【実施例1】
【0013】
最初に、
図1を参照しながら本発明の実施例1を説明する。
図1(A-1)は履物を装着した状態を上方から見た図,(A-2)は履物を装着した状態を正面から見た図,(B-1)は履物を装着して歩行方向を修正した状態を上方から見た図,(B-2)は履物を装着して歩行方向を修正した状態を正面から見た図である。本実施例の履物10は、O脚(内反膝)の矯正に本発明を適用した例である。前記履物10は、右足用のスリッパ10Aと左足用のスリッパ10Bにより構成される。スリッパ10A,10Bの構成自体は、一般的な構成と異なるところはなく、図示しない靴底に甲部を覆うアッパー11が設けられた構成となっている。
【0014】
本実施例では、
図1(A-1)に示すように、アッパー11の甲部12から爪先部14にかけて特定の方向を示す矢印線16(方向指示部)が設けられている。該矢印線16は、装着者100が歩行する際に、該矢印線16が歩行方向(
図1(B-1)の矢印F1)に一致するように、確認するためのものである。本実施例では、前記矢印線16の延長線LBが、履物10の中心線(ないし履物10を装着したときの足軸線)LAに対して、所定の角度θをなすように形成されている。ここで、履物の中心線(足軸線)LAとは、第2指の中心と外側の中間位置と、踵骨の中心を結んだ線である。そして、前記角度θは、中心線LAと延長線LBが、靴の後端(踵側)で交わるときの角度である。なお、本実施例は、股関節の内旋の矯正に適した外旋筋群の強化運動をすることができるように、前記矢印線16は、前記中心線LAに対して、内側(親指側)に傾くように形成されている。前記中心線LA対して内側に傾いているときをマイナス角度で表すとすると、前記角度θは、例えば、−5°〜−15°程度であって、装着者100の脚の歪みの程度により異なる。すなわち、左右のスリッパ10A,10Bで、前記角度θが一致している必要はない。
【0015】
上述したように、O脚は、脚を内側に捻るような内旋運動(内側へのローテーション運動)の繰り返しが原因の一つとなっていることから、それと反対の方向への運動,すなわち外旋運動(外側へのローテーション運動)を継続的に行うことで、脚の歪みの矯正が可能になる。装着者100がO脚の場合、履物10を履いただけでは、右脚102及び左脚104のくるぶし102A,104Aを揃えても、
図1(A-1)及び(A-2)に示すように、あるいは、
図1(B-1)に一点鎖線で示すように、両足の膝102B,104Bの内側は離れてしまう。しかし、前記矢印線16の示す方向が、
図1(B-1)に矢印F1で示す歩行方向に一致するように確認しながら(意識しながら)歩行することで、脚を外旋運動(外側へのローテーション運動)させることになる。このような歩行を続けていくことにより、生活習慣により生じた内旋歩行という習慣を徐序に改善し、日常的に外旋筋や外転筋を強化して、最終的には、
図1(B-1)及び(B-2)に実線で示すように、くるぶし102A,104Aの内側を揃えたときに、膝102B,104Bの内側が揃い、膝頭が正面を向くようになる。すなわち、O脚が矯正される。
【0016】
このように、実施例1によれば、履物10の中心線LAに対して内側に傾いた方向を示す矢印線16を、靴のアッパー11の甲部12から爪先部14にかけて形成する。そして、前記矢印線16が示す方向が、歩行方向F1と一致するように歩行することで、O脚の原因となる内旋運動と反対方向への外旋運動を行うような歩行をサポートすることができる。したがって、矢印線16が歩行方向F1と一致するように意識して歩くように促すことで、無理なく自発的な矯正用の動きをサポートし、根本的な歪み矯正に有効である。また、矢印線16を意識した歩行を続けることにより、歩き方そのものの改善にも役立つ。
【実施例2】
【0017】
次に、
図2を参照しながら本発明の実施例2を説明する。なお、上述した実施例1と同一ないし対応する構成要素には同一の符号を用いることとする(以下の実施例についても同様)。
図2(A-1)は履物を装着した状態を上方から見た図,(A-2)は履物を装着した状態を正面から見た図,(B-1)は履物を装着して歩行方向を修正した状態を上方から見た図,(B-2)は履物を装着して歩行方向を修正した状態を正面から見た図である。本実施例は、前記実施例1の履物10を、X脚(外反膝)の矯正に適した実施例であって、履物10の構成は実施例1と同様である。
【0018】
上述した通り、X脚は、骨盤外側にある外転筋の筋力が弱いなどの要因はあるものの、根本的には、O脚の場合と同様に、股関節の内旋が最も大きな原因である。従って、X脚を矯正するためには、実施例1と同様に、内旋状態を改善するための外旋筋群の強化が重要であり、実施例1と同様の履物10の利用により、X脚の改善を図ることができる。X脚の場合は、通常、
図2(A-1)及び(A-2)に一点鎖線で示すように、膝頭が内側を向いていることが多いが、同図に点線で示すように、正面を向いている場合もある。本実施例は、そのいずれの場合であっても適用可能である。
【0019】
装着者100がX脚の場合、履物10を履いただけでは、右脚102及び左脚104の膝102B,104Bの内側を揃えても、
図2(A-1)に示すように、両足のくるぶし102A,104Aの内側は離れてしまう。そして、くるぶし102A,104Aを揃えようとすると、
図2(B-1)に一点鎖線で示すように膝が重なってしまう。しかし、前記矢印線16の示す方向が、
図2(B-1)に矢印F1で示す歩行方向に一致するように確認しながら(意識しながら)歩行することで、脚が外旋運動(外側へのローテーション運動)をすることになる。このような外旋歩行を継続することにより、外旋筋群を強化し、生活習慣により生じた股関節内旋によるX脚を徐々に矯正し、最終的には、
図2(B-1)及び(B-2)に実線で示すように、膝102B,104Bの内側を備えたときに、くるぶし102A,104Aの内側が揃うようになり、膝頭が内側に向いていた人であれば正面を向くようになる。すなわち、X脚が矯正される。膝頭自体は初めから正面を向いていた人であれば、膝頭の向きは正面を保ったままで、X脚が矯正される。
【0020】
このように、実施例2によれば、履物10の中心線LAに対して内側に所定角度(中心線LAに対して−5°〜−15°程度)傾いた方向を示す矢印線16を、靴のアッパー11の甲部12から爪先部14にかけて形成する。そして、前記矢印線16が示す方向が、歩行方向F1と一致するように歩行することで、X脚の原因となる脚の原因となる内旋運動と反対方向への外旋運動を行うような歩行を行うことになる。したがって、矢印線16が歩行方向F1と一致するように意識して歩くように促すことで、X脚を矯正するために必要な外旋歩行を装着者100が自発的に行うようサポートし、根本的な歪み矯正に有効である。
【0021】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例1で示したO脚の矯正や、実施例2で示したX脚の矯正は一例であり、これらの脚の歪みがない人に対して、正しい歩行方向の維持をサポートするために本発明の履物を適用してもよい。例えば、
図3(A)に示す履物10では、矢印線17の延長方向を示す線LDと、履物10の中心線(足軸線)LAが一致している。この場合、前記矢印線17の示す方向が歩行方向(矢印F3方向)と一致するように歩行することで、正しい歩行をサポートすることができる。
【0022】
(2)前記実施例1及び実施例2で示した矢印線16の傾きは一例であり、例えば、
図3(A)に示すように、矢印線18の延長線LCが、履物10の中心線(足軸線)LAに対して、所定の角度θをなすように外側に傾いていてもよい。足軸線LAに対して外側に傾いている場合をプラス角度で示すとすると、前記θは+5°〜+15°程度である。このように外側に傾いた矢印線18を有する履物を履き、該矢印線18が歩行方向F3と一致するように歩行することにより、実施例1及び実施例2とは逆に、内旋歩行をすることになる。従って、例えば、内旋歩行によって特定の筋力を鍛えるトレーニング等の目的に使用したり、そのほかにも、内旋歩行をさせた方が良い場合、又は、内旋方向させないといけない場合に有効である。更に、左右のシューズで矢印線の傾き方向が一致している必要はなく、必要に応じて、
図3(A)に点線で示すように、左右のいずれか一方のスリッパには内側(マイナス方向)に傾いた矢印線16を設け、他方には外側(プラス方向)に傾いた矢印線18を設けてもよい。また、左右のいずれか一方のみに靴の中心線と一致する方向に矢印線を設け、他方の矢印線を内側又は外側に傾けた構成としてもよい。
(3)前記実施例1で示した矢印線16を、
図3(B)に示すように、アッパー11にシール20を貼り付けて形成してもよい。矢印線17,18についても同様である。
【0023】
(4)前記実施例では、履物10のアッパー11に矢印線16を設けて特定の方向を示すこととしたが、これも一例であり、特定方向の示し方は、装着者100が使用時に認識できる態様であれば、種々変更可能である。例えば、
図3(C)に示す履物30Aは、靴底32とアッパー34から構成されたスリッパであり、前記アッパー34は、2つの異なる模様部36A,36Bを有している。そして、これらの模様部36A,36Bの切替部分(ないし境界)38が、前記実施例1の矢印線16と同様に、履物の中心線LAに対して内側に傾いた特定の方向を示す。また、
図3(C)に示す履物30Bのアッパー34は、素材40Aと、該素材40Aとは異なる素材40Bにより構成されており、その切替部分(ないし境界)42が、履物の中心線LAに対して外側に傾いた特定の方向(延長線LCの方向)を示している。なお、
図3(C)では、模様の切替部分や、素材の切替部分を、方向指示部とすることとしたが、これらも一例であり、配色の切替部分や、模様,素材,色又はこれらの組み合わせの切替部分を方向指示部としてもよい。また、切替部分の両側の一方を発光材料や蛍光材料を含んだ素材で構成することにより、切替部分が暗所で目立つようにしてもよい。更に、切替部分38,42ではなく、甲部12に設けたその他のデザイン(絵など)によって特定の方向を示すようにしてもよい。
【0024】
(5)前記実施例1や
図3(A)〜(C)の例では、履物10の甲部12に、矢印線16〜18や切替部分38,42を設けることで、特定方向を直接的に示すこととしたが、これも一例であり、同様の効果を奏するように適宜設計可能である。例えば、甲部12に設けた各種デザイン(絵など)により、歩行時に履物10が特定の向きになるように、間接的に装着者100の注意を促すものであってもよい。
図3(D-1)に示す履物10´の例では、スリッパ10A,10Bの甲部12に、目のイラスト50A,50Bを設けている。該イラスト50A,50Bは、それぞれ、輪郭の円52と、該円52の内側を上下に2等分する線54と、2等分された下側の領域に設けられた黒丸56により構成されている。前記線54は、履物10´の向きを修正したとき
図3(D-2)に示すように水平となるように形成されている。前記線54と直交する線をLEとすると、線LEが足軸線LAに対してなす角度は約−10°程度である。
【0025】
このような履物10´をO脚の人が履いたときは、
図3(D-1)に示すように、目のイラスト50A,50Bの線54の外側が上がるため、怒った表情に見える。しかし、前記線54が水平となるように、すなわち、前記線LEが歩行方向と一致するように履物10´の向きを意識しながら歩行することで、外旋歩行することができる。この例のイラスト50A,50Bは、履物10´の向きを意識しないときは、
図3(D-1)に示すように怒った表情に見え、履物10´の向きを外旋方向に意識して歩行したときは、
図3(D-2)に示すように怒っていない表情になる。従って、装着者100は、履物10´の向きを、甲部12のイラスト50A,50Bの表情の変化として感覚的に認識することができる。
【0026】
(6)前記実施例では、履物10の靴底32を平坦(フラット)な作りとしたが、これも一例であり、例えば、
図4(A)に示すように、脚の外側の方が厚くなるように靴底32´に傾斜を持たせることで、履物を装着したときの足裏が、水平面に対して傾くようにしてもよい。靴底32´の厚みに傾斜を設けるには、例えば、
図4(B)に示す例のように、アウトソール33Bは平坦とし、インソール(中敷き)33Aの厚みないし高さを調整する。あるいは、
図4(C)に示す例のように、インソール33Aは平坦とし、アウトソール33Bの厚みないし高さを調整するようにしてもよい。このように、靴底32´の厚み(ないし高さ)を調整することにより、上述した実施例1に示す自発的な歩行方向の矯正に加え、靴底32´の厚みを利用して脚の姿勢を正すことができる。なお、図示は省略するが、靴底32´の厚みは、必要に応じて内側の方が厚くなるように形成してもよいし、前後方向に厚みの傾斜を設けるようにしてもよい。また、靴底32´の全面でなく、一部に傾斜部分を形成するようにしてもよい。
(7)前記実施例では、本発明の履物として、スリッパを例に挙げて説明したが、これも一例であり、本発明は、トレーニングシューズなどの外履きや、ホームケア用のルームシューズなどのほか、公知の各種の履物に適用可能である。