(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6027295
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置および表面欠陥検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20161107BHJP
【FI】
G01N21/892 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-526949(P2016-526949)
(86)(22)【出願日】2016年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2016059963
【審査請求日】2016年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-70692(P2015-70692)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】福井 圭太
(72)【発明者】
【氏名】志賀 駿介
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−249685(JP,A)
【文献】
特開2012−103017(JP,A)
【文献】
特開平08−278258(JP,A)
【文献】
特開2006−177746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/958
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき鋼板の表面上にある撮像対象部位を照明する照明部と、
前記撮像対象部位からの正反射光を撮像する正反射光撮像部と、
同撮像対象部位からの乱反射光を撮像する乱反射光撮像部と、
前記正反射光撮像部が撮像して得られた正反射画像信号と、前記乱反射光撮像部が撮像して得られた乱反射画像信号とを処理する画像信号処理部と、
を備え、
乱反射光の輝度が、乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差以内である場合に、地合での乱反射光の輝度よりも低輝度になり、乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差を超える場合に、地合での乱反射光の輝度よりも高輝度になる、第1種の欠陥と第2種の欠陥を分類する溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置であって、
前記正反射光撮像部と前記乱反射光撮像部とは同時に前記撮像対象部位からの反射光を撮像するものであり、
前記乱反射光撮像部が撮像する前記乱反射光の乱反射角度は、反射面が地合である場合の反射光の輝度を基準として、反射面が第1種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より高輝度となり、かつ、反射面が第2種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より低輝度となる角度であり、
前記画像信号処理部は、
前記正反射光撮像部が撮像して得られた正反射画像信号のうち、所定の閾値より低輝度の部位を表面欠陥部位として抽出し、
抽出された前記表面欠陥部位に対応する部位に関し、前記乱反射光撮像部が撮像して得られた乱反射画像信号に対し、反射面が地合である場合の反射光の輝度を閾値として閾値処理を行うことにより、抽出された前記表面欠陥部位の欠陥種類を第1種の欠陥と第2種の欠陥に分類判定する、
ことを特徴とする溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置において、
前記画像信号処理部は、前記乱反射光撮像部が地合を撮像して得られる乱反射画像信号の移動平均値を算出し、算出された移動平均値を前記閾値処理の閾値として使用し、当該閾値より高輝度の部位を第1種の欠陥と判定し、当該閾値より低輝度の部位を第2種の欠陥と判定する、
ことを特徴とする溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置。
【請求項3】
溶融めっき鋼板の表面を照明し、
前記溶融めっき鋼板上の撮像対象部位からの正反射光および乱反射光をそれぞれ撮像し、
撮像してそれぞれ得られた正反射画像信号と乱反射画像信号とを処理することにより、乱反射光の輝度が、乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差以内である場合に、地合での乱反射光の輝度よりも低輝度になり、乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差を超える場合に、地合での乱反射光の輝度よりも高輝度になる、第1種の欠陥と第2種の欠陥を分類する、
溶融めっき鋼板の表面欠陥検査方法であって、
前記撮像対象部位からの正反射光の撮像と乱反射光の撮像は同時に行われるものであり、
撮像する前記乱反射光の乱反射角度は、反射面が地合である場合の反射光の輝度を基準として、反射面が第1種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より高輝度となり、かつ、反射面が第2種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より低輝度となる角度であり、
前記処理は、
撮像して得られた正反射画像信号のうち、所定の閾値より低輝度の部位を表面欠陥部位として抽出し、
抽出された前記表面欠陥部位に対応する部位に関し、撮像して得られた乱反射画像信号に対し、反射面が地合である場合の反射光の輝度を閾値として閾値処理を行うことにより、抽出された前記表面欠陥部位の欠陥種類を第1の欠陥と第2の欠陥に分類判定するものである、
ことを特徴とする溶融めっき鋼板の表面欠陥検査方法。
【請求項4】
請求項3に記載の溶融めっき鋼板の表面欠陥検査方法において、
前記処理において、地合を撮像して得られる乱反射画像信号の移動平均値を算出し、算出された移動平均値を前記閾値処理の閾値として使用し、当該閾値より高輝度の部位を第1種の欠陥と判定し、当該閾値より低輝度の部位を第2種の欠陥と判定する、
ことを特徴とする溶融めっき鋼板の表面欠陥検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置および表面欠陥検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板の表面に現れる表面欠陥としては、不めっき、ヘゲ、ドロス、汚れなど様々なものがある。これらの欠陥の種類によって対応が異なることから、欠陥の種類を正確に分類判定することが望まれる。欠陥の種類の分類判定は一般に作業者が目視により行っていたが、近年、ラインの高速化やユーザの表面外観厳格化などに伴い、分類判定の機械化が進みつつある。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼板の表面欠陥検査に関する技術は、例えば特許文献1、2に開示されている。特許文献1には、スキンパスミルの上流側において、溶融亜鉛めっき鋼板の表面欠陥をドロスとその他の欠陥に判別するドロス欠陥検査装置が開示されている。この装置では、溶融亜鉛めっき鋼板の表面に、鋼板の法線に対して50°〜80°の角度で光を照射し、同法線に対して0°〜40°の角度方向で乱反射光を撮像して画像信号を得るようにしている。そして、得られた画像信号のうち、画像輝度が所定の閾値より低く、かつ、面積が所定範囲内にある部位をドロスであると判定し、画像輝度が所定の閾値より低く、かつ、面積が所定範囲外のものをドロス以外の表面欠陥であると判定する。なお、同文献には、抽出した表面欠陥に対して、表面欠陥の面積、表面欠陥の画像輝度、表面欠陥のアスペクト比の3つの特徴量を用いて、同文献の第5図に示された判定ロジックによって、「無害」、「ドロス」、「汚れ、線状疵」、「ヘゲ、スケール」、「穴」、「模様疵」に分類判定することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、溶融亜鉛めっき鋼板を巻き取ってコイルとする前の段階に設置した品質管理装置が開示されている。この品質管理装置は、先ず、溶融亜鉛めっき鋼板の表面に光を照射し、その光の正反射光を撮像して得られる画像信号から瑕疵候補の画像信号を抜き出す処理と、その光の乱反射光を撮像して得られる画像信号からも瑕疵候補の画像信号を抜き出す処理を行う。瑕疵候補の画像信号の抜き出しは、正反射光、乱反射光の別に、ある品質レベルに設定された閾値を用いて行う。次に、「線状疵」、「不めっき」等の瑕疵の種類毎に予め設定された基準情報を参照して、上記瑕疵候補の画像信号から真の瑕疵画像信号を選別し、瑕疵の種類別に真の瑕疵画像信号の分布状態の情報を得る。そして、得られた情報から瑕疵の種類別に欠陥長さを計算し、鋼板全長における算出した欠陥長さの存在率等に基づいて、品質レベルを満足するか否かの合否判定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5594071号公報
【特許文献2】特開2004−151006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたドロス欠陥検査装置は、乱反射光から得られた表面欠陥の画像信号のうち、画像輝度が所定の閾値より低くなっている部位の面積が所定範囲内にあるものをドロスであると判定する。しかし、表面欠陥の面積には必ずバラツキが生じるため、このような手法では、ドロスよりも画像輝度が低くなる表面欠陥(例えば不めっき、ヘゲ、よごれ等)もドロスであると判定してしまうおそれがある。更に、同文献の請求項2に記載された装置では、表面欠陥のアスペクト比(形状)も考慮してその表面欠陥がドロスであるか否かの判定を行っているが、アスペクト比にも必ずバラツキが生じるため、ドロスを間違って不めっき、ヘゲ、よごれ等の表面欠陥と判定するおそれがある。
【0007】
特許文献2には、上記に述べたように、正反射光および乱反射光をそれぞれ撮像して得られた画像信号から正反射光、乱反射光の別に設定された閾値を用いて瑕疵候補の画像信号を抜き出すことや、「線状疵」、「不めっき」等の瑕疵の種類毎に予め設定された基準情報を参照して、抜き出した前記瑕疵候補の画像信号から真の瑕疵画像信号を選別することが記載されている。しかし、瑕疵候補の画像信号が何れの種類の瑕疵(「線状疵」、「不めっき」等)に該当するのかを判別する手法について何も記載されていない。つまり、同文献には、鋼板の表面欠陥を正確に分類判定するための技術は開示されていない。
【0008】
本発明は、上記従来技術では解決できない課題を解決するものであり、バラツキが生じ易い表面欠陥の面積、形状等の情報を極力頼らずに、複数種類の表面欠陥を高い精度で分類判定することができる溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置および表面欠陥検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置は、溶融めっき鋼板の表面を照明する照明部と、前記溶融めっき鋼板上の撮像対象部位からの正反射光を撮像する正反射光撮像部と、同撮像対象部位からの乱反射光を撮像する乱反射光撮像部と、前記正反射光撮像部が撮像して得られた正反射画像信号と、前記乱反射光撮像部が撮像して得られた乱反射画像信号とを処理する画像信号処理部と、を備え、乱反射光の輝度が、
乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差以内である場合に、地合での乱反射光の輝度よりも低輝度になり、乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差を超える場合に、地合での乱反射光の輝度よりも高輝度になる、第1種の欠陥と第2種の欠陥を分類するものを前提とし、前記正反射光撮像部と前記乱反射光撮像部とは同時に前記撮像対象部位からの反射光を撮像するものである。前記乱反射光撮像部が撮像する前記乱反射光の乱反射角度は、反射面が地合である場合の反射光の輝度を基準として、反射面が第1種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より高輝度となり、かつ、反射面が第2種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より低輝度となる角度である。前記画像信号処理部は、前記正反射光撮像部が撮像して得られた正反射画像信号のうち、所定の閾値より低輝度の部位を表面欠陥部位として抽出し、抽出された前記表面欠陥部位に対応する部位に関し、前記乱反射光撮像部が撮像して得られた乱反射画像信号に対し、
反射面が地合である場合の反射光の輝度を閾値として閾値処理を行うことにより、抽出された前記表面欠陥部位の欠陥種類を第1種の欠陥と第2種の欠陥に分類判定する。
【0010】
前記構成を備える溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置において、前記画像信号処理部は、前記乱反射光撮像部が地合を撮像して得られる乱反射画像信号の移動平均値を算出し、算出された移動平均値を前記閾値処理の閾値として使用し、当該閾値より高輝度の部位を
第1種の欠陥と判定し、当該閾値より低輝度の部位
を第2種の欠陥と判定する、ものとすることが好ましい。
【0011】
上記構成を備える溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置によれば、正反射光と乱反射光から得られる反射画像信号の輝度情報を併用・同期させることで、バラツキが生じ易い表面欠陥の面積、形状等の情報を頼らずに、表面欠陥の種類を高精度で分類判定することができる。
【0012】
本発明の溶融めっき鋼板の表面欠陥検査方法は、溶融めっき鋼板の表面を照明し、前記溶融めっき鋼板上の撮像対象部位からの正反射光および乱反射光をそれぞれ撮像し、撮像してそれぞれ得られた正反射画像信号と乱反射画像信号とを処理することにより、乱反射光の輝度が、
乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差以内である場合に、地合での乱反射光の輝度よりも低輝度になり、乱反射角度が正反射角度に対して所定角度差を超える場合に、地合での乱反射光の輝度よりも高輝度になる、第1種の欠陥と第2種の欠陥を分類する、ものを前提とし、前記撮像対象部位からの正反射光の撮像と乱反射光の撮像は同時に行われるものである。撮像する前記乱反射光の乱反射角度は、反射面が地合である場合の反射光の輝度を基準として、反射面が第1種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より高輝度となり、かつ、反射面が第2種の欠陥である場合の反射光の輝度が前記基準より低輝度となる角度である。前記処理は、撮像して得られた正反射画像信号のうち、所定の閾値より低輝度の部位を表面欠陥部位として抽出し、抽出された前記表面欠陥部位に対応する部位に関し、撮像して得られた乱反射画像信号に対し、
反射面が地合である場合の反射光の輝度を閾値として閾値処理を行うことにより、抽出された前記表面欠陥部位の欠陥種類を第1の欠陥と第2の欠陥に分類判定するものである。
【0013】
前記構成を備える溶融めっき鋼板の表面欠陥検査方法において、前記処理において、地合を撮像して得られる乱反射画像信号の移動平均値を算出し、算出された移動平均値を前記閾値処理の閾値として使用し、当該閾値より高輝度の部位
を第1種の欠陥と判定し、当該閾値より低輝度の部位を
第2種の欠陥と判定する、ものとすることが好ましい。
【0014】
上記構成を備える溶融めっき鋼板の表面欠陥検査方法によれば、正反射光と乱反射光から得られる反射画像信号の輝度情報を併用・同期させることで、バラツキが生じ易い表面欠陥の面積、形状等の情報を頼らずに、表面欠陥の種類を高精度で分類判定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バラツキが生じ易い表面欠陥の面積、形状等の情報を極力頼らずに、複数種類の表面欠陥を高い精度で分類判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置の構成例を示す図である。
【
図2】ロールに沿って移動する鋼板の表面を溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置を用いて検査する様子を示した図である。
【
図3】反射角度と反射光の輝度との関係を、地合、不めっき、ドロスに関して示したグラフである。
【
図4】溶融めっき鋼板の表面に現れたドロス内不めっきに関する各種画像である。
【
図5】反射光を撮像して得られた画像信号から欠陥を検出し、その欠陥を分類判定するまでの手順を示すフローチャートである。
【
図6】欠陥の種類毎に予め設定されたアスペクト比、真円度、向き、密度等に関する閾値条件を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置および表面欠陥検査方法について図面を参照しつつ説明する。なお、以下では溶融めっき鋼板の一例として溶融亜鉛めっき鋼板を挙げて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る表面欠陥検査装置1は、溶融亜鉛めっき鋼板2(以下、単に「鋼板2」という。)の表面に現れる欠陥を、鋼板2を連続走行させながら分類判定するものであり、照明部3、正反射光撮像部4、乱反射光撮像部5、画像信号処理部6、分類判定結果出力部7等で構成されている。
【0019】
照明部3は、鋼板2の表面の撮像対象部位8を照明する。この照明部3は、撮像対象部位8において鋼板2の走行方向に直交する面9(以下「直交面9」ともいう。)より鋼板2の走行方向下流側に設置され、鋼板2の表面に対する照明の入射角が、直交面9に対して所定角度α(本実施形態ではα=10°)に設定されている。本実施形態では、照明部3の光源として、鋼板2を板幅方向に照明するLED式のライン照明を使用している。但し、照明部3の光源は、これに限定されずLEDに代えてハロゲン、メタルハライド、蛍光灯等を採用することも可能である。
【0020】
正反射光撮像部4は、照明部3から照射された光が鋼板2の表面の撮像対象部位8で反射した正反射光を撮像するものである。したがって、正反射光撮像部4は、前記直交面9より鋼板2の走行方向上流側に設置され、前記直交面9に対して角度αの位置で正反射光を受光するように設置されている。本実施形態では、正反射光撮像部4には、CCDラインセンサカメラを使用している。CCDラインセンサカメラに代えて、CCDエリアセンサカメラなどを採用することも可能である。なお、正反射光撮像部4の空間分解能は、検出対象とする表面欠陥の種類に応じて適宜定められる。
【0021】
乱反射光撮像部5は、照明部3から照射された光が鋼板2の表面の撮像対象部位8で反射した乱反射光を撮像するものである。この乱反射光撮像部5は、前記直交面9より鋼板2の走行方向上流側に設置され、前記直交面9に対して所定角度β(本実施形態ではβ=30°)の位置で乱反射光を受光するように設置されている。本実施形態では、乱反射光撮像部5にもCCDラインセンサカメラを使用しているが、同様に、CCDラインセンサカメラに代えて、CCDエリアセンサカメラなどを採用することも可能である。なお、乱反射光撮像部5の空間分解能も、検出対象とする表面欠陥の種類に応じて適宜定められる。
【0022】
画像信号処理部6は、正反射光撮像部4が撮像して得られた正反射画像信号T1と、乱反射光撮像部5が撮像して得られた乱反射画像信号T2とを処理して、鋼板2の表面欠陥を抽出し、更に抽出した表面欠陥を分類判定する。この画像信号処理部6は、各種の演算処理装置(例えば、後述する分類判定ロジックを実行するために必要なプログラムが組み込まれたパーソナルコンピュータ等)で構成される。なお、判定結果は上位のプロセスコンピューターへ送信され品質判定を行う。
【0023】
分類判定結果出力部7は、画像信号処理部6により分類判定された表面欠陥の種類を表示、印刷等の手段により当製造工程、次の製造工程もしくはユーザに知らせる。この分類判定結果出力部7は、例えば、モニタ装置、プリンタ装置等により構成される。
【0024】
なお、
図1では、水平方向に移動する鋼板2の表面に対して表面欠陥検査を行う様子を示しているが、表面欠陥検査装置1は、
図2に示すように、ロール10の外周面に沿って移動する鋼板2の表面に対しても表面欠陥検査を行うことができる。また、表面検査装置1の設置場所は、特に限定されるものではないが、好ましくは、表面検査装置1による表面欠陥検査が鋼板2の製造の最終工程で行われる場所に設置されることが望ましい。より特定的には、表面検査装置1による表面欠陥検査は、スキンパスミルよる調質圧延処理が施された後、テンションリールに巻き取られる前の鋼板2に対して行われることが望ましい。
【0025】
ところで、鋼板2の表面における反射角度と反射光の輝度との関係は、地合、表面欠陥の種類毎に定性的に相違することから、このことを考慮して乱反射光撮像部5の受光角度βを設定することが望ましい。
図3に示すグラフは、横軸が反射角度、縦軸が反射光の輝度を示す。曲線G1は反射面が地合である場合、曲線G2は反射面が不めっき又はヘゲ(以下「不めっき」のみを記す。)である場合、曲線G3は反射面がドロス又は汚れ(以下「ドロス」のみを記す。)である場合をそれぞれ示している。曲線G1〜G3が示すように、何れも正反射角10°での輝度が最高となり、正反射角10°から反射角度が離れるほど輝度が減衰する。この輝度の減衰の度合いはドロス、不めっきの場合よりも、地合の場合の方が格段に大きい。
【0026】
本実施形態では、反射面が地合である場合の反射光の輝度(曲線G1)を基準として、反射面がドロスである場合の反射光の輝度(曲線G3)が上記基準より高輝度となり、反射面が不めっきである場合の反射光の輝度(曲線G2)が上記基準より低輝度になる反射角度位置、つまり、β=30°の位置に乱反射光撮像部5を設置している。
【0027】
図4に示す画像は何れも、鋼板2の表面に現れたドロス内不めっきに関するものである。ドロス内不めっきは、ドロスの内側に不めっきがある表面欠陥である。同図において、「実物写真」はドロス内不めっきを撮影した写真である。「正反射画像信号(α=10°)」は正反射光撮像部4において撮像された正反射画像信号に基づき形成された画像である。「乱反射画像信号(β=45°)」、「乱反射画像信号(β=40°)」、「乱反射画像信号(β=35°)」、「乱反射画像信号(β=30°)」は、それぞれ試験的に乱反射角β=45°、β=40°、β=35°、β=30°となる反射角度位置に乱反射光撮像部4を設置して撮像した乱反射画像信号に基づき形成された画像である。
【0028】
図4における「実物写真」が示すように、肉眼では、ドロス内不めっきは、ドロス部分も不めっき部分も周囲の地合と比べて黒く(暗く)見える。「正反射画像信号(α=10°)」でも同様に、ドロス部分も不めっき部分も周囲の地合と比べて黒く見える。一方、「乱反射画像信号(β=45°)」では、ドロス部分も不めっき部分も、地合と比べて乱反射画像信号の輝度が高くなることから(
図3参照)、白くなる。一方、βがαに近づくにつれて、「乱反射画像信号(β=40°)」、「乱反射画像信号(β=35°)」に示すように、不めっき部分が次第に黒くなり、「乱反射画像信号(β=30°)」では、ドロス部分が白のまま、不めっき部分のみが黒に反転する。
【0029】
したがって、
図3に示すように、反射面が地合である場合の反射光の輝度(曲線G1)を基準として、反射面がドロスである場合の反射光の輝度(曲線G3)が上記基準より高輝度となり、かつ、反射面が不めっきである場合の反射光の輝度(曲線G2)が上記基準より低輝度となる反射角度位置に乱反射光撮像部5を設置し、上記基準(曲線G1)を閾値とすればドロスと不めっきとを分類判定することができる。このことは、ドロスと不めっきの間での分類判定に限らず、他の種類の表面欠陥同士の分類判定にも適用できる。
【0030】
以下、各反射光撮像部4,5において反射光を撮像して得られた画像信号から欠陥を検出し、その欠陥を分類判定するまでの手順を
図5を参照しながら説明する。
【0031】
まず、正反射光撮像部4、乱反射光撮像部5は、それぞれ、鋼板2の表面で反射した反射光を撮像し、CCDによるデジタル変換処理を行って256階調の正反射画像信号T1および乱反射画像信号T2をそれぞれ得る(S1)。
【0032】
つぎに、画像信号処理部6は、正反射画像信号T1、乱反射画像信号T2に対して正規化処理を施した後(S2)、それぞれに閾値処理を行う(S3)。前記正規化処理は、各反射光撮像部4,5が備えるレンズの収差の影響や、鋼板2上の撮像位置の違いにより照明条件が異なること等によって、鋼板2上の撮像位置の違いにより生じる画像信号T1,T2の値のばらつきや偏りを是正するために行われる。前記正規化処理として、例えば、前記S1で得られた画像信号T1,T2の正規分布N(μ,σ
2)をそれぞれ平均値μを0、分散値σを1とする標準正規分布N(0,1
2)に変換し、更に、平均値を0から128にオフセットする処理が行われる。例えば、上記正規化処理前において、画像信号T1、T2の値の波形が、鋼板2の幅方向両側端から幅方向中央部に向かって徐々に高くなるような曲線B1(
図7参照)を中心に形成されるものである場合、上記正規化処理後には、画像信号T1、T2の値の波形は、平均値が128でバラツキのない線分B2(
図7参照)を中心に形成される。なお、
図7のグラフの縦軸は0〜255の範囲の階調値を示し、横軸は鋼板2の幅方向位置を示している。曲線B1、線分B2の両端が鋼板2の両側端位置に対応している。また、曲線B1、線分B2から下方へ突出した突起11は欠陥の画像信号を示している。
【0033】
正反射画像信号T1に対する閾値処理では、所定の閾値P1より低輝度の正反射画像信号T1Lを欠陥部位としてみなす(抽出する)。上記閾値P1は、あらかじめ設定した定数でもよいが、本実施形態では、正反射光撮像部4の撮像範囲における各正反射画像信号T1の移動平均値よりも所定値だけ低い値を上記閾値P1としている。
【0034】
乱反射画像信号T2に対する閾値処理では、前記欠陥部位(正反射画像信号T1が所定の閾値P1より低輝度であった鋼板2上の部位)に関し、所定の閾値P2よりも高輝度の乱反射画像信号T2Hを第1種の欠陥(本実施形態ではドロス又は汚れ)であると判定し、所定の閾値P2よりも低輝度の乱反射画像信号T2Lを第2種の欠陥(本実施形態では不めっき又はヘゲ)であると判定する。上記閾値P2は、あらかじめ設定した定数でもよいが、本実施形態では、地合から乱反射されて乱反射光撮像部5にて撮像して得られる乱反射画像信号の移動平均値が上記閾値P2とされる。
【0035】
つぎに、画像信号処理部6は、正反射画像信号T1の閾値処理で欠陥部位とみなされた画素を抽出するためのノイズ除去処理を実施し(S4)、抽出された欠陥部位に係る画素同士を結合する欠陥連結処理(S5)を実施する。前記ノイズ除去処理は、
図8の左図に示すように、上記閾値処理で欠陥画素12,13として検出されたもののうち、その近傍と区別できるような孤立点(微小欠陥)となっている欠陥画素13をノイズとみなし、これを
図8の右図に示すように正常画素に変更するものである。欠陥画素13を正常画素に変更するためのフィルター(ノイズ除去処理の手法)としては、平均化フィルター、ローパスフィルター、ガウシアンフィルター、ラプラシアンフィルター等が周知されている。また、前記欠陥連結処理は、例えば、
図9の左図に示すように、互いに近接した複数の欠陥12が存在する場合、
図9の右図に示すように、当該複数の欠陥12を含む1つの領域(
図9において点線にて例示する領域は四角領域)を1つの欠陥12として認識するものである。
【0036】
そして、画像信号処理部6は、欠陥連結処理により1つの欠陥12として認識された欠陥部位の輪郭に基づき、当該欠陥のアスペクト比、真円度、向き(鋼板2の走行方向に対する欠陥の長手方向の向き)等の特徴量を解析する。また、輪郭線に囲まれた領域に存在する画素のうち、正反射画像信号T1の閾値処理により欠陥部位とみなされた画素が占める密度、乱反射画像信号T2の閾値処理により第1種の欠陥部位とみなされた画素が占める密度、および、乱反射画像信号T2の閾値処理により第2種の欠陥部位とみなされた画素が占める密度をそれぞれ算出する(S6)。
【0037】
最後に、画像信号処理部6は、第1種の欠陥部位、第2種の欠陥部位に対して、
図6に示すような、欠陥の種類毎にあらかじめ設定されたアスペクト比、真円度、向き、前記密度に関する閾値条件を当てはめて、第1種の欠陥部位(ドロス、汚れ)、第2種の欠陥部位(不めっき、ピンホール不めっき、ヘゲ)の種類を更に細かく分類判定し、欠陥部位が第1種の欠陥部位であれば、ドロス、汚れ[1]、汚れ[2]の何れかとして更に細かく分類判定し、欠陥部位が第2種の欠陥部位であれば、不めっき、ピンホール不めっき、ヘゲの何れかとして更に細かく分類判定する(S7)。
図6における閾値条件のうち、大文字「A」、「B」、「C」、「D」は実際に表面欠陥検査で得られる実値であり、小文字と数字の組み合わせ「a1」、「b1」、・・・は、予め設定された閾値である。この閾値には、各種の表面欠陥について繰り返し実験等を行うことにより得られた最適な値が採用される。なお、「正反射画像信号」欄の「暗」は、前記した閾値P1より低輝度であることを示し、「乱反射画像信号」欄の「暗」は、前記した閾値P2より低輝度であることを示し、「乱反射画像信号」欄の「明」は、前記した閾値P2より高輝度であることを示している。
【0038】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施の形態に係る溶融めっき鋼板の表面欠陥検査装置および表面欠陥検査方法によれば、正反射光と乱反射光から得られる反射画像信号の輝度情報を併用・同期させることで、バラツキが生じ易い欠陥の特徴量(アスペクト比、欠陥の真円度、欠陥の向き等)を頼らずに、抽出された表面欠陥の種類を高精度で分類判定することができる。本実施形態では、上記特徴量を頼らずに、少なくとも第1種の欠陥と第2種の欠陥に高精度で分類判定できる。
【0039】
また、前記密度に関する閾値条件を当てはめれば、更に詳細に高精度で分類判定することも可能である。その上で、さらにアスペクト比、欠陥の真円度、欠陥の向き等の特徴量に関する閾値条件を当てはめれば、更に詳細に高精度で分類判定することが可能となる。
【0040】
なお、既述した実施形態においては、照明部3の照明角度α、正反射光撮像部4への正反射光の入射角度α、乱反射光撮像部5への乱反射光の入射角度βは、α=10°、β=30°としたが、αについては10°≦α≦25°としてもよい。βについては既述の条件を満たすことを前提に、30°≦β≦45°としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板の表面欠陥検査装置および表面欠陥検査方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 表面欠陥検査装置
2 溶融亜鉛めっき鋼板(溶融めっき鋼板)
3 照明部
4 正反射光撮像部
5 乱反射光撮像部
6 画像信号処理部
8 撮像対象部位
T1 正反射画像信号
T2 乱反射画像信号
【要約】
バラツキが生じ易い表面欠陥の面積、形状等の情報に極力頼らずに、複数種類の表面欠陥を高い精度で分類判定すること。正反射光撮像部4と乱反射光撮像部5とは同時に鋼板2上の撮像対象部位からの反射光を撮像する。画像信号処理部6は、正反射光撮像部4が撮像して得られた正反射画像信号T1のうち、所定の閾値より低輝度の部位を表面欠陥部位として抽出する。抽出された表面欠陥部位に対応する部位に関し、乱反射光撮像部5が撮像して得られた乱反射画像信号T2に対し、閾値処理を行うことにより、抽出された前記表面欠陥部位の欠陥種類を分類判定する。