(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6027619
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】ホスファプラチン系抗腫瘍剤の大規模調製のための効率的プロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 209/66 20060101AFI20161107BHJP
C07C 211/65 20060101ALI20161107BHJP
C01B 25/42 20060101ALI20161107BHJP
C07F 15/00 20060101ALN20161107BHJP
【FI】
C07C209/66
C07C211/65
C01B25/42
!C07F15/00 F
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-534791(P2014-534791)
(86)(22)【出願日】2012年10月5日
(65)【公表番号】特表2014-534189(P2014-534189A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】US2012059016
(87)【国際公開番号】WO2013052839
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】61/543,540
(32)【優先日】2011年10月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514085193
【氏名又は名称】ラシンドラ・エヌ・ボーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】514085207
【氏名又は名称】シャディ・モガッダス
(73)【特許権者】
【識別番号】514085218
【氏名又は名称】ホマ・デズヴァレー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100162455
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 典子
(72)【発明者】
【氏名】ラシンドラ・エヌ・ボーズ
(72)【発明者】
【氏名】シャディ・モガッダス
(72)【発明者】
【氏名】ホマ・デズヴァレー
【審査官】
水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−120594(JP,A)
【文献】
特表2013−529219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C、C07F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファプラチン類を合成するためのプロセスであって、以下の工程:
6〜8.5のpHを有する飽和ピロホスフェート溶液を提供すること;
飽和ピロホスフェート溶液に白金錯体を添加すること;
このように得られた反応混合物を撹拌すること;
反応混合物のpHを2まで下げ、温度を0〜5℃まで下げることにより、反応混合物からホスファプラチン類を沈殿させ、ろ別すること;
反応混合物の温度を40℃に上げることにより二量体およびオリゴマー副産物を沈殿させ、ろ別すること;
pHを6〜8.5に再調整すること;および
反応混合物中の未反応のピロホスフェート配位子および白金錯体をその後のホスファプラチン類の合成反応において用いることを含む、前記プロセス。
【請求項2】
反応混合物を20℃〜60℃の温度で維持する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
反応混合物を20℃〜50℃の温度で維持する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
反応混合物がHNa3P2O7を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
ホスファプラチン類が一般式(I)を有するホスファプラチン類の1つまたはあらゆる組み合わせであり、
【化1】
ここでR1およびR2はアミン配位子であり、かつR3およびR4はアミンまたは他の単座配位子のどちらかである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
ホスファプラチン類がシス−、トランス−、ラセミ形態を含む、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
白金錯体を飽和ピロホスフェート溶液に添加する工程が、該白金錯体の全部が反応混合物中に溶解することを確実にする速度においてである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
反応混合物を撹拌する工程が、白金錯体の添加後に反応混合物を6〜15時間攪拌することを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
ホスファプラチン類を合成するためのプロセスであって、以下の工程:
20〜60℃の温度並びに6〜8.5のpHを有する飽和ピロホスフェート
溶液を提供すること;
飽和ピロホスフェート溶液に式PtA2X2(式中、Aは、不活性な単座配位子であるか、またはA2は、二座配位子であり、Xは置き換え可能な配位子である)の白金錯体を添加すること;
このように得られた反応混合物を撹拌すること;および
反応混合物のpHを2まで下げ、温度を0〜5℃まで下げることにより、ホスファプラチン類を沈殿させること、
ここで、合成されたホスファプラチン類は下記式:
【化2】
式中、R1およびR2はアミン配位子であり、かつR3およびR4はアミンまたは他の単座配位子のどちらかである
を有する;
を含む、前記プロセス。
【請求項10】
反応混合物を20℃〜50℃の温度で維持する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
反応混合物がHNa3P2O7を含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
ホスファプラチン類がシス−、トランス−、ラセミ形態を含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項13】
さらに反応混合物を白金錯体の添加後に6〜15時間攪拌することを含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項14】
さらに温度を40℃に上げることにより反応混合物から二量体およびオリゴマー副産物を沈殿させることを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項15】
さらに反応混合物中の未反応のピロホスフェート配位子および白金錯体をその後のホスファプラチン類の合成において用いることを含む、請求項9に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
[0001] この出願は2012年10月5日に出願された米国特許出願第13/922,917号および2011年10月5日に出願された米国仮出願第61/543,540号に対する優先権を主張し、その両方を参照によりそのまま本明細書に援用する。
【0002】
政府の資金提供
[0002] 該当なし
[0003] 本発明は、大規模産業生産に適用できるホスファプラチン(phosphaplatin)系抗腫瘍剤の生産のための効率的な合成および反応管理プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
[0004] ホスファプラチン類は、不活性なアミン配位子を含有するピロホスフェート配位白金(II)および白金(IV)錯体である(R. J. Mishur, et al., Synthesis and X-ray crystallographic Characterization of Monomeric Platinum(II)- and Platinum(IV)- Pyrophosphato Complexes, Inorg. Chem., 2008, 47, 7972-7982)。これらの化合物は、インビトロ(R. N. Bose, et al., Non-DNA Binding Platinum Anticancer Agents: Remarkable Cytotoxic Activities of Platinum-phosphato Complexes Towards Human Ovarian Cancer Cells, Proc. Natl. Acad. Sci., 2008, 105, 18314-18419)ならびにScidおよびヌードマウスを用いたインビボの実験(S. Moghaddas, et al., Superior Efficacy of Phosphaplatins: Novel Non-DNA-Binding Platinum Drugs for Human Ovarian Cancer, FASEB J., 2010, 24:527; S. Moghaddas, et al., Phosphaplatins, Next Generation Platinum Antitumor Agents: A Paradigm Shift in Designing and Defining Molecular Targets, Inorg. Chim. Acta., DOI, 10.1016/j.ica.2012.05.040, ISSN 0020-1693)の両方により実証されたように、様々なヒトの癌に対する優秀な抗腫瘍活性を示す。さらに、これらの化合物は他の白金系化学療法薬と比較して低減した毒性を示す。
【0004】
[0005] ホスファプラチン類を合成するための現在の方法は、その内容を参照によりそのまま本明細書に援用する公開された論文(R. J. Mishur, et al., Synthesis and X-ray crystallographic Characterization of Monomeric Platinum(II)- and Platinum(IV)- Pyrophosphato Complexes, Inorg. Chem., 2008, 47, 7972-7982)において、ならびに発行された、および係属中の特許出願(米国特許第7,700,649号;米国特許第8,034,964号;国際公開第2011/053365号)において記述されているように、少量の生成物を生成するために大きな反応体積を必要とする。これらの確立された方法は、出発する白金反応物の可溶性により制限されている。例えば、50〜70mgの量の(トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン)(二水素ピロホスファト)白金(II)錯体を生成するために、250mLの水溶液の出発体積が必要とされる。さらに、同じ量の化合物を沈殿させるために、元の体積を250mLから5mLまで低減する必要がある。従って、その合成を1キログラムのその化合物へとスケールアップするために、5000リットルの出発体積が必要である。また、その生成物を沈殿させるためにそのような大きい体積を5000Lから100Lまで低減するための費用はかなり大きい。第2に、報告された方法論は未反応の白金出発試薬および過剰なピロホスフェートを使用のために再利用しない。最後に、その確立された大量合成は、長い反応時間、通常は50〜70mgの材料の処理単位に関して12〜24時間を必要とする。従って、当技術において、かなり大きな量の化合物が必要であろう癌患者の処置および他の適用のための大量のホスファプラチン類を合成し、かつ最大収率のためにその反応物を最適に使用し、かつ反応時間を低減するプロセスに関する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,700,649号
【特許文献2】米国特許第8,034,964号
【特許文献3】国際公開第2011/053365号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. J. Mishur, et al., Synthesis and X-ray crystallographic Characterization of Monomeric Platinum(II)- and Platinum(IV)- Pyrophosphato Complexes, Inorg. Chem., 2008, 47, 7972-7982
【非特許文献2】R. N. Bose, et al., Non-DNA Binding Platinum Anticancer Agents: Remarkable Cytotoxic Activities of Platinum-phosphato Complexes Towards Human Ovarian Cancer Cells, Proc. Natl. Acad. Sci., 2008, 105, 18314-18419
【非特許文献3】S. Moghaddas, et al., Superior Efficacy of Phosphaplatins: Novel Non-DNA-Binding Platinum Drugs for Human Ovarian Cancer, FASEB J., 2010, 24:527
【非特許文献4】S. Moghaddas, et al., Phosphaplatins, Next Generation Platinum Antitumor Agents: A Paradigm Shift in Designing and Defining Molecular Targets, Inorg. Chim. Acta., DOI, 10.1016/j.ica.2012.05.040, ISSN 0020-1693
【非特許文献5】R. J. Mishur, et al., Synthesis and X-ray crystallographic Characterization of Monomeric Platinum(II)- and Platinum(IV)- Pyrophosphato Complexes, Inorg. Chem., 2008, 47, 7972-7982
【発明の概要】
【0007】
[0006] 本発明の1態様において、ホスファプラチン類を大規模で合成するためのプロセスを開示する。そのプロセスは、低体積の反応混合物中でのそれらの出発物質の可溶性を増大させることにより、大きな体積の出発物質を用いる必要性を排除する。さらに、そのプロセスは、所望のホスファプラチン類の沈殿の間の濃縮手順を用いる必要性を排除する。最後に、そのプロセスは反応時間を著しく低減する。
【0008】
[0007] 1態様において、白金錯体を濃縮されたピロホスフェートを含有する反応混合物に約6.0〜8.5のpHにおいてゆっくりと添加する。攪拌後、その温度およびpHを下げて望むホスファプラチン類を沈殿させる。
【0009】
[0008] 本発明の別の態様において、未反応の白金錯体およびピロホスフェートをホスファプラチン類の最初の合成後に再利用するためのプロセスを開示する。最初の合成後に、不用な生成物を反応混合物から濾過し、適切な出発物質を添加してさらなるホスファプラチン類を生成する。
【0010】
[0009] 前記の概要ならびに以下の詳細な記述は、添付された図面と合わせて読まれた場合によりよく理解されるであろう。説明の目的のため、図面において本開示の特定の態様を示す。しかし、本発明は示した正確な配置および手段(instrumentalities)に限定されないことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】[00010]
図1はホスファプラチン抗腫瘍剤の一般式(I)を示し、ここでR1およびR2はアミン配位子であり、R3およびR4はアミンまたは他の単座配位子のどちらかである。
【
図2】[00011]
図2は、キラルアミン配位子である1,2−ジアミンシクロヘキサンを用いる白金(II)錯体に関して式(III)〜(V)において、および白金(IV)錯体に関して式(VI)〜(VIII)において例示されるような、一般式(I)のシス−、トランス−および光学異性体の例を示す。
【
図3】[00012]
図3は、ホスファプラチン類の大規模生産の略図を示す。
【
図4A】[00013]
図4Aは、本発明の態様から生成された反応混合物のリン−31 NMRスペクトルを示す。
【
図4B】
図4Bは、本発明の態様から生成された反応混合物のリン−31 NMRスペクトルを示す。
【
図4C】
図4Cは、本発明の態様から生成された反応混合物のリン−31 NMRスペクトルを示す。
【
図5A】[00014]
図5Aは、本発明の態様に従うプロセスを実施した後に回収された生成物に関するESI-MSスペクトルを示す。
【
図5B】
図5Bは、本発明の態様に従うプロセスを実施した後に回収された生成物に関するHPLCデータを示す。
【
図5C】
図5Cは、本発明の態様に従うプロセスを実施した後に回収された生成物に関するリン−31 NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[00015] 本発明の少なくとも1個の態様を詳細に説明する前に、本発明はその適用において以下の記述で述べられる、または図面において図説される構成の詳細および構成要素の配置に限定されないことは理解されるべきである。本発明は他の態様が可能であり、様々な方法で実行および実施することができる。また、本明細書において用いられる用語(phraseology)および用語法(terminology)は記述を目的としたものであり、限定とみなされるべきでないことは理解されるべきである。本発明の特徴のどの1つも他の特徴と別々に、または組み合わせて用いられてよいことは理解されるべきである。本発明の他の系、方法、特徴、および利点は、その図面および詳細な記述を吟味すれば、当業者には明らかである、または明らかになるであろう。全てのそのような追加の系、方法、特徴、および利点は、この記述の範囲内に含まれ、本発明の範囲内であり、そして添付の特許請求の範囲により保護されることが意図されている。
【0013】
[00016] 本発明は、大きい体積の出発反応混合物を排除し、かつ沈殿のための濃縮プロセスを軽減し、かつ反応時間を低減する、大量のホスファプラチン類を作製するための新規プロセスを記述する。本発明のホスファプラチン類は
図1において示される一般式(I)により記述することができ、ここでR1およびR2はアミン配位子であり、R3およびR4はアミンまたは他の単座配位子のどちらかである。これらのホスファプラチン構造の多くの化学的変形も特に興味深く、それにはそのアミン配位子がキラル中心を含有するシス−、トランス−、ラセミおよび高光学純度の(enantio−pure)形態が含まれる。そのような一般式(I)のシス−、トランス−および光学異性体の例を、
図2において、キラルアミン配位子である1,2−ジアミンシクロヘキサンを用いる白金(II)錯体に関して式(III)〜(V)で、および白金(IV)錯体に関して式(VI)〜(VIII)で示す。本発明のプロセスは、トリホスフェートおよびポリホスフェート化合物にも適用可能である。
【0014】
[00017] 本発明の1態様が限定的でない例として
図3において記述されている。このプロセスにおいて、一般式PtA
2X
2(ここでAは不活性な単座配位子であり、またはA
2は二座配位子であり、Xは置き換え可能な配位子である)の白金試薬を、H
nNa
4−nP
2O
7の飽和溶液に、約6.5〜8.5、好ましくは約8のpHにおいて、約20℃〜60℃、好ましくは約20℃〜50℃、より好ましくは約40℃の温度において添加する。次に、その反応物をおおよそ6〜15時間(反応時間はより高い温度において低減されるため、前に言及したプロセス条件に依存する)攪拌する。攪拌後、そのpHを濃HNO
3を用いて調節し、温度を約0〜5℃に調節する。その反応混合物を氷上に5分間(条件に依存する)置いてホスファプラチン類を沈殿させ、次いでホスファプラチン類を濾別する。その濾液の温度を約40℃に調節し、次いで約2時間、好ましくは数分間静置して、もしあるならば二量体およびオリゴマーを沈殿させる。最後に、その濾液のpHを6.0〜8.5、好ましくはpH8に調節し、適切な量のピロホスフェートおよび出発白金試薬を出発条件を満たすように添加し、次いで上記の工程を繰り返してさらなるホスファプラチン類を生成する。
【0015】
[00018] 別の態様において、限定的でない例として、ピロリン酸四ナトリウム(約0.4g)の濃縮溶液を、約40℃の最小体積の水の中で、濃硝酸を用いてpHを調節することにより調製する。この限界の最小量は、約pH8における、および約40℃におけるピロホスフェートの溶解度に等しい。出発白金化合物(約0.1g)を、そのピロホスフェート溶液に、強い攪拌の下でその白金化合物がその溶液中で完全に溶解するまでゆっくりと添加する。次いでその反応混合物を約40℃で約12時間維持する。典型的には、この具体的な例におけるその反応混合物の総体積は、はるかに大きな先行技術の体積、例えば250mLの代わりに、約10mL程度であることができる。その反応時間の終了時に、所望の濃度の硝酸の分割量(aliquots)を添加してpHを約2まで下げる。硝酸の濃度および体積は、その化合物を沈殿させるための最終的な体積の所望の調節に依存する。その最終的な体積は、未反応のピロホスフェートの過剰量が沈殿しないように、約pH2および約5℃におけるピロホスフェート部分の溶解度に基づいて計算される。この溶液を短時間冷却すると、所望のホスファプラチン錯体が沈殿する。典型的には、pH調節後の総体積は約8〜10mLにすることができる。
【0016】
[00019] この向上した方法およびプロセスは、全てのホスファプラチン化合物に適用することができる。そのプロセスは、反応物の濃度を増大させ、それに応じて体積を調節することにより、スケールアップすることができる。例として、1態様において、1キログラムのホスファプラチン錯体を、先行技術において記述されたはるかに大きい5000リットルの体積の代わりに、10〜20Lの体積中で合成することができる。
【0017】
[00020] 開示されたプロセスの別の利点は、ホスファプラチン類の最初の収穫物(crop)を集めた後に、未使用の出発白金錯体およびピロホスフェートをその本来備わっている可溶性のために沈殿しなかった生成物と共に含有する母液を再利用するその可能性である。例えば、1態様において、ホスファプラチン類の最初の収穫物を母液から分離した後、その母液の温度を再度40℃まで上げ、その反応混合物を2時間、好ましくは数分間静置する。次いで、(もしあるならば)二量体性/ポリマー性ピロホスフェート錯体が含まれる望まれない生成物を濾別する。この限定的でない例において、追加のピロホスフェートを、速度論的に制御されたプロセスによりその合成のための白金反応物の量を超えるために必要な濃度で添加する。出発ピロホスフェート配位子の25%に至るまでがその反応で消費されるため、75%の未反応の出発ピロホスフェートが未使用である可能性がある。
【0018】
[00021] 別の態様において、その最初の反応は10倍過剰量のピロホスフェート配位子を用いて実施される。その後のサイクルにおいて、出発白金錯体は白金:ピロホスフェートのモル比が1:4に達するまで補充しさえすればよい。その段階において、追加のピロホスフェートを、速度論的基準を満たすように、かつ二量体生成物の形成を回避するように添加する。さらに別の代替の態様において、ホスファプラチン類の低体積合成は、出発白金錯体から塩化物またはヨウ化物配位子を除去し、そうして高度に可溶性のジ−アクア−白金(II)(di−aqua−platinum(II))化合物を作り出し、そしてその化合物をピロホスフェート部分と反応させることにより得られる。そのような条件下では、その反応は主要な単量体性ホスファプラチン錯体に加えていくつかのより少ない生成物を生成する。
【0019】
[00022] 本明細書で開示されるプロセスの利点は多く、それには大きい体積の出発反応混合物の使用の必要性を最小限にすることが含まれるが、それに限定されない。これは、本明細書で開示される向上したプロセスが6から8.5までのpH範囲におけるピロホスフェート部分の大きな可溶性を利用しているために可能であり、それに続いて出発白金錯体をそれらが溶解するまで添加する。結果として、本明細書で開示されるプロセス全体は出発白金錯体材料の乏しい可溶性(それは先行技術において開示されている他の合成法に対する決定的な制限である)により制限されない。
【0020】
[00023] 白金(IV)錯体は、その低体積戦略に従って、pH6〜8における保温時間の終了時に白金(II)錯体を過酸化水素で酸化することによっても合成される(実施例6参照)。従って、本発明は、白金(II)および白金(IV)錯体の低体積合成に等しく適用することができる。
【0021】
[00024] 加えて、その開示されるプロセスは、その出発白金基質をゆっくりと添加することにより、二量体およびオリゴマー種が含まれる望まれない錯体の形成の排除または最小化をもたらす。この出発白金反応物のゆっくりとした添加は、過剰なピロホスフェート環境の条件を確実にし、それは望まれない二量体性およびオリゴマー性白金錯体の形成を防ぐ。さらに、本明細書で開示されるプロセスにおける急速な沈殿は単に温度を下げることにより成し遂げることができ、その反応混合物を濃縮する必要性を必要としない。一度望まれない二量体性およびオリゴマー性白金生成物を単離したら、最初の量の75%に至るまでに相当し得る残りの未反応のピロホスフェートを次の処理単位のために再使用することができる。結果として、そのプロセスの全体の費用が著しく減少する。
【0022】
[00025] 本発明は、癌患者の処置および他の臨床適用に有用である。それはかなり大きな量の化合物が望まれる他の適用においても用いることができる。
[00026] 本明細書で記述される発明は大量のホスファプラチン化合物を作製するための新規プロセスに具体的に焦点を合わせているが、当業者は、この開示の利益により、そのようなアプローチの他の系への拡張を認識するであろう。当業者は、上記で記述された態様に対して、その幅広い発明概念から逸脱することなく変更を行うことができることを認識するであろう。従って、本明細書で開示される発明は開示された特定の態様に限定されず、添付された特許請求の範囲により定義される通りの本発明の精神および範囲内の修正を含むことが意図されていることは理解されている。
【実施例】
【0023】
[00027] 実施例1.(トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン)(二水素ピロホスファト)白金(II)(トランス−dach−2)または(1R,2R−シクロヘキサンジアミン)二水素−ピロホスファト−白金(II)(RR−dach−2)の低体積合成。ピロリン酸ナトリウム十水和物(0.4g)を25mLの蒸留水中で60℃において溶解させ、その溶液のpHを1M HNO
3を用いて8に調節した。その溶液を60℃で15分間保ち、次いで0.1gのシス−ジクロロ(トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン)白金(II)またはシス−ジクロロ−(トランス−1R,2R−シクロヘキサンジアミン)白金(II)を少量で30分間の期間をかけて添加した。その反応混合物を60℃で15時間の混合時間の間保温した。
図4は、60℃における6および9時間の反応後に記録されたその反応混合物ならびにその反応から単離された最終生成物のリン−31 NMRスペクトルの一例を示す。1.93ppmにおける低磁場のピークが単量体性ピロホスフェート錯体に関するピークであり、−5.62におけるピークが過剰な未反応のピロホスフェート配位子に関するピークである。その図において見られるように、6時間の反応時間の後に生成物のピークの相対強度における変化はなく、これはその反応時間をかなり短縮することができることを示している。実際、60℃において9時間を越える延長された反応時間は生成物のピークを低減するようであった。さらに、その温度をピロホスフェート配位子の分解温度より下の範囲で上げることにより、反応時間を低減することが可能である。その保温期間の後、その溶液を濾過してあらゆる未反応の出発物質を分離し、48℃における真空下でのロータリーエバポレーションにより5〜7mLまで濃縮した。そのpHを1N HNO
3の添加によりおおよそ1.5〜2まで下げ、温度を4℃まで下げると、生成物が淡黄色の粉末として沈殿した。氷上で5分間冷却することにより沈殿を完了させ、その生成物を真空濾過により単離し、氷冷した水およびアセトンで洗浄した(洗浄あたり10mLで3回)。その最終生成物をデシケーター中で真空下で一夜乾燥させた。[Pt(C
6H
14N
2)(H
2P
2O
7)]の収量は0.06gの範囲であった。平均パーセント収率は50%であった。出発反応混合物の体積をさらに7〜10mLまで低減させて濃縮工程を削除することができる。しかし、生成物の収率は著しく低下する。下記でさらに詳細に論じるように、得られた生成物をPt元素分析、P−31 NMR分光法、HPLC、および質量分析により完全に特性付けた。
【0024】
[00028] その反応を、温度を40℃に下げることにより同一の条件下で繰り返した。上記で述べた同一の分析的特徴を特徴とする同じ生成物が得られた。唯一の違いは、その反応時間が延長されたことである。
【0025】
[00029] 実施例2.HPLCによる特性付け。
図5(a)は、上記の最初の反応サイクル後に回収された生成物の、その生成物(1mg)を600μLのpH7.5の25mM重炭酸ナトリウム中で溶解させた直後に記録された高速液体クロマトグラムを示す。その試料の50μLの分割量を分離のために注入した。それぞれの分離を3回繰り返した。その高速液体クロマトグラフィー実験は、二重勾配プログラマーおよびフォトダイオードアレイ検出器(Waters)を備えたWaters HPLCシステム上で実施された。勾配分離は、C18カラム(Waters,XTerra R18,4.6×150mmカラム、5ミクロン)上で、10mM酢酸アンモニウム(pH5.5)緩衝液(溶媒A)およびアセトニトリル(溶媒B)からなる移動相を用いることにより実施された。その勾配分離は、最初の30分間に関して溶媒Bの0%から30%までの線形上昇、続いて次の5分間においてBの30から100%までのより急勾配の上昇からなる。最後に、追加の5分間の均一溶媒での分離を100%Aに設定した。流速はその勾配全体を通して室温において0.5ml/分に設定した。それぞれのピークを、それぞれの溶離ピークの開始において終了まで収集した。
図2(a)に関して、3.04および4.2分におけるHPLCのピークは、それぞれ配位していない(deligated)ピロホスフェート配位子および所望の単量体性錯体(ホスファプラチン)に対応する。遊離した配位子および二量体化合物はその化合物の酸性溶液中における動的挙動により形成され、それは溶液中に単量体化合物のみが存在する中性pHでは存在しないことが理解されている。
【0026】
[00030] 実施例3.質量分析による特性付け。最終生成物および最終生成物の収集されたHPLC画分の質量分光分析を、LCQ DECA−XP(Thermo−Finnigans)質量分析計上で、500μL注射器(直径2.30mm)を用いた8μL/分の流速(注入体積32μL)での直接注入により実施した。質量分析計を陽イオン極性(+MS)、350℃の乾燥温度、キャピラリー電圧30.22V、49.36l/分のシースガス流速、およびチューブレンズ電圧15.0Vに設定した。質量電荷比は150から2000まで収集された。その収集された画分は、質量分析によっても同定された。
図5(b)に関して、m/z 486.4におけるピークは所望の単量体性錯体(ホスファプラチン)に対応する。m/z 508.1におけるピークはそのナトリウム付加物に対応する。
【0027】
[00031] 実施例4.NMRによる特性付け。NMR実験を、オートチューン広帯域(auto−tune broadband)n−15−P31プローブを備えたJEOL ECA−500MHz機器上で、JEOL delta操作ソフトウェア(operation’s software)を用いて実施した。プロトンデカップリングされたP−31の共鳴を202MHzにおいて記録し、それらの化学シフトを85%リン酸に関して0.0ppmにおいて報告した。0.8秒の繰り返し時間を有する4.6マイクロ秒のパルスを用いてフーリエ誘導減衰を生成した。典型的には、52Kのデータ点を31.72KHzの周波数領域内で収集した。1.0Hzの線幅拡大係数をフーリエ変換の前に導入した。
図5(c)において示したように、pH7.09において、そのP−31 NMRスペクトルは2.02ppmにおいて単一のピークを示した(トランス−dach−2)。その生成物は2.02ppmにおいて単一のP−31 NMR共鳴を示した。さらに、pH7.5において分析した際、そのP−31 NMRスペクトルは1.92ppmにおいて単一のピークを示した(RR−dach−2)。
【0028】
[00032] 実施例5.残りの母液からの未反応の材料の再利用。上記の実施例1における生成物の単離からの母液の残りを、0.1gのピロホスフェート配位子を0.1gの出発白金錯体と共に補充することにより、合成の第2サイクルのために用いた。実施例1において説明したプロセスと正確に同じプロセスに従って生成物を単離した。再度の生成物の収率は、上記で言及した最初の収穫物と一致していた。実施例2において単離された生成物のHPLCクロマトグラム、質量スペクトル、およびP−31 NMRは、実施例1において単離された生成物のHPLCクロマトグラム、質量スペクトル、およびP−31 NMRと似ている。
【0029】
[00033] 実施例6.(トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン)−トランス−ジヒドロキソ(二水素ピロホスファト)白金(IV)の低体積合成。ピロリン酸ナトリウム十水和物(0.4g)を25mLの蒸留水中で60℃において溶解させ、その溶液のpHを1M HNO
3を用いて8に調節した。その溶液を15分間60℃にしておき、0.1gの前駆体化合物(すなわちシス−ジクロロ(トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン)白金(II)を少量で30分間の期間で添加した。その混合物を60℃で12時間保温した。1ミリリットルの30%過酸化水素をその母液に添加し、60℃でさらに2時間保温した。その保温期間の後、その溶液を濾過してあらゆる未反応の出発物質を分離し、48℃における真空下でのロータリーエバポレーションにより5〜7mLまで濃縮した。そのpHを1N HNO
3の添加によりおおよそ1.5〜2まで下げ、温度を4℃まで下げると、淡黄色の粉末が沈殿した。氷上で5分間冷却することにより沈殿を完了させ、その生成物を真空濾過により単離し、氷冷した水およびアセトンで洗浄した(洗浄あたり10mLで3回)。最終生成物をデシケーター中で真空下で12時間乾燥させた。収量は0.048g(35%)であった。pH7.75において記録された
31P NMRスペクトルは、24.2Hz離れた2個のサテライトを有する2.59ppmにおけるピークを示した。単離された生成物(1mgを600μLのpH7.5の25mM重炭酸ナトリウム中で溶解させたもの)のHPLCクロマトグラムは3.63分における単一のピークを示し、それは実施例2において記述されたようにC18カラム(Waters,XTerra R18,4.6×150mmカラム、5ミクロン)上で10mM酢酸アンモニウム(pH5.5)緩衝液(溶媒A)およびアセトニトリル(溶媒B)からなる勾配移動相を用いて溶離された。
本願発明の他の態様は、以下の通りである;
態様1
ホスファプラチン類を合成するためのプロセスであって、以下の工程:
おおよそ6〜8.5のpHを有する反応混合物中でピロホスフェート配位子を濃縮すること;及び
白金錯体を該反応混合物に添加すること;
を含む、前記プロセス。
態様2 反応混合物をおおよそ20℃〜60℃の温度で維持する、態様1に記載のプロセス。
態様3 反応混合物をおおよそ20℃〜50℃の温度で維持する、態様1に記載のプロセス。
態様4 反応混合物がHnNa4−nP2O7を含む、態様1に記載のプロセス。
態様5 ホスファプラチン類が一般式(I)を有するホスファプラチン類の1つまたはあらゆる組み合わせであり、ここでR1およびR2はアミン配位子であり、かつR3およびR4はアミンまたは他の単座配位子のどちらかである、態様1に記載のプロセス。
態様6 ホスファプラチン類がシス−、トランス−、ラセミおよび高光学純度の形態を含む、態様5に記載のプロセス。
態様7 さらに白金錯体を濃縮ピロホスフェート溶液に該白金錯体の全部が反応混合物中に溶解することを確実にする速度でゆっくりと添加することを含む、態様1に記載のプロセス。
態様8 さらに白金錯体の添加後に反応混合物を約6〜15時間攪拌することを含む、態様7に記載のプロセス。
態様9 さらに反応混合物のpHをおおよそ2まで下げ、温度をおおよそ0〜5℃まで下げることによりホスファプラチン類を沈殿させることを含む、態様8に記載のプロセス。
態様10 さらに温度をおおよそ40℃に上げることにより二量体およびオリゴマー副産物を沈殿させることを含む、態様9に記載のプロセス。
態様11 さらに未反応のピロホスフェート配位子および白金錯体をその後のホスファプラチン類の合成において用いることを含む、態様1に記載のプロセス。
態様12 ホスファプラチン類を合成するためのプロセスであって、以下の工程:
式:
【化1】
を有するピロホスフェート配位子をおおよそ20℃〜60℃の温度を有する反応混合物中で濃縮すること、ここでR1およびR2はアミン配位子であり、かつR3およびR4はアミンまたは他の単座配位子のどちらかである;
該反応混合物に式PtA2X2を有する白金錯体をゆっくりと添加すること、ここでAは不活性な単座配位子であり、またはA2は二座配位子であり、かつXは置き換え可能な配位子である;
を含む、前記プロセス。
態様13 反応混合物をおおよそ20℃〜50℃の温度で維持する、態様12に記載のプロセス。
態様14 反応混合物がHnNa4−nP2O7を含む、態様12に記載のプロセス。
態様15 ホスファプラチン類がシス−、トランス−、ラセミおよび高光学純度の形態を含む、態様12に記載のプロセス。
態様16 さらに反応混合物を白金錯体の添加後に約6〜15時間攪拌することを含む、態様12に記載のプロセス。
態様17 さらに反応混合物のpHをおおよそ2まで下げ、温度をおおよそ0〜5℃まで下げることによりホスファプラチン類を沈殿させることを含む、態様16に記載のプロセス。
態様18 さらに温度をおおよそ40℃に上げることにより二量体およびオリゴマー副産物を沈殿させることを含む、態様17に記載のプロセス。
態様19 さらに未反応のピロホスフェート配位子および白金錯体をその後のホスファプラチン類の合成において用いることを含む、態様12に記載のプロセス。
態様20 ホスファプラチン類を合成するためのプロセスであって、以下の工程:
HnNa4−nP2O7を含む反応混合物中でピロホスフェート配位子を濃縮すること;及び
白金錯体を該反応混合物に添加すること;
を含む、前記プロセス。