(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パワープラントと、前記パワープラントにクラッチを介して断接可能に入力軸が接続されたベルト式無段変速機と、前記入力軸の回転を検出する回転センサと、停車時に前記入力軸の回転速度がスリップ判定速度NSL以上の状態がスリップ判定時間TSL以上継続すると前記ベルト式無段変速機にベルトスリップが生じていると判定するスリップ判定手段と、を有する車両に装備され、前記回転センサから入力されるパルス信号を処理する信号処理装置であって、
前記パルス信号の入力される周期から前記入力軸の瞬時回転速度Nmを演算する瞬時回転速度演算手段と、
前記瞬時回転速度Nmをフィルタ処理により平滑化して回転速度Nfを演算する回転速度演算手段と、
前記パルス信号が、無入力判定時間TNIだけ継続して無入力となった場合の無入力状態から入力状態となってからの経過時間を演算する時間演算手段と、
前記瞬時回転速度Nmを前記スリップ判定速度NSLの近傍速度である第1基準速度NS1及び前記第1基準速度NS1よりも高速の第2基準速度NS2と比較判定する瞬時回転速度判定手段と、
前記クラッチの解放時に、前記経過時間及び前記瞬時回転速度Nmに基づいて、前記回転速度演算手段による演算を操作する演算操作手段と、を備え、
前記演算操作手段は、
前記経過時間が基準時間TS1に達した以降は、
前記パルス信号の無入力が発生すると、該無入力の継続時間が車輪ロックに対応すべく設定され前記スリップ判定時間TSLよりも長い車輪ロック対応時間TWLを超えるまでは前記回転速度演算手段に直前の前記回転速度Nfを保持させ、前記無入力の継続時間が前記車輪ロック対応時間TWLを超えたら前記瞬時回転速度Nmとして0を前記回転速度演算手段に入力する車輪ロック対応処理を行ない、
前記経過時間が前記基準時間TS1に達するまでの間は、
前記判定手段により前記瞬時回転速度Nmが前記第1基準速度NS1以下のゾーンにあると判定された場合は、前記車輪ロック対応処理を行ない、
前記判定手段により前記瞬時回転速度が前記第1基準速度NS1と前記第2基準速度NS2との間のゾーンにあると判定された場合は、前記パルス信号の無入力が発生すると前記瞬時回転速度Nmとして0を前記回転速度演算手段に入力し、
前記判定手段により前記瞬時回転速度Nmが前記第2基準速度NS2以上のゾーンにあると判定された場合は、前記回転速度演算手段に直前に演算した前記回転速度Nfの値を保持させる
ことを特徴とする、回転センサの信号処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前記のベルト式無段変速機を備えた自動車において、入力回転センサの異常やベルトの滑りを判定する場合、一般に、以下のようなフェール判定ロジックを用いる。つまり、ベルト滑り(ベルトスリップ)の判定については、車両が停止してプライマリ軸が停止している状況下で、入力回転センサの検出パルスデータをフィルタ処理した回転速度(処理後回転速度)Nfが、所定回転速度N
SLを超えた状態が所定時間T
SL以上継続すると、ベルトスリップが生じていると判定する。また、入力回転センサの断線の判定については、処理後回転速度Nfが、所定回転速度N
SNを超えてからパルスの無入力が確定すると、入力回転センサが断線したものと判定する。
【0011】
しかしながら、このような一般的なフェール判定ロジックでは、前記のベルト式無段変速機を備えた自動車において、入力回転センサが正常であるにもかかわらず断線しているものと誤判定する場合や、ベルトに滑りが生じていないにもかかわらずベルトスリップが生じていると誤判定してしまう場合が生じることが判明した。いずれの場合も、回転センサのパルスの異常入力が原因であることがわかった。
【0012】
具体的に考察すると、パワープラントと無段変速機とを接続するクラッチを切り離していて、パワープラントを駆動させた場合に、プライマリ軸は本来停止状態であるのに、プライマリ軸の入力回転センサが反応して短周期のパルスを出力することがあり、この場合、短周期のパルスからプライマリ軸の瞬時回転速度Nmが極めて高い回転速度となることがある。この後は入力回転センサからパルスは入力されなくなるが、車両に装備された、処理後回転速度Nfを保持する機能(タイヤロックの回転パルス無入力状態で直前の回転速度を保持する機能)が動作して、所定時間T
WL(一般に、T
WL>T
SL)が経過するまでは直前に算出したプライマリ軸の処理後回転速度Nfを保持する。
【0013】
この結果、上記の短周期のパルスに起因した処理後回転速度Nfがベルトスリップの判定に関する所定回転速度N
SNを超えた状態が所定時間T
SL以上継続すると、ベルトスリップが生じていると判定することになる。また、上記の短周期のパルスに起因した処理後回転速度Nfが所定回転速度N
SNを超える場合があるので、その後、パルスの無入力が確定すると、入力回転センサが断線したものと判定することになる。
そこで、こうした誤判定を回避できるようにしたい。
【0014】
特許文献1の技術では、必要に応じて回転検出を禁止するようにしているため、回転検出を禁止する条件設定が容易ではない。また、特許文献1の技術のように、スイッチング素子を新たに設けるなど装置のハード構成を追加すると、コスト上昇を招いてしまうので、コスト上昇を抑えながら誤判定の回避を実現したい。
【0015】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、パワープラントにクラッチを介して接続されたベルト式無段変速機の入力回転を検出するセンサが正常であるにもかかわらず断線しているものとする誤判定や、ベルトスリップが生じていないにもかかわらず生じているとする誤判定を、装置のコスト増を招くことなく回避することができるようにした、回転センサの信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明の回転センサの信号処理装置は、上記の目的を達成するために創案されたもので、パワープラントと、前記パワープラントにクラッチを介して断接可能に入力軸が接続されたベルト式無段変速機と、前記入力軸の回転を検出する回転センサと、停車時に前記入力軸の回転速度がスリップ判定速度N
SL以上の状態がスリップ判定時間T
SL以上継続すると前記ベルト式無段変速機にベルトスリップが生じていると判定するスリップ判定手段と、を有する車両に装備され、前記回転センサから入力されるパルス信号を処理する信号処理装置であって、前記パルス信号の入力される周期から前記入力軸の瞬時回転速度Nmを演算する瞬時回転速度演算手段と、前記瞬時回転速度Nmをフィルタ処理により平滑化して回転速度Nfを演算する回転速度演算手段と、前記パルス信号が、無入力判定時間T
NIだけ継続して無入力となった場合の無入力状態から入力状態となってからの経過時間を演算する時間演算手段と、前記瞬時回転速度Nmを前記スリップ判定速度N
SLの近傍速度である第1基準速度N
S1及び前記第1基準速度N
S1よりも高速の第2基準速度N
S2と比較判定する瞬時回転速度判定手段と、前記クラッチの解放時に、前記経過時間及び前記瞬時回転速度Nmに基づいて、前記回転速度演算手段による演算を操作する演算操作手段と、を備え、前記演算操作手段は、前記経過時間が基準時間T
S1に達した以降は、前記パルス信号の無入力が発生すると、該無入力の継続時間が車輪ロックに対応すべく設定され前記スリップ判定時間T
SLよりも長い車輪ロック対応時間T
WLを超えるまでは前記回転速度演算手段に直前の前記回転速度Nfを保持させ、前記無入力の継続時間が前記車輪ロック対応時間T
WLを超えたら前記瞬時回転速度Nmとして0を前記回転速度演算手段に入力する車輪ロック対応処理を行ない、前記経過時間が前記基準時間T
S1に達するまでの間は、前記判定手段により前記瞬時回転速度Nmが前記第1基準速度N
S1以下のゾーンにあると判定された場合は、前記車輪ロック対応処理を行ない、前記判定手段により前記瞬時回転速度が前記第1基準速度N
S1と前記第2基準速度N
S2との間のゾーンにあると判定された場合は、前記パルス信号の無入力が発生すると前記瞬時回転速度Nmとして0を前記回転速度演算手段に入力し、前記判定手段により前記瞬時回転速度Nmが前記第2基準速度N
S2以上のゾーンにあると判定された場合は、前記回転速度演算手段に直前に演算した前記回転速度Nfの値を保持させることを特徴としている。
【0017】
(2)前記
基準時間T
S1は、前記クラッチの解放時に、前記パワープラントのトルクの急変動が前記入力軸に伝達されて微小量だけ瞬時回転したことで生じる短周期のパルス信号の発生しうる時間範囲を包含するように設定され、前記第1基準速度N
S1は、前記スリップ判定速度N
SLよりも微小量だけ高速に設定され、前記第2基準速度N
S2は、前記パワープラントのトルクを受けて前記入力軸が通常に回転し始める場合に発生可能な瞬時回転速度Nmの最大値に基づいて設定されていることが好ましい。
【0018】
(3)前記回転速度が断線判定回転速度N
SNを超えてからパルス信号の前記無入力状態が確定すると、前記回転センサが断線しているものと判定する断線判定手段をそなえ、前記第2基準回転速度N
S2は、前記断線判定回転速度N
SNよりも大きく設定されると共に、前記クラッチの解放時に、前記パワープラントのトルクの急変動が前記入力軸に伝達されて微小量だけ瞬時回転したことで生じる短周期のパルス信号に基づく前記瞬時回転速度Nmを前記回転速度演算手段によりフィルタ処理することによって得られる前記回転速度Nfが、前記断線判定回転速度N
SN以下になるように設定されることが好ましい。
【0019】
(4)前記パワープラントは、内燃機関が用いられたエンジンと、前記エンジンと第1クラッチを介して接続された電気モータと、を備え、前記電気モータの出力軸と、前記ベルト式無段変速機の前記入力軸との間には、前記クラッチとしての第2クラッチが介装され、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチは、締結モード及び開放モードの他に、滑り係合モードを有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の回転センサの信号処理装置によれば、以下の効果を得ることができる。
車両のベルト式無段変速機の入力軸(プライマリ軸)の回転速度Nfを演算する場合、一般に、車輪ロックに対応する処理が実施される。つまり、車輪ロック時にはパルス信号は無入力となるが、このパルス信号の無入力がそのまま回転速度演算手段による回転速度Nfの演算に利用されてしまうと、回転速度Nfに基づく判定や制御に影響を及ぼすので、パルス信号の無入力の継続が所定時間(車輪ロック対応時間)T
WL内であれば、パルス信号無入力の直前の回転速度Nfを保持する車輪ロック対応処理をすることで、回転速度Nfに基づく判定や制御への影響を回避している。
【0021】
一方、クラッチの解放時であっても、パワープラント側にトルクの急変動があると、このトルク急変動が入力軸に伝達されて入力軸が微小回転して(プライマリ軸のガタ打ち)、回転センサから一瞬だけ短周期のパルス信号が発生し入力される。回転速度演算手段は、パルス信号の入力される周期から演算した瞬時回転速度Nmをフィルタ処理により平滑化して回転速度Nfを演算するが、僅かな数のパルス信号であっても極めて短周期であれば、実際には回転していないにもかかわらず、瞬時回転速度Nmが過大になるため回転速度Nfも大きな値になる。回転速度Nfの値が大きくなると、この回転速度Nfに基づく判定や制御に影響を及ぼす。
【0022】
パワープラントのトルク急変動によるパルス信号の入力は、瞬時的なものなので、パルス信号が無入力状態から入力状態となってからの経過時間が基準時間T
S1に達するまでに限定される。
パワープラントのトルクを受けて入力軸が通常に回転し始める場合に、パルス信号が無入力状態から入力状態となるが、この場合、入力状態となった直後の瞬時回転速度は一定値(第2基準速度N
S2)以内に収まるものと考えられる。そこで、瞬時回転速度が第2基準速度N
S2以上になったら、トルク急変動によるパルス信号の入力と判断し、この瞬時回転速度Nmは回転速度Nfの演算にカウントしないで、直前の回転速度Nfの値を保持させることで、誤って過大な回転速度Nfを演算することが防止され、この回転速度Nfに基づく判定や制御への影響が回避される。
【0023】
瞬時回転速度Nmは第2基準速度N
S2よりも小さければ、瞬時回転速度Nmが、トルク急変動によるパルス信号によるものか、入力軸が回転し始めたことによるものかを切り分けられないが、トルク急変動によるパルス信号の場合、この短周期のパルス信号が入力された後、パルス信号が無入力状態となるが、ここで、車輪ロック対応処理をすると、車輪ロック対応時間T
WLだけ直前の回転速度Nfを保持するため、停車時に入力軸の回転速度Nfがスリップ判定速度N
SL以上の状態がスリップ判定時間T
SL以上継続し、ベルトにスリップが生じていると誤判定する場合がある。しかし、このときには、車輪ロック対応処理は行わず、パルス信号の無入力が発生すると即座に瞬時回転速度Nmとして0を回転速度演算手段に入力するので、ベルトスリップの誤判定を回避することができる。
【0024】
なお、入力軸の回転速度Nfが断線判定回転速度N
SNを超えてからパルス信号の無入力状態が確定すると、回転センサが断線しているものと判定することにより、回転センサの断線を判定することができる。前記のトルク急変動によるパルス信号が発生すると、瞬時回転速度Nmが第2基準回転速度N
S2未満であれば、回転速度演算手段の演算に用いられるが、瞬時回転速度Nmが大きく発生した後には瞬時回転速度Nmは0となりこれが継続するので、回転速度演算手段による演算される回転速度Nfは制限される。第2基準回転速度N
S2は、こうして回転速度演算手段による演算される回転速度が断線判定回転速度N
SNよりも小さくなるように値が設定されているので、トルク急変動によるパルス信号に起因した断線の誤判定を回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0027】
〔車両の構成〕
まず、本実施形態にかかるハイブリッド自動車(単に、車両ともいう)の駆動系を説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる車両100は、内燃機関が用いられたエンジン1と、第1クラッチ2と、電動モータ(電動機)としても機能するモータジェネレータ(以下、MGともいう)3と、第1オイルポンプ4と、第2オイルポンプ5と、第2クラッチ6と、無段変速機(以下、CVTともいう)7と、駆動輪8と、統合コントローラ50とを備えている。なお、エンジン1及びMG3は、パワープラントとも総称する。
【0028】
エンジン1は、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン等の内燃機関であり、統合コントローラ50からのエンジン制御指令に基づいて、燃料噴射量や吸気量等を調整されてエンジンの回転速度やトルク等を制御される。
【0029】
第1クラッチ2は、エンジン1とMG3との間に介装されたノーマルオープンの油圧式クラッチである。第1クラッチは、統合コントローラ50からの指令に基づいて、第1オイルポンプ4又は第2オイルポンプ5の吐出圧を元圧として油圧コントロールバルブユニット71によって調圧された油圧によって、締結、解放が制御される。この第1クラッチ2には、例えば乾式多板クラッチが用いられる。
【0030】
MG3は、エンジン1に対して直列に配置され、永久磁石が埋設されたロータと、ステータコイルが巻き付けられたステータとを有する同期型回転電機である。MG3は、統合コントローラからの指令に基づいて、インバータ9により作り出された三相交流を印加することにより制御される。MG3はバッテリ10からの電力を受けて回転する電動機として動作することができる。また、MG3はロータがエンジン2や駆動輪8から回転エネルギを受けると、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能する。この発電電力によりバッテリ10を充電することができる。
【0031】
第1オイルポンプ4は、MG3の回転がベルト4bを介して伝達されることによって動作するベーンポンプである。第1オイルポンプ4は、CVT7のオイルパン72に貯留される作動油を吸い上げ、油圧コントロールバルブユニット71に油圧を供給する。
【0032】
第2オイルポンプ5は、バッテリ10からの電力の供給を受けて動作する電動オイルポンプである。第2オイルポンプ5は、統合コントローラ50からの指令に基づき、第1オイルポンプ4のみでは油量が不足する場合等に駆動され、第1オイルポンプ4と同様に、CVT7のオイルパン72に貯留される作動油を吸い上げ、油圧コントロールバルブユニット71に油圧を供給する。
【0033】
第2クラッチ6は、MG3とCVT7との間に介装される。第2クラッチは統合コントローラ50からの指令に基づき、第1オイルポンプ4又は第2オイルポンプ5の吐出圧を元圧として油圧コントロールバルブユニット71によって調圧された油圧によって、締結、解放が制御される、この第2クラッチ6には、例えばノーマルオープンの湿式多板クラッチが用いられる。
【0034】
CVT7は、MG3の下流に配置され、車速やアクセル開度等に応じて変速比を無段階に変更することができる。このCVT7は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、これらのプーリに架け渡されたベルトとを備える。第1オイルポンプ4及び第2オイルポンプ5の吐出圧を元圧として油圧コントロールバルブユニット71によってプライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧とを作り出し、各プーリ圧によりプライマリプーリの可動プーリとセカンダリプーリの可動プーリとを軸方向に移動させ、ベルトのプーリ接触半径を変化させることにより変速比を無段階に変更する。
【0035】
CVT7の出力軸には、図示しない終減速ギヤ機構を介してディファレンシャル12が接続される。このディファレンシャル12には、ドライブシャフト13を介して左右の駆動輪8が接続される。
【0036】
統合コントローラ50は、図示しないが、入出力装置,多数の制御プログラムを内蔵した記憶装置(ROM,RAM,BURAM等),中央処理装置(CPU),タイマカウンタ等を備えており、電子制御ユニット(ECU:Electric Control Unit)とも称する。
【0037】
この統合コントローラ50には、エンジン1の回転速度を検出する回転センサ51、第2クラッチの出力回転速度(=CVT7の入力回転速度)を検出する回転センサ52、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ53、CVT7のセレクトポジション(前進、更新、ニュートラル、パーキング等を切り替えるセレクトレバー又はセレクトスイッチの状態)を検出するインヒビタスイッチ54、車速を検出する車速センサ55等からの信号が入力される。統合コントローラ50は、入力されるこれらの信号に基づき、エンジン1、MG3(インバータ9)、CVT7に対する制御を行なう。
【0038】
なお、車速センサ55は、CVT7の出力回転速度を検出する出力回転センサとしても機能する。また、回転センサ51,52,55により検出する回転速度については、単位時間当たりの回転数により表記するため、単に回転数とも言う。
【0039】
統合コントローラ50は、
図2に示すモード切替マップを参照して、車両100の運転モードとして、EVモードと、HEVモードとを切り替える。
EVモードは、第1クラッチ2を解放し、MG3のみを駆動源として走行するモードである。このEVモードは、要求駆動力が低く、且つ、バッテリ10の充電量が十分ある時に選択される。
【0040】
EHVモードは、第1クラッチ2を締結し、エンジン1とMG3とを駆動源として走行するモードである。このHEVモードは、要求駆動力が高い時、又は、バッテリ10の充電量が不足している時に選択される。
なお、これらHVモードとEHVモードとの切り替えがハンチングしないように、HVモードからEHVモードへの切り替え線は、EHVモードからHVモードへの切り替え線よりも高速且つアクセル開度大の側に設定されている。
【0041】
また、車両100は、トルクコンバータを備えていないため、
図2に示すWSC(Wet Start Clutch)領域では、第2クラッチ6をスリップさせながら発進及び停止をするWSC制御を行なう。WSC領域は、発進時や減速停止時で、車速が所定車速VSP1以下の低車速領域であり、VSP1は例えば10km/hとする。
【0042】
具体的には、CVT7のセレクトポジションが非走行ポジション(N,P等)から走行ポジション(D,R等)に切り替えられて車両100が発進する場合は、統合コントローラ50は、第2クラッチ6に供給する油圧を徐々に上昇させていき、第2クラッチをスリップさせながら徐々に締結する。そして、車速がVSP1に到達すると、統合コントローラ50は、第2クラッチ6を完全締結し、WSC制御を終了する。
【0043】
また、CVT7のセレクトポジションが走行ポジション(D,R等)で車両100が走行していて、車両100が減速して車速がVSP1まで低下した場合には、統合コントローラ50は、第2クラッチ6に供給する油圧を徐々に低下させていき、第2クラッチをスリップさせながら徐々に解放する。そして、車速が停車すると、統合コントローラ50は、第2クラッチ6を完全解放し、WSC制御を終了する。
【0044】
(CVT及びその入力回転センサ)
このような車両100において、CVT7に着目すると、統合コントローラ50は、回転センサ(入力回転センサとも言う)52により検出されるCVT7の入力回転速度と、車速センサ(出力回転センサとも言う)55により検出されるCVT7の出力回転速度を含んだ入力情報に基づいて目標変速比を算出し、変速比がこの目標変速比となるようにCVT7の変速制御を行なう。
【0045】
しかし、入力回転センサ52及び出力回転センサ55の何れかが異常であると、これらの回転センサ52,55からの検出情報を含んだ入力情報に基づいて目標変速比を算出すると、適切な目標変速比が得られない。そこで、統合コントローラ50では、回転センサ52,55からの情報に基づいて回転センサ52,55に異常が発生すると、回転センサ異常と判定して、フェールセーフ処理を実施するようにしている。また、入力回転センサ52や出力回転センサ55からの情報に基づいてベルトスリップの判定を行ない、ベルトスリップに対しては変速比固定制御等のスリップ回避処理を実施するようにしている。
【0046】
例えば、統合コントローラ50には、回転センサ52からの情報とタイマからのカウント情報とに基づいてベルトスリップを判定するスリップ判定部(スリップ判定手段)501と、回転センサ52からの情報とパルス信号の無入力状態確定情報とに基づいて回転センサ52の断線を判定する断線判定部(断線判定手段)502とが設けられている。
【0047】
統合コントローラ50には、スリップ判定部501及び断線判定部502等に情報を提供すべく、回転センサ52からの情報等に基づいて、演算サイクル毎にその時点の瞬時回転速度Nmを演算する瞬時回転速度演算部(瞬時回転速度演算手段)503と、瞬時回転速度演算部503により演算された瞬時回転速度Nmをフィルタ処理により平滑化して回転速度(処理後回転速度とも言う)Nfを演算する回転速度演算部(回転速度演算手段)504と、パルス信号が無入力判定時間T
NIだけ継続して無入力の場合に無入力状態であることを確定する信号無入力判定部(信号無入力判定手段)505と、回転速度演算部504による演算を操作する演算操作部(演算操作手段)508と、が設けられている。
【0048】
回転センサ52は、
図3(a)に模式的に示すように、プライマリ軸に設置されたセンシングロータ(シグナルプレート)52aと、このセンシングロータ52aに非接触で配置されたセンサ52bと、から構成されるデジタルエンコーダが一般的である。センシングロータ52aの外周面には複数の歯(突起)52cが設けられ、センサ52bはプライマリ軸が回転する際にセンシングロータ52aの歯52cに対応するパルス信号を発生する。センサ52bが電磁ピックアップの場合、
図3(b)に示すように、プセンサ52bを歯52cの歯の回転方向始端が通過する際と回転方向終端が通過する際とに、出力電圧の変化が生じ、これに基づき、
図3(c)に示すようなパルス信号が得られる。
【0049】
瞬時回転速度演算部503では、統合コントローラ50に入力される回転センサ52からのパルス信号を処理して、瞬時回転速度Nmを演算する。つまり、
図3(c)に示すパルス信号の一周期分、例えばある立ち上がり部から次の立ち上がり部までの時間(周期)を演算し、センシングロータ52aの歯52cの一周期分の角度を周期時間で除算することにより、回転センサ52の一周期分の瞬時回転速度Nmを得ることができる。
【0050】
回転速度演算部504では、瞬時回転速度Nmを、例えば下記の式(1)に示すようなフィルタ処理により平滑化して回転速度Nfを演算する。なお、Nf(n−1)は前回の演算周期の回転速度、Nm(n)は今回の演算周期の瞬時回転速度、Nf(n)は今回の演算周期の回転速度であり、a,bはフィルタ係数である。
【0051】
Nf(n)=aNm(n)+bNf(n−1)・・・(1)
ただし、a+b=1
【0052】
信号無入力判定部505は、パルス信号の無入力の状態が無入力判定時間T
NIだけ継続した場合に無入力状態であると判定する。これはノイズ等の影響で検出したパルス信号が瞬間的無入力となる場合等の対処したものであり、このように瞬間的無入力となる場合を除去するために、パルス信号の無入力の状態が無入力判定時間T
NIだけ継続した場合に、パルス信号が無入力状態であると判定する。
【0053】
演算操作部508は、第2クラッチ6の解放時に、無入力状態から入力状態となってからの経過時間及び瞬時回転速度に基づいた判定によって、回転速度演算部504による演算を操作する。このため、統合コントローラ50には、パルス信号が無入力状態から入力状態となった時点からの経過時間を演算する時間演算部(時間演算手段)506と、経過時間が
基準時間T
S1に達したか否かを判定する時間判定部(時間判定手段)506aと、瞬時回転速度Nmを第1基準速度N
S1及び第2基準速度N
S2と比較判定する瞬時回転速度判定部(瞬時回転速度判定手段)507と、が設けられている。
【0054】
時間演算部506は、信号無入力判定部505により無入力状態であることが判定された条件下でパルス信号の入力があると、この時点からの経過時間を演算する。
時間判定部506aは、時間演算部506で演算された経過時間が基準時間T
S1に達したか否かを判定する。
【0055】
瞬時回転速度判定部507は、瞬時回転速度演算部503で演算された瞬時回転速度Nmを、第1基準速度N
S1及び第2基準速度N
S2と比較判定するが、ここでは、なお、第1基準速度N
S1はスリップ判定速度N
SLの近傍速度に設定され、第2基準速度N
S2は第1基準速度N
S1よりも高速な値に設定される。なお、ここでは、第1基準速度N
S1はスリップ判定速度N
SLよりもやや高い速度に設定される。また、第2基準速度N
S2はスリップ判定速度N
SLよりも大幅に高い速度で、後述の断線判定回転速度N
SNよりも高い速度に設定される。これらについては後述する。
【0056】
図4は、時間判定部506a及び瞬時回転速度判定部507による判定結果による信号処理の区分を分類する処理区分マップの一例である。
図4に示すように、処理区分は、経過時間が
基準時間T
S1に達する前で且つ瞬時回転速度Nmが第2基準速度N
S2以上のゾーンAと、経過時間が
基準時間T
S1に達する前で且つ瞬時回転速度Nmが第1基準速度N
S1と第2基準速度N
S2との間のゾーンBと、その他のゾーンCとの3つに分類される。ゾーンCは、経過時間が
基準時間T
S1に達する前であっても瞬時回転速度Nmが第1基準速度N
S1以下のゾーンと、経過時間が
基準時間T
S1に達した以降のゾーンとからなっている。
【0057】
演算操作部508は、経過時間及び瞬時回転速度NmがゾーンAにある場合には、回転速度演算部504に、直前の周期で演算した回転速度Nfの値を保持させる処理Aを行なう。また、経過時間及び瞬時回転速度NmがゾーンBにある場合には、パルス信号の無入力が発生すると無入力状態の判定を待たずに瞬時回転速度Nmとして値0を回転速度演算部504に入力する処理Bを行なう。経過時間及び瞬時回転速度NmがゾーンCにある場合には、回転速度演算部504で通常の処理をさせる。
【0058】
ここで、通常の処理とは、車輪ロック対応処理を実施することであり、パルス信号の無入力が発生すると、この無入力の継続時間がスリップ判定時間T
SLよりも長い車輪ロック対応時間T
WLを超えるまでは回転速度演算部504に直前の回転速度Nmを保持させ、無入力の継続時間が車輪ロック対応時間T
WLを超えたら瞬時回転速度Nfとして値0を回転速度演算部504に入力する処理である。
【0059】
以下に、このように演算操作部508により経過時間及び瞬時回転速度Nmに応じて回転速度演算部504による演算を操作する理由を説明するが、これには、スリップ判定及び断線判定が起因しているので、まず、スリップ判定部501及び断線判定部502によるこれらの判定を説明する。
【0060】
スリップ判定部501では、一般的なフェール判定ロジックを用いており、車両100の停車時(回転センサ55の出力0から判定できる)に、回転センサ52により検出されたCVT7の入力軸(プライマリ軸)の回転速度Nfがスリップ判定速度N
SL以上の状態がスリップ判定時間T
SL以上継続するとCVT7にベルトスリップが生じていると判定する。
【0061】
断線判定部502でも、一般的なフェール判定ロジックを用いており、回転センサ52により検出された回転速度Nfが断線判定回転速度N
SNを超えてから回転センサ52からのパルス信号の無入力状態が確定すると、回転センサ52が断線しているものと判定する。無入力状態の確定の判定については、前述の無入力状態の判定と同様のロジックであり、パルス信号の無入力の状態が無入力確定判定時間T
NIJだけ継続した場合に無入力状態であることを確定する。なお、無入力確定判定時間T
NIJは、前述の無入力判定時間T
NIと等しい値に設定しても良く、断線判定をより慎重にするために、無入力判定時間T
NIよりも長い時間に設定しても良い。
【0062】
しかし、前述のように、このようなフェール判定ロジックでは、回転センサ52のパルスの異常入力があると、回転センサ52が正常であるにもかかわらず断線しているものと誤判定する場合や、ベルトスリップが生じていないにもかかわらずベルトスリップが生じていると誤判定してしまう場合があることが判明した。
【0063】
この状況は、
図5に模式的に示すように、MG3とCVT7とを接続する第2クラッチ6を解放していて、エンジン1やMG3(パワープラント)にトルクの急変動が生じた場合に発生する。パワープラントのトルクの急変動の要因は、例えば、第1クラッチ2を解放状態から締結させることによりエンジン1の入力トルクが第2クラッチ6の入力側に突然加わる場合や、MG3をスタータモータとして作動させて停止していたエンジン1を始動させた際のエンジン完爆時等に発生する引きずりトルクの発生が挙げられる。
【0064】
第2クラッチ6を解放していても、大きな引きずりトルクが、第2クラッチ6の入力側(パワープラント側)に瞬時に発生すると、これによる振動が第2クラッチ6の出力側に伝搬して、第2クラッチ6の出力側であるCVT7の入力軸(プライマリ軸)に装備されたセンシングロータ52bが僅かだが回転や逆回転などの揺れ戻し動作をする。センシングロータ52bの揺れ戻し動作は、微小ではあるものの高速であるため、回転センサ52から一周期分のパルス信号が極めて短時間(短周期)に入力される。
【0065】
パルス信号の周期が短いほど、瞬時回転速度算出部503で演算される瞬時回転速度Nmは高速になる。こうしたセンシングロータ52bの揺れ戻し動作による回転センサ52からのパルス信号のパルス数は僅かであり、その後はパルス信号が入力されない状態(無入力状態)が続く。このため、回転速度算出部504によるフィルタ処理によって、処理後の回転速度Nfは瞬時回転速度Nmよりも小さなものになるが、例え僅かなパルス信号でも極めて短周期であると、瞬時回転速度Nmは極めて高速になり、処理後の回転速度Nfも高速になる。
【0066】
しかも、通常の制御では、回転センサ52からのパルス信号の無入力が発生すると、この無入力の継続時間が車輪ロックに対応すべく設定された車輪ロック対応時間T
WLを超えるまでは直前の回転速度Nfを保持するので、瞬時回転速度Nmが高い値になった時点で、処理後の回転速度Nfも高速の値になって断線判定回転速度N
SNを超える場合がある。その後、パルス信号の無入力が続くため、処理後の回転速度Nfが高い値をキープすることになり、パルス信号の無入力が車輪ロック対応時間T
WLを超えたら無入力が確定する。
この状況は、断線判定部502による断線判定条件に適合してしまうため、回転センサ52の断線が生じていないにもかかわらず断線が発生したと誤判定することになる。
【0067】
また、車両100の停車時に、車輪ロックに対応する回転速度Nfの保持が行なわれると、回転速度Nfがスリップ判定速度N
SLの状態が、車輪ロック対応時間T
WLだけ保持される場合がある。通常、車輪ロック対応時間T
WLはスリップ判定時間T
SLよりも長く設定されるため、車両100の停車時に、CVT7の入力軸(プライマリ軸)の回転速度Nfがスリップ判定速度N
SL以上の状態がスリップ判定時間T
SL以上継続したことになる。スリップ判定部501によるベルトスリップ判定条件に適合してしまうため、CVT7にベルトスリップが生じていないにもかかわらずベルトスリップが発生したと誤判定することになる。
【0068】
そこで、このようなセンシングロータ52bの揺れ戻し動作による回転センサ52からのパルス信号が入力される特性に着目し、パルス信号の入力を、こうした特殊な要因によるものと、他のものとに切り分け、且つ、誤判定される状況とそうでないものとに切り分けて、必要な場合にのみ、演算操作部508によって回転速度演算部504による演算を操作している。
【0069】
まず、ゾーンA及びBについて信号入力があってからの経過時間から既定する基準時間T
S1は、上記のセンシングロータ52bの揺れ戻し動作による微小量だけ瞬時回転したことで生じる回転センサ52からの短周期のパルス信号の入力が短時間であるという時間的な特性に基づいて、かかるパルス信号の発生しうる時間範囲を包含するように設定される。
つまり、かかるパルス信号の入力は、瞬時であり、時間的には20msec程度の時間内に限られることが実機試験から判明している。そこで、このようなパルス信号の入力が発生すると想定される時間に基づいて、例えば想定時間に安全率fを乗算したりして余裕値αを加算したりして基準時間T
S1を設定する。例えば、入力想定時間が20msecであり、安全率fを2、余裕値αを10msecとすれば、基準時間T
S1は、50msec(=20msec×2+10msec)となる。
【0070】
次に、ゾーンA及びBについて瞬時回転速度Nmについて既定する第1基準速度N
S1及び第2基準速度N
S2は、上記のフェール判定に対応して設定される。つまり、第1基準速度N
S1は、スリップ判定速度N
SLよりも微小量だけ高速に設定される。スリップ判定速度N
SLとして、例えば450rpmが設定される場合、第1基準速度N
S1をこれよりもやや高い例えば500rpm程度に設定する。
【0071】
これは、回転速度算出部504によるフィルタ処理によって、処理後の回転速度Nfは瞬時回転速度Nmよりも小さなものになるため、これに応じるように瞬時回転速度Nmについて既定する第1基準速度N
S1を処理後の回転速度Nfについて既定するスリップ判定速度N
SLよりもやや高い速度に設定している。また、第1基準速度N
S1以上のゾーンBにかかる回転速度域は、パワープラント1,3のトルクを受けてCVT7の入力軸が通常に回転し始める場合に発生可能な回転速度であり、車輪ロック対応処理で、信号無入力があっても所定時間無入力前の値が保持されると、ベルトスリップ判定に適合してしまうため、これを回避すべく、車輪ロック対応処理を中止するものである。
【0072】
このように処理後回転速度Nfとの相違を考慮して、第1基準速度N
S1は、スリップ判定速度N
SLよりも微小量だけ高速に設定することが好ましく、また、この場合の微小量は、処理後の回転速度Nfが瞬時回転速度Nmよりも小さくなる点に着目して設定することが好ましい。ただし、第1基準速度N
S1を、単にスリップ判定速度N
SLの近傍速度とするだけでも、ベルトスリップ判定に適合してしまうことを回避する点で一定の効果はある。
【0073】
また、第2基準速度N
S2は、パワープラントのトルクを受けてCVT7の入力軸が通常に回転し始める場合に発生可能と想定される瞬時回転速度Nmの最大値に基づいて設定されている。なお、この第2基準速度N
S2は、断線判定回転速度N
SNよりも高い回転速度に設定される。例えば、断線判定回転速度N
SNは1000rpm程度に設定され、第2基準速度N
S2は1300rpm程度に設定される。処理後の回転速度Nfは瞬時回転速度Nmよりも小さなものになることを考慮しても、回転センサ52の断線判定を誤って行なう状況が生じるが、通常発生し得ない瞬時回転速度Nmについては回転速度Nfの演算に採用せずに前回値を保持することにより、回転センサ52の断線判定を誤って行わないようにすることになる。
【0074】
(作用、効果)
本発明の一実施形態にかかる回転センサの信号処理装置は、上述のように構成されているので、例えば
図6〜
図11の各フローチャートに示すように、各処理が行われる。なお、
図7〜
図11の処理は制御開始条件が成立すると設定された同一の制御周期(例えば10msec)で制御終了まで繰り返し行われる。なお、
図6の処理は
図7〜
図11の処理にかかる制御周期よりもごく短い周期で行なうものとする。
【0075】
まず、回転速度演算部504による回転速度(処理後回転速度)Nfの演算は、
図6に示すように、その時点の瞬時回転速度Nm(n)を取り込んで(ステップA10)、瞬時回転速度Nm(n)を例えば前記式(1)でフィルタ処理することにより平滑化して回転速度Nf(n)を演算する(ステップA20)。そして、この処理後回転速度Nf(n)を出力する(ステップA30)。
【0076】
次に、信号無入力判定部505では、
図7に示すように、回転センサ52からのパルス信号の入力がなし(パルス信号なし)か否かを判定し(ステップB10)、パルス信号なしならば、無入力タイマ(カウント値はTC1)のカウントを行ない(ステップB20)、無入力タイマのカウント値TC1が、無入力判定時間T
NIに対応する無入力判定カウント値TC
N1以上になったかを判定する(ステップB30)。
【0077】
カウント値TC1が無入力判定カウント値TC
N1以上になったら、第1フラグF1を1とし(ステップB40)、カウント値TC1を0にリセットする(ステップB50)。第1フラグF1は、「1」で無入力状態が確定したことを示し、「0」で無入力状態が確定していないことを示す。
【0078】
カウント値TC1が無入力判定カウント値TC
N1以上にならなければ、ステップB30からリターンする。
一方、パルス信号があれば、第1フラグF1を0とし(ステップB60)、カウント値TC1を0にリセットする(ステップB50)。
以上により、各制御周期で、無入力状態が確定したか否かが決まる。
【0079】
次に、時間判定部506aでは、
図8に示すように、第1フラグF1が0か否かを判定し(ステップC10)、第1フラグF1が0ならば、パルス信号の入力があり(パルス信号あり)か否かを判定する(ステップC20)。ここで、パルス信号ありならば、パルス信号の無入力状態から入力状態に切り替わったこととなり、入力後タイマ(カウント値はTC2)のカウントを行ない(ステップC30)、入力後タイマのカウント値TC2が、基準時間T
S1に対応する入力後基準カウント値TC
S1以上になったかを判定する(ステップC40)。
【0080】
カウント値TC2が入力後基準カウント値TC
S1未満になったら、第2フラグF2を1とし(ステップC50)、カウント値TC2を0にリセットする(ステップC60)。第2フラグF2は、「1」で経過時間が基準時間T
S1内であることを示し、「0」でパルス信号なし又は経過時間が基準時間T
S1以上であることを示す。
【0081】
カウント値TC2が入力後基準カウント値TC
S1以上ならば、ステップC40からリターンする。
一方、第1フラグF1が0でない場合やパルス信号の入力がない場合は、第2フラグF2を0とし(ステップC70)、カウント値TC2を0にリセットする(ステップC60)。
【0082】
次に、演算操作部508による処理は、
図9に示すように、まず、第2フラグF2が1、即ち、経過時間が基準時間T
S1内であるか否か否かを判定し(ステップD10)、第2フラグF2が1(経過時間が基準時間T
S1内)ならば、パルス周期から瞬時回転速度Nmを演算する(ステップD20)。次に、瞬時回転速度Nmを第1基準速度N
S1及び第2基準速度N
S2と比較判定する(ステップD30,D40)。
【0083】
瞬時回転速度Nmが第2基準速度N
S2以上のゾーンにあれば、処理A(前回の処理後回転速度Nfを保持)を実施し(ステップD50)、瞬時回転速度Nmが第1基準速度N
S2と第2基準速度N
S2との間のゾーンにあれば、処理B(その後、パルス無入力なら瞬時回転速度Nmを0とする)を実施し(ステップD60)、瞬時回転速度Nmが第1基準速度N
S2以下のゾーンにあれば、処理C(車輪ロック対応制御ありの通常制御)を実施する(ステップD70)。また、その他、経過時間が基準時間T
S1外の場合も、処理C(車輪ロック対応制御ありの通常制御)を実施する(ステップD70)。
【0084】
次に、スリップ判定部501による処理は、
図10に示すように、車両100の停車時に、回転センサ52により検出されたCVT7の入力軸(プライマリ軸)の回転速度Nf(n)がスリップ判定速度N
SL以上であるか否かを判定し(ステップE10)、回転速度Nf(n)がスリップ判定速度N
SL以上であればスリップ判定タイマ(カウント値TC3)のカウントを実施する(ステップE20)。
【0085】
そして、スリップ判定タイマのカウント値TC3がスリップ判定時間T
SLに対応するスリップ判定カウント値TC
SL以上継続したか否かを判定し(ステップE30)、スリップ判定タイマのカウント値TC3がスリップ判定カウント値TC
SL以上継続するとCVT7にベルトスリップが生じていると判定する(ステップE40)。回転速度Nf(n)がスリップ判定速度N
SL以上でなければ、カウント値TC3を0にリセットする(ステップE50)。
【0086】
また、断線判定部502による処理は、
図11に示すように、まず、第3フラグF3が1であるか否かを判定する(ステップF10)。第3フラグF3は、処理後回転速度Nf(n)が断線判定回転速度N
SNを超えた場合に1とされ、その後、回転センサ52からのパルス信号の無入力状態を判定する際には1が保持され、断線判定後や、パルス信号の無入力状態の判定前にパルス信号の入力があり処理後回転速度Nf(n)が断線判定回転速度N
SNを超えない場合に0にリセットされる。
【0087】
第3フラグF3が1でなければ、処理後回転速度Nf(n)が断線判定回転速度N
SNを超えたか否かを判定する(ステップF20)。処理後回転速度Nf(n)が断線判定回転速度N
SNを超えた場合には、第3フラグF3を1として(ステップF30)、断線判定タイマ(カウント値TC4)のカウントを0から開始し(ステップF40)、リターンする。処理後回転速度Nfが断線判定回転速度N
SNを超えない場合には、断線判定タイマのカウント値TC4を0にリセットし(ステップF110)、第3フラグF3を0にリセットし(ステップF120)、リターンする。
【0088】
一方、第3フラグF3が1であれば、瞬時回転速度Nm(n)が0か否か、回転センサ52からのパルス信号が無入力であるか否かを判定する(ステップF50)。ここで、瞬時回転速度Nm(n)が0でなければ、ステップF20に進んで上記の処理を行なう。瞬時回転速度Nmが0であれば、断線判定タイマをカウントし(ステップF60)、断線判定タイマのカウント値TC4が無入力確定判定時間T
NIJに対応する無入力確定判定カウント値TC
N1J以上になったかを判定する(ステップB70)。
【0089】
断線判定タイマのカウント値TC4が無入力確定判定カウント値TC
N1J以上にならなければリターンし、断線判定タイマのカウント値TC4が無入力確定判定カウント値TC
N1J以上になったら、無入力状態が確定したものとして、回転センサ52が断線していると判定する(ステップF80)。その後、断線判定タイマのカウント値TC4を0にリセットし(ステップF90)、第3フラグF3を0にリセットして(ステップF100)、断線判定を終了する。
【0090】
こうして、処理後回転速度Nfや瞬時回転速度Nmに基づいて、CVT7のベルトスリップの判定や、回転センサ52の断線を判定するが、車輪ロック時に発生するパルス信号は無入力に対し、通常制御では、この車輪ロック時のパルス信号無入力を考慮して、パルス信号の無入力の継続が所定時間(車輪ロック対応時間)T
WL内であれば、パルス信号無入力の直前の回転速度を保持する車輪ロック対応処理をすることで、車輪ロックによるパルス信号無入力に起因した処理後回転速度の値に基づく判定やその他の制御への影響を回避することができる。
【0091】
一方、第2クラッチ6の解放時にパワープラントのトルクの急変動に起因したセンシングロータ52bの揺れ戻し動作による短周期のパルス信号が入力されることで、高速の瞬時回転速度Nmが演算された場合には、処理後回転速度Nfや瞬時回転速度Nmについて、特有の操作を行なうので誤判定が回避される。
【0092】
つまり、パワープラントのトルク急変動によるパルス信号の入力は、瞬時的なものなので、パルス信号が無入力状態から入力状態となってからの経過時間が
基準時間TS1に達するまでに限定される。そこで、経過時間が
基準時間TS1に達するまでに限定して、瞬時回転速度Nmを第1基準速度N
S1及び第2基準速度N
S2と比較し、瞬時回転速度Nmの大きさに応じて、処理A及び処理Bの特定の処理を行なう。
【0093】
瞬時回転速度Nmが通常発生し得ない第2基準速度N
S2以上のゾーン内の値になったら、トルク急変動によるパルス信号の入力と判断し、この瞬時回転速度は回転速度の演算にカウントしないで、直前の回転速度値を保持させる処理Aを行なう。これにより、過大な瞬時回転速度Nmによって誤って過大な処理後回転速度Nfを演算することが防止され、処理後回転速度Nfに基づく判定や制御への影響が回避される。特に、過大な処理後回転速度Nfは、断線判定回転速度N
SNを超える場合があるため、回転センサ52の断線を誤判定することが回避される。
【0094】
経過時間が
基準時間TS1に達するまでに、瞬時回転速度Nmが第1基準速度N
S1と第2基準速度N
S2との間のゾーンの値になったら、車輪ロック対応処理は行わず、パルス信号の無入力が発生すると即座に瞬時回転速度として0を回転速度演算手段に入力する処理Bを行なう。第1基準速度N
S1はスリップ判定速度N
SLよりもやや高い値なので、車輪ロック対応処理をすると、車輪ロック対応時間T
WLだけ直前の回転速度を保持するため、停車時に入力軸の回転速度がスリップ判定速度以上の状態がスリップ判定時間T
SL以上継続し、ベルトにスリップが生じていると誤判定する場合があるが、処理Bを行なうので、ベルトスリップの誤判定を回避することができる。
【0095】
(その他)
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、上記の実施形態を適宜変形したり、一部を採用したりして実施することができる。
例えば、上記の実施形態では、パワープラントがエンジン1とMG3とから構成されるが、パワープラントはこれに限定されない。少なくともパワープラントにクラッチを介して断接可能に入力軸が接続されたベルト式無段変速機であって、入力軸の回転速度を回転センサで検出し、停車時に入力軸の回転速度がスリップ判定速度N
SL以上の状態がスリップ判定時間T
SL以上継続するとベルト式無段変速機にベルトスリップが生じていると判定する車両において、回転センサから入力されるパルス信号を処理する際に広く適用いすることができる。
【0096】
また、回転センサはパルス信号を出力するものであれば電磁式のものに限るものではなき、例えば光学式のものなど種々の方式のものに広く適用できる。
なお、上記実施形態では言及していないが、本発明で着目するパルス入力時点が、回転センサの断線の判定中で断線確定前の場合には、正常なパルス判定があったものとして処理Cを実施することが好ましい。