(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の一実施の形態における緩衝装置Dは、
図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を2つの伸側室R1および圧側室R2に区画するピストン2と、上記した伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路4,5と、圧力室Cを形成するハウジング6と、上記ハウジング6内に摺動自在に挿入されて圧力室Cを伸側圧力室7と圧側圧力室8との区画するフリーピストン9と、伸側室R1と伸側圧力室7とを連通する伸側通路10と、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側通路11と、フリーピストン9のハウジング6に対して中立位置に位置決めするとともにフリーピストン9の中立位置からの変位を抑制する附勢力を発揮するばね要素12と、フリーピストン9がハウジング6に対して中立位置から伸側圧力室側へ所定の変位量以上変位するとフリーピストン9に衝合して当該フリーピストン9のそれ以上の伸側圧力室側への変位を抑制するクッション部材13とを備えて構成されている。
【0014】
また、緩衝装置Dは、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド3を備えており、ピストンロッド3の一端はピストン2に連結されるとともに、他端である上端は、図示はしないが、シリンダ1の上端を封止する環状のロッドガイドによって摺動自在に軸支されている。なお、シリンダ1の下端は、図外のボトム部材によって封止されている。
【0015】
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室C内には作動油等の液体が充満され、また、シリンダ1内の図中下方には、シリンダ1の内周に摺接して圧側室R2と気体室Gとを区画する摺動隔壁17が設けられている。なお、上記した伸側室R1、圧側室R2および圧力室C内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
【0016】
図示したところでは、緩衝装置Dは、伸側室R1にのみピストンロッド3が挿通される片ロッド型であるので、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド3の体積は、気体室G内の気体の体積が膨張あるいは収縮して摺動隔壁17が
図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。なお、ピストンロッド3がシリンダ1に進退する体積の補償については、シリンダ1内に気体室Gを設けるほか、シリンダ1内或いはシリンダ1外にリザーバを設けるようにしてもよく、リザーバをシリンダ1外に設ける場合、シリンダ1の外周を覆う外筒を設けてシリンダ1と外筒との間にリザーバを形成する複筒型緩衝器とするほか、シリンダ1とは別個にタンクを設けて当該タンクでリザーバを形成するようにしてもよい。また、リザーバを設ける場合、緩衝装置Dの収縮作動時に圧側室R2の圧力を高めるために圧側室R2とリザーバとの間を仕切る仕切部材と、仕切部材に設けられて圧側室R2からリザーバへ向かう液体の流れに抵抗を与えるベースバルブとを設けるようにしてもよい。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0017】
以下、緩衝装置Dの各部について詳細に説明する。ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド3の
図1中下端である一端3aに連結され、ピストンロッド3は、シリンダ1の図中上端に固定された図示しない環状のロッドガイドの内周を通して外方へ突出されている。なお、ピストンロッド3と上記した図外のロッドガイドとの間は図示しないシール部材によって封止されており、シリンダ1内は液密状態に保たれている。
【0018】
また、ピストン2は、伸側室R1と圧側室R2を連通する減衰通路4,5を備えており、減衰通路4の
図1中下端がピストン2の
図1中下方に積層されるリーフバルブV1で開閉されるようになっており、また、減衰通路5の
図1中上端がピストン2の
図1中上方に積層されるリーフバルブV2で開閉されるようになっている。そして、リーフバルブV1は、環状であってピストン2とともにピストンロッド3の一端3aに装着されて、ピストン2が
図1中上方に移動する緩衝装置Dの伸長行程時に、液体が減衰通路4を伸側室R1から圧側室R2へ向けて流れる際に撓んで減衰通路4を開放するとともに当該液体の流れに抵抗を与え、逆向きの流れに対しては減衰通路4を閉塞するようになっており、減衰通路4を伸側室R1から圧側室R2へ向かう流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。他方、リーフバルブV2は、環状であってピストン2とともにピストンロッド3の一端3aに装着されて、ピストン2が
図1中下方に移動する緩衝装置Dの収縮行程時に、液体が減衰通路5を圧側室R2から伸側室R1へ向けて流れる際に撓んで減衰通路5を開放するとともに当該液体の流れに抵抗を与え、逆向きの流れに対しては減衰通路5を閉塞するようになっており、減衰通路5を圧側室R2から伸側室R1へ向かう流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。つまり、リーフバルブV1は、伸長行程時に減衰通路4を流れる液体の流れに抵抗を与える伸側減衰バルブとして機能し、リーフバルブV2は、収縮行程時に減衰通路5を流れる液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブとして機能する。このように、減衰通路4,5を複数設ける場合には、減衰通路を一方通行に設定するようにして、伸長行程時のみ或いは収縮行程時のみに液体が流れるようにしてもよく、また、減衰通路が双方向の流れを許容して通過する液体の流れに抵抗を与えるようにしてもよい。減衰通路を通過液体の流れに抵抗を与える減衰通路たらしめる減衰バルブとしては、上記したリーフバルブのほか、ポペットバルブやオリフィス、チョークといった種々の減衰バルブを使用することができる。なお、減衰通路4,5は、ピストン2以外に設けることもできる。
【0019】
つづいて、圧力室Cは、この実施の形態の場合、ピストンロッド3の一端3aの最先端外周に設けた螺子部3bに螺合される中空なハウジング6によって形成されており、当該ハウジング6は、上記ピストン2およびリーフバルブV1,V2をピストンロッド3の一端3aに固定するピストンナットとしても機能している。
【0020】
そして、ハウジング6内に形成された圧力室Cは、当該圧力室C内に摺動自在に挿入されるフリーピストン9で
図1中上方の伸側圧力室7と
図1中下方の圧側圧力室8とに仕切られていて、フリーピストン9は、圧力室C内でハウジング6に対して
図1中上下方向に変位することができるようになっている。
【0021】
詳しくは、ハウジング6は、ピストンロッド3の一端3aに形成の螺子部3bに螺合されるナット部20と、ナット部20の外周から垂下される筒部22と筒部22の端部である
図1中下端を閉塞する底部23とを備えた有底筒状のハウジング筒21とを備えて構成されて、圧側室R2内に圧力室Cを画成している。
【0022】
また、ナット部20は、その内周にピストンロッド3の螺子部3bに螺合する螺子筒20aと当該螺子筒20aの外周に設けられて外方へ突出する鍔20bとを備えている。
【0023】
ハウジング筒21は、上記したように有底筒状であって、その
図1中上端開口部をナット部20の鍔20bの外周へ向けて加締めることで、ナット部20に一体化されている。ハウジング筒21は、より詳しくは、鍔20bから垂下される筒部22と、当該筒部22の端部を閉塞する底部23とを備えて有底筒状とされており、また、ハウジング筒21における筒部22は、ナット部側であってフリーピストン9が摺接する内径大径部22aと、反ナット部側の内径小径部22bと、当該内径大径部22aと内径小径部22bとの間に形成される段部22cと、当該段部22cの内周から立ち上がる環状のクッション固定片22dとを備えている。なお、ナット部20とハウジング筒21との一体化にあたり加締め加工以外にも溶接や螺合といった他の加工方向を採用することもできる。クッション固定片22dの内周における
図2中上端側の内径は、
図2中下端側の内径よりも大径であって、クッション固定片22dの内周面はハウジング筒21側を向くテーパ面とされている。
【0024】
そして、上記クッション固定片22dの外周と内径大径部22aとの間にクッション部材13が挿入され、当該クッション部材13は段部22cに
当接される。
【0025】
クッション部材13は、ゴムや合成樹脂など弾性を備えてフリーピストン9との衝合時におけるショックの吸収に優れる材料で形成されており、下端側へ向かうほど内径が小さくなるテーパ状の内周面を持つとともに段部22cに
当接する環状の基部14と、基部14の反段部側である
図1中上方側に連なってフリーピストン9に対向する環状の衝合部15とを備えている。
【0026】
なお、クッション部材13は、フリーピストン9が圧側圧力室8を圧縮する方向へストロークエンドまで変位すると当該フリーピストン9に衝合して弾性力を発揮してフリーピストン9のそれ以上の圧側圧力室8側への変位を抑制して徐々に減速させ、最終的には停止させる。衝合部15は、フリーピストン9とハウジング6との衝突を阻止することができればよいので、必ずしも環状でなくともよく、環状の基部14に対して周方向に間欠的に設けるようにしてもよい。
【0027】
衝合部15を間欠的に設けるのであれば、必ずしも等間隔に設けることも要しないが、フリーピストン9との衝合時において、フリーピストン9が衝合部15から受ける荷重を周方向でなるべくバランスよく分散させる上では、衝合部15の設置数を三つ以上として周方向に等間隔に設けるとよい。また、この実施の形態では、衝合部15のフリーピストン9に臨む端部である
図1中上端の高さレベルがほぼ同一になるようになっていて、フリーピストン9がストロークエンドまで変位すると衝合部15の全周が当該フリーピストン9にほぼ同時に接触するようになっているが、衝合部15が環状である場合には周方向で高さを異ならしめたり、部分的に高さを異ならしめたりし、間欠的に設けられる場合には一部あるいは全部の衝合部で高さを異ならしめることにして、フリーピストン9への衝合タイミングを異ならしめ、クッションの効き具合をチューニングするようにしてもよい。
【0028】
このように構成したクッション部材13をハウジング6に固定するには、まず、ハウジング筒21内にクッション部材13を基部14側から挿入して、当該基部14を段部22cに当接させてクッション部材13
をクッション固定片22dと内径大径部22aとの間に配置させる。そうすると、クッション部材13が段部22cによって位置決めされて基部14の内周面がクッション固定片22dに対向する。ハウジング6に設けた段部22cは、このようにクッション部材13をハウジング6へ固定するために所定位置に位置決めする機能を発揮する。
【0029】
つづいて、先端がクッション固定片22dの内径よりも小径であるが、後端側へ向かうほど拡径してクッション固定片22dの内径よりも大径となるダイTをハウジング筒21の
図2中上端開口から挿入し、
図3に示すようにクッション固定片22d内に侵入させていく。すると、
図3に示すように、クッション固定片22dは、ダイTによって内周側から押圧されて、クッション部材13側へ向けて折り曲げられた状態に塑性変形する。
【0030】
そうしておいて、ダイTをクッション固定片22dから抜くと、
図1に示すように、折り曲げられたクッション固定片22dが基部14を保持してクッション部材13が強固にハウジング6に固定される。クッション固定片22dは、上記したところでは、環状とされているが、段部22cの内周側から立ち上がる複数の爪で構成することも可能である。
【0031】
また、クッション固定片22dの内周面は、上記のようなテーパ面とされているので、ダイTの侵入が容易でクッション固定片22dの塑性変形加工の失敗することのないように配慮されている。
【0032】
また、クッション部材13の外径については、内径大径部22aに挿入可能な径としているが、クッション部材13は弾性を備えているので、縮径した状態で内径大径部22aに挿入可能とされてもよく、そうすることで、万が一、衝合部15がクッション固定片22dから外れてハウジング6から脱落することがあっても、クッション部材13の外周がハウジング筒21の内周によって拘束されるので、クッション部材13のハウジング6からの浮き上がりを防止することができる。
【0033】
戻って、ハウジング筒21の筒部22の少なくともに一部における外周断面形状は、図示しない工具で把持可能なように円形以外の形状であって当該工具に符合する形状、たとえば、一部を切欠いた形状や六角形等の形状とされており、工具で筒部22の外周を把持してハウジング6を周方向へ回転せしめて、上記ナット部20に所定の締め付けトルクを付加して螺子部3bへ螺着することができるようになっている。さらに、筒部22には外周から開口して内径大径部22
aの内周であってクッション部材13よりも上方に通じるオリフィス孔22eが設けられており、当該オリフィス孔22eにて圧力室Cと圧側室R2とが連通されており、底部23にもオリフィス孔23aが設けられていて、当該オリフィス孔23aにて圧力室Cと圧側室R2とが連通されている。
【0034】
また、伸側圧力室7は、ピストンロッド3の伸側室R1に臨む側部から一端3aの端部へ通じる伸側通路10によって、伸側室R1へ通じている。この伸側通路10は、ピストンロッド3の伸側室R1に臨む側部から開口する横孔10aと、一端3aの端部から開口して横孔10aへ通じる縦孔10bとで構成されている。
【0035】
そして、圧力室C内に挿入されるフリーピストン9は、ハウジング筒21の筒部22における内径大径部22aに摺接する摺接筒30と、摺接筒30の下端を閉塞する鏡部31と備えて有底筒状とされており、ハウジング6内を伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画している。また、フリーピストン9は、摺接筒30の外周の全周渡って設けた環状凹部32と、環状凹部32を圧側圧力室8へ連通する連通孔33とを備えていて、環状凹部32をハウジング6の筒部22に形成のオリフィス孔22eに対向させる場合には、圧側室R2を圧側圧力室8へ連通し、環状凹部32が上記オリフィス孔22eへ対向せずに摺接筒30でオリフィス孔22eを閉塞する場合には、圧側室R2と圧側圧力室8とのオリフィス孔22eを介しての連通を断つようになっている。オリフィス孔22eは、通過する液体の流れに抵抗を与えて所定の圧力損失を生じるようになっていて、圧側室R2と圧側圧力室8との間に差圧を生じせしめるようになっている。また、ハウジング筒21における底部23に設けたオリフィス孔23aも絞り通路として機能しており、通過する液体の流れに抵抗を与えて所定の圧力損失を生じるようになっていて、やはり圧側室R2と圧側圧力室8との間に差圧を生じせしめるようになっている。なお、こちらのオリフィス孔23aは、フリーピストン9によって閉じられることはなく、常時開放されている。つまり、圧側圧力室8は、オリフィス孔22eが連通状態にある場合には、オリフィス孔22e,23aを介して圧側室R2に連通され、オリフィス孔22eが遮断状態にあるときは、オリフィス孔23aのみを介して圧側室R2に連通されるようになっており、オリフィス孔22e,23a、環状凹部32および連通孔33によって圧側通路11を形成している。
【0036】
さらに、フリーピストン9のハウジング6に対する変位に対して当該変位を抑制する附勢力を作用させるため、伸側圧力室7内であってナット部20の鍔20bとフリーピストン9の鏡部31との間、および、圧側圧力室8内であって底部23とフリーピストン9の鏡部31との間に、それぞれ、ばね要素12としてのコイルばねである伸側ばね34および圧側ばね35をともに圧縮状態で介装されている。このようにフリーピストン9は、これら伸側ばね34および圧側ばね35によって上下側から挟持されて、圧力室C内の所定の中立位置に位置決められていて、中立位置から変位すると伸側ばね34および圧側ばね35がフリーピストン9を中立位置に戻そうとする附勢力を発揮するようになっている。中立位置は、圧力室Cの軸方向の中央を指すものではなく、フリーピストン9がばね要素12によって位置決められる位置のことである。
【0037】
なお、ばね要素12としては、フリーピストン9を中立位置に位置決めするとともに、附勢力を発揮できればよいので、コイルばね以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン9を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン9に連結される単一のバネ要素を用いる場合には、ナット部20あるいは底部23に他端を固定するようにしてもよい。
【0038】
伸側ばね34は、フリーピストン9の摺接筒30の内周に遊嵌されて半径方向におおよその位置に位置決められ、また、圧側ばね35の
図1中上端は、フリーピストン9の鏡部31の下端に形成の突部31aに遊嵌されて半径方向におおよその位置に位置決められている。このように、伸側ばね34および圧側ばね35は、上記のごとく、フリーピストン9によってともにセンタリングされて、フリーピストン9に対し位置ずれが防止されており、これによって安定的にフリーピストン9に附勢力を作用させることが可能となっている。
【0039】
上記したように、フリーピストン9は、ハウジング6内でばね要素12としての伸側ばね34および圧側ばね35によって弾性支持されてばね要素12による附勢力以外に力が作用していない状態ではハウジング6内で中立位置に位置決められ、当該中立位置にあるときには必ず上記環状凹部32がオリフィス孔22eに対向して圧側圧力室8と圧側室R2とが連通されるようになっている。他方、フリーピストン9がある程度、中立位置から変位すると、フリーピストン9の摺接筒
30の外周がオリフィス孔22eに完全にオーバーラップしてこれを閉塞するようになっている。なお、フリーピストン9がオリフィス孔22eを閉塞し始める中立位置からの変位量は、任意に設定することができ、オリフィス孔22eを閉塞し始めるフリーピストン9の
図1中上方となる伸側圧力室7側への中立位置からの変位量と、オリフィス孔22eを閉塞し始めるフリーピストン9の
図1中下方となる圧側圧力室8側への中立位置からの変位量とを異なるように設定してもよい。なお、この実施の形態では、オリフィス孔22eを二つ設けているが、その数は任意であり、圧側室R2に連通される環状凹部を筒部22の内周に設け、フリーピストン9の外周側と圧側圧力室8を連通するオリフィス孔をフリーピストン9に設けるようにしてもよい。
【0040】
緩衝装置Dは、以上のように構成され、この緩衝装置Dは、圧力室Cがフリーピストン9によって伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画されており、伸側通路10と圧側通路11を介しては伸側室R1と圧側室R2とが直接的に連通されることはないが、フリーピストン9が移動すると伸側室R1と圧側室R2の容積比が変化し、フリーピストン9の移動量に応じて圧力室C内の液体が伸側室R1と圧側室R2へ出入りするため、見掛け上、伸側室R1と圧側室R2とが上記伸側通路10と圧側通路11を介して連通されているが如くに振舞う。
【0041】
そして、この緩衝装置Dでは、低周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては低い減衰力を発生することができ、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を発生可能であるとともに、車両が路面の凹凸を通過するような入力振動周波数が高い場面においては低い減衰力を確実に発生させて、車両における乗り心地を向上させることができる(たとえば、特許文献1参照)。
【0042】
ここで、緩衝装置の伸縮時における伸側室R1と圧側室R2との差圧をPとし、伸側室R1から流出する液体の流量をQとし、上記差圧Pと減衰通路4,5を通過する液体の流量Q1との関係である係数をC1とし、伸側圧力室7の圧力をP1とし、差圧Pと圧力P1との差と伸側室R1から伸側圧力室7内に流入する液体の流量Q2との関係である係数をC2とし、圧側圧力室8内の圧力をP2とし、この圧力P2と圧側圧力室8から圧側室R2内に流出する液体の流量Q2との関係である係数をC3とし、フリーピストン9の受圧面積である断面積をAとし、フリーピストン9の圧力室Cに対する変位をXとし、ばね要素12のばね定数、つまり、伸側ばね34および圧側ばね35の合成ばね定数をKとして、流量Qに対する差圧Pの伝達関数を求めると、式(1)が得られる。なお、式(1)中、sはラプラス演算子を示している。
【数1】
さらに、上記式(1)で示された伝達関数中のラプラス演算子sにjωを代入して、周波数伝達関数G(jω)の絶対値を求めると、以下の式(2)が得られる。
【数2】
上記各式から理解できるように、この緩衝装置Dにおける流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、Fa=K/{2・π・A
2・(C1+C2+C3)}とFb=K/{2・π・A
2・(C2+C3)}の2つの折れ点周波数を持ち、また、F<Faの領域においては、伝達ゲインは略C1となり、Fa≦F≦Fbの領域においてはC1からC1・(C2+C3)/(C1+C2+C3)まで漸減するように変化して、F>Fbの領域においては一定となる。すなわち、流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、低周波数域では伝達ゲインが大きくなり、高周波数域では伝達ゲインが小さくなる。
【0043】
したがって、この緩衝装置Dでは、
図4に示すように、低周波数の振動の入力に対しては大きな減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては減衰力低減効果を発揮して小さな減衰力を発生することができるので、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を確実に発生可能であるとともに、車両が凹凸路面を走行するような入力振動周波数が高い場面においては低い減衰力を確実に発生させて、車両における乗り心地を向上させることができる。
【0044】
また、フリーピストン9が中立位置からオリフィス孔22eを閉塞するまで変位する場合には、オリフィス孔22eを閉塞し始めてから完全に閉塞するまでに圧側通路11の流路抵抗が徐々に大きくなり、フリーピストン9のストロークエンド側への移動速度が減少されて、圧力室Cを介しての伸側室R1と圧側室R2との液体の見掛け上の移動量も減少し、その分、減衰通路4,5を通過する液体量が増加することになり、緩衝装置Dの発生減衰力は振動周波数の高低によらず徐々に大きくなっていく。したがって、このようにフリーピストン9の中立位置からの変位が大きくオリフィス孔22eを閉塞するような場合、フリーピストン9のストロークエンド側への変位が抑制され、高周波振動入力時において緩衝装置Dが低い減衰力を発生している状態から急激に高い減衰力に切換ることが防止され、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずに済む。なお、この実施の形態では、フリーピストン9が中立位置から変位するに従って圧側通路11の流路面積を減少させて流路抵抗を徐々に大きくするようになっているが、これに加えて、または、これに代えて、伸側通路10の流路抵抗を大きくするようにしても上記したところと同様の効果を得ることができる。
【0045】
そして、緩衝装置Dに大振幅の伸長方向の振動の入力があり、フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室側へ所定の変位量を超えて変位する場合には、クッション部材13における衝合部15がフリーピストン9に衝合して、それ以上のフリーピストン9の圧側圧力室側への変位を抑制してフリーピストン9の圧側圧力室側への変位速度を低下せしめるとともに、フリーピストン9とハウジング6との直接衝突を阻止するので、打音を生じさせない。
【0046】
このように、本発明の緩衝装置Dによれば、クッション部材13を設置することによって、打音が発生する問題を解消でき、車両搭乗者に打音を知覚させることが無いので当該搭乗者に不安感や不快感を与えることが無くなって車両における乗り心地を向上することができる。
【0047】
そして、ハウジング6が筒状であって、フリーピストン9が摺接する内径大径部22aと、内径小径部22bと、当該内径大径部22aと内径小径部22bとの間に形成される段部22cと、段部22cの内周側から立ち上がるクッション固定片22dとを備え、クッション部材13が環状であって段部22cに
当接され、クッション固定片22dをクッション部材側へ折り曲げ、クッション固定片22dでクッション部材13を保持してクッション部材13をハウジング6に固定したので、クッション部材13がしっかりハウジング6に固定される。よって、本発明の緩衝装置Dによれば、フリーピストン9とハウジング6との衝突による打音の発生を抑制しながらも、クッション部材13のハウジング6からの脱落が防止される。
【0048】
また、クッション部材13のハウジング6からの脱落が防止されるので、フリーピストン9がストロークエンドへ変位した以外にはクッション部材13がフリーピストン9に干渉しないので、フリーピストン9の円滑な移動に影響を与えることがなく、高周波時に減衰力を低下させる緩衝装置Dの機能に悪影響を与えることがない。
【0049】
さらに、折り曲げられたクッション固定片22dで保持されるクッション部材13の基部14は、内周面の内径が段部22cより遠ざかるほど大径となるテーパ面とされているので、クッション固定片22dが基部14の内周面に倣って把持するようになるため、クッション部材13へ無用な変形を与えず、また、クッション固定片22dと基部14との間に無用な隙間を生じさせることがないので、フリーピストン9との衝合によってクッション部材13が繰り返し変形してもクッション部材13の劣化を抑制できる。
【0050】
なお、クッション固定片22dが環状とされているので、クッション固定片22dを段部22cに間欠的に設けた爪で構成する場合に比較して、クッション部材13にクッション固定片22dが角当たりする箇所を少なくすることができるので、クッション部材13の劣化を抑制して長寿命化を図ることができる。
【0051】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。