【実施例】
【0037】
<3.実施例>
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、回路接続材料としてカチオン重合系接着剤中にアクリルゴムを配合した異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を作製し、実装体の導通抵抗、リペア性について評価した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
アクリルゴムの調整、異方性導電フィルムの作製、実装体の作製、導通抵抗の評価、及びリペア性の評価は、次のように行った。
【0039】
[アクリルゴムの調整]
1Lの丸底コルベンに、純水を400質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.02質量部仕込み、攪拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウムを0.3質量部添加し、メタクリル酸メチル(MMA)と他のアクリルモノマーとを組み合わせ、この混合液を100分かけて滴下し、滴下終了後さらに30分間攪拌してアクリルゴムを得た。
【0040】
アクリルゴムの重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて標準ポリスチレン換算により算出した。
【0041】
また、アクリルゴムのガラス転移温度(Tg)は、下記(1)式(FOX式)により計算した。
【0042】
1/Tg=W1/T1+W2/T2+・・・Wn/Tn ・・・(1)
(1)式中、W1、W2・・・Wnは各モノマーの質量分率であり、T1、T2・・・Tnは各モノマーのガラス転移温度(K)である。
【0043】
[異方性導電フィルムの作製]
フェノキシ樹脂(商品名:YP50、東都化成社製)、エポキシ樹脂(商品名:EP−828、ジャパンエポキシレジン社製)、シランカップリング剤(商品名:KBM403、信越化学社製)、硬化剤(商品名:SI−60L、三新化学社製)で構成された接着剤中に、導電性粒子(品名:AUL704、積水化学工業社製)を粒子密度50000個/mm
2になるように分散させて、厚み20μmの異方性導電フィルムを作製した。
【0044】
[実装体の作製]
異方性導電フィルムを用いて評価用IC(外形:1.8mm×20mm、バンプ高さ:15μm)と、評価用ITOコーティングガラス(ガラス厚0.5mm)との接合を行った。先ず、1.5mm幅にスリットされた異方性導電フィルムを評価用ITOコーティングガラスに貼り付け、仮圧着し(条件:70℃−1MPa−1sec)、その上に評価用ICを位置あわせした後、圧着条件170℃−60MPa−6secにて本圧着を行い、実装体を完成させた。
【0045】
[導通抵抗の評価]
実装体について、初期(Initial)の接続抵抗と、温度85℃、湿度85%RH、500時間のTHテスト(Thermal Humidity Test)後の接続抵抗を測定した。測定にはデジタルマルチメータ(品番:デジタルマルチメータ7555、横河電機社製)を用い、4端子法にて電流2mAを流したときの抵抗値を測定した。THテスト後の接続抵抗値が8.0Ω以下を◎、8.0Ω超10.0Ω未満を○、及び10.0Ω以上を×と評価した。
【0046】
[リペア性の評価]
図1に示すように、幅1.5mm、長さ5cmにした異方性導電フィルム12を、ガラス基板11上に70℃−1MPa−1secで仮圧着した。その後、異方性導電フィルム12の片側に粘着テープ13を付着させ、ガラス基板11から引き剥がした。異方性導電フィルムを長さ方向に引き剥がし、最後まで切れずに引き剥がせた場合を合格(OK)とした。この試験を10回行い、リペアの成功率(%)を計算した。
【0047】
<3.1 アクリルゴムの配合量について>
先ず、異方性導電フィルムに配合されるアクリルゴムの配合量の影響について検討した。
【0048】
[比較例1]
フェノキシ樹脂50質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、及び硬化剤5質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。
【0049】
比較例1の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は6.1Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、比較例1の異方性導電フィルムのリペア成功率は0%であった。
【0050】
[比較例2]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムは、メタクリル酸メチル(MMA)を使用せずに他のモノマーを使用して重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は−12℃であった。
【0051】
比較例2の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は6.4Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、比較例2の異方性導電フィルムのリペア成功率は20%であった。
【0052】
[実施例1]
フェノキシ樹脂49質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム1質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルの共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0053】
実施例1の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は5.9Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例1の異方性導電フィルムのリペア成功率は50%であった。
【0054】
[実施例2]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルの共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0055】
実施例2の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は5.8Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例2の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0056】
[実施例3]
フェノキシ樹脂45質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム5質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルの共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0057】
実施例3の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は6.1Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例3の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0058】
[実施例4]
フェノキシ樹脂40質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム10質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルの共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0059】
実施例4の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は7.7Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例4の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0060】
[実施例5]
フェノキシ樹脂35質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム15質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルの共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0061】
実施例5の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は9.4Ωであった。よって導通抵抗の評価は○であった。また、実施例5の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0062】
[比較例3]
フェノキシ樹脂34質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム16質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルの共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0063】
比較例3の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は10.8Ωであった。よって導通抵抗の評価は×であった。また、比較例3の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0064】
表1に、実施例1〜5及び比較例1〜3における異方性導電フィルムの配合、及び評価結果を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
比較例1のようにアクリルゴムを配合しなかった場合、導通抵抗は低いものの、異方性導電フィルムの機械的強度が低く、リペアが成功しなかった。また、比較例2のようにメタクリル酸メチルの共重合体以外のアクリルゴムを用いた場合、導通抵抗は低いものの、異方性導電フィルムの機械的強度が低く、リペアの成功率が低かった。また、比較例3のようにアクリルゴムを16質量%配合した場合、リペアの成功率は高いものの、接続信頼性が低下した。
【0067】
一方、実施例1〜5のようにアクリルゴムを1〜15質量%配合した場合、優れた接続信頼性が得られ、リペアの成功率も高かった。
【0068】
<3.2 アクリルゴムの分子量について>
次に、異方性導電フィルムに配合されるアクリルゴムの分子量の影響について検討した。
【0069】
[比較例4]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は10万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0070】
比較例4の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は6.0Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、比較例4の異方性導電フィルムのリペア成功率は20%であった。
【0071】
[比較例5]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は15万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0072】
比較例5の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は5.8Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、比較例5の異方性導電フィルムのリペア成功率は30%であった。
【0073】
[実施例6]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は20万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0074】
実施例6の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は5.7Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例6の異方性導電フィルムのリペア成功率は50%であった。
【0075】
[実施例7]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は30万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0076】
実施例7の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は5.8Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例7の異方性導電フィルムのリペア成功率は70%であった。
【0077】
[実施例8]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は80万であり、ガラス転移点(Tg)は12℃であった。
【0078】
実施例8の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は5.5Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例8の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0079】
表2に、実施例6〜8及び比較例4、5における異方性導電フィルムの配合、及び評価結果を示す。
【0080】
【表2】
【0081】
比較例4、5のようにアクリルゴムの分子量が小さくなるに従って、リペアの成功率も低下した。一方、実施例6〜8のようにアクリルゴムの分子量が20万以上とした場合、高い接続信頼性が得られ、リペアの成功率も高かった。
【0082】
<3.3 アクリルゴムのガラス転移点について>
次に、異方性導電フィルムに配合されるアクリルゴムのガラス転移点の影響について検討した。
【0083】
[比較例6]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は−40℃であった。
【0084】
比較例6の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は15.3Ωであった。よって導通抵抗の評価は×であった。また、比較例6の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0085】
[実施例9]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は−35℃であった。
【0086】
実施例9の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は9.7Ωであった。よって導通抵抗の評価は○であった。また、実施例9の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0087】
[実施例10]
フェノキシ樹脂47質量部、エポキシ樹脂43質量部、シランカップリング剤2質量部、硬化剤5質量部、及びアクリルゴム3質量部で構成された接着剤の異方性導電フィルムを作製した。このアクリルゴムはメタクリル酸メチルが単独重合又は共重合したものであり、その重量平均分子量(Mw)は60万であり、ガラス転移点(Tg)は0℃であった。
【0088】
実施例10の異方性導電フィルムを用いて作製した実装体の初期の接続抵抗は、0.2Ωであり、THテスト後の接続抵抗は6.8Ωであった。よって導通抵抗の評価は◎であった。また、実施例10の異方性導電フィルムのリペア成功率は100%であった。
【0089】
表3に、実施例9、10及び比較例6における異方性導電フィルムの配合、及び評価結果を示す。
【0090】
【表3】
【0091】
比較例6のようにアクリルゴムのガラス転移点が低い場合、導通抵抗が高かった。一方、実施例9、10のようにアクリルゴムのガラス転移点が−35℃以上の場合、優れた接続信頼性が得られ、リペアの成功率も高かった。