ2−α−I(配列番号3)およびDQ2−α−II(配列番号4)およびDQ2−α−III(配列番号5)の重複するタンデムリピートを含む33merのLQLQPFPQPELPYPQPELPYPQPELPYPQPQPF(配列番号2;脱アミド化α2−グリアジン56−88)(5μM)に対して応答した7人のドナーを示す。至適濃度(50μM)において、17merと33merとにより刺激されたIFNγELISpot応答の間の差異は、有意ではなかった。1人のドナーは、脱アミド化DQ2−γ−IV(配列番号39)を含む15merに対して応答したが、他の9のエピトープのいずれも、コムギグルテンチャレンジの6日後に採取されたPBMCにより認識されなかった。
【0231】
本発明者らは、HLA DQ2
+セリアック病を有する殆どの個体において、DQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)または関連するDQ2−α−III(配列番号5)のエピトープを含むペプチドは、グルテンのin vivoでのT細胞刺激活性に実質的に寄与するが、他の多くの公開されたグルテンエピトープは、in vivoでのグルテン暴露の後で血中で誘導されるCD4
+T細胞により認識されるペプチドに殆ど一貫して寄与しないことを結論付けた。逆に、グルテンタンパク質の少数のみしか、機能的アッセイにおいて体系的に評価されていないために、強力なT細胞刺激活性を有するかもしれない他の配列が見逃されてきた可能性がある。コムギ、ライムギおよびオオムギからのグルテンにおけるT細胞エピトープの候補を、セリアック病と関連するグルテン特異的T細胞応答へのそれらの寄与について包括的に評価するための、新たなアプローチが必要であった。
【0232】
包括的Triticum aestivumグリアジンペプチドライブラリー
2001年において、T. aestivumのα−、γ−およびω−グリアジンタンパク質について、Genbankに111のエントリーがあった。各ポリペプチドに跨って10〜12アミノ酸が重複する15〜20merのペプチドによるCD4
+T細胞エピトープマッピングへの古典的アプローチにより、合成およびスクリーニングのためには非実用的に大きなライブラリーが作製されている。しかし、ClustalWによる系統学的分析およびグリアジン配列のアラインメントは、グリアジンの各系統学的サブファミリー間の実質的な配列類似性を示す(Anderson, 1991)。ポリペプチドのアラインメントおよび体系的であるがコンピューター支援ではない設計は、12アミノ酸が重複する652のメンバーの20merのライブラリーが、111のグリアジンのエントリー(したがってGenbankに存在するもの)の中のユニークな12merを包含するのに十分であることを示した(表3を参照)。tTGにより前処理された、またはされていない8つまでのペプチドの83のプールに分けられたこのライブラリーは、グルテンチャレンジ(各プールについて1ウェル)の前および6日後に、一晩のIFNγELISpotアッセイにおける100mlの血液からのPBMCを用いてスクリーニングするために実用的であった。次いで、第7日における100mlの血液のさらなる採取物を、発見の検証および陽性プール中の個々のペプチドを評価するために用いた。
【0233】
グリアジンペプチドプールへのT細胞応答の疾患特異性
初期研究において、パイロットグリアジンライブラリーを、長期間グルテンフリー食(GFD)を摂取するHLA−DQ2
+DQ8
−のセリアック病ドナー(n=9)、およびセリアック病を有する志願者において、末梢血T細胞を誘導可能なグルテンチャレンジには十分に長い4週間GFDを摂取した、健康なHLA−DQ2
+DQ8
−の志願者(n=9)からの血液中のIFNγ分泌性T細胞の頻度を測定するために、一晩のELISpotアッセイを用いて評価した(Anderson et al., 2005)。健康なドナーの中で、83のプールのうちの3つに対する応答の増大が、グルテンチャレンジの後で、統計学的有意に達した(p<0.05、Wilcoxonの対応のある順位和検定)が、一貫しておらず、弱く、そして脱アミド化により影響を受けなかった(
図3を参照)。
【0234】
9人のセリアック病の対象のうち、グルテンチャレンジを開始した6日後に、10SFU/ウェルを超え培地のみにより惹起されるもの(「バックグラウンド」)よりも4倍より大きな応答を刺激した少なくとも1つのペプチドプールを有する、7人の「レスポンダー(responder)」が存在した。9人のセリアック病ドナーにおける第6日におけるSFUを第0日と比較すると、グルテンチャレンジの後で健康なドナーによっても弱く認識された1つのプール(プール20)を含む、34のプールに特異的なT細胞の優位な誘導(p<0.05、片側Wilcoxon対応のある順位和検定)が存在した。セリアック病ドナーの間で、tTG前処置は、キモトリプシンで前処置されたグリアジン、およびまた試験したペプチドプールのうちの11を認識する末梢血T細胞の頻度を増大させた(p<0.05、片側Wilcoxon対応のある順位和検定)。
【0235】
全グリアジン特異的T細胞集団に対するプール(または後の実験においてはペプチド)の一貫性および相対的寄与に基づいた階層を定義するために、0〜100の「スコア」を、第6日または第7日における「バックグラウンド」より高い「レスポンダー」のIFNγELISpot(SFU/ウェル)応答の平均に基づいて計算し、任意のプール(またはライブラリーペプチド)に対するそれらの最大応答のパーセンテージとして表わした。
【0236】
全83のtTG処置プールから、18(22%)が、第6日において10を超える「スコア」を有し、全てが、第0日と第6日との間で応答の有意な誘導と関連していた。一方、5/9および7/12のプールは、第6日においてそれぞれ5〜10または1〜5のスコアであり、第0日と第6日との間で応答の有意な誘導と関連していた。他の6つのプールは、応答の有意な誘導と関連したが、1未満のスコアを有した。その後のペプチドライブラリーの分析の間、プールまたはペプチドについての5以上の「スコア」を、T細胞応答について「陽性」とみなし、さらなるマッピングの理由とするための任意のカットオフ値として設定した。
【0237】
また、プールの殆ど4分の1が陽性であり、逆重畳積分が必要であったことから、グリアジンペプチドのプールを利用することが、相対的に不十分であることもこの初期実験から明らかであった。その後の実験において、プールではなく個々のペプチドを評価した。単一の300mlの血液採取物からのPBMCを用いて可能な限り多くのペプチドをスクリーニングすることを可能とするために、(tTG処置はELISpot応答の低下と関連したことがないので)全てのペプチドをtTG処置し、ライブラリーを第6日と第0日のみにおいてスクリーニングした。
【0238】
4/7の「レスポンダー」において、DQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)および/またはDQ2−α−III(配列番号5)のエピトープを含む20merを有するα−グリアジンのプール10または12が最も活性が高く、他の3人のレスポンダーにおいて、ω−グリアジンプール81が最も活性が高かった。全体的には、α−グリアジンプール12は、最も高いスコア(78)を有し、次点はω−グリアジンプール81(72)であった。プール7〜13、42〜53、68および78〜82からの個々のtTG処置されたペプチドを、5/7のレスポンダーから第7日において採取されたPBMCを用いて評価した(
図4を参照)。
【0239】
全てのケースにおいて、各プールからの幾つかのペプチドが反応性であった。DQ2−α−II(配列番号4)およびDQ2−α−I(配列番号3)および/またはDQ2−α−III(配列番号5)のエピトープを含むペプチドは、グリアジンの20merのライブラリー中で最も活性が高い5つであることが確認されたが、プール80および81からの4つのω−グリアジン20merは、最も活性が高いα−グリアジン20merの53〜65%の活性であった。ω−グリアジン20merの4つ全ては、DQ2−α−I(配列番号3)および/またはDQ2−α−II(配列番号4)に相同な配列を含んだ。すなわち、QPFPQPQQPFPW(配列番号47;W03;B01)、PFPQPQQPIPV(配列番号48;W04)、QPFPQPQLPFPQ(配列番号49;W06)、これは配列番号28において含まれ、3つは、脱アミド化されて
EQP
EQPFPQ(配列番号51)となった場合に、DQ2−γ−VIIエピトープ
QQP
QQPFPQ(配列番号50)特異的な腸T細胞クローンにより認識されることが報告される配列を含む。
【0240】
図5は、脱アミド化PQQPQQPQQPFPQPQQPFPWQP(配列番号52)(先にWO 2005/105129において記載される通り)の免疫原性領域を詳細にマッピングするための、コムギチャレンジ後のセリアック病ドナーからのPBMCのIFNγELISpot応答を示す。配列番号52にわたる組織トランスグルタミナーゼ処置された15merは、各ドナーについて最も活性が高い15merのパーセンテージとして表わされる(平均値+SEM、n=8)(A)。配列番号52のT細胞刺激活性は、殆ど完全に、DQ2−α−I(配列番号3)およびDQ2−α−II(配列番号4)のホモログを含む脱アミド化された配列、QPFPQPQQPFPW(配列番号47)に起因する。
図5Bは、コムギチャレンジ後のセリアック病ドナーからのPBMCのIFNγELISpot応答をQ3 E10変異体に対する個々のドナーの最大の応答に対して正規化して示す(平均値+SEM、n=6)。QPQQPFPQP
QQPFPWQP(配列番号53)中のQ10のQPQQPFPQP
EQPFPWQP(配列番号54)への脱アミド化は、最適な免疫原性を運搬するために十分であり、二重に脱アミド化された配列、QP
EQPFPQP
EQPFPWQP(配列番号55;W03−E7)は、同等の生理活性を有する。
図5Cは、コムギ(n=7)、オオムギ(n=9)、またはライムギチャレンジ(n=10)後のセリアック病ドナーからのPBMCのIFNγELISpot応答を、個々のドナーについて最も活性が高いリジン置換15merに対して正規化して示す(平均値+SEM)。NPL002の中心のPQPEQPF配列(配列番号272)のリジン置換:pyroEQPFPQPEQPFPWQP−アミド(配列番号229)(32μg/ml)は、このペプチドの生理活性を無効にした。HLA DQA1
*05 DQB1
*02ホモ接合体およびヘテロ接合体からのPBMCの抗HLA−DQとのプレインキュベーションは、このペプチドに対する一晩のIFNγELISpot応答を無効にしたが、抗HLA−DRはそうではなかった(データ非表示)。
【0241】
初期実験において観察されたペプチドの階層を、13人のさらなるHLA−DQ2
+8
−ドナーからのコムギチャレンジの6日後のPBMCを用いて、パイロットグリアジンライブラリー中の全ての652の個々の20merを別々に評価することにより検証した(
図4を参照)。やはり、DQ2−α−II(配列番号4)およびDQ2−α−I(配列番号3)および/またはDQ2−α−III(配列番号5)を含む20merの間の活性に明確な差異は存在せず、このことは、新鮮なポリクローナルT細胞は、DQ2−α−I(配列番号3)についてはほとんど特異的ではないが、DQ2−α−III(配列番号5)についてはそうでないこと、または逆も然りであることを示唆している。
【0242】
6人のHLA−DQ2
+8
+セリアック病ドナーからの、コムギチャレンジを開始した後の第6日にちにおけるPBMCを、パイロットグリアジンライブラリー中の652の個々の20merの各々に対してスクリーニングした(
図4を参照)。HLA−DQ2
+8
−セリアック病ドナーにおいて最も活性が高かったα−グリアジンペプチドはまた、グルテンチャレンジの後の4人のHLA−DQ2
+8
+セリアック病ドナーにおいても最も活性が高かった。
【0243】
6人のHLA−DQ2
+8
+セリアック病ドナーからの、3日間の純粋なライムギによるチャレンジを開始した後の第6日におけるPBMCを、パイロットグリアジンライブラリー中の652の個々の20merの各々に対してスクリーニングした(
図4を参照)。T細胞刺激性グリアジン20merの階層は、コムギによるチャレンジのあとで観察されたものと、厳密には異なる。一晩のIFNγELISpotアッセイにより測定された、ライムギチャレンジの後での血中のT細胞は、DQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)、またはDQ2−α−III(配列番号5)のエピトープを含む20merをほとんど認識しない。代わりに、QPFPQPQQPFPW(配列番号47)およびQPFPQPQQPIPV(配列番号48)を含むω−グリアジン20merは、免疫優性である。
【0244】
この観察は、脱アミド化されたコムギグルテンまたはグリアジンに対してin vitroで産生されたT細胞クローンは、Vaderら(2003年)により報告されるように、その免疫優性グリアジンペプチドの認識においてしばしば無差別であり得るが、in vivoグルテンチャレンジにより誘導された新鮮なポリクローナルT細胞は、密接に関連した配列間の区別を行うことを示唆した。したがって、Vaderら(2003年)による、オオムギおよびライムギからのホルデインおよびセカリンのT細胞刺激活性が、配列PFPQPQQPF(配列番号9)およびPQPQQPFPQ(配列番号11)の脱アミド化変異体がDQ2−α−I(配列番号3)およびDQ2−α−II(配列番号4)のホモログである実質的な原因であったという結論は、ライムギによるチャレンジの後のセリアック病ドナーからの新鮮なPBMCを用いては確認されなかった。さらに、ライムギチャレンジによりin vivoで誘導された、優性な配列QPFPQPQQPFPW(配列番号47)およびPFPQPQQPIPV(配列番号48)に対して特異的なT細胞の実質的な割合は、DQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)、またはDQ2−α−III(配列番号5)のエピトープを認識しなかった。
【0245】
さらに、免疫優性α−およびω−グリアジンペプチドに対して特異的なT細胞と比較した場合、グリアジン特異的T細胞クローンについて報告されている多数のエピトープに対して特異的なT細胞は、コムギチャレンジの第6日における血液中に存在する全体的なグリアジン特異的T細胞集団に殆どまたは全く寄与しない(
図2を参照)。したがって、本発明者らは、腸T細胞の株およびクローンについてin vitroで先に報告された免疫優性およびグルテンエピトープの関連性は、in vivoグルテンチャレンジの後のセリアック病ドナーから新たに単離された血液中のポリクローナルT細胞の一晩のアッセイにより測定されたものと頻繁に異なることを結論付けた。
【0246】
次いで、本発明者らは、HLA−DQ2
+8
−セリアック病ドナーにおける、製パン用小麦(T. aestivum)、オオムギおよびライムギからの全てのグルテンタンパク質に対するT細胞刺激性ペプチドの階層を確認して拡大することに努めた。NCBI Genbankにおいて増えてゆく数のグルテンタンパク質を扱うために、およびLMWグルテニン、HMWグルテニン、ホルデインおよびセカリンについてのペプチドライブラリーを設計するために、本発明者らは、例えば20merのより長いペプチド中では、例えば12merの、全てのユニークな配列を収容するための最小のサイズのカスタムライブラリーを設計するための新規のアルゴリズムを開発した(Beissbarth, T., et al., 2005)。20merのライブラリーは、コムギグルテンを2つの300mlの血液試料からのPBMCと共に、ならびにホルデインおよびセカリンを各々単一の300mlの血液採取物と共に、評価することを可能にする。全てのユニークな12merを含むGenbankの、2003年6月において存在する、T. aestivumのグリアジン(108エントリー、4465のユニークな12merの候補エピトープを含む、721の20mer)、LMWグルテニン(77エントリー、645の20mer、3945の12merの候補)およびHMWグルテニン(55エントリー、786の20mer、4799の12merの候補)、H. vulgareのホルデイン(59エントリー、416の20mer、2672の12merの候補)、ならびにS. cerealeのセカリン(14エントリー、155の20mer、957の12merの候補)についての、ポリペプチドエントリーにおける全てのユニークな12merを含む、包括的な20merのライブラリーを、スクリーニンググレードのPepsetsとして設計および合成した(表3を参照)。
【0247】
3日間のコムギチャレンジを開始した後第6日において採取したHLA−DQ2
+8
−セリアック病ドナーからのPBMCを、tTG処置グリアジンライブラリーならびにLMWグルテニンライブラリーの半分(n=20)およびLMWグルテニンライブラリーおよびHMWグルテニンライブラリーの後半(n=26)をスクリーニングするために用いた。オオムギチャレンジを開始した6日後における21人のセリアック病ドナーからのPBMCを、ホルデインライブラリーをスクリーニングするために用い、ライムギチャレンジを開始した6日後における19人のさらなるドナーからのPBMCを、セカリンライブラリーをスクリーニングするために用いた。tTG処置されたPepsetライブラリーペプチドに対するIFNγELISpot応答は、コムギチャレンジの後で27/46のドナーにおいて、オオムギチャレンジの後で12/21、およびライムギチャレンジの後で8/19において、バックグラウンドレベルよりも高かった。
【0248】
「第2ラウンド」のライブラリーにおける詳細なマッピングのための20merの選択を容易にするために、本発明者らは、マイクロアレイデータの分析に用いられる期待値最大化(EM)アプローチを適用した(Beissbarth et al. (2005))。すべての個々のドナーのデータセットを、EMアルゴリズムにより分析し、各20merに対するIFNγELISpot応答を説明するための変数λおよびpを導いた。変数λは、ELISpot応答の相対的強度を説明し、変数pは、応答するドナーの割合を説明する。積λpが、各穀類についての最も活性が高い第1ラウンドのライブラリーペプチドの少なくとも5%であった場合、各々の第1ラウンドのライブラリーの20merを、第2ラウンドのライブラリーにおいて詳細にマッピングした。
【0249】
第2ラウンドのライブラリーを、選択された20merを9つの重複する12merへ縮小することにより設計した。任意の12merが7位にグルタミンを組み込み、それがtTGについて定義された脱アミド化モチーフ(QX1PX3またはQX1X2[F,Y,W,I,L,V]、ここでX1およびX3はプロリンではない)に適合する場合、16merを設計し、これにより、7位にグルタミンを有する12merを、−1位と13位においてネイティブな残基により、−2位と14位においてグリシンにより挟む。この戦略により、任意の潜在的な9merのHLA−DQ2−ペプチド−結合配列において、中心の、潜在的に脱アミド化されたグルタミン残基が、アンカーの4、6または7位において適応されることが可能になる。選択される20merが7位においてグルタミンを有する12mer配列を含まない場合、12残基が重複する2つの16merを合成した。tTGに媒介される脱アミド化に感受性な中心のグルタミン残基を有する幾つかの第2ラウンドの16merもまた、グルタミンをグルタミン酸により置き換えて合成した(in silico脱アミド化)。
【0250】
コムギ第2ラウンドのライブラリーは、551の16mer(113のグルタミン酸置換された16merを含む)からなり、これは、コムギチャレンジの後の34人のセリアック病ドナー(26人のレスポンダーを含む)からのPBMCを用いて試験し、オオムギライブラリーは、89の16merを有し、9のグルタミン酸で置換されたものを含み、これは、オオムギチャレンジの後の10人のセリアック病ドナー(8人のレスポンダーを含む)からのPBMCを用いて試験し、ライムギライブラリーは、64の16merを有し、11のグルタミン酸で置換されたものを含み、これは、ライムギチャレンジ後の11人のセリアック病ドナー(11人のレスポンダーを含む)からのPBMCを用いて試験した。
【0251】
刺激性ペプチドの階層は、各々の穀類について明確に示された(
図6を参照)。グリアジンのパイロットライブラリー中の652の20merと包括的ライブラリー中の2723の20merとを組み合わせたものの中で、34(1%)が≧30のスコアを有し、300(9%)が≧5のスコアを有したが、一方、2111は、0のスコアを有した。tTG処置された第1ラウンドの20merであって≧5のスコアを有する300のうちの171(57%)は、≧5のスコアを有する第2ラウンドのtTG処置された16merをもたらし、これらの第2ラウンドの16merの間で、89のユニークな配列が存在した(
図7を参照)。第2ラウンドにおけるこれらの89の確認されたT細胞刺激性配列は、グリアジンから誘導された32個、LMWグルテニンから誘導された1個、HMWグルテニンから誘導された4個、ホルデインから誘導された30個、セカリンから誘導された29個を含み、5個は2種の穀類においてプロラミンファミリーに共通であり、1個は全3種の穀類において3種のプロラミンファミリーにおけるものであった。
【0252】
すべての89の確認されたT細胞刺激性16merは、プロリンおよび/またはグルタミンを含んでいた。
第2ラウンドのペプチドのtTGによる脱アミド化の後の生理活性は、tTGに対して感受性であると予測されるグルタミン酸がグルタミン残基を置き換えている合成ペプチドと同じであった(データ非表示)。
【0253】
脱アミド化のための要件の例外は、密接に関連しているが稀に認識されるHMWグルテニン16merW21 QGQQGYYPISPQQSGQ(配列番号91)、W22 QGQPGYYPTSPQQIGQ(配列番号92)、W24 PGQGQSGYYPTSPQQS(配列番号95)、およびW29 GQGQSGYYPTSPQQSG(配列番号104)、ならびにグリアジンW36 QYEVIRSLVLRTLPNM(配列番号116)であった。ペプチドを、それらがそのドナーについての各々のライブラリーにおいて最も活性なペプチドの応答の少なくとも70%を惹起した場合に、特定のセリアック病ドナーについて「優性」であるとみなした。コムギ、ライムギおよびオオムギの第2ラウンドにおいて、対応するグルタミン酸置換配列(配列番号47、48、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、75、76、77、78、79、80、81、89、90、91、92、95、102、103、104、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、136、169、170、171、172、173、174、177、178、179、180、183、184、187、188、189、190、191、192、209、210)を有する10の16merおよび31の12merは、少なくとも1のドナーにおいて優性であったが、一方、4の16merおよび21の12merのみ(対応するグルタミン酸置換変異体を有するもの)が、ドナーの10%より多くにおいて優性であった(配列番号47、48、56、57、58、59、60、61、62、63、64、80、81、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、136、169、170、171、172、173、174、179、180、183、184、187、188、191、192)。スコアが最も高かった第2ラウンドのコムギグルテン、ホルデインおよびセカリンから誘導された16merは、50%より多くにおいて優性であり、全体として、80%より多くのドナーにより認識された。
【0254】
刺激性ペプチドの階層および優位性は、消費される穀類により著しく異なった(
図8を参照)。配列モチーフQQPFPQPEQP(F,I)P(W,L,Y,Q)(Q,S)を共有するペプチドの刺激能力は、いかなる穀類に対しても特異的ではなかった。ω−グリアジン17merW03−E7 QPEQPFPQPEQPFPWQP(配列番号55)は、一貫してこのファミリーの最も活性が高いものであった。これはグルテンにおいて普遍的に優性なT細胞刺激性ペプチドである。ほかのペプチドは、ほぼ1種の穀類についてのみ優性であった。例えば、α−グリアジン17merQLQPFPQPELPYPQPQP(配列番号225;DQ2−α−I(配列番号3)およびDQ2−α−II(配列番号4)を含む配列番号62(W02−E7)を含む)は、コムギグルテンチャレンジ後にのみ、ホルデイン16merB08−E7 PQQPIPEQPQPYPQQP(配列番号318;配列番号127(B06−E7)を含む)は、オオムギグルテンチャレンジの後でのみ、セカリン配列QPFPQQPEQIIPQQ(配列番号323;配列番号190(R11−E7)を含む)は、ライムギグルテンチャレンジの後でのみ、優性であった。モチーフQPFP(W,L,Y,V,I)QPEQPFPQを含む他のペプチドは、オオムギまたはライムギチャレンジの後で、コムギグルテンチャレンジよりも相対的に強力な応答を惹起した。優性なT細胞刺激性ペプチドの「穀類特異性」は、T細胞クローンに基づく交差反応性の決定への古典的アプローチを補完する、T細胞認識の重複性についての機能的定義を提供する。
【0255】
セリアック病ドナーからの生検またはPBMCから、優性な脱アミド化ペプチドに対してT細胞クローンを産生させた。T細胞クローンのサイトカインプロフィールは、Th1またはTh0であり、全てがHLA−DQ2限定的であった。最小コア配列を、親ペプチドのリジンスキャン(lysine scan)を用いて決定した。NPL001(配列番号228)に対して産生されたT細胞クローンは、DQ2−α−I(配列番号3)またはDQ2−α−II(配列番号4)に対して特異的であり、NPL002(配列番号229)に対して産生されたものは、DQ2−ω−I PFPQPEQPF(配列番号10)またはDQ2−ω−II PQPEQPFPW(配列番号15)に対して特異的であった。NPL003(配列番号230)に対して産生された単一のT細胞クローンは、DQ2−Hor−I PIPEQPQPY(配列番号17)に対して特異的であり、配列番号189、pyroEQPFPEQPEQIIPQQP−アミド(配列番号226;NPL004)の完全に脱アミド化された変異体であった(コアの9merは決定されていない、DQ2−SEC−I)。脱アミド化グリアジンに対して産生されたさらなるクローンは、W11−E7 QAFPQPEQTFPH(配列番号74)に対して特異的であった(9merのコアは決定されていない)。クローンの各々を、第2ラウンドのtTG処置グリアジン/グルテニン、ホルデインおよびセカリンライブラリー、また、T. aestivumのグリアジン、H. vulgareのホルデインおよびS. cerealeのセカリンによりそれらの野生型配列においてコードされin silico脱アミド化(tTG脱アミド化モチーフによりグルタミン酸がグルタミンを置き換えている)を有する全てのユニークな10merを含むさらなる検証用18merライブラリー(表3を参照)に対して、スクリーニングした。優性刺激性ペプチドに対するクローンの交差反応性はほとんど存在しなかったが、準優性な(sub-dominant)グルテンペプチドの多くについてのペプチド認識の実質的な重複性が存在した。全体として、4つの優性T細胞刺激性ペプチド、W02−E7、W03−E7、B08−E2E7およびR11−E4E7(それぞれ、配列番号62、55、319、322)において存在する6つのエピトープ、DQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)、DQ2−ω−I(配列番号10)、DQ2−ω−II(配列番号15)、DQ2−Hor−I(配列番号17)およびDQ2−Sec−I(配列番号226)に対して特異的な11個のクローンは、22/37のグリアジン/グルテニン、26/30のホルデインおよび22/29のセカリン配列を認識し、
図7において刺激性ペプチドとして確認された。
【0256】
コムギ、オオムギおよびライムギ粉の等量の混合物から作られたマフィンによるグルテンチャレンジの後でHLA−DQ2
+セリアック病ドナーから採取したPBMCを用いるIFNγELISpotアッセイを、W02−E7、W03−E7、B08−E2E7およびR11−E4E7(それぞれ、配列番号62、55、319、322)に対して特異的なT細胞の相対頻度を比較するために、非定型の希少な優性なグリアジンペプチドW36(配列番号116)およびAv−α9A QYQPYPEQEQPILQQ(配列番号323;
図9Aを参照)のカラスムギアベニンホモログと共に用いた。至適濃度におけるW02−E7、W03−E7、B08−E2E7のモル等量混合物(配列番号62、55、319;カクテル2)に対する応答は、6つのペプチドの混合物と異ならなかったが、W02−E7(配列番号62)および/またはW03−E7(配列番号55)より明確に大きかった。カクテル2(50μM)をコムギ、オオムギまたはライムギグルテンのチャレンジのいずれかの後で評価する場合、これは、それぞれ、tTG処置されたグリアジン、ホルデインまたはω−セカリン(320μg/ml)の至適濃度により刺激されたものの少なくとも3分の2と同等のIFNγELISpot応答を刺激した(
図9B、CおよびDを参照)。
【0257】
それらの化学的安定性を改善するため、およびエキソペプチダーゼに対する耐性を高めるために、ペプチドを、「キャップされた」N−ピログルタミン酸、C−アミドの酢酸塩として合成した:tTGにより脱アミド化されると予測される部位においてグルタミン酸を有する、NPL001(配列番号228)、NPL002(配列番号229)およびNPL003(配列番号230)の15merまたは16mer。実際に、キャッピングはペプチドの半減期を、成体ラットにおいて0.1ml中0.9mgのボーラス皮内注射の後の遊離ペプチドNPL033、NPL038、およびNPL034 (配列番号13、320および321)について10〜12分間から、、N−ピログルタミン酸およびC−アミド化(配列番号228、229および230)によっては26〜28分間まで、N−アセチル化およびC−アミド化(配列番号231、232、および233)によっては19〜24分まで延長した(表4を参照)。曲線分析の下の面積により測定されるバイオアベイラビリティもまた、N−ピログルタミン酸またはN−アセチルの付加、およびC−アミド化のキャッピングにより、34倍までも実質的に増大した。
【0259】
本発明者らの発見は、NPL001(配列番号228)、NPL002(配列番号229)およびNPL003(配列番号230)中に存在するエピトープを含むペプチドが優性、非重複性であり、グルテンのT細胞刺激活性の実質的な割合に一貫して寄与するという概念を支持する。したがって、これら3つのペプチドまたはこれらの中にあるエピトープは、HLA−DQ2に関連するセリアック病に一貫して適用可能な、ペプチドに基づく治療用ワクチンの設計または機能的診断において、決定的である可能性がある。
【0260】
これらの発見は、希少な抗原特異的T細胞の増殖に依存するin vitroアプローチが、しばしば、急性の疾患の再活性化の後にin vivoで関連するエピトープへと必ずしも翻訳されないことを強調する。実際に、本研究において同定された非重複性の優性なT細胞刺激性ペプチドの大部分は、T細胞のクローンおよび株を利用する機能的研究において先には記載されていない。病原性抗原によりin vivoで誘導されたT細胞を用いる包括的エピトープマッピングは、先には行われておらず、この研究は、免疫のヒトの疾患に関連するエピトープをマッピングするための、in vitroアプローチによる初めての真の検査を提供する。先行技術は、非重複性の優性なT細胞刺激性ペプチドが、ペプチドに基づく免疫治療のために、最大数の患者において標的化されたT細胞の数を最大とするように、また一方では処方を単純化するためにペプチドの数を最小化するように、選択される様式について記載しない。
【0261】
しかし、追加のペプチドが、コムギ、オオムギまたはライムギのチャレンジの後で、この混合物のT細胞刺激能力およびドナーのT細胞応答の一貫性を増大させる可能性がある。最高の「スコア」を有するがDQ2−α−I(配列番号3)、DQ2−α−II(配列番号4)、DQ2−ω−I(配列番号10)、DQ2−ω−II(配列番号15)またはDQ2−Hor−I(配列番号17)に対して特異的なT細胞クローンにより認識されないグルテンペプチドは、この混合物のT細胞刺激能力をさらに増大させる可能性が最も高い。ペプチド混合物によって一貫して標的化されるグルテン特異的T細胞の割合を増大させることは、HLA−DQ2
+8
−セリアック病のための治療または診断上の有用性をおそらく改善するが、また、処方を複雑化させ、化学的安定性を損ない、有害効果の可能性を高めるかもしれない。
【0262】
一方、NPL001(配列番号228)は、単一のペプチドにより置換することができ、これは、例えば、DQ2−α−I(配列番号3)に対して特異的なT細胞クローン、およびまたDQ2−α−II(配列番号4)に対して特異的なT細胞クローンにより認識される、配列LPYPQPELPYPQ(配列番号60;W01−E7)を含む。代わりに、NPL001(配列番号228)は、2つの別々のペプチドにより置換することができ、一方はDQ2−α−I(配列番号3)に対して特異的なT細胞クローンにより認識され、他方は、DQ2−α−II(配列番号4)に対して特異的なT細胞クローンにより認識される。同じ原理を、NPL002(配列番号229)およびNPL003(配列番号230)に対しても適用することができる。これは、処方および安定性を改善するためには有利かもしれない。
【0263】
例3:マウスモデルにおけるNexVax2
グルテンを消費しながら臨床におけるグルテンに対する寛容およびセリアック病の寛解を誘導するための、ペプチドに基づく治療用ワクチンの最適な投与および用量レジメンは、知られていない。しかし、任意のペプチドに基づく治療薬の必須の特性は、標的器官においてin vivoでコグネイトT細胞を活性化する能力であろう。
【0264】
NPL001(配列番号228)とコグネイトT細胞との間のin vivoでの相互作用は、NPL001に対して特異的な3×10
6のCFSE標識CD4
+T細胞を移入(transfer)された、抗原提示細胞(APC)上に機能的HLA−DR3および−DQ2を発現する(しかし、マウスMHCクラスII分子を発現しない)トランスジェニックのBlack-6マウスを開発することによりモデル化されている(Chen Z., et al., 2006)。ドナーマウス(HH8−1)は、T細胞上にNPL001特異的T細胞受容体およびヒトCD4が発現していることについてトランスジェニックであり、また、APC上にHLA−DR3 DQ2を発現する。HH8−1マウスにおけるCD4
+T細胞の全体で96%がクローナルであり、NPL001に対して特異的である(結果非表示)。
【0265】
50μlの生理食塩水中のNPL001、NPL002およびNPL003の等モル量混合物の皮下投与(後足踵関節における)の4日後に、脾臓、腸排出性腸管膜リンパ節(MLN)および局所排出性膝窩リンパ節(PLN)を採取する。単離された単核細胞を、hCD4、ならびにHH8−1のNPL001特異的T細胞上に発現するT細胞受容体α−およびβ−鎖(Vα8およびVβ8)について染色する。移入されたCFSE標識細胞を、1または2以上の分裂を経験したCFSE
pos細胞の%として測定し、これをCFSE染色の希釈率として示す。
図10は、NPL001に対して特異的なT細胞の用量依存的増殖が、0.9〜30μgの皮下投与の後で観察され、最大半量の応答が5μgで達成されることを示す。これらにより、または900μgもの高い用量によっても、T細胞がTh1の表現型を有しNPL001による刺激によりIFNγを分泌するにも拘らず、臨床的な毒性は観察されなかった。
【0266】
このマウスモデルは、(i)原理証明、(ii)作用の機構、および(iii)NexVax2治療用ワクチン(生理食塩水中のNPL001、NPL002およびNPL003の等モル量混合物)の投与の後での寛容の誘導のための用量レジメンの最適化の実証を可能にする能力を有する。先のマウスでの研究において、本発明者らは、NexVax2の単一の用量、または関連するペプチド成分NPL001が、in vivoで生理活性であることを実証した。NPL001の投与は、第1b相ヒト臨床試験において投与される最大用量において、養子移入モデルにおいてHH8−1のグリアジン特異的T細胞の増殖を誘導する。トランスジェニックNPL001特異的T細胞の活性化についての用量応答を、次いで決定した。この予備データに基づいて、NexVax2治療用ワクチンがグリアジン特異的T細胞応答を調節する能力および作用の機構に、生物学的に関連するマウスモデルにおいて取り組むことができる。
【0267】
研究の目的は、免疫学的寛容を誘導するために設計されたレジメンを用いる治療用ワクチン、NexVax2、の繰り返し投与が、グリアジン特異的TCR−Tgマウスモデルにおいてグリアジン特異的T細胞応答を調節することができるか否かを決定することである。
以下の表5のとおりに、動物を同定し、実験群に割り当てて処置した。
【0269】
皮内/皮下投与の経路を、これがヒトにおいて意図される投与の経路であるものとして選択した。投与量を、養子移入モデルにおける全てのグリアジン特異的T細胞の刺激をもたらすもの(10μg)から、先の研究(Nexpep3)においてCFSE標識グリアジン特異的TCR−TgT細胞の増殖をもたらさなかった低用量(0.3μg)まで、用量−応答範囲をカバーするように選択した。
【0270】
全てのペプチドは、GMPグレードであった。製剤は、Nexpep Pty Ltdにより製造され、ペプチドの濃度は、純度について調整した。NexVax2は、各々が生理食塩水中6mg/mlの3種のペプチド(NPL001、NPL002およびNPL003)からなる。
記述した用量は、NexVax2中の各ペプチドの量であり、合計のペプチド濃度ではない(すなわち、10μgのNexVax2は、10μgのNPL001、10μgのNPL002および10μgのNPL003を含む)。NPL001は、生理食塩水中6mg/mlで提供された。ペプチドを、注射の前に、−80°Cで保存した。
【0271】
動物および管理
全ての実験を、メルボルン大学動物倫理委員会(University of Melbourne Animal Ethics Committee)AEC登録番号第0707287号の承認により行った。
14個体のC57BL/6バックグラウンドにおけるメスHH8−1および4hCD4.IAE
−/−.DR3.DQ2トランスジェニックマウスを用いた。全てのマウスを、メルボルン大学の微生物学および免疫学科動物施設(Department of Microbiology and Immunology Animal Facility)において飼育した。マウスは、Specialty Feeds Pty Ltd(Perth Western Australia)により供給されたグルテンフリー食(SF07−036)で飼育した。各動物を、動物施設のプロトコルに従って耳パンチにより番号付けし、これは、研究中の各動物を個々に識別し、動物の番号に対応した。動物は個々に、または4個体のマウスまでの群において、ステンレススチールの格子状の上面と固い底面とを有するケージ内に収容した。鉋屑を床敷きとして使用し、ティッシュペーパーを営巣材料として供給した。各ケージに、酸性水を含む水ボトルと、グルテンフリーのマウスの餌を含むフードホッパー(food hopper)とを供給した。部屋を21°C〜24°Cに維持した。相対的湿度についての範囲は37〜58%であった。12時間の明暗周期を実施し(明期時間0700〜1900)、最低でも1時間当たり15回の空気交換を行った。
【0272】
NexVax2を、無菌生理食塩水中で200μg/mlまで希釈し、アリコートに分注し、使用のために−80°Cで保存した。各処置について、アリコートを解凍して無菌生理食塩水中で希釈した。メスHH8−1マウスの群(n=2)に、生理食塩水中で希釈したNexVax2の設定された用量(10μg、3μg、1μgおよび0.3μg)または生理食塩水のみを含む50μl側腹部において皮下注射した。マウスに毎日14日間注射した。1個体のマウスに、処置レジメンの最終日において、10μgのNexVax2の単一の用量を与えた。
【0273】
注射部位における腫脹または過敏、有害な全身性応答(猫背または毛羽立った外見、嗜眠、震戦、瀕死)について、マウスを毎日モニタリングした。あらゆる兆候の開始、強さおよび期間を記録した。
血液試料を、ペプチドの投与の前に後眼窩洞から採取し、実験の完了の際にCO
2安楽死の後で心臓穿刺により採取した。血液を、4℃で一晩貯蔵し、血餅を除去し、遠心分離の後で血清を収集した。血清を、必要である場合には将来的な分析のために−80℃で保存した。
【0274】
最終ペプチドの投与3日後に、マウスをCO
2安楽死により死亡させ、脾臓を採取した。70μmのナイロンメッシュの細胞濾過器を通して篩いにかけることにより、単一細胞の懸濁液を調製した。赤血球細胞を、トリス塩化アンモニウム溶解により、脾臓から取り除いた。CD4
+T細胞単離キット(Miltenyi Biotech)を使用説明書に従って用い、ネガティブディプリーション(negative depletion)により、CD4
+T細胞を単離した。同じプロトコルを用いて、グリアジン特異的T細胞を、4個体の未処置のHH8−1マウスの脾臓から濃縮した。3個体のhCD4.IAE
−/−.DR3−DQ2トランスジェニックマウスの脾臓から、APCを調製した。単一細胞の懸濁液を、上記のとおり調製した。脾臓細胞をAPCとして用いる前に、ガンマ照射した(2,200ラド)。
【0275】
細胞を、抗体染色およびFACS分析によりフェノタイピングした。グリアジン特異的CD4
+T細胞を、TCR Vα8.3およびヒトCD4による染色により同定し、抗CD25および抗GITRモノクローナル抗体により表面を染色した。FoxP3染色キット(eBiosciences)を使用説明書に従って用い、細胞内FoxP3発現を決定した。試料をFACS固定液(PBS中1%パラホルムアルデヒド、2%グルコース)中で固定し、LSR II(BD Bioscience)においてフローサイトメトリーにより分析した。IFNγおよびIL−10産生T細胞を、PMA/イオノマイシンによる刺激の後での細胞内サイトカイン染色により同定した。
【0276】
簡単に述べると、処置マウスからの1×10
6の脾臓細胞を、6時間、50ng/mlのPMAおよび500ng/mlのイオノマイシンを含むかまたは含まない完全DMEM(10%の過熱不活化したウシ胎児血清、2mMのグルタミン、非必須アミノ酸、50μMの2−メルカプトエタノール、ペニシリンおよびストレプトマイシンを添加したDMEM)および5μg/mlのブレフェルジンA中で培養した。細胞を、次いで、表面分子(TCR Vβ8.3およびヒトCD4)について染色し、洗浄し、次いで1%パラホルムアルデヒド/30分により固定し、2回洗浄し、次いで、0.2%のサポニンを含むPBS中で希釈した抗IFNγまたは抗IL−10抗体と共にインキュベートした。試料を、TCR Vβ8.3
+、ヒトCD4
+リンパ球に対してゲーティングしたLSR II(BD Bioscience)においてフローサイトメトリーにより分析した。
【0277】
各マウスからの2×10
4の精製されたT細胞を、3組、丸底96ウェルプレートにおいて、2μg/mlのNPL001の存在下または不在下において、3×10
5のガンマ照射されたAPCを含む完全DMEM中で、37°C/5%CO
2において培養した。72時間の培養の後で、上清を回収し、サイトカイン分泌の分析のために‐80℃において保存した。
試料を、マウスIL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−12p70、TNFαおよびIFNγの存在について、細胞数測定ビーズアレイフレックスセット(CBA, BD Bioscience)により、使用説明書に従って、試験した。試料を、FACS Canto(BD Biosciences)においてフローサイトメトリーにより分析し、データをFCAP Arrayソフトウェア(BD Bioscience)を用いて分析した。
培養脾臓細胞からの上清を、適切に、および1:10希釈において試験した。サイトカインの濃度を、2500〜10pg/mlで希釈した提供される標準物質に対して決定した。
【0278】
NexVax2処置HH8−1マウスからの2×10
4の精製されたCD4T細胞を、照射された同系の脾臓細胞(2,200ラド、3×10
5/ウェル)と共に、3組のアッセイにおいて、0、0.02、0.2、2または10μg/mlのNPL001ペプチドの存在下において培養した。抑制アッセイのために、2×10
4の未処置のHH8−1のCD4T細胞(レスポンダー)を、同等の数(1:1)のNexVax2処置マウスからのCD4
+T細胞、用量決定されたNPL001ペプチドおよび照射された同系の脾臓細胞(2,200ラド、3×10
5/ウェル)と共に、3組のアッセイにおいて、培養した。別のアッセイにおいて、未処置のレスポンダーを、NexVax2処置マウスからのCD4
+T細胞と共に、1:1、3:1および9:1のレスポンダー:サプレッサー比で、最適以下の濃度のNPL001ペプチド(0.2μg/ml)およびAPCの存在下において、培養した。
T細胞の増殖を、96時間の培養のうちの最後の24時間の間の1μCiの
3H−チミジンの添加により測定した。結果を、カウント毎分(cpm)として、プロットした各3組の平均および標準偏差を表すエラーバーと共に記録する。
【0279】
RNAを、NexVax2処置マウスからの5×10
5〜2×10
6の精製されたT細胞から、RNAeasy plus(商標)RNA抽出キット(QIAGEN)を使用説明書に従って用い、抽出した。必要である場合には、RNAを、将来的な分析のために−80°Cで保存した。
処置の後で見えているあらゆる有害応答について、マウスを毎日モニタリングした。観察期間の間に、予定されていない死亡はなかった。観察期間の間に、あらゆる動物において、注目される全身性の有害兆候は存在しなかった。全てのマウスは、外見上健康を維持し、観察可能な活性または外見の低下はなかった。生理食塩水中のペプチドまたは生理食塩水のみにより免疫されたマウスにおいて、注射の部位における局所の炎症は観察されなかった。
【0280】
表現型分析
ペプチド免疫治療は、胸腺により誘導されるまたはde novo生成されるCD4
+CD25
+FoxP3
+の調節性T(Treg)細胞により媒介される、末梢の寛容の誘導と関連付けられている。さらに、かかる誘導は、IL−10分泌ペプチドにより誘導されたTreg細胞の産生と関連する。NexVax2の繰り返し投与の、脾臓のグリアジン特異的T細胞の数および表現型に対する効果を決定した。脾臓におけるグリアジン特異的T細胞を、TCR Vβ8.3およびCD4の発現により同定した。リンパ球ゲートにおけるグリアジン特異的T細胞の割合および脾臓あたりの全数を決定した。NexVax2の繰り返し投与が脾臓におけるグリアジン特異的CD4
+T細胞の割合(A)および数(B)の減少をもたらすことを示す、
図11を参照。HH8−1グリアジン特異的TCRトランスジェニックマウスに、示した量のNexVax2を毎日14日間皮下注射した。脾臓を、最後の注射の3日後に採取し、処理して、トランスジェニックのT細胞を同定するための抗体(Vβ8.3およびhCD4)で染色した。トランスジェニックのT細胞の合計数を、全細胞の脾臓細胞数から計算した。ドットは、個々のマウスを示す。
【0281】
試験した最大用量(10μg)における複数用量のNexVax2による処置は、グリアジン特異的T細胞の割合と数の両方の、約50〜65%の明らかな減少をもたらした。これは、抗原に誘導された細胞死またはこれらの細胞の脾臓から遠方への動員(recruitment)のいずれかを示唆する。
【0282】
NexVax2の繰り返し投与がTreg集団を誘導するか否かを決定するために、グリアジン特異的T細胞を、TCR Vβ8.3およびCD4の発現により同定し、CD25およびFoxP3(
図12Aを参照)またはCD25およびGITR(
図12Bを参照)を発現するものの割合を決定した。
図12は、NexVax2の繰り返し投与がTreg細胞の誘導をもたらすことを示す。HH8−1のグリアジン特異的TCRトランスジェニックマウスに、示した量のNexVax2を、毎日14日間皮下注射した。脾臓を最後の注射の3日後に採取し、処理して、TCR Vα8.3、CD4、CD25、FoxP3およびGITRに対する抗体で染色した。グリアジン特異的な、CD25およびFoxP3(A)またはCD25およびGITR(B)を発現するCD4リンパ球のFACSプロットを示す。10μgまたは3μgのNexVax2の複数用量での処置は、脾臓における、用量依存的な様式における、グリアジン特異的Treg細胞の割合の増加をもたらした。糖質コルチコイド誘導TNF受容体(GITR)は、CD25
+Treg細胞において優性に発現する。染色により、グリアジン特異的T細胞のCD25
+集団がGITRを共発現したことが明らかとなった。GITR
+細胞のパーセンテージは、NexVax2投与の後で、CD25の発現に比例して増大した。
【0283】
非特異的活性化に対する応答において直接的にex-vivoでIFNγまたはIL−10を産生する能力を有するグリアジン特異的T細胞の割合を決定した。脾臓細胞を、PMA/イオノマイシンと共に、またはこれらなしで、ブレフェルジンAの存在下において培養した。グリアジン特異的T細胞によるIFNγおよびIL−10の産生を、フローサイトメトリーにより決定した。
図13は、NexVax2の繰り返し投与が、直接的にex vivoでIFNγおよびIL−10産生細胞の割合の増加をもたらすことを示す。HH8−1マウスに、毎日、生理食塩水中10、3、1もしくは0.3μgのNexVax2、または生理食塩水のみを14日間、または10μgのNexVax2の単一の投与を第14日に、皮下注射を行った。最後の注射の3日後、マウスを安楽死させ、脾臓のIFNγ(A)またはIL−10(B)を発現するTCR Vβ8.3/hCD4
+細胞の割合を、PMA/イオノマイシンの存在下または不在下における6時間のインキュベーションの後で、細胞内サイトカイン染色およびフローサイトメトリーにより決定した。ドットは個々のマウスを表し、破線は、未処置のHH8−1マウスにおけるサイトカイン陽性細胞の割合を示す。
【0284】
10μgのNexVax2の繰り返し投与は、IFNγ産生グリアジン特異的T細胞の割合の増加、および、IL−10産生グリアジン特異的T細胞の少量であるが一貫した増加をもたらした。1または3μgのNexVax2の繰り返し投与は、各群において試験した2個体のマウスの一方におけるIFNγ産生T細胞の頻度の増大をもたらした。
【0285】
ペプチドに対する増殖性応答
NexVax2の繰り返し投与の後でのグリアジン特異的T細胞の増殖能力を、これらの細胞がアネルギー性の表現型を有するか否かを決定するために試験した。in vitroでの増殖の不具合は、CD25
+/FoxP3
+Treg細胞とIL−10産生ペプチドに誘導されたTreg細胞との両方の不具合である。この増殖する能力の低下は、IL−2の培養への添加により逆転することができる。
【0286】
精製されたCD4+脾臓のT細胞を、hCD4.IAE
−/−.DR3.DQ2トランスジェニックマウスからのガンマ照射されたAPCの存在下において培養し、段階的な濃度のコグネイトペプチドNPL001の存在下において培養した。増殖を、4日間の培養の最後の24時間の
3H−チミジンの取り込みにより測定した(
図14A)。
図14は、グリアジン特異的T細胞のコグネイト抗原に対する増殖能力は、NexVax2の繰り返し投与の後で低下し、IL−2の存在下において回復することを示す。HH8−1マウスに、毎日、生理食塩水中10、3、1もしくは0.3μgのNexVax2、または生理食塩水のみの皮下投与を14日間、または10μgのNexVax2の単一の投与を第14日に与えた。最後の注射の3日後、マウスを安楽死させ、CD4+T細胞を精製し、NPL001ペプチドおよび照射されたAPCと共に、10U/mlのIL−2の存在下または不在下において培養した。72時間後に、ウェルを、1μCiの
3H−チミジンで24時間パルスし、プレートを採取して計数した。
【0287】
A. 示された用量のNexVax2で処置されたマウスの0.2μg/mlのNPL001ペプチドに対する増殖性応答
B. 未処置および10μgのNexVax2繰り返し投与のNPL001に対する増殖性の用量応答
エラーバーは、3組の培養の標準偏差を表す。
【0288】
抗原未処置の生理食塩水処置マウスからのT細胞は、NPL001に対する応答において良好に増殖したが、一方、NexVax2処置マウスからのT細胞は、NPL001に応答する能力の実質的な低下を示し、これは最適以下(sub-optimal)のペプチド濃度(0.2μg/ml)において特に明らかであった。10μgのNexVax2による繰り返し投与は、0.2μg/mlのNPL001に対する増殖性応答の90〜97%の減少をもたらした。増殖の減少は用量依存的であり、投与された最も低い用量(0.3μg)ですら、最適以下のペプチド濃度において、20〜37%の増殖の減少をもたらした。培養への10U/mlのIL−2の添加は、ペプチドの不在下において、低レベルの増殖を誘導した(バックグラウンドの約2倍)が、ペプチドの存在下において、NexVax2処置マウスからのT細胞の非応答性の状態は逆転し、その結果、ペプチド処置マウスの応答が生理食塩水処置された対照と同等になった。
【0289】
NexVax2 投与に対する応答における増殖の不具合は、広範囲の用量にわたって観察された(
図14Bを参照)。これは、最大用量のNexVax2(10μg)の投与の後で、特に明らかであり、より低いNexVax2の用量での処置の後では、特に最大ペプチド刺激に対する応答において、効果が低かった(データ非表示)。
【0290】
未処置のHH8−1のT細胞の活性化の抑制
観察された増殖の不具合は、アネルギー性の表現型の結果である可能性があり、その場合、T細胞それら自体が抗原刺激に対して感受性が低くなってきているか、または、Treg集団の存在に起因する。したがって、in vitroでの培養において、NexVax2による処置が、未処置のグリアジン特異的T細胞のNPL001ペプチドに対する増殖性応答を抑制することができるTreg集団を産生する能力を評価した。
【0291】
図15は、NexVax2で処置されたマウスからのT細胞が未処置のグリアジン特異的T細胞の増殖を抑制することができる。HH8−1マウスに、毎日生理食塩水中10、3、1もしくは0.3μgのNexVax2、または生理食塩水のみを14日間、または10μgのNexVax2の単一の投与を第14日において皮下で与えた。最後の注射の3日後、処置マウスからの精製されたCD4+T細胞(サプレッサー)は、未処置のHH8−1マウス(レスポンダー)からのT細胞、NPL001ペプチドおよび照射されたAPCと共に共培養した。72時間後に、ウェルを、1μCiの
3H−チミジンで24時間パルスし、プレートを採集して計数した。
図15Aにおいて、10μgのNexVax2×14処置マウス(左パネル)または生理食塩水処置マウス(右パネル)からのT細胞を、同等数の未処置のHH8−1のCD4
+T細胞および用量決定されたNPL001ペプチドで共培養した。
図15Bにおいて、未処置のHH8−1のT細胞の一定数(2×10
4)を、用量決定された数の(2×10000、6.6×1000、2.2×1000)とNexVax2処置T細胞、および0.2μg/mlのNPL001と共培養した。未処置のレスポンダーの増殖の阻害の平均を、各処置群における2個体のマウスから計算した。エラーバーは、3組の培養の標準偏差を表す。
【0292】
NexVax2処置マウスからの精製されたT細胞を、未処置のHH8−1のグリアジン特異的T細胞と1:1の比で、設定された用量のNPL001(
図15A)の存在下において、または1:1、3:1もしくは9:1のレスポンダー:サプレッサー比で、0.2μg/mlのNPL001の存在下において共培養した(
図15B)。10μgまたは3μgのNexVax2の繰り返し投与による処置の後で、1:1のレスポンダー:サプレッサー比において、広範囲の刺激性ペプチド濃度にわたって、レスポンダー細胞の増殖の抑制を観察した。この結果は、調節性集団の存在を示す。フェノタイピングが、10または3μgのNexVax2により処置されたマウスにおいてのみ、グリアジン特異的Treg細胞の割合の増大を示したこと、および、Treg細胞が全グリアジン特異的集団の7〜18%を含むことから、観察された未処置のHH8−1のT細胞の増殖の阻害は、予測の範囲内である。
【0293】
in vitroでの培養の後でのサイトカインプロフィール
免疫の調節は、レスポンダー細胞のサイトカインプロフィールを変化させ得る。
例えば、鼻内でのペプチドの投与は、IL−10分泌ペプチドにより誘導されたTreg細胞を産生することが示された。段階的な量のNexVax2の繰り返し投与により処置された、グリアジン特異的TCRトランスジェニックマウスからのCD4
+T細胞によるサイトカイン産生のプロフィールを、in vitroでの培養の後で、2μg/mlのNPL001および照射された同系のAPCの存在下または不在下において、試験した。第3日からの上清を採取して、Th1関連サイトカイン(IL−2、IFNγ、IL−12およびTNFα)ならびにTh2関連サイトカイン(IL−4、IL−5、IL−6およびIL−10)の産生について評価した(
図16)。CD4
+T細胞を、毎日、生理食塩水中10、3、1もしくは0.3μgのNexVax2、または生理食塩水のみの皮下投与を14日間、または10μgのNexVax2の単一の投与を第14日において与えられたHH8−1マウスの脾臓から精製した。3×10
4のCD4T細胞を、2μgのNPL001(■)の存在下において、またはペプチドなし(□)で、3×100000のガンマ照射されたAPCと共に培養した。上清を72時間において採取し、細胞計数ビーズアレイにより、Th1サイトカイン(IL−2、IFNγ、IL−12、TNFα)ならびにTh2サイトカイン(IL−4、IL−5 IL−6およびIL−10)の産生について試験した。結果は、処置群における2個体のマウスのサイトカイン産生の平均を示す。IL−12、IL−4またはIL−5のいずれも、培養の上清において検出されなかった。10μgのNexVax2の繰り返し投与を受けたマウスの培養物から、IL−2、IFNγおよびTNFαの産生の著しい減少が観察された。このサイトカイン産生の減少は、培養中のNPL001ペプチドに対する増殖性応答の減少を、密接に反映する。加えて、10μgのNexVax2の繰り返し注射を受けたマウスからのT細胞は、in vitroでのペプチド刺激の後で、3.5倍のIL−10量の増大をもたらした。このことは、これらのマウスにおけるIL−10産生Treg 表現型への潜在的に傾いていることを示唆する。
【0294】
この実験は、免疫学的寛容を誘導するために設計されたレジメンを用いる治療用ワクチンNexVax2の繰り返し投与が、グリアジン特異的T細胞受容体トランスジェニックマウスモデルにおいてグリアジン特異的T細胞応答を調節することができるか否かを決定するために設計した。NexVax2を、生理食塩水中のペプチドの皮下注射を介して、連続する14日にわたって投与した。この処置は、第一に、脾臓におけるグリアジン特異的T細胞の数の明らかな減少をもたらした。残りのT細胞は、それらのコグネイト抗原に対する増殖性応答の減少を示した。これは、IL−2の存在下において逆転され、このことは、「アネルギー性」の表現型、またはTreg集団の存在を示唆する。この減少した増殖性応答は、培養中で産生されるTh1サイトカインの量の減少、およびIL−10産生の増大を伴う。グリアジン特異的IL−10産生細胞の増大はまた、FoxP3
+、GITR
+Treg細胞の合計数および割合の増加と共に、直接的にex-vivoでも観察された。共培養実験において、処置マウスからのT細胞は、NPL001ペプチドに応答する未処置のグリアジン特異的T細胞の増殖性応答を抑制することができた。
【0295】
試験された最大用量(一日当たり10μg、連続する14日間)におけるNexVax2の繰り返し投与は、処置されたグリアジン特異的T細胞受容体トランスジェニックマウスからのグリアジン特異的T細胞の応答の調節を示した。
結果は、生物学的に関連するTCRトランスジェニックマウスモデルを用いて、生理食塩水中のNexVax2ペプチドの皮下投与が免疫優性グリアジンペプチドに対するT細胞を調節することができることの証拠を提供する。
【0296】
例4:ヒトセリアック病のためのNexVax2 ワクチン
NexVax2ワクチンを、セリアック病を有するヒト患者への投与のためにGMP形態において調製した。
長期の厳密なグルテンフリー食後の、セリアック病を有するHLA−DQ2
+志願者におけるNexVax2の安全性、耐容性および生理活性を決定するためのI相の研究
【0297】
目的
この研究の第1の目的は以下であった:
・皮内で3週間にわたり投与されたNexVax2の毎週の注射の安全性および耐容性を評価すること
【0298】
この研究の第2の目的は以下であった:
・セリアック病志願者における3週間の投与の後でのNexVax2の生理活性を、T細胞の頻度およびサイトカイン放出により評価されるT細胞応答の測定を通して決定すること。
・セリアック病志願者における3週間の投与の後でのNexVax2の生理活性を、グルテンチャレンジ後の症候性応答の測定を通して決定すること。
・セリアック病志願者における単一の皮内注射の後でのNexVax2の薬物動態学を測定すること
・セリアック病志願者における3週間の投与の後での、NexVax2に対して特異的な抗体の誘導を測定すること
【0299】
研究の設計
セリアック病志願者における、皮内注射を介して毎週投与された場合の、NexVax2の安全性、耐容性および生理活性の、I相、単一施設、プラセボ対照型、用量漸増型の研究。
セリアック病患者は、9回の外来患者来診に通うことを求められた。これは、NexVax2の皮内注射を受けるための3回の8時間の来診(3週間にわたって)および標準的なグルテンチャレンジを経験するための3回の6時間の来診を含んだ。
志願者は、第1回目の注射の日から約25日間、研究対象となった。
【0300】
研究集団
欧州小児消化器病学、肝臓病学および栄養学学会(European Society of Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition)の診断基準(Walker-Smith et al., 1990)に従ってセリアック病の診断を有し、厳密なグルテンフリー食に従う個人であって、HLA−DQ2をコードする遺伝子(DQA1
*05およびDQB1
*02)を保有するが、HLA−DQ8をコードする遺伝子(DQA1
*03およびDQB1
*0302)を保有しない者
【0301】
NexVax2のための試験的処方
注射のためのNexVax2は、Nexpep Pty Ltd.により供給される0.9%の正常な生理食塩水の無菌溶液中の、NPL001、NPL002およびNPL003の各々の等モル量(100μlあたり0.159μモル、約3mg/ml)の混合物を含んだ。
【0302】
プラセボの処方
Nexpep Pty Ltd.により供給される無菌の正常生理食塩水0.9%
【0303】
研究の処置
コホート1: 2人のセンチネル(sentinel)を含み、第1、8および15日目において、1人には9μgのNexVax2を皮内注射により投与し、1人にはプラセボを投与し、さらなる6人の対象の、5人には9μgのNexVax2を投与し、1人にはプラセボを投与した。
コホート2: コホート1と同様であったが、対象に30μgのNexVax2を投与した。
コホート3: コホート1と同様であったが、対象に90μgのNexVax2を投与した。
コホート4:コホート1と同様であったが、対象に60μgのNexVax2を投与した。
【0304】
投与、食事および血液採取のスケジュール
研究の薬物投与の前夜の深夜からの絶食の後で、用量の投与、食事、薬物動態評価、グルテンチャレンジおよび血液採取についてのスケジュール(0800時間を投与時間と仮定して)を、
図17に示した。
【0305】
評価
・安静時心拍数、半仰臥位(semi-supine)収縮期/拡張期血圧、呼吸数および体温をモニタリングした:スクリーニング時に;通常0700時間において、第1、8および15日目において処置を受ける前に、および投与の4時間後に;ならびに第22、23および24日目においてグルテンチャレンジを受ける前に、ならびに第25日目において研究の終了時に
・NexVax2特異的T細胞の頻度を計数するためのPBMCのIFNγELISpotアッセイのための血液試料を、第1、6、15、20および25日目(研究の終了)に採取した。
・NexVax2に対する応答におけるPBMCのサイトカイン放出を決定するためのBioplex分析のための血液試料を、第1、6、15、20および25日目(研究の終了)に採取した。
・PBMCを、第1、6、15、20および25日目(研究の終了)に採取し、後のT細胞の機能のアッセイのために凍結した。
・NexVax2に対して特異的な抗体の評価のために、血清を第1および20日目に採取した。
・薬物動態サンプリングのための血液試料を、第15日目に、ならびに投与前に、ならびに投与の15、30、45、60、75、90分、2時間および3時間後に採取した。
・臨床検査測定(生化学、尿検査および血液学)を行った:スクリーニング時に;投与の前の第1、8および15日目において、ならびに投与の4時間後において;ならびにグルテンチャレンジ前の第20および22日目において、ならびにグルテンチャレンジ後および第25日目(研究の終了)において
・妊娠(尿)検査を、スクリーニング時に、投与の前の第1、8および15日目に、ならびにグルテンチャレンジ前の第20、21および22日目に、ならびに研究の終了時(第25日)に行った。
・尿の依存性薬物検査を、スクリーニング時に、ならびに投与の前の第1、8および15日目に行った。
・ECGを行った:スクリーニング時に;通常0700時間において、第1、8および15日目において処置を受ける前に、ならびに投与の4時間後に、;ならびにグルテンチャレンジを受ける前の第20、21および22日目に、ならびに第25日目に研究の終了時に
【0306】
データ分析
スクリーニング、コンプライアンスおよび安全性のデータ
人口統計学を、作表してまとめる。基線および追跡調査における物理的試験(身長および体重を含む)ならびに基線における医学/外科学的病歴データを列記する。すべての臨床的安全性および耐容性のデータを各対象について列記する。
検査室の正常な範囲外の検査値を、別に列記し、臨床的意義についてコメントを付す。関連する繰り返しの値を、一緒に列記する。バイタルサイン測定(安静時心拍数、半仰臥位収縮期/拡張期血圧、呼吸数、体温)およびEGGパラメーターを作表してまとめる。
【0307】
耐容性データ
処置により発現した有害イベントを列記してまとめる。本研究において報告される全ての有害イベントをMedDRAを用いて暗号化する。
【0308】
免疫学的アッセイ
本発明者らは、NexVax2の単一の処置が、PBMC中のNexVax2特異的T細胞の頻度を増大させ、単核細胞によるサイトカインおよびケモカインの分泌を増大させるであろうと考える。
本発明者らは、NexVax2の繰り返しの(毎週3週間の)注射の後で採取されたPBMCが、処置の前よりも低い頻度のNexVax2特異的T細胞を有するであろうと考える。
【0309】
本発明者らは、プラセボ処置セリアック病志願者と比較して、NexVax2の繰り返しの(毎週3週間の)注射が、コムギのパンによる経口での3日間のグルテンチャレンジを開始した6日後に採取されたPBMCにおける、NexVax2に対して特異的なT細胞の頻度およびNexVax2により刺激されたサイトカイン分泌を減少させるであろうと考える。
通常のデータは、片側のWilcoxonの対応のある順位和検定により分析する。正規分布したデータを、対応のあるt検定により分析する。p値<0.05を、優位とみなす。
【0310】
具体的な態様において示される通り、より広く記載されるとおりの本発明の精神と範囲から逸脱することなく、本発明に対して多数のバリエーションおよび/または改変が行われえることが、当業者により理解される。本態様は、したがって、全ての点において、説明的なものであるとみなされるべきであり、限定するものとみなされるべきではない。
本願は、US 61/118,643からの優先権を主張し、US 61/118,643の全内容は本明細書において参考として組み込まれる。
【0311】
本明細書において議論および/または引用される全ての刊行物は、本明細書においてその全体が参考として組み込まれる。
本明細書において含まれてきた文書、行為、材料、デバイス、物品などのあらゆる議論は、本発明についての南洋を提供することのみを目的とする。これは、、それが本願の各請求項の優先日の前に存在したためにこれらの事項のいずれかまたは全てが先行技術の基礎の一部を形成するかまたは本発明に関連する分野における一般的知識であったことを承認するものとして理解されるべきではない。
【0312】
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