特許第6027586号(P6027586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6027586マグネシウム合金製のダイカストホイール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027586
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】マグネシウム合金製のダイカストホイール
(51)【国際特許分類】
   B60B 1/08 20060101AFI20161107BHJP
【FI】
   B60B1/08
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-202355(P2014-202355)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68857(P2016-68857A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴晴
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−067268(JP,A)
【文献】 特開2003−320801(JP,A)
【文献】 特開2003−252001(JP,A)
【文献】 特開2010−083473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸が挿入される車軸挿入穴が形成された車軸挿入部と、
前記車軸挿入部から前記前記車軸挿入穴の中心軸の径方向に延びるスポーク部と、
前記中心軸の周方向に延びると共に環状に形成され、前記スポーク部に接続されたリム部と、
前記スポーク部と前記リム部の連結部と、を有し、
前記連結部には、
前記径方向については、前記車軸挿入部に面した前記リム部の内周面よりも前記車軸挿入部に近い位置に、前記中心軸に沿った軸方向については、前記リム部の形成範囲より狭い範囲に、前記スポーク部の延びる方向と交差するように形成された底面部が形成されていると共に、
前記底面部における前記周方向についての両端部から、前記リム部における前記周方向について前記底面部から離隔した部分まで、前記周方向について互いに離隔する方向に延びる第1及び第2の斜面部と、前記底面部における前記軸方向についての両端部から、前記リム部における前記軸方向について前記底面部から離隔した部分まで、前記軸方向について互いに離隔する方向に延びる第3及び第4の斜面部とが、前記径方向と直交する前記連結部の断面の面積が前記リム部に近い断面ほど大きくなり、且つ、4つの斜面部のいずれも前記リム部に向かって凹んで滑らかに湾曲しつつ前記リム部に向かって延びるように形成されていることを特徴とするマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【請求項2】
前記スポーク部が、前記周方向についての前記底面部の一端部及び他端部にそれぞれ接続され、前記軸方向に延びた2枚の板部を有していることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【請求項3】
前記第1及び第2の斜面部が、前記周方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記周方向と直交する平面について対称であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【請求項4】
前記第3及び第4の斜面部が、前記軸方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記軸方向と直交する平面について対称であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【請求項5】
前記第1及び第2の斜面部が、前記周方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記周方向と直交する平面について非対称であることを特徴とする請求項1、2又は4に記載のマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【請求項6】
前記第3及び第4の斜面部が、前記軸方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記軸方向と直交する平面について非対称であることを特徴とする請求項1、2、3又は5に記載のマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【請求項7】
前記車軸挿入部には、前記軸方向に沿った2方向のうちの一方向に向かって開口した第1の凹部と、前記2方向のうちの他方向に向かって開口した第2の凹部とが、前記周方向及び前記径方向の少なくともいずれかについて並ぶように形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【請求項8】
前記スポーク部が、前記軸方向について前記リム部の中央部に配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のマグネシウム合金製のダイカストホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金製のダイカストホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のように、マグネシウム合金製のホイールを、ダイカスト鋳造を用いて製造することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−118684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイカスト鋳造によると、重力鋳造などと比べて製造時間を短くできるので、生産性の向上が期待される。しかしながら、ダイカスト鋳造を用いてマグネシウム合金製のホイールを製造すると、鋳造品質を確保しにくくなる場合がある。特に、リム幅が広い場合、リム部に均一に溶湯を充填させることが難しいため、鋳造品質を確保しにくくなるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、製造時間を短くしつつ鋳造品質を向上させることによって生産性を高めたマグネシウム合金製のダイカストホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマグネシウム合金製のダイカストホイールは、車軸が挿入される車軸挿入穴が形成された車軸挿入部と、前記車軸挿入部から前記前記車軸挿入穴の中心軸の径方向に延びるスポーク部と、前記中心軸の周方向に延びると共に環状に形成され、前記スポーク部に接続されたリム部と、前記スポーク部と前記リム部の連結部と、を有し、前記連結部には、前記径方向については、前記車軸挿入部に面した前記リム部の内周面よりも前記車軸挿入部に近い位置に、前記中心軸に沿った軸方向については、前記リム部の形成範囲より狭い範囲に、前記スポーク部の延びる方向と交差するように形成された底面部が形成されていると共に、前記底面部における前記周方向についての両端部から、前記リム部における前記周方向について前記底面部から離隔した部分まで、前記周方向について互いに離隔する方向に延びる第1及び第2の斜面部と、前記底面部における前記軸方向についての両端部から、前記リム部における前記軸方向について前記底面部から離隔した部分まで、前記軸方向について互いに離隔する方向に延びる第3及び第4の斜面部とが、前記径方向と直交する前記連結部の断面の面積が前記リム部に近い断面ほど大きくなり、且つ、4つの斜面部のいずれも前記リム部に向かって凹んで滑らかに湾曲しつつ前記リム部に向かって延びるように形成されている。
【0007】
本発明者は、マグネシウム合金製のホイールをダイカスト鋳造で製造する際にリム部の鋳造品質を向上する方法を研究した。その結果、リム部の品質上の課題は、溶湯を均一に行き渡らせることが難しいことから生じることが分かった。リム部に溶湯が均一に行き渡らないと、リム部全体の鋳造品質を向上しにくいためである。
【0008】
また、リム部に品質上の課題が生じる別の事象として、リム部に引け巣が発生してそこから空気が漏れるおそれがあることが分かった。ダイカスト鋳造において溶湯を注入してから溶湯が凝固するまでの時間にはリム部の部位によって差がある。凝固が遅い部位では、引け巣が発生する場合がある。
【0009】
さらに研究を進めたところ、リム部とスポーク部の連結箇所において、このような引け巣が起こりやすいことが分かった。これは、スポーク部からリム部に溶湯が流れ込む際、リム部とスポーク部の連結箇所で断面積が急激に変化すると、溶湯の流れに乱れが生じる場合があるからである。アルミニウムのダイカスト鋳造よりも鋳造限界速度の速いマグネシウムのダイカスト鋳造では、生産性を高めるために、アルミニウムの場合よりも速く溶湯を流すので、このような溶湯の乱れが生じやすい。一方、鋳造速度を遅くすると、マグネシウムは凝固速度が速いため、完全に充填される前に凝固してしまう。
【0010】
そこで、本発明者は、車軸挿入部から延びたスポーク部とリム部の連結部として、上記のような底面部及び第1〜第4の斜面部を設けることにより、溶湯の流れを制御して、引け巣を抑制するようにした。つまり、スポーク部からリム部へと溶湯を流すに当たって、スポーク部からの溶湯を底面部で一旦受けてから第1〜第4の斜面部に流すこととした。底面部は、スポーク部と交差し、且つ、リム部より軸方向に狭くなるように形成されている。また、第1及び第2の斜面部は、底面部の両端部からリム部まで、周方向について互いに離隔する方向に延びている。さらに、第3及び第4の斜面部は、底面部の両端部からリム部まで、軸方向について互いに離隔する方向に延びている。つまり、第1〜第4の斜面部は、スポーク部からリム部に向かって周方向及び軸方向の両方向に広がるように形成されている。したがって、スポーク部からの溶湯は、径方向と直交する断面の面積が比較的小さい底面部によって受けられた後、第1〜第4の斜面部において周方向及び軸方向の両方向に広がるようにリム部へと流れ込む。第1〜第4の斜面部においては、径方向と直交する連結部の断面の面積がリム部に近づくほど大きくなる。
【0011】
以上により、スポーク部からリム部へと溶湯を流す際、連結部において流れの方向を制御しつつ、流れに対する断面の変化を緩やかにすることができる。このため、スポーク部から連結部を通じてリム部へと溶湯を均一に行き渡らせることができる。また、溶湯の流れに乱れが生じるのを抑制し、もって引け巣を抑制することができる。これらにより、リム部全体の鋳造品質を向上し、生産性を向上することが可能である。
【0012】
また、本発明においては、前記スポーク部が、前記周方向についての前記底面部の一端部及び他端部にそれぞれ接続され、前記軸方向に延びた2枚の板部を有していることが好ましい。
【0013】
これによると、2枚の板部を流れる溶湯を底面部の両端部から第1及び第2の斜面部へと円滑に流し込むことができる。
【0014】
また、本発明においては、前記第1及び第2の斜面部が、前記周方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記周方向と直交する平面について対称であってもよい。
【0015】
これによると、スポーク部からの溶湯を第1及び第2の斜面部のそれぞれに均等に流し込むことができる。
【0016】
また、本発明においては、前記第3及び第4の斜面部が、前記軸方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記軸方向と直交する平面について対称であってもよい。
【0017】
これによると、スポーク部からの溶湯を第3及び第4の斜面部のそれぞれに均等に流し込むことができる。
【0018】
また、本発明においては、前記第1及び第2の斜面部が、前記周方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記周方向と直交する平面について非対称であってもよい。
【0019】
これによると、周方向についてのスポーク部の位置等に合わせて溶湯の流れを非対称に制御するように第1及び第2の斜面部の形状を調整できる。
【0020】
また、本発明においては、前記第3及び第4の斜面部が、前記軸方向について前記底面部の中央部を通る平面であって前記軸方向と直交する平面について非対称であってもよい。
【0021】
これによると、軸方向についてのスポーク部の位置等に合わせて溶湯の流れを非対称に制御するように第3及び第4の斜面部の形状を調整できる。
【0022】
また、本発明においては、前記車軸挿入部には、前記軸方向に沿った2方向のうちの一方向に向かって開口した第1の凹部と、前記2方向のうちの他方向に向かって開口した第2の凹部とが、前記周方向及び前記径方向の少なくともいずれかについて並ぶように形成されていることが好ましい。
【0023】
これによると、互いに隣り合う第1及び第2の凹部によって効率的に軽量化できる。
【0024】
また、本発明においては、前記スポーク部が、前記軸方向について前記リム部の中央部に配置されていてもよい。
【0025】
これによると、リム部の中心にスポーク部が配置されているので、スポーク部からリム部へと溶湯を均等に流し込みやすい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
図2図1の自動二輪車用に用いられるホイールの左側面図である。
図3図2のホイールの斜視図である。
図4図1のホイールの平面図である。
図5図2のV−V線端面図である。
図6図6(a)は、図2のVIa−VIa線端面図である。図6(b)は、図6(a)のB−B線端面図である。図6(c)は、図6(a)のC−C線端面図である。
図7図7(a)は、図6(a)の部分拡大図である。図7(b)は、図6(b)の部分拡大図である。図7(c)は、車軸挿入部から見た連結部の斜視図である。
図8図8(a)及び図8(b)は、径方向についての位置が互いに異なる、径方向と直交する切断面についての連結部の断面図である。
図9】ホイールのダイカスト鋳造において用いられる鋳型の正面図である。破線は金型の内部に形成される構造を示す。
図10図10(a)は、変形例に係る連結部の端面図であって、図7(a)に対応する図である。図10(b)は、変形例に係る連結部の端面図であって、図7(b)に対応する図である。
図11図11(a)は、別の変形例に係る連結部の斜視図である。図11(b)は図11(a)のXIb−XIb線端面図である。図11(c)は、さらに別の変形例に係る連結部の斜視図である。図11(c)は図11(c)のXId−XId線端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、自動二輪車1を例に挙げて説明する。自動二輪車1には、本発明に係るマグネシウム合金製のダイカストホイールが採用されたホイール100が設けられている。
【0028】
なお、以下の説明において、前後方向とは、自動二輪車1の後述するライダーシート11に着座したライダーRから視たときの車両前後方向のことである。左右方向とは、ライダーシート11に着座したライダーRから視たときの車両左右方向(車幅方向)のことである。図中の矢印F方向と矢印B方向は、前方と後方を表している。図中の矢印L方向と矢印R方向は、右方と左方を表している。図2以降において、前後左右上下の各方向は、ホイール100が自動二輪車1に設けられた状態での方向に対応する。
【0029】
図1に示すように、自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、車体フレーム4と、ライダーシート11とを備えている。車体フレーム4のライダーシート11より前方の部分には、ハンドルユニット9が設けられている。ハンドルユニット9の右端部にはグリップ9Rが、左端部にはグリップ9Lがそれぞれ設けられている。なお、図1にはグリップ9Lのみが図示されている。グリップ9Rは左右方向にグリップ9Lの反対側に配置されている。グリップ9Rは、アクセルグリップである。グリップ9Rの近くにはブレーキレバーが取り付けられている。グリップ9Lの近くにはクラッチレバー10が取り付けられている。ハンドルユニット9には、フロントフォーク7の上端部が固定されている。このフロントフォーク7の下端部には、左右方向に沿って延びる車軸17が固定されている。車軸17には前輪2が支持されている。前輪2は、ホイール100とホイール100の外周に取り付けられたタイヤ2aとを有している。
【0030】
車体フレーム4の下部には、スイングアーム12の前端部が揺動可能に支持されている。このスイングアーム12の後端部は、後輪3を支持している。スイングアーム12の揺動中心と異なる箇所と車体フレーム4とは、上下方向の衝撃を吸収するリアサスペンションを介して接続されている。
【0031】
車体フレーム4は、水冷式のエンジン13を支持している。なお、エンジン13は、空冷式であってもよい。車体フレーム4は、エンジン13を直接支持していてもよいし、他の部材を介して間接的に支持していてもよい。エンジン13の上方には、燃料タンク14が配置されている。
【0032】
エンジン13の後方には、複数段の変速ギヤを有するトランスミッションが配置されている。エンジン13の駆動力は、トランスミッションおよびチェーン26を介して後輪3に伝達される。トランスミッションの左側には、トランスミッションのギヤを切り換えるためのシフトペダル24が設けられている。車体フレーム4の両側方であって後輪3のやや前方にはフットレスト23が設けられている。ライダーRは、乗車中、フットレスト23に両足を載せる。
【0033】
前輪2の上方であってグリップ9R及び9Lの前方には、フロントカウル15が配置されている。前後方向にフロントカウル15とグリップ9R及び9Lとの間にはメーターユニット16が配置されている。メーターユニット16は、表示面が後方かつ上方を向くように、前後方向と上下方向に対して傾斜して配置されている。表示面には、車速やエンジン回転数、車両の状態、走行距離、時計、計測時間などが表示される。
【0034】
以下、本発明におけるマグネシウム合金製のダイカストホイールが採用されたホイール100について、図2図6を参照しつつより詳細に説明する。ホイール100は、マグネシウム合金から形成されている。ここでのマグネシウム合金は、4.0重量%以上のマグネシウムを含む合金を示す。ホイール100は、ダイカスト鋳造法により一体的に鋳造されている。ダイカスト鋳造の詳細については後述する。

【0035】
ホイール100は、図2図4に示すように、車軸17が挿入される車軸挿入穴111aが形成された車軸挿入部110と、車軸挿入部110から車軸挿入穴111aの中心軸の径方向(以下、単に「径方向」とする)に延びた複数のスポーク部150と、スポーク部150と接続されたリム部140とを有している。車軸挿入穴111aの中心軸に沿った軸方向は左右方向と平行である。なお、本明細書において「径方向に延びる」とは、車軸挿入穴111aの中心軸を通る厳密な径方向(例えば、図2に示す径方向)に沿って延びる場合に限られない。厳密な径方向に対して傾斜した方向に沿って車軸挿入部110からリム部140に向かって延びる場合も「径方向に延びる」に含まれる。つまり、車軸挿入穴111aの中心軸を通らない直線に沿って車軸挿入部110からリム部140に向かって延びる場合も「径方向に延びる」に含まれる。
【0036】
車軸挿入部110の中央部には、図2に示すように、車軸挿入穴111aが内部に形成されたボス部111が設けられている。ボス部111は円筒形状を有している。車軸挿入部110には、ブレーキディスクブラケット固定用の5つのボルト穴112がボス部111の周囲に形成されている。なお、このボルト穴は3つから6つでもよい。
【0037】
車軸挿入部110は、リム部140に向かって径方向に突出した5つの突出部110aを有する円盤形の概略形状を有している。5つの突出部110aは、スポーク部150と接続されている。突出部110aには、図5に示すように、左方に向かって開口した凹部113及び右方に向かって開口した凹部114が形成されている。凹部113は、左方の部分ほど周方向についての幅が大きい。凹部114は、右方の部分ほど周方向についての幅が大きい。
【0038】
各突出部110aからは、図2及び図3に示すように、リム部140に向かって径方向に2本のスポーク部150が延びている。突出部110a及びこれと接続された2本のスポーク部150からなる領域(図2の二点鎖線Qで囲まれた領域)は、ボス部111からリム部140に向かってY字型に形成されている。以下、この領域を領域Qとする。ホイール100には合計で5つの領域Qが形成されている。これらの領域Qは、周方向については等間隔に、径方向については同じ位置に配置されている。領域Qにおいて、左方に面した表面部は、図2に示す径方向に沿った直線Pについて、凹部113を除いてほぼ対称である。領域Qにおいて、2本のスポーク部150の間には、図2において角の丸い三角形の概略形状を有する空間を規定する縁部150a(二点鎖線で囲まれた部分)が形成されている。隣り合う2つの領域Qのスポーク部150同士の間には、図2において角の丸い多角形の概略形状を有する空間を規定する縁部150bが形成されている。このように、全体で10本のスポーク部150が、車軸挿入穴111aの中心軸の周方向(以下、単に「周方向」とする)について互いに間隔を空けて配置されている。
【0039】
各スポーク部150は、図2及び図6(a)〜図6(c)に示すように、突出部110aからリム部140に向かって延びた2枚の板部151と、2枚の板部151の間において、2枚の板部151の一方から他方まで延びた板部152とを有している。各板部151は、左右方向に沿って延びている。板部152は、前後方向に沿って延びていると共に、突出部110aからリム部140に向かって延びている。板部152は、左右方向について、板部151の両端のいずれからも離れた位置に配置されている。
【0040】
リム部140は、周方向に延びると共に環状に形成されている。リム部140の左右方向についての幅Wは比較的大きい。例えば、125mm(5インチ)程度である。なお、幅Wがこれ以外の大きさであってもよい。リム部140の左右方向についての両端部143は、車軸挿入部110に向かう方向とは反対方向に突出している。リム部140の厚みt1は、例えば3.8mm〜4.5mmである。なお、厚みt1がこれ以外の大きさであってもよい。リム部140には、径方向に車軸挿入部110から遠い表面であって、両端部143の一方の先端から他方の先端までの範囲(図6(a)の矢印w1によって示される範囲)を有する面にタイヤ2aが取り付けられる。以下、この表面を取り付け面140aとする。リム部140において、径方向について反対側の表面であって、両端部143の一方の根元から他方の根元までの範囲(図6(a)の矢印w2によって示される範囲)を有する面を内周面140bとする。内周面140bは、車軸挿入部110に面している。内周面140bの左右方向について中央部には各スポーク部150が接続されている。
【0041】
ところで、マグネシウム合金製のホイールをダイカスト鋳造で製造すると、重力鋳造等で製造する場合と比べ、製造時間を短くできる。したがって、生産性を高めることができると期待される。しかしながら、マグネシウム合金製のホイールをダイカスト鋳造で製造すると、リム部の品質が低下する割合が比較的高くなる場合があることが本発明者によって確認された。不良が発生した製品は出荷対象としないため、不良が発生する割合が高くなると、生産量の低下につながる。したがって、リム部の品質が低下すると、ダイカスト鋳造を用いたにもかかわらず、生産性を向上できないおそれがある。
【0042】
そこで、本発明者がリム部の鋳造品質を向上する方法を研究したところ、リム部の品質上の課題は、ダイカスト鋳造の際にリム部に溶湯を均等に行き渡らせることが難しいことから生じることが分かった。リム部に溶湯が均等に行き渡らないと、リム部全体の鋳造品質を向上しにくいためである。
【0043】
また、リム部に品質上の課題が生じる別の事象として、リム部に引け巣が発生してそこから空気が漏れるおそれがあることが分かった。ダイカスト鋳造において溶湯を注入してから溶湯が凝固するまでの時間にはリム部の部位によって差がある。凝固が遅い部位では、引け巣が発生する場合がある。
【0044】
さらに研究を進めたところ、リム部とスポーク部の連結箇所において、このような引け巣が起こりやすいことが分かった。これは、スポーク部からリム部に溶湯が流れ込む際、リム部とスポーク部の連結箇所で断面積が急激に変化すると、溶湯の流れに乱れが生じる場合があるからである。アルミニウムのダイカスト鋳造よりも鋳造限界速度の速いマグネシウムのダイカスト鋳造では、生産性を高めるために、アルミニウムの場合よりも速く溶湯を流すので、このような溶湯の乱れが生じやすい。一方、鋳造速度を遅くすると、マグネシウムは凝固速度が速いため、完全に充填される前に凝固してしまう。
【0045】
そこで、本実施形態においては、リム部の鋳造品質を向上するために、リム部140とスポーク部150の間に、これらを連結する以下のような連結部160を設けることとした。以下、連結部160について、図6(a)、図6(b)、図7(a)〜図7(c)及び図8に従って説明する。
【0046】
連結部160は、リム部140とスポーク部150の間に設けられている。連結部160は、1つの底面部161、2つの斜面部162及び2つの斜面部163を有している。底面部161は、リム部140の内周面140bによりも径方向について車軸挿入部110に近い位置に配置されている。また、底面部161は、左右方向についてリム部140の内周面140bより狭い範囲に形成されている。底面部161は、スポーク部150が延びる方向(径方向)に交差するように、左右方向に沿って延びている。底面部161の厚みt2は、リム部140の厚みt1未満とすることが好ましい。例えば、厚みt2は3.8〜4.5mmの範囲内である。なお、厚みt2は、これ以外の大きさであってもよい。底面部161において、車軸挿入部110に面した表面161aは、径方向に交差する方向に沿ってほぼ平らに形成されている。表面161aは矩形の概略形状を有している。表面161aには、スポーク部150を構成する2枚の板部151及び板部152が接続されている。図7(c)の領域T1及びT2並びにSは、2枚の板部151及び板部152が接続されている領域を示している。2枚の板部151は、表面161aの周方向についての両端部に接続されている。板部152は、表面161aの左右方向についての中央部に接続されている。表面161aの左右方向についての幅Vは、リム部140の幅Wの5%以上であって30%未満の大きさであることが好ましい。なお、幅Vは、これ以外の大きさであってもよい。
【0047】
2つの斜面部162は底面部161の周方向についての両端部からリム部140まで延びている。各斜面部162は、その一端部162aにおいて、底面部161の周方向についての端部と繋がっている。各斜面部162の他端部162bは、底面部161から周方向について離隔した位置においてリム部140と繋がっている。2つの斜面部162は、底面部161からリム部140まで、周方向について互いに離隔する方向に延びている。つまり、2つの斜面部162は、リム部140に近い部分ほど周方向について互いの離隔距離が大きくなるように延びている。このように、2つの斜面部162は、スポーク部150からリム部140に向かって周方向について広がるように形成されている。2つの斜面部162同士は、図7(b)の平面C2について対称である。平面C2は、周方向について底面部161の中央部を通り、周方向と直交している。斜面部162の表面162cはR状に滑らかに湾曲した斜面を形成している。この表面162cは、スポーク部150の板部151の表面151aと滑らかに繋がっていると共に、リム部140の内周面140bと滑らかに繋がっている。
【0048】
2つの斜面部163は底面部161の左右方向についての両端部からリム部140まで延びている。各斜面部163は、その一端部163aにおいて、底面部161の左右方向についての端部と繋がっている。斜面部163の一端部163aと底面部161の間の鋭角の大きさθは、5°〜45°の範囲であればよい。なお、θがこれ以外の大きさであってもよい。各斜面部163の他端部163bは、底面部161から左右方向について離隔した位置においてリム部140と繋がっている。2つの斜面部163は、底面部161からリム部140まで、左右方向について互いに離隔する方向に延びている。つまり、2つの斜面部163は、リム部140に近い部分ほど左右方向について互いの離隔距離が大きくなるように延びている。このように、2つの斜面部163は、スポーク部150からリム部140に向かって軸方向について広がるように形成されている。2つの斜面部163同士は、図7(a)の平面C1について対称である。平面C1は、左右方向について底面部161の中央部を通り、左右方向と直交している。斜面部163の表面163cはR状に滑らかに湾曲した斜面を形成している。この表面163cは、スポーク部150の板部151における左右方向についての両端面151bと滑らかに繋がっていると共に、リム部140の内周面140bと滑らかに繋がっている。
【0049】
連結部160は、車軸挿入部110から見ると、図7(c)に示すように、表面161aを頂面とし、表面162c及び表面163cを壁面とする角錐台の概略形状を有している。表面162cは周方向について、表面163cは左右方向についてそれぞれ凹むように湾曲している。また、連結部160は、径方向についてリム部140より外側から見ると、図3及び図4に示すように、リム部140の外周面140aから車軸挿入部110に向かって、角錐台の概略形状を有するように凹んだ凹部160aとして表れる。連結部160において、2つの斜面部162及び2つの斜面部163からなる領域は、径方向と直交する断面の面積が、リム部140に近づくほど(車軸挿入部110から遠ざかるほど)大きくなるような形状を有している。図8(a)及び図8(b)はいずれも、径方向と直交する方向についての連結部160の断面を示している。図8(b)の断面は、図8(a)の断面よりリム部140に近い位置の断面である。図8(b)の断面の面積は、図8(a)の断面の面積より大きい。
【0050】
以下、本実施形態のホイール100の鋳造方法について図9を参照しつつ説明する。本鋳造方法では、図9に示す鋳型200を用いてダイカスト鋳造を行う。鋳型200は、金型201の内部において、ホイール100の形状に対応した形状に形成されている。鋳型200における車軸挿入部110に対応する領域200aには、マグネシウム合金の溶湯を注入する注入路202が接続されている。つまり、本実施形態のホイール100は、車軸挿入部110に溶湯の注入口が設定されている。注入路202には、スリーブを介して溶湯に圧力を加えるピストン205とロッド、シリンダが接続されている。鋳型200の周囲には、鋳型200に流し込まれた溶湯のうちの内部品質の悪い部分を排出するオーバーフロー203が形成されている。オーバーフロー203は、鋳型200におけるリム部140に対応する領域200cに接続されている。オーバーフロー203は、ホイール100の周方向に対応する方向について、鋳型200におけるスポーク部150に対応する領域200b同士の間に配置されている。オーバーフロー203はさらに排出路204に接続されている。排出路204は金型201の外部へと金型内の空気と内部品質の悪い溶湯を排出するための流路である。
【0051】
図9の太い黒矢印は、溶湯の流れの一例を示している。ピストン205に溶湯が注入された後、ピストン205によって溶湯に圧力が印加される。これにより、ピストン205から注入路202を介して鋳型200内に溶湯が注入される。溶湯は、鋳型200において領域200aから領域200bへと流入する。領域200bでは、溶湯は、2枚の板部151及び1枚の板部152に対応する3つの経路を通る。そして、溶湯は、領域200bから、連結部160に対応する領域200xへと流れ込む。領域200xでは、領域200bからの溶湯を、底面部161に対応する領域に一旦受け取る。板部151に対応する経路からの溶湯は、底面部161の周方向について端部に対応する領域に流れ込む。板部152に対応する経路からの溶湯は、底面部161の左右方向について端部に対応する領域に流れ込む。そして、底面部161に対応する領域に流れ込んだ溶湯は、さらにそこから斜面部162及び163に対応する領域に沿って、領域200cに向かって流れる。領域200cにおいては、溶湯は周方向について2方向に分岐し、オーバーフロー203から排出される。これによって鋳型200内に存在する空気等が溶湯と共に排出される。
【0052】
ダイカスト鋳造において溶湯を流す速度は、重力鋳造法などの他の鋳造法と比べて速い。また、マグネシウム合金は、アルミニウム合金と比べて凝固時間が短い一方で、金型への焼き付きが生じにくいため、速い速度で溶湯を流すことができる。このため、本実施形態においても、アルミニウム合金を用いる場合と比べて高速で溶湯を流す。ダイカスト鋳造後の半製品には、適宜、熱処理が施される。
【0053】
かかるダイカスト鋳造後の領域200a、領域200b及び領域200cにおける材料の組成には以下の相違点が生じる。まず、注入路202に近い領域200aは、高い温度の注湯が冷え固まることにより、比較的大きな結晶粒が形成されることになる。一方、注入路202から離れた領域200b及び領域200cにおいては到達時の注湯の温度が低くなる。このため、これらの領域では、領域200aに比べて低い温度の注湯が冷え固まることで、比較的小さな結晶粒が形成されることになる。注入路202から遠く離れた位置ほど到達時の注湯の温度が低くなるため、結晶粒が小さく形成される傾向になる。例えば、領域200aにおける結晶粒の大きさの平均は、領域200bや領域200cにおける結晶粒の大きさの平均より大きい。
【0054】
以上説明した本実施形態によると、スポーク部150とリム部140の連結部160として、底面部161並びに斜面部162及び163を設けることにより、ダイカスト鋳造を実施する際に、溶湯の流れを制御して、引け巣を抑制するようにした。
【0055】
つまり、鋳型200において、スポーク部150に対応する領域200bからリム部140に対応する領域200cへと溶湯を流すに当たって、領域200bからの溶湯を領域200xにおける底面部161に対応する領域で一旦受ける。そして、そこから溶湯を斜面部162及び163に対応する領域に流すこととした。ホイール100において、底面部161は、スポーク部150と交差し、且つ、リム部140より左右方向に狭くなるように形成されている。また、2つの斜面部162は、底面部161の両端部からリム部140まで、周方向について互いに離隔する方向に延びている。さらに、2つの斜面部163は、底面部161の両端部からリム部140まで、軸方向について互いに離隔する方向に延びている。つまり、斜面部162及び163は、スポーク部150からリム部140に向かって周方向及び軸方向の両方向に広がるように形成されている。
【0056】
したがって、領域200bからの溶湯は、径方向と直交する断面の面積が比較的小さい底面部161に対応する領域によって受けられた後、斜面部162及び162に対応する領域において周方向及び軸方向の両方向に広がるように流れの方向を制御されつつ、領域200cへと流れ込む。斜面部162及び163に対応する領域において、径方向と直交する方向に沿った断面についての領域200xの断面積は、領域200cに近づくほど大きくなる。つまり、斜面部162及び163に対応する領域における溶湯の流路は、領域200cに近づくにつれて徐々に断面積が大きくなっていく。
【0057】
以上により、鋳型200において、領域200bから領域200cへと溶湯を流す際、領域200xにおいて流れの方向を制御しつつ、流れに対する断面の変化を緩やかにすることができる。このため、領域200bから領域200cへの流入口において、領域200xを通じて溶湯を均等に流すことができる。これによって、領域200cにおいて溶湯を均一に行き渡らせることができる。また、溶湯の流れに乱れが生じるのを抑制し、もって引け巣を抑制することができる。これらにより、リム部140全体の鋳造品質を向上し、生産性を向上することが可能である。
【0058】
また、本実施形態においては、スポーク部150の2枚の板部151が、周方向についての底面部161の両端部に接続されている。したがって、鋳型200において、2枚の板部151に対応する領域を流れる溶湯を、底面部161に対応する領域の両端部から斜面部162及び163に対応する領域へと円滑に流し込むことができる。さらに、斜面部162及び163の表面162c及び163cは、それぞれ、板部151の表面151aと滑らかに繋がっている。したがって、板部151に対応する領域から斜面部162及び163に対応する各領域へと、溶湯が円滑に流れ込む。さらに、表面162c及び163cはリム部140の内周面140bと円滑に繋がっている。このため、斜面部162及び163に対応する各領域から領域200cにも、溶湯が円滑に流れ込む。
【0059】
また、本実施形態においては、2つの斜面部162が平面C2について対称である。したがって、領域200bからの溶湯を2つの斜面部162に対応する領域のそれぞれに均等に流し込むことができる。
【0060】
また、本実施形態においては、2つの斜面部163が平面C1について対称である。したがって、領域200bからの溶湯を2つの斜面部163に対応する領域のそれぞれに均等に流し込むことができる。
【0061】
また、本実施形態においては、互いに周方向に隣り合う凹部113及び114が形成されている。したがって、車軸挿入部110を効率的に軽量化できる。また、凹部113は左方に向かって広がっており、凹部114は右方に向かって広がっている。このため、ダイカスト鋳造の際に左右方向について一対の金型を使用する場合に、凹部113及び114のいずれにも抜き勾配が形成されていることになる。したがって、離型しやすくしつつ軽量化が可能である。
【0062】
また、本実施形態においては、スポーク部150が左右方向についてリム部140の中央部に配置されている。したがって、領域200bから領域200cへと、左右方向について溶湯を均等に流し込みやすい。
【0063】
また、本実施形態の底面部161は、厚みt2がリム部140の厚みt1より小さく構成されることにより、以下の通り、鋳造品質が向上する。底面部161に対応する領域は、ダイカスト鋳造の際、領域200bからの溶湯が直撃することで金型が加熱されやすい。したがって、底面部161に対応する領域はその他の領域と比べ、溶湯が凝固しにくい。これに対し、上記の通り、厚みt2を厚みt1より小さくすることで、底面部161に対応する領域が凝固するタイミングをリム部140に対応する領域が凝固するタイミングと合わせやすい。これにより、引け巣を抑制でき、もって、空気漏れを抑制できる。
【0064】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。また、上述の実施形態及び以下に説明する変形例は相互に組み合わせて実施することができる。なお、本明細書において「好ましい」という用語は非排他的なものであって、「好ましいが、これに限定されるものではない」ということを意味するものである。また、本明細書において「…してもよい」という用語は非排他的なものであって、「…してもよいが、これに限定されるものではない」ということを意味するものである。
【0065】
例えば、上述の実施形態の連結部160においては平面C2について2つの斜面部162が対称であり、平面C1について2つの斜面部163が対称である。しかし、このような対称性の高い連結部160の代わりに、斜面部が非対称に形成された連結部が採用されてもよい。
【0066】
図10(a)及び図10(b)に示す連結部260は、このような非対称な連結部の一例である。連結部260は、スポーク部150と接続された底面部261と、底面部261からリム部140まで延びた斜面部262〜265とを有している。斜面部262及び263は、周方向についての底面部261の両端部から、リム部140において周方向について底面部261から離隔した部分まで、湾曲しつつ延びている。斜面部262及び263は、径方向についてリム部140に近い部分ほど周方向について互いに離隔している。斜面部262及び263は平面C2について非対称である。平面C2は、周方向について底面部261の中央部を通り、周方向と直交している。斜面部264及び265は、左右方向についての底面部261の両端部から、リム部140において左右方向について底面部261から離隔した部分まで、湾曲しつつ延びている。斜面部264及び265は、径方向についてリム部140に近い部分ほど左右方向について互いに離隔している。斜面部264及び265は平面C1について非対称である。平面C1は、左右方向について底面部261の中央部を通り、左右方向と直交している。連結部260は、斜面部262〜265の領域において、径方向と直交する断面の面積がリム部140に近づくほど大きくなるように構成されている。
【0067】
連結部260のような非対称な連結部は、ダイカスト鋳造において、スポーク部150の領域からの溶湯をリム部140の領域へとむしろ不均等に流し込みたい場合に用いられる。連結部260のような非対称な連結部は、リム部140への溶湯の流入口においては溶湯の流れをむしろ不均等になるように制御した方が、最終的にリム部140に溶湯を均一に行き渡らせることができる場合に採用されてもよい。このような場合は、スポーク部150とリム部140の接続の態様によって生じることがある。例えば、リム部140へのスポーク部150の接続位置が周方向や左右方向について偏っていたり、スポーク部150の接続箇所の数に場所によって偏りが生じていたりする場合がこのような場合に相当する。斜面部262及び263が上記の通り互いに非対称に形成されていることにより、スポーク部150の周方向についての位置等に応じて溶湯の流れを非対称に制御できる。また、斜面部264及び265が上記の通り互いに非対称に形成されていることにより、スポーク部150の軸方向についての位置等に応じて溶湯の流れを非対称に制御できる。
【0068】
また、上述の実施形態の連結部160においては、底面部161の表面161aが矩形の概略形状を有している。しかし、底面部が矩形以外の形状を有する連結部が用いられてもよい。図11(a)及び図11(b)はそのような連結部の一例を示す。図11(a)及び図11(b)に示す連結部360は、六角形の概略形状を有する底面部361と、底面部361からリム部まで延びた2つの斜面部362及び2つの斜面部363とを有している。2つの斜面部362は、周方向についての底面部361の両端部から、リム部において周方向について底面部361から離隔した部分まで、湾曲しつつ延びている。2つの斜面部362は、径方向についてリム部に近い部分ほど周方向について互いに離隔している。2つの斜面部362は、軸C4を含むと共に周方向と直交する平面について対称である。軸C4は、周方向について底面部361の中央部を通り、周方向と直交している。2つの斜面部363は、左右方向についての底面部361の両端部から、リム部において左右方向について底面部361から離隔した部分まで、湾曲しつつ延びている。2つの斜面部363は、径方向についてリム部に近い部分ほど左右方向について互いに離隔している。2つの斜面部363は、軸C3を含むと共に左右方向と直交する平面について対称である。軸C3は、左右方向について底面部361の中央部を通り、左右方向と直交している。
【0069】
図11(c)及び図11(d)は、底面部が矩形以外の形状を有する連結部の別の一例を示す。図11(c)及び図11(d)に示す連結部460は、楕円形の概略形状を有する底面部461と、底面部461からリム部まで延びた2つの斜面部462及び2つの斜面部463とを有している。斜面部462及び463は、図11(c)の二点鎖線の曲線によって互いの境界が規定されている。斜面部462及び463同士は、上述の斜面部162及び163と異なり、この二点鎖線の曲線において互いに滑らかに繋がっている。このように、隣り合う斜面部が互いに滑らかに繋がっている場合も本発明の範囲に含まれる。この場合、2つの斜面部462のように、周方向についての底面部の両端部に繋がった2つの斜面部が、本発明の第1及び第2の斜面部に対応する。また、2つの斜面部463のように、左右方向についての底面部の両端部に繋がった2つの斜面部が、本発明の第3及び第4の斜面部に対応する。
【0070】
2つの斜面部462は、周方向についての底面部461の両端部から、リム部において周方向について底面部461から離隔した部分まで、湾曲しつつ延びている。2つの斜面部462は、径方向についてリム部に近い部分ほど周方向について互いに離隔している。2つの斜面部462は、軸C4を含むと共に周方向と直交する平面について対称である。軸C4は、周方向について底面部461の中央部を通り、周方向と直交している。2つの斜面部463は、左右方向についての底面部461の両端部から、リム部において左右方向について底面部461から離隔した部分まで、湾曲しつつ延びている。2つの斜面部463は、径方向についてリム部に近い部分ほど左右方向について互いに離隔している。2つの斜面部463は、軸C3を含むと共に左右方向と直交する平面について対称である。軸C3は、左右方向について底面部461の中央部を通り、左右方向と直交している。
【0071】
また、底面部は、連結部360及び460における楕円や六角形以外にも、八角形や十角形といったさまざまな多角形状に形成されてもよいし、円形に形成されてもよい。また、その他のさまざまな形状に形成されてもよい。
【0072】
また、上述の実施形態では、スポーク部150の板部151の表面151aと連結部160の斜面部162の表面162cとが滑らかに繋がっている(図7(b)参照)。つまり、板部151が、底面部161の表面161aにおける周方向についての端縁に接するように配置されている。しかし、板部151が、表面161aにおける周方向についての端縁から離れた位置に配置されていてもよい。このような構成も、本発明における「周方向についての底面部の一端部及び他端部に接続された板部」の範囲内である。ただし、この場合であっても、板部151は、表面161aにおける周方向についての端縁に近い位置に配置されていることが好ましい。例えば、周方向についての表面161aの中央部よりも上記端縁に近い位置に板部151が配置されていることが好ましい。これにより、ダイカスト鋳造の際に、板部151に対応する領域から斜面部162に対応する領域へと溶湯が円滑に流入する。
【0073】
また、上述の実施形態では、連結部160の底面部161の表面161aが平らに形成されている。しかし、底面部がスポーク部の延びる方向と交差してさえいれば、底面部の表面が湾曲していてもよいし、表面に凹凸が形成されていてもよい。
【0074】
また、上述の実施形態では、スポーク部150が左右方向についてリム部140の中央部に配置されている。しかし、スポーク部が左右方向についてリム部の中央部より左方又は右方に配置されているホイールに本発明が適用されてもよい。
【0075】
また、上述の実施形態の連結部160は、車軸挿入部110から見ると、表面162c及び163cが周方向及び左右方向について凹状に湾曲している。しかし、このような連結部160の代わりに、斜面部の表面が湾曲しておらず平らに形成された連結部や、斜面部の表面が周方向及び左右方向について凸状に湾曲した連結部が採用されてもよい。
【0076】
また、上述の実施形態では、車軸挿入部110において、左方に向かって開口した凹部113と右方に向かって開口した凹部114とが周方向に並ぶように形成されている。このような凹部が径方向に並ぶように形成されてもよい。つまり、左方に向かって開口した凹部と右方に向かって開口した凹部とが径方向に並ぶように形成されてもよい。これらの凹部は、凹部113及び114に代えて形成されてもよいし、凹部113及び114に加えて形成されてもよい。
【0077】
なお、本明細書において、「XがY方向に延びる」とは、XがY方向について連続して存在することを示す。また、「XがY1からY2まで延びる」とは、XがY1からY2まで連続して存在することを示す。
【0078】
また、本明細書において「径方向に延びる」とは、車軸挿入穴111aの中心軸を通る厳密な径方向(例えば、図2に示す径方向)に沿って延びる場合に限られない。厳密な径方向に対して傾斜した方向に沿って車軸挿入部110からリム部140に向かって延びる場合も「径方向に延びる」に含まれる。つまり、車軸挿入穴111aの中心軸を通らない直線に沿って車軸挿入部110からリム部140に向かって延びる場合も「径方向に延びる」に含まれる。
【0079】
本実施形態に係るホイール100を採用可能な車両は、上述の自動二輪車1に限定される訳ではない。ホイール100は、オフロード型、スクータ型、モペット型等の他の型式の自動二輪車に採用されてもよい。また、ホイール100は、三輪車、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))等の自動二輪車以外の鞍乗型車両に使用されてもよい。さらに、本発明に係るホイールが自動車の車輪に採用されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 自動二輪車
100 ホイール
110 車軸挿入部
111a 車軸挿入穴
140 リム部
140b リム部の内周面
150 スポーク部
151 板部
160 連結部
161 底面部
162 斜面部
163 斜面部
200 鋳型
260 連結部
261 底面部
262 斜面部
263 斜面部
264 斜面部
265 斜面部
360 連結部
361 底面部
362 斜面部
363 斜面部
460 連結部
461 底面部
462 斜面部
463 斜面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11