特許第6028081号(P6028081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6028081酸素吸着剤、酸素吸着剤を用いた酸素製造装置、および、酸素製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6028081
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】酸素吸着剤、酸素吸着剤を用いた酸素製造装置、および、酸素製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20161107BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20161107BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20161107BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   B01J20/06 C
   B01J20/34 E
   B01D53/047
   C01B13/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-196559(P2015-196559)
(22)【出願日】2015年10月2日
【審査請求日】2016年4月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年4月6日に九州大学大学院総合理工学府物質理工学専攻・平成27年度修士課程中間発表要旨集にて発明を公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年4月6日に九州大学大学院総合理工学府物質理工学専攻・平成27年度修士課程中間発表にて発明を公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月27日に日本化学会九州支部設立100周年記念国際シンポジウム・第52回化学関連支部合同九州大会のセッショ2における一般ポスター発表にて発明を公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月27日に日本化学会九州支部設立100周年記念国際シンポジウム・第52回化学関連支部合同九州大会の講演予稿集において要旨を公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月20日にTHE INTERNATIONAL CHEMICAL CONGRESS OF PACIFIC BASIN SOCIETIES 2015の講演予稿集(https://ep70.eventpilotadmin.com/web/page.php?page=IntHtml&project=Pachem15&id=2276934)において要旨を公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595113314
【氏名又は名称】三浦 則雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 則雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘
(72)【発明者】
【氏名】土田 明憲
(72)【発明者】
【氏名】大井 真哉
(72)【発明者】
【氏名】門馬 清文
(72)【発明者】
【氏名】荒木 敏成
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−093251(JP,A)
【文献】 特開2008−012439(JP,A)
【文献】 特開2005−087941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/06
B01D 53/047
B01J 20/34
C01B 13/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、
前記酸化物は、
組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とする酸素吸着剤。
【請求項2】
所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔と、
酸素と他の物質とを含有する混合ガスを前記吸着塔内に供給する混合ガス供給部と、
前記酸素吸着剤が酸素を吸着することで、前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを前記吸着塔から排出する分離ガス排出部と、
前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該酸素吸着剤から脱着させて該吸着塔から排出する吸着ガス排出部と、
を備え、
前記酸素吸着剤は、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、該酸化物は、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とする酸素吸着剤を用いた酸素製造装置。
【請求項3】
所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示される酸化物を含む酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔に、酸素と他の物質とを含有する混合ガスを供給する工程と、
前記吸着塔内を前記所定の圧力および所定の温度環境に維持し、前記混合ガスに含有される酸素を酸素吸着剤に吸着させる工程と、
前記吸着させる工程を遂行することによって前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを、前記吸着塔から排出する工程と、
前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該吸着剤から脱着させて当該吸着塔から排出する工程と、
を繰り返し行うことを特徴とする酸素吸着剤を用いた酸素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を吸着する酸素吸着剤、酸素吸着剤を用いた酸素製造装置、および、酸素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素を含む混合ガスから酸素を分離する技術として、圧力スイング吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)法が知られている。PSA法は、酸素吸着剤に対する酸素の吸着量が、酸素の分圧によって異なることを利用した分離方法である。PSA法では、酸素吸着剤が充填された吸着塔に混合ガスを導入し、混合ガスに含まれる酸素を酸素吸着剤に選択的に吸着させる工程(吸着工程)と、酸素が吸着した後の酸素吸着剤から酸素を脱着(吸着していた物質が界面から離れること)させる工程(再生工程)と、において圧力差を付けることで、混合ガスから酸素を分離する。
【0003】
PSA法における酸素吸着剤として、例えば、La1−xSrCo1−yFe3−z(但し、0.0≦x≦1.0、0.0≦y≦1.0、z>0)が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−12439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載されたLa1−xSrCo1−yFe3−zは、レアアースであるLa(ランタン)や、Co(コバルト)を含むため、高価である。したがって、La1−xSrCo1−yFe3−zを採用したPSA法によって製造された酸素富化ガスはコスト高となってしまう。そこで、安価な酸素吸着剤が所望されている。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、安価に製造できる酸素吸着剤、ならびに、これを用いることにより、低コストで酸素富化ガスを製造することが可能な酸素製造装置、および、酸素製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の酸素吸着剤は、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、前記酸化物は、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の酸素吸着剤を用いた酸素製造装置は、所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔と、酸素と他の物質とを含有する混合ガスを前記吸着塔内に供給する混合ガス供給部と、前記酸素吸着剤が酸素を吸着することで、前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを前記吸着塔から排出する分離ガス排出部と、前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該酸素吸着剤から脱着させて該吸着塔から排出する吸着ガス排出部と、を備え、前記酸素吸着剤は、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、該酸化物は、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の酸素吸着剤を用いた酸素製造方法は、所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示される酸化物を含む酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔に、酸素と他の物質とを含有する混合ガスを供給する工程と、前記吸着塔内を前記所定の圧力および所定の温度環境に維持し、前記混合ガスに含有される酸素を酸素吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着させる工程を遂行することによって前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを、前記吸着塔から排出する工程と、前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該吸着剤から脱着させて当該吸着塔から排出する工程と、を繰り返し行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価に製造できる酸素吸着剤ならびに、これを用いることにより、低コストで酸素富化ガスを製造することが可能な酸素製造装置、および、酸素製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】酸素製造装置を説明するための図である。
図2】酸素製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図3】吸着工程の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図4】再生工程の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図5】組成式Sr1−xCaFeO3−σにおけるxの値と、酸素吸着量との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
(酸素製造装置100)
図1は、酸素製造装置100を説明するための図である。本実施形態の酸素製造装置100は、PSA法を利用しており、以下では空気から酸素富化ガスおよび窒素富化ガスをそれぞれ分離する構成を例に挙げて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態において、酸素製造装置100は、吸着塔110(図1中、110a、110bで示す。)を備えている。吸着塔110は、円筒形状に構成される。また、吸着塔110は、保温庫102に収容されており、保温庫102は、吸着塔110に収容された、後述する酸素吸着剤130を300℃以上の所定の温度の雰囲気に曝すように保温している。保温庫102に供給される熱は、電気式加熱、ガス燃焼式加熱、または、酸素製造装置100が設置されるプラントの排熱を利用してもよい。また、吸着塔110における酸素吸着剤130が収容される箇所の近傍には加熱部112が設けられている。
【0015】
混合ガス供給部120は、ブロワで構成され、酸素と他の物質とを含有する混合ガス(ここでは、空気)を吸着塔110内に供給する。具体的に説明すると、混合ガス供給部120は、供給管122、バルブ124a、124bを通じて、常温の空気を吸着塔110内に供給する。
【0016】
酸素吸着剤130(図1中、クロスハッチングで示す)は、吸着塔110内に設けられ(充填され)、所定の圧力および所定の温度環境下で混合ガスに接触すると、当該混合ガスに含有される酸素を吸着して、酸素を分離する。酸素吸着剤130の具体的な構成については、後に詳述する。
【0017】
分離ガス排出部140は、空気から、酸素吸着剤130に吸着されることで酸素が取り除かれた窒素富化ガス(分離ガス)を、吸着塔110から排出する。具体的に説明すると、分離ガス排出部140は、排出管142と、バルブ144a、144bとを含んで構成される。分離ガス排出部140によって排出された窒素富化ガスは、排出管142を通って窒素タンク146へ送出される。窒素タンク146に貯留された窒素富化ガスは、後段のプロセスに順次送出されることとなる。
【0018】
吸着ガス排出部150は、真空ポンプで構成され、吸着塔110内を減圧して酸素吸着剤130に吸着した酸素を酸素吸着剤130から脱着させて当該吸着塔110から排出する。具体的に説明すると、吸着ガス排出部150は、排出管152、バルブ154a、154bを通じて、吸着塔110から酸素富化ガス(吸着ガス)を排出する。そして、吸着ガス排出部150によって排出された酸素富化ガスは、酸素タンク156へ送出される。酸素タンク156に貯留された酸素富化ガスは、後段のプロセスに順次送出されることとなる。
【0019】
蓄熱体160(図1中、ハッチングで示す)は、吸着塔110における酸素吸着剤130よりも空気(混合ガス)の供給方向の上流側に配され、混合ガス供給部120から当該吸着塔110内に供給される空気(混合ガス)、および、吸着ガス排出部150によって当該吸着塔110内から排出される酸素富化ガスが通過する。
【0020】
蓄熱体160は、流体が通過する際の圧損が少なく、かつ、蓄熱量が大きいものを使用するとよい。蓄熱体160は、例えば、ライナー間ピッチ2mm程度、平板厚さ0.5mm程度のステンレス製蓄熱材ハニカムを挙げることができる。
【0021】
(酸素製造方法)
続いて、酸素製造装置100を用いた酸素製造方法について説明する。図2は、酸素製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0022】
図2に示すように、吸着塔110において、吸着工程S210、再生工程S220を繰り返す。なお、初期状態において、不図示の制御手段は、バルブ124a、124b、144a、144b、154a、154bを閉状態にしておくとともに、吸着塔110における酸素吸着剤130を300℃以上の所定の温度の雰囲気に曝しておく。本実施形態において、吸着塔110aにおいて吸着工程S210を遂行しているときには、吸着塔110bにおいて再生工程S220を並行して遂行し、吸着塔110aにおいて再生工程S220を遂行しているときには、吸着塔110bにおいて吸着工程S210を並行して遂行する。
【0023】
また、後述するように、吸着工程S210では窒素富化ガスが生成され、再生工程S220では、酸素富化ガスが生成される。したがって、吸着塔110aと吸着塔110bとが吸着工程S210と再生工程S220とを排他的に交互に繰り返すことにより、窒素富化ガスおよび酸素富化ガスの生成を連続的に行うことが可能となる。
【0024】
以下、吸着塔110aを例に挙げて、吸着工程S210、および、再生工程S220の処理について詳述し、実質的に処理が等しい吸着塔110bにおける吸着工程S210、および、再生工程S220の処理については説明を省略する。
【0025】
(吸着工程S210)
図3は、吸着工程S210の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0026】
(供給工程S210−1)
不図示の制御手段は、混合ガス供給部120を駆動し、バルブ124aを開状態とし、吸着塔110a内へ空気(混合ガス)を供給する(供給処理)。つまり、常温の空気は、蓄熱体160を通って、酸素吸着剤130へ到達することとなる。
【0027】
(吸着工程S210−2)
そして、制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1(例えば、100kPa〜200kPa)以上となったか否かを判定する。制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1以上となるまで(S210−2におけるNO)、供給工程S210−1を遂行する。制御手段が供給処理を遂行し、吸着塔110a内を所定の圧力P1まで昇圧している間に、空気(混合ガス)中の酸素を酸素吸着剤130に吸着させる。一方、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1以上となると(S210−2におけるYES)、混合ガス供給部120を停止させ、後述する分離ガス排出工程S210−3へと処理を移行する。
【0028】
(分離ガス排出工程S210−3)
吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1以上となると(S210−2におけるYES)、制御手段は、バルブ124aを閉状態とし、バルブ144aを開状態とする。これにより、分離ガス排出部140は、酸素吸着剤130によって空気から酸素が取り除かれることで製造された窒素富化ガスを吸着塔110aから排出する(分離ガス排出処理)。そして、吸着塔110aから排出された窒素富化ガスは、窒素タンク146に送出されることとなる。
【0029】
(分離ガス排出判定工程S210−4)
そして、制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2(例えば、60kPa)未満となったか否かを判定する。制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2未満となるまで(S210−4におけるNO)、分離ガス排出工程S210−3を遂行する。一方、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2未満となると(S210−4におけるYES)、吸着工程S210が終了したとみなし、後述する再生工程S220へと処理を移行する。
【0030】
(再生工程S220)
図4は、再生工程S220の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0031】
(吸着ガス排出工程S220−1)
上述した分離ガス排出判定工程S210−4において、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2未満となると(S210−4におけるYES)、制御手段は、バルブ144aを閉状態とし、バルブ154aを開状態とするとともに、吸着ガス排出部150を駆動する。これにより、吸着塔110a内が減圧されて酸素吸着剤130に吸着された酸素が酸素吸着剤130から脱着し、当該吸着塔110aから酸素富化ガスが排出される(吸着ガス排出処理)。つまり、高温(300℃以上)の酸素富化ガスは、蓄熱体160を通って排出されることとなり、常温の蓄熱体160は、かかる高温の酸素富化ガスによって加熱されることになる。一方、常温の蓄熱体160によって高温の酸素富化ガスを冷却することができる。そして、吸着塔110aから排出された酸素富化ガスは、酸素タンク156に送出されることとなる。
【0032】
(吸着ガス排出判定工程S220−2)
そして、制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P3(例えば、2kPa〜20kPa)未満となったか否かを判定する。制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P3未満となるまで(S220−2におけるNO)、吸着ガス排出工程S220−1を遂行する。一方、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P3未満となると(S220−2におけるYES)、再生工程S220が終了したとみなし、制御手段は、バルブ154aを閉状態として、上記吸着工程S210からの処理を繰り返す。
【0033】
したがって、再生工程S220に続いて遂行される吸着工程S210において、混合ガス供給部120によって吸着塔110に導入された常温の空気は、再生工程S220において加熱された蓄熱体160によって予熱されることとなる。これにより、酸素吸着剤130の加熱に要するエネルギーを低減することができ、酸素吸着剤130の加熱に要する電力原単位を削減することが可能となる。つまり、低コストで、窒素富化ガスおよび酸素富化ガスを製造することができる。
【0034】
(酸素吸着剤130)
続いて、酸素を選択的に吸着する酸素吸着剤130について説明する。本実施形態において、酸素吸着剤130は、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物である。
【0035】
ペロブスカイト構造の酸化物は、所定の温度において、酸素を選択的にバルクに吸着するため、酸素吸着剤130として利用することができる。
【0036】
そこで、ペロブスカイト構造の酸化物のうち、特に組成式Sr1−xCaFeO3−σに着目し、組成式Sr1−xCaFeO3−σにおけるxの値が異なる、複数の酸化物を作製し、各酸化物の酸素吸着量を測定した。
【0037】
図5は、組成式Sr1−xCaFeO3−σにおけるxの値と、酸素吸着量との関係を説明するための図である。図5において、横軸に組成式Sr1−xCaFeO3−σにおけるxの値を、縦軸に酸素吸着量(cm/g)を示す。なお、組成式Sr1−xCaFeO3−σにおけるxの値は、酸化物を作成する際の原料仕込量(原料の重量)に基づく。また、x=0.2、x=0.24、x=0.28の3つの酸化物に関しては、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)を用いてxの値を測定し、原料仕込量(原料の重量)と一致していることを確認した。
【0038】
550℃における各酸化物の酸素吸着量の測定を行ったところ、図5に示すように、x=0.0である場合、組成式Sr1−xCaFeO3−σの酸素吸着量は、3.2cm/g程度であり、x=0.10では3.6cm/g程度であることが確認された。
【0039】
しかし、x=0.10を上回ると、すなわち、x=0.12では酸素吸着量が3.9cm/g程度、x=0.14では5.7cm/g程度、x=0.15では9.3cm/g程度、x=0.16では11.3cm/g程度、x=0.18では13.3cm/g程度と、x=0.18に到達するにしたがって、酸素吸着量が急激に増加することが分った。
【0040】
また、x=0.20では酸素吸着量が13.0cm/g程度、x=0.22では12.4cm/g程度、x=0.24では11.3cm/g程度、x=0.26では8.6cm/g程度、x=0.28では6.7cm/g程度、x=0.30では4.9cm/g程度、x=0.32では2.8cm/g程度、x=0.40では1.3cm/g程度、x=0.60では0.4cm/g程度、x=0.80、x=1.0では0.1cm/g程度であることが確認できた。
【0041】
以上より、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、効率よく酸素を吸着できることが確認された。特に、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.14≦x≦0.30、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、La1−xSrCo1−yFe3−z(以下、単に「LSCF」と称する)よりも酸素吸着能が高いことが確認された。
【0042】
また、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.14≦x≦0.30、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、LSCFより高い(x=0.18の酸化物では3倍程度)酸素吸着能を有する。したがって、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.14≦x≦0.30、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を酸素吸着剤130として採用した酸素製造装置100では、従来のLSCFを採用した酸素製造装置と同量の酸素富化ガスを製造する場合、従来の酸素製造装置と比較して、酸素吸着剤130の量を削減(x=0.18の酸化物では1/3程度に削減)することができる。したがって、酸素吸着剤130自体に要するコストを削減することができ、酸素製造装置100自体のコスト(イニシャルコスト)を低減することが可能となる。
【0043】
また、酸素吸着剤130の量を削減できるため、酸素吸着剤130の加熱に要するエネルギーを低減(x=0.18の酸化物では1/3程度に低減)することが可能となる。したがって、酸素吸着剤130の加熱に要する電力原単位を削減(x=0.18の酸化物では1/3程度に削減)することができるため、低コストで、酸素富化ガスおよび窒素富化ガスを製造することが可能となる(ランニングコストを低減できる)。
【0044】
また、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.14≦x≦0.30、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、酸素吸着能が高いため、この酸化物を酸素吸着剤130として採用した酸素製造装置100では、従来のLSCFを採用した酸素製造装置と同量の酸素富化ガスを製造する場合であっても、従来の酸素製造装置と比較して、脱着する際の圧力を高くすることができる。つまり、従来の酸素製造装置よりも低真空で酸素を脱着させることが可能となる。したがって、酸素を脱着させる際(再生工程S220)において、吸着ガス排出部150(真空ポンプ)に要する電力原単位を削減することが可能となり、ランニングコストを低減できる。
【0045】
また、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、LSCFと比較して、高価なLaやCoが含まれない。つまり、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)を製造する際のコスト(材料費)を低減することができる。したがって、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を酸素吸着剤130として利用することにより、酸素吸着剤130自体のコストを削減することが可能となる。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0047】
例えば、上述した実施形態において、酸素吸着剤130として、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を例に挙げて説明した。しかし、酸素吸着剤130は、少なくとも組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を含んでいればよく、例えば、層状ペロブスカイト化合物であってもよい。
【0048】
また、上述した実施形態において説明した酸素製造装置100における吸着塔110の圧力範囲は、単なる例示に過ぎず、例えば、酸素吸着剤130を酸素分圧1000Pa〜200000Pa(または10−2atm〜2atm)の圧力範囲内で変化させればよい。
【0049】
また、上述した実施形態において、吸着塔110a、110bを2つ備えた酸素製造装置100を例に挙げて説明したため、吸着塔110aと吸着塔110bとが再生と吸着とを並行して行う場合について説明した。しかし、吸着塔110は、少なくとも組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を含んだ酸素吸着剤130が収容されていればよく、吸着塔110の数に限定はない。つまり、吸着塔110の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0050】
また、上述した実施形態において、蓄熱体160がステンレス製蓄熱材ハニカムで構成される場合を例に挙げて説明した。しかし、蓄熱体160の材質に限定はなく、例えば、酸素吸着剤130と同一の部材で構成されていてもよい。かかる構成により、蓄熱体160においても酸素富化ガスと窒素富化ガスとを分離することが可能となる。
【0051】
さらに、蓄熱体160は、所定の圧力および酸素吸着剤130よりも常温に近い温度環境下で空気(混合ガス)に接触すると、酸素を吸着して、窒素を分離する物質(例えば、活性炭(MSC)や、低温で作動する複合酸化物等の吸着剤)で構成されてもよい。これにより、蓄熱体160において、より効率的に酸素富化ガスと窒素富化ガスとを分離することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、酸素吸着剤、酸素吸着剤を用いた酸素製造装置、および、酸素製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
100 酸素製造装置
110 吸着塔
120 混合ガス供給部
130 酸素吸着剤
140 分離ガス排出部
150 吸着ガス排出部
【要約】
【課題】安価に製造できる酸素吸着剤ならびに、これを用いることにより、低コストで酸素富化ガスを製造することが可能な酸素製造装置、および、酸素製造方法を提供する。
【解決手段】酸素吸着剤は、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、酸化物は、組成式Sr1−xCaFeO3−σ(但し、0.12≦x≦0.40、0≦σ≦0.5)で示される酸化物である。この酸化物は、従来の酸素吸着剤に含まれるLaやCoを有さないため、安価に製造することができる。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5