【実施例】
【0061】
〔試験例1〕本発明のモノクローナル抗体の製造方法
1.免疫用抗原の調製
ヒトインスリン(リコンビナント、Fitzgerald社製 30−AI51)をコンプリートフロインドアジュバント(Wako社製)と1:1で混合後、連結シリンジを用いてエマルジョンを作製し、免疫用抗原とした。
【0062】
2.ハイブリドーマの作製
上記、免疫用抗原を雌のBALB/cマウスの背部皮下に注射した(1匹当たり20〜50μg)。この操作(免疫)を1週間毎に2回繰り返した。免疫開始3週間後、試験採血して得た抗血清のうち、後述する抗原固相化ELISA法による試験にて、高い抗体価が確認されたマウスから脾臓を摘出し、50%−PEG1450(シグマ社製)を用いた常法により細胞融合を行った。ミエローマ細胞はSP2/Oを用いた。得られた融合細胞は、脾臓細胞として2.5×10
6個/mLになるようにHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)、15%ウシ胎児血清、及び10%のBM−Condimed H1 Hybridoma Cloning Supplement(Roche社製)を含むRPMI1640培地に懸濁し、96穴培養プレートに0.2mLずつ分注した。これを5%CO
2インキュベーター中で37℃にて培養した。
【0063】
3.本発明のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
細胞融合7日後に1次スクリーニングとして、培養上清を用いて後述する抗原固相化ELISA法を行い、ヒトインスリンに対し高い反応性を示したwellを1次陽性wellとして選別した。該1次陽性well中の細胞は、24穴プレートにおいて継代した。継代2日後、2次スクリーニングとして、培養上清を用いて後述するヒトインスリンの競合ELISA法を行い、ヒトインスリンに対し高い反応性を示すwellを2次陽性wellとして選択した。3次スクリーニングとして、Biacore(登録商標)を用いた反応性測定法により、ヒトインスリンのみに特異的な反応性を示し、その他プロインスリン、インスリン類似化合物(インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリングルリジン)、ブタインスリン、ウシインスリンとは交差反応性を示さないwellを選択して3次陽性wellとした。さらに、4次スクリーニングとして、3次陽性well中の細胞を培養し、培養上清を用いてヒトインスリンと、ヒトインスリンβ鎖のC末端領域の配列「RGFFYTPKT」から成るペプチド断片(配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド断片であって、前記ペプチドのアミノ酸配列は、C末端アミノ酸が「T」である点のみが、ブタインスリン(C末端アミノ酸「A」)と異なる)との競合ELISA法を行い、当該ペプチド断片に対して反応性を示さず、ヒトインスリンに対し高い反応性を示すwellを選択して4次陽性wellとした。
【0064】
3−1.抗原固相化ELISA法用プレートの作製
150mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.2;以下、PBSということがある)で1μg/mLの濃度に調製したヒトインスリン(Fitzgerald社製30−AI51)をスクリーニング用抗原として、50μL/wellずつ96穴プレートに固相化し、4℃で一晩静置した。0.05%Tween(登録商標)20及び0.1%プロクリン300(SUPELCO社製)を含むPBS溶液(以下、PBSTということがある)400μL/wellで3回洗浄後、1%BSAを含むPBST(以下、BSA−PBSTということがある)を100μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置してブロッキングを行い、抗原固相化ELISA法用プレートを作製した。該抗原固相化ELISA法用プレートは、PBSTで3回洗浄後、下記、抗原固相化ELISA法はじめ各試験例、実施例に記載の試験に用いた。なお、本明細書に記載の試験例、実施例で使用されたヒトインスリンは、26IU/mgで国際単位に換算される。
【0065】
3−2.抗原固相化ELISA法
(i)上記、抗原固相化ELISA法用プレートに、BSA−PBSTにより段階希釈した試験採血により得た各マウス抗血清、あるいは融合細胞の培養上清を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(ii)PBSTで3回洗浄後、HRP−Gt F(ab’)
2−Anti−Mouse Ig’s(BIOSOURCE社製 AMI4404)をBSA−PBSTで5000倍希釈した溶液を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(iii)PBSTで3回洗浄後、0.02%過酸化水素水を含む0.2Mクエン酸緩衝液(以下、基質溶解液ということがある)にOPD(東京化成工業社製)を2mg/mLにて溶解し、50μL/wellずつ添加して室温で1時間静置した。
(iv)1mM EDTAを含む1.5N硫酸(以下、反応停止液ということがある)を50μL/wellずつ添加し、タイターテック(登録商標)マルチスキャンプラスMKII(Flow Laboratories社製)を用いて波長492nmにて吸光度を測定した。
【0066】
3−3.ヒトインスリンの競合ELISA法
(i)抗原固相化ELISA法用プレートに、ヒトインスリン(Fitzgerald社製 30−AI51)をBSA−PBSTで各々0μg/mL、2.5μg/mL、5μg/mL、10μg/mLに希釈した溶液を25μL/wellずつ分注した。
(ii)次いで、BSA−PBSTで各々5倍、25倍に希釈した融合細胞の培養上清あるいは培養上清の原液を25μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(iii)以降の操作は、前記3−2.抗原固相化ELISA法の工程(ii)〜(iv)と同様に行った。
【0067】
3−4.Biacore(登録商標)を用いた抗体と各試験化合物との反応性測定法
Biacore(登録商標)T100(GE Healthcare社製 JJ−1037−02)を用いて抗体の反応特異性を指標にハイブリドーマのスクリーニング試験を行った。
(i)Sensor Chip CM5(GE Healthcare社製 BR−1005−30)に Mouse Antibody Capture Kit(GE Healthcare社製 BR−1008−38)及びAmine Coupling Kit(GE Healthcare社製 BR−1000−50)を使用してAnti−Mouse IgG antibodiesを固定化した。
(ii)Anti−Mouse IgG antibodiesを固定化したSensor Chip CM5に、細胞融合の培養上清の原液を流速30μL/minで300秒間添加し、培養上清中に含まれる抗体をAnti−Mouse IgG antibodiesに捕捉させた。
(iii)HBS−EP+ 10×(ランニングバッファー)(GE Healthcare社製 BR−1006−69)をNaOHでpH8.5に調整したのち、精製水にて最終的に10倍希釈してHBS−EP+使用液を調整し、以下に挙げる試験化合物を10ng/mLに希釈するため用いた。Anti−Mouse IgG antibodiesを固定化したSensor Chip CM5に、各試験化合物の希釈液を、0ng/mL、10ng/mLの2濃度につき流速30μL/minで各120秒間添加した。またその際にフリーランニングによる解離時間を120秒間と設定した。なお、HBS−EP+使用液の処方は0.01M HEPES(pH8.5)、0.15M 塩化ナトリウム、3mM EDTA、0.005% SurfactantP20である。
<試験化合物>
(1)ヒトインスリン:Fitzgerald社製 30−AI51
(2)プロインスリン:IRR社製 Proinsulin,Human,for Immunoassay,NIBSC code: 84/611
(3)インスリン類似化合物
インスリンリスプロ100単位/mL:日本イーライリリー社製
インスリンアスパルト100単位/mL:ノボノルディスクファーマ社製
インスリングラルギン100単位/mL:サノフィ・アベンティス社製
インスリンデテミル100単位/mL:ノボノルディスクファーマ社製
インスリングルリジン100単位/mL:サノフィ・アベンティス社製
(4)ヒト以外の動物種由来インスリン
ウシインスリン:SIGMA I5500
ブタインスリン:WAKO 091−04211
(iv)Glycine 1.5(GE Healthcare社製 BR−1003−54)とGlycine 2.0(GE Healthcare社製 BR−1003−55)を1:1で混合して再生溶液とし、再生処理を180秒間行った。
【0068】
3−5.合成ペプチド断片の競合ELISA法
(i)ヒトインスリンβ鎖のC末端領域の配列「RGFFYTPKT」(配列表配列番号1)から成るペプチド断片を作製した。当該ペプチド断片の作製にはペプチド自動合成装置を使用し、Fmoc法により合成、及び精製した。HPLCを用い、ペプチドの純度が95%以上であることを確認した。また、分子量は質量分析装置(MALDI−TOF)にて理論値と同じであることを確認した。
(ii)抗原固相化ELISA法用プレートに上記(i)で作製した合成ペプチド断片、またはヒトインスリン(Fitzgerald社製 30−AI51)をBSA−PBSTで各0μg/mL、2.5μg/mL、5μg/mL、10μg/mLに希釈した溶液を25μL/wellずつ分注した。
(iii)以降の操作は、前記3−3.ヒトインスリンの競合ELISA法の工程(ii)、(iii)と同様に行った。
【0069】
4.本発明のモノクローナル抗体と組み合わせて使用するモノクローナル抗体Aを産生するハイブリドーマのスクリーニング
細胞融合7日後に1次スクリーニングとして、培養上清を用いて抗原固相化ELISA法を行い、ヒトインスリンに対して高い反応性を示したwellを1次陽性wellとして選別した。該1次陽性well中の細胞は、24穴プレートで継代した。継代2日後、2次スクリーニングとして、培養上清を用いて競合ELISA法を行い、ヒトインスリンに対し高い反応性を示すwellを2次陽性wellとして選択した。
【0070】
5.クローニング及びモノクローナル抗体採取
上記3.(4次スクリーニングまで完了)及び4.(2次スクリーニングまで完了)のスクリーニングで選択したハイブリドーマを限界希釈法にてクローニングし、それぞれハイブリドーマ66224、66408を得た。次いで各ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を採取するため、ハイブリドーマ投与の2週間前にプリスタン0.5mLを腹腔内に注射しておいた12週齢の雌BALB/cマウスに、ハイブリドーマを細胞数0.5×10
6個の量で腹腔内に投与した。14日後に腹水を採取し、遠心処理して上清を得た。上清を等量の吸着用緩衝液(3mol/L 塩化ナトリウム、1.5mol/L Glycine−NaOH緩衝液、pH8.5)と混和後、ろ過した。該ろ液を、吸着用緩衝液で平衡化したプロテインAセファロースカラムに通し、ろ液中の抗体をカラムに吸着させた後、0.1mol/L クエン酸緩衝液(pH3.0)で溶出させた。該溶出液を、1mol/L Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で中和後、PBSで透析を行い、抗体を採取した。
以下、66224抗体、66408抗体としてそれぞれ試験に用いた。
【0071】
66224抗体及び66408抗体を産生するハイブリドーマは、出願人によって独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(住所:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に2009年6月26日に寄託手続がされ、受託番号(FERM BP−11314、FERM BP−11315)が付与されている。
【0072】
〔試験例2〕本発明のモノクローナル抗体のヒトインスリン、プロインスリン、インスリン類似化合物、ブタインスリン、ウシインスリンとの交差反応性
66224抗体あるいは66408抗体のプロインスリン、インスリン類似化合物、ブタインスリン、ウシインスリンとの交差反応性についてBiacore(登録商標)T100を用いて試験を行った。試験方法は、試験例1の3−4.と同様であり、66224抗体については抗体精製後における各試験化合物に対する特異反応性を確認するため、さらに66408抗体についても抗体精製後における各試験化合物に対する特異反応性を評価するため、同試験を実施した。
【0073】
1.試験方法
Sensor Chip CM5に固定化したAnti−Mouse IgG antibodiesに66224抗体あるいは66408抗体を捕捉させ、試験化合物としてヒトインスリン、プロインスリン、各種インスリン類似化合物、ブタインスリン、ウシインスリンを添加することでそれぞれの反応性を評価した。具体的な操作手順は以下のとおりであり、試験化合物は試験例1と同じものである。
(i)Sensor Chip CM5にAnti−Mouse IgG
antibodiesを固定化した。
(ii)HBS−EP+使用液(pH8.5)で66224抗体あるいは66408抗体を5μg/mLとなるよう希釈し、流速30μL/minで300秒間添加し、Anti−Mouse IgG antibodiesが固定化されたSensor Chip CM5に66224抗体あるいは66408抗体を捕捉させた。
(iii)Anti−Mouse IgG antibodiesを固定化したSensor Chip CM5に、HBS−EP+使用液(pH8.5)で希釈した試験化合物を0ng/mL、10ng/mLの2濃度につき流速30μL/minで各120秒間添加した。またその際にフリーランニングによる解離時間を120秒間と設定した。
(iv)Glycine 1.5とGlycine 2.0を1:1で混合して再生溶液とし、再生処理を180秒間行った。
【0074】
2.結果
2−1.66224抗体の反応性
66224抗体について、Biacore(登録商標)T100を用いてヒトインスリン、プロインスリン、各種インスリン類似化合物(インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリングルリジン)、ブタインスリン、ウシインスリンとの反応性を確認した。結果を
図2に示す。
図2中、縦軸は、センサー表面上での反応(抗体への抗原の結合)による質量変化を表しており(Response)、「RU」は、Biacore(登録商標)測定系における独自の単位である。また、横軸は時間(Time)を示しており、単位は「秒(s)」である(以下、同様)。ヒトインスリン濃度10ng/mLにおいて2.0RUの反応性が認められた一方で、その他の試験化合物(10ng/mL)ではRUが0と算出され、全く反応性が認められなかった(
図2)。これより、66224抗体は、本明細書でいう「ヒトインスリンと反応し、ブタインスリンとは反応しない抗体」で、「さらに、ウシインスリン、プロインスリン、インスリン類似化合物の1以上と反応しない性質を有する抗体」であることが確認された。
2−2.66408抗体の反応性
66408抗体について、Biacore(登録商標)T100を用いてプロインスリン、各種インスリン類似化合物(インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、インスリンデテミル)、ブタインスリン、ウシインスリンとの反応性を確認した。結果を
図3に示す。ヒトインスリン濃度10ng/mLにおいて、2.5RUの反応性が認められた一方で、ウシインスリンではRUが0と算出され、ウシインスリンに対する反応性は認められなかった。その一方で、その他の試験化合物については0.6RU〜13RUが算出され、反応性が認められた(
図3)。これより66408抗体は、本明細書でいう「少なくともヒトインスリンと反応する抗体A」(ヒトインスリンと反応し、ヒト以外の動物種由来のインスリン及びインスリン類似化合物(の一部)と反応する抗体)であることが確認された。
【0075】
〔試験例3〕66224抗体の認識エピトープの確認
試験例2の結果より、66224抗体は、ヒトインスリンには反応し、ブタインスリンには反応しないことが確認された。ヒトインスリンとブタインスリンは、β鎖C末端のアミノ酸が「T」であるか「A」である点が唯一相違しており(
図1)、66224抗体はこの1アミノ酸の相違に起因してヒトインスリンとブタインスリンを識別認識していることが考えられた。そこで66224抗体の認識エピトープを確認するため、ヒトインスリンとブタインスリンの間で異なっているアミノ酸配列部位を含む合成ペプチド断片(前記〔試験例1〕3−5にて作製)を用いた競合ELISA法を行った。この試験において66224抗体が当該合成ペプチド断片と反応(競合)すれば、66224抗体はインスリンβ鎖C末端を含むアミノ酸配列の一次構造の違い(置換)を認識していると考えられる。66224抗体が当該合成ペプチド断片と反応しない場合には、66224抗体はヒトインスリン分子中で当該β鎖C末端アミノ酸配列領域が形成する立体構造を認識していると考えることができる。
【0076】
1.試験方法
以下の手順に従って合成ペプチド断片と66224抗体との反応性の有無を調べた。
(i)PBSを用いて、ヒトインスリン(Fitzgerald社製 30−AI51)を1μg/mLに希釈して96穴プレートに50μLずつ添加し、室温で2時間静置した。
(ii)0.05%Tween(登録商標)20及び0.1%プロクリン300(SUPELCO社製)を含むPBS溶液(以下PBSTという)400μL/wellで3回洗浄した。
(iii)BSA−PBSTを100μLずつ添加し、室温で1時間静置した。
(iv)添加したBSA-PBST溶液を全て吸引除去した。
(v)競合させる試験化合物としてヒトインスリンあるいは合成ペプチド断片をBSA-PBSTで各0μg/mL、2.5μg/mL、5μg/mL、10μg/mLに希釈して25μLずつ添加し、さらにその上から66224抗体をBSA-PBSTで2μg/mLに希釈して 25μLずつ添加し、室温で1時間静置した。
(vi)PBST溶液400μL/wellで3回洗浄した。
(vii)HRP標識ヤギ抗マウスIgGγ(SouthernBiotech 社製、1030−05)を5000倍に希釈して50μLずつ添加し、室温で1時間静置した。
(viii)PBST溶液400μL/wellで3回洗浄した。
(ix)基質溶解液にOPD(東京化成工業社製)を2mg/mLになるよう溶解し、wellに50μLずつ添加して室温で1時間静置した。
(x)反応停止液を50μLずつ添加し、タイターテック(登録商標)マルチスキャンプラスMKII(Flow Laboratories社製)を用いて波長492nmにて吸光度を測定した。
なお、希釈溶液は、記述のあるもの以外については全てBSA-PBSTとした。
【0077】
2.結果
試験結果を表1及び
図4に示す。
66224抗体はヒトインスリンと反応性を示すため、固相化されたヒトインスリンと競合させる試験化合物としてヒトインスリンを使用した場合には、その濃度に依存して反応性が低下した。これは競合させた溶液中のヒトインスリンによって66224抗体が吸収されるため、固相化されたヒトインスリンと反応する66224抗体量が少なくなるためである。しかしながら合成ペプチド断片を競合させる試験化合物として使用した場合には、合成ペプチド断片の濃度に依存した反応性の変動は全く見られなかった。これより、66224抗体は、合成ペプチド断片それ自体とは反応性が無いことが確認された。以上の結果から、66224抗体はヒトインスリンのβ鎖C末端のアミノ酸を含むアミノ酸配列の1次構造とは反応性を示さず、ヒトインスリン分子中で当該β鎖C末端アミノ酸配列領域が形成する立体構造を認識していると考えられた。
【0078】
【表1】
【0079】
〔実施例1〕本発明のモノクローナル抗体と、少なくともヒトインスリンと反応する抗体Aの組み合わせによるヒトインスリンの測定1<LTIA法>
1.ラテックス粒子の作製
攪拌機、還流用冷却器、温度検出器、窒素導入管及びジャケットを備えたガラス製反応容器(容量2L)に、蒸留水1100g、スチレン200g、スチレンスルホン酸ナトリウム0.2g、及び、蒸留水50gに過硫酸カリウム1.5gを溶解した水溶液を仕込み、容器内を窒素ガスで置換した後、70℃で攪拌しながら48時間重合した。重合終了後、上記溶液をろ紙にてろ過処理し、ラテックス粒子を取り出した。得られたラテックス粒子の粒子径を、透過型電子顕微鏡装置 (日本電子社製、「JEM−1010型」)を用いて10000倍の倍率でラテックス粒子を撮影し、最低100個以上の粒子について画像解析することにより平均粒子径を測定した。得られた平均粒子径は0.3μmであった。
【0080】
2.抗インスリン抗体感作ラテックス粒子の調製
2−1.66224抗体感作ラテックス粒子溶液の作製
平均粒子径0.3μmの1.0%ラテックス溶液(5mM トリス−塩酸緩衝液(以下、Tris−HClという)(pH8.5))に、5mM Tris−HCl(pH8.5)で0.60mg/mLに希釈した66224抗体溶液を等量添加して4℃2時間攪拌した。その後、上記ラテックス溶液と抗体溶液の混合溶液に0.5%BSA含有5mM Tris−HCl(pH8.5)を等量添加して4℃1時間攪拌した。次に、これを遠心して上清を除去後、沈殿を5mM Tris−HCl(pH8.5)で再懸濁し、66224抗体感作ラテックス粒子溶液を作製した。
2−2.66408抗体感作ラテックス粒子溶液の作製
平均粒子径0.3μmのラテックスを用いて上記と同じ方法により66408抗体感作ラテックス粒子溶液を作製した。
【0081】
3.試薬の調製
3−1.第一試薬の調製
500mMの塩化ナトリウム及び0.2%BSAを含む5mM Tris−HCl(pH8.5)を調製し第一試薬とした。
3−2.第二試薬の調製
66224抗体感作ラテックス粒子溶液及び66408抗体感作ラテックス粒子溶液を等量混合し、5mM Tris−HCl(pH8.5)で波長600nmでの吸光度が5.0Absとなるように希釈して第二試薬とした。
【0082】
4.測定方法
第一試薬と第二試薬を組合せ、日立7170形自動分析装置を用いてヒトインスリン濃度依存的な粒子凝集塊の形成を確認した。具体的には、濃度0μU/mL、5μU/mL、25μU/mL、50μU/mL、100μU/mL、200μU/mLヒトのインスリン溶液10μLに、第一試薬150μLを加えて37℃で5分間加温後、第二試薬50μLを加えて攪拌した。その後5分間の凝集形成に伴う吸光度変化を、主波長570nm、副波長800nmにて測定した。
【0083】
5.測定結果
測定結果を表2に示す。表2よりヒトインスリン濃度依存的に感度が上昇し定量が可能であることが確認された。
【0084】
【表2】
【0085】
〔実施例2〕本発明のモノクローナル抗体の組み合わせによるヒトインスリンの測定2<サンドイッチELISA法>
66224抗体及び66408抗体をそれぞれプレートに固相化(1次抗体)し、標識抗体(2次抗体)としてそれぞれ他方の抗体を組み合わせた。ヒトインスリン、プロインスリン、インスリン類似化合物、ウサギインスリン、イヌインスリン、ブタインスリン、ウシインスリンとの反応性についてサンドイッチELISA法を用いて試験を行った。
1.使用した抗体及び試験化合物
(1)モノクローナル抗体
66224抗体:4.03mg/mL
66408抗体:9.04mg/mL
(2)試験化合物
ヒトインスリン、プロインスリン、各種インスリン類似化合物(インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリングルリジン)、ブタインスリン、ウシインスリンは、試験例1、2と同じものを用いた。ウサギインスリン、イヌインスリンについては、それぞれ以下のとおりである。
ウサギインスリン:(株)森永生科学研究所 200723
イヌインスリン:(株)森永生科学研究所 200722
【0086】
2.サンドイッチELISA測定方法
(i)PBSに66224抗体あるいは66408抗体を2μg/mLに希釈した溶液を96穴プレートに50μL/wellずつ固相化し、室温で2時間静置した。
(ii)PBST400μL/wellで3回洗浄後、BSA−PBSTを100μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置してブロッキングを行い、サンドイッチELISA用プレートを作製した。
(iii)サンドイッチELISA用プレートに、ヒトインスリン、プロインスリン、各種インスリンアナログ製剤、ブタインスリン、ウシインスリン、ウサギインスリン、イヌインスリンをBSA−PBSTで各0ng/mL、2.5ng/mL、5ng/mL、10ng/mLに希釈した溶液を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(iv)PBSTで3回洗浄後、ビオチン標識化した66224抗体あるいは66408抗体をBSA−PBSTで1μg/mLに希釈した溶液を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(v)PBSTで3回洗浄後、Immuno Pure(登録商標)Streptavidin,HRP Conjugated(PIERCE社製 Prod#21126)をBSA−PBSTで5000倍に希釈した溶液を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(vi)PBSTで3回洗浄後、基質溶解液にOPD(東京化成工業社製)を2mg/mLにて溶解し、50μL/wellずつ添加して室温で1時間静置した。
(vii)反応停止液を50μL/wellずつ添加し、タイターテック(登録商標)マルチスキャンプラスMKII(Flow Laboratories社製)を用いて波長492nmにて吸光度を測定した。
【0087】
3.結果
3−1.66224抗体固相化プレート測定結果
試験結果を表3及び
図5に示す。
66224抗体を1次抗体、66408抗体を2次抗体とした場合、ヒトインスリンでは濃度依存的な吸光度の上昇が認められた一方で、その他の試験化合物では濃度依存的な吸光度の上昇が認められず、測定された吸光度自体も測定誤差程度のものであった。
【0088】
【表3】
【0089】
3−2.66408抗体固相化プレート測定結果
試験結果を表4及び
図6に示す。
66408抗体を1次抗体、66224抗体を2次抗体とした場合、ヒトインスリンでは濃度依存的な吸光度の上昇が認められた一方で、その他の試験化合物では濃度依存的な吸光度の上昇が認められず、測定された吸光度自体も測定誤差程度のものであった。
【0090】
【表4】
【0091】
4.考察
前記実施例2の結果より、66224、66408のいずれの抗体を1次抗体、2次抗体とした場合においても、ヒトインスリン以外の試験化合物は測定されないことから、本発明の測定方法は、それらの影響を受けずにヒトインスリンのみを定量できることがわかる。すなわち、本発明の測定方法によれば、プロインスリン、インスリン類似化合物、ブタインスリン、ウシインスリン、ウサギインスリン、イヌインスリンのいずれの影響も受けずにヒトインスリンのみを特異的に測定することができた。また、実施例2の結果に基づけば、ヒトインスリン以外の試験化合物に対する交差反応性が、市販試薬と比較して極めて低い(例えば、ブタインスリンに対する交差反応性が18%未満)か、あるいは実質0%であるヒトインスリン測定方法及び測定試薬を構成することができる。
前記試験例2のBiacore(登録商標)T100を用いた本発明のモノクローナル抗体の交差反応性試験結果では、66224抗体はヒトインスリンとは反応するものの、それ以外の試験化合物とはいずれとも反応性を示さなかった。その一方で、66408抗体ではウシインスリン以外の試験化合物とはいずれとも反応性を示したことから、66224抗体のヒトインスリンに対する高い特異性により、ヒトインスリン特異的な測定が可能となったと考えられる。
また、前記試験例3により、66224抗体はヒトインスリンのβ鎖C末端領域のアミノ酸配列が関与するヒトインスリンの立体構造を認識すると考えられるため、ヒトインスリンとブタインスリンの立体的に異なる特定部位をエピトープとする特性により、ヒトインスリン特異的な測定が可能になったことも本発明のひとつの特徴である。