特許第6027256号(P6027256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60272563D造形物の作成方法及び3D造形物のコーティング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027256
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】3D造形物の作成方法及び3D造形物のコーティング方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 67/00 20060101AFI20161107BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALN20161107BHJP
   B33Y 70/00 20150101ALN20161107BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALN20161107BHJP
【FI】
   B29C67/00
   !B33Y10/00
   !B33Y70/00
   !B33Y80/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-539242(P2015-539242)
(86)(22)【出願日】2014年9月24日
(86)【国際出願番号】JP2014075225
(87)【国際公開番号】WO2015046217
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-197577(P2013-197577)
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127031
【氏名又は名称】株式会社アルテコ
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171435
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 尚子
(72)【発明者】
【氏名】西村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 彰訓
(72)【発明者】
【氏名】福島 幸男
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−067138(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/037529(WO,A1)
【文献】 特表2007−502713(JP,A)
【文献】 特開2002−030269(JP,A)
【文献】 特開2000−053924(JP,A)
【文献】 特開2010−196099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンターで熱溶解性樹脂を吐出すると共に所定の積層ピッチで3次元に積層させて3D造形物を形成し、
形成した3D造形物の表面に2−シアノアクリル酸エステルを主成分とするコーティング剤を塗布することにより積層された熱溶解性樹脂の隙間に前記コーティング剤を浸透させて充填させ、
積層された前記熱溶解性樹脂と同等の硬さ又は積層された前記熱溶解性樹脂より柔らかくなるように塗布した前記コーティング剤を硬化させ、
前記コーティング剤の硬化後に前記3D造形物の表面を研磨することで前記積層された熱溶解性樹脂により形成された積層線に沿った隙間を埋める3D造形物の作成方法。
【請求項2】
前記積層ピッチは0.1mm以上0.5mm以下であり、前記コーティング剤の粘度は1mPa・s以上100mPa・s以下である請求項1記載の3D造形物の作成方法。
【請求項3】
前記コーティング剤は、その硬化後のデュロメータ硬さが前記熱溶解性樹脂のデュロメータ硬さの70%以上125%以下となるように調整されている請求項2記載の3D造形物の作成方法。
【請求項4】
3Dプリンターで熱溶解性樹脂が吐出されると共に所定の積層ピッチで3次元に積層されて形成された3D造形物の表面にコーティング剤を塗布する3D造形物のコーティング方法であって、
前記コーティング剤は、2−シアノアクリル酸エステルを主成分とするものであり、
積層された熱溶解性樹脂の隙間に前記コーティング剤を浸透させて充填させ、
積層された前記熱溶解性樹脂と同等の硬さ又は積層された前記熱溶解性樹脂より柔らかくなるように塗布した前記コーティング剤を硬化させ、
前記コーティング剤の硬化後に前記3D造形物の表面を研磨することで前記積層された熱溶解性樹脂により形成された積層線に沿った隙間を埋める3D造形物のコーティング方法。
【請求項5】
前記積層ピッチは0.1mm以上0.5mm以下であり、前記コーティング剤の粘度は1mPa・s以上100mPa・s以下である請求項4記載の3D造形物のコーティング方法。
【請求項6】
前記コーティング剤は、その硬化後のデュロメータ硬さが前記熱溶解性樹脂のデュロメータ硬さの70%以上125%以下となるように調整されている請求項5記載の3D造形物のコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D造形物の作成方法及び3D造形物のコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱溶解性樹脂積層3Dプリンターを用いた3D造形物の作成方法としては、例えば特許文献1に記載の方法が知られている。この熱溶解性樹脂には、例えばABS(acrylonitrile butadiene styrene)樹脂、PLA(polylactic acid)樹脂やポリアミド樹脂などが用いられる。
【0003】
同文献に記載のごとき、熱溶解性樹脂積層タイプの3Dプリンターによる3D造形物は、図1に示すように、プリンターヘッドから吐出した樹脂が、例えばY軸方向に走査され、X軸方向に順次積層されて平面が形成され、平面形成後、Z軸方向に順次積層されることで作成される。ここで、積層ピッチPは、図2,3に示すように、X軸及びZ軸に積み上がる幅(樹脂径)であり、このピッチPの違いにより外観の仕上がりと造形時間に差が出る。ピッチPが狭いと樹脂R間の隙間Sは小さくなるため、積層に時間がかかり造形時間は長くなるが造形物の表面は綺麗に仕上がる。逆に、ピッチPが広いと造形時間は短くなるが、図3に示すように、樹脂R間の隙間Sが大きくなり造形物表面の凸凹(積層線L)が目立ち、外観が劣る。造形時間の差はコスト差となり、造形物の外観を綺麗に仕上げようとすると時間とコストがかかり、コストを抑えると外観が劣り、造形サンプルとしては不十分なものとなる。また、造形時に樹脂の欠損やクラックが入ることがあり、この補修にも時間がかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−24552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、強度を有しながら外観も良く、短時間で造形物を作成することの可能な3D造形物の作成方法及び3D造形物のコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る3D造形物の作成方法の特徴は、3Dプリンターで熱溶解性樹脂を吐出すると共に所定の積層ピッチで3次元に積層させて3D造形物を形成し、形成した3D造形物の表面に2−シアノアクリル酸エステルを主成分とするコーティング剤を塗布することにより積層された熱溶解性樹脂の隙間に前記コーティング剤を浸透させて充填させ、積層された前記熱溶解性樹脂と同等の硬さ又は積層された前記熱溶解性樹脂より柔らかくなるように塗布した前記コーティング剤を硬化させ、前記コーティング剤の硬化後に前記3D造形物の表面を研磨することで前記積層された熱溶解性樹脂により形成された積層線に沿った隙間を埋めることにある。
【0007】
上記特徴によれば、熱溶解性樹脂の隙間にコーティング剤を浸透させることにより充填するので、積層された熱溶解性樹脂の間に形成される隙間がコーティング剤によって埋まり、3D造形物の表面の平滑性が向上する。また、コーティング剤の2−シアノアクリル酸エステルは浸透しやすいので、その2−シアノアクリル酸エステルの硬化によって、熱溶解性樹脂積層3Dプリンターによる3D造形物の強度を向上させることができる。そして、コーティング剤の硬化後にその表面を研磨するので、例えば図4(d)に示すように、少ない研磨量で造形物の寸法を維持して表面を平滑することができ、同図(b)に示す如く熱溶解性樹脂の多くの部分R’を研磨する必要がない。よって、作業性を低下させることなく、造形物の美観を向上させることができる。このように、2−シアノアクリル酸エステルの浸透による表面の平滑性の向上及び造形物の強度向上の複合性によって、3Dプリンターの積層ピッチを広くしても3D造形物の強度が低下することがなく、積層線に沿った隙間を埋めることで積層線が目立つことを防ぎ、外観の仕上がりも綺麗となる。そして、広い積層ピッチで作成できるので、作成時間を短縮でき、製造コストを抑えることができる。
また、前記積層ピッチは0.1mm以上0.5mm以下であり、前記コーティング剤の粘度は1mPa・s以上100mPa・s以下であるとよい。
前記コーティング剤は、その硬化後のデュロメータ硬さが前記熱溶解性樹脂のデュロメータ硬さの70%以上125%以下となるように調整されるとよい。
【0008】
また、本発明に係る3D造形物のコーティング方法の特徴は、3Dプリンターで熱溶解性樹脂が吐出されると共に所定の積層ピッチで3次元に積層されて形成された3D造形物の表面にコーティング剤を塗布する3D造形物のコーティング方法において、前記コーティング剤は、2−シアノアクリル酸エステルを主成分とするものであり、積層された熱溶解性樹脂の隙間に前記コーティング剤を浸透させて充填させ、積層された前記熱溶解性樹脂と同等の硬さ又は積層された前記熱溶解性樹脂より柔らかくなるように塗布した前記コーティング剤を硬化させ、前記コーティング剤の硬化後に前記3D造形物の表面を研磨することで前記積層された熱溶解性樹脂により形成された積層線に沿った隙間を埋めることにある。
【0009】
上記特徴によれば、熱溶解性樹脂の隙間にコーティング剤を浸透させることにより充填するので、積層された熱溶解性樹脂の間に形成される隙間がコーティング剤によって埋まり、3D造形物の表面の平滑性が向上する。また、コーティング剤の2−シアノアクリル酸エステルは浸透しやすいので、その2−シアノアクリル酸エステルの硬化によって、熱溶解性樹脂積層3Dプリンターによる3D造形物の強度を向上させることができる。そして、コーティング剤の硬化後にその表面を研磨するので、例えば図4(d)に示すように、少ない研磨量で造形物の寸法を維持して表面を平滑することができ、同図(b)に示す如く熱溶解性樹脂の多くの部分R’を研磨する必要がない。よって、作業性を低下させることなく、造形物の美観を向上させることができる。このように、2−シアノアクリル酸エステルの浸透による表面の平滑性の向上及び造形物の強度向上の複合性によって、3Dプリンターの積層ピッチを広くしても3D造形物の強度が低下することがなく、積層線に沿った隙間を埋めることで積層線が目立つことを防ぎ、外観の仕上がりも綺麗となる。そして、広い積層ピッチで作成できるので、作成時間を短縮でき、製造コストを抑えることができる。
【0012】
また、前記積層ピッチは0.1mm以上0.5mm以下であり、前記コーティング剤の粘度は1mPa・s以上100mPa・s以下であるとよい。これにより、表面に塗布されたコーティング剤は、熱溶解性樹脂の隙間へよりスムースに浸透して充填されて硬化するので、より複合的に美観の向上と強度の向上が図られる。
【0013】
さらに、硬化したコーティング剤は、前記熱溶解性樹脂と同等の硬さ又は前記熱溶解性樹脂より柔らかいとよい。例えば、前記コーティング剤は、その硬化後のデュロメータ硬さが前記熱溶解性樹脂のデュロメータ硬さの70%以上125%以下となるように調整されているとよい。これにより、造形物の表面を研磨により平滑にする際に、一方の材料に偏って研磨されることがなく、バランスよく研磨することができ、より美観を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明に係る3D造形物の作成方法及び3D造形物のコーティング方法の特徴によれば、強度を有しながら外観も良く、短時間で3D造形物を作成することが可能となった。
【0015】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】熱溶解性樹脂積層タイプの3Dプリンターの3D造形物における樹脂の積層状況を説明する説明図である。
図2図1における積層ピッチを説明する説明図である。
図3図1における積層線を説明する説明図である。
図4】造形物の研磨状態を模式的に示す図であり、(a)はコーティング剤を塗布していない研磨前の状態、(b)は(a)の研磨後の状態、(c)はコーティング剤を塗布した研磨前の状態、(d)は(c)を研磨後の状態を示す。
図5】熱溶解性樹脂積層タイプの3Dプリンターで作成した3D造形物を示す斜視図である。
図6】3D造形物へのコーティング剤の塗布工程を示す図である。
図7】3D造形物への硬化促進剤の塗布工程を示す図である。
図8】3D造形物の研磨工程を示す図である。
図9】3D造形物の研磨工程後の仕上がりを示す図である。
図10】コーティング剤を塗布していない3D造形物の研磨状況を示す造形物表面の拡大図である。
図11】コーティング剤を塗布した3D造形物の研磨状況を示す造形物表面の拡大図である。
図12】3D造形物の修復工程を示す図である。
図13】3D造形物のサフェイサーを研磨により落とした状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明に係る熱溶解性樹脂積層3Dプリンター用コーティング剤1(以下、「コーティング剤」と称する。)は、ABS樹脂、PLA(ポリ乳酸)樹脂、ポリアミド樹脂等の熱溶解性樹脂をXY平面及びZ軸方向へ積層させる3Dプリンターによって形成される造形物に用いられるものである。
【0018】
この3Dプリンターで形成される3次元造形物は、積層ピッチPと積層時間によって製造コストが決定される。プリンターの機種にもよるが、積層ピッチPの最小と最大とを比較すると、積層時間は約2倍以上になり、製造コストは約1.5倍となる。積層ピッチPを大きくすることで、プリンターヘッドから吐出される樹脂Rは大きくなってその数は少なくなるので、積層時間が短縮され、コストが抑えられる。しかし、樹脂Rが大きくなるので、隣接する樹脂R間の隙間Sが大きくなり、成形物100の表面の凹凸が大きくなる。よって、隣接する樹脂R同士が接触することで形成される積層線Lが目立ち、造形物の美観が低下する。
【0019】
図4(a)に示すように、3D造形物100の表面には、積層された樹脂Rによって凹凸が形成される。この凹凸を消滅させるためには、図4(b)に示す如く、露出する樹脂R’を削らなければならず、3D造形物が小さくなってしまう。しかも、同図の例では、側面の凹凸は除去できていない。さらに、樹脂Rの研磨屑が隙間Sに入り込んでしまい、美観を損ねてしまう。なお、樹脂Rを研磨せずに例えば溶剤で溶解させて凹凸を消滅させることも考えられるが、この手法では寸法、形状の制御が困難である。
【0020】
一方、図4(c)に示すように、コーティング剤1を塗布すると、コーティング剤1が隙間Sに浸透することにより充填されると共に樹脂Rの外表面を薄く覆われる。そして、隙間Sに充填されたコーティング剤1の2−シアノアクリル酸エステルが硬化することで、隙間Sが埋まり且つ造形物100全体の強度が増す。また、図4(d)に示す如く、樹脂Rの表面のコーティング剤1を研磨すればよいので、造形物のサイズや形状の精度を維持したまま表面を平滑とし美観を向上させることが可能となる。このように、2−シアノアクリル酸エステルを主成分とするコーティング剤を浸透させることにより、造形物の平滑性及び強度向上の複合効果を得ることができる。しかも、同図に示す如く造形物100にコーティング剤1を塗布した場合、外寸が変わらない程度に研磨すれば平滑となり、しかも研磨量も少なく作業時間が増大することもない。
【0021】
また、図4(d)において、コーティング剤1が隙間Sから十分に溢れていない場合であっても、符号L1,L2に示す位置まで研磨したときは、樹脂Rの研磨量は図4(b)の例と比較しても十分に少ない。このように、研磨量の増加が抑制されるので、作業性が低下せず表面を平滑にすることができる。しかも、係る場合、コーティング剤1の硬化後の硬度と熱溶解性樹脂の硬度を同等にしておくことで、一方の材料に偏って研磨されることを防止することができる。
【0022】
コーティング剤1を積層ピッチPの広い3D造形物に適用することで、造形物100の表面に形成される隙間Sを埋没させて積層線Lを除去することができる。しかも、積層時間が長い積層ピッチPの狭い造形物の製作に比べ、仕上げまでの時間短縮とコストダウンとなり、仕上がりの美観も向上する。また、コーティング剤1を造形物の欠損部やクラックの補修に使用することで、3D造形物の仕上がりをさらに向上させることができる。
【0023】
なお、積層ピッチPは、3Dプリンターの機種によるが、例えば0.05mm〜0.5mmであり、本実施形態では例えば0.1mm〜0.5mmである。
本発明に係るコーティング剤1は、2−シアノアクリル酸エステルを主成分とするものである。このコーティング剤1には、増粘剤、希釈剤及び粘度低下剤、安定剤、増強剤、着色剤、促進剤、可塑剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤が必要に応じて適宜添加される。
【0024】
コーティング剤1の粘度は、0.1mPa・s以上1000mPa・s以下となるように調整されている。粘度が高すぎると、浸透性が悪くコーティング剤1が樹脂R間の隙間Sに入り込まず、またコーティング剤1の層が肉厚になって硬化が遅くなる。一方、粘度が低すぎると、樹脂R間の隙間Sを通り抜けてしまい、隙間Sを埋めることができない。好ましくは、1mPa・s以上100mPa・s以下である。この粘度の範囲であれば、上述の積層ピッチPが0.1mm〜0.5mmの3D造形物100の隙間Sを埋めることができる。なお、補修用の場合、500mPa・s以上、好ましくはゼリー状が適している。よって、コーティング剤1の粘度を上記数値範囲に調整する。
【0025】
さらに、コーティング剤1は、その硬化後の硬度が3D造形物を構成する熱溶解性樹脂の硬度と同等又は柔らかくなるように調整されている。熱溶解性樹脂よりも硬化したコーティング剤が硬いと3D造形物が専ら削られ、逆に硬化したコーティング剤が柔らかいとコーティング剤が専ら削られるため、均一な表面にならない。例えば、ABS樹脂のデュロメータ硬さは75〜85、PLA樹脂のデュロメータ硬さは75〜83、ポリアミド樹脂のデュロメータ硬さは65〜75である。他方、コーティング剤1の硬化後のデュロメータ硬さは、後述する2−シアノアクリル酸エステルの種類や可塑剤のコーティング剤1への添加量によって調整可能である。硬化したコーティング剤のデュロメータ硬さが熱溶解性樹脂のデュロメータ硬さに対し70%以上125%以下の数値となるように調整する。これにより、コーティング剤1が熱溶解性樹脂に対し同等の硬さとなるので、一方の材料が柔らかくなり過ぎず、研磨性がよく作業性も向上する。さらに好ましくは、80%以上100%未満の範囲内が好ましい。3D造形物100の大部分はコーティング剤1に覆われるため、コーティング剤1の硬化後の硬さを熱溶解性樹脂より若干柔らかくなるようにデュロメータ硬さを調整することで、さらに作業性が向上する。
【0026】
2−シアノアクリル酸エステルとしては、2−シアノアクリル酸メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、n−ペンチル、n−オクチル、メトキシエチル、エトキシエチル、エトキシプロピル等のエステルが挙げられるが、一般的にシアノアクリレート系接着剤に使用される2−シアノアクリル酸エステルを使用することができる。これらの2−シアノアクリル酸エステルは、1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。なお、硬化速度の点から、エチルシアノアクリレート、臭気の点でエトキシエチルシアノアルクレート、メトキシエチルシアノアルクレートが好ましい。2−シアノアクリル酸エステルが硬化することで、樹脂Rの隙間Sを埋めて表面を平滑すると共に3D造形物の強度を向上させる。また、積層線Lの除去も容易となる。
【0027】
増粘剤としては、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとの共重合体、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステルとの共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、疎水性シリカ等が挙げられるが、一般的にシアノアクリレート系接着剤に使用される増粘剤を使用することができる。これらの増粘剤は、1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。増粘剤は、2−シアノアクリル酸エステル100重量部に対して、0.1重量部以上30重量部以下の範囲で配合される。好ましくは、1重量部以上25重量部以下である。これより少なければ粘度を上げることができず、これより多いと溶解せずに残存する。
【0028】
希釈剤及び粘度低下剤は、積層ピッチが細かい場合に浸透性を向上させるためにコーティング剤の粘度を下げるものである。希釈剤および粘度低下剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等が挙げられるが、一般的にシアノアクリレート系接着剤に使用される希釈剤を使用することができる。これらの希釈剤および粘度低下剤は1種もしくは2種以上を混合して使用することが出来る。なお、希釈剤及び粘度低下剤は、2−シアノアクリル酸エステル100重量部に対して0.1重量部以上200重量部以下の範囲で配合される。さらに好ましくは、10〜150重量部である。この範囲以下では粘度低下効果がなく、これ以上になるとシアノアクリレートの比率が低くなりすぎるため、表面にコーティング剤が残存しなくなる。
【0029】
安定剤としては、二酸化イオウ、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、三弗化ホウ素ジエチルエーテル、HBF4、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、カテコール及びピロガロール等が挙げられるが、一般的にシアノアクリレート系接着剤に使用される安定剤を使用することができる。これらの安定剤は、1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。なお、安定剤は、2−シアノアクリル酸エステル100重量部に対して、0.01×10-6重量部以上5重量部以下の範囲で配合される。好ましくは、1×10-6以上0.5重量部以下である。
【0030】
促進剤としては、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキル、ポリエチレングリコールジアルキル、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、カリックスアレーン等が挙げられるが、一般的にシアノアクリレート系接着剤に使用される安定剤を使用することができる。これらの促進剤は、1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。なお、促進剤は、2−シアノアクリル酸エステル100重量部に対して、0.0001重量部以上5重量部以下の範囲で配合される。好ましくは、0.01重量部以上1重量部以下である。
【0031】
可塑剤としては、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、エチレンカーボネート等が挙げられるが、一般的にシアノアクリレート系接着剤に使用される可塑剤を使用することができる。これらの可塑剤は、1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。なお、可塑剤は、2−シアノアクリル酸エステル100重量部に対して、0.1重量部以上100重量部以下の範囲で配合される。この範囲以下では可塑剤添加の効果がなく、研磨性や切削性は未添加のものと変わらない。これ範囲以上では柔らかくなりすぎるため、かえって研磨性や切削性は悪くなる。好ましくは、10重量部以上50重量部以下である。
【0032】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが挙げられるが、一般的にシアノアクリレート系接着剤に使用される紫外線吸収剤を使用することができる。これらの紫外線吸収剤は1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。なお、紫外線吸収剤は、2−シアノアクリル酸エステル100重量部に対して、0.001重量部以上1重量部以下の範囲で配合される。好ましくは、0.01重量部以上0.5重量部以下である。
【0033】
代表的な添加剤等は上記のものが挙げられるが、これらに限定されることなく、一般的にシアノアクリレート系接着剤組成物に加えられる各種の添加剤を通常添加される濃度に含有してもよい。例えば、経時によるコーティング剤の変色を防止するために蛍光増白剤をさらに添加してもよい。また、フルオランテンやアントラセン等の着色剤を添加してもよい。
【0034】
さらに、コーティング剤と共に硬化促進剤(例えば、商品名:アルテコ スプレープライマー)を用いても構わない。これにより、コーティング剤の硬化時間をさらに短縮させて、製造コストの増加を抑制する。しかも、切削性が向上するので、研磨により外観がより綺麗になる。ここで、硬化促進剤の成分としては、例えば溶剤としてシクロペンタン、エチルアルコール、アセトン、ヘプタン等、硬化成分としてジメチルアニリン、ジメチルパラトルイジン、ジエチルメタトルイジン等、噴射ガスとしてLPG、ジメチルエーテル等が上げられる。
【0035】
次に、本発明に係るコーティング剤を用いた3D造形物の作成方法について説明する。
上述した熱溶解性樹脂積層3Dプリンターを用いて所定形状の3D造形物を作成する。図5に示すように、3D造形物100の表面には、複数の積層線Lが出現している。この3D造形物100の表面に、例えば図6に示す如く、専用筆10でコーティング剤1を塗布すると共に表面の凹部(樹脂R間の隙間S)にコーティング剤1を浸透させて充填させる。コーティング剤1は数分で乾き(硬化し)、造形物100の表面に光沢が出る。積層線Lが粗い場合、すなわち積層ピッチPが広い場合は、コーティング剤1を2度3度塗りするとよい。なお、専用筆10の毛先がPBT製であれば、コーティング剤1に浸していれば毛先が固まりにくく、繰返し使用することができる。コーティング剤1の塗布の後、図7に示すように、硬化促進剤20を塗布する。これにより、さらに硬化時間を短縮することができる。
【0036】
コーティング剤1が硬化すれば、図8に示すように、研磨仕上げにより造形物100の表面から積層線Lを消滅させる。研磨仕上げは、例えば、まず、研磨紙♯320〜#400で荒削りし、研磨紙♯800〜♯1000で研磨して、積層線Lを消去し、光沢ある造形物に仕上げる。さらに、3000番、8000番のコンパウンドで光沢仕上げを行う。これにより、図9に示すように、表面に積層線Lがなく光沢を有する3D造形物100となる。
【0037】
図10に模式的に示すように、造形時間短縮のため、積層ピッチPを荒く(大きく)して作成した3D造形物100の表面にコーティング剤1を塗布しない場合、上述の如き研磨作業を行ったとしても、表面の凹凸を研磨によって完全に除去することができず、積層線Lを消去することもできない。また、隙間Sに研磨粉が混入してしまい、美観も低下する。
【0038】
一方、図11に模式的に示すように、造形時間短縮のため、積層ピッチPを荒くして作成した造形物100の表面にコーティング剤1を塗布した場合、樹脂R間の隙間Sにコーティング剤1が含浸され、上述の如く研磨することで積層線Lを除去して表面を平滑に仕上げることができる。言い換えれば、本発明は、熱溶解性樹脂積層3Dプリンターにより製作された3D造形物のコーティング方法ともいえる。
【0039】
ここで、3D造形物100の表面にクラック等により凹んだりキズDが生じた場合、例えば、図12に示すように、キャピラリーノズル30により充填剤Fを充填し硬化させる。そして、そのキズD及びその周辺に上記コーティング剤1を塗布し、上記と同様に研磨する。
【0040】
なお、図13に示す如くコーティング剤1を塗布した表面を研磨した後に、さらに塗装仕上げを行ってもよい。
例えば、研磨紙#320〜#400で下地処理し、その後サフェイサーを均一に塗布する。乾燥後、研磨紙#1000でサフェイサーを除去し、研磨残りや溝がないか確認する。必要があれば、上記コーティング剤1やパテ等で補修する。補修後、サフェイサーを再度塗布して研磨紙#1000で研磨する。そして、塗料を塗布し、乾燥後にクリア塗装をし、コンパウンドで磨く。
【0041】
ここで、発明者らは、本発明の有用性を確認すべく、以下の実験を行った。なお、以下の実施例及び比較例を参照しながら本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
造形物1として、サイズ120×50×30mmの造形物をABS樹脂にて積層ピッチ0.254mmにて作成した。造形時間は50分であった。
造形物2として、サイズ120×50×30mmの造形物をPLA樹脂にて積層ピッチ0.127mmにて作成した。造形時間は120分であった。
造形物3として、サイズ120×50×30mmの造形物をABS樹脂にて積層ピッチ0.127mmにて作成した。造形時間は120分であった。
【0043】
[実施例1]
コーティング剤としてエチル−2−シアノアクリレート100重量部に対して、二酸化イオウを20重量ppm、ハイドロキノンを0.1重量部、フタル酸ジメチルを20重量部含有するシアノアクリレート組成物を調整した。また、このコーティング剤の硬化後のデュロメータ硬さを70とした。仕上げ作業として、造形物100表面にシアノアクリレート組成物を筆にて塗布した。その際、造形物の積層線(隙間)に筆を差し込むように塗布した。10分後自然硬化したことを確認し研磨作業を行った。研磨作業は研磨紙を#400→#1000→#3000→#8000と粗目から細目へと変えて積層線を削り、滑らかに仕上げた。
[実施例2]
エトキシエチル−2−シアノアクリレート100重量部に対して二酸化イオウを20重量ppm、ハイドロキノンを0.1重量部含有するシアノアクリレート組成物を調整した。また、このコーティング剤の硬化後のデュロメータ硬さを70とした。仕上げ作業は、実施例1と同様にした。
[実施例3]
エチル−2−シアノアクリレート100重量部に対して二酸化イオウを20重量ppm、ハイドロキノンを0.1重量部、ポリメタクリル酸メチルを10重量部、フタル酸ジオクチルを30重量部含有するシアノアクリレート組成物を調整した。また、このコーティング剤の硬化後のデュロメータ硬さを70とした。仕上げ作業は、実施例1と同様にした。
[実施例4]
実施例1の組成物を用い、造形物2表面に塗布し硬化促進剤としてアルテコ社の商品名「アルテコ スプレープライマー」を使用し硬化させた。仕上げ作業は、実施例1と同様にした。
[実施例5]
実施例4の仕上げ完了造形物に、アクリル塗料にて塗装を行った。
【0044】
[比較例1]
造形物1の仕上げ作業はなしとした。
[比較例2]
造形物1表面の研磨作業として、研磨紙を#400→#1000→#3000→#8000と粗目から細目へと変えて積層線を削り、滑らかに仕上げた。
[比較例3]
造形物3の仕上げ作業はなしとした。
[比較例4]
仕上げ作業として、造形物3表面にアセトンを筆にて塗布した。10分後自然乾燥したことを確認し研磨作業を行った。研磨作業は研磨紙を#400→#1000→#3000→#8000と粗目から細目へと変えて積層線を削り、滑らかに仕上げた。
[比較例5]
造形物2を研磨作業なしで、アクリル塗料にて塗装を行った。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなように、シアノアクリレート組成物をコーティング剤として用いた場合(実施例1〜5)、コーティング剤なしに比べ、造形物の凹凸がなくなり、非常に良好な美観になった。また、美観に優れる造形物を得るために積層ピッチを細かくする(比較例3)と、コーティング剤を使用するよりもコストが大幅に掛かり、さらに美観は及ばなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るコーティング剤及び3D造形物の作成方法は、3Dプリンターでの造形物作成の効率化および造形物の美観向上に有用である。
【符号の説明】
【0048】
1:コーティング剤、10:筆、20:硬化促進剤、30:キャピラリーノズル、100:3D造形物、D:キズ(クラック)、F:充填剤、L:積層線、P:積層ピッチ、R:熱溶解性樹脂、S:隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13