特許第6027344号(P6027344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027344
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】繊維機械
(51)【国際特許分類】
   D06B 1/14 20060101AFI20161107BHJP
   B65H 71/00 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   D06B1/14
   B65H71/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-126856(P2012-126856)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-249568(P2013-249568A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 靖史
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭40−026205(JP,B1)
【文献】 実開昭51−077307(JP,U)
【文献】 特公昭63−011456(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 71/00
D01D 1/00 − 13/02
D01H 1/00 − 17/02
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
D06B 1/00 − 23/30
D06C 3/00 − 29/00
D06G 1/00 − 5/00
D06H 1/00 − 7/24
D06J 1/00 − 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行して走行する複数の糸を処理する繊維機械であって、
前記複数の糸の走行経路に配された油剤付与装置を備え、
前記油剤付与装置は、前記複数の糸に接触してこれら複数の糸に前記油剤を付与する、油剤付与ローラを有し、
前記油剤付与ローラの外周面の、前記複数の糸がそれぞれ接触する領域の間に、前記油剤付与ローラの周方向に延びる第1の溝が形成され、
前記油剤付与ローラの外周面の、1本の糸が接触する領域の前記油剤付与ローラの軸方向における幅が、前記第1の溝の幅よりも大きく、
前記油剤付与装置で油剤が付与された糸を巻取管に巻取ってパッケージを形成する巻取部を備え、
前記巻取部は、前記巻取管を回転可能に保持するクレードルを有し、前記クレードルに保持された1つの前記巻取管に、1つの前記油剤付与ローラに接触する前記複数の糸の全てを巻取って複数の前記パッケージを形成することを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
前記油剤付与装置よりも糸走行方向上流側に設けられたフィードローラをさらに備え、
1つの前記フィードローラが、1つの前記油剤付与ローラに接触する前記複数の糸を送ることを特徴とする請求項1に記載の繊維機械。
【請求項3】
前記油剤付与ローラの外周面の、前記複数の糸がそれぞれ接触する領域に、前記油剤付与ローラの軸方向に延びる複数の第2の溝が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維機械。
【請求項4】
前記第1の溝の深さが、前記第2の溝よりも深いことを特徴とする請求項に記載の繊維機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を処理する繊維機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、糸を処理する繊維機械の分野において、走行する糸に油剤を付与する油剤付与装置を備えたものが知られている。例えば、特許文献1には、紡糸口金から紡出された複数の糸にそれぞれ油剤を付与する油剤付与装置が開示されている。この特許文献1の油剤付与装置では、紡出された複数の糸に対して、油剤を付与するローラが個別に設けられている。複数の糸は、それぞれ対応するローラに接触することによって油剤が付与される。
【0003】
特許文献2には、糸に仮撚加工を施すとともに、油剤を付与した上で巻取ってパッケージを形成する仮撚加工機が開示されている。この仮撚加工機の油剤付与装置は、仮撚加工が施された後の複数の糸に1つのローラに接触させ、この1つのローラによって前記複数の糸に油剤を付与している。
【0004】
特許文献3には、特許文献1と同じく、紡糸口金から紡出された複数の糸にそれぞれ油剤を付与する油剤付与装置が開示されている。この特許文献3の油剤付与装置は、紡出された複数の糸が接触する1つのローラを備えている。このローラはその軸方向に並ぶ2つの溝を有し、2つの溝は鍔状部で仕切られている。前記2つの溝にはそれぞれ油剤が保持され、各溝に糸が接触することによって糸に油剤が付与される。尚、ローラの1つの溝には、複数の糸(図面上では2本の糸)が接触している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−18049号公報
【特許文献2】特許第3161034号(図1
【特許文献3】特開2009−84721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、並行して走行する複数の糸のそれぞれに対して油剤を付与するローラが個別に設けられている。この構成では、複数の糸にそれぞれ対応する複数のローラが糸の配列方向に並べられることになり、油剤付与装置において、複数の糸の間隔をある程度大きくせざるを得ない。装置の糸走行経路全体で複数の糸の間隔を大きくすれば、糸の配列方向における装置のサイズが大きくなる。また、油剤付与装置においてのみ複数の糸の間隔を大きくしようとすると、その前後で糸間隔を変化させることになる。その際、糸に対する油剤の付着量を安定させるために、ローラの軸に対して略直角方向に糸を走行させようとすると、糸道を変更させる糸道ガイドを追加したり、油剤付与ローラを傾けて設置する必要がある。この場合、追加した糸道ガイド上での糸の屈曲により糸品質が低下したり、あるいは、装置の構成が複雑になって糸掛けの作業性が悪化する。さらに、ローラの個数が多くなるとコスト面で不利であるし、また、取付作業等が面倒になるという問題もある。それ故、1つのローラにより複数の糸に対して油剤を付与することが望まれる。
【0007】
特許文献2では、1つのローラを複数の糸に接触させて油剤を付与しているが、以下の理由から、複数の糸の間で油剤の付着量に差が生じやすい。並行して走行する複数の糸の間で、配列方向に並ぶ糸部分同士が全く同時にローラに接触するわけではなく、複数の糸の間で前記糸部分がローラに接触するタイミングに僅かな時間的ずれが存在する。このとき、複数の糸のうちの最初にローラに接触した糸の前記糸部分に、ローラ上の油剤の大部分が付着する。そのため、その後にローラに接触した、他の糸の前記糸部分に付着する油剤が少なくなる。
【0008】
また、特許文献3では、ローラに、鍔状部で仕切られた2つの溝が形成されていることから、これら2つの溝においてそれぞれ独立して油剤が保持される。しかし、この構成では、ローラ表面の油剤は、表面張力の影響で鍔状部の根元の隅部に集まりやすく、溝の平らな底面部分に接触する糸には油剤が付着しにくくなる。また、1つの溝に複数の糸が接触している構成であるため、前記複数の糸の間で油剤の付着量に差が生じやすくなるという点は、前記特許文献2と同じである。
【0009】
本発明の目的は、1つの油剤付与ローラで複数の糸に油剤を付与するとともに、それら複数の糸の間の油剤付着量のばらつきを抑えることである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
第1の発明の繊維機械は、並行して走行する複数の糸を処理する繊維機械であって、前記複数の糸の走行経路に配された油剤付与装置を備え、前記油剤付与装置は、前記複数の糸に接触してこれら複数の糸に前記油剤を付与する、油剤付与ローラを有し、前記油剤付与ローラの外周面の、前記複数の糸がそれぞれ接触する領域の間に、前記油剤付与ローラの周方向に延びる第1の溝が形成され、前記油剤付与ローラの外周面の、1本の糸が接触する領域の前記油剤付与ローラの軸方向における幅が、前記第1の溝の幅よりも大きいことを特徴とするものである。

【0011】
本発明によれば、油剤付与ローラの外周面の、複数の糸がそれぞれ接触する領域の間に周方向に延びる第1の溝が形成されている。つまり、複数の糸がそれぞれ接触する領域が、溝によって区切られるため、ある領域に付着している油剤が他の領域に移動することが妨げられる。従って、複数の領域にそれぞれ接触する複数の糸の間での、油剤付着量の差(ばらつき)が小さくなる。
【0012】
第2の発明の繊維機械は、前記第1の発明において、前記油剤付与装置よりも糸走行方向上流側に設けられたフィードローラをさらに備え、1つの前記フィードローラが、1つの前記油剤付与ローラに接触する前記複数の糸を送ることを特徴とするものである。
【0013】
1つのフィードローラで複数の糸を安定して送るには、フィードローラによる糸送り位置において複数の糸の間隔を小さくすることが望ましい。しかし、フィードローラの下流側に位置する油剤付与装置において複数の糸の間隔が大きくなると、フィードローラにおいても、複数の糸の間隔を大きくせざるを得なくなる。尚、フィードローラでは複数の糸の間隔を狭くしておいて、油剤付与装置において糸の間隔を広げるようにすることは可能である。しかし、糸に対する油剤の付着量を安定させるために、油剤付与ローラの軸に対して略直角方向に糸を走行させようとすると、糸道を変更させる糸道ガイドを追加したり、油剤付与ローラを傾けて設置する必要がある。この場合、追加した糸道ガイド上での糸の屈曲により糸品質が低下する、あるいは、装置の構成が複雑になって糸掛けの作業性が悪化し、また、コストアップにもなるという問題がある。この点、本発明の油剤付与装置は、1つの油剤付与ローラで複数の糸に油剤を付与するため、油剤付与装置における複数の糸の間隔を小さく抑えることができ、フィードローラで送られる複数の糸の間隔も小さくすることができる。尚、油剤付与ローラの軸に対する糸の走行方向は、完全に直角とするのではなく、直角方向に対してわずかに傾けることが好ましい。これにより、糸に対する油剤の付着量を安定させつつ、且つ、付着量を増やすことができる。
【0014】
第3の発明の繊維機械は、前記第1又は第2の発明において、前記油剤付与装置で油剤が付与された糸を巻取管に巻取ってパッケージを形成する巻取部を備え、前記巻取部は、前記巻取管を回転可能に保持するクレードルを有し、前記クレードルに保持された1つの前記巻取管に、1つの前記油剤付与ローラに接触する前記複数の糸をそれぞれ巻取って複数の前記パッケージを形成することを特徴とするものである。
【0015】
本発明は、1つのクレードルに保持された1つの巻取管に、複数の糸を巻取って複数のパッケージを形成する装置構成を前提とするが、このような装置構成であっても、生産する糸品種によっては、複数の糸を合糸して1本の糸として、クレードルに保持された1つの巻取管に巻き取って1つのパッケージを形成することもある。ここで、複数の糸に対して個別に油剤付与ローラが設けられており、且つ、これら複数の糸の間隔が大きいと、複数の糸を合糸して1本の糸にして1つのパッケージに巻取る場合には、それ専用の油剤付与ローラを設ける必要が生じる。この点、本発明の油剤付与装置は、1つの油剤付与ローラで複数の糸に油剤を付与するため、油剤付与装置における複数の糸の間隔を小さく抑えることができ、1つの巻取管に複数の糸をそれぞれ巻取る場合と、複数の糸を合糸して1本の糸として巻取る場合とで、同一の油剤付与ローラを使用することが可能である。
【0016】
第4の発明の繊維機械は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記油剤付与ローラの外周面の、前記複数の糸がそれぞれ接触する領域に、前記油剤付与ローラの軸方向に延びる複数の第2の溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
油剤付与ローラの外周面に軸方向に延びる第2の溝が形成されているため、油剤付与ローラの表面の油剤保持能力が向上し、走行する糸に油剤を効率良く付着させることができる。
【0018】
第5の発明の繊維機械は、前記第4の発明において、前記第1の溝の深さが、前記第2の溝よりも深いことを特徴とするものである。
【0019】
このように、油剤付与ローラの周方向に延びる第1の溝の深さを、軸方向に延びる第2の溝の深さよりも深くなっているため、油剤付与ローラの外周面の、第1の溝で分割された複数の領域間で、個々の領域の油剤量の変動が互いに影響し合うことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る仮撚加工機の概略構成図である。
図2図1に示す仮撚加工機の仮撚加工錘が有する各種装置を、糸の走行経路に沿って模式的に展開した図である。
図3図1に示される第3フィードローラと油剤付与装置の拡大図である。
図4図3の第3フィードローラと油剤付与ローラを図中上方から見た図である。
図5】油剤付与ローラの斜視図である。
図6】第2実施形態の紡糸巻取機の概略構成を示す図である。
図7】第2実施形態の油剤付与装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
次に、本発明の第1実施形態について説明する。この第1実施形態は、複数の糸を処理する繊維機械として、仮撚加工機に本発明を適用した一例である。図1は、第1実施形態に係る仮撚加工機の概略構成図である。第1実施形態の仮撚加工機200は、図1の紙面垂直方向に配列された複数の仮撚加工錘100を備えている。図2は、図1に示す仮撚加工機の仮撚加工錘が有する各種装置を、糸の走行経路に沿って模式的に展開した図である。尚、図2では、図1の複数の仮撚加工錘100のうちの2錘を図示している。
【0022】
図1図2に示すように、各仮撚加工錘100は、糸Yを送る4種類のフィードローラ6,7,8,9と、前記フィードローラ6,7,8,9で送られる糸の走行経路に沿って配置された、給糸部1、仮撚加工部2、合糸部3、後処理部4、及び、巻取部5を備えている。図1に示されるように、第1フィードローラ6、上流側第2フィードローラ7、下流側第2フィードローラ8、及び、第3フィードローラ9は、それぞれ、ニップローラとの間で糸Yを挟んで下流側へ送る。
【0023】
給糸部1は、第1フィードローラ6よりも上流側の区間を指す。仮撚加工部2は、第1フィードローラ6から上流側第2フィードローラ7に至るまでの区間を指す。合糸部3は、上流側第2フィードローラ7から下流側第2フィードローラ8に至るまでの区間を指す。後処理部4は、下流側第2フィードローラ8から第3フィードローラ9に至るまでの区間を指す。巻取部5は第3フィードローラ9よりも下流側の区間を指す。
【0024】
後述するように、各仮撚加工錘100は、図2の左側の錘で示されるように、仮撚加工部2でそれぞれ仮撚加工を施した2本の糸Ya、Ybを、巻取部5において1つの巻取管19にそれぞれ巻取って2つの小さなパッケージP(P1)を形成することができる(2パッケージ形成モード)。一方で、各仮撚加工錘100は、図2の右側の錘で示されるように、前記2本の糸Ya、Ybを合糸部3で合糸して1本の糸Ygとし、巻取部5において巻取管19に巻取って1つの大きな合糸パッケージP(P2)を形成することもできる(合糸パッケージ形成モード)。
【0025】
給糸部1は、クリールスタンド10に支持される2つの給糸パッケージ11a、11bを有する。給糸パッケージ11a、11bの糸Ya、Ybは、第1フィードローラ6によって、パイプ12a、12bを経由して仮撚加工部2に送られる。
【0026】
仮撚加工部2は、給糸部1から送出された2本の糸Ya、Ybに対して仮撚加工を施す。仮撚加工部2は、糸Ya、Ybの走行方向の上流側から順に、糸Ya、Ybを加熱する1次ヒータ13、糸Ya、Ybを冷却する冷却装置14a、14bと、糸Ya、Ybに対して撚りを付与する仮撚装置15a、15bを備えている。
【0027】
仮撚加工部2による仮撚加工についてさらに説明する。上流側第2フィードローラ7の糸送り速度は第1フィードローラ6の糸送り速度よりも速い速度に設定される。これにより、糸Ya、Ybは、第1フィードローラ6と上流側第2フィードローラ7との間で延伸される。この延伸状態で、仮撚装置15a、15bによって、第1フィードローラ6と上流側第2フィードローラ7との間で加撚される。延伸されつつ加撚された糸Ya、Ybは、1次ヒータ13で熱セットされた後、冷却装置14a、14bで冷却される。加撚、熱セット、及び、冷却後の糸Ya、Ybは、仮撚装置15a、15bを通過した後、上流側第2フィードローラ7に至るまでに解撚される。
【0028】
尚、図2では、1次ヒータ13は2錘の仮撚加工錘100で共通となっているが、1錘毎に1次ヒータ13が設けられてもよい。さらに、1錘の仮撚加工錘100において、2本の糸Ya、Ybに対して2つの1次ヒータ13が個別に設けられてもよい。
【0029】
合糸部3は、仮撚加工部2によって仮撚加工が施された2本の糸Ya、Ybに交絡部を形成する、2つのインタレースノズル16a、16bを備えている。図2の左側の錘に示されるように、上記2本の糸Ya、Ybが別個に、2つのインタレースノズル16a、16bにそれぞれ通される場合は、インタレースノズル16aが糸Yaに対して交絡部を形成すると共に、インタレースノズル16bが糸Ybに対して交絡部を形成する。一方、上記2本の糸Ya、Ybの両方が、1つのインタレースノズル16a(又は、インタレースノズル16b)に通される場合は、この1つのインタレースノズル16a(16b)が糸Ya、Ybに対して交絡部を形成しつつ、糸Ya、Ybを合糸する。
【0030】
後処理部4は、2次ヒータ17を備えている。2次ヒータ17よりも下流に位置する第3フィードローラ9の糸送り速度は、2次ヒータ17よりも上流側に位置する、下流側第2フィードローラ8の糸送り速度よりも遅い速度に設定される。これにより、糸Y(2本の糸Ya、Yb、又は、合糸部3で合糸された糸Yg)は、下流側第2フィードローラ8と第3フィードローラ9との間で弛緩される。この弛緩状態で、糸Ya、Ybは、2次ヒータ17において熱処理される。
【0031】
尚、図2では、2次ヒータ17が、1次ヒータ13と同じく、2錘の仮撚加工錘100で共通となっているが、1錘毎に2次ヒータ17が設けられてもよい。さらに、1錘の仮撚加工錘100で、2本の糸Ya、Ybに対して2つの2次ヒータ17が個別に設けられてもよい。
【0032】
巻取部5は、油剤付与装置40と、巻取装置18とを備えている。油剤付与装置40は、下流側第2フィードローラ8から送られてきたY(2本の糸Ya、Yb、又は、合糸された糸Yg)に油剤を付与する。巻取装置18は、油剤付与装置40によって油剤が付与された糸Yを巻取管19に巻取ってパッケージPを形成する。
【0033】
図3は、図1に示される第3フィードローラと油剤付与装置の拡大図である。図4は、図3の第3フィードローラと油剤付与ローラを図中上方から見た図である。図5は、油剤付与ローラの斜視図である。尚、図4は、第3フィードローラ9によって2本の糸Ya、Ybがそれぞれ送られる状態(2パッケージ形成モード)における図である。
【0034】
図3図5に示すように、油剤付与装置40は、油剤貯留体41と、油剤付与ローラ42と、糸ガイド43を備えている。油剤貯留体41には油剤48が貯留されている。油剤付与ローラ42は、その下部が油剤貯留体41内の油剤48に浸漬された状態で、油剤貯留体41に回転自在に取り付けられている。また、油剤付与ローラ42は、図示しないモータによって回転駆動され、その外周面に糸Y(2本のYa、Yb、あるいは、合糸された糸Yg)が接触した状態で回転することによって、走行する糸Yに連続的に油剤を付与する。糸ガイド43は、油剤付与ローラ42に接触して油剤が付与された糸Yを、巻取装置18へ案内するガイドである。
【0035】
図3図5に示すように、油剤付与ローラ42は、その外周面に周方向に並ぶ多数の保持溝44(第2の溝)が形成されており、いわば、ギザギザ形状の外周面を有する。これにより、油剤付与ローラ42は、油剤貯留体41内に浸漬されたときに付着した油剤を、保持溝44によって外周面に保持できるようになっている。従って、油剤付与ローラ42の表面の油剤保持能力が向上し、走行する糸Yに油剤を効率良く付着させることができる。また、油剤付与ローラ42の外周面の幅方向(軸方向)中央部には、ローラ42の周方向全周にわたって環状溝45(第1の溝)が形成されている。つまり、油剤付与ローラ42の外周面は、環状溝45によって幅方向において2つの領域42a、42bに分けられている。尚、環状溝45の溝の深さは、複数の保持溝44よりも深くなっている。
【0036】
2パッケージ形成モードでは、1つの第3フィードローラ9(及び、ニップローラ33)により、2本の糸Ya、Ybが油剤付与装置40へ向けて送られる。図4に示すように、並行して走行する2本の糸Ya、Ybは、油剤付与ローラ42の外周面の、環状溝45で分けられた2つの領域42a、42bにそれぞれ接触し、油剤が付与される。このように、油剤付与ローラ42の外周面の、2本の糸Ya、Ybがそれぞれ接触する2つの領域42a、42bが環状溝45によって区切られるため、環状溝45によって、一方の領域に付着している油剤が他方の領域に移動することが妨げられる。従って、2つの領域42a、42bにそれぞれ接触する2本の糸Ya、Ybの間での、油剤付着量の差が小さくなる。また、環状溝45の深さが、複数の保持溝44よりも深くなっているため、油剤付与ローラ42の外周面の、環状溝45で分割された2つの領域42a,42b間で、個々の領域の油剤量の変動が互いに影響し合うことが防止される。尚、図2の右側の錘で示される、2本の糸Ya、Ybが合糸部3で合糸される合糸パッケージ形成モードでは、合糸された糸Ygは、油剤付与ローラ42の外周面の2つの領域42a、42bのうちの何れか一方に接触する。
【0037】
巻取装置18は、クレードル20、トラバース装置21、巻取ドラム23を備えている。尚、図1に示すように、仮撚加工機200のコンパクト性の観点から、図1の紙面垂直方向に並ぶ複数(図では3つ)の仮撚加工錘100の巻取装置18が、ほぼ上下に重なり合うように配置されている。
【0038】
クレードル20は、互いに対向する一対のボビンホルダ22を備えており、ボビンホルダ22により、1つの巻取管19を回転自在に保持する。
【0039】
トラバース装置21は、図示しないモータによって駆動されるベルト体26と、このベルト体26に設けられ、糸Ya、Ybを巻取管19の軸方向にそれぞれトラバースさせる2つのトラバースガイド27a、27bと、を備えている。ベルト体26は、例えば、内周に多数の歯を有する歯付きベルトである。ベルト体26が巻掛けられたプーリがモータによって正逆回転駆動されることによって、ベルト体26に設けられた2つのトラバースガイド27a、27bは、巻取管19の軸方向に往復移動し、糸Ya、Ybをそれぞれトラバースする。
【0040】
トラバース装置21の糸走行方向上流側には、糸ガイド30a、30b、30cが設けられている。糸ガイド30aは、糸Yaのトラバース支点となるガイドであり、糸ガイド30bは、糸Ybのトラバース支点となる糸ガイド30bである。また、糸ガイド30cは、合糸された糸Ygのトラバース支点となるガイドである。
【0041】
図2の左側の錘で示される2パッケージ形成モードでは、並行して走行する2本の糸Ya、Ybが2つの糸ガイド30a、30bに掛けられた上で、2つのトラバースガイド27a、27bによってそれぞれトラバースされる。また、図2の右側の錘で示される合糸パッケージ形成モードでは、合糸された糸Ygが糸ガイド30cに掛けられた上で、2つのトラバースガイド27a、27bのうちの一方によって、糸Ygがトラバースされる。
【0042】
巻取ドラム23は、クレードル20に保持された巻取管19の外周面と密着するように配置されている。そして、図示しないモータによって回転駆動されることで、この巻取ドラム23に密着した巻取管19を連れ回りさせて、巻取管19に糸Yを巻取らせる。
【0043】
次に、仮撚加工錘100の動作を、2パッケージ形成モードと合糸パッケージ形成モードのそれぞれで分けて説明する。
【0044】
(2パッケージ形成モード)
まず、2パッケージ形成モードについて説明する。2パッケージ形成モードでは、給糸部1の給糸パッケージ11a、11bの2本の糸Ya、Ybが、第1フィードローラ6で仮撚加工部2へ送られ、仮撚加工部2でそれぞれ仮撚加工が施される。
【0045】
仮撚加工が施された2本の糸Ya、Ybは、上流側第2フィードローラ7と下流側第2フィードローラ8で送られつつ、その間の合糸部3において2つのインタレースノズル16a,16bによりそれぞれ交絡部が形成される。その後、後処理部4の2次ヒータ17によって弛緩熱処理がなされた後、2本の糸Ya、Ybは第3フィードローラ9で巻取部5に送られる。巻取部5では、2本の糸Ya、Ybは、油剤付与装置40により油剤が付与された後、トラバース装置21でそれぞれトラバースされつつ、1つのクレードル20に支持された1本の巻取管19に巻取られる。これにより、1つのクレードル20に2つのパッケージP1が形成される。
【0046】
尚、この2パッケージ形成モードにおいて、1つのクレードル20に保持される1つの巻取管19が、2つの巻取管部材が分離可能に連結されて構成されていてもよい。この場合、1つの巻取管19を構成する2つの巻取管部材に、2つのパッケージP1がそれぞれ形成される。ここで、2つの巻取管部材が分離可能に連結されていることから、2つのパッケージP1を簡単に分割することができる。
【0047】
ここで、油剤付与装置40においては、1つの油剤付与ローラ42によって2本の糸Ya、Ybにそれぞれ油剤が付与される。この場合、2本の糸Ya、Ybに対してそれぞれ個別に油剤付与ローラを設ける場合と比べると、並行して走行する2本の糸Ya,Ybの間隔を小さくすることができる。さらに、油剤付与ローラ42の数が少なくて済み、コストや取付作業等の面で有利である。
【0048】
さらに、図4図5に示すように、油剤付与ローラ42の、2本の糸Ya、Ybがそれぞれ接触する領域42a、42bが、環状溝45で区切られている。そのため、2本の糸Ya、Ybがそれぞれ接触する2つの領域42a、42b間での油剤の移動が環状溝45によって妨げられるため、2本の糸Ya、Ybの間での油剤付着量の差が小さくなる。
【0049】
尚、第1実施形態では、図5に示すように、2次ヒータ17で弛緩熱処理された2本の糸Ya、Ybが、1つの第3フィードローラ9(及びニップローラ33)によって油剤付与装置40へ送られる。ここで、1つの第3フィードローラ9で2本の糸Ya、Ybを安定して送るには、この第3フィードローラ9による糸送り位置において2本の糸Ya、Ybの間隔を小さくすることが望ましい。しかし、第3フィードローラ9の下流側に位置する油剤付与装置40において2本の糸Ya、Ybの間隔が大きくなると、第3フィードローラ9においても、2本の糸Ya、Ybの間隔を大きくせざるを得なくなる。尚、第3フィードローラ9では2本の糸Ya、Ybの間隔を狭くしておいて、油剤付与装置40において糸の間隔を広げるようにすることは可能であるが、第3フィードローラ9と油剤付与装置40の間での糸の傾き角が大きくなる。糸に対する油剤の付着量を安定させるために、上記傾き角を小さくして、油剤付与ローラ42の軸に対して略直角方向に糸を走行させることが好ましい。そのためには、糸道を変更させる糸道ガイドを追加したり、油剤付与ローラ42を傾けて設置する必要がある。しかし、そうすることによって、追加した糸道ガイド上での糸の屈曲により糸品質が低下する、あるいは、装置の構成が複雑になって糸掛けの作業性が悪化し、また、コストアップにもなるという問題がある。
【0050】
この点、上述したように、1つの油剤付与ローラ42で2本の糸Ya、Ybに油剤を付与する構成であることから、油剤付与装置40における2本の糸Ya、Ybの間隔を小さく抑えることができる。従って、第3フィードローラ9による2本の糸Ya、Ybの送りが安定する。
【0051】
(合糸パッケージ形成モード)
次に、合糸パッケージ形成モードについて説明する。この合糸パッケージ形成モードにおいても、前記2パッケージ形成モードと同様に、給糸部1の給糸パッケージ11a、11bの2本の糸Ya、Ybが、第1フィードローラ6で仮撚加工部2へ送られ、仮撚加工部2でそれぞれ仮撚加工が施される。
【0052】
仮撚加工が施された2本の糸Ya、Ybは、合糸部3において2つのインタレースノズル16a、16bのうちの一方に送られる。そして、1つのインタレースノズル16a(16b)によって2本の糸Ya、Ybが合糸される。合糸された糸Ygは、後処理部4の2次ヒータ17によって弛緩熱処理がなされた後、第3フィードローラ9で巻取部5に送られる。巻取部5では、まず、油剤付与装置40により糸Ygに油剤が付与される。尚、このとき、糸Ygは、油剤付与ローラ42の2つの領域42a、42bのうちの一方に接触することによって油剤が付与される。その後、糸Ygは、トラバース装置21でトラバースされつつクレードル20に支持された巻取管19に巻取られる。これにより、1つのクレードル20に1つの合糸パッケージP2が形成される。
【0053】
ここで、上述した2パッケージ形成モードと合糸パッケージ形成モードは、生産する糸の品種によって頻繁に切り換える。本実施形態では、1つの第3フィードローラ9で2本の糸Ya、Ybを送り出し、1つの油剤付与ローラ42で2本の糸Ya、Ybに油剤を付与する構成であるため、2パッケージ形成モードと合糸パッケージ形成モードの何れのパッケージ形成モードの場合にも同一の第3フィードローラ9と油剤付与装置40を使用することが可能となる。そのため、パッケージ形成モードの切り替えを容易に実施することが可能である。
【0054】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、糸を処理する繊維機械として、紡糸巻取機に本発明を適用した一例である。図6は、第2実施形態の紡糸巻取機の概略構成を示す図である。
【0055】
図6に示すように、紡糸巻取機300は、紡糸装置50の紡糸口金50aから紡出された複数の糸Ycを、複数のボビン54にそれぞれ巻取ってパッケージPcを形成するものである。詳細には、紡糸巻取機300は、油剤付与装置51、2つのゴデットローラ52a,52b、及び、巻取装置53を有する。紡糸口金50aから紡出された複数の糸Ycは、油剤付与装置51においてそれぞれ油剤が付与された後、2つのゴデットローラ52a,52bによって巻取装置53へ送られる。巻取装置53は、図6の紙面垂直方向に延びる長尺のスピンドル55を有し、このスピンドル55には軸方向(図6の紙面垂直方向)に沿って複数のボビン54が装着される。巻取装置53のスピンドル55を回転させることにより、複数のボビン54に前記複数の糸Ycがそれぞれ巻取られ、複数のパッケージPcが同時に形成される。
【0056】
図7は、油剤付与装置を示す図である。図7に示すように、この第2実施形態の油剤付与装置51は、前記第1実施形態の油剤付与装置40と同様に、油剤貯留体61と、油剤付与ローラ62とを有する。油剤付与ローラ62は、その下部が油剤貯留体61内の油剤68に浸漬された状態で、油剤貯留体61に回転自在に支持されている。この油剤付与ローラ62の外周面に、図7の紙面手前側において並行して走行する複数(図では8本)の糸Ycが接触することで、これら複数の糸Ycにそれぞれ油剤が付与される。
【0057】
また、油剤付与ローラ62の外周面には、その周方向に延びる複数(図では7つ)の環状溝65が形成されている。複数の環状溝65によって、油剤付与ローラ62の外周面が、その軸方向に複数の領域71に分けられている。そして、これら複数の領域71に複数の糸Ycがそれぞれ接触する。このように、油剤付与ローラ62の外周面の、複数の糸Ycがそれぞれ接触する複数の領域71が、複数の環状溝65によって区切られることにより、複数の領域71間での油剤の移動が妨げられる。従って、複数の糸Ycの間での油剤付着量のばらつきが小さく抑えられる。
【0058】
尚、前記第1実施形態の油剤付与ローラ42の外周面には、油剤を保持するための多数の保持溝44が形成されていたが(図5参照)、このような保持溝は必ずしも必要ではなく、糸の種類や、糸に付与すべき油剤の量等の、種々の条件に応じて適宜省略できる。例えば、上記第2実施形態の油剤付与ローラ62は、外周面に保持溝が形成されていない。
【0059】
以上、本発明の実施形態として、仮撚加工機や紡糸巻取機の例を挙げて説明したが、本発明の適用対象はこれらには限られない。即ち、並行して走行する複数の糸を処理する他の繊維機械に対しても本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0060】
200 仮撚加工機
5 巻取部
9 第3フィードローラ
18 巻取装置
19 巻取管
20 クレードル
40 油剤付与装置
42 油剤付与ローラ
44 保持溝(第2の溝)
45 環状溝(第1の溝)
300 紡糸巻取機
51 油剤付与装置
62 油剤付与ローラ
65 環状溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7