特許第6028090号(P6028090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028090
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】自動二輪車
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/32 20060101AFI20161107BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALI20161107BHJP
   H01Q 9/38 20060101ALI20161107BHJP
   H01Q 21/12 20060101ALI20161107BHJP
   B62J 99/00 20090101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01Q1/32 Z
   H01Q1/22 A
   H01Q9/38
   H01Q21/12
   B62J99/00 K
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-508441(P2015-508441)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2014057908
(87)【国際公開番号】WO2014157011
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2015年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-68991(P2013-68991)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(72)【発明者】
【氏名】諸本 洋幸
【審査官】 宮田 繁仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−085262(JP,A)
【文献】 特開2005−234921(JP,A)
【文献】 特開2003−309419(JP,A)
【文献】 特開2008−114654(JP,A)
【文献】 特開2006−199168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q1/00−1/10、1/27−1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造物が搭載されるメインフレームと前記メインフレームよりも後方に配置されるシートフレームとを有する車体フレームと、
前記メインフレームより車幅方向外方に設けられた第1アンテナと、
前記メインフレームと前記金属構造物のうち少なくとも前記金属構造物を挟んで前記第1アンテナと対向して配置される第2アンテナとを備え、
前記金属構造物は、エンジンユニット、または、前記メインフレームが備える剛性を補強する補強板であり、
前記第1アンテナおよび前記第2アンテナを用いて、路側機との路車間通信および他の車両との車車間通信を行う
自動二輪車。
【請求項2】
請求項1に記載の自動二輪車において、
前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは線状アンテナである
自動二輪車。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動二輪車において、
前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは前後方向に指向性を有する
自動二輪車。
【請求項4】
請求項3に記載の自動二輪車において、
前記線状アンテナは、車幅方向よりも前後方向に長いグランド部と放射導体である線状部とを有するブラウンアンテナであり、
前記グランド部の前後方向の長さが前記線状部の長さより長い
自動二輪車。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の自動二輪車において、
前記メインフレームはヘッドパイプよりも前方に配置される前フレームを含む
自動二輪車。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の自動二輪車において、
前記金属構造物としてさらに金属製の補機類を備える
自動二輪車。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の自動二輪車において、
前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは走行姿勢の搭乗者の足と側面視で重ならないよう配置されている
自動二輪車。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の自動二輪車において、
前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは前記メインフレームの少なくとも一部を覆うカバーと前記メインフレームとの間に配置されている
自動二輪車。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の自動二輪車において、
前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは側面視で高さが同一に配置されている
自動二輪車。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の自動二輪車において、
前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは側面視で前記メインフレームまたは前記エンジンと重なるように配置されている
自動二輪車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に関し、特に、路車間通信および車車間通信を行うアンテナを備えた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度道路交通システム(ITS: Intelligent Transport System)の一部であり、IT(Information Technology)技術を利用した先進安全自動車(ASV: Advanced Safety Vehicle)に規定されている通信を行うための自動二輪車が開発されている。この種の自動二輪車として、前方の車両や路側機との通信を行うために車両の前方にアンテナを配置したものがある(例えば、特許文献1参照)。具体的には、バーハンドルの中心と前輪の車軸とを結んだ傾斜線よりも前方に無指向性のアンテナを配置する。これにより、搭乗者の体による電波吸収の影響を防止し、上下左右方向への電界強度が低下することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4156783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の自動二輪車は、自車と他車との間の通信である車車間通信のうち、後方に位置する他車との通信には不利であるという問題がある。アンテナを搭乗者よりも前方のヘッドライト上に配置することで搭乗者による電波吸収の影響を低減させているとはいえ、搭乗者の吸収や反射の影響を無くすことはできない。また、二人乗りしている場合や、自動二輪車のタンデムシート後方に荷物を積載している場合は、電波の減衰や反射の影響が大きくなる。特に荷物を積載している場合、荷物の材質に相応した電波の吸収や反射も加わってより通信距離が短くなる。このような状態の電波の放射パターンEp6を図16に示す。放射パターンEp6では、後方の電波強度が低下している。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、側方の車両および路側機との通信を好適に行うことができ、前後方向の車両との車車間通信も好適に行うことができる自動二輪車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明は、金属構造物が搭載されるメインフレームと前記メインフレームよりも後方に配置されるシートフレームとを有する車体フレームと、前記メインフレームより車幅方向外方に設けられた第1アンテナと、前記メインフレームと前記金属構造物のうち少なくとも前記金属構造物を挟んで前記第1アンテナと対向して配置される第2アンテナとを備え、前記金属構造物は、エンジンユニット、または、前記メインフレームが備える剛性を補強する補強板であり、前記第1アンテナおよび前記第2アンテナを用いて、路側機との路車間通信および他の車両との車車間通信を行う自動二輪車である。
【0007】
この構成によれば、第1アンテナと第2アンテナとが金属構造物または金属構造物とメインフレームとを挟んでメインフレームの外側にそれぞれ配置されている。これにより、第1アンテナから第2アンテナへ向かう電波は、メインフレームまたはメインフレームに搭載されている金属構造物により反射される。また、第2アンテナから第1アンテナへ向かう電波も同様に反射される。これにより、車両の横方向および斜め方向において、第1アンテナと第2アンテナの放射する電波を同時に受信することがなく、電波の干渉を無くすことができる。
【0008】
また、第1アンテナおよび第2アンテナが金属構造物を挟んで対向して配置されているので第1アンテナおよび第2アンテナの前後方向へ向かう電波の受信点との距離差を低減している。これにより、両方のアンテナからの電波はほぼ同位相で受信点に到達するので電界強度の変動が僅かである。したがって、車両前後方向、横方向、および、斜め方向の路車間通信や車車間通信を良好に行うことができる。
【0009】
また、前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは線状アンテナであることが好ましい。線状アンテナを用いることで安価に路車間通信や車車間通信を実施することができる。
【0010】
また、前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは前後方向に指向性を有することが好ましい。これにより、側方の他車両との通信よりも長い距離を隔てた前後方向の他車両との通信をすることができる。
【0011】
また、前記線状アンテナは、車幅方向よりも前後方向に長いグランド部と放射導体である線状部とを有するブラウンアンテナであり、前記グランド部の前後方向の長さが前記線状部の長さより長いことが好ましい。この構成により、安価な線状アンテナを用いて前後方向に指向性を有するアンテナを実現することができる。
【0012】
また、前記メインフレームはヘッドパイプよりも前方に配置される前フレームを含んでもよい。前フレームで囲まれる範囲内に電波を反射する金属構造物が設置されていれば、第1アンテナと第2アンテナからの両方の電波を受信する領域は車体前後方向だけとなる。また、第1アンテナおよび第2アンテナをヘッドパイプの前方にも配置することができるので、アンテナ配置の自由度を増すことができる。
【0013】
また、前記金属構造物はエンジンユニットであることが好ましい。エンジンユニットを挟んで第1アンテナと第2アンテナとが配置されることで、車両の横方向および斜め方向における互いの電波の干渉を無くすことができる。
【0014】
また、前記メインフレームは剛性を補強する補強板を備え、前記金属構造物は補強板でもよい。補強板を挟んで第1アンテナと第2アンテナとが配置されることで、車両の横方向および斜め方向における互いの電波の干渉を無くすことができる。
【0015】
また、前記金属構造物は金属製の補機類でもよい。金属製の補機類を挟んで第1アンテナと第2アンテナとが配置されることで、車両の横方向および斜め方向における互いの電波の干渉を無くすことができる。
【0016】
また、前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは走行姿勢の搭乗者の足と側面視で重ならないよう配置されていることが好ましい。第1アンテナおよび第2アンテナが走行姿勢の搭乗者の足と側面視で重ならないので、第1アンテナおよび第2アンテナから発せられる電波が搭乗者の足に吸収されるのを防ぐことができる。
【0017】
また、前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは前記メインフレームの少なくとも一部を覆うカバーと前記メインフレームとの間に配置されていることが好ましい。これにより、第1アンテナおよび第2アンテナを組み付けた後にカバーを取り付けるので、組み付け作業の効率を向上させることができる。
【0018】
また、前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは側面視で高さが同一に配置されていることが好ましい。第1アンテナおよび第2アンテナの高さが等しく配置されているので、前後方向における受信点とアンテナとの電波の距離差をより低減することができる。これにより、良好な通信を実施することができる。
【0019】
また、前記第1アンテナおよび前記第2アンテナは側面視で前記メインフレームまたは前記エンジンと重なるように配置されていることが好ましい。これにより、各アンテナから車両中心方向へ伝播する電波がメインフレームまたはエンジンに反射され、横方向、および、斜め方向では第1または第2のアンテナのどちらかから放射された電波だけを受信するようになるので、干渉による電波の強度変化を無くすことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自動二輪車によれば、側方の車両および路側機との通信を好適に行うことができ、前後方向の車両との車車間通信も好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1に係る車両の側面図である。
図2】実施例1に係る車両の平面図である。
図3】実施例1に係るアンテナの構成を示す説明図である。
図4】実施例1に係るアンテナの構成を示す説明図である。
図5】実施例1に係るアンテナの分配図である。
図6】アンテナからの理想の電波の放射状態を示す説明図である。
図7】車両の左側方にアンテナを配置した場合の電波の放射状態を示す説明図である。
図8】2本のアンテナから送信される電波の干渉状態を示す説明図である。
図9】金属構造物を挟まない2本のアンテナの放射状態を示す説明図である。
図10】実施例1に係るアンテナからの電波の放射状態を示す説明図である。
図11】実施例2に係るアンテナの構成を示す説明図である。
図12】実施例2に係るアンテナの構成を示す説明図である。
図13】実施例2に係るアンテナからの電波の放射状態を示す説明図である。
図14】変形例に係る車両の側面図である。
図15】変形例に係る車両の上面図である。
図16】従来例に係る電波の放射状態を示す説明図である。
【実施例1】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施例1を説明する。発明における自動二輪車の実施形態として、スクータ型自動二輪車を例に挙げて説明する。なお、以下の説明で、前後および左右とは自動二輪車の走行方向を基準としている。
【0023】
1.自動二輪車の概略構成
図1および図2を参照する。図1は、実施例1に係る自動二輪車1の概略構成を示す側面図である。図2は自動二輪車1の概略構成を示す平面図である。自動二輪車1はいわゆるアンダーボーン型の車体フレーム2を備える。車体フレーム2はメインフレーム3とシートフレーム4とを備える。メインフレーム3は、ヘッドパイプ5と、フレーム本体6と、前フレーム7とから構成される。なお、自動二輪車1の種類によっては、メインフレーム3は前フレーム7を備えなくてもよい。車体フレーム2は車体カバー14に覆われている。
【0024】
ヘッドパイプ5にはフロントフォーク8が不図示のステアリング軸を介して左右方向に揺動可能に支持されている。すなわち、フロントフォーク8はその上端部に固着されたステアリング軸をヘッドパイプ5に挿通することにより、左右方向に揺動可能となっている。そしてステアリング軸の上部にはハンドル9が連結されており、ハンドル9の操作によってフロントフォーク8が揺動する。フロントフォーク8の下端部には前輪10が回転可能に取り付けられている。
【0025】
フレーム本体6の後部にエンジンユニット11が取り付けられている。エンジンユニット11はエンジン11aとエンジン11aから後輪の左側方へ延在する伝動ケース11bとが一体となって車体に上下揺動自在に懸架される公知のユニットスイングエンジンである。伝動ケース11b内にはエンジンの回転を後輪へ伝える変速機構が収用され、伝動ケース11bの後部には不図示の後輪出力軸が位置する。後輪出力軸には後輪12が連結されている。エンジン11aの上方にはシート13が設けられている。
【0026】
側面視でエンジンユニット11とシート13との間に位置する車体カバー14は、側面視でエンジンユニット11の後方かつ上方に延びている。後輪12は車体カバー14の下方に配置される。エンジンユニット11の後部は外部に露出している。エンジン11aの前方には燃料タンク30が配置されている。
【0027】
フレーム本体6は、上フレーム6aと下フレーム6bとそれぞれの後端が接続される連結ブラケット6cとを備える。連結ブラケット6cは板金製の最中構造(中空構造)をしている。上フレーム6aは左右一対あってヘッドパイプ5の上下方向中央部側面に溶接され、そこから左右に間隔をあけて後方に延びる。下フレーム6bも左右一対あってヘッドパイプ5の下部側面に溶接され、そこから左右に間隔をあけて上フレーム6aの下方を後方に延びる。下フレーム6bは後方において下方から上方へ延び、その後端が連結ブラケット6cに溶接される。上フレーム6aの後端部は連結ブラケット6cに溶接される。シートフレーム4の前端部は連結ブラケット6cに溶接される。なお、図2において、上フレーム6aの一部を破断線で省略して図示している。また、下フレーム6bは平面視で上フレーム6aと重なるので、ハンドル9より後方部分を省略して図示している。
【0028】
上フレーム6aと下フレーム6bとの間には前後方向複数箇所に分散して補強板(ガゼット)15が架け渡され溶接されている。補強板15は金属製で、上フレーム6aと下フレーム6bの剛性を補強するものである。連結ブラケット6cの後部には、エンジンユニット11を上下方向に揺動可能に支持するピボット軸28が設けられている。また、シートフレーム4の後部と伝動ケース11bとの間にはエンジンユニット11の揺動を緩衝するリヤクッションユニット29が設けられている。
【0029】
前フレーム7は、上フレーム7aと下フレーム7bと連結フレーム7cとを備える。上フレーム7aは平面視で四角の枠状をしており、下フレーム7bは後方に向けて開いたU字形をしており、両者は左右2箇所ずつ連結フレーム7cで接続されている。上フレーム7aの基端側は車幅方向中央に設けられたブラケット17を介してヘッドパイプ5にボルト結合されている。また、下フレーム7bの左右基端側は、フレーム本体6の下フレーム6bとブラケット18を介してボルト結合されている。ブラケット18は左右の下フレーム6bに溶接されている。なお、図2において、上フレーム7aを省略して図示している。
【0030】
バッテリ16が下フレーム7bの車幅方向に架け渡されたクロスメンバ(不図示)上に支持され前フレーム7の内部に収容されている。バッテリ16は内部に多数の電極板を有している。バッテリ16の前方にはECU31が設置されている。これら、エンジン11a、補強板15は本発明における金属構造物に相当する。
【0031】
2本のアンテナ20、21がエンジン11aを挟んで補強板15およびメインフレーム3(フレーム本体6)の車幅方向外方に配置されている。アンテナ20、21は自動二輪車1の幅方向と直交する中心線Lを挟んで対向して設置される。アンテナ20、21はブラケット19により支持される。ブラケット19はそれぞれ補強板15に取り付けられている。アンテナ20、21の設置高さは同じである。アンテナ20、21を用いることで、自動二輪車1は路側機との路車間通信および他の車両との車車間通信を行うことができる。アンテナ20、21と接続される無線機27がアンテナ20、21の前方に設置されている。なお、無線機の設置場所はアンテナの前方に限らない。
【0032】
2.アンテナの構成
次に図3および図4を参照して自動二輪車1に備えられたアンテナの構成を説明する。図3および図4は、アンテナの構成を示す説明図である。
【0033】
アンテナ20、21は、無指向性の線状アンテナである。無指向性線状アンテナとして、例えば、垂直ダイポールアンテナやブラウンアンテナが挙げられる。実施例1ではブラウンアンテナを採用する。アンテナ20、21は、グランドプレーン22と、導体棒23と、グランドプレーン22と導体棒23との間に配置された絶縁部24とを備える。なお、無線機27は、グランドプレーン22および導体棒23に電力を供給する。
【0034】
グランドプレーン22は円板形状であるが、グランドプレーン22の代わりに平面上を放射状に延びる3本以上の金属線26(図4参照)でもよい。グランドプレーン22または金属線26は本発明におけるグランド部に相当する。導体棒23は、絶縁部24から上方に向けて直立している放射導体である。導体棒23は本発明における線状部に相当する。絶縁部24はフッ素樹脂製の板材である。絶縁部24は、この他のプラスチック製であってもよいし、その他の絶縁材にて形成してもよい。無線機27はグランドプレーン22または金属線26と導体棒23とに高周波電力を供給する。
【0035】
導体棒23と金属構造物との側面視での重なりは、導体棒23の3分の2以上重なっていることが好ましく、さらには導体棒23が全て重なっていることが好ましい。
【0036】
図5は4分の1波長変成器を用いたアンテナ分配器を示す。無線機27からアンテナ20、21への分岐点Bpまでのインピーダンスを50Ωとする。分岐点Bpでそれぞれ4分の1波長(1/4λ)の長さで75Ωの配線に接続され、さらに、50Ωの配線を介して50Ωに調整されたアンテナ20、21に接続される。この構成により容易に同軸給電を実施することができる。すなわち、無線機27から出力された電波信号がアンテナ20、21に同じ位相で分配される。アンテナ20、21の2分配回路は、この他にも例えば、集中定数型整合回路を用いて作ることができる。4分の1波長変成器を用いると、同軸線路やプリント配線板を使用することができるので、自動二輪車1の内部に容易に搭載することができる。なお、アンテナ分配器はこの構成に限らず、他の構成を採用してもよい。
【0037】
また、アンテナ20、21を自動二輪車1の車体中央部に配置することで、アンテナ分岐を車体中央部に配置することができる。無線機27からこの分岐点Bpまでの給電線を短い距離にすることができ、ノイズの混入および電波信号の減衰を抑制することができる。また、比較的重量を有する無線機27を車体の中央部に配置することができるので、自動二輪車1の重量バランスの偏りを抑制することができる。
【0038】
アンテナ20、21から放射される電波において、車体内側方向に進行する電波は、エンジン11a等の金属構造物により反射され、車体外側方向に進行する。これにより、車体外側方向に進行する電波は、アンテナから放射された電波と、金属構造物により反射した電波とによる干渉が生じ、電波の強度が受信点の位置によって変動する。しかしながら、横方向での通信距離は縦方向と比較して短くてもよいので、横方向の電波が弱くなることは問題とならない。
【0039】
3.アンテナ特性
次に、従来のアンテナ特性および実施例1におけるアンテナ特性を説明する。図6は自動二輪車に理想のアンテナ特性図である。自動二輪車1において横方向の他の車両との車車間通信は、道路幅よりも少し長い距離を通信する程度である。しかしながら、前後方向の他の車両との車車間通信または、路側機との路車間通信の場合、他の車両との距離が長くなり、通信距離が長くなる傾向がある。そこで、道路を走行する自動二輪車1のアンテナ特性は、図6に示すように、幅方向よりも前後方向に長い放射パターンEp1が好ましい。
【0040】
この理想のアンテナ特性に対して、車体前部に無指向性アンテナを設置したときのアンテナ特性は、図16に示すように、搭乗者の吸収や反射の影響により、後方への放射特性が悪化し、後方との通信距離が短くなる。アンテナを自動二輪車の後部に配置した場合、逆に前方に対する通信距離が短くなる。また、図7に示すように、アンテナを自動二輪車1の左側に1本だけ配置する場合、自動二輪車1の吸収または反射により、自動二輪車1のもう片方(図7においては右方)の通信距離が短くなる放射パターンEp2となる。すなわち、放射パターンEp2の右側の凹部が自動二輪車1の中心線Lとなり、中心線Lよりも右方の電波の強度が弱くなる。
【0041】
さらに、図8を用いて、2本のアンテナから放射される電波の干渉状態を説明する。アンテナ20、21が距離Dの間隔で設置されている。受信点P1ではアンテナ20からの距離とアンテナ21からの距離が共にL3で等しい。したがって、受信点1でのアンテナ20およびアンテナ21からの電波の位相が同じであるので、互いの電波が強め合う。
【0042】
受信点P2では、アンテナ20からの距離L1とアンテナ21からの距離L2とでは(L2−L1)の差がある。この距離の差(L2−L1)がλ/2(λは電波の波長)の偶数倍の場合、各電波が同位相となり強め合う。この場合、受信点P1とP2の電波強度は同じである。しかしながら、距離の差(L2−L1)がλ/2(λは電波の波長)の奇数倍なら各電波が逆位相の関係となり弱め合う。この結果、受信点P2での受信電界強度が低下する。
【0043】
このように、自動二輪車1の側方にそれぞれアンテナを配置する場合で、各アンテナ間に金属構造物が無い場合の放射パターンを図9に示す。図9において、2本のアンテナから同位相の電波が放射されている。この放射パターンEp3において、2本のアンテナまでの距離がほぼ一致している前後方向の受信点では、各アンテナからの電波が同位相で合成されるので強調される。しかしながら、斜め方向に移動するにしたがって、2本のアンテナからの距離の差が大きくなり、各アンテナからの距離が2分の1波長の奇数倍になると逆位相で合成するので、電波が弱くなる。これにより、斜め方向では距離と角度によっての電波の強度が低下する位置が発生する。
【0044】
横方向については、2本のアンテナ間隔によって決まる位相差で合成される。図9では、2本のアンテナの間隔Dを1波長の間隔で配置しているので、同位相となり電波が強め合っている。斜め方向では受信点の位置によって第1のアンテナからの距離と第2のアンテナからの距離の差が2分の1波長の奇数倍になる点が発生し、ここでは電波は弱くなる。このように、金属構造物を挟まないで2本のアンテナを配置すると、前後方向および左右方向の車両との通信は良好に行うことができるが、斜め方向の車両との通信を安定して行うことができない。
【0045】
これらに対して、実施例1におけるアンテナ配置であれば、図10に示すように、理想のアンテナ特性と同様のアンテナ特性を得ることができる。実施例1による放射パターンEp4は、メインフレーム3の外側に設けられた2本のアンテナ20、21により、前後方向には強め合った電波を送信することができ、横方向には金属構造物により互いの電波の干渉を防ぐことができる。これにより、斜め方向において電波強度が低下するのを防ぎ、前後方向を長軸とする楕円形状の放射パターンを得ることができる。したがって、自動二輪車1の走行に最適な電波送受信をすることができる。
【0046】
また、2本のアンテナ20、21の設置高さが同じであるので、前後方向の電波の距離差をより低減することができる。これにより、良好な通信を実施することができる。
【実施例2】
【0047】
次に、図11および図12を参照して実施例2に係る自動二輪車について説明する。図11および図12は実施例2におけるアンテナの構成を示す説明図である。実施例2において、実施例1に示した符号と同一の符号で示した部分は、実施例1と同様の構成であるのでここでの説明は省略する。また、以下に記載した以外の自動二輪車およびアンテナの構成は実施例1と同様である。
【0048】
実施例2の特徴は、自動二輪車1に配置されるアンテナが指向性を有する点である。実施例1では無指向性の線状アンテナを用いていたが、実施例2では前後方向の指向性を有する線状アンテナを用いることで、前後方向の通信距離をさらに延ばすことができる。
【0049】
実施例2におけるアンテナ20’、21’は、車両の前後方向に延びたグランドプレーン22’を有する(図11参照)。すなわち、グランドプレーン22’は車両の前後方向を長軸とする楕円形状である。また、楕円形状のグランドプレーン22’を用いる代わりに、車両の前後方向に延びた2本の金属線26’を用いてもよい(図12参照)。
【0050】
このように、車両の前後方向に延びた地板(グランドプレーン22’、金属線26’)を用いることで、車幅方向の地板の長さを短くすることができるので、メインフレーム3と車体カバー14との間の狭い空間において配置しやすくなり、配置の自由度を向上することができる。
【0051】
次に、実施例2におけるアンテナ特性を説明する。図13は実施例2におけるアンテナ特性を示す説明図である。実施例2における指向性アンテナであれば、図13に示すように、理想のアンテナ特性に似た形状のアンテナ特性を得ることができる。実施例2による放射パターンEp5は、実施例1の放射パターンEp4と比べ、斜め方向の強度がいくらか低下するものの前後方向の指向性を向上した電波特性を得ることができる。これにより、前後方向を長軸とする楕円形状の放射パターンを得ることができ、自動二輪車1の走行に最適な電波送受信をすることができる。また、実施例2においても、2本のアンテナ20’、21’の設置高さが同じであるので、前後方向の電波の距離差をより低減することができる。これにより、良好な通信を実施することができる。
【変形例】
【0052】
本発明は、上記実施例のものに限らず、次のように変形実施することができる。
【0053】
(1)上記実施例1において、2本のアンテナ20,21は、エンジン11aを挟んで配置されていたがこれに限られない。エンジン11a以外の金属構造物を挟んで配置してもよい。図14および図15に示すように、例えば、メインフレーム3およびその補強板15を挟んでアンテナ20,21を配置してもよいし、他の金属製の補機類を挟んで配置してもよい。補機類の例としては、バッテリ16や、燃料タンク30、ECU31、ABSのハイドロリックユニット(油圧ユニット)等が挙げられる。すなわち、アンテナ20,21はバッテリ16を挟んでアンテナ20,21を配置してもよいし、ECU31を挟んで配置してもよいし、ABSのハイドロリックユニットを挟んで配置してもよいし、燃料タンク30を挟んで配置してもよい。
【0054】
上記実施例1において、エンジン11aと伝動ケース11bとが一体となったユニットスイングタイプのエンジンユニット11を用いていたが、他のタイプのエンジンユニットを採用してもよい。例えば、後輪がリヤアームによって懸架されエンジン自体は車体に対して固定されるタイプのエンジンユニットを採用してもよい。この場合、エンジンを構成するシリンダやクランクケース、オイルパン以外にも、ミッションケース等を金属構造物として用いてもよい。
【0055】
いずれにしても、搭乗者の足による吸収および反射を防ぐために、側面視で走行姿勢の搭乗者の足と重ならない位置に、アンテナ20,21を配置することが好ましい。また、各フレームを金属構造物の一部として採用してもよい。フレーム単独では、アンテナ20、21との側面視での重なり領域が不足するが、他の金属構造物との組み合わせによりアンテナ20、21との側面視での重なり領域を確保してもよい。
【0056】
(2)上記実施例において、アンテナとして無指向性または前後方向に指向性を有するアンテナを用いていたがこれに限られない。カージオイドのような半球状の指向性を持つアンテナを採用してもよい。この場合、カージオイドの凹部を車体内方に向けて配置すればよい。
【0057】
(3)上記実施例において、自動二輪車1はアンダーボーン型のフレームを有するスクータ型車両であったがこれに限られない。例えば、バックボーンフレーム型やダイヤモンドフレーム型等の他のフレーム型を採用してもよい。また、自動二輪車1はスクータ型に限らず、ネイキッド型やツアラー型等の他のタイプの自動二輪車でもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 … 自動二輪車
2 … 車体フレーム
3 … メインフレーム
4 … シートフレーム
5 … ヘッドパイプ
7 … 前フレーム
11a … エンジン
14 … 車体カバー
15 … 補強板
16 … バッテリ
20、20’、21、21’ … アンテナ
30 … 燃料タンク
31 …ECU
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16