特許第6027470号(P6027470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027470
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】血管パッチ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/06 20130101AFI20161107BHJP
【FI】
   A61F2/06
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-56824(P2013-56824)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-180428(P2014-180428A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】596147736
【氏名又は名称】森 厚夫
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】古屋 英樹
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−520209(JP,A)
【文献】 特表2002−543950(JP,A)
【文献】 特開平4−187154(JP,A)
【文献】 米国特許第6821295(US,B1)
【文献】 国際公開第2011/18300(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部と他方の端部とを有する縁部と、該縁部を下にして平面上に載置したときに隆起する立体部とを備え、
前記立体部の稜線のうち最も高さが高い頭頂部が、前記縁部の前記端部どうしを結ぶ長軸の中心を通過する垂線上よりもいずれか一方の前記端部側に偏心していることを特徴とする血管パッチ。
【請求項2】
前記頭頂部は、前記長軸の全長をWf、前記長軸の中心に対する前記頭頂部に対応する長軸上の位置の偏心幅をWpとすると、Wp/Wf=0.05〜0.45の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の血管パッチ。
【請求項3】
前記立体部は、前記稜線のうち最も高さが高い第一頭頂部と、該第一頭頂部よりも高さが低い第二頭頂部とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の血管パッチ。
【請求項4】
一枚の素材を熱成形して得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の血管パッチ。
【請求項5】
複数の素材を縫合して得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の血管パッチ。
【請求項6】
前記複数の素材は、縫合部にそれぞれ櫛歯が形成されており、該櫛歯を交互に継ぎ合わせた状態で前記素材どうしが縫着されることを特徴とする請求項5に記載の血管パッチ。
【請求項7】
前記複数の素材は3つ以上の素材からなり、前記稜線に沿った少なくとも一部に縫合部が形成されないことを特徴とする請求項5又は6に記載の血管パッチ。
【請求項8】
前記素材は、材質がポリエステル又はポリテトラフルオロエチレンであり、編み方がウーブン又はニット織りであることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の血管パッチ。
【請求項9】
前記素材は、延伸加工が施された微多孔性のフッ素樹脂ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の血管パッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管パッチに関し、特に、立体形状を有する血管パッチに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において血管の切開部を塞いだり拡張したりする目的で血管パッチ(当て布)が使用されている。例えば、大動脈弁狭窄症の患者に対しては、大動脈弁を人工弁に置換する手術が行われるが、このような人工弁置換術を行う際に、患者の体格に適した十分な大きさあるいは径をもった人工弁を入れることが困難な場合が臨床的にしばしば起こりうる。このような場合、現在では、妥協して小さな弁輪の人工弁を入れるか、あるいは大動脈から弁輪まで切れ目を入れ、血管パッチを当てて弁輪を拡大し、体格に合った人工弁を入れるかを選択することになる。仮に妥協して相対的に小さな人工弁を入れざるを得ない場合、手術後も患者の心臓に負担を残すことから、心不全等になりやすく、患者のQOLを下げる原因になりうる。
【0003】
一方、血管パッチを用いて弁輪拡大した後に人工弁を入れる方法では、患者の体格に応じた人工弁を入れることが可能となり、心臓の負担軽減、ひいては患者のQOL向上を図ることが可能となる。従来、このような血管パッチとして、平面状のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−164881号公報(請求項9、図4等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような平面状の血管パッチを用いる場合、血管パッチを例えば木の葉型にカットするなどして整形し、次に血管に切れ目を入れて拡大し、この状態で血管パッチを切れ目に当てて血管に縫合する方法が通常である。しかしながら、平面状の血管パッチは、血管の立体的な形状に整形することが困難であり、縫合後においても血液のスムーズな流れを阻害するなどの不都合があった。
【0006】
特に、大動脈のうち心臓の付け根部分はバルサルバ洞と呼ばれており、外側にドーム状に膨らんだ独特な形状をなしているが、従来の平面状の血管パッチでは、バルサルバ洞のようなドーム状の構造体に整形することが困難であった。また、このような平面状の血管パッチをバルサルバ洞に縫合しても、縫合後の血管パッチがしばしば内側に折れ込んでしまう。このため、せっかく手間をかけて血管を拡大しても、人工弁の流入路と流出路の3次元的な構築(ジオメトリー)を再現することが困難であり、血流のスムーズな流れを改善できないことも多いのが現状である。
【0007】
本発明の目的は、バルサルバ洞のように外側にドーム状に膨らんだ血管の修復や拡張に適した血管パッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明の血管パッチによれば、一方の端部と他方の端部とを有する縁部と、該縁部を下にして平面上に載置したときに隆起する立体部とを備え、前記立体部の稜線のうち最も高さが高い頭頂部が、前記縁部の前記端部どうしを結ぶ長軸の中心を通過する垂線上よりもいずれか一方の前記端部側に偏心していることを特徴とする。このように、本発明の血管パッチは、頭頂部が長軸の中心よりも一方の端部側に偏心しているため、バルサルバ洞のようなドーム状の血管の形状に近似した形状となっており、ドーム状の血管の修復や拡張に適している。したがって、本発明の血管パッチは、血管の形状に近似した形状となっているため、血管に適用した場合に血流をスムーズに誘導することが可能となる。
【0009】
また、前記頭頂部は、前記長軸の全長をWf、前記長軸の中心に対する前記頭頂部に対応する長軸上の位置の偏心幅をWpとすると、Wp/Wf=0.05〜0.45の範囲内であることが好ましい。このように、Wp/Wf(すなわち、中心からのずれ幅)を0.1〜0.4の範囲内とすることで、バルサルバ洞の形状と近似させることができ、これにより血流をスムーズに誘導することが可能となる。
【0010】
さらに、前記立体部は、前記稜線のうち最も高さが高い第一頭頂部と、該第一頭頂部よりも高さが低い第二頭頂部とを備えることが好ましい。このように、第一頭頂部から端部までの領域に第二頭頂部を備えることで、第二頭頂部が血管パッチを押しつぶす方向に対する抵抗となるため、形状維持しやすくなり、この領域で血管パッチが裏返ることを防止することができる。
【0011】
また、一枚の素材を熱成形して得られるものが好適である。このように、一枚の素材を熱形成して製造することで、隙間がない血管パッチとすることができる。
【0012】
あるいは、複数の素材を縫合して得られるものが好ましい。このように、複数の素材を縫合して製造することで、所望の形状の血管パッチを得ることができる。
【0013】
この場合において、前記複数の素材は、縫合部にそれぞれ櫛歯が形成されており、該櫛歯を交互に継ぎ合わせた状態で前記素材どうしが縫着されると好適である。このように、櫛歯を交互に継ぎ合わせた状態で素材どうしを縫着することで、継ぎ目に隙間が生じにくくなり、継ぎ目における血液の漏れが生じにくくなる。
【0014】
また、前記複数の素材は3つ以上の素材からなり、前記稜線に沿った少なくとも一部に縫合部が形成されないことが好ましい。このように、稜線上の一部に縫合部が形成されないため、稜線上に孔などを形成する際にその領域に形成すれば縫合部が邪魔にならない。
【0015】
さらに、前記素材は、材質がポリエステル又はポリテトラフルオロエチレンであり、編み方がウーブン又はニット織りであることが好適である。あるいは、前記素材は、延伸加工が施された微多孔性のフッ素樹脂ポリテトラフルオロエチレンであってもよい。このような素材を使用することで、伸縮性などの特性に優れた血管パッチとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バルサルバ洞のようにドーム状に膨らんだ血管の修復や拡張に適した血管パッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】血管パッチの一実施形態を示した図である。
図2】血管パッチをバルサルバ洞に適用する手技の手順を示した模式図である。
図3】バルサルバ洞に血管パッチを適用した状態を示した断面模式図である。
図4】血管パッチの製造方法の一例を示した図である。
図5】血管パッチの製造方法の他の例を示した図である。
図6】血管パッチの他の実施形態を示した図である。
図7】血管パッチの他の実施形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複数の実施形態について、図を参照して説明する。なお、本発明は以下に説明する部材や材料等によって限定されず、これらの部材等は本発明の趣旨に沿って適宜改変することができる。
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る血管パッチを示した図であり、図1(a)は血管パッチの斜視図、図1(b)は図1(a)の血管パッチをA1−A2方向にみた(すなわち、稜線方向に沿った)断面図を示している。
【0020】
図1(a)に示すように、本実施形態の血管パッチ1は、平面視が木の葉状又は楕円状の縁部3と、この縁部3を下にして平面上に載置したときに隆起する立体部5とを備えた立体形状をなしている。この立体部5のうち高さが高い部分(すなわち、側面視したときの外形線)は稜線7を形成しており、そのうち最も高さが高い部分は頭頂部7pを形成している。
【0021】
図1(b)に示すように、この頭頂部7pは、端部3aと3bを結ぶ長軸Lの中心Lmを通過する垂線Lv上よりも一方の端部3b側に偏心している。すなわち、頭頂部7pに対応する長軸L上の位置Lpが、長軸Lの中心Lmよりも一方の端部3b側に偏心している。この形状は、わかりやすく言えば、縦方向の断面形状が卵殻型(あるいは、洋梨型又はひょうたん型)をしているとも言える。
【0022】
垂線Lvからの頭頂部7pの偏心幅(ずれ幅)Wpは、長軸Lの全長Wfに対して、Wp/Wf=0.05〜0.45の範囲内となるように設定することが好ましい。Wp/Wfが0.05を下回ると、頭頂部7pが垂線Lvに近くなりすぎて頭頂部7pのカーブが半円状に近くなり、バルサルバ洞の形状とは大きく異なってしまうため、血流をスムーズに誘導できにくくなる。一方、Wp/Wfが0.45を上回ると、頭頂部7pが端部3bに近くなりすぎて端部3b側における頭頂部7pのカーブが急になってしまうため、頭頂部7pで血流が停滞したり、血流抵抗が大きくなったりしやすくなる。
【0023】
また、頭頂部7pの高さHp(すなわち、位置Lpと頭頂部7pの距離)は、長軸Lの全長Wfに対して、Hp/Wf=0.1〜1.0の範囲内となるように設定することが好ましい。Hp/Wfが0.1を下回ると、頭頂部7pにおけるカーブが緩やかになりすぎるため、血流を左右冠静脈等にスムーズに誘導できにくくなったり、血管パッチ1が内側に折れ込んで裏返ったりしやすくなる。一方、Hp/Wfが1.0を上回ると、頭頂部7pにおけるカーブが急になりすぎるため、頭頂部7pで血流が停滞したり、血流抵抗が大きくなったりしやすくなる。
【0024】
本発明の血管パッチ1は、例えば大動脈弁狭窄症の患者に対して大動脈弁輪拡大手術(Nicks法又はManouguian法)を行う際に使用することができる。以下、本発明の血管パッチ1を用いた大動脈弁輪拡大手術の手技の手順について図2を参照して説明する。
【0025】
まず、患者を正中切開して開胸し、人工心肺装置を使用して体外循環を確立するとともに、大動脈を遮断して心拍動を停止させる。この状態で、図2(a)に示すように、左右冠静脈口を避けながら上行大動脈AAの下流側から大動脈弁VAの弁輪基部まで大動脈球BAを螺旋状に切開し、いわゆる線維三角まで大動脈球BAを螺旋状に切開する。次に、弁輪を残した状態で大動脈弁VAを三尖とも切除する。図2(b)は、大動脈弁VAを切除するとともに弁輪を拡大した状態を示している。並行して、心臓表面の心膜(自己心膜)の一部をシート状に切除しておく。
【0026】
続いて、患者の弁輪サイズに合わせて血管パッチ1の縁部3を適当な形状に裁断する。次に、先に切除しておいた自己心膜を血管パッチ1の凹面に指で押してなめしながらフィルム状に伸ばし、縁部3からわずかにはみ出るように凹面全体に広げる。その後、図2(c)に示すように、自己心膜が貼り付けられた血管パッチ1を、端部3a側が上行大動脈AAの下流側、端部3b側が左心室LV内、頭頂部7pがバルサルバ洞SVの拡径部にそれぞれ位置するように配置し、血管パッチ1の縁部3の内側と大動脈球BAの切開部とを縫合する。この状態では、自己心膜を介して血管パッチ1が上行大動脈AAの血管表面に貼着される。このように、自己心膜を介して血管パッチ1が血管表面に貼着されるため、血管パッチ1と血管との密着性が向上して漏血等が生じにくくなる。
【0027】
最後に、血管パッチ1の端部3b側に人工弁AVの一部を縫合し、人工弁AVの残りの部分を弁輪に縫合する。以上の工程により、大動脈弁拡大手術が完了する。なお、使用する人工弁AVは機械弁でも生体弁でもよい。また、血管パッチ1の端部3b側に予め人工弁AVを縫合したのち、血管パッチ1の縁部3の内側と大動脈球BAの切開部、人工弁AVと弁輪をそれぞれ縫合してもよい。
【0028】
図3は、血管パッチ1を大動脈球BAに縫合して弁輪を拡大するとともに人工弁AVを取り付けた状態を示す断面図である。大動脈球BAから弁輪までを切開して血管パッチ1を取り付けることで、その分バルサルバ洞SVと弁輪を拡張し、患者の体のサイズに合った人工弁AVを取り付けることが可能となる。また、血管パッチ1が本発明のようなバルサルバ洞SVに近い形状をしていることにより、バルサルバ洞SVの立体的な構築(ジオメトリー)を再現し、人工弁AVの流入路と流出路のジオメトリーをより生理的に近づけることが可能となる。これにより、バルサルバ洞SV内での血流の流れをスムーズにすることができる。
【0029】
以下、バルサルバ洞SVにおける血液の流れについて説明する。左心室LVが収縮すると、人工弁AVが開いて上行大動脈AAに向けてA1−A2方向に血液が流入する。一方、左心室LVが拡張すると、上行大動脈AAの下流からバックラッシュする血液の流れが生じるが、人工弁AVは閉じているため左心室LVへの血液の流入が阻害される。このとき血流は、バルサルバ洞SVの内壁に沿って移動し、ふくらみにより血流の一部はUターンして右冠状動脈RCAと左冠状動脈LCAに流入する。本発明の血管パッチ1は、頭頂部7pを備えているため、この頭頂部7p付近で血液がB1−B2方向にUターンして左右冠動脈口にスムーズに誘導される。また、頭頂部7pが一方の端部3b側に偏心しているため、例えば半球状(偏心していない形状)の場合と比較して、よりバルサルバ洞SVの形状に近いものとなり、血流がよりスムーズになる。
【0030】
次に、血管パッチ1の製造方法について説明する。血管パッチ1は、布を所定形状に加工して製造することが好ましい。布の材料としては、ダクロン(登録商標)などのポリエステルや、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。布の編み方としては、メリヤス編み(ニット織り)、平織り(ウーブン)のいずれであってもよく、血管パッチ1の柔軟性などを考慮して適宜選択することが好ましい。あるいは、素材としては、上記のような繊維を編んだものではなく、特殊延伸加工が施された微多孔性のフッ素樹脂ポリテトラフルオロエチレンであってもよく、例えばフィルム状に加工されたものなどを用いることができる。
【0031】
血管パッチ1は、平面状の一枚布を所定形状の金型で熱成形する方法で製造することができる。図3は血管パッチ1の製造方法の一例を示す図である。図4(a)に示すように、まず、シート状の布からはさみなどで木の葉状の素材11を切り出す。次に、図4(b)に示すように、血管パッチ1に対応した金属製の雄型13と雌型15の間に素材11を挟んでプレスする。この状態で金型を80〜120℃に加熱し、10分〜1時間程度保持して素材11を熱処理する。最後に図4(c)に示すように、熱処理後に雄型13と雌型15とを離型すれば、立体形状に加工された血管パッチ1が得られる。
【0032】
また、血管パッチ1の製造方法としては、上記の熱処理に限定されず、所定形状にカットされた複数の布地を組み合わせる方法であってもよい。図5は血管パッチ1の他の製造方法を示す図である。図5(a)に示すように、まず、シート状の布からはさみなどで木の葉状の素材21と素材22とを切り出し、素材21,22の縫合部を櫛歯状にそれぞれカットする。次に、図5(b)に示すように、素材21の櫛歯21aと素材22の櫛歯22aが交互に表面に現れるように継ぎ合わせる。最後に、図5(c)に示すように、素材21と素材22のつなぎ目を、稜線に沿って2列平行にサドルステッチ23で縫い合わせることで、両素材21,22を縫着する。
【0033】
次に、本発明の他の実施形態に係る血管パッチについて説明する。図6は本発明の他の実施形態に係る血管パッチ31を示した図であり、図6(a)は血管パッチ31の斜視図、図6(b)は図6(a)の血管パッチ31をA1−A2方向にみた(すなわち、稜線方向に沿った)断面図を示している。
【0034】
本実施形態の血管パッチ31は、稜線37に第一頭頂部37pと第二頭頂部37qとを備えており、第二頭頂部37qの高さHqが第一頭頂部37pの高さHpよりも低い点を特徴としている。稜線37のうち最も高さが高い第一頭頂部37pは、上述した実施形態と同様に端部33b側に偏心している。
【0035】
第一頭頂部37pの偏心幅Wpと高さHpは、第一の実施形態と同様とすることができる。第二頭頂部37qに対応する長軸L上の位置Lpは、特に制限はないが、中心Lmを挟んで第一頭頂部37pの長軸L上の位置Lpと反対側の端部33a側に位置することが好ましい。垂線Lvからの頭頂部37qの偏心幅Wqは、長軸Lの全長Wfに対してWq/Wf=0.05〜0.45の範囲内となるように設定することが好ましい。Wq/Wfが0.05を下回ると、頭頂部7pが垂線Lvに近くなりすぎて第二頭頂部37qのカーブが半円状に近くなり、バルサルバ洞の形状とは大きく異なってしまうため、血流をスムーズに誘導できにくくなる。一方、Wq/Wfが0.45を上回ると、第二頭頂部37qが端部33aに近くなりすぎて端部33b側における第二頭頂部37qのカーブが急になってしまうため、第二頭頂部37qで血流が停滞したり、血流抵抗が大きくなったりしやすくなる。
【0036】
また、第二頭頂部37qの高さHqは、第一頭頂部37pの高さHpに対して、Hq/Hp=0.5〜0.9の範囲内となるように設定することが好ましい。Hq/Hpが0.5を下回ると、第二頭頂部37qの高さが低すぎて、血管パッチ31が裏返りやすくなる。一方、Hp/Wfが0.9を上回ると、2つの頭頂部37p,37qの高さがほぼ等しくなってしまうため、バルサルバ洞SVの形状と大きく異なってしまい、血流の停滞などを引き起こしやすくなる。
【0037】
このように第二頭頂部37qを備えることで、以下の効果を奏する。図1のように頭頂部7pが一つだけの場合は、頭頂部7pと端部3aとの間の距離が長く、かつなだらかなカーブで傾斜しているため、この領域では、血管パッチ1を押しつぶす方向(図1では下向き)に対して形状を維持する力が弱い。このため、血管パッチ1を血管に縫着する際や縫着した後において頭頂部7pと端部3aとの間の領域で血管パッチ1が裏返ってしまい、血流が阻害されてしまうなどの不都合が生じやすい。一方、本実施形態のように第一頭頂部37pから端部33aまでの間に第二頭頂部37qが形成されることで、この突出した第二頭頂部37qでは血管パッチ31を押しつぶす方向に対する抵抗が大きくなるため、血管パッチ31の形状が維持されやすくなり裏返りが生じにくくなる。なお、本実施形態では2つの頭頂部37p,37qのみを備える構成としたが、3つ以上の頭頂部を備えるようにしてもよい。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態に係る血管パッチについて説明する。図7は本発明の他の実施形態に係る血管パッチ41を示した図であり、図7(a)は血管パッチ41の斜視図、図7(b)は図7(a)の血管パッチ41を上から見た平面図を示している。
【0039】
本実施形態の血管パッチ41は、3つの素材42〜44が縫合されており、その稜線47に沿った少なくとも一部に縫合部が形成されない点を特徴としている。図7(b)では、素材42と素材43とは稜線47上に縫合部が形成されているが、素材43では稜線47の延長線上に縫合部は形成されていない。そして、この図では、素材44のうち稜線47の延長線上に孔を形成し、そこに仮想線で示した右冠状静脈RCAを縫合している。このように、稜線47に沿った一部の領域に縫合線が形成されていないため、この領域に孔などを形成することで縫合部が邪魔にならないため好ましい。なお、素材の数としては、本実施形態のように3つに限定されず、それ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 血管パッチ、3 縁部、3a,3b 端部、5 立体部、7 稜線、7p 頭頂部、11 素材、13 雄型、15 雌型、21,22 素材、21a,22a 櫛歯、23 サドルステッチ、31 血管パッチ、33 縁部、33a,33b 端部、35 立体部、37 稜線、37p 第一頭頂部、37q 第二頭頂部、41 血管パッチ、42 素材、43 素材、44 素材、47 稜線、L 長軸、Lm 中心、Lv 垂線、Lp (第一)頭頂部に対応する長軸上の位置、Lq 第二頭頂部に対応する長軸上の位置、Wp 偏心幅、Wq 偏心幅、AA 上行大動脈、BA 大動脈球、SV バルサルバ洞、RCA 右冠状動脈、LCA 左冠状動脈、LV 左心室、VA 大動脈弁(三尖弁)、AV 人工弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7