(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の回転体と第2の回転体との間で周方向に介在され、巻き中心であるスプリング中心軸に沿う方向を前記周方向に向けて両端部を各回転体に支持されたコイルスプリングと、
このコイルスプリングの前記スプリング中心軸に沿う方向の両端部を支持した状態で各回転体に取り付けられ、内部に芯金材を備えた樹脂製のスプリングシートと、
を備えたダンパ装置において、
前記スプリングシートは、前記コイルスプリングの前記スプリング中心軸に沿う方向の端部が着座された着座部と、この着座部における前記回転体の外径方向端部から前記周方向に延在されて前記コイルスプリングの前記外径方向を覆う庇部と、を有し、
前記芯金材は、前記庇部において前記スプリング中心軸の前記外径方向位置で前記周方向に延在される庇部芯金材を有し、
前記庇部芯金材は、前記周方向で前記着座部に近い側に設けられて相対的に剛性が低い低剛性部と、前記周方向で前記着座部から遠い側に設けられて相対的に剛性が高い高剛性部と、を有することを特徴とするダンパ装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のダンパ装置を実現する実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
<ダンパ装置の構成>
まず、実施の形態1のダンパ装置Aの構成を
図1〜
図3に基づいて説明する。
なお、
図1はダンパ装置Aの断面図であり、
図2はダンパ装置Aの分解斜視図であり、
図3はダンパ装置Aの主要部を示す断面図である。
【0010】
ダンパ装置Aは、トルクを伝達するとともに捩り振動を吸収および減衰するための機構であって、本実施の形態1では図外のモータMotとエンジンEngとの駆動力伝達経路中に設けられているものとする。すなわち、ダンパ装置Aは、図示は省略するが、ハイブリッド車両の駆動力伝達系に設けられている。そして、エンジンEngの駆動時には、エンジン駆動力をモータMot側に伝達して発電を行なったり、さらに、エンジン駆動力を、モータMotを介して図外の駆動輪側に伝達したりすることが可能となっている。また、エンジンEngの非駆動時に、モータMotの駆動力をエンジンEngに入力して、エンジン始動可能となっている。ダンパ装置Aは、このような駆動伝達時に、主としてエンジンEngの駆動に伴って生じる捩り振動の吸収および減衰を行なう。
【0011】
ダンパ装置Aは、
図1および
図2に示すように、モータMotに入出力可能に接続されるハブプレート(第1の回転体)1と、エンジンEngに入出力可能に接続される入出力プレート(第2の回転体)2と、を備えている。そして、両プレート1,2に対して周方向に、それぞれ3組の第1コイルスプリング31および第2コイルスプリング32が介在されている。すなわち、ハブプレート1と入出力プレート2とが、周方向に相対的に移動するのに伴い、第1コイルスプリング31と第2コイルスプリング32との一方が短縮されるとともに、もう一方が伸張される。この両コイルスプリング31,32の弾性変形により、ハブプレート1および入出力プレート2に入力された捩り振動が吸収および減衰される。なお、ハブプレート1と図外のモータMotとの間には、駆動力の伝達を断接するクラッチを設けてもよい。
【0012】
入出力プレート2には、ダンパ装置Aの軸方向であって、
図1、
図2の矢印Ce方向(以下、この方向を装置軸方向と称する)のモータ側に、中間プレート23を挟んで第2プレート22が複数のリベット21により固定されている。そして、入出力プレート2および第2プレート22には、一対の両コイルスプリング31,32を周方向に収容する3組の収容用窓2a,22aが周方向に延在されている。なお、周方向で入出力プレート2の各収容用窓2aどうしの間には、装置径方向(ダンパ装置Aの径方向であって、図において矢印OUTが外径方向を示す)の内外を連結する連結部2bが設けられている。同様に、周方向で第2プレート22の各収容用窓22aどうしの間には、装置径方向の内外を連結する連結部22bが設けられている。
【0013】
中間プレート23には、外径方向に延びる3本の中間プレート側支持アーム24が、周方向に一定の間隔で設けられている。本実施の形態では、各中間プレート側支持アーム24は、収容用窓2a,22aの周方向の中間部に配置されている。
なお、入出力プレート2の外周には、エンジン始動用のギヤ部材25が複数のリベット21により結合されている。
したがって、第2プレート22、中間プレート23、ギヤ部材25が、入出力プレート2と一体的に回転する。
【0014】
ハブプレート1には、中間プレート23と同様に、外径方向に延びる3本のハブプレート側支持アーム11が、周方向に一定の間隔で設けられている。これらのハブプレート側支持アーム11は、周方向で収容用窓2a,22aどうしの間の位置に配置されている。よって、各ハブプレート側支持アーム11と中間プレート側支持アーム24とは、周方向で交互に配置されている。
【0015】
また、中間プレート23の中間プレート側支持アーム24と、ハブプレート1のハブプレート側支持アーム11とは、周方向に相対移動可能となっており、前述した両コイルスプリング31,32は、両支持アーム11,24の間に周方向に介在されている。両コイルスプリング31,32は、
図3に示すように、両支持アーム11,24の間に、周方向に交互に配置されており、3組の第1コイルスプリング31と3組の第2コイルスプリング32とは、一方が並列に圧縮される際には、もう一方が並列に伸張される。
【0016】
<コイルスプリング取付構造およびスプリングシートの構成>
次に、両コイルスプリング31,32の各支持アーム11,24に対する取付構造および両スプリングシート41,42の構成について説明する。
両コイルスプリング31,32は、それぞれ、ハブプレート側支持アーム11に対して、第1スプリングシート41を介して取り付けられ、中間プレート側支持アーム24に対して第2スプリングシート42を介して取り付けられている。
【0017】
まず、両スプリングシート41,42において共通する構成について説明する。
両スプリングシート41,42は、後述する芯金材45を摩擦抵抗の低い樹脂により覆うモールド成形を行なって形成したもので、
図4A、
図4Bに示すように、それぞれ、着座部43と庇部44とを備えている。
【0018】
着座部43は、両コイルスプリング31,32のスプリング中心軸Scの方向の端部を支持するもので、
図5に示すように、略円盤状に形成されている。そして、各コイルスプリング31,32が着座されるスプリング着座面43aの径方向の中央から、各コイルスプリング31,32の端部の内周に挿入されて各コイルスプリング31,32の径方向の移動を制限するガイド突起43cが突出して形成されている。
【0019】
庇部44は、着座部43の外周部に沿って、装置外径方向(
図3の矢印OUT方向)側の略半分の部分の領域から軸方向に延在させて形成されている。この庇部44は、各コイルスプリング31,32が、ダンパ装置Aの回転時の遠心力でダンパ外径方向に変形するのを抑制するもので、各コイルスプリング31,32の装置外径方向側を覆うように形成されている。
また、
図5に示すように、庇部44には、周方向の中央と、周方向の両端部との3箇所に軸方向(
図5において一点鎖線で示すスプリング中心軸Scに沿う方向)に延びるリブ44a,44b,44bを備えている。
【0020】
芯金材45は、金属製の薄板により形成され、
図5に示すように、着座部芯金材451と、庇部芯金材452と、側縁部補強アーム部453,453と、が一体に形成されている。
着座部芯金材451は、着座部43内に埋め込まれており、着座部43よりも小径の円盤状に形成されている。
庇部芯金材452は、庇部44において装置外径方向の頂部分であって、リブ44aの内側に配置されている。
側縁部補強アーム部453は、庇部44の円弧の周方向両端縁部のリブ44bに沿って配置され、庇部芯金材452に比べて幅狭の棒状に形成されている。
【0021】
庇部芯金材452は、着座部43に近い側の低剛性部452aと、着座部43から遠い側であって、庇部44の先端側の高剛性部452bとを備えている。
本実施の形態1では、低剛性部452aと高剛性部452bとの剛性の違いは、庇部芯金材452を形成する金属板材の幅の違いにより設定されており、高剛性部452bは低剛性部452aよりも幅広に形成されている。そして、本実施の形態1では、この幅の差を付与するのにあたり、庇部芯金材452は、
図6に示すように、平面視T字状に形成されている。
【0022】
また、本実施の形態1では、低剛性部452aの庇部突出方向の寸法L1は、ガイド突起43cの軸方向寸法L2よりも大きな寸法に形成されている。したがって、低剛性部452aは、周方向で、ガイド突起43cの先端よりも庇部44の先端方向側位置まで設けられている。また、高剛性部452bは、周方向でガイド突起43cの先端よりも庇部44の先端側位置に設けられている。
【0023】
さらに、本実施の形態1では、庇部芯金材452は、庇部44を形成する樹脂材に対して装置内径方向(矢印OUTとは反対方向)に露出されている。一方、側縁部補強アーム部453は、
図5に示すように、庇部44を形成する樹脂材に対して全体が埋め込まれている。
【0024】
次に、着座部43について説明を加える。
着座部43は、
図5に示すように、スプリング着座面43aにおいて、各コイルスプリング31,32との当接部分に、着座部芯金材451を各コイルスプリング31,32と当接可能に露出させた芯金露出部451aが設けられている。
この芯金露出部451aは、本実施の形態1では、スプリング着座面43aにおいて各コイルスプリング31,32が強く接触する部位に設けられている。すなわち、芯金露出部451aは、スプリング着座面43aにて各コイルスプリング31,32のスプリング中心軸Scよりも装置内径方向(
図4A、
図4Bに示す矢印OUTに対して反対方向)側位置に配置されている。
さらに、芯金露出部451aは、本実施の形態1では、スプリング着座面43aにおける各コイルスプリング31,32の端部が当接する巻形状の円周状部分に沿って半円弧状に設けられている。
一方、スプリング着座面43aにおいて、スプリング中心軸Scよりも装置外径方向側の領域を含み、芯金露出部451a以外の領域は、着座部芯金材451が樹脂により被覆された被覆領域43bとされている。
【0025】
<スプリングシートの取付構造>
次に、
図3に示す、両スプリングシート41,42の、ハブプレート側支持アーム11および中間プレート側支持アーム24に対する取付構造について説明する。
各支持アーム11,24には、各コイルスプリング31,32の端部および各スプリングシート41,42を収容可能に、周方向に凹形状となった一対の取付用凹部11a,24aが形成されている。そして、一対の取付用凹部11a,24aにより周方向に挟まれた部分に、各スプリングシート41,42を取り付ける取付部11b,24bが設けられている。また、各取付用凹部11a,24aの外径方向側には、それぞれ、周方向にフランジ11f,24fが延在されている。
【0026】
各スプリングシート41,42は、着座部43においてガイド突起43cが設けられているのと反対側の外側面に各支持アーム11,24の取付部11b,24bを軸方向に挟持するそれぞれ一対の挟持用突起47,46が設けられている。
【0027】
図4A、
図4Bに示すように、第1スプリングシート41に設けられている挟持用突起47は、第2スプリングシート42の挟持用突起46と比較して、相対的に小さな形状に形成されている。
すなわち、挟持用突起47により挟持されるハブプレート側支持アーム11は、
図2に示すように、装置軸方向(矢印Ce方向)の両側に、入出力プレート2の連結部2bおよび第2プレート22の連結部22bが配置されている。したがって、一対の挟持用突起47は、
図9に示すように、取付部11bを挟持し、さらに、両連結部2b,22bにより挟持されている。よって、第1スプリングシート41のハブプレート側支持アーム11の取付部11bへの取付強度は、相対的に小さな挟持用突起47であっても十分に確保することができる。
【0028】
一方、中間プレート23の中間プレート側支持アーム24の軸方向には、連結部2b,22bは存在しておらず、第2スプリングシート42は、一対の挟持用突起46のみで中間プレート側支持アーム24に取り付けられる。したがって、第2スプリングシート42の挟持用突起46は、その取付強度の確保のために、第1スプリングシート41の挟持用突起47よりも相対的に大きな形状に形成されている。
【0029】
以下に、第2スプリングシート42の挟持用突起46の構成についてさらに詳細に説明する。
図6に示すように、一対の挟持用突起46,46の装置軸方向の間隔は、取付部24bを挟持可能な間隔となっており、このように取付部24bを挟持することにより、第2スプリングシート42は、装置軸方向(矢印Ce方向)の移動が規制されている。また、両挟持用突起46,46は、取付部24bを挟持しているだけであるため、取付部24bに対して
図4Bの矢印R4b方向である装置外径方向に相対回動可能な支持となっている。
そして、挟持用突起46は、
図7Aに示すように、装置軸方向から見て、上記外径方向の回動軌跡に沿う円弧形状である半円形状に形成されている。
【0030】
さらに、挟持用突起46は、低剛性部46aと高剛性部46bとを備えている。
低剛性部46aは、挟持用突起46において庇部44に近い側であって、スプリング中心軸Scよりも装置外径方向側の領域に設けられている。なお、
図7Aのスプリング中心軸Scは、各コイルスプリング31,32が
図4Aに示すように、装置外径方向に変形していない状態における中心軸を示している。そして、この低剛性部46aは、庇部44が、装置外径方向および装置軸方向に弾性変形するのを許容可能な剛性に設定されている。
【0031】
高剛性部46bは、挟持用突起46の外側にスプリング中心軸Sc方向に2本のリブ46c,46cを立設させることで、低剛性部46aよりも高剛性に形成されている。また、これらリブ46c,46cは、
図7Aに示すように、スプリング中心軸Scに対して、斜めに傾斜して設けられている。この傾斜は、各コイルスプリング31,32が遠心力により装置外径方向に変位した際に、各コイルスプリング31,32からの入力方向(矢印F方向)に沿う方向となっている。さらに、両リブ46c,46cは、この矢印Fにより示す入力方向を挟んで、装置外径方向と装置内径方向とに並設されている。
【0032】
(実施の形態1の作用)
次に、実施の形態1の作用について説明する。
(両コイルスプリングの装置外径方向への変形時)
エンジンEngとモータMotとの間で駆動伝達がなされる場合、入出力プレート2とハブプレート1との一方の回転が両コイルスプリング31,32を介してもう一方に伝達される。
【0033】
このとき、両プレート1,2が回転するのに伴い、両コイルスプリング31,32に遠心力が作用する。
そして、各コイルスプリング31,32は、非回転時には、
図4Aに示すようにスプリング中心軸Scが略一直線となっているのに対し、回転時には、上記遠心力により、
図4Bに示すように、中間部が装置外径方向に膨らむように弾性変形する。
【0034】
また、両コイルスプリング31,32の装置外径方向への弾性変形時には、両スプリングシート41,42は、各支持アーム11,24の各プレート1,2の取付用凹部11a,24aに対して、組付上のガタなどにより外径方向に回動する。
すなわち、両スプリングシート41,42は、庇部44が両コイルスプリング31,32により装置外径方向に押圧され、各プレート1,2に対して
図4Bの矢印R4bに示す向きに回動しようとする。また、両スプリングシート41,42は、弾性を有した樹脂製であるため、矢印R4b方向への弾性変形が生じ、庇部44は、その先端を外径方向に変位させるように変形する。さらに、着座部43も、庇部44の変形に伴い、スプリング中心軸Scに対しスプリング外方へ弾性変形する。
【0035】
また、上述の両コイルスプリング31,32の装置外径方向への変形時には、両コイルスプリング31,32と両スプリングシート41,42とが相対変位し、両者の擦れ合いが生じる。この擦れ合い時に、両スプリングシート41,42は、樹脂製であるため、金属製のものと比較して、上記擦れ合い時に生じる摩擦抵抗を低く抑えることができる。これにより、上記擦れ合い時の摩擦抵抗が大きい場合と比較して、両コイルスプリング31,32に、両スプリングシート41,42に対する位置ずれが生じたり、
図8に示すような過度の変形が生じたりするのを抑制することができる。
【0036】
次に、上記変形時の両スプリングシート41,42の樹脂部分の磨耗について説明する。
上記のように両コイルスプリング31,32が装置外径方向へ変形した際に、樹脂製の両スプリングシート41,42に対して強く接触することを繰り返すと、樹脂部分に磨耗が生じるおそれがある。
【0037】
このように、両スプリングシート41,42において、各コイルスプリング31,32との強い接触および摺動が繰り返されて樹脂部分の磨耗が生じるおそれがある箇所は、2箇所存在する。
1箇所は、庇部44の装置内径方向側の面であり、もう1箇所は、着座部43のスプリング着座面43aである。以下に、本実施の形態1における磨耗対策について説明する。
【0038】
図4Bに示すように、両コイルスプリング31,32は、装置外径方向(矢印OUT方向)に変形した際に、庇部44の内側面に接触する。この接触力が強い場合、庇部44の内側面(装置内径方向側の面)に摩耗が生じる。
それに対し、本実施の形態1では、庇部44は、この装置外径方向の頂部分の内周面に、庇部芯金材452を露出させている。このため、両コイルスプリング31,32は、装置外径方向に変形した場合に、その強く接触する部分では、庇部芯金材452に直接接触し、樹脂部分の磨耗を回避できる。
【0039】
さらに、両コイルスプリング31,32は、
図4Bに示すように、装置外径方向に変形した際に、スプリング中心軸Scに沿う方向の両端部では、着座部43に対し、円Pにより示す装置内径方向側が、装置外径方向側よりも強く接触する。
すなわち、各コイルスプリング31,32にガイド突起43cが挿入されている部分では、装置外径方向への変形は、ガイド突起43cに規制される。一方、各コイルスプリング31,32において、ガイド突起43cの先端よりも着座部43から離れた位置では、ガイド突起43cに規制されている部分よりも大きな変形が生じる。このため、各スプリングシート41,42にあっては、庇部44が各コイルスプリング31,32に押されると、着座部43も庇部44と共に、装置外径方向に変位する向きの回動モーメントが生じる。
したがって、上記のように、両コイルスプリング31,32が
図4Bに示すように装置外径方向に変形した際に、着座部43に対し、円Pにより示す装置内径方向側が、装置外径方向側よりも強く接触する。そして、この場合には、スプリング着座面43aでは、円Pにより示す装置内径方向側が装置外径方向側よりも樹脂の摩耗が生じるおそれがある。
【0040】
それに対し、本実施の形態1では、着座部43のスプリング着座面43aにおいてスプリング中心軸Scよりも内径側に、両コイルスプリング31,32の円弧に沿う半円形状の芯金露出部451aを設けている。したがって、両コイルスプリング31,32とスプリング着座面43aの装置内径方向側とが、強く接触した場合でも、樹脂の磨耗発生を防止できる。
【0041】
次に、上述した両コイルスプリング31,32が装置外径方向へ変形した時の両スプリングシート41,42の装置外径方向の変形作用について説明を加える。
両コイルスプリング31,32が装置外径方向へ変形した場合、庇部44では、先端側ほど両コイルスプリング31,32からの入力が大きく、変形が生じやすい。そこで、庇部44の先端部において、この変形が繰り返されたり、その変形量が大きくなったりした場合、先端部に先割れが生じるおそれがある。
それに対して、本実施の形態1では、庇部44に上述の庇部芯金材452を設けているのに加え、庇部芯金材452は、庇部44の先端側に高剛性部452bを設けている。このため、庇部44の先端が過度に変形するのが高剛性部452bにより抑制され、上述の先割れの発生が抑制される。
【0042】
一方、庇部芯金材452は、着座部43に近い側に低剛性部452aを設けている。したがって、庇部芯金材452の全体を上記先割れの抑制を可能な高剛性とした場合と比較して、両コイルスプリング31,32が装置外径方向に変形した際は、これに追従して両スプリングシート41,42の
図4Bの矢印R4b方向への変形が生じやすい。これにより、両コイルスプリング31,32と庇部44との接触時における両者への入力を和らげることができるとともに、両コイルスプリング31,32に
図8に示すような過度の変形が生じるのを抑えることができる。よって、両コイルスプリング31,32および両スプリングシート41,42の破損などを抑制して耐久性を向上できる。
【0043】
さらに、本実施の形態1では、
図6に示すように、低剛性部452aを、ガイド突起43cの先端よりも庇部44の先端側の位置まで設けている。
すなわち、両コイルスプリング31,32では、ガイド突起43cに挿入されている部分は、装置外径方向への変形がある程度規制され、ガイド突起43cよりも庇部44の先端側で装置外径方向への変形が生じやすくなっている。
そこで、ガイド突起43cの先端位置よりも庇部44の根元側まで高剛性部452bを配置した場合、両コイルスプリング31,32の装置外径方向の変形が、高剛性部452bにより抑制される。それに対し、本実施の形態1では、ガイド突起43cの先端位置よりも庇部44の先端側まで低剛性部452aを配置し、高剛性部452bをガイド突起43cの先端位置よりも庇部44の先端側に配置した。これにより、両コイルスプリング31,32の装置外径方向への変形に追従して両スプリングシート41,42の変形が生じ易くなる。よって、両コイルスプリング31,32に、
図8に示すような過度の変形が生じるのを抑えることを、より確実に行い、両コイルスプリング31,32および両スプリングシート41,42の破損などを抑制して耐久性を向上できる。
【0044】
(コイルスプリングの軸方向への変形時)
次に、両コイルスプリング31,32が装置軸方向(
図1、
図2の矢印Ce方向)に変形した場合の作用について説明する。
中間プレート23は、
図1により説明したように、エンジンEngに連結されているため、エンジンEngからの入力時に、エンジン振動による軸方向(
図1、
図2の矢印Ce方向)の入力を受ける場合がある。特に、入出力プレート2に、エンジン始動用のギヤ部材25を設けるとともに、両コイルスプリング31,32を保持した場合、エンジンEngからの入力が、入出力プレート2から直接、両コイルスプリング31,32に伝達されるため、この入力が大きくなる。
このように中間プレート23に振動入力が有った場合、両支持アーム11,24の間で軸方向に相対変位が生じ、この場合、両コイルスプリング31,32は、両支持アーム11,24の間で装置軸方向に相対変位する。
【0045】
このような両コイルスプリング31,32の両端部の装置軸方向の相対変位に対し、第1スプリングシート41では、挟持用突起47が、
図9に示すように、連結部2b,22bおよび取付部11bに挟持されているため、相対的に高い取付強度が得られる。このため、第1スプリングシート41が、装置外径方向および装置軸方向に変形および変位しても、取付部11bから外れたり、破損したりすることは生じにくい。
【0046】
それに対して、中間プレート側支持アーム24に取り付けられた第2スプリングシート42では、一対の挟持用突起46,46により、取付部24bを挟持した構成であり、相対的に取付強度が低くなっている。そこで、第2スプリングシート42では、各コイルスプリング31,32からの入力位置の違いにより、異なる動作を行う。また、この入力位置の違いは、第2スプリングシート42および両コイルスプリング31,32の装置外径方向への変位の有無により生じる。
【0047】
そこで、以下に、この入力位置の違いが生じる装置外径方向の変位の有無に分けて作用を説明する。
[装置外径方向への非変位時]
まず、両コイルスプリング31,32に装置外径方向の変形が生じていない場合について説明する。
この場合、両コイルスプリング31,32と着座部43との接触状態は、全周で略均一となっており、中間プレート側支持アーム24と両コイルスプリング31,32との入力は、スプリング中心軸Scの近傍でなされる。
そして、両プレート1,2間で軸方向の変位が生じた場合、第2スプリングシート42は、両コイルスプリング31,32から、庇部44を介して入力を受け、
図7Cに示すように、庇部44および着座部43は、装置軸方向に弾性変形する。
【0048】
この第2スプリングシート42の弾性変形により入力が吸収されるため、両挟持用突起46,46への入力は小さい。また、両挟持用突起46,46にあっては、この入力を、スプリング中心軸Scの位置の低剛性部46aで受けるため、上記着座部43の変形も吸収する。
したがって、第2スプリングシート42は、
図7Cに示すように、中間プレート側支持アーム24の取付部24bを挟持した状態を維持したまま、着座部43の変形に追従して弾性変形する。
このように、第2スプリングシート42は、両コイルスプリング31,32の変形に追従して変形するため、両コイルスプリング31,32には、応力がかかりにくい。
【0049】
[装置外径方向への変位時]
次に、両コイルスプリング31,32が、
図4Bに示すように、装置外径方向に変形するとともに、第2スプリングシート42も装置外径方向に変位している場合における装置軸方向入力時について説明する。
この両コイルスプリング31,32の装置外径方向への変形時には、前述したように、両コイルスプリング31,32は、着座部43の装置内径側との接触圧が強くなっている。
【0050】
よって、両コイルスプリング31,32から挟持用突起46に対する入力は、この接触圧が強い内径側から
図7Aの矢印Fにより示すように、高剛性部46bに向かってなされる。
また、両プレート1,2が装置軸方向に相対変位した場合に、庇部44は、両コイルスプリング31,32からの入力位置から外径方向に離れており、庇部44を介した入力が生じにくい。
【0051】
したがって、挟持用突起46では、相対的に剛性の高い高剛性部46bに入力があった場合、入力方向への弾性変形が生じにくい。このため、第2スプリングシート42は、
図7Bに示すように、挟持用突起46,46の形状を保持したまま、中間プレート側支持アーム24に対して傾きを変える。この場合、両コイルスプリング31,32の装置軸方向への変形量は少なく、庇部44の変形量も小さい。また、このとき、挟持用突起46,46は、リブ46a,46aにより強度を確保されているため、破損も生じにくい。
【0052】
(実施の形態1の効果)
以下に、実施の形態1の制動制御装置の効果を列挙する。
1)第1の回転体としてのハブプレート1と第2の回転体としての入出力プレート2との間で周方向に介在され、巻き中心であるスプリング中心軸に沿う方向を前記周方向に向けて両端部を各プレート1,2のハブプレート側支持アーム11および中間プレート側支持アーム24に支持された第1コイルスプリング31および第2コイルスプリング32と、
両コイルスプリング31,32の前記スプリング中心軸Scに沿う方向の両端部を支持した状態で各支持アーム11,24に取り付けられ、内部に芯金材45を備えた樹脂製の第1スプリングシート41および第2スプリングシート42と、
を備えたダンパ装置において、
両スプリングシート41,42は、各コイルスプリング31,32の前記スプリング中心軸に沿う方向の端部が着座された着座部43と、この着座部43における各プレート1,2の外径方向端部から前記周方向に延在されて各コイルスプリング31,32の前記外径方向を覆う庇部44と、を有し、
前記芯金材45は、前記庇部44において前記スプリング中心軸Scの外径方向位置で前記周方向に延在される庇部芯金材452を有し、
前記庇部芯金材452は、前記周方向で前記着座部43に近い側に設けられて相対的に剛性が低い低剛性部452aと、前記周方向で前記着座部43から遠い側に設けられて相対的に剛性が高い高剛性部452bと、を有することを特徴とする。
したがって、ダンパ装置Aの回転時に、各コイルスプリング31,32が各スプリングシート41,42に相対変位した際には、各スプリングシート41,42が樹脂製であるため、金属製のものよりも安価に摩擦抵抗を抑えることができる。
また、ダンパ装置Aの回転に伴って、両コイルスプリング31,32が装置外径方向に変形した際に押圧される庇部44には庇部芯金材452を設けており、しかも、より強く押圧される庇部44の先端部側に、高剛性部452bを設けている。このため、両スプリングシート41,42を樹脂製としているにもかかわらず、上記押圧力が繰り返し入力された場合の破損発生を抑制できる。
さらに、庇部芯金材452は、着座部43に近い側に低剛性部452aを設けている。このため、上記のように庇部44が各コイルスプリング31,32により外径方向に押圧された場合には、庇部44は、庇部芯金材452を設けているにもかかわらず、低剛性部452aを有していることで、両コイルスプリング31,32に追従して変形することができる。したがって、各コイルスプリング31,32にあっては、庇部44に覆われて庇部44に当接する部位と、庇部44に覆われない部位と、の間で、
図8に示すような過度な変形が生じるのが抑制される。よって、このような過度な変形による両コイルスプリング31,32の破損を抑制できる。
【0053】
2)実施の形態1のダンパ装置は、
前記庇部芯金材452は、金属製の薄板により形成され、前記高剛性部452bは、前記低剛性部452aよりも幅広に形成することにより剛性を高めたことを特徴とする
したがって、剛性を高める加工が容易であり、製造性に優れる。
しかも、各コイルスプリング31,32が遠心力により装置外径方向に変形した際に、当接する庇部44の先端部において芯金材45により補強される範囲を、庇部44の周方向に拡大できるため、庇部44に先割れが生じるのを、より確実に抑制できる。
【0054】
3)実施の形態1のダンパ装置は、
前記庇部芯金材452は、前記高剛性部452bと前記低剛性部452aとで平面視T字状に形成したことを特徴とする。
したがって、高剛性部452bと低剛性部452aとの剛性の異なる領域を確実に分けて設定することができる。加えて、低剛性部452aの幅を一定にしているため、庇部44の変形時に、低剛性部452aにおいて特に幅が狭まった箇所などに応力集中が生じるのを抑制し、耐久性を確保できる。
また、高剛性部452bにおいても、上記2)にて述べた、高剛性範囲を庇部44の周方向に拡大できるため、庇部44に先割れが生じるのを抑制できる効果を、確実に奏することができる。そして、この場合も、高剛性部452bの幅を一定にすることで、特定箇所に応力集中が生じるのを抑制して、耐久性を確保できる。
【0055】
4)実施の形態1のダンパ装置は、
前記庇部芯金材452は、前記庇部44に対し回転体の内径方向(装置内径方向)に露出して設けたことを特徴とする。
したがって、庇部44の装置内径方向側は、各コイルスプリング31,32が遠心力により装置外径方向に変形した際に、擦れ合う。このため、庇部芯金材452を露出させることにより、この擦れ合いにより樹脂材が磨耗するのを抑制することができる。
【0056】
5)実施の形態1のダンパ装置は、
前記着座部43に、各コイルスプリング31,32の内周に差し込まれて各コイルスプリング31,32が前記スプリング中心軸の直交方向へ移動するのを制限するガイド突起43cを突出し、
前記低剛性部452aを、前記周方向で、前記ガイド突起43cの先端よりも前記庇部44の先端方向側位置まで設けたことを特徴とする。
したがって、各コイルスプリング31,32が遠心力により装置外径方向に変形した際に、ガイド突起43cにより移動を規制されない部分の変形に、庇部44が確実に追従変形することが可能となる。
【0057】
(他の実施の形態)
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。
なお、他の実施の形態は、実施の形態1の変形例であるため、実施の形態1と共通する構成には実施の形態1と同じ符号を付して説明を省略し、実施の形態1との相違点のみ説明する。
【0058】
図10A〜
図10Hは、それぞれ、庇部芯金材452の変形例を示している。
図10A〜
図10Fに示す庇部芯金材201〜206は、それぞれ、低剛性部201a〜206aが全体で、高剛性部201b〜206bよりも幅が狭く形成されているとともに、その幅が一定に形成されている。
一方、高剛性部201b〜206bは、それぞれ、低剛性部201a〜206aよりも幅が広い部分を備えているが、装置周方向に沿って、幅が異なる構成となっている。
【0059】
図10G、
図10Hに示す庇部芯金材207,208は、それぞれ、低剛性部207a,208aから高剛性部207b,208bの先端に向けて、徐々に幅が広がる形状に形成されている。
この例では、庇部44は、着座部43に近いほど低剛性となって、変形し易い。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を図面に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施の形態に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0061】
実施の形態では、本発明のダンパ装置を、ハイブリッド車両のエンジンとモータとの間に設置した例を示したが、ハイブリッド車両以外の車両にも搭載できる。すなわち、エンジンと変速機との間に設けることもできる。
また、実施の形態では、庇部芯金材に、低剛性部と高剛性部との剛性の違いを、金属板材の幅の違いにより設定した例を示したが、これに限定されない。例えば、高剛性部の板厚を低剛性部の板厚よりも厚くして、剛性を異ならせてもよいし、板厚の違いと、板材の幅の違いとの組み合わせにより剛性を異ならせてもよい。