(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の一実施の形態における緩衝装置D1は、
図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を2つの伸側室R1および圧側室R2に区画するピストン2と、上記した伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路4,5と、圧力室Cを形成するハウジング6と、上記ハウジング6内に摺動自在に挿入されて圧力室Cを伸側圧力室7と圧側圧力室8と
に区画するフリーピストン9と、伸側室R1と伸側圧力室7とを連通する伸側通路10と、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側通路11と、フリーピストン9のハウジング6に対して中立位置に位置決めるとともにフリーピストン9の中立位置からの変位を抑制する附勢力を発揮するばね要素12と、フリーピストン9がハウジング6に対して中立位置から伸側圧力室側へ所定の変位量以上変位するとフリーピストン9に衝合して当該フリーピストン9のそれ以上の伸側圧力室側への変位を抑制するクッションとしての伸側クッション13と、ハウジング6に固定されるとともに伸側クッション13を保持するクッション固定部材としての伸側クッション固定部材14と、フリーピストン9がハウジング6に対して中立位置から圧側圧力室側へ所定の変位量以上変位するとフリーピストン9に衝合して当該フリーピストン9のそれ以上の圧側圧力室側への変位を抑制するクッションとしての圧側クッション15と、ハウジング6に固定されるとともに圧側クッション15を保持するクッション固定部材としての圧側クッション固定部材16とを備えて構成されている。
【0015】
また、緩衝装置D1は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド3を備えており、ピストンロッド3の一端はピストン2に連結されるとともに、他端である上端は、図示はしないが、シリンダ1の上端を封止する環状のロッドガイドによって摺動自在に軸支されている。なお、シリンダ1の下端は、図外のボトム部材によって封止されている。
【0016】
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室C内には作動油等の液体が充満され、また、シリンダ1内の図中下方には、シリンダ1の内周に摺接して圧側室R2と気体室
GRとを区画する摺動隔壁17が設けられている。なお、上記した伸側室R1、圧側室R2および圧力室C内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
【0017】
図示したところでは、緩衝装置D1は、伸側室R1にのみピストンロッド3が挿通される片ロッド型であるので、緩衝装置D1の伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド3の体積は、気体室
GR内の気体の体積が膨張あるいは収縮して摺動隔壁17が
図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。なお、ピストンロッド3がシリンダ1に進退する体積の補償については、シリンダ1内に気体室
GRを設けるほか、シリンダ1内或いはシリンダ1外にリザーバを設けるようにしてもよく、リザーバをシリンダ1外に設ける場合、シリンダ1の外周を覆う外筒を設けてシリンダ1と外筒との間にリザーバを形成する複筒型緩衝器とするほか、シリンダ1とは別個にタンクを設けて当該タンクでリザーバを形成するようにしてもよい。また、リザーバを設ける場合、緩衝装置D1の収縮作動時に圧側室R2の圧力を高めるために圧側室R2とリザーバとの間を仕切る仕切部材と、仕切部材に設けられて圧側室R2からリザーバへ向かう液体の流れに抵抗を与えるベースバルブとを設けるようにしてもよい。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0018】
以下、緩衝装置D1の各部について詳細に説明する。ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド3の
図1中下端である一端3aに連結され、ピストンロッド3は、シリンダ1の図中上端に固定された図示しない環状のロッドガイドの内周を通して外方へ突出されている。なお、ピストンロッド3と上記した図外のロッドガイドとの間は図示しないシール部材によって封止されており、シリンダ1内は液密状態に保たれている。
【0019】
また、ピストン2は、伸側室R1と圧側室R2を連通する減衰通路4,5を備えており、減衰通路4の
図1中下端がピストン2の
図1中下方に積層されるリーフバルブV1で開閉されるようになっており、また、減衰通路5の
図1中上端がピストン2の
図1中上方に積層されるリーフバルブV2で開閉されるようになっている。そして、リーフバルブV1は、環状であってピストン2とともにピストンロッド3の一端3aに装着されて、ピストン2が
図1中上方に移動する緩衝装置Dの伸長行程時に、液体が減衰通路4を伸側室R1から圧側室R2へ向けて流れる際に撓んで減衰通路4を開放するとともに当該液体の流れに抵抗を与え、逆向きの流れに対しては減衰通路4を閉塞するようになっており、減衰通路4を伸側室R1から圧側室R2へ向かう流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。他方、リーフバルブV2は、環状であってピストン2とともにピストンロッド3の一端3aに装着されて、ピストン2が
図1中下方に移動する緩衝装置Dの収縮行程時に、液体が減衰通路5を圧側室R2から伸側室R1へ向けて流れる際に撓んで減衰通路5を開放するとともに当該液体の流れに抵抗を与え、逆向きの流れに対しては減衰通路5を閉塞するようになっており、減衰通路5を圧側室R2から伸側室R1へ向かう流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。つまり、リーフバルブV1は、伸長行程時に減衰通路4を流れる液体の流れに抵抗を与える伸側減衰バルブとして機能し、リーフバルブV2は、収縮行程時に減衰通路5を流れる液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブとして機能する。このように、減衰通路4,5を複数設ける場合には、減衰通路を一方通行に設定するようにして、伸長行程時のみ或いは収縮行程時のみに液体が流れるようにしてもよく、また、減衰通路が双方向の流れを許容して通過する液体の流れに抵抗を与えるようにしてもよい。減衰通路を通過液体の流れに抵抗を与える減衰通路たらしめる減衰バルブとしては、上記したリーフバルブのほか、ポペットバルブやオリフィス、チョークといった種々の減衰バルブを使用することができる。なお、減衰通路4,5は、ピストン2以外に設けることもできる。
【0020】
つづいて、圧力室Cは、この実施の形態の場合、ピストンロッド3の一端3aの最先端外周に設けた螺子部3bに螺合される中空なハウジング6によって形成されており、当該ハウジング6は、上記ピストン2およびリーフバルブV1,V2をピストンロッド3の一端3aに固定するピストンナットとしても機能している。
【0021】
そして、ハウジング6内に形成された圧力室Cは、当該圧力室C内に摺動自在に挿入されるフリーピストン9で
図1中上方の伸側圧力室7と
図1中下方の圧側圧力室8とに仕切られていて、フリーピストン9は、圧力室C内でハウジング6に対して
図1中上下方向に変位することができるようになっている。
【0022】
詳しくは、ハウジング6は、ピストンロッド3の一端3aに形成の螺子部3bに螺合されるナット部20と、ナット部20の外周から垂下される筒部22と筒部22の端部である
図1中下端を閉塞する底部23とを備えた有底筒状のハウジング筒21とを備えて構成されて、圧側室R2内に圧力室Cを画成している。
【0023】
また、ナット部20は、その内周にピストンロッド3の螺子部3bに螺合する螺子筒20aと当該螺子筒20aの外周に設けられて外方へ突出する鍔20bとを備えている。
【0024】
ハウジング筒21は、上記したように有底筒状であって、その
図1中上端開口部をナット部20の鍔20bの外周へ向けて加締めることで、ナット部20に一体化されている。ハウジング筒21は、より詳しくは、鍔20bから垂下される筒部22と、当該筒部22の端部を閉塞する底部23とを備えて有底筒状とされており、また、ハウジング筒21における筒部22は、ナット部側であってフリーピストン9が摺接する内径大径部22aと、反ナット部側の内径小径部22bと、当該内径大径部22aと内径小径部22bとの間に形成される段部22cとを備えている。なお、ナット部20とハウジング筒21との一体化にあたり加締め加工以外にも溶接や螺合といった他の加工方向を採用することもできる。
【0025】
なお、ハウジング筒21の筒部22の少なくともに一部における外周断面形状は、図示しない工具で把持可能なように円形以外の形状であって当該工具に符合する形状、たとえば、一部を切欠いた形状や六角形等の形状とされており、工具で筒部22の外周を把持してハウジング6を周方向へ回転せしめて、上記ナット部20に所定の締め付けトルクを付加して螺子部3bへ螺着することができるようになっている。さらに、筒部22の側部にオリフィス孔22dが設けられており、当該オリフィス孔22dにて圧力室Cと圧側室R2とが連通されており、底部23にもオリフィス孔23aが設けられていて、当該オリフィス孔23aにて圧力室Cと圧側室R2とが連通されている。
【0026】
また、伸側圧力室7は、ピストンロッド3の伸側室R1に臨む側部から一端3aの端部へ通じる伸側通路10によって、伸側室R1へ通じている。この伸側通路10は、ピストンロッド3の伸側室R1に臨む側部から開口する横孔10aと、一端3aの端部から開口して横孔10aへ通じる縦孔10bとで構成されている。
【0027】
そして、圧力室C内に挿入されるフリーピストン9は、ハウジング筒21の筒部22における内径大径部22aに摺接する摺接筒30と、摺接筒30の下端を閉塞する鏡部31と備えて有底筒状とされており、ハウジング6内を伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画している。また、フリーピストン9は、摺接筒30の外周の全周渡って設けた環状凹部32と、環状凹部32を圧側圧力室8へ連通する連通孔33とを備えていて、環状凹部32をハウジング6の筒部22に形成のオリフィス孔22dに対向させる場合には、圧側室R2を圧側圧力室8へ連通し、環状凹部32が上記オリフィス孔22dへ対向せずに摺接筒30でオリフィス孔22dを閉塞する場合には、圧側室R2と圧側圧力室8とのオリフィス孔22dを介しての連通を断つようになっている。オリフィス孔22dは、通過する液体の流れに抵抗を与えて所定の圧力損失を生じるようになっていて、圧側室R2と圧側圧力室8との間に差圧を生じせしめるようになっている。また、ハウジング筒21における底部23に設けたオリフィス孔23aも絞り通路として機能しており、通過する液体の流れに抵抗を与えて所定の圧力損失を生じるようになっていて、やはり圧側室R2と圧側圧力室8との間に差圧を生じせしめるようになっている。なお、こちらのオリフィス孔23aは、フリーピストン9によって閉じられることはなく、常時開放されている。つまり、圧側圧力室8は、オリフィス孔22dが連通状態にある場合には、オリフィス孔22d,23aを介して圧側室R2に連通され、オリフィス孔22dが遮断状態にあるときは、オリフィス孔23aのみを介して圧側室R2に連通されるようになっており、オリフィス孔22d,23a、環状凹部32および連通孔33によって圧側通路11を形成している。
【0028】
さらに、フリーピストン9のハウジング6に対する変位に対して当該変位を抑制する附勢力を作用させるため、伸側圧力室7内であってナット部20の鍔20bとフリーピストン9の鏡部31との間、および、圧側圧力室8内であって底部23とフリーピストン9の鏡部31との間に、それぞれ、ばね要素12としてのコイルばねである伸側ばね34および圧側ばね35をともに圧縮状態で介装されている。このようにフリーピストン9は、これら伸側ばね34および圧側ばね35によって上下側から挟持されて、圧力室C内の所定の中立位置に位置決められていて、中立位置から変位すると伸側ばね34および圧側ばね35がフリーピストン9を中立位置に戻そうとする附勢力を発揮するようになっている。中立位置は、圧力室Cの軸方向の中央を指すものではなく、フリーピストン9がばね要素12によって位置決められる位置のことである。
【0029】
なお、ばね要素12としては、フリーピストン9を中立位置に位置決めるとともに、附勢力を発揮できればよいので、コイルばね以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン9を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン9に連結される単一の
ばね要素を用いる場合には、ナット部20あるいは底部23に他端を固定するようにしてもよい。
【0030】
伸側ばね34は、フリーピストン9の摺接筒30の内周に遊嵌されて半径方向におおよその位置に位置決められ、また、圧側ばね35の
図1中上端は、フリーピストン9の鏡部31の下端に形成の突部31aに遊嵌されて半径方向におおよその位置に位置決められている。このように、伸側ばね34および圧側ばね35は、上記のごとく、フリーピストン9によってともにセンタリングされて、フリーピストン9に対し位置ずれが防止されており、これによって安定的にフリーピストン9に附勢力を作用させることが可能となっている。
【0031】
上記したように、フリーピストン9は、ハウジング6内でばね要素12としての
伸側ばね34
、圧側ばね35によって弾性支持されてばね要素12による附勢力以外に力が作用していない状態ではハウジング6内で中立位置に位置決められ、当該中立位置にあるときには必ず上記環状凹部32がオリフィス孔22dに対向して圧側圧力室8と圧側室R2とが連通されるようになっている。他方、フリーピストン9がある程度、中立位置から変位すると、フリーピストン9の摺接筒3
0の外周がオリフィス孔22dに完全にオーバーラップしてこれを閉塞するようになっている。なお、フリーピストン9がオリフィス孔22dを閉塞し始める中立位置からの変位量は、任意に設定することができ、オリフィス孔22dを閉塞し始めるフリーピストン9の
図1中上方となる伸側圧力室7側への中立位置からの変位量と、オリフィス孔22dを閉塞し始めるフリーピストン9の
図1中下方となる圧側圧力室8側への中立位置からの変位量とを異なるように設定してもよい。なお、この実施の形態では、オリフィス孔22dを二つ設けているが、その数は任意であり、圧側室R2に連通される環状凹部を筒部22の内周に設け、フリーピストン9の外周側と圧側圧力室8を連通するオリフィス孔をフリーピストン9に設けるようにしてもよい。
【0032】
そして、この緩衝装置Dの場合、ハウジング6に伸側クッション13と圧側クッション15がそれぞれ対応する伸側クッション固定部材14および圧側クッション固定部材16によって固定されて設けられている。
【0033】
詳しくは、伸側クッション13は、環状のゴム等の弾性体であって、ナット部20の鍔20bに積層されてフリーピストン9の摺接筒30の
図1中上端に対向しており、フリーピストン9が中立位置から伸側圧力室7を圧縮する方向である
図1中上方へ所定の変位量を変位して、このフリーピストン9の摺接筒30に衝合すると、それ以上のフリーピストン9の
図1中上方への変位を抑制する。また、伸側クッション13は、
図1中下端であるフリーピストン側端の外周に環状凹部13aを備えている。
【0034】
伸側クッション固定部材14は、環状であって鍔20bに積層されており、ハウジング筒21の筒部22の開口端を加締めてナット部20の鍔20bに固定する際に、鍔20bとともに筒部22の折り曲げられた開口端によって把持されてハウジング6に固定されている。具体的には、筒部22の内径大径部22aの
図1中上端に、加締め加工が施される薄肉の折曲部22eが設けられており、内径大径部22aに折曲部22eを設けることで、この内径大径部22aの内周に第二段部22fが設けられている。伸側クッション固定部材14は、この第二段部22fに積層され、この伸側クッション固定部材14の
図1中上方には、ナット部20の鍔20bが積層される。このように、第二段部22fに、伸側クッション固定部材14と鍔20bとを積層した状態で、折曲部22eを外周側から加締め加工すると、変形後の折曲部22eと第二段部22fによって把持されて伸側クッション固定部材14とナット部20とがハウジング6に固定される。
【0035】
伸側クッション固定部材14のフリーピストン側端の内周には、内周側へ突出するフランジ状の固定部14aが設けられていて、この固定部14aが伸側クッション13に設けた環状凹部13aに嵌合し、伸側クッション13をハウジング6に固定するようになっている。なお、固定部14aの形状は、伸側クッション13をハウジング6に固定できる形状であればよいので、フランジ以外の形状とされてもよく、必ずしも周方向に切れ目のない環状である必要はないが、環状であると伸側クッション13が圧縮された際の内周側への変形を無理なく抑制でき、伸側クッション13の耐久性を損なうことが無い。
【0036】
このように、伸側クッション固定部材14を設けることによって、伸側クッション13のハウジング6からの脱落が阻止される。また、ハウジング筒21をナット部20の鍔20bに加締めて固定する際に、伸側クッション固定部材14が鍔20bとともに加締められてハウジング筒21に一体化されるので、伸側クッション固定部材14をハウジング6に固定する加工が容易で、加工工数も削減されるので、コストが安価となる。
【0037】
他方、圧側クッション15は、環状のゴム等の弾性体であって、ハウジング筒21の筒部22における段部22cに積層されてフリーピストン9の
図1中下端外周に対向しており、フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室8を圧縮する方向である
図1中下方へ所定の変位量を変位すると、このフリーピストン9の
図1中下端に衝合して、それ以上のフリーピストン9の
図1中下方への変位を抑制する。また、圧側クッション15の内周の反フリーピストン側には、内周へ向けて突出するフランジ部15aを備えている。
【0038】
圧側クッション固定部材16は、筒状であって、中間部から反フリーピストン側が圧入部16aとされていて、この圧入部16aをハウジング筒21における内径小径部22bの内周に圧入することでハウジング6に一体化される。具体的には、内径小径部22bの
図1中上端内周には、環状の装着凹部22gが設けてあり、この装着凹部22gに圧入部16aが圧入される。このようにすることで、圧入部16aが内径小径部22bより内周側へ出っ張ることが無く、圧側ばね35と干渉しないように配慮されている。なお、圧側ばね35との干渉の心配が無ければ、筒部22に装着凹部22gを設けないようにしてもよい。
【0039】
また、圧入部16aからフリーピストン側もまた筒状であるが、外径が圧側クッション側へ向けて拡径されて形成されたフランジ状の固定部16bを備えており、この固定部16bを圧側クッション15のフランジ部15aに引っ掛けることで、圧側クッション15のハウジング6からの脱落を阻止している。
【0040】
このように、圧側クッション固定部材16を圧側クッション15の内周に嵌合させることで当該圧側クッション15をハウジング6に固定することで、圧側クッション15がフリーピストン9によって圧縮された際に、圧側クッション15が筒部22と圧側クッション固定部材16とで内周側への変形も外周側への変形も規制され圧側クッション15の変形が抑制されるので、圧側クッション15の劣化を抑制することができる。また、圧側クッション固定部材16は、フリーピストン9の摺接面ではない内径小径部22bに圧入するようにしているので、フリーピストン9の摺動面である内径大径部22aを傷めることがなく、圧側クッション固定部材16の組付加工が緩衝装置D1の減衰特性に影響を与えることが無い。なお、圧側クッション15と筒部22との間、つまり、内径大径部22aとの間には、若干の隙間を設けていて、圧側クッション15のハウジング6への組み付けが容易になる。
【0041】
また、伸側クッション13がフリーピストン9の摺接筒30と衝合し始める際のフリーピストン9の中立位置からの所定の変位量は、圧側クッション15がフリーピストン9の下端と衝合し始める際のフリーピストン9の中立位置からの所定の変位量とは、任意に設定することができ、異なるように設定することもできる。また、伸側クッション13および圧側クッション15は、ハウジング6に設置されてフリーピストン9に衝合するようになっていればよいので、上記したハウジング6に対する設置個所は、ハウジング6とフリーピストン9の形状に適せて変更することができ、減衰力低減効果を得るにはフリーピストン9のストローク長さを可能な限り大きくとるほうがよいことから、極力、フリーピストン9がストロークエンドに近い所で伸側クッション13と圧側クッション15に衝合するようにすることが望ましい。なお、固定部16bの形状は、圧側クッション15をハウジング6に固定できる形状であればよいので、上記以外の形状とされてもよく、必ずしも周方向に切れ目のない筒状である必要はないが、筒状であると圧側クッション15が圧縮された際の内周側への変形を無理なく抑制でき、
圧側クッション15の耐久性を損なうことが無い。
【0042】
なお、
図2に示す一実施の形態の一変形例における緩衝装置D1のように、圧側クッション15のフリーピストン側端の断面形状を先細り形状として、フリーピストン9との接触面積が小さくなるので、圧側クッション15とフリーピストン9とが接触した際に生じる接触音を低減することができる。また、図示はしないが、圧側クッション15の反フリーピストン側の内周にフランジ部15aを設ける代わりに、反フリーピストン側へ向かうほど内径が小径になるテーパ面を設けておき、固定部材16を筒状としてフリーピストン側の外周にフリーピストン側端へ向かうほど外径が拡径されるテーパ部を設け、このテーパ部を圧側クッション15のテーパ面に嵌合させて圧側クッション15のハウジング6からの脱落を防止するようにしてもよい。このようにしても、圧側クッション15が筒部22と圧側クッション固定部材16とで内周側への変形も外周側への変形も規制され圧側クッション15の変形が抑制されるので、圧側クッション15の劣化を抑制することができる。
【0043】
さらに、
図3に示す一実施の形態の他の変形例における緩衝装置D1のように、圧側クッション固定部材16を内径小径部22bの内周に圧入するのではなく、螺着するようにすることも可能である。この圧側クッション固定部材16は、圧入部16aの代わりに、外周に螺子部16dを設け、
内径小径部22bの内周にも螺子部22hを設けて、両者を螺合してハウジング6と圧側クッション固定部材16とを一体化する。なお、この圧側クッション固定部材16は、固定部16bをフランジ部15aに引っ掛けて圧側クッション15を固定するようにしているが、固定部16bの形状は圧側クッション15の形状に適した形状とすればよい。また、固定部16bは、上記したように、必ずしも周方向に切れ目のない環状である必要はないが、環状であると圧側クッション15が圧縮された際の内周側への変形を無理なく抑制でき、圧側クッション15の耐久性を損なうことが無い。このことは、
図2に示した緩衝装置D
1にあっても同様である。
【0044】
緩衝装置D1は、以上のように構成され、この緩衝装置D1は、圧力室Cがフリーピストン9によって伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画されており、伸側通路10と圧側通路11を介しては伸側室R1と圧側室R2とが直接的に連通されることはないが、フリーピストン9が移動すると伸側室R1と圧側室R2の容積比が変化し、フリーピストン9の移動量に応じて圧力室C内の液体が伸側室R1と圧側室R2へ出入りするため、見掛け上、伸側室R1と圧側室R2とが上記伸側通路10と圧側通路11を介して連通されているが如くに振舞う。
【0045】
そして、この緩衝装置D1では、低周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては低い減衰力を発生することができ、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を発生可能であるとともに、車両が路面の凹凸を通過するような入力振動周波数が高い場面においては低い減衰力を確実に発生させて、車両における乗り心地を向上させることができる(たとえば、特許文献1参照)。
【0046】
ここで、緩衝装置の伸縮時における伸側室R1と圧側室R2との差圧をPとし、伸側室R1から流出する液体の流量をQとし、上記差圧Pと減衰通路4,5を通過する液体の流量Q1との関係である係数をC1とし、伸側圧力室7の圧力をP1とし、差圧Pと圧力P1との差と伸側室R1から伸側圧力室7内に流入する液体の流量Q2との関係である係数をC2とし、圧側圧力室8内の圧力をP2とし、この圧力P2と圧側圧力室8から圧側室R2内に流出する液体の流量Q2との関係である係数をC3とし、フリーピストン9の受圧面積である断面積をAとし、フリーピストン9の圧力室Cに対する変位をXとし、ばね要素12のばね定数、つまり、伸側ばね34および圧側ばね35の合成ばね定数をKとして、流量Qに対する差圧Pの伝達関数を求めると、式(1)が得られる。なお、式(1)中、sはラプラス演算子を示している。
【数1】
【0047】
さらに、上記式(1)で示された伝達関数中のラプラス演算子sにjωを代入して、周波数伝達関数G(jω)の絶対値を求めると、以下の式(2)が得られる。
【数2】
【0048】
上記各式から理解できるように、この緩衝装置D1における流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、Fa=K/{2・π・A
2・(C1+C2+C3)}とFb=K/{2・π・A
2・(C2+C3)}の2つの折れ点周波数を持ち、また、F<Faの領域においては、伝達ゲインは略C1となり、Fa≦F≦Fbの領域においてはC1からC1・(C2+C3)/(C1+C2+C3)まで漸減するように変化して、F>Fbの領域においては一定となる。すなわち、流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、低周波数域では伝達ゲインが大きくなり、高周波数域では伝達ゲインが小さくなる。
【0049】
したがって、この緩衝装置D1では、
図4に示すように、低周波数の振動の入力に対しては大きな減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては減衰力低減効果を発揮して小さな減衰力を発生することができるので、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を確実に発生可能であるとともに、車両が凹凸路面を走行するような入力振動周波数が高い場面においては低い減衰力を確実に発生させて、車両における乗り心地を向上させることができる。
【0050】
また、フリーピストン9が中立位置からオリフィス孔22dを閉塞するまで変位する場合には、オリフィス孔22dを閉塞し始めてから完全に閉塞するまでに圧側通路11の流路抵抗が徐々に大きくなり、フリーピストン9のストロークエンド側への移動速度が減少されて、圧力室Cを介しての伸側室R1と圧側室R2との液体の見掛け上の移動量も減少し、その分、減衰通路4,5を通過する液体量が増加することになり、緩衝装置D1の発生減衰力は振動周波数の高低によらず徐々に大きくなっていく。したがって、このようにフリーピストン9の中立位置からの変位が大きくオリフィス孔22dを閉塞するような場合、フリーピストン9のストロークエンド側への変位が抑制され、高周波振動入力時において緩衝装置D1が低い減衰力を発生している状態から急激に高い減衰力に切換ることが防止され、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずに済む。なお、この実施の形態では、フリーピストン9が中立位置から変位するに従って圧側通路11の流路面積を減少させて流路抵抗を徐々に大きくするようになっているが、これに加えて、または、これに代えて、伸側通路10の流路抵抗を大きくするようにしても上記したところと同様の効果を得ることができる。
【0051】
そして、緩衝装置D1に大振幅の収縮方向の振動の入力があり、フリーピストン9が中立位置から伸側圧力室側へ所定の変位量を超えて変位する場合には、伸側クッション13がフリーピストン9に衝合して、それ以上のフリーピストン9の伸側圧力室側への変位を抑制してフリーピストン9の伸側圧力室側への変位速度を低下せしめるとともに、フリーピストン9とハウジング6との直接衝突を阻止するので、打音を生じさせない。
【0052】
また、緩衝装置D1に大振幅の伸長方向の振動の入力があり、フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室側へ所定の変位量を超えて変位する場合には、圧側クッション15がフリーピストン9に衝合して、それ以上のフリーピストン9の圧側圧力室側への変位を抑制してフリーピストン9の圧側圧力室側への変位速度を低下せしめるとともに、フリーピストン9とハウジング6との直接衝突を阻止するので、打音を生じさせない。
【0053】
このように、本発明の緩衝装置D1によれば、伸側クッション13と圧側クッション15を設置することによって、打音が発生する問題を解消でき、車両搭乗者に打音を
知覚させることが無いので当該搭乗者に不安感や不快感を与えることが無くなって車両における乗り心地を向上することができる。
【0054】
また、この緩衝装置D1にあっては、伸側クッション13をハウジング6に固定する伸側クッション固定部材14と圧側クッション15をハウジング6に固定する圧側クッション固定部材16を備えているので、伸側クッション13および圧側クッション15のハウジング6に対するズレやハウジング6からの脱落を確実に防止することができ、フリーピストン9が伸側クッション13および圧側クッション15に当接する位置が変化することが無く、狙い通りの減衰特性を安定的に発揮することができる。
【0055】
つづいて、
図5に示した他の実施の形態の緩衝装置D2について説明する。この他の実施の形態の緩衝装置D2にあっては、伸側クッション41、伸側クッション固定部材42、圧側クッション43および圧側クッション固定部材44が上記した緩衝装置D1と異なる。なお、緩衝装置D2の上記した部材以外の部材は、緩衝装置D1の部材と同一であり、同一の部材については説明が重複するため同一の符号を付すようにして、その詳しい説明を省略する。
【0056】
伸側クッション41は、環状のゴム等の弾性体であって、ナット部20の鍔20bに積層されてフリーピストン9の摺接筒30の
図3中上端に対向しており、フリーピストン9が中立位置から伸側圧力室7を圧縮する方向である
図5中上方へ所定変位量を変位して、このフリーピストン9の摺接筒30に衝合すると、それ以上のフリーピストン9の
図5中上方への変位を抑制する。また、伸側クッション41は、
図5中下端であるフリーピストン側端の内周に環状凹部41aを備えている。
【0057】
伸側クッション固定部材42は、環状であって鍔20bに積層されて当該鍔20bと伸側ばね34とで挟持される環板状の座部42aと、当該座部42aの外周から立ち上がって伸側クッション41の内周に嵌合する固定部42bとを備えている。また、伸側クッション固定部材42における固定部42bは、外周に突出するフランジ42cを備えており、このフランジ42cを環状凹部41aに嵌合することで伸側クッション41をハウジング6に固定するようになっている。なお、固定部42bの環状凹部41aに嵌合する部位の形状は、伸側クッション41をハウジング6に固定できる形状であればよいので、フランジ42c以外の形状とされてもよい。
【0058】
このように、伸側クッション固定部材42を設けることによって、伸側クッション41のハウジング6からの脱落が阻止される。また、この実施の形態の場合、伸側クッション固定部材42は、伸側ばね34とナット部20の鍔20bとの間で挟持されてハウジング6に固定されるため、伸側クッション固定部材42のハウジング6への組付加工が容易となり、加工工数も削減されてさらにコストが安価となる。
【0059】
他方、圧側クッション43は、環状のゴム等の弾性体であって、ハウジング筒21の筒部22における段部22cに積層されてフリーピストン9の
図1中下端外周に対向しており、フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室8を圧縮する方向である
図1中上方へ所定の変位量を変位すると、このフリーピストン9の
図1中下端に衝合して、それ以上のフリーピストン9の
図1中下方への変位を抑制する。また、圧側クッション43のフリーピストン側端の外周に環状凹部43aを備えている。
【0060】
圧側クッション固定部材44は、環状の圧入部44aと、圧入部44aのフリーピストン側端内周から内方へ突出するフランジ状の固定部44bとを備えており、この圧入部44aをハウジング筒21における内径大径部22aの内周に圧入することでハウジング6に一体化される。なお、内径大径部22aの
図5中下方の圧入部44
aが圧入される部位Bの内径は他部よりも小径になっていて、圧入部44aを当該内径大径部22aに圧入する際に、内径大径部22aのフリーピストン9が摺動する面を傷つけることが無いように配慮されている。また、この場合、圧側クッション固定部材44が内径小径部22bに固定されることはないので、装着凹部22gは廃止されている。
【0061】
そして、この圧側クッション固定部材44は、固定部44bを圧側クッション43の外周に設けた環状凹部43aに嵌合させることで、圧側クッション15のハウジング6からの脱落を防止するようにしている。なお、この圧側クッション固定部材44の固定部44bの形状は圧側クッション43の形状に適した形状とすればよく、必ずしも周方向に切れ目のない環状である必要はないが、環状であると圧側クッション43が圧縮された際の内周側への変形を無理なく抑制でき、圧側クッション43の耐久性を損なうことが無い。
【0062】
このように、圧側クッション固定部材44を圧側クッション43の外周に嵌合させることで当該圧側クッション43をハウジング6に固定することで、圧側クッション43がフリーピストン9によって圧縮された際に、圧側クッション43の外周側への変形が規制されるので、フリーピストン9との衝合時にフリーピストン9と筒部22との間に圧側クッション43が噛みこまれることがない。
【0063】
上記のように緩衝装置D2を構成しても、緩衝装置D1と同様に、伸側クッション41と圧側クッション43を設置することによって、打音が発生する問題を解消でき、車両搭乗者に打音を
知覚させることが無いので当該搭乗者に不安感や不快感を与えることが無くなって車両における乗り心地を向上することができる。
【0064】
また、この緩衝装置D2にあっても、伸側クッション41をハウジング6に固定する伸側クッション固定部材42と圧側クッション43をハウジング6に固定する圧側クッション固定部材44を備えているので、伸側クッション41および圧側クッション43のハウジング6に対するズレやハウジング6からの脱落を確実に防止することができ、フリーピストン9が伸側クッション41および圧側クッション43に当接する位置が変化することが無く、狙い通りの減衰特性を安定的に発揮することができる。
【0065】
またさらに、
図6に示す別の実施の形態の緩衝装置D3について説明する。この別の実施の形態の緩衝装置D2にあっては、圧側クッション51および圧側クッション固定部材52が上記した緩衝装置D1と異なる。なお、緩衝装置D3の上記した部材以外の部材は、緩衝装置D1の部材と同一であり、同一の部材については説明が重複するため同一の符号を付すようにして、その詳しい説明を省略する。
【0066】
圧側クッション固定部材52は、ハウジング筒21の筒部22における内径小径部22bに圧入される筒状の圧入部52aと、圧入部52aのフリーピストン側端である一端から外周側へ向けて突出し段部22cに積層されるフランジ状の固定部52bとを備
えて構成されている。そして、圧入部52aを内径小径部22bの装着凹部22g内に圧入することで、圧側クッション固定部材52がハウジング6に固定される。また、圧側クッション51は、環状であって上記固定部52bに溶着或いは融着されて、圧側クッション固定部材52に固定されており、この圧側クッション固定部材52を介してハウジング6に固定される。なお、固定部52bの形状は、フランジ状に限られない。
【0067】
この圧側クッション固定部材52は、固定部52bに圧側クッション5
1が溶着或いは融着されることで、圧側クッション51のハウジング6からの脱落を防止される。上記のように緩衝装置D3を構成しても、緩衝装置D1と同様に、伸側クッション13と圧側クッション5
1を設置することによって、打音が発生する問題を解消でき、車両搭乗者に打音を
知覚させることが無いので当該搭乗者に不安感や不快感を与えることが無くなって車両における乗り心地を向上することができる。
【0068】
また、この緩衝装置D3にあっても、伸側クッション13をハウジング6に固定する伸側クッション固定部材14と圧側クッション51をハウジング6に固定する圧側クッション固定部材52を備えているので、伸側クッション13および圧側クッション51のハウジング6に対するズレやハウジング6からの脱落を確実に防止することができ、フリーピストン9が伸側クッション13および圧側クッション5
1に当接する位置が変化することが無く、狙い通りの減衰特性を安定的に発揮することができる。
【0069】
なお、伸側クッション13,41と圧側クッション15,43,51とは、ハウジング6に別個独立して設けられるのであるから、緩衝装置には、伸側クッション13,41のいずれが一方を選択してこの選択されたクッションに適した伸側クッション固定部材14,42でハウジング6に固定すればよく、圧側クッション15,43,51にあってもいずれが一方を選択してこの選択されたクッションに適した
圧側クッション固定部材16,44,52いずれかに選択して設けるようにすればよい。また、緩衝装置には、伸側クッションのみ或いは圧側クッションのみをクッションとして設けるようにしてもよい。
【0070】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。