(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027260
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】難燃性二軸配向ポリエステルフィルム、それからなる難燃性ポリエステルフィルム積層体およびフレキシブル回路基板
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20161107BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20161107BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20161107BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20161107BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20161107BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20161107BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/5313
C08J5/18CFD
B32B15/09 Z
B32B27/18 B
B32B27/36
H05K1/03 610M
H05K1/03 670A
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-544954(P2015-544954)
(86)(22)【出願日】2014年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2014078219
(87)【国際公開番号】WO2015064469
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-223284(P2013-223284)
(32)【優先日】2013年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301020226
【氏名又は名称】帝人フィルムソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 有美子
(72)【発明者】
【氏名】水野 奈緒美
(72)【発明者】
【氏名】大宅 太郎
【審査官】
岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/090732(WO,A1)
【文献】
特開2010−174223(JP,A)
【文献】
特開2009−030044(JP,A)
【文献】
特開2012−051953(JP,A)
【文献】
特開2009−215347(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/143196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08L 67/00−67/03
B32B 15/00−15/20
27/00−27/42
C08K 5/00−5/59
H05K 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルム重量を基準としてポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートを70重量%以上99.5重量%以下、および下記式(1)もしくは下記式(2)で表される平均粒子径
1.0〜3.0μmの難燃剤粒子を0.5重量%以上30重量%以下含有し、
【化1】
(式中、R
1、R
2は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数を夫々表す)
【化2】
(式中、R
3、R
4は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、R
5は炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリレーン基
もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、mはMの価数を夫々表す)
前記ポリエステルフィルムの表面粗さのRmax(最大高さ)が3μm未満であり、
かつ該ポリエステルフィルム中に含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数が10個/m
2以下であることを特徴とする難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムの機械強度が150MPa以上である請求項1に記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
121℃、2気圧の飽和水蒸気中で10時間処理した後の前記ポリエステルフィルムの引張強度保持率が80%以上である請求項1に記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムの表面粗さRaが0.1μ以上0.5μm未満である請求項1に記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムと金属層とが積層された難燃性ポリエステルフィルム積層体。
【請求項6】
フレキシブルプリント回路基板用に用いられる請求項5に記載の難燃性ポリエステルフィルム積層体。
【請求項7】
請求項5に記載の難燃性ポリエステルフィルム積層体を用いたフレキシブル回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性を有する二軸配向ポリエステルフィルム、それからなる難燃性ポリエステルフィルム積層体およびフレキシブル回路基板に関するものであり、更に詳しくは難燃性に優れるとともに製膜性低下および機械特性の低下が抑制された難燃性二軸配向ポリエステルフィルム、それからなる難燃性ポリエステルフィルム積層体およびフレキシブル回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの電子機器の技術進歩に伴って、フレキシブルプリント回路(以下、FPCと略記することがある)基板の需要が急激に伸びている。近年、製造物責任法の施行に伴い、火災に対する安全性を確保するためにFPCに用いられる樹脂の難燃化が要望されている。
【0003】
従来用いられている有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物等のハロゲン系難燃剤は、難燃効果は高いものの、成形・加工時にハロゲンが遊離し、腐食性のハロゲン化水素ガスを発生して成形・加工機器を腐食させる可能性、また作業環境を悪化させる可能性が指摘されている。またこれらのハロゲン系難燃剤は、火災などの燃焼に際してハロゲン化水素等のガスを発生する可能性が指摘されている。そのため、近年ハロゲン系難燃剤に替わり、ハロゲンを含まない難燃剤を用いることが要望されている。
【0004】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを用いた二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルムおよび保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0005】
また、ポリエステル樹脂の難燃化方法の1つとして、リン化合物をポリエステルに共重合化させる方法が検討されている。例えば特開2007−9111号公報(特許文献1)において、カルボキシホスフィン酸成分の中でも特定のカルボキシホスフィン酸成分を用いることにより、他のリン化合物を併用しなくても少量でポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに高い難燃性を付与できることが開示されている。しかしながら、特許文献1のようなカルボキシホスフィン酸化合物を含有するポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムは、フィルムの状態では高い難燃性が発現するものの、フレキシブルプリント回路などの用途に加工した後の難燃性についてはフィルムの難燃性が再現されないことがあった。
【0006】
その他のリン系難燃剤として、例えば特開2009−179037号公報(特許文献2)、特開2010−89334号公報(特許文献3)において、ホスフィン酸金属塩などといった無機金属のリン酸系誘導体を含む難燃層をポリエステルフィルムに積層させた積層フィルムが提案されている。しかしながら提案されている積層フィルムは、多孔質基材フィルムのフィルム内部のボイド構造により燃焼性が高いことを鑑み、基材フィルム上に難燃剤と硬化剤とを用いた難燃層を設ける技術であった。また、特開2010−229390号公報(特許文献4)には無機金属のリン酸系誘導体を配合した組成物および難燃被覆電線が記載されているが、熱可塑性エラストマー樹脂を難燃化させる技術であり、熱可塑性エラストマー樹脂は伸度が高い樹脂であるため、難燃剤添加に伴う物性低下はあまり問題とならないものであった。また国際公開第2012/090732号パンフレット(特許文献5)には、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩を含有する難燃性ポリエステルフィルムが提案されており、ポリアルキレンテレフタレートやポリアルキレンナフタレートといったポリエステルフィルムそのものをリン系難燃剤で難燃化し、さらにこれら難燃剤による耐加水分解性低下が抑制された難燃性二軸配向ポリエステルフィルムが提案されている。
【特許文献1】特開2007−9111号公報
【特許文献2】特開2009−179037号公報
【特許文献3】特開2010−89334号公報
【特許文献4】特開2010−229390号公報
【特許文献5】国際公開第2012/090732号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩を難燃剤として用いたポリエステルフィルムの検討を進める過程で、これらの難燃剤をポリエステルフィルムに添加した場合、製膜性低下を伴いやすいこと、また得られるフィルムの機械強度が低下しやすいことを新たに課題として見出した。
【0008】
すなわち本発明の目的はかかる課題を解消し、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートといったポリエステルフィルムそのものをリン系難燃剤で難燃化し、これら難燃剤による耐加水分解性の低下が抑制され、さらに難燃剤による製膜性低下および機械特性の低下が抑制された難燃性二軸配向ポリエステルフィルム、それからなる難燃性ポリエステルフィルム積層体およびフレキシブル回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩はポリエステルと相溶せずにフィルム中で粒子等のように異物として存在しており、しかも粗大粒子の存在比率が高いため、これらの要因によって製膜性低下および機械特性の低下を引き起こしていることを見出し、粒子径とともに粗大な難燃剤粒子の頻度を制御することで製膜性と機械強度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の目的は、ポリエステルフィルム重量を基準としてポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートを70重量%以上99.5重量%以下、および下記式(1)もしくは下記式(2)で表される平均粒子径
1.0〜3.0μmの難燃剤粒子を0.5重量%以上30重量%以下含有し、
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R
1、R
2は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数をそれぞれ表す)
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、R
3、R
4は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、R
5は炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリレーン基
もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、mはMの価数を夫々表す)
前記ポリエステルフィルムの表面粗さのRmax(最大高さ)が3μm未満であり、
かつ該ポリエステルフィルム中に含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数が10個/m
2以下であることを特徴とする難燃性二軸配向ポリエステルフィルム(項1)
によって達成される。
【0015】
また本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムには以下の態様も好ましく包含される。
(項2) 前記ポリエステルフィルムの機械強度が150MPa以上である項1に記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
(項3) 121℃、2気圧の飽和水蒸気中で10時間処理した後の前記ポリエステルフィルムの引張強度保持率が80%以上である項1または2に記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
(項4) 前記ポリエステルフィルムの表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm未満である項1〜3のいずれかに記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【0016】
また本発明には以下の態様の発明も包含される。
(項5) 項1〜4のいずれかに記載の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムと金属層とが積層された難燃性ポリエステルフィルム積層体。
(項6) フレキシブルプリント回路基板用に用いられる項5に記載の難燃性ポリエステルフィルム積層体。
(項7) 項5または6に記載の難燃性ポリエステルフィルム積層体を用いたフレキシブル回路基板。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは製膜性に優れており、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートといったポリエステルが有する機械特性や耐加水分解性を低下させることなく、高い難燃性を備えているため、例えばフレキシブルプリント回路基板、フラットケーブル、太陽電池用バックシートなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
<難燃性二軸配向ポリエステルフィルム>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリマー成分として、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートをポリエステルフィルム重量を基準として70重量%以上99.5重量%以下の範囲で含有し、また下記式(1)もしくは下記式(2)で表される平均粒子径0.5〜3.0μmの難燃剤粒子を0.5重量%以上30重量%以下の範囲で含有し、
【0019】
【化3】
【0020】
(式中、R
1、R
2は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数をそれぞれ表す)
【0021】
【化4】
【0022】
(式中、R
3、R
4は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、R
5は炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリーレン基もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、nはMの価数をそれぞれ表す)
かつ該ポリエステルフィルム中に含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数は10個/m
2以下である。
【0023】
(ポリエステル)
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリマー成分としてポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートを用いる。該ポリマー成分の含有量は、ポリエステルフィルム重量を基準として70重量%以上99.5重量%以下の範囲である。これらポリマー成分の含有量の下限値は75重量%であることが好ましく、78重量%であることがより好ましく、80重量%であることがさらに好ましく、85重量%であることが特に好ましい。
【0024】
また、これらポリマー成分の含有量の上限値は、後述する難燃成分の含有量との関係で99重量%であることが好ましく、より好ましくは96重量%、さらに好ましくは92重量%、特に好ましくは90重量%である。
これらポリマー成分の含有量が下限値に満たないとフィルムの機械強度が低下する。一方、これらポリマー成分の含有量が上限値を超えると相対的に難燃成分の含有量が少なく、十分な難燃性が発現しない。
【0025】
本発明のポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートは、本発明の目的を損なわない範囲で主成分以外の成分(以下、共重合成分と称することがある)を有する共重合体であってもよく、好ましくはこれらポリエステルの全繰り返し単位のモル数を基準として25mol%未満の範囲で共重合成分を用いることができ、より好ましくは20mol%以下、さらに好ましくは15mol%以下である。
【0026】
かかる共重合成分として、例えば蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等のジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、あるいはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールなどのジオールが例示され、これらの中から主成分以外の成分を好ましく用いることができる。これらの共重合成分は、1種または2種以上用いてもよい。
これらの共重合成分は、モノマー成分として配合され、共重合化されたものでもよく、また他のポリエステルとのエステル交換反応により共重合化されたものでもよい。
【0027】
また、本発明のポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートは、本発明の目的を損なわない範囲で少なくとも2種のポリエステルのブレンド、またはポリエステル以外の熱可塑性樹脂とのブレンドであってもよい。これら他の成分は、ポリエステルフィルムの重量を基準として20重量%以下の範囲で用いることができ、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。ポリエステル以外の熱可塑性樹脂として、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂などが例示される。
【0028】
これらポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノールを溶媒とし、25℃にて測定された固有粘度が、0.4dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましく、さらに0.5dl/g以上1.2dl/g以下であることが好ましい。
【0029】
(難燃成分)
本発明は、難燃成分として下記式(1)で表されるホスフィン酸塩もしくは下記式(2
)で表されるジホスフィン酸塩を難燃剤粒子として用いる。以下、これらを総称してホスフィン酸塩類と称することがある。
【0030】
【化5】
【0031】
(式中、R
1、R
2は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数をそれぞれ表す)
【0032】
【化6】
【0033】
(式中、R
3、R
4は水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、R
5は炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリーレン基もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、nはMの価数をそれぞれ表す)
かかるホスフィン酸塩はホスフィン酸金属塩とも称される化合物であり、R
1、R
2として、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、が例示される。またMとしてアルミニウム、マグネシウム、カルシウムが例示され、価数mは2〜4の整数である。
【0034】
具体的には、ジメチルホスフィン酸カルシウム、メチルエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム、フェニルホスフィン酸カルシウム、ビフェニルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、メチルエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、フェニルホスフィン酸マグネシウム、ビフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、フェニルホスフィン酸アルミニウム、ビフェニルホスフィン酸アルミニウム、が挙げられる。
【0035】
また、ジホスフィン酸塩のうち、R
3、R
4として、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、が例示され、R
5としてメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、フェニレン基が例示される。またMとしてアルミニウム、マグネシウム、カルシウムが例示され、価数nは2〜4の整数である。
【0036】
式(2)で表わされるジホスフィン酸塩として、エタン−1,2−ビス(ホスフィン酸)カルシウムなどのアルカンビスホスフィン酸カルシウム、エタン−1,2−ビス(メチルホスフィン酸)カルシウムなどのアルカンビス(アルキルホスフィン酸)カルシウム、アルカンビスホスフィン酸マグネシウム、アルカンビス(アルキルホスフィン酸)マグネシウム、アルカンビスホスフィン酸アルミニウム、アルカンビス(アルキルホスフィン酸)アルミニウムなどが挙げられる。
これらのホスフィン酸塩類の中でも、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0037】
本発明は、難燃成分としてかかるホスフィン酸塩類を用いることにより、従来のリン系難燃剤に比べて、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートといった強度の高いポリエステルへの物性低下の影響が少ないことから、今まで添加できなかった程度にまで多量の難燃成分を添加することができる。そのため、例えば金属層と積層して使用される用途に加工した際、従来であれば金属層を積層する前の難燃性ポリエステルフィルムにくらべて金属積層体は難燃性が低下していたのに対し、難燃性ポリエステルフィルムそのものと同様の高い難燃性が得られる特徴を有する。
【0038】
かかるホスフィン酸塩類の含有量は、ポリエステルフィルムの重量を基準として0.5重量%以上30重量%以下である。またかかるホスフィン酸塩類の含有量の下限値は、好ましくは1重量%、より好ましくは4重量%、さらに好ましくは8重量%、特に好ましくは10重量%である。また、該ホスフィン酸塩類の含有量の上限値は、好ましくは25重量%、より好ましくは22重量%、さらに好ましくは20重量%、特に好ましくは15重量%である。ホスフィン酸塩類の含有量が下限値に満たないと難燃性が十分でなく、一方、ホスフィン酸塩類の含有量が上限値を越えるとフィルム製膜性と機械強度が低下する。
【0039】
かかるホスフィン酸塩類は粒子形状を有しており、本発明において難燃剤粒子と称する。本発明の難燃剤粒子の平均粒子径は0.5μm以上3.0μm以下であり、該平均粒子径の下限は好ましくは1.0μm、さらに好ましくは1.5μmである。また該難燃剤粒子の平均粒子径の上限は好ましくは2.5μmである。平均粒子径が下限に満たないと、フィルム製膜時の取り扱い性が低下したり、フィルム中での分散性が不十分となることがある。一方、上限を超える平均粒子径になると、フィルム製膜時に破断しやすく、製膜性が低下したり、製膜できたとしてもフィルム強度が低下することがある。
【0040】
また、本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルム中に含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数は10個/m
2以下であることを要し、さらに5個/m
2以下であることが好ましい。かかる難燃剤粒子は粒子径分布がかなり広く、これらの粗大粒子が製膜性低下やフィルム強度の低下に影響することを知見した。すなわち、かかる難燃剤粒子の粒子径分布はポリエステルフィルムに汎用される粒子の粒子径分布に較べて分布範囲がかなり広く、そのため、難燃剤粒子を添加する前に前処理を行わない場合、上記範囲を超える数の粗大粒子がフィルム中に存在するため、製膜性やフィルム強度の低下を引き起こすことを知見したものである。
【0041】
粗大粒子の個数を上記の範囲とするためには、例えば製膜工程の前に難燃剤粒子を粉砕、分級などの加工を行い、これら粗大粒子を予め取り除くことにより、高い機械強度と優れた外観性の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0042】
ここで難燃剤粒子の平均粒子径は、測定方法欄の説明のとおり、ポリエステルフィルムの断面について、株式会社ハイロックス デジタルマイクロスコープKH−3000を用い、3500倍の倍率で粒子20個をサンプリングし、それぞれの粒子径のうちの最大長を測定し、20点のうち最小値と最大値を除いた18点の平均値より求められる。
【0043】
また粗大粒子の最大長は、万能投影機を用い、透過照明にて20倍に拡大して粒子の最大長を測定して求めることができる。
【0044】
(リン原子濃度)
本発明におけるリン原子濃度は、ポリエステルフィルムの重量を基準として0.1重量%以上7重量%以下であることが好ましい。またかかるリン原子濃度の下限値は、より好ましくは1.0重量%、さらに好ましくは2.0重量%、特に好ましくは2.5重量%である。一方かかるリン原子濃度の上限値は、より好ましくは6.0重量%、さらに好ましくは5.0重量%である。
【0045】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートといった強度の高いポリエステルに対して本発明のホスフィン酸塩類からなる特定サイズの難燃剤粒子を用いることにより、従来の添加型リン系成分または共重合型リン系成分に比べてポリエステルの機械特性を損ねない点に特徴がある。
【0046】
一方で上限値を超えるリン原子濃度にまで高めようとすると、添加するホスフィン酸塩類の量が多すぎてフィルムの機械強度と製膜性が乏しくなる。また、リン原子濃度の下限値に近い範囲、すなわち従来のリン系成分の含有量に近い範囲においても、他のリン系成分にくらべて高い難燃性が発現し、金属層と積層して使用される用途に加工した際にも難燃性ポリエステルフィルムそのものと同様の高い難燃性が再現される特徴を有する。リン系成分の含有量が少ない範囲においてもかかる効果が発現する理由として、ホスフィン酸塩類を構成する金属成分によるラジカルトラップ効果によると考えられる。
【0047】
(他添加剤)
本発明の難燃性二軸配向ポリステルフィルムには、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていても良い。かかる不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えばカオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等の耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。
【0048】
不活性粒子をフィルムに含有させる場合、不活性粒子の平均粒子径は0.001〜5μmの範囲が好ましく、ポリエステルフィルム重量を基準として0.01〜10重量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.05〜3重量%である。
【0049】
本発明の難燃性二軸配向ポリステルフィルムには、さらに必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0050】
(フィルム厚み)
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、2μm以上200μm以下であることが好ましい。従来は、ポリエステルフィルムにリン系難燃剤を添加する方法で難燃化させようとすると、ポリエステルフィルムの機械的特性や耐加水分解性の低下を引き起こすため、ポリエステルフィルムそのものをリン系難燃剤で難燃化するのではなく、難燃剤を含む他の層をポリエステルフィルムに積層させる手法がとられていたのに対し、本発明はかかる厚みを有するポリエステルフィルムそのものにリン系難燃剤を添加できる特徴を有するものである。
【0051】
ポリエステルフィルムの厚みは、上述する範囲内で用途に応じて調整することができる。例えばフラットケーブル用途の場合、より好ましくは2〜100μm、さらに好ましくは5〜75μm、特に好ましくは10〜50μmである。またフレキシブルプリント回路基板用途の場合、より好ましくは2〜150μm、さらに好ましくは5〜100μm、特に好ましくは10〜75μmである。
【0052】
<ポリエステルフィルムの表面粗さ>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムの表面粗さRa(中心線平均粗さ)は0.1μm以上2μm未満であることが好ましい。表面粗さRaの上限はより好ましくは1.5μm未満、さらに好ましくは1.0μm未満、特に好ましくは0.5μm未満である。また表面粗さRaの下限は0.2μm以上であってもよく、さらに0.3μm以上であってもよい。より好ましい表面粗さRaの範囲として、0.1μm以上1.5μm未満、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm未満、特に好ましくは0.1μm以上0.5μm未満である。また本発明の難燃成分の含有量が多い領域においては、0.2μm以上1.5μm未満、0.3μm以上1.0μm未満、あるいは0.3μm以上0.5μm未満であってもよい。
【0053】
また本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムのRmax(最大高さ)は3μm未満であることが好ましく、より好ましくは2.5μm未満であり、さらに好ましくは2.0μm未満である。
【0054】
かかる表面粗さは、上述した平均粒子径であって、かつ粗大粒子を除いたホスフィン酸塩類からなる難燃剤粒子を特定量用いることによって得られる。
【0055】
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムがかかる表面粗さRaを有することにより、ヒートシール層や接着層などを介して他層と積層させる場合の接着性が向上し、例えばフレキシブル回路基板、フラットケーブル、太陽電池バックシートなどの用途に好適に用いることがきる。一方で粗大粒子の存在によりRmaxが上限を越えると、製膜性とフィルムの機械強度が乏しくなる。
【0056】
また、さらに本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムが0.1μm以上0.5μm未満の表面粗さRaを有する場合、フィルム平坦性に優れることから、フレキシブル回路基板として用いた場合に金属層の回路パターンを高繊細化できる。
【0057】
<フィルムの機械強度>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムの機械強度は150MPa以上であることが好ましく、より好ましくは160MPa以上、さらに好ましくは170MPa以上、特に好ましくは180MPa以上である。かかるフィルム機械強度は、ポリエステルフィルムに配合する難燃剤粒子の平均粒子径を上述の範囲内とし、かつ最大長10μm以上の粗大粒子を10個/m
2以下に低減することにより得られる。
【0058】
<耐加水分解性>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、121℃、2気圧の飽和水蒸気中で10時間処理した後のポリエステルフィルム引張強度保持率が80%以上であることが好ましい。かかるフィルム引張強度保持率は、さらに好ましくは85%以上である。かかる引張強度保持率はポリエステルフィルムのフィルム連続製膜方向(以下、長手方向、縦方向、MD方向と称することがある)またはその直交方向(以下、幅方向、横方向、TD方向と称することがある)の少なくとも一方向における引張強度保持率を指し、両方向とも満たすことがさらに好ましい。
【0059】
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、難燃成分として本発明のホスフィン酸塩類を用い、その平均粒子径とフィルム中に含まれる粗大粒子の数を制御することにより、難燃性に優れると同時に優れた耐加水分解性をも有しており、湿熱処理後も高いフィルム引張強度保持率を維持することができる。
【0060】
<フィルム製造方法>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムの製造は、公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えばホスフィン酸塩を含むポリエステルを十分に乾燥させた後、融点〜(融点+70)℃の温度で押出機内で溶融し、Tダイを通じて溶融押出し、フィルム状溶融物を冷却ロール(キャスティングドラム)上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。逐次二軸延伸により製膜する場合、未延伸フィルムを縦方向に60〜170℃で2.3〜5.5倍、より好ましくは2.5〜5.0倍の範囲で延伸し、次いでステンターにて横方向に80〜170℃で2.3〜5.0倍、より好ましくは2.5〜4.8倍の範囲で延伸する。
【0061】
熱固定処理は、180〜260℃、より好ましくは190〜240℃の温度で緊張下又は制限収縮下で熱固定するのが好ましく、熱固定時間は1〜1000秒が好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。また、熱固定後に弛緩処理を行ってもよい。
【0062】
<難燃性ポリエステルフィルム積層体>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、金属層と積層された難燃性ポリエステルフィルム積層体として用いることができる。ここで金属層には、フィルム上に層状に形成された形状のもの、導線などの形状のもの、回路など一定のパターン形状のものなどが含まれる。
【0063】
かかる難燃性ポリエステルフィルム積層体は、難燃性や耐加水分解性が求められる用途に好適に用いることができ、例えば、フラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板などといった用途が例示される。また、金属層と貼り合わせる他の用途にも用いることができる。
【0064】
<フレキシブルプリント回路基板>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムおよびその積層体はフレキシブルプリント回路基板に用いることができる。
【0065】
かかる用途に用いる場合、難燃性二軸配向ポリエステルフィルムの一方の面に金属層が積層され、フレキシブルプリント回路基板として用いられることが好ましい。本用途において用いられる金属層としては銅箔が例示される。金属層の接合手段や形状の具体的手段としては特に制限はなく、例えば金属層を難燃性二軸配向ポリエステルフィルムに積層させた後、金属層をパターンエッチングするいわゆるサブトラクティブ法、難燃性二軸配向ポリエステルフィルム上に金属をパターン状にメッキするアディティブ法、パターン状に打ち抜いた金属層を難燃性二軸配向ポリエステルフィルムに貼り合せるスタンピングホイルなどを利用することができる。
【0066】
本発明の難燃性ポリエステルフィルム積層体を用いて得られたフレキシブルプリント回路基板は、ポリエステルフィルム自体の難燃性が非常に高く、金属層と積層して使用されるフレキシブルプリント回路基板用途に加工した際にも難燃性二軸配向ポリエステルフィルムそのものと同様の高い難燃性が発現し、しかも十分な機械強度と耐加水分解性も備えることから、フレキシブルプリント回路基板としての長期耐久性にも優れている。また、本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは折り曲げ性にも優れるため、フレキシブルプリント回路基板に加工する際の打ち抜き性に優れており、さらに難燃性と折り曲げ性とを両立できるため、フレキシブル性の高いフレキシブルプリント回路基板が得られる。
【0067】
また、本発明のポリエステルフィルムが0.1μm以上0.5μm未満の表面粗さRaを有する場合、フィルム平坦性に優れることから、フレキシブル回路基板として用いた場合に金属層の回路パターンを高繊細化できる。
【0068】
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムおよびその積層体は、反射率特性にも優れているため、LEDのフレキシブルプリント回路基板として用いることもできる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0070】
(1)ポリエステル成分の種類および含有量
1H−NMR測定、
13C−NMR測定により、ポリエステルの成分および共重合成分および各成分量を特定した。
【0071】
(2)リン成分の種類
NMRおよびEPMAを用いてリン成分の種類を特定した。
【0072】
(3)リン原子濃度
ポリエステルフィルムについて、リン原子濃度を蛍光X線の発光強度より算出した。
【0073】
(4)難燃剤粒子の平均粒子径
ポリエステルフィルムの断面について、株式会社ハイロックス デジタルマイクロスコープKH−3000を用い、3500倍の倍率で粒子20個をサンプリングし、それぞれの粒子径のうちの最大長を測定し、20点のうち最小値と最大値を除いた18点の平均値より平均粒子径を求めた。
【0074】
(5)粗大粒子の大きさ、個数
万能投影機を用い、透過照明にて20倍に拡大し、10μm以上の最大長をもつ粒子数をカウントし、以下の基準で評価した。測定面積は1m
2とした。
○: 10μm以上の最大長をもつ粒子数が10個/m
2以下
×: 10μm以上の最大長をもつ粒子数が10個/m
2を超える
【0075】
(6)製膜性
フィルム製造工程におけるフィルター圧の変化量(ΔP)により評価した。
○: ΔP=0.5MPa/h未満
△: ΔP=0.5MPa/h以上1.0MPa/h未満
×: ΔP=1.0MPa/h以上
【0076】
(7)機械特性
サンプルフィルムを幅10mm、長さ150mmに切り出し、チャック間100mmにサンプルを装着し、JIS−C2151に従って引張速度100mm/minの条件で引張試験を行い、破断時の荷伸曲線の荷重、伸度を読み取った。測定は5回行い、平均値を結果とした。破断強度は荷重を引張前のサンプル断面積で割って算出(MPa)、破断伸度は引張前のサンプル長を100とした時の%として算出した。測定は温度23±2℃、湿度50±5%に調節された室内において行った。測定装置としてオリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いた。
○: 破断強度が150MPa以上
×: 破断強度が150MPa未満
【0077】
(8)耐加水分解性
フィルムを150mm長×10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内にステンレス製のクリップで吊り下げる。その後、10時間経過後に環境試験機から試料片を取り出し、引張強度を測定する。フィルム長手方向を測定方向とし、測定は5回行い、その平均値を求めて以下の基準により耐加水分解性を評価した。測定装置としてオリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いた。
【0078】
引張強度保持率(%)=(処理後の引張強度X/初期の引張強度X
0)×100
(式中、引張強度Xは、121℃、2atm、100%RHの条件で所定時間処理後の引張強度、引張強度X
0は処理前の初期の引張強度をそれぞれ表す)
○: 10時間後の引張強度保持率が80%以上
△: 10時間後の引張強度保持率が50%以上80%未満
×: 10時間後の引張強度保持率が50%未満
【0079】
(9)燃焼性
フィルムサンプルをUL−94VTM法に準拠して評価した。サンプルを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0,VTM−1,VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価し、n=5の測定回数のうち、同じランクになった数の最も多いランクとした。
【0080】
(10)表面粗さRa、Rmax
株式会社小坂研究所製の触針式表面粗さ計(SURFCORDER SE−30C)を用い、以下の条件でポリエステルフィルム表面について測定し、算出される中心線平均粗さRa、最大高さRmaxを測定し、4回測定した平均値を用いて下記評価基準に従って評価した。なお中心線平均粗さRa(A評価)において○評価の場合、さらに細分化した基準(B評価:○++、○+)も併記した。
【0081】
<測定条件>
測定長:2.5mm
カットオフ:0.25mm
測定環境:室温、大気中
<Ra(A評価)>
○: 0.1μm以上2μm未満
×: 0.1μm未満または2μm以上
<Ra(B評価)>
○++: 0.1μm以上0.5μm未満
○+ : 0.5μm以上2μm未満
<評価基準:Rmax>
○: 3μm未満
×: 3μm以上
【0082】
[実施例1]
ポリエステルとして固有粘度0.60dl/g、末端カルボキシル基濃度25当量/tonのポリエチレンテレフタレート(エステル交換触媒:酢酸マンガン四水塩、重合触媒:三酸化アンチモン)を用い、ジメチルホスフィン酸アルミニウム(表1中、リン化合物Aと記載,平均粒子径2μm,粗大粒子(最大長10μm以上)を粉砕、分級加工により除去)をポリエステルフィルムの重量を基準として5重量%含有させた組成物を170℃ドライヤーで3時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度280℃で溶融混練して280℃のダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0083】
この未延伸フィルムを100℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.5倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、120℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.8倍で延伸した。その後、テンタ−内で230℃の熱固定を行い、180℃で幅方向に2%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、難燃性、機械特性、耐加水分解性に優れていた。また表面粗さの指標のひとつであるRaが0.10μm、Rmaxが1.8μmであり、製膜性と機械特性に優れていた。
【0084】
[実施例2]
難燃剤をジエチルホスフィン酸アルミニウム(表1中、リン化合物Bと記載,平均粒子径2μm,粗大粒子(最大長10μm以上)を粉砕、分級加工により除去)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0085】
[実施例3]
難燃剤の含有量を3重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0086】
[実施例4]
難燃剤の含有量を10重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0087】
[実施例5]
難燃剤の含有量を15重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0088】
[実施例6]
難燃剤の含有量を30重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0089】
[実施例7]
ポリエステルとして固有粘度0.57dl/g、末端カルボキシル基濃度25当量/tonのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(エステル交換触媒:酢酸マンガン四水塩、重合触媒:三酸化アンチモン)を用い、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(リン化合物B,平均粒子径2μm,粗大粒子(最大長10μm以上)を粉砕、分級加工により除去)をポリエステルフィルムの重量を基準として5重量%含有させた組成物を180℃ドライヤーで5時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度300℃で溶融混練して300℃のダイスリットより押出した後、表面温度60℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0090】
この未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.5倍で延伸し、60℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、150℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.5倍で延伸した。その後、テンタ−内で230℃の熱固定を行い、180℃で幅方向に2%弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0091】
[実施例8]
難燃剤の含有量を15重量%に変更した以外は実施例7と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0092】
[実施例9]
難燃剤の平均粒子径を2μmから3μmに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは、製膜性、難燃性、機械特性および耐加水分解性ともに優れていた。
【0093】
[比較例1]
難燃剤を添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例のフィルムは製膜性、機械特性、耐加水分解性、外観性に優れるものの難燃性が十分ではなかった。
【0094】
[比較例2]
難燃剤の含有量を45重量%に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例は製膜性が十分でなく、二軸延伸フィルムを得ることができなかった。
【0095】
[比較例3]
難燃剤として粗大粒子を除去していないジエチルホスフィン酸アルミニウム(表1中、リン化合物B’と記載,平均粒子径2μm)に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例は製膜性が十分でなく、また得られた二軸延伸フィルムは表面が粗く、機械特性、耐加水分解性も低下した。
【0096】
[比較例4]
難燃剤として粗大粒子を除去していないジエチルホスフィン酸アルミニウム(表1中、リン化合物B’と記載,平均粒子径30μm)に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例は製膜性が十分でなく、また得られた二軸延伸フィルムは表面が粗く、機械特性、耐加水分解性も低下した。
【0097】
【表1】
【0098】
表1において、PETはポリエチレンテレフタレート、PENはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを表す。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは製膜性に優れており、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートといったポリエステルが有する機械特性や耐加水分解性を低下させることなく、高い難燃性を備えているため、例えばフレキシブルプリント回路基板、フラットケーブル、太陽電池用バックシートなどに好適に用いることができる。