【実施例】
【0019】
図1に示すように、内面加工工具としてのボーリング工具10は、中心に中空部11を有する円柱状の本体部12と、この本体部12の中空部11に収納される段付きスリーブ13と、この段付きスリーブ13の大径部14に嵌められる第1ピストン15と、この第1ピストン15から軸方向に前方へ延びてピストンロッドを兼ねると共に段付きスリーブ13の小径部16に嵌められる第2ピストン17と、中空部11に収納される第3ピストン18と、中空部11に収納され第3ピストン18を段付きスリーブ13の先端面へ付勢するばね19及びばね受け21と、このばね受け21を支えつつ本体部12の先端に取付けられる筒部材22と、この筒部材22を貫通するようにして第3ピストン18から延びるピストンロッド23に嵌められたテーパー軸24と、筒部材22に摺動自在に取付けられ放射方向へ延びてテーパー軸24で押し出されるプッシュロッド25、25と、ピストンロッド23の先端に設けられる刃具移動抑制機構40と、筒部材22の先端開口を塞ぐリッド26とを備えている。
【0020】
本体部12の基部には、第1ピストン15の背面へ圧縮空気を送るエア通路27が設けられる。また、第2ピストン17と第3ピストン18の間の閉空間には、オイル28が充填されている。
エア通路27を介して圧縮空気が送られると、第1ピストン15が前進し、この第1ピストン15と共に第2ピストン17が前進する。すると、オイル28を介して第3ピストン18が押され、ピストンロッド23と共にテーパー軸24が前進する。テーパー軸24が前進すると、プッシュロッド25、25が径外方へ押される。
【0021】
本実施例では、テーパー軸24を軸方向に移動させる駆動部20は、第3ピストン18と、オイル28と、第1・第2ピストン15、17と、エア通路27とで構成される。第1ピストン15の受圧面積が第2ピストン17より大きいため、油圧よりも低圧の圧縮空気であっても、軸力を稼ぐことができる。オイル28は非圧縮性流体であるため、第3ピストン18の位置を正確の保持させることができる。
【0022】
しかし、駆動部20は、エアシリンダのみ、又は油圧シリンダのみであってもよい。ただし、エアシリンダのみである場合は、作動媒体が圧縮性流体であるため、ピストンの位置が変化し易く、位置精度が低下する可能性がある。
【0023】
また、油圧シリンダのみの場合は、位置精度は良好であるが、応答性に難があり、ピストンの移動速度が遅くなる。
この点、本実施例であれば、応答性のよい圧縮エアと位置精度のよいオイルを使用するので、応答性と位置精度がよくなる。
【0024】
図2に示すように、円柱状の本体部12には、複数(この例では6個)の荒加工用刃具31と、複数(この例では6個)の仕上げ用刃具32が交互に配置されており、仕上げ用刃具32の下にプッシュロッド25が各々配置される。なお、刃具31、32は、研削砥石であってもよい。
テーパー軸24が図面おもて側へ移動すると、プッシュロッド25が径方向に移動し、プッシュロッド25により、没状態の仕上げ用刃具32が突出状態になる。
【0025】
すなわち、
図1に示すプッシュロッド25とテーパー軸24と駆動部20とで、刃具押出機構30が構成される。
【0026】
図3に示すように、刃具移動抑制機構40は、例えば、遠心式ブレーキである。刃具移動抑制機構としての遠心式ブレーキ40は、ピストンロッド23(又は、テーパー軸24)の先端に取付けられる円板41と、この円板41に揺動自在に取付けられるアーム42と、このアーム42を閉じ方向へ付勢するトーションばね43と、アーム42の先端に一体形成されるウエイト部44と、筒部材22の内周面45とからなる。
【0027】
筒部材22と共に円板41が図面反時計方向に高速で回転すると、遠心力が発生し、トーションばね43に抗してウエイト部44が径外方へ移動する。
すると、
図4(a)に示すように、ウエイト部44が筒部材22の内周面45に当接する。
図4(b)に示すように、ウエイト部44が筒部材22の内周面45に当たることで、ウエイト部44と筒部材22との間で摩擦力が発生する。結果、テーパー軸24の軸方向移動が抑制される。
【0028】
なお、工具の回転方向に対し、回転方向上流側に円板41とアーム42の結合部47を設け、回転方向下流側にウエイト部44を設けると良い。すると、遠心力を有効に活用でき、確実にブレーキをかけることができる。
【0029】
好ましくは、筒部材22の内周面45は粗面とする。粗面にすることで、摩擦係数が増大し、摩擦力を増大させることができる。
図1にて、テーパー軸24を前進させて、仕上げ用刃具32を本体部12から突出させた状態で、ワークのボアを切削(研削)すると、切削抵抗により、大きな力が仕上げ用刃具32に加わる。
【0030】
オイル28の存在である程度までは仕上げ用刃具32が没方向へ移動することは阻止できる。しかし、それ以上の力を受けると、第1ピストン15が後退し、仕上げ用刃具32が没方向へ移動する心配がある。
【0031】
次に、遠心式ブレーキ40の変更例を説明する。
図5(a)に示すように、遠心式ブレーキ40Bは、ピストンロッド(
図1、符号23)で支持されるディスク51と、このディスク51に取付けられるブレーキロータ52とを備える。この例では、ディスク51とブレーキロータ52を別体としたが、一体であってもよい。
【0032】
ブレーキロータ52は、ディスク51に嵌められる筒状基部53と、この筒状基部53に1個の結合部47を介して連結され、筒状基部53をほぼ全周にわたって囲うウエイト部44とからなる。ウエイト部44と筒状基部53とは、結合部47を除く部位が環状溝54で分割されている。そして、ウエイト部44は、環状溝54側から延びる放射溝55で切り込まれる。
【0033】
ウエイト部44は、1枚の金属円板又は樹脂円板に、環状溝54や放射溝55を切り込むことで、容易に得られ、安価である。また、ウエイト部44は、樹脂の金型成形によっても製造可能であり、樹脂成形であれば射出成形持に環状溝54や放射溝55が形成できるため、製造コストを更に下げることができる。
【0034】
矢印に沿って、回されると、放射溝55がくさび形に広がり、結果、ウエイト部44は、径外方へ移動し、筒部材(
図3、符号22)に摺接する。
【0035】
図5(b)に示す遠心式ブレーキ40Cは、結合部47が、複数個(この例では2個)である点が、遠心式ブレーキ40Bと異なり、その他は遠心式ブレーキ40Bと同一であるため、符号を流用して、詳細な説明は省略する。
【0036】
図5(a)、(b)に示す遠心式ブレーキ40B、40Cは、
図3に示す遠心式ブレーキ40より構造が単純であり、安価である。
なお、遠心式ブレーキは、遠心作用を利用して制動作用を発揮することができる機構であれば、構造、形式は任意である。
【0037】
本発明では、切削時に刃具移動抑制機構40が作動して、テーパー軸24の後退移動を抑制するため、仕上げ用刃具32が没方向へ移動する心配はない。
そのために、安価なエアシリンダの作用が可能になったともいえる。
【0038】
尚、刃具移動抑制機構40は、遠心式ブレーキの他、本体部12から止めピンをテーパー軸24へ出没させる機構でもよく、要は、必要時に、テーパー軸24の軸方向移動を制限することができる機構であれば形式、構造は問わない。
【0039】
また、ボーリング工具10は、荒加工用刃具31と仕上げ用刃具32の双方を備えることが望ましいが、仕上げ用刃具32のみを備えるものであってもよい。
実施例においては、ボーリング工具について開示したが、刃具として研削砥石を用いたホーニング工具でも良い。