(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
薬品としての使用のための、適応可能な場合、鏡像異性体もしくはジアステレオマーの混合物としての、又は鏡像異性的に純粋な形態での、請求項1〜2のいずれか一項に記載のエチニル誘導体又はその薬学的に許容しうる酸付加塩。
【技術分野】
【0001】
本発明は、式I
【0002】
【化1】
[式中、R
1は、フェニル、3−フルオロフェニル、4−フルオロフェニル又は2,5−ジ−フルオロフェニルである]で示される絶対配置の鏡像異性的に純粋な形態である、式Iで示されるエチニル誘導体又は薬学的に許容しうる酸付加塩に関する。
【0003】
驚くべきことに、ここで、一般式Iで示される化合物が、先行技術の化合物に比べて有利な生化学的性質、物理化学的性質及び薬力学的性質を示す、代謝型グルタミン酸受容体サブタイプ5(mGluR5)のアロステリックモジュレーターであることが見出された。
【0004】
中枢神経系(CNS)では、刺激の伝達は、ニューロンにより放出される神経伝達物質と、神経受容体との相互作用によって行われる。
【0005】
グルタマートは、脳内の主要な興奮性神経伝達物質であり、様々な中枢神経系(CNS)機能において特有の役割を担っている。グルタマート依存性刺激受容体は2つの主要なグループに分類される。第1の主要なグループ、すなわちイオンチャネル型受容体は、リガンド制御イオンチャネルを形成する。代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)は、第2の主要なグループに属し、さらにGタンパク質共役受容体の一族に属している。
【0006】
現在、これらのmGluRの8種の異なるメンバーが知られており、その中にはさらにサブタイプを有するものもある。これらの8種の受容体は、それらの配列相同性、シグナル伝達機構及びアゴニスト選択性により、3つのサブグループに細分することができる。すなわち、mGluR1及びmGluR5はグループIに属し、mGluR2及びmGluR3はグループIIに属し、mGluR4、mGluR6、mGluR7及びmGluR8はグループIIIに属する。
【0007】
第1のグループに属する代謝型グルタミン酸受容体のリガンドは、急性及び/又は慢性の神経疾患、例えば、精神病、癲癇、統合失調症、アルツハイマー病、認知症疾患(cognitive disorder)及び記憶障害、ならびに慢性及び急性の疼痛の治療又は予防に用いることができる。
【0008】
これに関連して、他の処置可能な症状は、バイパス手術もしくは移植により起きる脳機能障害、脳への血液供給不足、脊髄損傷、頭部損傷、妊娠により起きる低酸素症、心拍停止及び低血糖(hypoglycaemia)である。さらに処置可能な症状は、虚血、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、結節性硬化症(TSC)、AIDSにより起きる認知障害(dementia)、眼損傷、網膜症、特発性パーキンソン症候群又は薬品により起きるパーキンソン症候群、ならびにグルタマート欠乏機能に至る症状、例えば筋痙攣、発作、片頭痛、尿失禁、ニコチン中毒、アヘン中毒、不安、嘔吐、運動障害(dyskinesia)及びうつ病である。
【0009】
mGluR5により完全に又は部分的に介在される疾患は、例えば、神経系の急性、外傷性 及び慢性の変性過程、例えばアルツハイマー病、老人性認知障害、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症及び多発性硬化症、精神疾患、例えば統合失調症及び不安、うつ病、疼痛、ならびに薬物依存症である(Expert Opin. Ther. Patents (2002), 12, (12))。
【0010】
選択的モジュレーターを開発するための新規の手段は、アロステリック機構を通じて作用し、高度に保存されたオルソステリック結合部位とは異なる部位への結合によって受容体を調節する化合物を同定することである。近年、この注目すべき代替手段を提供する新規の医薬実体として、mGluR5のアロステリックモジュレーターが現れた。アロステリックモジュレーターは、例えば、WO2008/151184、WO2006/048771、WO2006/129199、WO2005/044797、及び特にWO2011/128279、ならびにMolecular Pharmacology, 40, 333 - 336, 1991、The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, Vol 313, No. 1, 199-206, 2005、Nature, 480 (7375),63-68, 2012に記載されている。
【0011】
先行技術にはポジティブアロステリックモジュレーターが記載されている。これらは、独自に受容体を直接活性化しないが、アゴニスト刺激応答を著しく増強し、有効性及び最大効果を高める化合物である。これらの化合物の結合により、細胞外N末端基結合部位でのグルタマート部位アゴニストの親和性が高まる。このように、アロステリック調節は、適切な生理学的受容体活性化を増強するために魅力のあるメカニズムである。mGluR5受容体用の選択的なアロステリックモジュレーターが不足している。従来のmGluR5受容体モジュレーターは、通常、薬物安全性を欠き、薬物の副作用が高い。
【0012】
したがって、これらの欠点を克服し、mGluR5受容体に選択的なアロステリックモジュレーターを効果的に提供する化合物が必要とされている。本発明は、以下に見られるようにこの課題を解決した。
【0013】
本発明の化合物と先行技術の類似化合物の比較:
先行技術の構造類似化合物はWO2011128279(=参考文献1、Hoffmann-La Roche)に開示されており、本願と構造が最も類似した化合物(実施例20、72、76、79、81及び103)を比較のために示す。
【0014】
生物化学的及び物理化学的アッセイ及びデータ:
細胞内Ca
2+動員アッセイ
ヒトmGlu5a受容体をコードするcDNAを安定にトランスフェクションしたモノクローナルHEK−293細胞株を生成した。mGlu5ポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)を用いた試験については、低受容体発現レベル及び低構成的受容体活性を有する細胞株を選択することで、アゴニスト活性対PAM活性の差別化を可能にした。細胞は、標準プロトコール(Freshney, 2000)に従い、1mMグルタミン、10%(vol/vol)加熱不活性化子ウシ血清、ペニシリン/ストレプトマイシン、50μg/mLハイグロマイシン及び15μg/mLブラストサイジンを補充した、高グルコースのダルベッコ変法イーグル培地で培養した(細胞培養試薬及び抗生物質は全てInvitrogen(Basel, Switzerland)から)。
【0015】
実験の約24時間前、ポリ−D−リシンでコーティングしたブラック/クリア底の96ウェルプレートに、5×10
4細胞/ウェルを播種した。ローディングバッファー(1×HBSS、20mM HEPES)中の2.5μM Fluo-4AMを、37℃で1時間、細胞に負荷し、ローディングバッファーで5回洗浄した。細胞をFunctional Drug Screening System 7000 (Hamamatsu, Paris, France)に移し、試験化合物の11種類の半対数段階希釈液を37℃で加え、オンラインで蛍光の記録を取りながら、細胞を10〜30分間培養インキュベーションした。このプレインキュベーション工程の後、オンラインで蛍光の記録を取りながら、アゴニストのL−グルタマートをEC
20に相当する濃度(典型的には、約80μM)で細胞に加えた。細胞の応答性の毎日の変化を説明するために、グルタマートの総用量反応曲線の記録によって各実験の直前にグルタマートのEC
20を決定した。
【0016】
応答は、蛍光のピーク増加から基底値(すなわち、L−グルタマートの添加なしの蛍光)を差し引いたものとして測定し、L−グルタマートの飽和濃度で得られた最大刺激効果に対して正規化した。グラフは、Levenburg Marquardtアルゴリズムを使用してデータを反復的にプロットする曲線あてはめプログラム(curve fitting program)であるXLfitを用いて最大刺激%でプロットした。使用した単一部位競合分析式(single site competition analysis equation)は、y=A+((B−A)/(1+((x/C)D)))[式中、yは、最大刺激効果%であり、Aは、最小yであり、Bは、最大yであり、Cは、EC
50であり、xは、競合化合物の濃度のlog10であり、そしてDは、曲線の傾き(ヒル係数)である]であった。これらの曲線から、EC
50(最大刺激の半分が達成された濃度)、ヒル係数、及びL−グルタマートの飽和濃度で得られた最大刺激効果の最大応答(=効果)(%)を計算した。
【0017】
PAM試験化合物を用いたプレインキュベーションの間(すなわち、EC
20濃度のL−グルタマートの適用前)に得られたポジティブシグナルはアゴニスト活性を示しており、このシグナルの非存在は、アゴニスト活性がないことを表していた。EC
20濃度のL−グルタマートの添加後に観察されたシグナルの低下は、試験化合物の阻害活性を示していた。
【0018】
以下の実施例のリストに、EC
50<30nMである全化合物の対応する結果を示す。
【0019】
代謝的活性化後のグルタチオン(GSH)付加アッセイ:
グルタチオン複合体を検出するためのアッセイ条件は、C. M. Dieckhaus et al.によりChem. Res. Toxicol., 18, 630-638 (2005)に記載された手順に従う。反応性代謝物への共有結合付加体の質量が明確に検出された試料は、FLAG(陽性)と示す。付加体が検出されなかった化合物はFLAGなし(陰性)と表す。
【0020】
本発明の化合物と、WO2011128279の実施例20、72、76、79、81及び103の参考化合物との比較:
本発明の化合物は全て参考化合物と比較して類似の有効性を有する。さらに、本発明の化合物は、参考化合物の著しく高い値(80%超)と比較して、全て60%をはるかに下回る効果を示し、これはmGluR5ポジティブアロステリックモジュレーターの忍容性の問題に関する基準である。60%超の効果値が高い化合物は、所望の治療効果が認められる投与量に近い投与量(低い治療濃度域)で経口投与した後、重篤なCNS関連副作用(発作)を示す。60%未満の効果の化合物は、治療量より30〜1000倍高くてもよい投与量で十分に忍容され、同時に所望の治療効果を維持することができる。したがって、一般的に言えば、本発明の化合物は、効果値が60%未満であるために薬物安全性の点から明らかに有利であり、先行技術の構造類似化合物と比較して重篤なCNS副作用の不都合がないことにつながる。驚くべきことに、本発明のいくつかの化合物もまた、参考化合物と比較して非常に優れた溶解性を示す。溶解性が優れているほど、薬物吸収が向上し、遊離画分値(free fraction value)が高く、それにより標的に対する薬物の有効性(availability)が高まることが当業者に周知である。これは、中枢神経系区画を標的とする薬物に特に有効である。
【0021】
最終的に、本発明の化合物は、代謝活性化(GSHアッセイ)後、グルタチオン(glutatione)との反応を示さない。化学的反応性の薬物とタンパク質の反応(共有タンパク質結合(CVB))は、薬物安全性の点から望ましくない特性である。タンパク質は、求核性アミノ酸側鎖(例えば、システイン、セリン、リシンなど)を介して薬物分子の反応性代謝物に共有結合付加体を形成することができる。薬物−タンパク質付加体の形成は免疫系の望ましくない反応につながることがあり、共有結合で結合したタンパク質を異物として認識する。このような免疫応答は、免疫毒性と呼ばれる様々な強度のアレルギー反応を引き起こす可能性がある。
【0022】
「ゴールドスタンダード(gold standard)」CVB(共有結合)アッセイは、ヒト肝ミクロソーム(HLM)と共に試験化合物をインキュベーションすることにより共有結合付加体の形成を検出するものであり、14C標識物質を用いて行う必要がある。これはルーチンスクリーニングの目的には適していない。代謝活性化後のグルタチオンアッセイ(アッセイの説明を参照)がルーチンスクリーニングに適切であり、このアッセイで顕著な活性を示す化合物はCVBアッセイで活性を示す可能性が非常に高い。上記のデータにより、本発明の化合物は、共有結合薬物−グルタチオン付加体(FLAGなし)を形成する傾向が非常に低く、一方、対応する参考化合物はかなりの量のグルタチオン複合体(FLAG)を形成することが示されている。したがって、概して言えば、本発明の化合物は、先行技術の構造類似化合物と比較して反応性代謝物を形成する傾向が著しく低いため、薬物安全性の点から明らかに有利である。
【0023】
実施例のリスト:
【表1】
【0024】
式Iで示される化合物は有効な治療的性質を有することにより識別される。これらの化合物は、mGluR5受容体のアロステリックモジュレーターに関係する疾患の治療又は予防で使用することができる。
【0025】
アロステリックモジュレーターである化合物の最も好ましい適応症は統合失調症及び認知(cognition)である。
【0026】
本発明は、式Iで示される化合物及びそれらの薬学的に許容しうる塩、薬学的活性物質としての上記化合物、その製造方法、ならびに統合失調症及び認知などのmGluR5受容体のアロステリックモジュレーターに関係する疾患の治療又は予防での使用、ならびに式Iで示される化合物を含有する医薬組成物に関する。
【0027】
本明細書に使用される一般的用語の以下の定義は、当該の用語が単独で又は組み合わせで現れるかに関わらず適用する。
【0028】
用語「薬学的に許容しうる塩」又は「薬学的に許容しうる酸付加塩」は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、マレイン酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの無機酸及び有機酸との塩を含む。
【0029】
本発明の実施形態は、式I
【0030】
【化2】
[式中、
R
1は、フェニル、3−フルオロフェニル、4−フルオロフェニル又は2,5−ジ−フルオロフェニルである]
で示される絶対配置の鏡像異性的に純粋な形態における、式Iで示される化合物又は薬学的に許容しうる酸付加塩である。
【0031】
式Iで示される化合物は以下の通りである:
(4aS,7aR)−1−(5−フェニルエチニル−ピリジン−2−イル)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン、
(4aS,7aR)−1−[5−(3−フルオロフェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン、
(4aS,7aR)−1−(5−((4−フルオロフェニル)エチニル)−ピリジン−2−イル)ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2(1H)−オン、
(4aS,7aR)−1−[5−(2,5−ジフルオロフェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン。
【0032】
本発明の式Iで示される化合物の調製は、連続的又は収束的合成経路で行うことができる。本発明の化合物の合成は以下のスキーム1〜3に示す。反応及び得られた生成物の精製を行うために必要な技術は当業者に公知である。以下の方法の説明で使用される置換基及び添字は上記の意味を有する。
【0033】
式Iで示される化合物は、下記の方法、例で示される方法、又は類似の方法により製造することができる。各反応工程に適した反応条件は当業者に公知である。しかしながら、反応順序はスキームに示したものに限定されず、出発物質及びその各反応性に応じて、反応工程の順序は自由に変更することができる。出発物質は、市販のものでも、下記の方法と類似した方法、本明細書で引用された参考文献もしくは実施例に記載の方法、又は当該技術分野において公知の方法によって調製してもよい。
【0034】
式Iで示される本化合物及びそれらの薬学的に許容しうる塩は、当該技術分野において公知の方法、例えば下記のプロセスバリアントによって調製されてもよく、このプロセスは、
a)式3
【化3】
で示される化合物(ここで、式3で示される化合物は、ラセミ混合物であるか鏡像異性的に純粋な形態である)を、式4
【化4】
[式中、Yは、ハロゲン、好ましくはフッ素、臭素又はヨウ素である]で示される好適なアリールアセチレン・ハロ−ピリジン化合物と反応させ、
鏡像異性的に純粋な形態、もしくは当業者に公知の方法を用いて鏡像異性体が分離可能なラセミ混合物として式I
【化5】
[式中、置換基は上記の通りである]で示される化合物を形成し、所望により、得られた化合物を薬学的に許容しうる酸付加塩に変換するか、又は
b)鏡像異性的に純粋な形態もしくはラセミ混合物としての式II
【化6】
[式中、Xは、ハロゲン、好ましくはヨウ素又は臭素である]で示される化合物を
式5
【化7】
[式中、Qは、水素又はトリアルキルシリル基である]で示されるアセチレン化合物と反応させ、
鏡像異性的に純粋な形態、又は当業者に公知の方法を用いて分離可能なラセミ混合物として式I
【化8】
[式中、置換基は請求項1に記載される]で示される化合物を形成し、所望により、得られた化合物を薬学的に許容しうる酸付加塩に変換することを含む。
【0035】
式Iで示される化合物の調製は、スキーム1〜3及び実施例1〜4でより詳細にさらに記載されている。
【0036】
【化9】
【0037】
式3で示される化合物は、式1で示されるラセミ又は光学的に純粋な保護されたアミノ酸から出発し、THF中で水素化アルミニウムリチウムにより還元することでアルコール2を形成し、その後、塩基性条件下で環化し、二環式カルバミン酸エステル3を生成することで得ることができる。ハロピリジン−アリールアセチレン4は、適切に置換されたアリールアセチレン誘導体5(式中、Qは、水素又はin−situで切断可能な保護基(例えばトリアルキルシリル基又はアリールジアルキルシリル基)のいずれかであり、好ましくは水素又はトリメチルシリルである)と、例えば2−フルオロ−5−ヨードピリジン又は2−ブロモ−5−ヨードピリジンとの薗頭カップリングにより合成される。二環式カルバミン酸エステル3の存在下において、Yがフッ素の場合は塩基触媒求核置換(例えばNaH/DMF;又はCs
2CO
3/トルエン)、又はYが臭素である場合はパラジウム触媒条件(Buchwald)により、式Iで示される化合物が得られる(スキーム1)。
【0038】
【化10】
【0039】
あるいは、上記の条件を用いた、カルバミン酸エステル3と、2−フルオロ−5ヨードピリジン又は2−ヨード−5−ブロモピリジンなどのジハロピリジンとの反応によっても、式II[式中、Xがヨウ素又は臭素である]で示される化合物を得ることができる(スキーム2)。その後、化合物IIを、パラジウム触媒カップリング条件下で、適切に置換されたアリールアセチレン誘導体5と反応させ(薗頭反応)、式Iで示される化合物を形成する。あるいは、アセチレン部分を次の二工程で形成してもよい。まず化合物IIを、例えばトリメチルシリルアセチレンなどの部分的に保護されたアセチレン化合物と反応させて、式Ibで示される中間化合物を得、その後、適切に置換されたアリールハロゲン化物[式中、Xは臭素又はヨウ素である]と薗頭反応を行い(フッ化物の存在下で行い、in−situでシリル保護基を切断する)、式Iで示される化合物を形成する(スキーム3)。
【0040】
【化11】
【0041】
ラセミ体3を使用する場合、鏡像異性体は、当業者に公知の手順を用いて、式Iで示される化合物の合成中に任意の所与の段階で分離することができる。
【0042】
本明細書に記載の式Iで示される化合物及びその薬学的に許容しうる塩は、精神病、癲癇、統合失調症、アルツハイマー病、認知症疾患及び記憶障害、慢性及び急性の疼痛、バイパス手術もしくは移植により起きる脳機能障害、脳への血液供給不足、脊髄損傷、頭部損傷、妊娠により起きる低酸素症、心拍停止及び低血糖症、虚血、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、AIDSにより起きる認知障害、眼損傷、網膜症、特発性パーキンソン症候群又は薬品により起きるパーキンソン症候群、筋痙攣、発作、片頭痛、尿失禁、胃腸逆流症、薬物又は疾患誘導性の肝障害又は肝不全、脆弱X症候群、ダウン症候群、自閉症、ニコチン中毒、アヘン中毒、不安、嘔吐、運動障害、摂食障害、特に過食症又は神経性食欲不振症、及びうつ病の治療又は予防に、特に、急性及び/又は慢性の神経疾患、不安の治療及び予防に、慢性及び急性の疼痛、尿失禁及び肥満の処置に使用される。
【0043】
好ましい適応症は統合失調症及び認知症疾患である。
【0044】
本発明はさらに、好ましくは上記の疾患を治療及び予防するための薬品の製造のための、本明細書に記載される式Iで示される化合物及びその薬学的に許容しうる塩の使用に関する。
【0045】
生物学的アッセイ及びデータ:
上記の細胞内Ca
2+動員アッセイをEC
50値の測定に使用した。
【0046】
以下の実施例のリストに、EC
50値が22nM以下である全化合物の対応する結果を示す。
【0047】
【表2】
【0048】
式(I)で示される化合物及びその薬学的に許容しうる塩は、例えば医薬調製剤の形態で、薬品として使用することができる。医薬調製剤は、例えば、錠剤、コーティング錠、糖衣錠、硬質及び軟質のゼラチンカプセル剤、液剤、乳剤又は懸濁剤の形態で、経口投与することができる。しかしながら、例えば坐剤の形態で直腸内に投与することも、又は、例えば注射液の形態で非経口的に投与することもできる。
【0049】
式(I)で示される化合物及びその薬学的に許容しうる塩は、医薬調製剤を製造するための薬学的に不活性な無機又は有機の担体で処理することができる。ラクトース、コーンスターチ又はその誘導体、タルク、ステアリン酸又はその塩などは、例えば、錠剤、コーティング錠、糖衣錠、及び硬質ゼラチンカプセル剤用のそのような担体として使用することができる。軟質ゼラチンカプセル剤に好適な担体は、例えば、植物油、蝋、脂肪、半固体及び液体のポリオールなどである。しかしながら、軟質ゼラチンカプセル剤の場合、活性物質の性質に応じて、通常、担体は必要ではない。液剤及びシロップ剤の製造に好適な担体は、例えば、水、ポリオール、スクロース、転化糖、及びグルコースなどである。式(I)で示される化合物の水溶性塩の注射用水溶液には、アルコール、ポリオール、グリセロール及び植物油などのアジュバントを使用することができるが、一般に必要ではない。坐剤に好適な担体は、例えば、天然油又は硬化油、蝋、脂肪、半液体又は液体のポリオールなどである。
【0050】
さらに、医薬調製剤は、防腐剤、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、着香剤、浸透圧を変えるための塩、緩衝剤、マスキング剤又は酸化防止剤を含有することができる。医薬調製剤はまた、さらに別の治療上貴重な物質を含有することができる。
【0051】
上述したように、式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容しうる塩及び治療上不活性な賦形剤を含有する薬品も本発明の目的であり、同様に、そのような薬品を製造するプロセスも本発明の目的であり、ここで、上記プロセスは、1種以上の式Iで示される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と、所望により、1種以上の他の治療上貴重な物質を合わせて、1種以上の治療上不活性な担体と一緒にガレヌス製剤(galenical dosage form)とすることを含む。
【0052】
さらに上述したように、上記の疾患の予防及び/又は治療に有用な薬品の調製のための式(I)で示される化合物の使用もまた本発明の目的である。
【0053】
投与量は、広い範囲内で変更することができるが、当然のことながら、それぞれの特定の場合における個々の要件に合わせられる。一般に、経口投与又は非経口投与に有効な投与量は1日当たり0.01〜20mg/kgであり、1日当たり0.1〜10mg/kgの投与量が上記の適応症全てに好ましい。したがって、体重70kgの成人に対する1日の投与量は、1日当たり0.7〜1400mg、好ましくは、1日当たり7〜700mgである。
【0054】
本発明の化合物を含む医薬組成物の調製:
以下の組成の錠剤を従来の方法で製造する:
mg/錠
有効成分 100
粉末ラクトース 95
ホワイトコーンスターチ 35
ポリビニルピロリドン 8
カルボキシメチルスターチNa 10
ステアリン酸マグネシウム 2
錠剤の重量 250
【0055】
実施例1
(4aS,7aR)−1−(5−フェニルエチニル−ピリジン−2−イル)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
【化12】
【0056】
工程1:((1R,2S)−(2−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−カルバミン酸tert−ブチルエステル
【化13】
0.94g(24.7mmol、2当量)のLiAlH
4の十分撹拌した0℃のTHF懸濁液(30ml)に、(1S,2R)−メチル 2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−シクロペンタンカルボキシラート(CAS:592503−55−4)(3.0g、12.3mmol)の溶液を0℃で滴下した(ガス発生、軽度の発熱)。0℃で15分後、反応混合物を室温まで昇温させ、2時間撹拌した。混合物を0℃まで冷却し、水を滴下した。沈殿した無機塩をCeliteを通して濾過し、酢酸エチルで洗浄した。濾液を蒸発させ、ヘプタン中0%〜50%の酢酸エチルのグラジエントで溶離するシリカゲルのカラムクロマトグラフィーにより残渣を精製し、1.99g(75%)の標記化合物を結晶性白色固体として得、次の工程で直接使用した。
【0057】
工程2:(4aS,7aR)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
【化14】
((1R,2S)−2−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−カルバミン酸tert−ブチルエステル(1.6g、7.43mmol)のTHF溶液(40ml)に、カリウムtert−ブトキシド(3.34g、29.7mmol、4.0当量)を室温で加えた。60℃で1時間撹拌した後、反応物を室温まで昇温し、酢酸エチル/水での後処理、乾燥及び真空下での濃縮後、粗製混合物をシリカに吸着させ、プレパックシリカカラム(50g、ヘプタン中50%〜100%の酢酸エチルのグラジエント)でクロマトグラフィーを行い、950mg(91%)の標記化合物を白色固体として得、次の工程で直接使用した。
【0058】
工程3:2−フルオロ−5−フェニルエチニル−ピリジン
【化15】
アルゴン下で100mlの二口丸底フラスコ内で、2−フルオロ−5−ヨードピリジン(5.0g、22.4mmol、1.0当量)をTHF(30ml)に溶解させた。室温で5分後、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロリド(944mg、1.35mmol、0.06当量)、トリエチルアミン(6.81g、9.32ml、67.3mmol、3.0当量)、フェニルアセチレン(2.75g、2.95ml、26.9mmol、1.2当量)、及びヨウ化銅(I)(128mg、0.67mmol、0.03当量)を加えた。褐色の懸濁液を水で室温まで冷却し(発熱性)、一晩撹拌した。その後、200mlのジエチルエーテルを加え、混合物を濾過し、エーテルで洗浄し、真空下で濃縮し、5.7gの褐色固体を得た。この褐色固体をシリカに吸着させ、100gのプレパックシリカカラムでヘプタン中0〜10%の酢酸エチルのグラジエントで溶離するクロマトグラフィーを2回に分けて行い、淡褐色の固体として、3.99g(91%)の標記化合物(MS: m/e = 198.1 (M+H
+))を得た。
【0059】
工程4:(4aS,7aR)−1−(5−フェニルエチニル−ピリジン−2−イル)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
10mlの丸底フラスコ内で、(4aS,7aR)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d]−[1,3]オキサジン−2−オン(80mg、0.57mmol、1.0当量)及び2−フルオロ−5−(フェニルエチニル)ピリジン(112mg、0.57mmol、1.0当量)を2mlのDMFに溶解させた。水素化ナトリウム(60%の懸濁液)(29.5mg、0.74mmol、1.3当量)を加え、褐色の懸濁液を室温で一晩撹拌した。反応混合物を水でクエンチし、酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機相を乾燥させ、濾過し、濃縮した。粗製物は、ヘプタン中0〜50%の酢酸エチルの勾配で溶離するプレパックシリカカラムのフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、無色の非晶質固体として、42.5mgの標記化合物(MS: m/e = 319.1 (M+H
+))を得た。
【0060】
実施例2
(4aS,7aR)−1−[5−(3−フルオロフェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
【化16】
【0061】
工程1:2−フルオロ−5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン
【化17】
標記化合物を、実施例1の工程3の一般的な方法に従い、フェニルアセチレンの代わりに3−フルオロフェニルアセチレンを使用して調整し、結晶性の白色固体として、標記化合物(MS: m/e = 216.2 (M+H
+))を得た。
【0062】
工程2:(4aS,7aR)−1−[5−(3−フルオロフェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
標記化合物を、実施例1の工程4の一般的な方法に従い、(4aS,7aR)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d]−[1,3]オキサジン−2−オン(66mg、0.47mmol)(実施例1、工程2)及び2−フルオロ−5−((3−フルオロフェニル)エチニル)ピリジン(100mg、0.47mmol)を用いて調製し、淡黄色の非晶質固体として、48mg(31%)の標記化合物(MS: m/e = 337.3 (M+H
+))を得た。
【0063】
実施例3
(4aS,7aR)−1−[5−(4−フルオロフェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
【化18】
【0064】
工程1:2−フルオロ−5−(4−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン
【化19】
標記化合物を、実施例1の工程3の一般的な方法に従い、フェニルアセチレンの代わりに4−フルオロフェニルアセチレンを使用して調整し、淡褐色の固体として、標記化合物(MS: m/e = 216.2 (M+H
+))を得た。
【0065】
工程2:(4aS,7aR)−1−[5−(3−フルオロフェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
標記化合物を、実施例1の工程4の一般的な方法に従い、(4aS,7aR)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン(66mg、0.47mmol)(実施例1、工程2)及び2−フルオロ−5−((3−フルオロフェニル)エチニル)ピリジン(100mg、0.47mmol)を用いて調製し、無色の油として、22mg(14%)の標記化合物(MS: m/e = 337.4 (M+H
+))を得た。
【0066】
実施例4
(4aS,7aR)−1−[5−(2,5−ジフルオロフェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
【化20】
【0067】
工程1:(rac)−(4aSR,7aRS)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
【化21】
標記化合物を、実施例1の工程1及び2と同じ手順に従い、ラセミ体(1SR,2RS)−メチル2−(tert-ブトキシカルボニルアミノ)−シクロペンタンカルボキシラート(CAS:164916−42−1)から出発して調製し、無色の油として、標記化合物(MS: m/e = 142.3 (M+H
+))を得た。
【0068】
工程2:5−(2,5−ジフルオロ−フェニルエチニル)−2−フルオロ−ピリジン
【化22】
標記化合物を、実施例1の工程3の一般的な方法に従い、フェニルアセチレンの代わりに2,5−ジフルオロフェニルアセチレン(2,5-Difluororophenylacetylene)を使用して調整し、標黄色の固体として、記化合物(MS: m/e = 234.4 (M+H
+))を得た。
【0069】
工程3:(rac)−(4aSR,7aRS)−1−[5−(2,5−ジフルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
標記化合物を、実施例1の工程4の一般的な方法に従い、(rac)−(4aSR,7aRS)−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン(30mg、0.21mmol)(実施例4、工程2)及び5−(2,5−ジフルオロ−フェニルエチニル)−2−フルオロ−ピリジン(50mg、0.21mmol)を用いて調製し、黄色の油として、33mg(43%)の標記化合物(MS: m/e = 355.6 (M+H
+))を得た。
【0070】
工程4:(−)−(4aS,7aR)−1−[5−(2,5−ジフルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン
(rac)−(+/−)−(rac)−(4aSR,7aRS)−1−[5−(2,5−ジフルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン(実施例1)(33mg)のラセミ混合物を、キラルHPLC(Reprosil Chiral NR−5cm×50cm、20μM;40%エタノール/ヘプタン、35ml/分、18バール)により分離した。淡黄色の油として、(+)−(4aR,7aS)−1−[5−(2,5−ジフルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン(15mg)(MS: m/e = 355.6 (M+H+))を得、淡黄色の油として、(−)−(4aR,7aS)−1−[5−(2,5−ジフルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−ヘキサヒドロ−シクロペンタ[d][1,3]オキサジン−2−オン(14.9mg)(MS: m/e = 355.6 (M+H+))を得る。