(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る車両の制御装置について、好適な実施形態を掲げ、添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0025】
[本実施形態の構成]
図1に示すように、本実施形態に係る車両の制御装置10(以下、制御装置10ともいう。)は、二輪車、四輪車、ハイブリッド車両、電動車両等の各種の車両12に適用される。なお、以下の説明では、特に断りがない限り、車両12が自動二輪車である場合について説明する。
【0026】
車両12は、駆動源としてのエンジン14と、該エンジン14の出力軸であるクランク軸16に連結され、エンジン14の動力を駆動輪である後輪18に伝達する自動変速機20とを有する。
【0027】
エンジン14には吸気管22が連結され、吸気管22にはスロットルバルブ24が設けられている。車両12のECU26がドライバ28を制御し、該ドライバ28がモータ30を駆動させることにより、スロットルバルブ24の開度(スロットル開度)が調整される。これにより、吸気管22を介してエンジン14に吸入される空気の吸入空気量が調整される。
【0028】
吸気管22におけるスロットルバルブ24の下流側には、インジェクタ32が設けられている。インジェクタ32は、ECU26からの制御に従って、スロットルバルブ24を介してエンジン14の燃焼室に流入する空気に燃料を噴射し、混合気を生成する。
【0029】
エンジン14には、点火プラグ34が設けられている。点火プラグ34は、ECU26からの制御に従って点火を行うことにより、吸気管22から燃焼室に流入した混合気を燃焼させる。これにより、エンジン14は、燃焼エネルギーを動力に変換する。
【0030】
自動変速機20は、複数の変速ギア段を有し、ECU26からの制御に従い、車速及びスロットル開度に応じて自動的に変速ギア段を切り換える。これにより、自動変速機20は、エンジン14のクランク軸16から伝達された動力である回転力を、変速比を変えて後輪18に伝達する。
【0031】
そして、本実施形態に係る制御装置10は、ECU26、記憶部36、及び、車両12内に設けられた各種のセンサやスイッチ等の検出手段を有する。
【0032】
具体的に、車両12には、ND切換スイッチ37、走行モード切換スイッチ38、シフトアップスイッチ40、シフトダウンスイッチ42、スロットルグリップ開度センサ(加速操作量検出手段)44、スロットル開度センサ(加速操作量検出手段)46、回転数センサ(回転数検出手段)48、ギアポジションセンサ50、車速センサ(車速検出手段)52、ブレーキ検出手段54、吸気圧センサ56、吸気温センサ58及び水温センサ60が設けられている。
【0033】
ND切換スイッチ37は、停車時に、運転者61(
図7参照)がニュートラル(N)側又はドライブレンジ(D)側のスイッチを押すことで、自動変速機20の状態をニュートラル状態(N)又はドライブレンジ状態(D)に切り換えるものである。走行モード切換スイッチ38は、運転者61のスイッチ操作により、自動変速機20の変速ギア段を自動的に切り換える自動変速モード、又は、変速ギア段を手動で切り換える手動変速モードに切り換えるものである。
【0034】
シフトアップスイッチ40は、自動変速モード中に、自動変速機20のシフトアップを手動で行うものである。また、シフトダウンスイッチ42は、自動変速モード中に、自動変速機20のシフトダウンを手動で行うものである。この場合、自動変速モード中に、運転者61がシフトアップスイッチ40及びシフトダウンスイッチ42のいずれかを操作すると、自動変速モードから手動変速モードに切り換わる。
【0035】
ND切換スイッチ37、走行モード切換スイッチ38、シフトアップスイッチ40及びシフトダウンスイッチ42は、一定周期毎、又は、運転者61がスイッチ操作を行う毎に、運転者61の操作結果を示す操作信号をECU26に出力する。
【0036】
スロットルグリップ開度センサ44は、車両12の図示しないスロットルグリップの開度(加速操作量)を検出する。スロットル開度センサ46は、スロットルバルブ24のスロットル開度(加速操作量)を検出する。回転数センサ48は、エンジン14のクランク軸16の回転数をエンジン回転数として検出する。ギアポジションセンサ50は、自動変速機20の現在の変速ギア段であるギアポジションを検出する。車速センサ52は、後輪18の回転数を検出することにより車両12の車速を検出する。吸気圧センサ56は、吸気管22に設けられ、エンジン14に吸入される空気の吸気圧を検出する。吸気温センサ58は、吸気管22に設けられ、エンジン14に吸入される空気の温度である吸気温を検出する。水温センサ60は、エンジン14を冷却する冷却水の水温を検出する。これらのセンサ44〜52、56〜60は、一定周期で検出対象の物理量を検出し、検出結果を示す信号をECU26に出力する。
【0037】
ブレーキ検出手段54は、運転者61がブレーキ操作を行うためのブレーキスイッチ、ブレーキレバー又はブレーキペダルである。運転者61のブレーキ操作によってブレーキ62が作動する際、ブレーキ検出手段54は、ブレーキ操作が行われたことを示すブレーキオン信号を生成する。ブレーキ検出手段54は、一定周期毎に、ブレーキオン信号、又は、ブレーキ操作が行われていないことを示すブレーキオフ信号をECU26に出力する。
【0038】
ECU26は、エンジン14を駆動制御するエンジン制御手段64と、自動変速機20を駆動制御する自動変速機制御手段66とを有する。記憶部36は、各種のプログラム及びデータ等を記憶する記憶媒体である。ECU26は、記憶部36に記憶されたプログラムを読み込んで実行することにより、エンジン制御手段64及び自動変速機制御手段66の機能を実現する。
【0039】
エンジン制御手段64は、スロットルグリップ開度センサ44が検出したスロットルグリップの開度に応じてスロットル開度を調整すると共に、スロットル開度又はスロットルグリップの開度、車速センサ52が検出した車速等に基づいて、インジェクタ32の燃料噴射量及び噴射タイミング、点火プラグ34の点火時期を制御して、エンジン回転数を制御する。
【0040】
自動変速機制御手段66は、記憶部36に記憶された複数の変速マップに基づいて、自動変速機20を駆動制御する。
【0041】
図2は、自動変速機制御手段66及び記憶部36の機能ブロック図である。
【0042】
自動変速機制御手段66は、走行モード切換手段70、自動変速モード切換手段72、登坂角更新判定手段74、勾配推定手段76、減速判定手段78及び登坂角推定手段80を有する。記憶部36は、自動変速マップ82及び走行状態判別マップ84を有する。自動変速マップ82は、デフォルトモード用変速マップ86、クイックモード用変速マップ(登坂変速マップ、降坂変速マップ)88及びシフトダウン用変速マップ90を有する。なお、以下の説明では、デフォルトモード用変速マップ86をDマップ86、クイックモード用変速マップ88をQマップ88と呼称する。
【0043】
図3は、Dマップ86を示す図であり、スロットル開度及び車速に応じた自動変速機20(
図1参照)の変速タイミングが設定されている。
図3において、実線は、変速ギア段が高速側に切り換わる変速タイミング(1速→2速、2速→3速、3速→4速、4速→5速、5速→6速)を示す。破線は、変速ギア段が低速側に切り換わる変速タイミング(6速→5速、5速→4速、4速→3速、3速→2速、2速→1速)を示す。
【0044】
図4は、Qマップ88を示す図であり、Dマップ86(
図3参照)と同様に、スロットル開度及び車速に応じた自動変速機20(
図1参照)の変速タイミングが設定されている。
図4において、実線は、変速ギア段が高速側に切り換わる変速タイミング(1速→2速、2速→3速、3速→4速、4速→5速、5速→6速)を示す。破線は、変速ギア段が低速側に切り換わる変速タイミング(6速→5速、5速→4速、4速→3速、3速→2速、2速→1速)を示す。
【0045】
Qマップ88は、Dマップ86より駆動力を重視した変速マップであり、Dマップ86よりも変速比が低い領域が多い。これにより、Qマップ88では、少なくとも変速ギア段が高速側に切り換わる変速タイミングが、Dマップ86より遅くなる。詳しくは、Qマップ88において、車速に基づいて変速ギア段が高速側に切り換わる変速タイミングが、Dマップ86より遅く設定されている。
【0046】
具体的には、変速ギア段が、高速側に切り換わる変速タイミングの車速が、Dマップ86よりQマップ88の方が大きく設定されている。従って、Dマップ86では、変速ギア段が高速側(例えば、3速→4速)に切り換わる変速タイミングの車速で車両12が走行していても、Qマップ88では、変速ギア段が高速側(例えば、3速→4速)に切り換わらず、該車速より早い車速になって初めて、変速ギア段が高速側(例えば、3速→4速)に切り換わる。これにより、Qマップ88での変速タイミングは、Dマップ86と比較して、より遅くなる。
【0047】
図5は、シフトダウン用変速マップ90を示す図であり、推定登坂角θ(
図7参照)、及び、車両12の降坂走行時(下り坂の走行時)に自動変速機20が自動的にシフトダウンするときの車速(降坂時シフトダウン車速)に応じた自動変速機20の変速タイミングが設定されている。
【0048】
すなわち、
図5の実線は、変速ギア段が低速側に切り換わる変速タイミング(5速→4速、4速→3速、3速→2速、2速→1速)を示しており、降坂走行時に路面92(
図7参照)が急勾配になるに従って、変速ギア段が低下することを示している。また、シフトダウン用変速マップ90においても、Qマップ88と同様に、降坂時シフトダウン車速の大きさを、Dマップ86でのシフトダウン車速よりも大きく設定することが望ましい。
【0049】
なお、推定登坂角θは、車両12が路面92を走行中、登坂角推定手段80によって推定される登坂角をいう。この場合、登坂角は、上り方向(登坂方向)の勾配sinθに応じた路面92の傾斜角(上り坂の傾斜角)や、下り方向(降坂方向)の勾配sinθに応じた路面92の傾斜角(下り坂の傾斜角)を含む概念である。登坂角推定手段80による推定登坂角θの推定処理については後述する。
【0050】
図6は、走行状態判別マップ84を示す図である。走行状態判別マップ84は、スロットル開度及び車速に応じて、加速走行領域、クルーズ走行領域、減速走行領域及びスロットルオフ領域に区分されている。従って、走行状態判別マップ84を用いることで、現在のスロットル開度及び車速から、車両12の走行状態が、加速走行領域、クルーズ走行領域、減速走行領域及びスロットルオフ領域のいずれの領域であるかを判別することが可能となる。
【0051】
なお、スロットルオフ領域は、スロットル開度が所定の値TH0以下の領域、すなわち、スロットル開度が0近傍の領域である。運転者61がブレーキ操作を行っているときには、基本的に、運転者61はスロットルグリップを操作しない。この場合、車両12は、スロットルオフ領域にある。また、スロットルオフ領域及び減速走行領域では、車両12は、少なくとも上り坂を走行し続けることが困難な減速状態にある。
図6では、スロットルオフ領域及び減速走行領域と、加速走行領域及びクルーズ走行領域との境界線上のスロットル開度を、閾値THとして図示している。閾値THは、車速が所定値まではTH0であり、所定値を超えると車速に応じて増加する。
【0052】
図2に戻り、走行モード切換手段70は、自動変速機20(
図1参照)がドライブレンジ状態で自動変速モードに設定されている場合に、走行モード切換スイッチ38、シフトアップスイッチ40及びシフトダウンスイッチ42のいずれかが操作されると、自動変速モードから手動変速モードに切り換える。これにより、自動変速機制御手段66は、手動変速モードに設定され、運転者61のシフトアップスイッチ40及びシフトダウンスイッチ42の操作に応じて自動変速機20の変速ギア段を切り換える。従って、手動変速モードに設定されている場合、変速ギア段が自動的に切り換わることはない。
【0053】
また、走行モード切換手段70は、走行状態判別マップ84を用いて、シフトアップスイッチ40及びシフトダウンスイッチ42のうち一方が操作されたときのスロットル開度及び車速から、手動操作が行われたときの車両12の走行状態を判別する。さらに、走行モード切換手段70は、走行状態判別マップ84を用いて、シフトアップスイッチ40及びシフトダウンスイッチ42のうち一方が操作された後のスロットル開度及び車速から、手動操作後の車両12の走行状態を判別する。
【0054】
さらに、走行モード切換手段70は、シフトアップスイッチ40及びシフトダウンスイッチ42の操作と、手動変速操作時及び手動変速操作後の走行状態とに基づき、手動変速モードから自動変速モードに自動的に復帰する。
【0055】
自動変速モード切換手段72は、自動変速モードが選択されている場合、原則として、自動変速機20の変速ギア段の切り替えに用いるマップをDマップ86に設定する。一方、推定登坂角θが一定値以上等の所定条件が成立した場合、自動変速モード切換手段72は、変速ギア段の切り替えに用いるマップをDマップ86からQマップ88に切り替える。
【0056】
従って、自動変速機制御手段66は、原則として、Dマップ86を用いて自動変速機20を駆動制御し、変速ギア段を自動的に切り換える。また、自動変速機制御手段66は、自動変速モード切換手段72によって変速マップがDマップ86からQマップ88に切り替わった場合、切り替わったQマップ88を用いて自動変速機20を駆動制御し、変速ギア段を自動的に切り換える。
【0057】
なお、Dマップ86及びQマップ88と、走行状態判別マップ84のうち、加速走行領域、クルーズ走行領域及び減速走行領域と、これらのマップを用いた自動変速機20の駆動制御とについては、例えば、特開2013−68246号公報に開示されている。そのため、これらのマップの詳細な説明については省略する。
【0058】
勾配推定手段76は、車両12が走行する路面92の勾配sinθを推定する。
【0059】
図7は、車両12に運転者61が乗車し、路面92を走行する場合において、路面92の勾配sinθを推定する際の説明図である。ここで、車両12の重量をM、重力加速度をG、後輪18の駆動力をkk、車両12の走行抵抗をst、路面92の勾配角である登坂角をθ、走行している車両12の加速度をaccとし、さらに、車両12及び運転者61の等価慣性質量をMe(n)とした場合、勾配sinθは、下記の(1)式から求めることができる。
Me(n)×acc=kk−st−M×G×sinθ (1)
【0060】
従って、勾配推定手段76は、上記(1)式に従って車両12が走行する路面92の勾配sinθを推定する。また、前述のように、車速を示す信号等は、一定周期毎にECU26に入力されるので、勾配推定手段76は、一定周期毎に勾配sinθの推定処理を行うことができる。
【0061】
なお、上記(1)式は、特許文献1中にも記載されているので、(1)式中の各物理量の具体的な説明については省略する。但し、加速度accは、車速の時間変化であり、後輪駆動力kkは、エンジン回転数、吸気温及び水温等から導かれる物理量である。走行抵抗stは、車両12の重量M、車速及び重力加速度G等から導かれる物理量である。等価慣性質量Me(n)は、ギアポジションn毎のクランク軸16の慣性モーメントを質量に変換し、変換した質量に車両12及び運転者61の質量を加算したものである。
【0062】
減速判定手段78は、車速、スロットル開度及び走行状態判別マップ84を用いて、車両12が減速状態(減速走行領域、スロットルオフ領域)にあるか否かを判定する。具体的に、減速判定手段78は、走行状態判別マップ84を参照して、現在のスロットル開度及び車速から、車両12の走行状態を判別し、減速走行領域又はスロットルオフ領域に該当すれば、車両12が減速状態にあると判定する。
【0063】
登坂角更新判定手段74は、登坂角推定手段80による登坂角θの推定処理を禁止すべきか否かを判定する。前述のように、勾配推定手段76は、一定周期毎に勾配sinθを推定することができるので、登坂角推定手段80においても、一定周期毎に登坂角θを推定し、更新することが可能である。以下の説明では、登坂角推定手段80による更新処理後の登坂角θを推定登坂角θともいう。
【0064】
そして、登坂角更新判定手段74は、減速判定手段78が車両12の減速状態を判定し、且つ、勾配推定手段76が上り方向の勾配sinθ、すなわち、上り勾配を推定したか否かの判定処理を一定周期毎に行う。車両12が減速状態にあり、且つ、上り勾配の推定結果である場合、登坂角更新判定手段74は、登坂角推定手段80による増加方向(上り方向)への推定登坂角θの更新処理を禁止する。一方、それ以外の結果である場合、登坂角更新判定手段74は、登坂角推定手段80による推定登坂角θの更新処理を許可する。
【0065】
登坂角推定手段80は、登坂角更新判定手段74による更新許可の判定結果に基づき、勾配推定手段76が推定した勾配sinθから、推定登坂角θを算出し、更新する。
【0066】
[本実施形態の動作]
本実施形態に係る制御装置10は、以上のように構成されるものである。次に、制御装置10の動作について、
図8〜
図13を参照しながら説明する。この動作説明では、必要に応じて、
図1〜
図7も参照しながら、制御装置10の動作を説明する。
【0067】
ここでは、下記の第1〜第4の動作について説明する。
【0068】
(1)第1の動作:車両12が下り坂を走行中、シフトダウン用変速マップ90を用いて自動変速機20をシフトダウンさせる場合の制御装置10の動作。
【0069】
(2)第2の動作:車両12が下り坂を走行中、推定登坂角θの大きさ及びブレーキ操作回数に基づきDマップ86からQマップ88に切り替える場合の制御装置10の動作。
【0070】
(3)第3の動作:車両12が上り坂を走行中、推定登坂角θの大きさ及び加速操作回数に基づきDマップ86からQマップ88に切り替える場合の制御装置10の動作。
【0071】
(4)第4の動作:ブレーキ検出手段54の故障(ブレーキオン信号をECU26に供給できない故障)が発生している場合に、推定登坂角θを更新処理するときの制御装置10の動作。
【0072】
これらの動作は、下記の課題に基づき成されたものである。
【0073】
すなわち、加速度センサや傾斜センサ等の路面92の勾配sinθを検出可能なセンサを搭載しない車両12では、勾配sinθによらず変速タイミングが決定される場合がある。この結果、下り坂では、平坦路と比べて車速が上昇しやすくなり、運転者61は、エンジンブレーキが不足していると感じる場合がある。一方、上り坂では、車両12に対する走行抵抗stが増加するため、運転者61は、後輪18の駆動力が不足していると感じる場合がある。
【0074】
一方、加速度センサや傾斜センサを車両12に搭載すれば、コストがかかる。そのため、これらのセンサを用いることなく、車両12に既に搭載されている各種の検出手段の検出結果を用いて、路面92の勾配sinθ及び推定登坂角θを推定し、推定した登坂角θに応じた変速スケジュールに変更することにより、上り坂及び下り坂における変速タイミングを向上させる。
【0075】
以下に、第1〜第4の動作について、順に説明する。
【0076】
[第1の動作]
第1の動作は、
図5及び
図8に示すように、車両12が下り坂を走行している場合に、いかなるタイミングで自動変速機20をシフトダウンさせるかに関する制御装置10の動作である。
【0077】
第1の動作において、制御装置10は、
図5のシフトダウン用変速マップ90を用いて、自動変速機20をシフトダウンさせるときの車速の閾値(シフトダウン車速)を決定する。
【0078】
図5に実線で示すように、変速タイミング毎のシフトダウン車速の大きさは、推定登坂角θの大きさによって変化する。
【0079】
そこで、勾配推定手段76は、回転数センサ48がエンジン回転数を検出し、車速センサ52が車速を検出し、吸気温センサ58が吸気温を検出し、水温センサ60が水温を検出する場合、各センサ48、52、58、60からECU26に入力される信号に基づき、下り坂の路面92の勾配sinθを上記の(1)式により推定する。登坂角推定手段80は、勾配sinθから推定登坂角θを算出する。
【0080】
次に、自動変速モード切換手段72は、シフトダウン用変速マップ90中、ギアポジションセンサ50が検出した現在のギアポジションから、例えば、1速分シフトダウンするときの閾値線(
図5中の実線)を特定する。
【0081】
次に、自動変速モード切換手段72は、特定した閾値線において、登坂角推定手段80が算出した推定登坂角θに対応する車速を求め、求めた車速を、推定登坂角θにおいて、現在のギアポジションから1速分シフトダウンするときのシフトダウン車速(以下、降坂時シフトダウン車速ともいう。)として決定する。
【0082】
この場合、自動変速モード切換手段72は、平地走行のときと同等のエンジンブレーキが得られるような閾値線を特定し、特定した閾値線から降坂時シフトダウン車速を決定することが望ましい。また、
図5に示すように、推定登坂角θの絶対値が大きくなる、すなわち、路面92が急勾配になる場合、自動変速モード切換手段72は、
図5中、より左側の実線を閾値線として選択する。
【0083】
さらに、推定登坂角θが一定値(例えば、−数°)以上である場合、自動変速モード切換手段72は、誤判定を防止するため、シフトダウン用変速マップ90を用いた降坂時シフトダウン車速の決定処理を実行しないようにすることが望ましい。すなわち、推定登坂角θが一定値以上の場合、自動変速モード切換手段72は、
図4のQマップ88を用いて、自動変速機20のシフトダウンを実行する。一方、平地走行の場合、自動変速モード切換手段72は、
図3のDマップ86を用いて自動変速機20のシフトダウンを実行する。
【0084】
従って、自動変速モード切換手段72は、降坂走行時には、推定登坂角θの絶対値が大きくなるに従って、Dマップ86→シフトダウン用変速マップ90→Qマップ88の順に、変速マップを切り替える。すなわち、平坦走行に近い状態では、Dマップ86を用いて、高速側の変速ギア段で車両12を走行させる。一方で、推定登坂角θが急勾配側の降坂走行では、シフトダウン用変速マップ90又はQマップ88を用いて、車速が大きくなる程、低速側の変速ギア段にシフトダウンさせて、エンジンブレーキを効かせながら車両12を走行させる。
【0085】
ところで、ブレーキングダウンシフトの仕様と同様に、車両12の減速開始直後又はシフトダウン直後等には、車体のピッチング方向の動きが安定しない。この状況でシフトダウンを行うと、運転者61が違和感を感じる場合がある。従って、このような違和感を運転者61に感じさせないような工夫が必要である。
【0086】
また、降坂走行時において、運転者61が車両12を惰性走行させたい場面も想定される。この場合、自動変速機制御手段66は、ブレーキ検出手段54からECU26にブレーキオン信号が入力される場合、すなわち、運転者61の減速の意思がある場合にのみ、自動変速機20のシフトダウンを実行することにより、運転者61の意思を反映したギア選択が可能となる。
【0087】
そこで、自動変速機制御手段66は、降坂走行時において、下記の条件に従って、自動変速機20のシフトダウンを実行する。
【0088】
[1]ブレーキ検出手段54からECU26にブレーキオン信号の入力が開始された時点より、一定時間Δtの経過後に、自動変速機20のシフトダウンを許可する。
【0089】
[2]ブレーキ検出手段54からECU26へのブレーキオン信号の入力がない場合には、車速センサ52が検出した車両12の実際の車速が、降坂時シフトダウン車速を下回っても、自動変速機20のシフトダウンを実行しない。
【0090】
[3]シフトダウンの実行後、自動変速機制御手段66は、図示しないタイマを動作させ、自動変速機20のシフトダウンを一時的に禁止状態とすることにより、シフトダウンを連続して実行することを回避する。
【0091】
ここで、上記[1]〜[3]の条件に従って、降坂走行時に自動変速機20のシフトダウンを実行する場合について、
図8を参照しながら、具体的に説明する。
【0092】
車速センサ52は、車両12の車速を逐次検出し、検出結果を示す信号をECU26に出力する。勾配推定手段76は、前述の(1)式に従って、勾配sinθを推定し、登坂角推定手段80は、勾配sinθから推定登坂角θを算出する。自動変速モード切換手段72は、登坂角推定手段80が算出した推定登坂角θと、ギアポジションセンサ50が検出したギアポジションとに基づき、
図5のシフトダウン用変速マップ90から降坂時シフトダウン車速を逐次求める。
【0093】
従って、
図8に示すように、実線で示す車両12の実際の車速と、降坂時シフトダウン車速とは、時間経過に伴って変化する。
【0094】
ここで、スロットル開度がTH0以下のスロットルオフ領域(
図6参照)が続いた後、時点t1で、運転者61によるブレーキ操作が開始された場合、ブレーキ検出手段54からECU26にブレーキオン信号が入力される。これにより、ブレーキ操作が行われるt1〜t2の時間帯において、実際の車速は、時間経過に伴って減速する。なお、t1〜t2の時間帯においても、車両12は、スロットルオフ領域にある。
【0095】
その後、時点t2で運転者61がブレーキ操作を停止し、運転者61によるスロットル操作もない場合、車両12は、下り坂を惰性で走行する。これにより、実際の車速及び降坂時シフトダウン車速は、時間経過に伴って上昇する。
【0096】
時点t3で降坂時シフトダウン車速が実際の車速を上回った場合、自動変速モード切換手段72は、上記[2]の条件に従って、自動変速機20のシフトダウンを直ちに実行しない。すなわち、ブレーキオン信号が入力されず、且つ、スロットル開度がTH0以下のスロットルオフ領域である場合、自動変速モード切換手段72は、運転者61に惰性走行の意思があると判断して、実際の車速が降坂時シフトダウン車速を下回っても、シフトダウンを直ちに実行しない。
【0097】
その後、時点t4で、運転者61によるブレーキ操作が開始され、ブレーキ検出手段54からECU26にブレーキオン信号が入力された場合、実際の車速は、時間経過に伴って減速する。なお、t4以降のブレーキ操作中の時間帯においても、車両12は、スロットルオフ領域にある。
【0098】
そして、時点t4から一定時間Δt経過した時点t5において、自動変速モード切換手段72は、上記[1]の条件に従って、自動変速機20のシフトダウンを実行する。つまり、
図8において、自動変速機20のシフトダウンは、ブレーキ操作が開始される時点t4から一定時間Δtだけ経過し、そのときの実際の車速が、時点t4における実際の車速よりも低く、且つ、降坂時シフトダウン車速よりも低い、時点t5のタイミングで実行される。
【0099】
なお、時点t5でシフトダウンが実行された後、自動変速モード切換手段72は、タイマを動作させ、時点t5から所定時間内でのシフトダウンの実行を一時的に禁止する。これにより、シフトダウンが連続して実行されることを回避することができる。また、ベースとなる降坂時シフトダウン車速からシフトダウンを実行する場合、エンジン回転数が過剰に低下することを防止する観点から、上記[1]〜[3]の条件に関わりなく、実際の車速が降坂時シフトダウン車速まで低下すればシフトダウンを実行する。
【0100】
[第2の動作]
第2の動作は、
図9に示すように、車両12が下り坂を走行している場合に、自動変速機20のシフトダウンの判定に用いる変速マップについて、いかなるタイミングでDマップ86からQマップ88に移行させるかに関する制御装置10の動作である。
【0101】
降坂走行時には、適切なエンジンブレーキを確保して車両12を走行させる必要がある。そのためには、平地走行と比べて、シフトダウンの実行を早めると共に、加速中のシフトアップ時の車速(シフトアップ車速)を高速側にシフトさせて、自動変速機20の変速ギア段の変更(ギアシフト)が頻繁に発生しないようすることが重要である。
【0102】
図4のQマップ88は、
図3のDマップ86と比較して、実線で示すシフトアップ車速が高めに設定されている。従って、降坂走行時においても、Qマップ88を選択することにより、より適切なギアシフトが実行可能となる。そのため、第2の動作では、Dマップ86を用いて自動変速機20を制御する走行状態(以下、Dモードともいう。)において、下り坂が検知された場合には、Qマップ88を用いた自動変速機20を制御する走行状態(以下、Qモードともいう。)に遷移する。
【0103】
従って、車両12は、通常、Dモードで走行しているが、所定の遷移条件が成立すれば、DモードからQモードに移行し、その後、所定の復帰条件が成立すればQモードからDモードに戻る。
【0104】
ここで、DモードからQモードに移行するための遷移条件は、以下の通りである。すなわち、推定登坂角θが一定値(−数°)よりも低い場合、換言すれば、降坂方向の勾配sinθが大きい場合には、運転者61によるブレーキ操作がn回行われると、Dマップ86からQマップ88に切り替える。但し、ブレーキ操作回数のカウント中に、推定登坂角θが一定値以上、且つ、スロットル開度がTH以上で、車両12のクルーズ走行が時間Ta以上継続した場合には、カウントを0にリセットし、DモードからQモードに遷移させないようにする。
【0105】
また、Qモードに一旦遷移した後にDモードに復帰するための復帰条件は、以下の通りである。すなわち、推定登坂角θが一定値(−数°)以上の平坦路又は上り坂であり、車両12のクルーズ走行が所定時間継続した場合、エンジンブレーキが不要な状態が継続していると判断し、QモードからDモードに復帰する。
【0106】
上記の各条件のうち、遷移条件について、
図9のタイミングチャートを参照しながら、具体的に説明する。
【0107】
図9に示すように、推定登坂角θがQマップ移行判定閾値よりも低く、車両12が下り坂を走行している場合、ブレーキ検出手段54は、運転者61のブレーキ操作を示すブレーキオン信号(ON)、又は、ブレーキ操作が行われていないことを示すブレーキオフ信号(OFF)を、一定時間間隔でECU26に出力する。
【0108】
ここで、時点t6で、運転者61が3回目のブレーキ操作を開始し、ブレーキ検出手段54からECU26に、3回目のブレーキ操作に応じたブレーキオン信号が供給されると、自動変速モード切換手段72は、図示しないカウンタを用いてブレーキ操作回数をカウントし、ブレーキ操作回数が、Dマップ86からQマップ88への遷移を判定する閾値N(例えば、N=3)に到達したと判断して、自動変速機20のギアシフトに用いられる変速マップを、Dマップ86からQマップ88に切り替える。これにより、車両12の走行状態は、DモードからQモードに切り替わる。
【0109】
一方、
図10に示すように、推定登坂角θがQマップ移行判定閾値を上回り、その後、時点t7で、運転者61によるスロットル操作に起因してスロットル開度が大きくなり、車両12がスロットルオフ領域からクルーズ走行領域に移行したとする。この場合、クルーズ走行領域のまま、時点t7から時間Ta経過した時点t8において、自動変速モード切換手段72は、カウンタによるブレーキ操作回数のカウントをリセットする。これにより、時点t8後、最初のブレーキ操作が行われると、カウンタは、1回目のブレーキ操作としてカウントする。従って、
図10の場合には、車両12は、Dモードを維持する。
【0110】
[第3の動作]
第3の動作は、
図11及び
図12に示すように、車両12が上り坂を走行している場合に、自動変速機20のシフトダウンの判定に用いる変速マップについて、いかなるタイミングでDマップ86からQマップ88に移行させるかに関する制御装置10の動作である。
【0111】
登坂走行時には、適切な駆動力を確保して車両12を走行させる必要がある。そのためには、第2の動作(
図9及び
図10参照)と同様に、平地走行と比べて、シフトダウンの実行を早めると共に、加速中のシフトアップ車速を高速側にシフトさせて、ギアシフトが頻繁に発生しないようすることが重要である。
【0112】
つまり、第2の動作と同様に、第3の動作においても、Qマップ88を選択することで、より適切なギアシフトが実行可能である。そのためには、登坂走行時にQマップ88に早期に移行させ、当該Qマップ88を保持した状態で走行できるようにすることが望ましい。
【0113】
ここで、DモードからQモードに移行するための遷移条件は、以下の通りである。この遷移条件では、運転者61によるスロットルグリップの操作回数、すなわち、車両12の加速突入回数と、Qマップ移行加速回数判定値との関係に基づき、Dマップ86からQマップ88に移行する。この場合、推定登坂角θが一定値(+数°)よりも大きく、すなわち、登坂方向に勾配sinθが大きければ、Qマップ移行加速回数判定値を通常時よりも小さな値に切り替え、加速突入回数が、切り替え後のQマップ移行加速回数判定値に到達すれば、Dマップ86からQマップ88に移行する。一方、推定登坂角θが一定値(+数°)よりも大きく、登坂方向に勾配sinθが大きい場合には、車両12がクルーズ走行を維持しているか否かに関わりなく、Qマップ88に留まり、Dマップ86に復帰させないようにする。
【0114】
ここで、
図11及び
図12のタイミングチャートを参照しながら、第3の動作について具体的に説明する。
【0115】
車両12がDモードの場合、時点t9で運転者61のスロットル操作により1回目の加速が行われ、時点t10で推定登坂角θが登坂判定閾値を上回ると、自動変速モード切換手段72は、Qマップ移行加速回数判定値の値を、通常の値よりも小さな値に切り替える。自動変速モード切換手段72は、図示しないカウンタを有しており、車両12の加速回数をカウントしている。
【0116】
時点t11で運転者61のスロットル操作により2回目の加速が行われ、カウンタがカウントした回数が、切り替え後のQマップ移行加速回数判定値に到達した場合、自動変速モード切換手段72は、ギアチェンジに用いる変速マップを、Dマップ86からQマップ88に切り替える。
【0117】
このように、
図11の場合には、登坂走行時に、Qマップ移行加速回数判定値を小さくして、より少ない加速回数でDマップ86からQマップ88に切り替えるようにしているので、平坦路を走行する場合と比較して、早めにQマップ88に移行させることができる。なお、
図11では、一例として、Qマップ移行加速回数判定値を(3回から)2回に低下させた場合について説明したが、当該判定値は、車両12の走行状況に応じて、適宜設定可能である。
【0118】
一方、
図12に示すように、Qマップ88に切り替わった後、車両12がスロットルオフ領域にある場合、時点t12で運転者61がスロットル操作を行えば、スロットル開度は大きくなり、車両12はクルーズ走行領域に移行する。ここで、推定登坂角θが登坂判定閾値を上回った状態が継続している場合には、自動変速モード切換手段72は、Qマップ88からDマップ86への復帰を行わない。この結果、時点t12から時点t13まで、クルーズ走行状態のまま時間Tb経過しても、Qモードが維持される。
【0119】
[第4の動作]
第4の動作は、
図13のフローチャートに示すように、ブレーキ検出手段54(
図1参照)が故障しており、運転者61がブレーキ操作を行っても、ブレーキ検出手段54からECU26にブレーキオン信号を供給できない場合における推定登坂角θの更新処理に関するものである。
【0120】
ブレーキ検出手段54が故障している場合、運転者61(
図7参照)がブレーキ操作を行っても、ブレーキ検出手段54からECU26にブレーキオン信号が供給されることはない。この結果、自動変速機制御手段66(
図2参照)は、ブレーキオン信号の供給がないため、運転者61に減速の意思がないと判定し、推定登坂角θの更新処理を継続して実行すると共に、車両12が下り坂を走行中であっても、自動変速機20のギアチェンジを実行し続ける。
【0121】
すなわち、エンジン14の動力がクランク軸16から自動変速機20を介して後輪18に伝達される場合に、車速が減速すると、自動変速機制御手段66は、運転者61のブレーキ操作によって減速したのか、あるいは、車両12が平坦路又は上り坂を走行することにより減速したのか、のどちらかであると判定する。
【0122】
しかしながら、ブレーキ検出手段54が故障している場合、車両12が下り坂を走行中、運転者61が減速の意思を持ってブレーキ操作を行っても、ブレーキ検出手段54からECU26にブレーキオン信号が入力されないので、自動変速機制御手段66は、車両12が平坦路又は上り坂を走行中であると誤判定する可能性がある。
【0123】
但し、
図6の走行状態判別マップ84のように、車両12の走行状態がスロットルオフ領域又は減速走行領域である場合、車両12は、少なくとも上り坂を走行し続けることは困難である。また、運転者61がブレーキ操作を行っている間は、基本的に、スロットル開度は閾値TH(又はTH0)以下であり、車両12はスロットルオフ領域又は減速走行領域にある。
【0124】
このような誤判定を防止するため、角度センサを車両12に搭載して、上り坂、平坦路又は下り坂を検知することも考えられる。しかしながら、角度センサを設けると、コストがかかる。従って、コストをかけずに誤判定を防止するためには、車両12に備わっている各種の検出手段を用いて上り坂、平坦路又は下り坂を推定できる方法を構築する必要がある。
【0125】
そこで、第4の動作では、車両12の走行状態がスロットルオフ領域又は減速走行領域にある場合には、登坂角の増加方向への更新処理を禁止することにより、ブレーキ検出手段54が故障しているときの推定登坂角θの誤推定を回避するようにしている。
【0126】
ここで、
図13のフローチャートを参照しながら、第4の動作について、具体的に説明する。
【0127】
ステップS1において、登坂角更新判定手段74は、吸気圧センサ56、吸気温センサ58及び水温センサ60が故障しているか否かを判定する。
【0128】
これらのセンサ56〜60が故障していない場合(ステップS1:NO)、次のステップS2において、登坂角更新判定手段74は、インジェクタ32が噴射カットを継続中であるか、又は、インジェクタ32が間欠噴射を行っているか否かを判定する。具体的には、トラクションコントロールの作動、図示しないスピードリミッタの作動、又は、エンジン14が最高出力状態にある場合に、エンジン14の過回転を防止するレブカット制御の実行によって、噴射カット又は間欠噴射が行われているか否かを判定する。
【0129】
ステップS2中のいずれの判定処理でも否定的な判定結果が得られた場合(ステップS2:NO)、登坂角更新判定手段74は、次のステップS3において、スロットル開度の時間変化量が所定時間継続して一定値以内に納まっているか否かを判定する。
【0130】
スロットル開度が過渡状態ではなく、安定した状態である場合(ステップS3:YES)、次のステップS4において、登坂角更新判定手段74は、自動変速機20のクラッチが完全に締結しているか否か、すなわち、クラッチがロック状態であるか否かを判定する。
【0131】
クラッチがロック状態であることにより、エンジン回転数及びスロットル開度と、後輪18の駆動力との対応関係が維持できている場合(ステップS4:YES)、次のステップS5において、登坂角更新判定手段74は、ブレーキ検出手段54からECU26へのブレーキオフ信号の入力が一定時間継続しているか否かを判定する。
【0132】
ブレーキ62のオフ状態が継続しており、ブレーキ操作に起因した走行抵抗stの増加によって上り勾配と誤判定されるおそれがない場合(ステップS5:YES)、次のステップS6において、登坂角更新判定手段74は、図示しない前輪の車輪速と、後輪18の車輪速(車速センサ52が検出した車速)との比である前後車輪速比が、所定時間継続して一定値以内に納まっているか否かを判定する。なお、前輪の車輪速については、図示しない他の車速センサを用いて、前輪の車輪速を検出すればよい。
【0133】
前後車輪速比が所定時間継続して一定値以内に納まっており、車速センサ52が検出した車速と後輪18の駆動力との対応関係が維持できている場合(ステップS6:YES)、登坂角更新判定手段74は、勾配推定手段76による勾配sinθの推定処理の実行を許可する。これにより、ステップS7において、勾配推定手段76は、登坂角更新判定手段74の許可決定を受けて、上記(1)式から勾配sinθを推定する。
【0134】
次のステップS8において、登坂角推定手段80は、勾配推定手段76が推定した勾配sinθから登坂角θtを算出する。なお、ステップS8で算出される登坂角θtは、勾配sinθから暫定的に求めた登坂角であり、登坂角推定手段80が推定登坂角θとして最終的に決定する後述の推定登坂角θfとは異なるものである。
【0135】
次のステップS9において、減速判定手段78は、車両12の現在の走行状態が減速走行領域又はスロットルオフ領域にあるか否かを判定する。また、登坂角更新判定手段74は、登坂角推定手段80が算出した登坂角θtが所定のリミット角θlimよりも大きいか否かを判定する。
【0136】
ステップS9において、車両12の現在の走行状態が減速走行領域又はスロットルオフ領域ではないと減速判定手段78が判定し、且つ、θt>θlimでないと登坂角更新判定手段74が判定した場合(ステップS9:NO)、登坂角更新判定手段74は、上り坂と誤判定する可能性がないと判断する。
【0137】
次のステップS10において、登坂角更新判定手段74は、登坂角θtとリミット角θlimとの差分の絶対値|θt−θlim|が所定の登坂角変化リミット値θvlimよりも大きいか否かを判定する。なお、登坂角変化リミット値θvlimは、登坂角θtの時間変化量のリミット値であり、予め設定された値である。
【0138】
|θt−θlim|>θvlimであれば(ステップS10:YES)、登坂角更新判定手段74は、登坂角θtの変化が大きいので、登坂角θtに対して上下限のリミット処理を行う必要があると判定する。そこで、次のステップS11において、登坂角推定手段80は、登坂角更新判定手段74の判定結果を受けて、登坂角変化リミット値θvlimを考慮したリミット角θlimを設定する。
【0139】
具体的に、登坂角θtに対する上下限のリミット処理を実行すべく、登坂角推定手段80は、下記(2)式又は(3)式に従って、新たなリミット角θlimを設定する。
θlim+θvlim→θlim (2)
θlim−θvlim→θlim (3)
【0140】
つまり、暫定的に推定した登坂角θtが所定の範囲から逸脱する場合、登坂角推定手段80は、登坂角θtをリミット角θlimにリミットする。
【0141】
一方、|θt−θlim|≦θvlimであれば(ステップS10:NO)、登坂角更新判定手段74は、登坂角θtの変化が小さいので、登坂角θtに対する上下限のリミット処理は不要と判定する。次のステップS12において、登坂角推定手段80は、登坂角更新判定手段74の判定結果を受けて、登坂角θtを新たなリミット角θlimに設定する(θt→θlim)。
【0142】
次のステップS13において、登坂角推定手段80は、ステップS11又はステップS12で設定された新たなリミット角θlimと、予め設定した所定のフィルタ係数NFとを用いて、下記(4)式により、今回の更新処理での推定登坂角θfを決定する。
(前回のθf)+NF×{θlim−(前回のθf)}→(今回のθf)
(4)
【0143】
従って、制御装置10では、
図13のステップS1〜S13の処理を一定時間毎に繰り返し実行することにより、推定登坂角θfを最終的な推定登坂角θとして逐次更新することができる。
【0144】
なお、ステップS1において、吸気圧センサ56、吸気温センサ58及び水温センサ60のうち、少なくとも1つのセンサが故障している場合には(ステップS1:YES)、次のステップS14において、登坂角推定手段80が推定登坂角θfを初期化して0°にリセットするか、又は、今回の更新処理をスキップする。これらのセンサ56〜60のうち、少なくとも1つのセンサが故障している場合、車両12のエンジン14等を適切に制御することが困難になると共に、ステップS7において、(1)式に基づき勾配sinθを精度よく推定することができなくなるためである。
【0145】
また、ステップS2又はステップS9で肯定的な判定結果が得られた場合や、ステップS3〜S6のうち、いずれかのステップで否定的な判定結果が得られた場合でも、今回の更新処理をスキップする。
【0146】
特に、ステップS9において肯定的な判定結果が得られた場合(ステップS9:YES)、車両12が減速状態であるにも関わらず、登坂角θが増加していると誤判定する可能性がある。このような場合には、
図13の更新処理を直ちに終了して、推定登坂角θfの決定処理を行わないようにすることで、推定登坂角θfが誤って決定される可能性を回避することができる。
【0147】
[本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置10によれば、運転者61がブレーキ操作を行っているときには、車両12に対して加速操作量(スロットルグリップの操作量、スロットル開度)が付与されることはない。従って、本実施形態の第4の動作でも説明したように、スロットル開度が閾値TH(又はTH0)以下のときに、減速判定手段78は、運転者61が車両12の加速を望んでおらず、当該車両12が減速状態(減速走行領域、スロットルオフ領域)にあると判定する。
【0148】
この結果、勾配推定手段76が上り勾配と推定し、且つ、減速判定手段78が減速状態と判定した場合、登坂角更新判定手段74は、登坂角推定手段80による推定登坂角θf(θ)の増加方向への更新処理を禁止する。これにより、ブレーキ検出手段54が故障した場合でも、運転者61の意図しない加速が発生することを防ぐことができる。このように、第4の動作では、ブレーキ検出手段54の故障時におけるECU26での誤判定を防止できるので、運転者61の意思に合った自動変速機20の制御が可能となる。
【0149】
また、本実施形態では、
図6の走行状態判別マップ84に示すように、車速の変化に応じて、減速走行領域及びスロットルオフ領域と、クルーズ走行領域及び加速走行領域との間に設定される閾値THが変化する。すなわち、車速が増加すれば、当該閾値THは増加する。これにより、高速走行時には、車両12に対する走行抵抗stが大きくなるため、運転者61は、より大きな加速操作量を車両12に付与することから、加速操作量の増加に応じた車速の上昇分を加味して閾値THを増加させればよい。この結果、車速の変化に応じて、自動変速機20を適切に制御することができる。
【0150】
さらに、本実施形態の第3の動作のように、加速操作量(スロットルグリップの操作量、スロットル開度)に応じて車両12が加速すると共に、勾配推定手段76が上り勾配と判定した後に、車両12がさらに加速すれば、Qマップ88を用いた登坂制御が実行されるので、自動変速機20の変速比を、運転者61の加速操作に応じた適切な変速比に変更することができる。
【0151】
さらにまた、本実施形態の第2の動作のように、勾配推定手段76が下り勾配と判定すると共に、運転者61によるブレーキ操作が複数回行われた後に、Qマップ88を用いた降坂制御が実行されるので、自動変速機20の変速比を、運転者61の加速操作に応じた適切な変速比に変更することができる。
【0152】
また、本実施形態の第2の動作のように、運転者61によるブレーキ62の操作回数を自動変速モード切換手段72のカウンタでカウントし、推定登坂角θf(θ)がQマップ移動判定閾値以上であり、車両12に加速操作量が付与され、且つ、車両12のクルーズ走行状態が時間Taだけ継続する条件において、カウンタによるカウントをリセットする。これにより、下り勾配(下り坂)が連続しない場合、Qマップ88による降坂制御に移行しないので、車両12が走行する路面92の勾配に応じて、自動変速機20を適切に制御することができる。
【0153】
従って、本実施形態に係る制御装置10では、第1〜第4の動作を実行することにより、下記の効果が得られる。
【0154】
すなわち、車両12が下り坂を走行する場合には、変速マップをDマップ86からQマップ88に素早く切り替えることで、適度なエンジンブレーキを確保することができ、運転者61がブレーキ操作によって速度調整を行う手間を低減することができる。
【0155】
一方、上り坂を走行する場合には、走行抵抗stの増加に対応して、変速マップをDマップ86からQマップ88に素早く切り替えることにより、適切な駆動力で後輪18を回転させることができ、車両12の走行性能を向上させることができる。
【0156】
また、ブレーキ検出手段54が故障している場合には、推定登坂角θf(θ)の誤更新を防止することで、運転者61に違和感を感じさせない変速スケジュールを実現することができる。
【0157】
なお、本実施形態において、車両12は、二輪車、四輪車、ハイブリッド車両、電動車両等の各種車両を含む概念である。また、車両12の駆動源には、前述のエンジン14以外にモータを含むことも可能である。さらに、加速操作量は、運転者61から車両12への加速の指示量をいい、スロットルグリップの操作量、アクセルペダルの踏み込み量、スロットル開度等を含む概念である。さらにまた、加速操作量検出手段は、加速操作量を検出する手段であって、スロットルグリップ開度センサ44、アクセルペダルセンサ、スロットル開度センサ46等を含む概念である。また、ブレーキ検出手段54は、運転者61がブレーキ操作を行うブレーキスイッチ、ブレーキレバー、ブレーキペダル等を含む概念である。従って、本実施形態に係る制御装置10は、上述した自動二輪車への適用に限定されることはなく、他の二輪車、四輪車、ハイブリッド車両、電動車両等の各種車両の制御装置として適用可能である。
【0158】
また、第4の動作では、ブレーキ検出手段54が故障している場合でも、スロットルグリップ開度センサ44又はスロットル開度センサ46の検出結果から、運転者61の減速の意図、すなわち、ブレーキ操作の有無を自動変速機制御手段66側で推定して把握することができる。
【0159】
従って、第4の動作において、自動変速機制御手段66が運転者61の減速の意図を推定することにより、ブレーキ検出手段54からECU26へのブレーキオン信号の入力が前提とされる第1〜第3の動作を適用可能である。すなわち、第4の動作では、第1〜第3の動作でのブレーキオン信号の入力に代えて、スロットルグリップ開度センサ44又はスロットル開度センサ46の検出結果に基づく運転者61の減速の意図の検知処理に置き換えることで、ブレーキ検出手段54が故障してブレーキオン信号が供給されない場合でも、第1〜第3の動作を実行することが可能である。
【0160】
以上、本発明について好適な実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は、上記の実施形態の記載範囲に限定されることはない。上記の実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることは、当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も、本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。また、特許請求の範囲に記載された括弧書きの符号は、本発明の理解の容易化のために添付図面中の符号に倣って付したものであり、本発明がその符号をつけた要素に限定されて解釈されるものではない。